第1章: 静かなる日常の歪み
# 第1章: 静かなる日常の歪み
換気扇の低い唸りと、壁掛け時計の秒針が刻む規則正しい音だけが、リビングに満ちていた。
優佳はダイニングテーブルに広げた夕食の残りを片付けながら、ソファに座る悠の背中を見つめる。小学五年生にしては華奢なその肩が、勉強机に向かうたびに少しずつ丸くなっていくのが気になった。
「悠くん、休憩しない? アイスでも食べようか」
優佳が声をかけると、悠は顔も上げずに首を振る。
「あとちょっとで終わるから」
スマホをちらりと見て、また問題集に目を落とす。その動作が、ここ数日で増えていることに優佳は気づいていた。勉強の合間に、彼は必ずスマホを手に取る。まるで何かを確認するように。
――きっと、友達とLINEでもしてるんだろう。
そう思いながらも、胸の奥に引っかかる違和感があった。夫の俊夫が二週間の海外出張に出てから、家の中の静けさがやけに耳につく。換気扇の音、冷蔵庫のモーター音、それから――時々、悠の部屋から漏れるくぐもった笑い声。
優佳は食器をシンクに運びながら、ふと悠の部屋のドアを見やった。受験勉強を理由に、最近彼はよく自室にこもるようになっていた。
「ママ、もう終わったから」
悠の声に優佳ははっとする。彼はランドセルを背負うようにして立ち上がり、そのまま階段へ向かおうとする。
「お風呂は?」
「あとで入る」
「宿題はちゃんとやったの?」
「やったよ」
答えながらも、悠の手はスマホを握りしめていた。優佳はその様子に、またあの違和感が蘇るのを感じた。
――何か、隠してる?
数日後、優佳は夕食の後片付けを終え、悠の部屋の前に立っていた。洗濯物を届けようとドアを開けようとして、ふと手が止まる。
ドアの隙間から、かすかに明かりが漏れていた。それだけなら普通のことだ。しかし、その明かりに混じって、聞き覚えのない音が聞こえてくる。
優佳は息を殺して、そっとドアを数センチだけ開けた。
悠はベッドにうつ伏せになり、スマホを目の前に置いていた。イヤホンをしているのか、音はほとんど聞こえない。しかし、画面に映る映像が、優佳の視界に飛び込んできた。
若い女が、男の股間に顔を埋めている。唾液が絡み合い、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が、かすかに部屋に漏れていた。
優佳の心臓が、どくんと大きく鳴った。
「……っ」
思わず口元を押さえる。息が詰まる。体が熱くなる。悠はその映像に釘付けになり、目を離さずに画面を見つめている。その横顔は、真剣そのものだった。勉強している時と同じ、いや、それ以上に集中した表情。
――悠くんが……こんなものを……
優佳は頭の中が真っ白になる。同時に、なぜか身体の奥がじんわりと熱くなっていく。脚の間が、きゅっと締まるような感覚があった。
「……っ」
無意識に、優佳はドアを閉めていた。音を立てないように、慎重に。
洗濯物を抱えたまま、階段を降りる。リビングに戻っても、手が震えて何もできなかった。
――どうしよう……どうしたらいいの……
その夜、優佳はベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。
夫は出張先から電話をよこしたが、優佳は上の空で返事をするのが精一杯だった。早く切ってほしいと思いながらも、切った後に訪れる静けさが怖かった。
――あの映像……悠くんは、あんなものを見てるんだ……
優佳は自分の身体の熱を感じる。パジャマの下で、乳首が尖っているのがわかる。脚の間が、ひどく湿っている。
「……どうして……こんな……」
自分を慰めるように、優佳は右手をゆっくりと下腹部へ滑らせた。パジャマのズボンをずらし、指を割れ目に這わせる。そこはもう、とろりと濡れていた。
「はぁっ……」
指を一本、ゆっくりと挿入する。自分の指なのに、どこか他人のもののように感じられた。膣壁がぴくぴくと震え、指を締め付ける。
「んっ……んんっ……」
優佳は目を閉じ、悠のあの真剣な横顔を思い浮かべる。画面に映る女の代わりに、自分がそこにいるような――そんな妄想が頭をよぎる。
――だめ……だめだよ、私……あの子は、私の息子なのに……
指の動きが速くなる。もう一人では止められなかった。
「あっ……あっ……!」
絶頂の瞬間、優佳の口から小さな悲鳴が漏れた。全身が痙攣し、膣が指をぎゅうぎゅうと締め付ける。
――悠くん……悠くん……
頭の中で、その名前が何度も繰り返された。優佳は汗に濡れた身体をシーツに押し付けながら、罪悪感と、それ以上の熱に震えていた。
――もう……戻れないのかもしれない……
優佳はそう思った。自分の中で何かが、確実に変わってしまったことを感じながら、ただ、暗闇の中で息を整えることしかできなかった。

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