第7章: 溶解する純愛、残る感覚の記憶
第7章: 溶解する純愛、残る感覚の記憶
部室の空気が、ようやく動きを止めた。
男たちの熱気と吐息が去り、残されたのはただ、粘り気のある沈黙だけだった。白瀬凛は床に敷かれた汚れたマットの上に、膝を抱えて座り込んでいた。腿の内側は乾きかけた精液で白く光り、胸元にはかすかな歯型がいくつも浮かび上がっている。制服のブラウスはボタンが外れたままはだけ、スカートの裾は裂け目からほつれた糸を垂らしていた。
彼女は無表情で虚空を見つめ、ただ呼吸をしていた。膣の奥と肛門の入り口に、まだ複数の肉棒が出入りした跡が疼いている。熱く、重く、内部が引っ張られるような感覚。それは快楽の名残であり、彼女が「記録」した感覚データの物理的な証左だった。
ドアのノブが、きしむ音を立てて回った。
凛はゆっくりと顔を上げた。ドアが開き、廊下の薄暗がりの中に一人の人影が立っている。夕闇に逆光るその輪郭は、あまりにも見慣れたものだった。
高槻悠真が、まるで幽霊のように部室の入口に佇んでいた。彼の顔には表情がなかった。いや、あるにはあったが、凛にはその複雑な歪みが何を意味するのか理解できなかった。ただ、彼の目が大きく見開かれ、唇がわずかに震えているのが見えた。
凛は少し首を傾げた。
「悠真」
彼女の声は、いつもと変わらない平坦な調子だった。喉の奥が少し痛み、声がかすれていることに、ようやく気がついた。おそらく、繰り返し深く咥え込まれたペニスのせいだろう。
「どうしてここに?」
悠真は一言も発せず、ゆっくりと部室の中へ一歩踏み込んだ。彼の足音は鈍く、床にこびりついた体液の上を滑るように響いた。彼の視線は凛の体をゆっくりと舐めるように移動し、乱れた制服、汚れた肌、腿を伝う白濁の痕跡を一つ一つ確かめていった。
「……何をしていたんだ、凛」
ようやく口を開いた彼の声は、ひどく掠れていた。まるで長い間泣き叫んでいたかのように、深く乾いていた。
凛は瞬きを一度だけした。
「写真部の活動です。モデルをしていました」
「活動……」
悠真が繰り返す。その言葉の端に、かすかな震えが乗っている。
「あれが……活動なのか? 今、ここで……あの男たちと、あんなことをしていたのが?」
凛は少し考え込むように目を伏せた。彼の質問の意図が、いまいち理解できない。彼はなぜ、事実を確認するような問い方をしているのだろう。彼自身が窓の隙間から見ていたはずなのに。
「はい。三谷部長たちが、新しい動画の撮影をしていました。私は指示に従って、さまざまなポーズを取りました」
「ポーズ……」
悠真の唇が歪んだ。それは笑っているのか、泣いているのか、凛には判別できなかった。
「服をめくられて、複数の男に股を広げられて、あの声を上げながら『奥まで』って懇願するのが……ポーズなのか?」
凛は首をかしげたまま、ゆっくりとうなずいた。
「そうです。それもポーズの一つです。カメラに向かって、よりリアルな反応を見せるために必要な行為でした」
一瞬の間が流れた。
そして悠真が、低く、苦しげな笑い声を漏らした。彼の肩が小刻みに震え、目頭がみるみる赤く染まっていく。
「行為……か。凛は、あれをただの『行為』だと思っているんだな」
「はい」
凛は迷いなく答えた。
「感じるから、続けています。気持ちよかったから、今日も参加しました。それだけのことです」
「気持ちよかった……」
悠真が繰り返す。彼の目から、一粒の涙が頬を伝って落ちた。それに続いて、もう一粒。彼は泣きながら笑っている。その矛盾した表情が、凛の心にわずかな違和感を生んだ。
「悠真、どうして泣いているの?」
彼女は素直に疑問を口にした。
「体のどこかが痛いのですか? それとも、私が何か悪いことをした?」
悠真は大きく息を吸い込んだ。胸を波打たせながら、彼はゆっくりと凛の前にかがみ込んだ。二人の顔の距離が、急に近づいた。凛は彼の涙の匂いを嗅ぎ取った。塩気のある、どこか苦い香り。
「悪いこと……?」
彼の声は震えていた。
「凛は、悪いことだとは思っていないんだよね。ただの『感覚の記録』で、ただの『気持ちいい行為』で……それだけだと思っている」
「はい」
凛はきっぱりと言った。
「悪いことではありません。みんな、望んでやっていることです。私も、望んでいます」
悠真の目が、さらに深い悲しみで曇った。
「望んで……いる。そうか。凛は、あの男たちに触れられることを、望んでいるんだ」
「触れられること自体には、意味はありません」
凛は訂正した。
「重要なのは、感じることです。膣の奥が擦られる感覚。子宮口に精液が注がれる熱さ。喉の奥にペニスが押し込まれる窒息感。それらがすべて、私の体に記録される快楽です」
彼女の言葉は、あまりにも純粋で、あまりにも残酷だった。
悠真は顔を上げ、天井の汚れたシミを見つめた。彼の喉仏が、苦しげに上下した。
「僕は……ずっと思ってたんだ。凛とは、ゆっくりでいいって。触れられなくてもいい。心が通じ合っていれば、それで十分だって……」
彼の声が詰まった。
「なのに、凛は……あの男たちと、あんなに深く……あんなに激しく繋がっている。肉体で、感覚で、ものすごく濃密に……!」
「それは、別のことです」
凛は淡々と言い放った。
「悠真と、そういうことをしたいとは思いません。あなたには触れられたくない。でも、好きです。幼い頃からずっと、一緒にいたいと思っています」
「好きだから……触れられたくない……?」
悠真が理解できないというように首を振った。
「好きな人には近づきたくない。でも、好きでもない男たちには体中の穴を犯されて、気持ちいいって言う……それが、凛の中では矛盾していないんだな」
「はい。矛盾していません」
凛の答えは、瞬時だった。
「あなたとの関係と、写真部での行為は、次元が違います。分けて考えています」
悠真はまた、泣き笑いのような表情を浮かべた。彼の手が、無意識に凛の頬に伸びた。しかし、彼女の肌に触れる寸前で、ぴたりと止まった。
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