第2章: まわし一枚の決意(続き 3/4)
硬い筋肉の塊が、柔らかい腹を通り越して、さらに下へ圧迫をかけてくるような。股の間の、あの敏感な場所が、間接的にではあるが、圧迫される。
「あ……っ」
美佳は目を見開いた。
股間の奥で、ぴくんと何かが跳ねた。電気が走ったような、しかしそれは熱い電気だった。一瞬、体の力が抜けそうになる。腰がぐらりと震えた。
そのわずかな隙を、茂は見逃さなかった。
「よし!」
彼は低く叫ぶと、美佳の体を思い切り左へ捻り倒した。
美佳は抵抗できなかった。体が思うように動かない。股のあたりの熱と痺れが、まだ体中を駆け巡っている。背中が砂利にぶつかり、埃の匂いが鼻を突く。
「ふう……一本!」
茂が勝利を宣言する声が、少し遠くに聞こえる。
美佳は仰向けに倒れたまま、空を見上げていた。夕焼けが始まり、雲が薄橙色に染まり始めている。胸が上下に激しく動く。吸い込む空気が、肺の奥で熱く燃えるようだ。
そして、倒れた姿勢で気づいた。
胸に巻いたさらし布の結び目が、完全に胸の谷間からずれ、左の乳房のふくらみの真上に乗っている。布が汗で肌に張り付き、左胸の先端の小さな突起が、布の上からくっきりと浮かび上がっている。
それを、上から見下ろす人影が、三つある。
茂、拓也、寛。
三人とも、倒れた彼女を見下ろしている。拓也はいたずらっぽい笑みを浮かべ、茂は複雑な表情で眉をひそめ、寛は……寛は、彼女の胸元に張り付いた布の、そのくっきりとした浮かび上がりを、一言も発せずに凝視していた。
彼の灰色の瞳が、吸い込まれるように、その一点を見つめている。
美佳は慌てて体を起こそうとした。しかし、腕に力が入らない。
「……もう、一本取られちゃったよ、美佳」
拓也が言った。
「まあ、でもまわし一枚でここまで頑張ったんだから、えらいっちゃえらいけどさ」
「……うるさい」
美佳はようやく肘で体を支え、起き上がった。胸の布がずり落ちそうになるのを、素早く手で押さえる。その動作が、また自分で自分の胸を押さえつけることになる。柔らかい肉が掌に収まる感触に、またぞっとするような恥ずかしさが走る。
茂は黙って彼女に手を差し伸べた。
「……立てるか?」
彼の声には、いつものからかいがなかった。むしろ、どこか固く、ぎこちない。
美佳は少し迷ったが、その手を取った。茂の掌が、また彼女の手を包んだ。温かく、汗ばんでいて、がっしりとしている。
引き上げられる力で、彼女は立ち上がった。
立ち上がったとき、茂の目が一瞬、彼女の胸元を掠めた。彼はすぐに目をそらし、自分のまわしの結び目を直すふりをした。
「……あんまり無理するなよ。その格好で、本気で組んだら、お前すぐ壊れちまうだろ」
「壊れないよ」
美佳は言い張った。しかし、声には自信がなかった。
体の中に、確かに何かが目覚めつつある。それは怖いものだった。でも、なぜか、その怖さの裏側に、もう一度組んでみたい、もう一度あの柔らかい衝撃を感じてみたい、という紛れもない欲求が、微かに蠢いていた。
稽古はその後、拓也と寛も交えて続けられた。
拓也と組むときは、彼がわざとらしく「おっとっと、触っちゃいけないところに手が行きそうで怖いなあ」などと冗談を言いながら、しかししっかりと組み手をしてくれた。彼の手が美佳の腰のあたりを支えるとき、その掌の熱が、短パンの下のさらし布を通してじんわりと伝わってきた。
寛との組み手は、沈黙の中で行われた。
彼はほとんどしゃべらなかった。ただ、組む前におずおずと手を差し伸べ、四つに組むときの力加減が、誰よりも慎重で優しかった。しかし、その分、体と体が密着する時間が長くなった。彼のほっそりとした胸板が、美佳の胸にゆっくりと押し付けられ、離れるときには布がくっついて離れないほど汗で湿っていた。
寛の息づかいが、彼女の耳元で、ひときわ熱く荒くなった瞬間もあった。
そのたびに、美佳は自分の股間が、またじんわりと熱を帯びるのを感じた。
日が完全に傾き、校庭の隅が薄暗くなり始めたころ、稽古は終わった。
男子たちはそれぞれまわしを解き、Tシャツに着替え始めた。美佳は彼らから少し離れた木陰に立ち、胸のさらし布を解き始めた。
結び目をほどく。ぐるぐると巻かれた布が、緩んでいく。最後の一枚が外れると、スポーツブラに覆われた胸が露わになる。ブラの上からも、汗で肌がテカテカと光っている。ブラのカップの縁に、さらし布の跡が赤くくっきりと残っていた。
彼女はさっとカバンから脱いだTシャツを引っ張り出し、素早く頭からかぶった。綿の生地が汗ばんだ肌に張り付く感じが、いつも以上に異様に感じられた。服を着ているのに、なんだか裸でいるような、むき出しのままのような気がしてならない。
「おう、じゃあな、美佳」
茂が背中を向けて手を上げた。
「明日も来るんだろうな? まわし、また持って来いよ。せっかく同じ格好になったんだから、それでどっちが強いか、本気で勝負しようぜ」
彼は振り返らずにそう言い、拓也と一緒に校庭の門の方へ歩き出した。
寛だけが、少し遅れて立ち去った。彼は一度、木陰にいる美佳の方へ振り返り、口を開きかけたが、結局何も言わずに俯いて、小走りに茂たちを追いかけた。
美佳は一人、残った。
カバンを肩にかけ、校舎の影を通って正門へ向かう。道すがら、胸のあたりがまだほてっているのを感じた。ブラのカップの中では、先端がちくちくといたずらに疼き続けている。脚を閉じて歩くたびに、内腿の内側がこすれ、なんだかぬめっとした感触が増していくような気がした。
家に着くまで、その感覚は消えなかった。
風呂に入り、鏡の前で体を拭いているとき、美佳はふと、胸の膨らみをまじまじと見つめてしまった。ほんのりと膨らんだそのふくらみの頂点に、小さなつぶつぶが立っている。今日、あれだけ布に擦られて、まだ敏感になっているのだ。
彼女はそっと手の平で、左の胸を包んでみた。
柔らかい。温かい。そして、掌に収まるその感触が、なぜか茂の肩がぶつかったときの感覚を鮮明に呼び覚ます。
――あの時、声が出ちゃった……
また、顔が熱くなる。
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