第1章: 稽古場の一言(続き 2/2)
もちろん、女の子だから、それ以上は脱げない。当たり前のことだ。でも、その「当たり前」が、今日に限って、なぜか鋭い棘のように胸に刺さって離れない。
ふと、Tシャツの裾をめくってみた。
暗闇の中で、自分の腹が見える。平坦で、少しだけ稽古でついた筋肉が硬く浮かび上がっている。その上に、ほんのりと膨らみ始めた胸が、小さな影を作っている。
指先で、そっと触れた。
柔らかく、温かい。最近、急に膨らみだしたここが、なんだか妙に熱く感じられる。茂がちらりと見たその場所が、今、自分で触ると鼓動を打っているように思えた。
――あれ、私……。
ぱっと手を離し、布団をぐいっとかぶった。
顔が熱い。何でだろう。別に、悪いことなんてしてないのに。ただ相撲がしたいだけなのに。
でも、寛のじっと見つめる視線を思い出す。
拓也のいたずらっぽい笑いを思い出す。
そして、茂の、あの無造作で確信に満ちた言葉を思い出す。
次の日、学校で茂に会ったら、何て言おう。また稽古をする時、あの土俵の上で、どうやって立ち向かおう。Tシャツのままじゃ、本当の相撲取りじゃないって言われたままでいいのか。
――いやだ。
布団の中で、拳をぎゅっと握りしめた。
絶対にいやだ。私だって、本当に相撲がしたい。男の子たちと同じように、がっつりと四つに組んで、土の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、本当の勝負がしたい。
でも、どうやって?
その答えは、まだ見えていない。
ただ、胸の奥で、何かがゆっくりと動き始めているのを感じた。今まで気にしたことのなかった自分の体が、ふと、大きくて厄介なものに思えてきた。
窓の外で、蝉の声が一斉に響いた。
夏の夜は、まだまだ深くならない。
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