第1章: トンネルの途中
第1章: トンネルの途中
四十五歳という年齢は、気づけば人生の折り返しをとっくに過ぎているはずなのに、徹にとってはただ長いトンネルの途中のように思えた。
狭いワンルームマンションの天井は低く、いつも薄暗い。
机の上にはMacBookと液晶タブレットが並び、隅には未整理の請求書とコンビニ弁当の空き容器が積まれている。フリーランスのWEBデザインという仕事はそれなりに食えてはいるが、社会とのつながりは薄く、昼夜の感覚も曖昧だった。
朝起きるとコーヒーを淹れ、軽くシャワーを浴びてから、画面に向かう。
クライアントからの修正依頼、バナーやLPの更新。単調で退屈な作業の連続に、ふとした瞬間に無性の渇きが襲ってくる。
昼を過ぎる頃には椅子の背にもたれ、スマホで適当にエロサイトを開くのが習慣になっていた。
画質の粗いサムネイル、見慣れた洋物のカテゴリー。
再生ボタンを押すと、英語の聞き慣れない喘ぎ声と共に、黒い肌の男と金髪女の絡み合う映像が流れる。徹の指先は自然にズボンのファスナーへと伸びていく。
股間の肉棒を握り、上下に擦り始める。
画面の中の黒人男性が巨根を激しく振るうリズムに合わせ、手の動きも速くなる。テカテカと光る肉の塊が女の穴に突き刺さり、ぬちゅぬちゅと淫らな音を立てる。
その映像を見ながら、徹は目を細める。
――なぜか、違う。
スマホの画面に映る金髪女の顔が、ふとぼやける。
気づけばその顔は、ショートカットの黒髪、ぱっちりとした大きな黒目に変わっている。頬の幼さ、口元の無邪気な曲線。
「んっ……ちゅ……」
自分の口から、思わぬ声が漏れた。
手の中で肉棒が脈打ち、先端からは粘り気のある透明な液が滲んでいる。指でこすり取ると、ぬるりとした感触が伝わる。
画面の黒人男性が腰を震わせ、白濁を吐き出す。
その瞬間、徹の下腹部に激しい収縮が走った。
「はあっ……!」
熱い液体がほとばしり、腿の上、そして床に散る。
息が荒く、胸が上下する。
だが射精したあとに残るのは、むなしさと重たい倦怠感だけだった。
机の上のティッシュの山を見て、ふと心のどこかで思う。
――なぜ、自分には本物の女がいないのか。
ベッドに仰向けになり、白い天井を見つめながら、徹は過去の記憶に引きずり込まれていく。
婚活パーティーにも出たことがある。
合コンの誘いに顔を出したこともある。
だが、目の前の女性たちと話していると、何かが欠けているように感じてしまう。彼女たちの笑顔や仕草に、心がまったく動かないのだ。
触れたいと思えない。
唇を重ねたいと想像できない。
代わりに浮かぶのは、あの夏、雨の日に見た小さな女の子の横顔だった。
朋美。
ショートカットの、黒目の大きな幼馴染。
あの日からずっと、徹の心と身体は、彼女の残像に縛られている。
別の女性の裸を目にしても、ふとした瞬間、脳裏に蘇るのは朋美の声、朋美の笑い方、朋美の短いショートパンツから伸びていた太腿。
自慰に耽るときも、結局は朋美の幻を相手にしている。
スマホの画面に映る外国人女優の顔は、気づけば朋美のものに変わっている。擦り上げる自分の手の中で、射精の瞬間に浮かぶのは彼女の笑み。
あの夏の日から三十年以上経った今でも、徹の性欲の中心には、まだ十二歳の少女の姿が焼き付いているのだった。
窓の外はもう暗い。
街灯のオレンジ色の光が、カーテンの隙間から細く差し込む。
徹は立ち上がり、冷めたコーヒーのカップを流しに運ぶ。
洗面所の鏡に映る自分の顔は、疲れきっている。白髪交じりの短い髪、くすんだ茶色の瞳。痩せ型で背が高い体型は、年齢以上に老けて見える。
ジャージのポケットに手を突っ込み、リビングに戻る。
再びMacBookの前に座り、画面を見る。
未完了のデザイン案件が三つ。納期は明日の昼まで。
だが指先が動かない。
頭の中を、あの雨の日の記憶が占領する。
雨音。
湿った空気の匂い。
古びたテレビから流れるざらついた喘ぎ声。
そして、隣に座る朋美の体温。
「すごいよね……」
彼女の囁き声が、今でも耳の奥で響く。
吐息がかかり、鼓膜がくすぐられるような感触。
徹は目を閉じる。
目の裏側に、鮮明に映像が蘇る。
小学校最後の夏休み。雨で朋美の家に遊びに来ていたあの日。
彼女がこっそり見せてくれた、両親の隠した外国のエロビデオ。
画面に映し出される黒人男性と白人女性の露骨な性行為。
初めて目にする生々しい結合の光景に、二人は息をのんだ。
徹の視線は次第に画面から、隣に座る朋美のショートパンツから覗く太腿へと移った。
白くて柔らかそうな肌。
雨に湿った石鹸の香り。
胸の奥がむず痒くなり、股間が熱を持った。
「ねぇ、徹も……やってみようか」
朋美の誘いの言葉。
戸惑う徹に、彼女はもっと具体的に命じた。
「じゃあ、徹……ズボン脱いで」
震える手でブリーフ一枚になった徹の幼いペニスを、朋美は爛々とした目で観察した。
「これが、徹のおちんちんなんだ」
ひやりとした指先が亀頭に触れた時、徹の全身に稲妻が走った。
「ねぇ……舐めてあげようか。ビデオみたいに」
「き、汚いよ……おしっこ出るとこだよ」
否定する徹の言葉を、朋美は聞き流した。
彼女はティッシュで拭いながらも、ためらうことなく小さな口を彼の性器に含んだ。
柔らかい唇と舌のぬめり。
初めての電撃的な快感が、幼い身体を貫いた。
「ん……ちゅ……ぬちゅ……」
朋美が吸う音。
ぴちゃぴちゃと生々しい水音。
そして、腹の奥で弾けるような感覚。
「うぁっ……!」
白く濁った液体が、朋美の口の中にほとばしった。
彼女は驚いたように目を見開いたが、唇を離さなかった。むしろ亀頭をしっかりと咥え込んだまま、頬を膨らませ、吐き出された熱を必死に受け止める。
徹は腰を跳ねさせ、痙攣するように吐き続けた。
「ひゃっ……はっ……あぁ……っ」
朋美は顔を赤らめながら、口の中の液体を転がすように舌を動かした。
とろりとした白濁が唇の端から糸を引き、徹の腿に落ちる。
「……出たね。これが……精子なんだ」
その光景が、徹の一生を縛りつける記憶になった。
目を開ける。
現実のワンルームに戻る。
胸の鼓動はまだ早く、額に冷や汗がにじんでいる。

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