第1章: 第1章:偶然の再会(続き 2/2)
理性が警告を発するが、身体はもう反応を始めていた。ブラウスの下で、乳首がほんのりと硬くなり、布地に擦れる感触がくすぐったい。俊夫は気づいていないようだったが、彼の傍にいるだけで、学生時代のあの甘くて切ない感覚が、全身を巡り始める。
「もう一杯、どうだ?」
「……少しだけ、お願いします」
俊夫が手を挙げてウエイトレスを呼ぶ。その動作で、彼の肩から上腕にかけての筋肉が、Tシャツの下で大きく動いた。かつて何度も抱きしめられ、その腕の力に身を委ねた記憶が、鮮明に蘇る。彼の腕は、当時よりもさらに逞しく、男らしい厚みを増している。
新しいビールが注がれ、グラスが再び満たされた。亜理砂は気づいた。いつの間にか、肘一つ分あった距離が、わずか半身分に縮まっていた。俊夫の体温が、より濃厚に、より直接的に、こちらに流れ込んでくる。
「お前、相変わらず色白だな」
突然の言葉に、顔がほてる。俊夫の視線が、亜理砂の首筋から、襟元の開いた鎖骨のあたりをゆっくりと這っている。まるで、衣服の下の肌を剥き出しにしているかのような、遠慮のない眼差しだ。
「……そんなこと、ないです」
「いや、あるよ。照明の下じゃ、ほら、透き通って見える」
彼はそう言って、無造作に手を伸ばし、亜理砂の耳の後ろに絡まった黒髪の一房を、そっと指でほぐした。その指先が、耳朶の輪郭に触れた瞬間、全身に電流が走ったような痺れが走る。思わず、はっ、と小さな息を漏らす。
俊夫は満足そうに、ほんのりと笑った。その口元は、かつて悪戯っぽく笑った時と、少しも変わっていない。
「びっくりするな。まだそんなに敏感か」
「……やめてください」
声は、なぜか甘ったるく震えていた。断っているのに、まるで求めるような響きを帯びている。亜理砂は自分が吐く息の熱さに気づき、ますます顔が火照っていくのを感じた。
俊夫は手を引いたが、視線は依然として亜理砂の肌に張り付いたままだった。店内の喧噪が、なぜか遠のいて聞こえる。二人の間に流れる空気だけが、濃密に、甘く、そして危険に濁り始めていた。
彼の大きな手が、ふとカウンターの上に置かれた。その手の甲には、細かい傷と、仕事でついたと思われる古いマメの痕があった。かつて、その手で何度も頬を撫でられ、背中をさすられ、そして腿の内側を這われたことを、亜理砂はふと思い出した。
――あの頃は、あんなに素直に感じていたのに。
今ここにいるこの男は、過去の幻ではない。血肉を持ち、熱を発し、確かな存在感で周囲の空気を揺らしている。彼の存在そのものが、亜理砂の理性を、ゆっくりと、しかし確実に緩めていった。
焼き鳥の脂の香り、ビールの麦の香り、そして俊夫の微かな汗の匂い。それらが混ざり合い、官能的ともいえる濃厚な芳香を醸し出していた。亜理砂はもう一息ビールを飲み、冷たい液体が喉を通り、胃の底で熱に変わっていくのを感じた。
俊夫が何か言おうと口を開いたその時、亜理砂はふと気づいた。自分の膝が、いつの間にか俊夫のジーンズの裾に、ごくわずかに触れていることに。布地同士の摩擦が、太ももの内側に直接的な刺激として響き、膣の奥がまた疼く。
彼はそれに気づいたのか、あるいは気づいていないのか。ただ、黙ってビールのグラスを傾け、喉を鳴らして飲み干した。その顎の動き、首筋のうねりが、なぜかむやみに艶めいて見えた。
名古屋の夜は、まだ深まるには早かった。しかし、この小さな居酒屋のカウンターで、五年の歳月を飛び越えて再び火花を散らし始めた時間は、確かに、ゆっくりと、確実に、熱を帯び始めていた。
亜理砂は、もう止められない流れに身を任せつつある自分を感じていた。そして、その感覚が、恐ろしいほどに心地よかった。
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