第7章: 行列のできる秘密のラーメン――美少女出汁のスープに群がる男たち
第7章: 行列のできる秘密のラーメン――美少女出汁のスープに群がる男たち
あの背徳的な月曜日から数週間と経たぬうちに、鴨川翼のラーメン屋「翼屋」はまるで別の生き物のように変貌を遂げていた。看板メニューとして打ち出した「美少女が丁寧に取った出汁の芳醇醤油ラーメン」――その謳い文句だけでも十分に男たちの好奇心を煽ったが、ひとたび丼を口にした者の反応は、もはや食欲の枠を遙かに超えていた。
昼の開店三十分前には、もう店の前に人影がちらほらと集まり始める。やがて彼らは無言のまま一列に並び、スマートフォンを弄りながら、その瞬間を今か今かと待ち侘びているのだ。耳を澄ませば、行列のあちこちから、こんな囁きが聞こえてくる。
「先週、初めて食ったんだけどさ、あれ、なんなんだろうな。スープの後味がもう、ずっと舌に絡みついて離れないんだよ」
「わかる。俺も二回目。家に帰ってからも、口の中にあのコクが残ってて、無性にまた啜りたくなるんだよなあ」
翼はそんな声を、暖簾をくぐる客たちの隙間から聞くたびに、エプロンの下で冷や汗をかいた。厨房で寸胴鍋をかき混ぜながら、目の前の湯気の向こうに、先週の月曜日、ひまりが浴槽で見せた痴態がありありと蘇る。湯気に濡れた彼女の白い肢体、秘部を割り開く震える指、絶頂の瞬間に溢れ出た白濁の愛液。あのすべてが溶け込んだ液体が、いま自分の手によって寸胴鍋の中でぐつぐつと煮え、やがて客たちの舌の上でとろけるのだと思うと、翼の股間は痛いほどに熱を帯び、同時に胃の底が冷たく縮み上がるのを感じた。
「おじさん、また並んでるよ! すごいね、今日も二十人以上はいるんじゃない?」
昼下がりの一番忙しい時間帯、学校帰りのひまりがホットパンツ姿で厨房の裏口から顔をのぞかせた。彼女の声はあいかわらず無邪気で、その弾んだ口調に翼は複雑な安堵を覚える。彼女は何も変わっていない――表面上は。だが、その大きな黒い瞳の奥に、以前にはなかったかすかな自信のような光が宿っているのを、翼は見逃さなかった。
「おう、ひまり。悪いが、今日も手伝ってくれるか。ホールの配膳と片付け、頼めるか?」
「もちろんだよ! あたし、お店がこんなに流行ってるのを見るの、すごく嬉しいんだから」
ひまりはそう言って、手慣れた様子でエプロンを身につけると、カウンターの向こうに立つ客たちのあいだを、ひらひらと蝶のように動き回り始めた。彼女の太ももがホットパンツからむっちりとこぼれそうになり、Tシャツの下の控えめな胸のふくらみが動くたびに小さく揺れる。男たちの視線が、一瞬、丼から彼女の身体へと移るのを、翼は厨房から苦々しく見守った。
だが、それ以上に客たちの目を釘付けにしているのは、紛れもなくラーメンそのものだった。ある中年のサラリーマンは、スープを一口啜った瞬間、まるで電気に打たれたかのように背筋を伸ばし、その後は無言のまま、丼に顔を埋めるようにして麺を啜り続けた。またある若いカップルの男のほうは、連れの女が話しかけるのも構わず、汁の最後の一滴までレンゲですくい上げ、飲み干したあと、深いため息をついて天井を仰いだ。
「なあ、お兄さん」
閉店間際、最後の客が帰ったあと、カウンターの隅で一人、最後の一杯を味わっていた初老の男が、翼に声をかけてきた。その男は、もう三十分も前からスープだけをちびちびと舐めるように味わっており、その執着ぶりに翼は薄気味悪ささえ感じていた。
「このラーメン、ただもんじゃないな。わしは若い頃からラーメンばっかり食ってきたが、こんなに頭の芯がじんじん痺れるような味は初めてだ。なにか、特別な出汁を使ってるんだろう? 男を骨抜きにするような、こう……淫靡な味がする」
翼の心臓が、一瞬、止まったかと思うほど跳ね上がった。彼は必死に平静を装い、エプロンで額の汗を拭う。
「そ、それはどうも。企業秘密なんで、詳しくは言えませんが……まあ、いい材料を使ってるってことですよ」
「ふふ、そうか。まあいいさ。とにかく、また来るよ。この味を知っちまったら、もう普通のラーメンじゃ物足りなくてな」
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