第7章: 消えたヒーローと、残された動画の記憶
第7章: 消えたヒーローと、残された動画の記憶
次の日、空は高く晴れ渡っていた。
大輝はいつもより早く家を出て、あの路地の前を通り過ぎた。コンクリートの地面には、何も痕跡は残っていなかった。夕べのあの光景が、まるで夢だったかのように。
だけど、腿の内側にわずかに残る、擦り切れたような疼きは、確かに現実を告げていた。
教室には、まだ誰も来ていなかった。
大輝は自分の席に座り、前方斜めにある美鈴の席をじっと見つめた。木の机の表面には、彼女がよくやっていたように、消しゴムのカスで小さな山が作ってある。椅子はきちんと引き込まれ、何もない。
――来るはずない。
心の奥底で、冷たい声がつぶやいた。
あんなことがあったんだ。あんなに傷つけられて、汚されて。それでも学校に来られるわけがない。
でも、彼はどこかで期待していた。美鈴なら、いつものように「おはよう!」と元気な声で教室に飛び込んでくるんじゃないかって。ショートカットの髪をぴょんぴょんと跳ねさせながら。
始業のチャイムが鳴り、クラスメートが次々と入ってきた。
板谷健次郎も、数人の男子に囲まれて入ってきた。彼は大輝の方を一瞥し、口元をわずかに歪ませた。それから何事もなかったように、自分の席に座った。
大輝は目を伏せた。
胸の奥で、熱い怒りと、それ以上に強い無力感が渦巻いた。
あいつらは知っている。全部見ていた。それなのに、何もなかったかのようにしている。
「おい、柏木」
隣の席の男子が、小声で話しかけてきた。
「椎名さん、今日も遅刻か? 珍しいな。あいつ、いつも時間ぴったりなのに」
大輝は首を振った。
「……わかんない」
「まあ、そっか。でもさ、昨日放課後、あの裏通りで何かあったって噂だぜ。板谷たちが、椎名さんとお前を囲んでたってさ」
大輝の背筋が凍りついた。
「……何も。何もなかったよ。ただ、ちょっと話しただけ」
「そう? でも、なんか板谷たち、妙にご機嫌じゃねえか。あいつら、普段あんなににこにこしてないぞ」
男子はそう言うと、興味を失ったように教科書を開いた。
大輝は拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。
――何も言えない。
――あの動画がバラされる。みすずちゃんが、また……
担任の教師が教室に入ってきた。いつもより少し険しい表情をしていた。
「みなさん、静かにしてください。今日、お知らせがあります」
教室がしんとなる。
教師は教壇の上で、少し間を置いた。
「椎名美鈴さんが、家族の都合により、急遽転校することになりました。昨日をもって、この学校を去りましたので、皆さんには直接挨拶ができなかったそうです」
一瞬の沈黙の後、教室中がざわめきに包まれた。
「えっ!?」
「マジで!?」
「なんで急に!?」
「引っ越しって、前から話してたっけ?」
大輝の耳には、それらの声が遠くで響いているようだった。ただ、教師の口から発せられた「転校」という言葉だけが、頭の中でくり返し反響する。
「静かに! 静かにしなさい!」
教師が声を張り上げた。
「椎名さんは、皆さんには悪いと思っているそうです。突然で驚かせてごめんなさい、と伝えておいてください、とお家の方から連絡がありました。これ以上、詳しいことはわかりません」
ざわめきはなかなか収まらなかった。
大輝はまっすぐ前を見つめていた。でも、目には何も入ってこない。ぼんやりと、美鈴の机の輪郭が揺らめいているだけだった。
――逃げた。
――あの脅迫に負けて、この街から逃げるように去った。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような痛みに襲われた。
彼は息を吸い込んだ。でも、肺にうまく空気が入っていかない。
放課後、大輝は一人で校庭の隅に立っていた。そこは、美鈴がいつもドッジボールをしていた場所だ。地面には、ボールの跡がいくつか残っている。
遠くで、男子たちがサッカーをしている声が聞こえる。
あの日、美鈴はここで、汗を光らせながらボールを投げていた。空手で鍛えられた腕がしなやかに動き、ショートパンツから覗く太ももが、夕日に照らされて黄金色に輝いていた。
――かっこよかった。
――あの時のみすずちゃんは、ほんとにヒーローだった。
その記憶が、一瞬で別の光景に塗り替えられる。
路地のコンクリート。無理やり広げられた白い腿。ぐちゅぐちゅと音を立てて犯される、毛の生えていない小さな裂け目。そして、彼女の泣き叫ぶ声、次第に甘くうめく声。
「……あ」
大輝は思わず声を漏らし、股間が熱くなっていくのを感じた。
半ズボンの生地の下で、小さな塊が膨らみ始めている。あの夜、美鈴の中に入れた時の、あのぬるぬるとした温かさが、鮮明に甦ってくる。
「……だめだ」
彼は首を振り、目を閉じた。
――みすずちゃんは、あんなに傷ついてた。それなのに、僕は……
――なのに、なんでこんなに興奮するんだろう。
罪悪感が胃の中をかき混ぜる。吐き気さえ覚える。
でも、同時に股間の熱は消えない。むしろ、美鈴の最後の悲しそうな顔を思い出すたびに、その熱は強くなっていくような気がした。
彼は慌ててその場を離れ、家路についた。
帰り道、あの路地の前で足が止まった。もう誰もいない。ただ、夕闇が少しずつ迫ってくるだけだった。
大輝はため息をつき、歩き出した。
家に着くと、彼はすぐに自分の部屋に閉じこもった。机の上には、美鈴と写った写真が一枚あった。去年の運動会のものだ。二人とも、顔に泥をつけて笑っていた。
彼はその写真を裏返した。
見ていられない。
夕食もほとんど手をつけず、早々に布団に入った。
部屋は暗く、ただ時計の針が進む音だけが響いている。
大輝は天井を見つめていた。目を閉じれば、あの夜の光景が鮮明に浮かび上がる。
美鈴の裸体。広げられた腿。貫太郎の大きなペニスが、ぐさりと突き刺さる瞬間。彼女の絶叫。
「んっ……」
布団の中で、彼は思わず声を漏らした。
手が、ひとりでに股間へと伸びていく。パジャマの布地の上から、そっと触れた。もう、こんもりと固くなっている。
――いけない。
理性が囁く。
でも、手は止まらない。パジャマのゴムバンドの中に滑り込み、直接肌に触れた。
小さなペニスは、すでに先端が少し濡れていた。熱く、脈打っている。
彼は目を閉じた。
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