第6章: 帰宅した夫と続く秘密
# 第6章: 帰宅した夫と続く秘密
俊夫が帰宅した日の夕方、優佳はキッチンで夕食の支度をしながら、何度も深呼吸を繰り返していた。包丁で人参を刻む手が微かに震える。あれだけ密な時間を過ごした二週間が、まるで嘘のように日常が戻ってくる。
「ただいま」
玄関から聞こえる夫の声に、優佳はエプロンで手を拭きながら応えた。
「おかえりなさい。お疲れさま」
普段通りの挨拶。何の変哲もない、妻としての台詞。けれど、自分の口から発せられる言葉が、ひどく偽りに満ちているように感じられてならなかった。
「悠は?」
「自分の部屋で勉強してるわ。もうすぐ食事の支度ができるから」
俊夫はスーツケースを居間に置くと、リビングのソファにどっかりと腰を下ろした。海外出張の疲れが見える。優佳は冷蔵庫からビールを取り出し、グラスに注いで夫の前に置いた。
「ありがとう」
その何気ない「ありがとう」の一言が、優佳の胸を鋭く刺す。この男は何も知らない。妻と息子がどんな関係を築いてしまったか、想像すらしていない。その無防備さが、優佳の罪悪感をさらに深くした。
食事中も、優佳はなるべく自然に振る舞おうと努めた。悠の箸の動きが硬い。視線を合わせようとしない。優佳は悠の茶碗に味噌汁を注ぎ足しながら、わざと明るい声を出した。
「悠くん、パパが帰ってきたから、また勉強教えてもらえるね」
悠は小さく頷いただけで、何も言わなかった。俊夫は出張先の話を楽しそうに語っている。現地の食事が美味しくなかったこと、取引先の対応が大変だったこと。優佳は相槌を打ちながら、心の奥で全く別のことを考えていた。
――今夜、悠は来るだろうか。
その考えが頭をよぎった瞬間、優佳の下腹部がじんわりと熱を持つ。自分でも驚くほどの期待感。夫が隣に座っているというのに、身体は悠の気配を求めて疼いている。
――だめよ、私……もう戻れないのかな。
食事が終わり、俊夫が風呂に入っている間、優佳は台所で食器を洗っていた。背後から気配がして振り返ると、悠が立っていた。何かを言いたそうな、けれど言葉にならない表情。優佳は泡立つスポンジを握りしめながら、小さく首を振った。
「……今日は、早く寝なさい」
その言葉の裏に込められた意味を、悠は察したのだろう。悠は一度だけ頷くと、黙って二階へと上がっていった。
深夜、俊夫の規則正しい寝息が部屋に満ちていた。優佳は暗がりの中で天井を見つめながら、眠れない時間を過ごしていた。隣で眠る夫の体温が、重くのしかかる。かつては愛おしいと思ったその温もりが、今はただ重たいだけだった。
ふと、廊下から微かな物音がした。優佳の心臓が跳ねる。俊夫の寝息を確かめながら、身体を硬くする。ドアの隙間から、小さな影が差し込む。
――来た。
優佳は息を呑んだ。罪悪感が胸を締め付ける。けれど、それ以上に期待する自分がいる。悠は音を立てずに部屋に入ると、俊夫の寝息を確認してから、優佳の布団の端をそっと捲った。
「ママ……」
その囁きだけで、優佳の理性は音を立てて崩れ落ちた。悠の小さな手が、暗闇の中で自分の手を探し当てる。その温もりが、あまりにも恋しかった。
優佳は声を殺して、悠の身体を布団の中に引き入れた。自分の腕の中に、再び息子の体温を感じる。その瞬間、全ての罪悪感が甘い痺れに変わっていくのが分かった。
「お母さん……我慢できなかった」
悠の声は震えていた。優佳は何も言えずに、ただ悠の頭を自分の胸に押し付けた。そして、俊夫の寝息に耳を澄ませながら、ゆっくりと手を伸ばし、悠のパジャマのズボンに指をかけた。
暗闇の中で、二人だけの秘密が再び始まる。夫のすぐ隣で。その背徳感が、優佳の身体の奥を熱く焦がしていく。
――もう、止められない。止めるつもりも、ないのかも……
優佳は自分の心の変化に、静かに、そして確かに気づいていた。この禁断の関係は、もう二度と終わらないだろう。そう思うと、なぜか不思議な安堵感が胸に広がった。
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