第7章: 溶解する純愛、残る感覚の記憶(続き 2/2)
凛の肌から、甘ったるい精液と汗の混じった匂いが、濃厚に漂ってきた。彼女の首筋には、男たちが吸い付いた赤い痕がいくつも残っている。制服の襟元からも、他人の唾液と体臭が染みついた芳香が立ち上っている。
悠真の指が震えた。
――抱きしめたい。
――今すぐ、凛を抱きしめて、あの男たちの匂いを全部消してやりたい。彼女の体に刻まれた、僕じゃない誰かの痕を、すべて拭い去りたい。
でも、彼の手はそれ以上進まなかった。凛の体に染み付いた他人の欲望の臭いが、彼の本能を拒絶していた。この匂いを抱きしめることすら、彼には耐えられないほどの苦痛だった。
彼はゆっくりと手を引いた。
「……これからも、写真部には通うつもりなのか」
「はい。通います」
凛はきっぱりと言った。
「感覚がありますから。気持ちいいですから。でも、悠真とはこれからも一緒にいたいです。それは変わりません」
「一緒に……いたい」
悠真がぼんやりと繰り返した。
彼の目には、もう涙すら枯れていた。ただ深い、底なしの虚無が広がっているだけだった。
「凛、僕は……もう、君と今までみたいにはいられないかもしれない」
「どうしてですか?」
凛は本当に理解できないというように尋ねた。
「今日見たもの……聞いたもの……君があの男たちの腕の中で、あんな声を上げて、あんなことを言っているのを……僕は忘れることができない」
「でも、それは私の一部です」
凛は言った。
「写真部での行為も、悠真との時間も、全部私です。分ける必要はありません」
「分ける必要は……あるんだよ、凛」
悠真の声に、初めてかすかな怒りが混じった。
「僕には、分けられないと耐えられない。君が他の男に抱かれている姿を思い浮かべながら、君と普通に話すことなんて……できない」
凛は黙った。彼の言葉の意味が、ようやく少しずつ理解でき始めていた。しかし、それはまだ漠然とした輪郭でしかなかった。
「……距離を置かせてほしい」
悠真が呟いた。
「僕……自分の中で整理しないと。今のままじゃ、君の顔もまともに見られない」
「距離」
凛がその言葉を咀嚼する。
「つまり、会わないということですか?」
「……わからない。ごめん」
悠真はゆっくりと立ち上がった。彼の背中は、まるで重い荷物を背負っているかのように曲がっていた。
「明日も、学校で会えますか?」
凛が尋ねた。彼女の声には、ようやくわずかな変化が生じていた。平坦な調子の底に、かすかな不安の波紋が広がっている。
悠真は振り向きもせず、ゆっくりと首を横に振った。
「……わからない」
彼はそれだけを言うと、ドアの方へ歩き出した。足取りは重く、まるで泥の中を歩いているかのようだった。
ドアが閉まる音が、部室に冷たく響いた。
凛は一人、再びマットの上に座り込んだ。彼女はゆっくりと手を腿の間に動かし、指先で股間の湿り気を確かめた。まだ熱く、ぬめりと濡れている。精液と愛液が混ざり合った粘り気が、指に絡みつく。
――気持ちよかった。
彼女は事実を確認した。今日も、たくさんの感覚を記録できた。膣の奥の疼き、肛門の締め付け、喉の奥の熱さ。すべてが鮮明に体に刻まれている。
でも、なぜだろう。
胸のあたりが、きりきりと締め付けられるような感覚がある。それは今まで感じたことのない種類の「感覚」だった。快楽でも苦痛でもない。ただ、何かが空洞のように開いているような、冷たい風が吹き抜けていくような。
彼女は手を胸に当てた。心臓の鼓動を感じる。いつもより少し速く、少し乱れている。
窓の外では、完全に夜が訪れていた。部室には薄暗がりが広がり、床に滴った体液がかすかに光っている。凛はその光を見つめながら、ただ座り続けた。
彼女はまだ知らない。この胸の締め付けが、失われたものへの初めての疼きであることを。
悠真の涙が、彼女の心に初めて刻んだ「他人の感情」の痕跡であることを。
感覚の記録は残る。快楽の記憶は消えない。
でも、彼女の内側に新たに生まれたこの空洞は、何で満たせばいいのかわからなかった。
部室の扉の向こうで、悠真の足音が完全に消え去った。
凛は微かに震える指を、まだ濡れている股間に戻した。快楽を求めても、胸の空洞は埋まらない。それでも、彼女にできるのは感覚を記録することだけだった。
暗闇の中、彼女はゆっくりと膝を抱え、自分の体温だけを頼りに丸くなった。
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