第7章: 結婚式前夜、私が出した答え(続き 2/2)
窓の向こうで、東京タワーが午前零時を告げる瞬間、私は最初の絶頂を迎えた。子宮の奥から津波のように押し寄せる快感に、膝ががくがくと震え、爪がガラスを引っ掻く嫌な音がする。でも、そんなことはどうでもよかった。ただ、もっと、もっともっとと、腰が勝手に動いてしまう。
「ファック……ああ、ファック……!」
私は叫びながら、何度目かの絶頂の波に飲み込まれていった。ビリーの腰の動きはどんどん激しくなり、彼の低い唸り声が耳元で響く。互いの汗が混ざり合い、獣の匂いが部屋中に充満していく。
最後の瞬間、彼が私のなかで果てようとするのを感じた。いつもならコンドームを着けているのに、今夜はそれすらなく、ただ生の熱が私の一番奥を叩いている。
「中に……出していいか」
「うん……きて……私のなかに、全部……」
理性は完全に吹き飛んでいた。ただ、この人のすべてを受け入れたい。その熱で、私の膣を満たしてほしい。そんな原始的な欲求だけが、身体を支配する。
ぐぷんっ! と一番深いところで彼のペニスが膨張し、どくどくと熱い液体が注ぎ込まれる感覚に、私はまた絶頂した。膣が痙攣し、子宮が彼の精を一滴残らず吸い取ろうと収縮する。その快感は、今までのどんな絶頂よりも深くて、そして苦しかった。だって、これで終わりなのだから。
しばらくの間、私たちはつながったまま動けなかった。ガラスに寄りかかった私の背中に、ビリーの広い胸板がぴったりとくっついている。彼の心臓の鼓動が、私の背骨を通して全身に響いてくるようだった。
「愛してるよ、モモカ」
耳元で、彼が初めて口にした言葉。私は答えられず、ただ涙だけがガラスを伝って落ちていった。
翌朝、成田空港の出発ロビーで、私たちは最後の別れを告げた。ビリーはいつもの陽気な笑顔で、でも目だけが少し潤んでいるように見えたのは、きっと私の願望のせいだろう。
「これ、僕の連絡先。もし、もしも、こっちに来ることがあれば」
彼はそう言って、一枚の名刺を私の手に握らせた。うしろに、手書きのプライベートの番号が記されている。私はそれを、胸のポケットに大事にしまう。
「ありがとう、ビリー。私……私……」
「言わなくていい。君が幸せなら、それでいいんだ」
彼はそっと私の前髪をかきあげ、額にキスを落とした。そのまま振り返らずに、保安検査場へと消えていく大きな背中を、私はただ呆然と見送ることしかできなかった。
ホテルに戻り、ロビーのソファに腰を下ろした瞬間、スマートフォンが震えた。画面には、見慣れた名前が表示されている。貴文だ。一週間後に迫った結婚式の、最終打ち合わせの連絡に違いない。
私は通話ボタンを押せずに、ただその文字を指でなぞった。左手の薬指には、彼から贈られた婚約指輪が鈍く光っている。でも、その指輪の下の肌は、昨夜ビリーに貫かれた熱をまだ覚えていた。
カレンダーを開き、挙式の日付をじっと見つめる。あと七日。七日後、私は純白のウェディングドレスを着て、貴文の前に立つ。そして、彼の誠実な愛に包まれながら、平凡で幸せな家庭を築いていくのだろう。
でも、私の膣はもう、平凡なペニスでは満たされない身体になってしまった。子宮の奥で、昨夜注ぎ込まれた精液の感触がまだ疼いている。この身体のまま、本当に貴文の元へ戻っていいのだろうか。それとも、このまま全てを捨てて、ビリーの待つロサンゼルスへ飛び立つべきなのか。
ロビーには、次々と新しい宿泊客がチェックインしてくる。海外からの旅行者、ビジネスマン、カップル。みんな、それぞれの人生を歩んでいる。私はその流れをぼんやりと眺めながら、ビリーの言葉を反芻していた。
「独身時代にしかできないこと」
もう、その言葉に背中を押される必要はない。だって私は、独身最後の一ヶ月で、あらゆる禁忌を犯し、その代償として、かつての自分を完全に失ってしまったのだから。
スマートフォンがもう一度震え、貴文からのメッセージが届く。
「桃香、今日も仕事かな? 式の最終確認、来週の水曜で大丈夫? ドレス、絶対に似合うよ。楽しみにしてる」
私はその文面を何度も読み返してから、ゆっくりと返事を打ち込んだ。画面に浮かぶ文字が、かすかに震えている。
「ありがとう。水曜日、大丈夫だよ。私も、楽しみにしてる」
送信ボタンを押した瞬間、自分がどちらの未来を選んだのか、まだわからなかった。でも、少なくとも今は、この嘘を本当に変えるまで、時間が必要だった。
ロビーの大きな窓から、夕日が差し込んでくる。橙色の光が、床に長い影を落とし、行き交う人々の輪郭をぼやけさせる。私は立ち上がり、フロントへと歩き出した。まだ制服に着替えなければならない。まだ、私はここのスタッフなのだから。
ただ、スカートのポケットのなかで、ビリーの名刺がかさりと音を立てた。その微かな感触が、もう一つの未来を、静かに囁き続けている。私の答えはまだ出ていない。でも、少なくとも、私の身体はもう、あの黒い巨根の記憶なしでは生きていけないところまで来ていた。それだけは、確かだった。
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