第2章: 看護師の仮面を脱ぎ捨て、公民館の会議室で待つ男たちの前に立つまでの私の疼き
第2章: 看護師の仮面を脱ぎ捨て、公民館の会議室で待つ男たちの前に立つまでの私の疼き
応募のメールを送ってから二週間――私は指定された町の公民館の前に立っていた。
午後二時の陽射しはまだ強く、アスファルトから立ちのぼる陽炎がスカートの裾をゆらゆらと揺らしている。ベージュのカットソーに紺のフレアスカートという、いつもの休日スタイル。誰が見ても、どこにでもいる平凡な二十七歳の女にしか見えないはずだ。でも、その服の下で、私の肌はすでにうっすらと汗ばみ、下着のクロッチ部分がしっとりと湿り始めているのを感じていた。
公民館の入り口で靴を脱ぎ、指定された「第二会議室」の札がかかった扉の前に立つ。すりガラスの向こうに、かすかな人影がいくつも動いているのが見えた。心臓が、喉の奥で脈打っているみたい。ノックをしようと右手を持ち上げたとき、指先が小刻みに震えているのに気づいて、私は思わずその手をぎゅっと握りしめた。
……落ち着け、私。これはクロッキー会なんだから。芸術のための、モデルの仕事なんだから。
でも、頭のどこかで、もう一人の私がくすくすと笑っている。芸術のため? そんな綺麗な言葉でごまかせると思ってるの? あなたはただ、見られたいだけの、変態な女のくせに。
私は唇を噛みしめ、思いきってノックをした。
「どうぞ、お入りください」
低く落ち着いた男性の声が扉の向こうから響き、私はゆっくりとドアを開けた。
部屋に足を踏み入れた瞬間、むっとした空気と、鉛筆の芯と紙の匂いが鼻をつく。蛍光灯の白々しい光が、会議室の隅々まで容赦なく照らし出していた。窓からは午後の陽射しも差し込んでいて、二つの光が混ざり合い、部屋の中はやけに明るい。壁際には折りたたみ式のイーゼルが十台ほど並び、その前に木炭紙をはさんだ画板を手にした男性たちが座っている。部屋の中央には、低めの台が置かれていて、その上には白いブランケットが一枚敷かれていた。あれが、モデル台なんだ……。
男性たちの視線が、一斉に私に突き刺さる。私は息を呑み、思わず立ちすくんだ。
年齢層は、想像していたよりもずっとばらばらだった。一番若そうなのは、大学生くらいだろうか。細身の体にアメカジのTシャツを着て、少し緊張した面持ちでこちらを見ている。その隣には、スーツ姿の中年男性が二人。ネクタイをきちんと締めて、どこかの会社帰りといった風情だ。さらに奥には、作業着姿の年配の男性が、節くれだった指で鉛筆を持ち、じっと私の全身を品定めするように眺めている。六十代、いや、七十代かもしれない。その隣に座る、白髪混じりの男性も同じくらいの年配に見えた。
男、男、男……。
部屋にいるのは、全員が男性だった。募集要項に「男性だけのクロッキー会」と書いてあったのを、頭では理解していたつもりだった。でも、実際にこの空間に立ってみると、十人以上の男たちの視線が、まるで目に見えない熱線のように肌にまとわりついてくる。私は無意識に、両腕で自分の胸をかばうような姿勢をとっていた。
そのとき、一人の男性が立ち上がり、穏やかな足取りで近づいてきた。
銀髪交じりの短い髪に、細いフレームの眼鏡。痩せ型で背が高く、薄手のカーキ色のカーディガンを肩にかけて、チノパンをはいている。落ち着いた鳶色の瞳が、眼鏡の奥で静かに私を見つめていた。
「こんにちは。あなたが、麻里奈さんですね」
少しハスキーな、しかし耳に心地よく響く低音だった。
「……はい、麻里奈です。本日は、よろしくお願いします」
私はぺこりと頭を下げた。声が少し上ずっていたかもしれない。
「私はこの会の代表をしております、高柳と申します。今日はご参加いただき、ありがとうございます」
高柳はそう言って、軽く会釈をした。物腰はあくまで柔らかく、表情には職務的な誠実さが浮かんでいる。でも、その目の奥で、私の全身を一瞬でスキャンするような鋭い光が走ったのを、私は見逃さなかった。
「控室や衝立のようなものは、あいにくご用意しておらず……申し訳ありません。その場で着衣を脱いでいただく形になりますが、大丈夫でしょうか?」
高柳の言葉に、私は一瞬息を止めた。
……やっぱり、ここで脱ぐんだ。
頭ではわかっていたつもりでも、いざ現実に「今からここで服を脱げ」と言われると、膝がかくかくと笑いそうになる。視線が、さらに強くなった気がする。部屋の空気が、急に粘度を増したみたいにまとわりついてくる。
「……はい、大丈夫です」
私は小さくうなずいた。
大丈夫なわけ、ない。怖い。恥ずかしい。逃げ出したい。でも、それ以上に――私は、この瞬間を何よりも待ち望んでいた。この二週間、病棟で注射器を握りながらも、検温表を書きながらも、頭の中はこのことだけでいっぱいだった。明るい部屋で、たくさんの男たちの前に立ち、服を一枚ずつ脱いでいく自分の姿を想像しては、ナース服の下の下着をぐっしょりと濡らしてきたのだ。
「では、こちらへどうぞ」
高柳に促され、私は部屋の中央のモデル台のほうへ歩き出した。ヒールのないフラットシューズが、リノリウムの床をきゅっと鳴らす。その小さな音さえ、やけに大きく響いた。十人以上の男たちの視線が、私の一挙手一投足を追いかけてくる。背後からは、スカート越しに尻のあたりをじっと見つめられているのがわかった。
私はモデル台の前に立った。高柳が静かに、自分の席へ戻っていく。
部屋が、しんと静まり返った。
私を見つめる十数対の目。鉛筆を握りしめた手が、息を殺して動き出すのを待っている。私はきゅっと唇を引き結び、まず両手を胸の前で組んだ。それから、祈るような気持ちで、そっとカットソーの裾に指をかける。
窓から差し込む午後の陽射しが、私の手の甲を温かく照らしていた。蛍光灯の白い光は、腕の産毛の一本一本まで、くっきりと浮かび上がらせている。
……さあ、始めよう。私の、本当の時間を。
私はゆっくりと、カットソーの裾を引き上げ始めた。
コメント