幼なじみと婚約したわたしが、出張先の強引な上司に巨根で貫かれ、身体だけが覚えてしまった…
あらすじ
【時点】出発当日・朝(起点)
私は田中結子。幼なじみで婚約者の岸川裕と暮らすアパートで、三ヶ月の長期出張が決まった朝を迎える。裕が「寂しくなるよ、でも俺、ちゃんと待ってるから」と抱きしめ、優しくキスをする。私は「私も…絶対に帰ってくるから」と応えるが、慣れない土地での仕事への不安が胸を占める。空港では、裕が手を振りながら「毎日電話するね」と叫び、私は涙ぐみながらうなずく。機内で窓の外を見つめ、ふと、的場上司の無骨な顔を思い出す。出張先での唯一の知り合いである的場に、なぜかほっとする自分がいた。
第1章 別れのキスと飛行機雲

第1章: 別れのキスと飛行機雲
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、裕くんの寝顔を薄く照らしていた。
私はその横で、昨夜からほとんど眠れなかった目をこすりながら、天井を見つめていた。三ヶ月。たった三ヶ月。でも、私たちが生まれてからずっと一緒に過ごしてきた時間の中では、初めての長い空白になる。
隣で寝返りを打った裕くんの腕が、私の腰に伸びてきた。寝ぼけたままの手がパジャマの裾から滑り込んで、素肌に触れる。その手のひらはいつもより少し熱くて、私は息を詰めた。
「……朝?」
裕くんの声は掠れていて、まだ夢と現実の境にいるみたいだった。私は体を起こして、彼の前髪をそっと指で払った。
「うん。起きなきゃ。今日、出発だから」
その言葉で、裕くんの瞼がゆっくり開いた。茶色の瞳が私を捉えて、まだ眠たげに細められる。彼はしばらく私の顔を見つめてから、静かに身を寄せてきた。
「寂しくなるよ」
胸の奥がきゅっと鳴った。裕くんの声には、朝の空気に溶けるような柔らかさがあった。私は彼の背中に手を回して、パジャマの布越しに心臓の音を確かめるように抱きしめ返した。
「でも俺、ちゃんと待ってるから」
そう言って、裕くんは私の顎に指を添えて、そっと唇を重ねてきた。
触れるか触れないかのような、ためらいがちなキス。そのくせに、離れる瞬間の空気がひどく甘くて、私は瞼を閉じたまま彼の吐息を吸い込んだ。
「私も……絶対に帰ってくるから」
声が震えたのは、自分でも分かった。三ヶ月も離れる実感が、このキスでようやく重みを持ってのしかかってきたのだ。慣れない土地、知らない人たち、初めて任される仕事。すべてが不安だった。でも、裕くんには心配をかけたくなかったから、私はぎこちなく笑って「そろそろ準備するね」とベッドから抜け出した。
脱衣所でパジャマの前を開けながら、鏡の向こうの自分を見た。
黒い髪が寝癖で広がっていて、胸の谷間が薄く汗ばんでいる。昨夜はお風呂に入ったのに、緊張のせいだ。私は下着を外して、新しいストッキングの包装を破った。ナイロンの匂いが鼻をくすぐる。静かな朝の音の中、裕くんが隣の部屋でスーツケースを運ぼうとしている気配がして、私は急いでブラウスに腕を通した。
空港は、想像していたよりずっと混雑していた。出発ロビーのざわめきが、まるで遠い国の言葉のように耳を滑っていく。搭乗手続きを終えて振り返ると、裕くんが手を振っていた。
「毎日電話するね!」
人混みの中でも、彼の声は不思議とよく通った。私は口元を引き結んで、何度も頷いた。泣きそうだった。涙を見せてはいけないと思うほど、目の奥が熱くなった。裕くんはそれ以上何も言わずに、ただ優しく笑っていた。その顔を見ていたら、小さい頃に引っ越しの挨拶をしたときのことを思い出した。彼はいつだって、私が振り返るまで手を振り続けてくれる人だった。
保安検査場を抜けて、搭乗口へ向かう。一人になると、ヒールの音がやけに響いた。窓の外では、今日の朝焼けを吸い込んだ飛行機の翼が、だらりと水平を保っている。私は搭乗ゲートの窓に手を触れて、ガラスの冷たさを確かめた。
機内に入ると、空調の匂いが鼻にまとわりついた。座席に腰を下ろして、シートベルトを締める。この瞬間だけは、どうしても現実感がなくて、まるで自分ではない誰かの人生をなぞっているみたいだった。
隣の席には誰もいなかった。私は窓のカーテンを開けて、外の滑走路を眺めた。整備士の人たちが手を振っている。遠くの雲が、朝日を透かして薄桃色に光っていた。
飛行機が動き出すと、体がシートに押し付けられる感覚と一緒に、心臓がふわりと浮いた。地上が斜めに傾いて、家並みがおもちゃみたいに小さくなる。その瞬間、不意に胸の奥をかすめたのは、裕くんの顔ではなくて、的場さんの無骨な横顔だった。
どうして。
私は小さく首を振った。確かに、出張先で唯一の知り合いといえば的場さんだけだ。総務で手配された名簿に彼の名前を見つけたとき、正直、安堵した。厳しい人だけれど、仕事の芯は通っている人。だからこそ、知った顔がいるという事実が、少しだけこの不安を和らげてくれる。
窓の外では、翼の先が雲を裂いていく。白い筋が、空に長い尾を引いていた。それを見ていたら、的場さんの低い声や、肩幅の広い背中を思い出して、自分でも気づかないうちに、いつの間にか呼吸が深くなっていた。
離陸の振動が、臍の下にまで響いてくる。シートの布地が太腿の内側に触れて、ひやりとした。私はスカートの裾を直しながら、もう一度だけ、いや何度も、裕くんのキスを思い出そうとした。
でも、浮かぶのは飛行機雲ばかりで、その白さが妙に胸に染みた。
第2章 残業の夜と、ほろ酔いの距離

第2章: 残業の夜と、ほろ酔いの距離
出張先のオフィスに初めて足を踏み入れた日から、二週間が過ぎようとしていた。
新しい土地はまだ私を受け入れてくれないみたいで、街を歩くたびに鼻の奥をくすぐる排気ガスの匂いも、駅のホームに響くアナウンスの声も、すべてがよそよそしかった。ホテルの部屋に戻れば、裕くんから届いた短いメッセージを指でなぞって、その文字だけを心の灯りにしていた。
「おはよう、今日もがんばってね」
たったそれだけの言葉が、どうしてこんなに沁みるんだろう。私は返信を打ちながら、窓の外に広がる知らない街並みを眺めた。朝の空気は冷たくて、カーテンを開けた途端に腕の産毛が逆立った。
オフィスは駅から歩いて十分ほどの雑居ビルに入っていて、エレベーターを降りると、古い蛍光灯の匂いが鼻をついた。的場さんはいつも私より早く出社していて、自分の席で黙々と資料に目を通していた。朝の挨拶をすると、彼は顔も上げずに「ああ、おはよう」とだけ返す。最初はその素っ気なさが怖かったけれど、二週間も経つと、あの短い返事こそが彼なりの基準なのだと分かってきた。
仕事を教えるときの的場さんは、冗談もなく、かといって感情もなく、ただ事実だけを積み上げる。最初の数日間は、あまりの厳しさにトイレで何度も手を洗った。蛇口から流れる水の音だけが、私の情けなさを誤魔化してくれた。
でも、間違えた箇所を赤ペンで直していくとき、的場さんの指先には不思議な丹念さがあった。書類の角をきちんと揃え、私が戸惑っていると先回りして「ここは後でまとめて教えるよ」と短く言った。声は低くて、鼓膜の奥にまで響くような重さを持っていた。
金曜日の夕方、空が暗くなるにつれて、オフィスの蛍光灯が白く浮かび上がった。今週は大きなプロジェクトの締切に追われていて、気がつけば時計の針は二十三時を回っていた。フロアには的場さんと私しか残っていない。キーボードの音だけが乾いた空気を断続的に叩いていた。
私は画面に並ぶ数字を追いながら、何度か瞬きを繰り返した。まばたきのたびに、焦点が合うまでに時間がかかる。首の後ろが凝り固まっていて、目頭の奥がじんと温かくなっていた。
そこへ静かな物音が近づいてきて、目の前に紙コップが置かれた。中身は熱いコーヒーで、立ちのぼる湯気が鼻の先を湿らせた。
「少し休んだほうがいい」
的場さんの声は、いつも通りぶっきらぼうだった。
「すみません、まだこの数字が合わなくて……」
「合わないね。でも、君のせいじゃない。もとから入力がずれてる。この出張先の支店はデータ管理が雑だからね」
彼は私の隣に腰を下ろし、手元の資料を引き寄せた。アルコール消毒液の匂いと、微かに残るタバコの香り。それが混ざった大きな肩が、私の視界の端でゆっくりと動いた。
的場さんの指が、ある行を指した。
「ここの数値、昨日の営業日報と突き合わせてみるといい。一致しないだろ」
言われた通りに照合すると、数字は三箇所も食い違っていた。私は画面と書類を何度も見比べて、情けない溜息をこぼした。
「気づかなくて……申し訳ありません」
彼は短く「別にいいよ」と答え、パソコンを自分の方へ引き寄せた。隣り合った椅子の温度が伝わってくるようで、私は身体を小さくした。
しばらくの沈黙の後、的場さんが椅子を鳴らして立ち上がった。
「飯にしよう」
突然の言葉に顔を上げると、彼はもう私のコートを指さしていた。
「え、でもまだ……」
「腹が減ってる頭で考えてもミスが増えるだけだ。行こう」
有無を言わさない口調で、私は背中を押されるようにオフィスを出た。
夜の空気はひときわ冷たくて、指先が一瞬でかじかんだ。街灯の下、的場さんの影が長く伸びている。私はその隣を小走りで追いながら、時々よろけそうになるヒールに神経を集中させた。
彼が入ったのは、オフィスから三分ほどの小さな居酒屋だった。暖簾をくぐると、焼き鳥の煙と味噌の香ばしさが絡み合って、空腹を急に自覚させた。カウンターの端に並んで座り、的場さんは瓶ビールを二本頼んでから、焼き鳥を適当に見繕った。
最初の一杯で、胃の底からじんわりと熱が広がった。私は小さなグラスを両手で包みながら、ゆっくりと二口目を飲んだ。炭酸が喉をちりちりと刺して、それが妙に心地よかった。
的場さんは串の持ち方が荒っぽくて、食い終わると竹串を皿の上に揃えて置いた。無言の時間が続いたけれど、不思議と気まずくなかった。酎ハイに切り替えた頃、彼がぽつりと口を開いた。
「婚約者さん、心配してるだろ」
私はグラスに張り付いた水滴を指先で拭いながら、小さく頷いた。
「ええ……でも、仕事ですから」
「毎日、電話でもしてるのかい」
「メッセージだったり、たまに声を聞いたり……裕くんは優しいから、大丈夫だって言ってくれます。私の方が、その言葉に甘えてるというか……」
酒のせいか、舌が滑らかになっていた。普段なら誰にも言わない弱音が、するりと唇の外へ出ていく。
的場さんはビールを流し込み、隣を見ずに言った。
「頑張りすぎるな。たまには甘えてもいいんだよ」
その瞬間、鼻の奥がつんとして、視界が滲んだ。慌てて俯くと、グラスの中で氷が溶けてしまいたげに傾いた。
「……的場さん、意外とそういうこと言うんですね」
「意外とはなんだ」
「すみません。でも、嬉しかったです」
声が震えた。酔いのせいだけではないと、自分でも分かっていた。二週間ぶんの張りつめた何かが、涙の膜の向こうでふわりと揺れていた。
店を出たのは日付が変わる直前だった。冷えた空気が身体を包むと、それまで忘れていた足元の覚束なさが戻ってきた。頭の芯がふわふわ浮いていて、三歩目でバランスを崩した。すんでのところで的場さんの腕が私の肩を抱き止めた。
「おい、大丈夫か。足元をよく見て」
ぶっきらぼうな口調なのに、その手はひどく慎重だった。厚い指がコート越しに肩へ食い込んで、動かないように支えてくれている。真冬の空気の中、的場さんの手のひらだけがぬるい熱を持っていた。
私は、その腕に抵抗できなかった。
いや、抵抗する理由を失っていた。
深夜の歩道に、私のヒールの音と的場さんの革靴の音が重なって、不揃いな靴音を響かせる。アスファルトの冷たさが靴底からしみ上がってくるのに、支えられた肩からはじわじわと火照りが広がっていく。
誰かにこうして寄りかかるのは、いつぶりだろう。
裕くんの手は、いつも私の形に沿ってゆっくり触れる。的場さんの手は、私の輪郭を押さえつけるみたいにしっかりと掴む。それが嫌かと問われたら、答えられない自分がいた。
ホテルの前に着くまで、ほんの十分ほどの道のりだった。的場さんは私の肩を抱いたまま歩調を合わせてくれて、時々、段差を指さして「気をつけて」と低い声で教えてくれた。
「ここで、大丈夫です。ありがとうございます」
私がそう言うと、的場さんは黙って腕を離した。急に荷物が増えたみたいな寂しさが肩に落ちた。
「ゆっくり眠るといい。明日は少し遅くて構わないよ」
「でも、明日……あ、もう今日ですね。土曜日なのに、出社しなくていいんですか」
「今日は午後からでいい。君も休みなさい」
また、そういうことを言う。まるで私の疲れを見透かしているみたいに。
ありがとうございます、ともう一度だけ言って、私は正面玄関へ向かった。自動ドアが開くまでの数秒、背中に的場さんの視線を感じた。
振り返らなかった。振り返ってはいけない気がした。
部屋に戻ると、コートを脱ぐ前にベッドへ倒れ込んだ。天井の淡い照明がぼんやりと滲んで見える。スマートフォンを開くと、裕くんからのメッセージが届いていた。
「おやすみ。明日の朝、電話できる?」
指先が震えて、なかなか返事を打てなかった。よっぽど、今すぐ声が聞きたい。
でも、今のあなたに聞かせられないような、揺れる呼吸をしていた。
布団の中で膝を抱えて丸まりながら、私は自分の肩をそっと抱き寄せた。あの骨ばった掌の強さを、まだ右肩が覚えている。オフィスの匂いと居酒屋の煙と、そして的場さんの体温だけが、夜の布団の中で私を包んでいた。
第3章 初めての貫通、そして失神

第3章: 初めての貫通、そして失神
あれから二週間が、私の肌の記憶の中でひどく生々しい質量を持って過ぎていった。的場さんの掌の熱が肩に残ったまま、私は毎夜、裕くんからの電話に出る前に深呼吸をしなければならなかった。声が震えていないか、言葉の端々に、あの夜のほろ酔いが滲んでいないか。そればかりを確かめながら「大丈夫、仕事は順調だよ」と繰り返した。裕くんの声はいつも優しくて、聞くたびに胸の奥が切なく軋むのに、電話を切った後の布団の中で、私は決まって右肩を掴むように抱きしめていた。
そして一ヶ月。大きなプロジェクトが、ようやく終わりを迎えた。
打ち上げの夜、いつもの居酒屋よりも少し豪華な店の座敷に、支店のメンバーが十数名集まっていた。グラスを掲げる音、焼き鳥の脂が炭に落ちる匂い、聞き慣れない土地の訛りが入り交じる笑い声。私はその熱気の端で、烏龍茶に近い淡い色の酎ハイをちびちびと飲みながら、ようやく肩の荷が下りたような、それでいて心のどこかがぽっかりと空いたような心地でいた。
隣から、的場さんが私のグラスにビールを注いだ。泡が持ち上がって、表面をゆっくり滑り落ちていく。
「飲めるのか」
「少しなら……」
私は俯きながら、二口だけビールに口をつけた。喉の奥に苦みが走って、頬の内側がひりっとする。でも、あの夜のように弱さを晒してはいけない。私は背筋を伸ばし、枝豆の殻を小さく積み重ねた。
宴が終わったのは、日付が変わる前だった。店の外に出ると、春が近づいているはずの空気が、まだ夜になると冬の余韻を残していた。私はコートの襟を掻き合わせながら、同僚たちに軽く会釈をして、駅へ向かおうとした。
「送ってく」
いつの間にか隣に的場さんが立っていて、車のキーを指に引っかけながら、私の顔も見ずに言った。
「大丈夫です。駅からホテルまで歩けますから」
「終電、もうないよ」
そう言われて初めて、打ち上げで思いのほか気を使っていた自分に気づいた。スマートフォンの時計を見ると、終電の時間はたしかに過ぎていた。頭のどこかでは分かっていたのに、タクシーを拾えば済む話だと思っていた。
「タクシーで帰ります」
「もったいないだろう。明日になったら新幹線代だって軽くないんだ。乗りなさい」
反論する前に、的場さんの車が目の前に寄せられていた。黒いワンボックスカーで、街灯の光を鈍く反射しながら、夜の路面にどっしりと停まっている。私は断れなかった。というより、断る力が酒の甘やかな疲れに溶けていた。
車内は新車のビニールとも古い空気清浄機ともつかない匂いが充満していた。シートに腰を下ろすと、背もたれが思いのほか深く、身体が沈み込む。的場さんは無言でハンドルを切り、車は静かに夜の道を滑り出した。
信号に引っかかり、車が停止したとき、的場さんの視線が横を向いたのが分かった。私は窓の外を眺めるふりをして、ガラスに映る彼の横顔を盗み見ていた。短い黒髪、影になった頬の輪郭、ハンドルの上で落ち着かない親指。
「……君のことを、ずっと目で追っていたんだ」
空気が、音を立てて変わったようだった。声が低く沈み、車内の暗がりに染み込んでいく。私は反射的に的場さんの方を見た。黒い瞳が、信号の赤に照らされて鈍く光っていた。
「何を、ですか……」
「君の全部だよ。仕事で隣に座っている時から、気になって仕方がなかった」
的場さんの右手がハンドルから離れて、助手席のシートに置かれた私の左の手のひらに被さった。骨太の、硬い皮膚。その熱はあの夜に肩を支えたものと同じで、瞬間、指先が勝手に逃げようとした。
「待って、私には……」
「分かっているよ、婚約者がいるんだろう。でも、どうにもならないんだ。君を見ていると、腹の奥が疼いてしまう」
彼の顔が近づく。酒精の匂いと、淡い汗の匂いが、車内の空気の中で濃度を増していく。私の背中はシートに縫い付けられたみたいに動かなくて、頭だけが弱々しく左右に振れた。
「ダメ……私、婚約者が……」
声は喘ぎのように掠れた。唇は、あっけなく塞がれた。
的場さんの舌が、半開きになった私の口の中へ押し込まれる。ぬるりと熱い粘膜が歯列をなぞり、上顎に絡みつき、逃げようとする私の舌を追いかけて吸った。口腔内を犯されている。それなのに、びりびりと痺れるような感覚が、舌の奥から耳の裏へ抜けていく。私の両手は、的場さんの胸を押し返すどころか、スーツの襟を弱々しく掴んでいた。
「ん、ぅ……」
唇が離れたとき、銀色の唾液が糸を引いて、街灯の明かりに光って見えた。的場さんは私の顎に指をかけ、また啄むようにキスを落とす。
「嫌がっている顔じゃない。今日は最初から、断る練習もしていなかったんだろう」
図星だった。私は、的場さんの車を断らなかった自分を、何よりも羞じた。羞じてなお、その指の動きから逃れられない。的場さんは私のコートの前を器用に開け、ブラウスの上から胸の膨らみをゆっくりと掴んだ。厚い掌が下から揉み上げるたびに、下着の中で乳房の先が硬く膨らんで、自分でも分かるほど浅い呼吸になった。
「や……ホテルに、帰らないと……」
「帰さないよ。今日は私の部屋で、君の全部を確かめさせてもらう」
車はそのまま、私の知らない夜の住宅街を抜け、小さなアパートの駐車場に滑り込んだ。的場さんの部屋は二階の端で、ドアを開けた瞬間、男の一人暮らし特有の、微かなタバコと洗濯洗剤が混ざった匂いが鼻をついた。
上がり框で靴を脱ぐ間もなく、的場さんに後ろから抱きすくめられた。肩幅に余裕のある胸が背中に圧し掛かり、首筋に熱い吐息がかかる。彼の手が私のスカートの上から腰を抱え、ぐっと尻を引き寄せた。男の固いものが、薄い布越しに私の臀部へ食い込むように押し当てられる。
「感じているくせに、震えているね。どちらなんだ……?」
耳を噛まれながら囁かれ、私の膝から力が抜けた。的場さんは倒れかかった私を支え、半ば抱えるようにして寝室へ運んだ。シーツの上はひんやりとしていて、掛け布団の端が床に落ちている。
「脱いでごらん」
私は首を振った。振りながら、カーディガンを掴んだまま動けないでいると、的場さんの手が先に動いて、私のブラウスのボタンを下から順に外していく。手際が荒いのに、肌に触れる指先だけが妙に優しく、白い胸元が露わになるにつれて、心臓の音が耳の奥で大きくなった。
「やだ……見ないで……っ」
ブラウスを肩から落とし、スカートのホックを緩められ、タイツとショーツを一息に脱がされた。下着が足先から抜けるとき、太腿の内側に粘り気のある雫が光っているのを、私は自分の目で確かめてしまった。花芯のあたりから染み出した蜜が、薄い茂みを伝って、閉じようとした膝を濡らしていた。
的場さんは無言のまま着衣を脱ぎ始めた。その手つきは落ち着いていて、一枚ずつ確実に布を取り去っていく。狭い部屋の空気が、汗と、私の匂いと、ゴムの焦げるような薫製臭で澱んでいた。やがて下着を脱ぎ去った的場さんの足の間で、硬く屹立したものがゆらりと揺れ、壁に貼られたカレンダーを背にして私の眼前に突きつけられた。
「ひ……」
声が漏れたのは恐怖だけではなかった。的場さんのそれは、裕くんのものとは比べ物にならない太さと長さを持ち、根元から先端へかけて脈を打っていた。傘の部分が異様なほど張り出していて、くびれた先端は暗い照明の下でぬめりと鈍く照っている。あれが、入るの……。思わず竦んだ私の内腿へ、愛液が新しくにじみ落ちた。
「君のここ、もう私の指に挨拶しているみたいだね」
的場さんが太い指を二本、ぬるりと私の秘裂に沿わせた。くちゅ、と音がして、指先が入り口をわずかに割り開く。腹の底から、声にならない吐息が漏れた。
「じゅるじゅると音をさせて、恥ずかしくはないのかい」
そう言いながら、的場さんは私の両脚を左右に開かせ、焦らすように亀頭を花唇に擦りつけた。大陰唇を押し広げ、炭火で炙るような亀頭の熱が、私のいちばん敏感な肉芽を滑る。腰が浮いた。浮くなり、彼は私の膝裏を持ち上げ、一気に腰を沈めた。
「ひっ……!」
痛みは、ほとんど怒りに似た熱だった。今まで裕くんと重ねてきた場所のさらに奥を、硬質な傘がえぐる。体内を肉の杭で貫かれた感覚。それなのに、膣襞は勝手に収縮を始めて、侵入者を迎え入れる。
「全部入ったよ。まだ半分までだけどね」
耳元で囁かれ、私は首を振った。半分まで。それなのに、下腹の内側まで一杯に詰められている。苦しいはずなのに、膣の奥が切なく疼いて、もっと、と思う自分が慄然とそこにいた。
動きが始まると、のしかかる的場さんの重みが全身を揺すった。彼の腰が退くたびに、張り出した傘が内壁を引っ掻き、突き込むたびに、子宮の手前を軽く突き上げる。痛みと苦しさと熱が混ざり合って、気道が震えた。
「あっ、あ、……待って、深い、深いよ……っ!」
「待てないよ。君だって、奥まで掴もうとしているのが分かるんだろう」
肉の打ちつかる音が、湿った粘液音に変わっていく。オイルのように融けた蜜が、私の尻の下を濡らし、シーツに染みを広げていた。のたくる度に、背中の下で水音がする。
「いい音をさせているね。君の下は、もう茹で上がっているみたいだ」
のしかかる的場さんの背に回した私の腕が、力なく滑り落ちる。頭はしない形に揺れて、目の裏で赤い火花が散った。裕くんは、もっとゆっくりで、私の気持ちを確かめながら動いてくれた。的場さんは違う。壊れ物のように尋ねることもなく、私のいちばん奥へ、夫になる男が届かなかった場所へ、遠慮なく何度も到達する。そのたびに、私の知らない声が喉の奥から絞り出された。
「や、……あ、ああ……ん、あ……!」
「もっと素直になりなさい。自分から腰を揺らしているよ」
そう言われて初めて、私の腰が的場さんの律動に合わせて浮き沈みしていることに気づいた。心は違うのに、身体が応えている。裕くんの指の優しい間合いではなく、急所を確実に潰してくる動きを、羞恥と一緒に浴びている。
的場さんが私の片方の脚を高々と持ち上げ、一周回すように角度を変えた。張り出した傘が、今までとは別の襞の襞を力任せにえぐる。
「そこ、だめ……」
「あっ、あっ、ああ……!イク、イッちゃう、もう……!」
くちゅくちゅくちゅ、と逃れようのない深い場所を掻き回される。膣が奥から攣れるように痙攣し、下半身が突き上げる快感に逆上がりして、私は等身大の自分を置き去りにした。
「イッ……あ、あああ……!!」
絶叫の途中で、何かが決壊する音がした。私の尿孔から、熱い飛沫が噴き上がる。恥ずかしさで頭の芯が沸騰していたのに、噴き出す快感に子宮口が開いてしまうようで、私は自分の尿で濡れる腹を感じながら、笑えない絶頂に何度も弾けた。
的場さんは一度も腰の勢いを弱めなかった。失禁した私の脚を拭うでもなく、そのしぐさをじっと見下ろしながら、さらに穿つ。のしかかる影の中で、彼の目が笑っていた。
「君、失禁して極まってしまったね。婚約者さんの前でも漏らすのかい」
「ちが、……や、ちがうのに……あっ、また……んぁ……!」
快感の波は途切れず、膣が彼の男根を搾りつける。失神する、と思った瞬間、視界がホワイトアウトした。
――ヤダ、ゆうくんは目を閉じて挿れてくれたのに、あの人は目を開けて見る。
頭の中で、誰のものでもない声が静かに呟いた。
次に揺り戻されたとき、私の身体は的場さんの腰の下で、大の字に広げられたまま果てていた。意識が半ば沈みかけた私を、彼が揺さぶる。
「まだ眠らないで。君が完全にイったところを、もっと教えてほしい」
失神と覚醒の境で、私は何度も達した。ある時は背中を反らせ、ある時は的場さんの首にすがり、ある時はうつ伏せの腰を持ち上げられ、後ろから穿たれた。膣が切ないほど熱を帯び、奥に当たる傘の形を少しずつ覚えていく。もう、だめかも。私の中の芯が、彼の形に組み替えられている。
最後、のけぞった私の視界が白く弾け、何度目かの短い絶叫のあと、私は熱い精を子宮口へ注がれる感覚を、遠い身体で感じながら意識を手離した。
目を開けると、白い天井と、カーテンの隙間から差す朝の光の棒があった。寝返りを打つと、全身がひどく重だるく、太腿の付け根から下腹がまるで痺れたようだった。片方の脚を閉じようとして、初めて、自分がまだ裸で、男の腕に絡まっていることに気づく。的場さんが、私の後ろから片腕を回し、もう片方の手でスマートフォンを弄っていた。
「起きたか。ちょうどいい」
彼は私を仰向けに直し、警察手帳のような厳しい顔でスマートフォンの画面をこちらに向けた。そこに写っていたのは、大股を開いたまま絶頂に失神した私だった。だらしなく口を半開きにし、腹から太腿にかけて失禁の跡が光っている。秘裂は閉じ切らず、中から白濁したものが伝っていた。
「消して……お願い、それだけは……」
「消してあげるよ。君が今日から、もう二度と私を拒否しなければね」
そのときスマートフォンの着信が震えた。画面に浮かんだのは、裕くんの名前だった。
私は身体を起こし、裸の胸元にシーツを引き寄せたまま、震える指で通話ボタンを押そうとした。後ろから的場さんの腕が回り、私の片方の乳房を軽く揉み上げる。
「出なきゃ、心配するだろう。出てあげなさい」
私は唇を噛み、深く息を吐いた。耳に押し当てたスピーカーから、裕くんの柔らかい声が流れてくる。
「ゆうこ、おはよう。昨夜は打ち上げだったんだろ? 大丈夫だった?」
「ぅ、ん……おはよう、だいじょうぶ……」
声が揺れないように、必死で喉を固定した。的場さんの指が乳首を摘む。私は片手で口元を覆い、裕くんに聞こえないよう、はく、と息を殺した。
「少し、疲れた顔してるかも。あとで、電話、かけ直すね」
「ああ、待ってる。夜でもいいから、無理はしないで」
通話が切れると、的場さんが耳元で小さく笑った。
「いい声だったね。次からは、あいつと話している時にイかせてみようか」
ぞわり、と背筋を悪寒に似たものが走った。いや、寒気ではなかった。犯されたばかりの身体の芯が、その言葉に浅ましく疼いていた。
第4章 膣が覚える、もう一つの形

第4章: 膣が覚える、もう一つの形
電話を切った指先が、スマートフォンの画面に薄い汗を滲ませた。的場さんの手がまだ私の右の乳房を揉みしだいていて、乳首を指の腹で転がすたびに、背骨の奥が小さく跳ねる。通話が終わった安心感と、それでもなお身体の芯に残る疼きとが、朝のシーツの上で不格好に混ざり合っていた。
「声、震えていなかったか」
的場さんの低い声が耳たぶを舐めるように流れ込んできた。私はシーツを胸に抱いたまま、首を横に振ることしかできない。
「震えていたな。あの男が気づくまで、そう時間はかからないだろうよ」
そう言いながら、彼は私の髪をうなじから掻き上げて、露わになった項に鼻先を埋めた。吸い込む音がやけに大きく鼓膜をくすぐる。汗の匂いと、昨夜の肌の名残を確かめるような、ゆっくりした息づかいだった。背筋を、生温い舌先がするりと撫で下ろしていく。
「写真……消して、いただけますか」
私が絞り出した言葉に、的場さんは薄く笑ったようだった。
「まだ焦らなくていい。今度はちゃんと起きたまま、君が悦ぶところを見せてくれたら、こちらも考えてやるよ」
その声には、あの夜に撮られた何枚もの画像が、彼の手の内でいつでも私を縛れるのだという確信が滲んでいた。私の身体は、もうとっくに彼の掌中にあるのだと思い知らされる。
彼の指が私の腰骨をたどり、へその下をゆっくりと下りてくる。私は脚を閉じようとしたけれど、朝の筋肉は疲れを含んで反抗的だった。太腿の内側へ差し込まれた指は、ぬかるんだ割れ目を迷いなく往復する。くちゅ、という粘ついた水音が自分の下腹から響いて、昨夜の残りと新しく滲んだものが混ざっているのを自覚した。
身体を起こすと、頭がまだどこかふわふわしている。的場さんはベッドから下りて、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。私の前に立ったまま一気に半分ほど飲み、差し出されたそれを私の唇へ当てがう。
「飲めるか」
冷えた水が舌を刺して、喉の奥のからっからの粘膜を潤した。ふと横を向くと、部屋の隅に乱雑に脱ぎ捨てられた私の下着とストッキングが、朝の光の中でくすんだ白色を晒していた。
「……帰らないと。今日、午後から仕事ですし」
「もう少し、ここにいろ」
断固とした響きだった。彼の大きな手が私の二の腕を包み、そのまま後ろから抱くみたいにしてベッドへ押し倒してくる。ブラウスの前がはだけたままの胸の上を、厚い胸板が圧し潰した。乳首が彼の下着の布地とこすれて、みっともなく膨らみを増す。
「や……、本当に、帰らないと……」
「帰せるわけがないだろう。君は昨日の続きを、まだ欲しがっている顔をしているぞ」
口元を指先で持ち上げられ、的場さんの舌がゆっくりと私の唇を割って入ってきた。昨夜の苦さと、ほんの少しの水の味。朝だというのに、頭の芯がじんと痺れて力が抜ける。彼の膝が股の間に入り、内腿をごつごつと押し開いた。
「嫌がっているのに、ここは私を咥えたいとぐずっているな。ほら、音までさせて」
くちゃり。彼の親指が私の肉芽を潰すたび、下腹の奥がきゅんと音を立てる。昨夜の激しさがフラッシュバックして、膣壁がからっぽのまま痙攣した。気づけば呼吸が浅く荒くなっていて、シーツを掴んだ指先の色が白んでいる。
この日以来、私の夜は大きく変わった。
的場さんの部屋に呼ばれるのは、仕事が終わった後とは限らなかった。休みの前夜には、ホテルで着替えているところへメッセージが届く。たった数文字、「上がれるか」「下で待っているよ」。それだけで胸の鼓動が早くなる自分を、鏡越しに何度も見た。
残業で遅くなった夜、地下駐車場まで歩く私の背中に、黒い車がゆっくりと寄ってきたことがある。窓が下りて、的場さんの声がした。
「乗りなさい。送っていく」
車内は彼の匂いで満ちていた。皮のシートに染みついた、煙草と、ほのかな制汗剤と、どこか獣めいた男の匂い。まだ走り出してもいないのに、助手席の私の心臓は、逃げ道を探すみたいに早鐘を打った。
「シート、倒していいか」
彼の問いは、ほとんど確認ではなかった。背もたれがゆっくりと倒れ、シートベルトを外した彼の上半身が覆いかぶさってくる。駐車場の蛍光灯が、フロントガラス越しに私の瞼を射した。
「こんなとこで……っ、誰か来たら……」
「夜の地下に、誰も来やしないよ」
スカートの裾が捲り上げられ、ストッキングの上から彼の指が割れ目をなぞる。布越しのぬめりが、車内の静けさにやけに生々しい音を立てた。指が下着をずらして、素肌に触れる。
「ほら、もう濡れている。車の中でも感じるのか」
「ち、が……っ」
彼の太い人差し指が、返事も待たずにずぶりと沈み込んできた。狭い車内で逃げ場はなく、私の頭はシートのヘッドレストに押し付けられる。指が中で曲げられ、窪んだ内壁をぬめるように撫で上げるたび、声を抑えるのに必死だった。
「君のここは、私の指を覚えてしまっているな。指では足りないと、ぐずっているよ」
ぬちゅ、ぬちゅ、と音が車内に満ちる。私は唇を噛みしめ、助手席のシートを両手で握りしめた。蛍光灯の白い光が、フロントガラスの向こうでやけに遠い。
それからというもの、私は夜のオフィスでも、人気のない非常階段でも、彼の指と言葉に翻弄される時間を持つようになった。周囲に誰もいないことを確かめる冷静さと、それでも溢れてしまう自分の身体とのあいだで、心が引き裂かれていく。
ある夜、けたたましい雨音が窓を打っていた。外出から戻るなり的場さんは、シャワーも浴びずに私をベッドへ倒した。
「今日は無理……やめ、て……」
「無理なら来ないだろう。足、開けなさい」
雷が落ちるたび、部屋の中が青白く瞬く。浮かび上がる彼の肩の上で、雫のような汗が光った。私は私で、しがみつく腕をほどけずにいた。
的場さんの手が、私の背中をなぞって尻たぶを割った。濡れた指先が、閉じた蕾のまわりを這う。
「今日は、こっちも使わせてもらうよ」
「そ……そこは……裕さんとだって、したことないのに」
的場さんの笑った気配が耳元に触れた。
「だからだ。君のまだ誰も通っていない穴も、私の形にしてやる。そうすれば、どちらで抱かれても私を思い出すだろう」
「やだ……怖い……待って、待って、……あっ!」
ぬるりとした指が、力を抜くことを知らない肛門の入り口をくぐってきた。息が止まる。異物感は、鈍い痛みとえぐい圧迫感になって背筋を駆け上がった。
「力を抜くんだ。声、殺さなくていい。雨で聞こえないからね」
窓の外で風が唸っている。雨足はますます強く、街の音をすべて洗い流していた。
指が二本に増やされ、中でゆっくりと曲げられる。お腹の中を掻き回される感覚におそわれ、私はシーツに突っ伏し、くぐもった声をこぼした。
「……前も濡れてきているな。こんなところ、慣れている女みたいじゃないか」
前を濡らしたまま、私の後ろの蕾を開いていく指の動きが、浅く、深く、時間をかけて続く。やがて指が抜かれて、ぬめりの足りなくなった先に彼の舌が這い入ってきた。
「ひ……ぅ、や……な、舐めないで……!」
「黙っていなさい」
肉厚な舌がぬちゃぬちゃと音を立てながら、私の後ろを解していく。私の顔はシーツに埋もれ、もう何が怖いのか分からなくなっていた。羞恥と、彼の舌のぬめった温かさと、自分の身体が応えることへの恐怖が、全部いっしょになって、涙が目の縁に溜まった。
やがて、彼の舌に代わって、茂みから屹立した先端が、私の後ろの窄まりに当てがわれた。
「挿れるよ。……息、吐きなさい」
ずぶ、と、質量が分かるほどにゆっくりと、彼の亀頭が私の中へ割り入ってくる。前からではない圧迫感に、目の裏がちかちかと明滅した。粘膜が裂けるかと思えた。腹の底からせり上がる拒絶の声を、シーツに押し付けて噛み殺す。
「あが……っ、い、痛い……っ、やめて……お願い……!」
「今さら抜けるものか。……君の中は、焼けるみたいに熱いな」
雷鳴が、私の悲鳴を覆い隠すみたいに部屋を揺らした。肉が自分のものでない径に押し広げられる。それなのに、押し戻そうと締め付ければ締め付けるほど、彼の形がはっきりと刻まれていく。的場さんは無理に奥を突かず、浅い場所で、けれど絶対に逃がさない強さで私を繋いだ。
「や……あ……あぅ……」
痛みが少しずつ和らいでいくと、その下から、知りたくない感覚がむくむくと頭をもたげた。彼の傘の縁が、狭い肉の内側を引っ掻くようにゆっくり前後すると、頭の芯がしびれて、背中から腰にかけての筋肉がふるりと震える。苦痛のはずなのに、自分の身体はそれを受け入れようとしていた。膣はもう、何もされていないのに、とろとろと愛液を溢れさせて、私の腿の内側を生温く伝っていく。
「ほら、動いてきたな。君の後ろは、私を食おうとしている……っ、狡猾な穴じゃないか」
「ちが……違うのに……」
そう、違うはずなのに。私の腰は、彼に貫かれている痛みの中で、ほんの少しだけ、自分の意思に反して揺れていた。浅い抽送、深い突き上げ。そのくり返しが、やがて私の呼吸を整え、彼の動きに同調させる。息が、彼に合わせて漏れる。
あはッ、と、くぐもった自分の声が耳の奥に木霊した。
彼の雄あそこはすでに濡れて硬くなっていた。ぐっと腰を突きつけられ、亀頭の傘が、いちど前の入り口に擦れた。ふたつの窄まりを比べるように前後へ滑る。
「こっちか、それとも、こっちか」
声がひどく愉しげだった。私は首を振った。振った腰が、自分から彼のものへ押し戻していく。
もはや何を選んでも、行き着く先はあの痺れるような突き上げでしかなかった。
残業が長引いた夜は、オフィスの照明が消えてからが長かった。非常階段で彼の指に追い詰められ、帰るに帰れなくなった私は、誰もいないはずの会議室へと促される。長机の冷たい天板に手を突かせられ、背後からスカートをたくし上げられた。窓の外では非常灯の赤い光が、消しては、また点って、見る者の輪郭を曖昧に染める。
「遅くまでご苦労だったな。こんな時間まで、一人でいたら危ないだろう」
囁く声が首筋に絡み、指が下着をずらす。すでに湿っているそこを、彼は音を立てないように、ゆっくりと中指で分けていく。くちゅ……と、ちいさな音が私の耳にだけ届く。声を抑えなくてはと思うほど、喉の奥が締まって、息が鼻から抜ける。
「誰か来たらどうするんですか……」
「そうだな。じゃあ、静かにしているんだな」
にぶい挿入の感覚が会議室の静寂を突き崩す。背中から抱えるようにして彼の口元が耳のすぐ後ろに寄り、動くたびにちいさくベッドの軋む音とは違う、オフィスチェアのかすかな揺れが聞こえた。私の呼吸は、彼の律動に合わせて断片的に乱れるばかりだった。
そういう夜に限って、裕くんからの電話は遠慮なく私を揺さぶる。あれは確か、会議用のテーブルに両手を突いて、後ろから的場さんに繋がれていた時だった。スカートの中に潜り込んだ彼の手が、私の左の乳首をブラウス越しに捏ねていた。
「ゆうこ、いま大丈夫? 遅くにごめんな」
振動したスマホの画面に、幼い頃から見慣れた名前が浮かび上がる。的場さんがその画面を一瞥して、酷く静かな声で言った。
「出なよ。君の、今の声を聞かせてやれ」
私は首を振る。振れば振るほど、彼の腰は容赦なく私の奥を擦り上げる。膣の一番深い場所を、彼の傘が何度も何度もこねるように抉るものだから、私は声が出そうになるのを殺すのに必死だった。スマートフォンの振動が、長机の天板に響いてこだまする。
「出ないのか。それなら、私が出てやろうか」
的場さんの指が、通話ボタンに触れようと伸びる。私は夢中でその手を掴み、首を横に振って、震える指先で通話を滑らせた。
「……もしもし、ゆうこ? いま、大丈夫?」
耳に届く声は、何の疑いも持たず、柔らかく響いた。胸の奥がみっしりと痛む。それなのに、膣は的場さんの形をひとしきり締め付けて、ねっとりと悦んでいた。
「うん……いま、会社……残業、してて……」
「あ、やっぱり。遅くまでお疲れさま。手短に話すね。式場のことで、ちょっと聞いてほしくて」
一言話すたびに、的場さんが私の中でゆっくりと角度を変える。電話の向こうに悟られないよう、呼吸を浅く細く整えれば、整えるほど、逆に彼のものの存在だけが下腹の内側で大きく脈打った。窓ガラスに映る自分の顔が、会議室の薄闇の中、見知らぬ雌のように口を半開きにしている。
(裕くん、もう切って……お願い、気づかれる……)
心の中で手を合わせた。裕くんの声は、私のための結婚式の話をしている。花の色、招待客の数、引き出物の手配。すべてがまっさらな未来の話なのに、私は他人の肉を咥えたまま、それを聞いている。
「ねえ、結子はどんな花がいい? 白いバラが定番だけど、結子らしいのだと、かすみ草とかも可愛いと思うんだけど」
「……うん、どちらでも、……たぶん明日なら、余裕、あるから……」
声の終わりが微かに裏返った。的場さんが、私の中で一番浅い肉襞のところを狙って、先端で掻き回すのをやめない。電話の向こうでは、彼がのんびりと「そうか、遅くにごめんな」と笑っている。その無邪気さが、私の羞恥を何倍にも膨らませた。
(早く切って……お願い……ああ、また、奥を……)
心の悲鳴に反して、身体はじんじんと熱を持ち、電話を持つ手のひらが汗ばんでいく。的場さんが、私の耳元で、声を出さないようにと言いながら、自分だけは鼻にかかった吐息を首筋に吹きかけてくる。通話口から漏れないよう、唇を噛みしめた。噛んだ拍子に、腰が跳ねる。机の端が、ぎ、と鳴った。
「……どうした? 結子、なんか息が荒い気がするけど……本当に大丈夫?」
「うん、ちょっと、資料が重くて……平気、だから」
そこからどうやって電話を切ったのか、自分でも覚えていない。ただ、画面が暗くなると同時に、的場さんが私の中で激しく抽送を再開したことだけは、はっきりと身体が覚えている。通話口越しに聞いた婚約者の声と、今、私の中で暴れる彼の熱。二つの温度が同時に押し寄せて、私の頭をぐちゃぐちゃに乱した。
「よく我慢できたな。ご褒美に、たっぷり突いてやるよ」
机の上に押し広げられた私の震える太腿。会議室の冷えた空気と、繋がったところから這いあがる熱。あとから涙が溢れて、声を殺したことが、逆に快楽を深くした。どれだけ泣いても、ここだけは、的場さんの到らない場所にならない。自分の意思と関係なく蠢く粘膜が、彼の形を根元から先端まで貪欲に記憶していく。
(私、いま……裕くんと電話をしながら、的場さんに……)
その続きを思うと、足の先までぞくぞくと震えた。後ろめたさと、たまらない甘さが、混ざり合って子宮のあたりを溶かしていく。最奥を突かれるたび、息がひゅ、と咽喉の奥で鳴った。電話の向こうで笑っていた婚約者の顔を思い出すと、指先が机を引っ掻く。なのに、腰は彼を求めて浮き上がるのをやめない。
許されないことほど、私の身体はしっとりと深く潤む。女としての自分を、これほど強く感じた夜はなかった。
電話が振動するのは、いつも夜が深くなってからだった。裕くんの声は遠い町の灯りみたいにやわらかく、私の罪の夜をいっそう濃くした。
「ゆうこ、今日は何してた? そっち、寒くない?」
「うん……大丈夫。仕事は、相変わらず忙しいけど、順調だよ」
声を作ることに疲れ切った喉が、ときどきひっくり返りそうになる。私はそれを隠すみたいに、通話口から顔をそむけた。足の間はまだ、帰り際でも疼いていた。身体を起こしたシーツには、自分の甘い匂いと彼の残した酸っぱい匂いが縞になって染みている。
「あと一ヶ月半だね。こっちは何も変わってないよ。あ、この前さ、結婚式の式場から最終確認の葉書が来てたよ。日にち、本当に大丈夫?」
「大丈夫。私も、裕くんと私の式、楽しみにしてる」
「うん。じゃあ、そのまま予約、入れとく。無理しなくていいからな」
声を聞いているだけで、大切なものを汚していることが分かった。分かった、それなのに、会話の合い間、のぼせたように浮かぶ的場さんの低いひとことを、身体は待ち望んでいた。
「そういえば、あの写真、まだ私の携帯にあるからな。見たくなったら、いつでも言いなさい」
ふと蘇る彼の声。あれは、私が彼の部屋を出る前に、耳元で囁かれた言葉だった。裕くんのあたたかい声を聞いた直後だからこそ、その対比が背筋を冷たく走る。
電話を切ると、私は布団の中で膝を抱えた。下着を替えたばかりなのに、あの肉の傘の形を覚えた場所が、静かに、けれどはっきりと潤んで湿っていく。
「裕さん……ごめん、身体が、勝手に……」
唇からこぼれた声は、自分のものとは思えぬほど掠れていた。電気を消した壁際で、スマートフォンの充電ランプがまぶたの裏に残る。私は掛け布団に潜り込み、胸の井戸の奥から込み上げてくる涙を、一人で静かに落とした。
身体は確実に、夫となる男ではない兆しを求め始めていた。嫌悪で胸がいっぱいでも、夜になるとそこだけが早鐘を打つ。一度知ってしまった甘やかな疼痛、深い場所をえぐられる感覚。何度泣いても、その記憶は私の芯をこね続けた。
夜明け前、仕事用のスカートを直した指先が、自分の腿の内側へ触れた。まだ熱い。どうして、この感じだけが、消えてくれないんだろう。
朝の光は、一方的な白けで部屋に満ちた。
第5章 帰国後の抱擁、そして戻らない肌

第5章: 帰国後の抱擁、そして戻らない肌
朝の光がカーテンを透かす頃、私はスーツケースを閉じた。三ヶ月の出張が終わった。ホテルの部屋には、私の匂いも、的場さんの匂いも、もう残っていないはずなのに、空気の奥にわずかな煙草の残り香が染みついているような気がした。窓を開ける。春の初めのような、でもまだ冷たい風が頬を通り抜けて、私は深く息を吸い込んだ。
空港までの道も、搭乗手続きも、すべてが夢の中を歩いているみたいだった。的場さんは今日、本社へ戻る私を見送りに来なかった。いや、正確には、私が朝早くホテルを出ることを伝えなかった。昨夜、彼の部屋で最後に抱かれたとき、的場さんは私の髪を撫でながら「本社でも、よろしくな」とだけ言った。その声が、いまだに耳の裏に張りついている。
飛行機が離陸した。窓の下に広がる見知った街並みが、あっという間に小さくなっていく。三ヶ月前、不安でいっぱいだった私を運んだ空。今日の私は、あの頃よりずっと濁った心で、雲の上を流されていた。
通路を挟んだ席。
私は指先で、唇に触れた。
的場さんの唇、舌、指、あの厚い胸板。違う、そんなことを思い出したいんじゃない。私は目を閉じて、裕くんの笑った顔を思い浮かべようとした。あの優しい茶色の瞳を。小さな頃から何度も見てきた、私を安心させる笑い皺を。
目の奥が熱くなったけど、涙は出なかった。
涙よりも先に、下腹の奥がきゅっと縮こまる。
着陸の振動で、私の太腿の内側が疼いた。
空港の到着ロビーに出ると、人混みの向こうから、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。見なくても分かった。裕くんの、真っ直ぐで明るい声。
「ゆうこ!」
私はスーツケースを引く手を止めた。裕くんが、人波をかき分けながら走ってくる。三ヶ月ぶりの実物は、思っていたより少し髪が伸びていて、ポロシャツの上からでも分かるくらい、肩幅が華奢に見えた。
「おかえり」
彼は私の手からスーツケースを離し、ためらいなく両腕を広げた。私はその胸に、自分から飛び込んでいた。裕くんの腕は細くて、私の背中に回る手も柔らかくて、触れているだけで泣きたくなった。
「ずっと、待ってたよ。……本当に、おかえり」
声が震えている。裕くんも泣きそうなんだと思ったら、私の喉の奥がつんと痛んだ。
だめだ。今、思い出しちゃいけない。的場さんの抱擁は、こうじゃなかった。後ろから、私の腰を捕まえて、胸も背中も全部まとめて押し潰すような、あの強さ。身体が覚えてる。裕くんの腕に包まれているのに、私の腰は的場さんの骨格を探してしまう。
「ごめん……長い間、留守にして」
私は裕くんの胸に顔を埋めたまま、小さく言った。
「謝らないで。仕事だったんだから。それより、もう、いかにも結子がここにいる。帰ってきてくれた。それだけで、十分だよ」
裕くんは私を離すと、指で目元を拭って、照れ隠しみたいに笑った。
「さ、帰ろう。今日はね、朝から色々作ったんだ。煮物とか、ハンバーグとか。結子の好きなやつ」
「すごい……全部作ったの?」
私はようやく笑えた。笑えたけど、胸の奥で、別の何かがちりりと痺れる。
「うん。料理教室の動画、何回も見たよ」
彼はスーツケースを引いて、空港の出口へ向かった。私も隣に並ぶ。春の夕方の光が、ガラス越しに差し込んで、私たちの影を長く床に落としていた。その影の先が、ちょうど裕くんの足を追い越しそうになって、私は歩幅を狭めた。
二人暮らしのアパートに帰るのは、本当に三ヶ月ぶりだった。玄関を開けた瞬間、柔らかな匂いが鼻を包んだ。裕くんが掃除して、空気を入れ替えていてくれたのだろう。それなのに、なぜか、的場さんの部屋で嗅いだ、男の体臭と埃の混ざった空気を一瞬思い出して、自分の心臓が速くなる。靴を揃えて上がると、台所からは出汁の香ばしい匂いが流れてきていた。
「先に手、洗ってて。温めるだけだから」
裕くんの声が、小さな台所から弾むように聞こえる。私は洗面所で手を洗いながら、鏡の向こうの自分の顔を盗み見た。黒い髪は乱れていない。唇も、普段の形をしている。なのに、目だけが、何かに怯えているみたいに光っている。私は水を止め、冷たい指で首の後ろを押さえた。耳の下が熱い。的場さんに噛まれた場所。
夕食は静かだった。いや、静かすぎた。裕くんは私を気遣って、いろいろ話しかけてくれた。仕事の話、友達の話、結婚式の準備の話。私は「うん」「すごいね」と相槌を打つことに必死で、時々、箸を持つ手が止まりそうになった。
「ねえ、結子。本当に出張、大変だった?」
裕くんは、玄関で私が隠した疲れを、ちゃんと見つけていた。
「うん……まあ、何とか。やっぱり知らない土地だから、最初は戸惑ったけど」
「そうだよね。会社の人は、みんな優しかった? ……的場さん、っていう上司の人がいたでしょ。結子の話だと、ちょっと怖そうな人」
箸先が、空気を切った。あ、いけない。今あの名前を出されると、その四文字が、直接、膣の奥を押す。
「……そう。でも仕事は、教わったの。厳しかったけど、ただ怖いだけの人じゃなかったよ」
「そうか。それならよかった。結子が無事に帰ってきて、しかも仕事も終わらせて。俺、本当に嬉しい」
裕くんの顔は、疑うことのない、まっさらな笑みだった。私は下唇を噛んで、煮物を口に運んだ。味が分からない。出汁の香りだけが、やけに生々しくて、涙が出そうになる。
食後、裕くんが台所を片づけている間、私はリビングのソファに座って、カーペットの毛羽を指で撫でていた。エアコンの風が、まだ冷える部屋に生ぬるく回っている。隣の部屋の物音が、遠い。
「結子、今夜は早く休もっか。疲れたでしょ」
彼が手を拭きながら隣に座る。ソファが沈んで、私の肩に裕くんの肩が触れた。その体温が、柔らかくて、くすぐったくて、私は身を引きたくなった。でも、引けない。引いたら、何かが壊れる。
「……うん」
私は俯いたまま答えた。
「ねえ、結子。今日から、また俺の隣にいてくれて、ありがとう」
裕くんの指が、私の手の甲にそっと触れた。彼の指先は、いつも冷たい。的場さんの手は、骨と筋肉に厚みがあって、触れられるだけで、肌の内側から汗が滲むほど熱かった。──ああ、また、比べてる。やめて。やだ。
「私のほうこそ、ありがとう。ずっと待っててくれて」
声がかすれた。裕くんは私の顔を覗き込んで、本当に嬉しそうに笑った。それから、まるで宝物に触るみたいに、私の顎をそっと持ち上げた。
重なる唇は、柔らかくて、少しだけ震えていた。三ヶ月ぶりの、裕くんのキス。彼の舌は控えめに、私の唇の薄い皮をなぞるだけ。口の中まで入ってこない。でも、それが今は、逆に苦しい。
もっと、乱暴に。
もっと、息ができなくなるまで、喉の奥に舌を。
裕くんは唇を離すと、私の頬に手のひらを添えた。熱い。恥ずかしいほど、私の頬が熱くなっている。
「……結子、柔らかい。変わってない」
違うよ、裕くん。私、変わりすぎたの。裕くんの知ってる私の肌は、もう、誰かの手垢と唾液でできてる。そう叫んでしまいたかった。
「ベッド、行こう」
裕くんは穏やかな声でそう言った。私は、まるで初めての夜みたいに心臓が跳ねて、だけど、その期待が裕くんに向いていないことを、肌が知っていた。立ち上がると、足のつけ根がじわりと潤んでいる。
寝室は暗く、窓の外から街灯の淡い光が差し込んでいた。裕くんは電気をつけようとしたけど、私は首を振った。暗いほうがいい。暗ければ、私の顔が的場さんを探すのを、彼に見られずに済む。
ベッドに腰かける。裕くんが隣に座り、そっと私の手を握った。手のひらに汗をかいている。私も、私の指先は彼と同じくらい冷たいのに、下腹だけが熱を持っていた。
「結子、……いい? 久しぶりだから、無理しないで」
私は裕くんにキスを返した。唇を軽く吸って、彼の肩に手を置く。裕くんは嬉しそうに息を漏らして、私の身体をゆっくりと倒した。シーツが冷たい。彼の手が、私のブラウスの下から滑り込んで、素肌に触れる。その控えめな愛撫が、逆に、私の飢えを浮き彫りにした。
「……ゆうくん」
呼んでしまってから、しまった、と思った。彼の指が、はっきりと止まった。
「結子? ……怖いなら、やめとく?」
「ちがうの。続けて……お願い。ゆうくんに、触ってほしいの」
違う、そうじゃない。胸の奥で、もう一人の私が舌打ちする。裕くんは「うん」と言って、私の服を脱がせていく。ブラウスが肩から落ち、スカートのファスナーが下りる。下着は、出張先で何度も的場さんに剥ぎ取られた。今、裕くんの手で脱がされる下着は、薄いレースで、私の浅ましい媚肉を隠しきれない。
「きれいだよ。……結子の身体、やっぱり白いな」
裕くんの指が、私の鎖骨から胸の谷間、臍のくぼみをゆっくり下りてくる。壊れ物みたいに。もっと、もっと強い力で掴んで。乳首を、潰すぐらい摘んで。太腿を、開けって言って。私の頭の中は、霧がかかったみたいに騒がしい。
彼の唇が、私の乳房の先を包んだ。生ぬるい舌が、固くなった乳首を転がす。私は小さく喘いだ。裕くんの愛撫は優しくて、頭の奥の焦りが、じりじりと熱を増す。
「ん……ふ……」
「結子、ここ、感じてる? …乳首、すごく硬くなってる」
恥ずかしい。裕くんに指摘されて、私は首を横に振った。でも、腰は動いてしまう。彼の腹に、私の太腿がすり寄る。的場さんは、こんな時、私の髪を掴んで「目ぇ開けろ」って言った。あの人の指は、私の全身を、泣きながら悦ぶ生き物に変えていった。
「結子……足、開いて」
裕くんの手が、私の膝の内側に触れる。私は言われるままに、脚を少し開いた。
三ヶ月前まで、ここに入っていたのは裕くんだけだった。なのに今、私の秘部は、別の肉の形を探して、熱い汁をじわじわ溢れさせている。
裕くんの指が、そこに触れた。くちゅ、と湿った音がして、私はとっさに腰を引いた。音が聞かれないように。私の濡れ具合が、気づかれないように。
「……濡れてる。大丈夫だよ、力抜いて」
彼の指が、やわやわと花唇を割る。その時、膣の入り口が、まるで待ちきれていたみたいにひくついた。裕くんの指先は細くて、節が内壁をくすぐる。ぬぷ、と入ってくるだけで、私は自分の呼吸が荒くなるのが分かった。
「……あ、は……っ」
「気持ちいい? ここ?」
「ん……ぁ……」
私の声は、息を吐くことに精一杯で、言葉にならない。裕くんは、そっと私の肩を抱き寄せた。彼の胸に顔を埋めると、汗の匂いがした。やわらかな、甘い汗だった。的場さんの匂いは、もっと、燻されたような、喉の奥に残る強さがあった。
「じゃあ、……入れるね」
裕くんの左手が私の背筋を撫で、右手で自分の硬くなったものを私の入り口に当てた。私は彼の首に腕を回す。心臓ばかりが暴れている。裕くんの先端が、私のぬかるみをゆっくりと押し開いた。
「は、……あっ……」
入ってくる。確かに、裕くんの形。柔らかくて、温かくて、慎ましい。でも、私の膣は、もっと奥まで、もっと太い杭で引き裂かれるような感覚を欲しがっていた。彼が腰を沈めるたび、くちゃり、くちゃりと愛液が泡立つ。裕くんの動きは、私を気遣って、浅く、ゆっくりだった。
「ゆうこ……は、ぁ……ゆうこ、気持ちいい……?」
彼の声が、私の耳をくすぐる。私は答えられず、唇を噛んだ。噛みながら、頭の裏で、あの傘の張り出した肉茎が肉襞をえぐる衝撃を再生していた。的場さんに抱かれる時、私はいつも、泣き叫びながら、二度と裕くんに戻れないかもしれない、と思った。今、裕くんに抱かれていて、もっと、もっと、と飢えた身体が泣く。
「……ゆうくん……もっと、動いて」
絞り出すように言うと、彼は少し驚いた顔をした。それでも嬉しそうに、私のお尻を持ち上げて、ゆっくり貫く。彼に、これが欲しかったんじゃない。もっと。もっと。でも、裕くんには分からない。私の内側で、別の男が住み着いてしまったことを。
「ゆうこ……俺、もう……」
「ん……私も、……」
嘘だった。私は、彼の優しい抽送に、寸前まで連れて行かれそうになりながら、的場さんの名前を唇の内側で殺した。裕くんが息を詰め、私の中で小さく跳ねる。
「あ……ゆうこ……っ」
「……ぁ、あ……!」
達した。達したけれど、それは、的場さんに与えられた痙攣とは比べものにならない、ほんの浅い波。膣の奥が、ぽっかりと空いている。もっと、あのえぐるような一突き。喉の奥まで犯す指。太腿をひらいたまま泣かせる声。身体中の肉が、的場健一を求めている。
裕くんは私の上で、満たされたように息を整えていた。私は彼を抱き返し、乱れた髪を撫でた。裾の乱れたシーツには、私の汁と彼の精液とが、薄い染みを作っている。この生ぬるさが、三ヶ月前まで、私たちの幸せの残り香だった。
でも、今は、私の腰の奥で、的場さんが打ち込んだ何百回の抽送の記憶が、ぐずぐずに融けた藪みたいに渦巻いている。
「ゆうこ、……大丈夫? 痛くなかった?」
「うん……大丈夫」
私は裕くんの汗ばんだ肩に、額をぶつけるように寄せた。眼の奥が熱い。彼の声、指、心。すべてが優しく、やさしすぎて、私の裡を食む。
ふと、電話が震える。サイドテーブルの上で、スマートフォンの画面が光った。裕くんは「今出なくていいよ」と私の髪を撫でる。着信の主を見なくても、分かってしまった。あの三ヶ月、夜の帳が下りるたびに、私を呼び出した的場さんからの名残。
裕くんがシャワーを浴びに寝室を出ると、私は震える指で通知を消した。的場さんの名前が視界に浮かび、私の子宮のあたりが、淡い期待に疼く。それを、心から憎んだ。けれど、身体はもう、あの痙攣を、あの失神を、あの苦痛みたいな快感の形を、忘れられない。
窓の外、春の名残風がかすかに唸る。私の指は、裕くんに抱かれたばかりの場所へ、そっと触れていた。そこは、笑いたいほど慣らされて、今まさに、満たされない熱を滴らせていた。
登場人物
-
田中結子 たなか ゆうこ女性 ・ 28
外見: 長い黒髪、茶色の瞳、スレンダーな体型、身長160cm。服装: オフィスカジュアル(ブラウスとスカート)やスーツ。真面目で繊細な性格だが、孤独に弱く、他人の優しさに涙もろい一面を持つ。婚約者への愛情は本物だが、自分の弱さに悩む。
-
的場健一 まとば けんいち男性 ・ 40
外見: 短い黒髪、鋭い黒い瞳、がっしりとした筋肉質の体格、身長180cm。服装: スーツ。無骨で強引な性格だが、部下を気遣う思いやりのある一面も。仕事では厳格だが、酒の席では饒舌になる。巨根でカリ高が特徴的な肉体を持つ。
-
岸川裕 きしかわ ゆたか男性 ・ 29
外見: 中程度の長さの茶髪、優しい茶色の瞳、中肉中背の体型、身長172cm。服装: カジュアルな服(ポロシャツやジーパン)やスーツ。温和で誠実な性格、幼なじみの結子を大切に想っている。多少頼りない部分もあるが、結子への愛情は一途。





