第4章: 土俵の下で濡れる秘密(続き 2/3)
その一言で、美佳の顔から血の気が引いた。
恥ずかしさが、頭のてっぺんからつま先までを一瞬で駆け巡る。熱かった体が、今度は凍りつくような冷たさに包まれる。
「で、でも……」
言い訳が浮かばない。
茂はじっと彼女の表情を見つめていた。その目に、からかいや嘲りはなかった。むしろ、深い驚きと、何か別の、言葉にできない感情が渦巻いているようだ。
そして、彼はゆっくりと体を離した。
その隙を突かれて、美佳は力の抜けた体を支えきれず、後ろへと倒れ込んだ。
背中が砂利にぶつかり、小さな埃の雲が上がる。視界には、夕焼けに染まった空が広がっていた。
仰向けになったまま、美佳は動けなかった。
呼吸が荒く、胸が激しく上下する。でも、それ以上に気になったのは、股間のあたりに広がる異様な感覚だった。
温かい。
じっとりと湿っている。
汗とは明らかに違う、ねっとりとした湿りが、下腹部のさらし布に滲み出ているのを感じた。
――なに、これ……
恐る恐る脚を動かそうとすると、内腿の内側がぬめっとこすれ合う。あの場所が、ぽかぽかと熱く、まるで火照っているようだ。
そして、上から覗き込む影が三つ。
茂、拓也、寛。
三人とも、倒れた彼女を見下ろしている。拓也は口を少し開け、驚いたような表情を浮かべている。寛は目を大きく見開き、彼女の股元あたりをじっと凝視していた。
茂は複雑な顔をして、唇を噛みしめている。
「あのさ、美佳……」
拓也が小声で口を開いた。
「もしかして……それ、汗じゃないよね?」
その言葉に、美佳は体が硬直した。
顔が火照る。恥ずかしさで死にたいほどだった。でも、同時に、股間のぬめりがなぜか気持ちよくて、もっとこすりたくなるような、矛盾した欲求が胸を掴む。
「……黙れよ、拓也」
茂が低い声で制した。
彼は屈み込み、美佳に手を差し伸べた。でも、その手が途中で止まり、彼は一瞬躊躇ったように見えた。
「立てるか?」
声には、いつもの強さがない。むしろ、どこかよそよそしく、ぎこちない。
美佳はうなずくことしかできなかった。茂の手を取ると、引き上げられる力で立ち上がった。
立ち上がった瞬間、脚の間の湿りがさらに広がるのを感じた。まわしが重たく、冷たくなっている。汗ならもっとさっぱりしているはずなのに、このねっとりとした感触は、間違いなく別のものだった。
「……今日は、ここまでにしとくか」
茂がそう言い、目をそらした。
「え? でもまだ……」
拓也が言いかけたが、茂の鋭い視線に押され、口をつぐんだ。
寛は一言も発せず、ただ下を向いていた。でも、彼の耳が真っ赤に染まっているのが、夕日に照らされてはっきりと見えた。
美佳は俯いたまま、胸のさらし布をそっと押さえた。布の下では、心臓が暴れるように鼓動している。股間の熱は消えず、むしろ意識するたびに強まっていく。
――私、変だ。
――みんな、気づいてる。
――でも、止まらない。
その思いが、胸の奥で渦巻いた。
四人は無言で着替え始めた。美佳は木陰に隠れるようにして、胸の布を解いた。結び目をほどく指先が震えている。
白い布が緩み、外れる。スポーツブラに覆われた胸が露わになる。ブラの上からも、肌が赤くほてっているのがわかった。特に左胸の先端が、ちくちくと疼き続けていた。
彼女は素早くTシャツをかぶった。綿の生地が肌に張り付く感触が、今日は特に異様に感じられた。
「じゃあな……」
茂が背中を向けて言った。
振り返らず、そのまま校庭の門の方へ歩き出そうとする。
「茂」
美佳が思わず呼び止めた。
茂の足が止まった。彼はゆっくりと振り向いた。夕焼けの光が彼の横顔を赤く染め、表情が読み取りづらかった。
「……なんだ」
「明日……もう、来ないんだよね?」
その問いに、茂は一瞬目を伏せた。
「ああ。夏休みも終わるしな。それに……」
言葉を切る。
「それに?」
「……いいや、なんでもない」
彼は再び背を向けた。
「お前、あの声……まあ、いい。気にすんな」
そう言い残すと、今度は本当に歩き出した。拓也が「おーい、待ってよ!」と追いかけ、寛も小走りについて行った。
美佳は一人、木陰に残された。
夕日が校庭を深い橙色に染めていた。砂利の土俵が、長い影を落としている。もう誰もいない。だけど、肌にはまだ男子たちの体温が残っているような気がした。
彼女はそっと下腹部に手を当てた。
Tシャツと短パンの上からでも、あの湿りが少しずつ広がっているのがわかった。怖くなって手を離すと、指先が少しだけ湿っていた。
――これが、女の子なんだ。
心の中で、そう呟いた。
怖い。恥ずかしい。みっともない。
でも、なぜか涙が出そうになるほど、切なくて、寂しくて、そして体の奥が熱い。
美佳は土俵の縁に座り、膝を抱えた。顎を膝の上に乗せ、夕焼け空を見上げる。雲がゆっくりと流れていく。
股間の熱が、ゆっくりと体中に染み渡っていく。
あの感触を、もう一度味わいたい。
茂の肩が胸にぶつかる衝撃。拓也の囁き。寛の視線。すべてが、この体を疼かせた。
そして、あの声。あの甘く漏れた声を、茂に聞かれてしまったこと。
顔がまた熱くなる。
でも、それと同時に、股の奥でぴくんと何かが跳ねた。
美佳はそっと脚を閉じた。内腿がこすれ合い、ぬめっとした感触が増す。もう、汗なんかじゃない。これは、私の中から溢れ出たものなんだ。
夕日が沈み始め、空の色が深みを増していく。
彼女は立ち上がり、カバンを肩にかけた。家路につく前に、もう一度土俵を見つめた。
砂利の上には、四人の足跡が無数に残っている。そして、彼女が倒れた場所には、少しだけ色が濃い、湿った跡があった。
美佳は俯き、歩き出した。
歩くたびに、股間の湿りが広がる。内腿がこすれるたびに、微かな快感が腰を駆け上がる。
もう、誰にも言えない。
この秘密を、ずっと胸にしまっておこう。
でも、きっと明日も、明後日も、この体は疼き続ける。
茂の言葉を思い出す。
『女の子とは所詮、Tシャツ着て本当の相撲取りじゃないよね』
あの時は悔しかった。でも今、わかる気がする。
本当に違うんだ。体が、心が、求めるものが。
風が吹き、まだ暑い夏の名残りを運んでくる。
美佳は震える吐息を漏らし、歩き続けた。
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