第1章: ヒーローと、ヒーローを眺める少年(続き 2/2)
慌てて俯く大輝。美鈴はますます不思議そうな顔をしたが、すぐににっこり笑って、大輝の隣にベンチに座った。彼女の体温が、わずかな距離から伝わってくる。汗の匂いと、どこか爽やかな洗剤の香りが混ざり合っている。
「あのさ、大輝くん」
「……うん?」
「私さ、強くなりすぎちゃったかなって、時々思うんだ」
美鈴の声が、ふと小さくなった。彼女は自分の拳を見つめている。
「男の子たち、私のこと怖がるんだよね。でも……でも、大輝くんをいじめられてるの見ると、どうしても我慢できなくて」
大輝は息をのんだ。美鈴がそんなことを考えていたなんて、知らなかった。彼女はいつも明るくて、強くて、まるで本物のヒーローのようだった。弱音を吐く姿など、想像もしていない。
「美鈴ちゃんが強いから……僕、助けてもらってるんだよ」
「うん。それでいいんだけどさ」
美鈴は大輝のほうを向いた。彼女の黒い瞳が、夕日に照らされて琥珀色に輝いている。
「大輝くんが、私をヒーローって思ってくれてるのは、嬉しいよ。でもさ……私も時々、疲れちゃうんだ」
その言葉が、大輝の胸を直撃した。――ああ、そうか。美鈴ちゃんだって、ただの女の子なんだ。なのに、僕はずっと彼女に頼ってばかりで、何もしてあげられていない。
「……ごめん」
「え? なんで謝るの?」
「だって……僕、美鈴ちゃんのこと、ずっと強いままって思ってた。つらいとか、疲れるとか、考えたことなかった」
美鈴はぱあっと笑い出した。その笑顔は、いつものように太陽のように明るかった。
「ばかだなぁ、大輝くんは。でも、そんなこと言ってくれて、嬉しいよ」
彼女は立ち上がり、大輝の鞄を手渡した。
「そろそろ帰ろっか。暗くなっちゃうよ」
「……うん」
二人は並んで歩き始めた。大輝は、隣を歩く美鈴の横顔を、そっと盗み見た。彼女は口笛を吹きながら、軽やかな足取りで歩いている。さっきの弱気な表情は、もうどこにもなかった。
でも、大輝の中には新しい感情が芽生えていた。美鈴を、ただの「強い幼なじみ」として見るのではなく、もっと……違う何かとして見たいという衝動。彼女の汗ばんだ首筋を見つめていた時、胸が高鳴ったあの感覚を、彼はまだ理解できなかった。
ただ一つわかったのは、美鈴がヒーローでいることにも、限界があるのだということ。そして、彼女がヒーローでなくなる時、自分はどうすればいいのか――その答えを、彼はまだ持っていなかった。
夕焼けが二人の背中を染め、長い影を地面に伸ばしていた。大輝は無意識に、美鈴の影に一歩近づき、そっと歩調を合わせた。
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