行ってしまった夏。十六の絶対温度、堕ちていく背徳
あらすじ
高校受験を共に乗り越え、晴れて同じ高校に入学した祐馬と麻衣。祐馬は桜の舞う校庭で勇気を振り絞って告白し、二人は恋人同士になる。手を繋ぎ、初めてのキスを交わす日々は、どこまでも甘く輝いていた。しかし、祐馬の体内にはある欲求が疼き始める。抱きしめるたびに感じる麻衣の柔らかな身体の感触、制服のスカートから覗く太もものライン。ある日、放課後の教室で、彼は抑えきれずに麻衣の身体を強く抱き寄せ、耳元で「もっと…触りたい」と呟く。麻衣は身体を硬くし、「だめ…まだ、そういうの…」と小さく拒絶する。その瞬間、祐馬の胸にぽっかりと空いた小さな虚ろ。その帰り道、陸上部の先輩・木村音羽が、汗ばんだユニフォーム姿で祐馬に声をかける。「高橋くん、彼女と仲良くしてるねぇ」。その笑顔には、麻衣とは全く異なる、ねっとりとした甘さがまとわりついていた。
第1章 約束の温度と、こぼれそうな蜜

第1章: 約束の温度と、こぼれそうな蜜
桜の花びらが、四月の柔らかな風に乗って、新緑の校庭を薄紅色に染めていた。
入学式から一週間が経ち、高校生活のリズムが少しずつ身体に馴染み始めた頃のことだ。高橋祐馬(たかはし ゆうま)は、放課後の校舎の陰に立つ一本の桜の木の下で、深呼吸を繰り返していた。胸の奥で鼓動が早鐘を打ち、手のひらには冷や汗がにじんでいる。隣で教科書を胸に抱え、少し俯き加減に立つ友永麻衣(ともなが まい)の側顔が、舞い散る花びらの間からちらりと見える。
――今だ。今言わなきゃ。
「……麻衣」
声が少し裏返った。麻衣がきょとんとした顔で振り向く。その大きく澄んだ黒い瞳に、祐馬はもう一度自分の覚悟を確認する。
「俺……俺、ずっと前から思ってたんだ。麻衣のこと、好きだって」
言葉が続かない。頭が真っ白になって、ただ麻衣の反応を待つしかなかった。一瞬、時間が止まったように感じた。風の音も、遠くで響く生徒たちの笑い声も、すべてが霞んで聞こえない。
麻衣の頬が、ゆっくりと桜色に染まっていった。
「……私も」
かすかな声だったが、祐馬にははっきりと聞こえた。
「祐馬のこと、好き。ずっと前から」
その瞬間、祐馬の胸の中にあった緊張の糸がぷつりと切れ、代わりに温かい何かが広がっていった。彼は思わず笑みを零し、無意識に麻衣の手を握った。麻衣の指は細く、冷たかったが、彼の手のひらに触れるとほんのり温もりを帯びてきた。
「よ、よかった……本当によかった」
「ばか」
麻衣も笑った。その笑顔は、小学の頃から変わらない、どこか恥ずかしそうでありながらも芯の強さを感じさせるものだった。
それから二人の関係は、ゆっくりと、しかし確実に変化していった。
放課後、一緒に下校する道すがら、自然と手が触れ合い、やがて小指が絡まり、最後にはきちんと手を繋ぐようになった。最初はお互い緊張してぎこちなかったが、一週間も経つとそれが当たり前の景色になった。
そして、二週間目の金曜日。
祐馬は麻衣を駅前の小さな公園に誘った。夕暮れ時で、サラリーマンや学生の姿は少なく、ベンチには年配の夫婦が一組座っているだけだった。二人は少し離れた遊具の陰に立った。
「麻衣……」
「うん」
麻衣の声にも、何かを覚悟したような響きがあった。
祐馬はゆっくりと麻衣の方を向き、そっと彼女の肩に手を置いた。麻衣は一瞬身体を硬くしたが、すぐに力を抜き、祐馬の目をまっすぐに見つめた。その距離は、お互いの息がかろうじて触れ合うほど近かった。
「……しても、いい?」
声は震えていた。麻衣は黙って、かすかにうなずいた。
ゆっくりと、時間が流れるのを意識しながら、祐馬は顔を近づけた。麻衣のまつげが微かに震え、目がゆっくりと閉じられる。彼女の唇がわずかに開き、吐息がほんのり甘い匂いを運んでくる。
触れた。
柔らかく、少し冷たい感触。麻衣の唇は想像以上に繊細で、ほんの一瞬触れただけで電気が走るような衝撃が祐馬の背骨を駆け上がった。彼はもう一度、今度は少し強く、しかし優しく唇を重ねた。麻衣の唇がわずかに湿り、温もりを帯びていく。
五秒ほどで唇を離すと、麻衣は顔を真っ赤にして俯いた。
「……初めて」
「俺も、初めてだよ」
本当にそうだった。今まで彼女に触れることさえ、胸が苦しくなるほど緊張していた。それがこんなに近くで、こんなに密接に触れ合えるなんて。
それから毎日が、輝く蜜のように甘く感じられた。
授業中、隣のクラスにいる麻衣のことを考えてぼんやりすること。昼休み、わざわざ購買部まで一緒に行き、お揃いのパンを買うこと。放課後、誰もいない音楽準備室でこっそりと二度目、三度目のキスを交わすこと。
祐馬は、この幸せが永遠に続くかのように錯覚し始めていた。
しかし、五月の半ばを過ぎたある蒸し暑い午後、彼の体内で何かが疼き始めた。
放課後の教室。日直の仕事を終え、祐馬がカバンを持って廊下に出ようとした時、後ろから麻衣が駆け寄ってきた。
「待って、祐馬。一緒に帰ろう」
「あ、ああ」
麻衣は自然に祐馬の腕に手を絡めた。その時、祐馬は麻衣の制服のブラウスの袖越しに、彼女の腕の柔らかさをはっきりと感じた。そして視線が自然と下に落ち、スカートの裾から覗く白い太もものラインに釘付けになった。
――なんだ、この……感じ。
胸の奥が熱く、むずがゆくなった。喉が渇く。彼は無意識に麻衣をもっと強く引き寄せ、教室のドアの陰に彼女の身体を押し付けた。
「うん? どうしたの、祐馬?」
麻衣はきょとんとした声を上げたが、祐馬の呼吸が荒くなっているのを感じて、表情が少し硬くなった。
「麻衣……」
祐馬の声は低く、渇いていた。彼は麻衣の耳元に口を寄せ、吐息を漏らしながら呟いた。
「もっと……触りたい」
言った瞬間、自分でも驚いた。そんな言葉が出てくるなんて。でも、もう止められなかった。彼の手は麻衣の背中を伝い、ウエストのあたりにまで達していた。制服の生地の下に、麻衣の華奢な骨格と、ほんのり温もる肌の感触があった。
麻衣の身体が、こわばった。
「……だめ」
かすかな声だったが、はっきりと拒絶の意志が込められていた。
「まだ、そういうの……ダメなの。ごめん」
祐馬の手が空中で止まった。麻衣の瞳には、困惑と、少しの怖れが浮かんでいた。それは祐馬が今まで見たことのない表情だった。
――まずい、怒らせた。
「あ……ご、ごめん。わ、わかった。ごめんね」
慌てて手を離し、祐馬は一歩後退した。胸の中に、ぽっかりと空いた虚ろな穴が開いたような感覚があった。興奮は一気に冷め、代わりに恥ずかしさと後悔が込み上げてきた。
麻衣は俯いたまま、制服のスカートの裾をきちんと整えた。
「……私、大事なことは……結婚するまで、取っておきたいの。祐馬とはずっと一緒にいたいから、だからこそ……ごめんね」
「……うん。わかった。麻衣の気持ち、尊重するよ」
笑顔を作ろうとしたが、頬が引きつるのを感じた。
その日の帰り道は、いつもより沈黙が多かった。
祐馬は麻衣の隣を歩きながら、頭の中をぐるぐると同じ思考が巡っていた。なぜあんなことを言ってしまったのか。麻衣を怖がらせてしまった。でも、あのとき感じた衝動は紛れもない本物だった。麻衣の柔らかさ、温もり、そしてスカートから覗く白い肌――
「あ、高橋くん」
突然、明るい声が呼びかけてきた。
振り向くと、陸上部のユニフォームにジャージを羽織った先輩、木村音羽(きむら おとは)が手を振りながら近づいてくる。栗色のウェーブのかかった髪は少し汗で濡れ、頬に紅潮が差していた。切れ長の目が祐馬をじっと見つめ、その後ろに立つ麻衣へと一瞬視線を移す。
「お疲れー。あら、彼女と一緒? 仲良くしてるねぇ」
音羽の口調は少しだらっとしていて、語尾が甘ったるく巻かれていた。彼女はわざとらしく祐馬に近づき、汗の匂いをほんのり漂わせながら笑った。
「こ、こんにちは、先輩。部活、お疲れ様です」
祐馬は少し距離を取ろうとしたが、音羽はさらに一歩近づいた。
「高橋くん、最近記録伸びてるって聞いたよ。私、見てたんだー。走ってる姿、なかなかカッコよかったよ?」
その言葉に、祐馬は思わず顔が熱くなるのを感じた。隣で麻衣が微妙に硬くなっているのも感じ取れた。
「そ、そんな……先輩こそ、関東大会目指してるんでしょ? すごいですよ」
「まあねー。でも、たまには息抜きも必要だよね」
音羽はわざと祐馬の肩を軽く叩いた。その時、彼女の指がわずかに祐馬の首筋に触れた。汗ばんだ肌に、冷たい指の感触がくっきりと残った。
「彼女さん、可愛いね。大事にしなきゃダメだよ? でもなー」
音羽は声をひそめ、祐馬だけに聞こえるように囁いた。
「男の子だもん、我慢ばっかりも大変でしょ?」
ぴくりと、祐馬の身体が微かに震えた。音羽はそれに気づいたように、薄く笑みを浮かべた。
「じゃあね、高橋くん。また部活でー」
軽く手を振り、音羽は颯爽と走り去っていった。彼女の後ろ姿は、スラリとした足の動きで、夕暮れの街並みに溶け込んでいった。
祐馬は立ち尽くしたまま、首筋に残った冷たい感触をぼんやりと感じていた。隣で麻衣が小さく息を吸い込む音が聞こえた。
「……あの先輩、祐馬と仲良いの?」
「え? いや、別に……部活でいつも指導してくれる先輩だよ」
「そう……」
麻衣の声には、ほんのりとした不安がにじんでいた。祐馬は慌てて麻衣の手を握った。
「気にしないで。麻衣のこと、一番好きだよ」
「……うん」
しかし、握り合った手のひらに、以前のような温もりは感じられなかった。
祐馬はふと、音羽の囁いた言葉を思い出した。
――我慢ばっかりも大変でしょ?
胸の奥で、またあのむずがゆい疼きがよみがえってきた。彼は必死にそれを抑え込み、麻衣の手を強く握りしめた。
夕陽が二人の背中を長く伸ばし、交わしたばかりの約束を、優しく、しかし確実に風化させ始めていた。
第2章 先輩の誘惑、溶ける理性の糸

第2章: 先輩の誘惑、溶ける理性の糸
五月の風が少しずつ暑さを帯び始めた頃、祐馬の日常には確かな変化が訪れていた。
放課後、陸上部の練習が終わると、彼は必ずと言っていいほど音羽先輩と一緒にグラウンドを後にすることが多くなった。最初は偶然が重なっただけだった。彼がシューズを片付けていると、水筒を持った音羽がふらりと近づいてきて、「高橋くん、まだいたの? 一緒に帰ろっか」と声をかける。その口調はどこかだらりとしていて、まるで昔からの馴染みのように自然だった。
「あ、はい……先輩も今帰るんですか?」
「うん。今日はもう練習納めにしたから。ねぇ、そこの自販機でジュース買おうよ。先輩がおごってあげる」
そう言って彼女はすっと腕を伸ばし、祐馬の肘のあたりを軽くつつく。その触れ方は、友達同士のじゃれあいのようでもあり、しかし指先の押し方がほんの少しだけ深く、皮膚の奥にまで熱を伝えてくるようだった。
彼は首をかしげた。
「い、いや……先輩に奢らせるのは悪いですよ。自分で買いますから」
「遠慮しなくていいってば。後輩には優しくしないとね」
音羽は笑いながら、百円玉を二つ取り出し、自販機の投入口に滑り込ませた。コインが金属音を立てて落ちる音と、彼女の指がボタンを押すときの軽い「ぽちっ」という音が、なぜか祐馬の鼓膜に鋭く響いた。
渡されたスポーツドリンクの缶は冷たく、表面にはすぐに結露が浮かび始めた。祐馬はそれを手に持ったまま、音羽と並んで校門を出た。夕日が二人の背中を暖かく照らし、アスファルトの上に長い影を伸ばしていた。
「麻衣ちゃんとは、今日も一緒に帰らないの?」
突然、音羽がそう尋ねた。彼女は缶の飲み口に唇を当て、ゆっくりと液体を飲み込む。喉がふわりと動く様子が、首筋の滑らかなラインの上で微かに震えた。
祐馬は少しだけ目をそらした。
「今日は……麻衣は委員会があるって言ってましたから。別々に帰ることにして」
「ふーん。そっか」
音羽の声には、何かを推し量るような含みがあった。彼女は一歩、祐馬に近づき、肩と肩がかすかに触れ合うほどの距離になる。
「でもさ、高橋くん。彼女とはずーっと幼馴染なんでしょ? そういう関係って、結構大変じゃない?」
「大変……って、どういう意味ですか?」
「だってさ」音羽はくるりと彼の前に回り込み、後ろ向きに歩きながら彼の顔を見つめた。「いつも一緒にいなきゃって気がするでしょ? 気を遣うし……あと、なんていうか、新鮮さがなくなっちゃうとか」
その言葉は、祐馬の胸の奥にある、まだ言語化できていないもやもやとした不安に、ぴたりと触れるものだった。彼は無意識に唇を噛んだ。
「そ、そんなことないですよ。麻衣とは……楽しいですから」
「そう? それはよかった」
音羽は再び彼の横に戻り、今度は腕を軽く揺らしながら歩いた。その動きに合わせて、彼女のユニフォームの裾がふわりとめくれ、ほんの一瞬、太ももの健康的な筋肉のラインが覗いた。
――なんだろう、この感じ。
祐馬の心の中で、小さな声が囁いた。
音羽先輩と話していると、どこか気が抜ける。麻衣と一緒にいるときのような、ピンと張り詰めた緊張感がない。代わりにあるのは、緩やかに体の中を巡る、甘ったるい倦怠感のようなものだった。それは危険だとわかっているのに、なぜか居心地が良い。
その数日後、真夏日のように暑い木曜日の午後だった。
部活のメニューが終わり、生徒たちは次々とシャワー室や自宅へと散っていった。祐馬は部室に残り、明日の練習で使う自分のスパイクの手入れをしていた。窓から差し込む西日が、木製の床を焦がすように照らし、室内には靴革と汗の混じった独特の匂いが漂っていた。
ドアが開く音がした。
「あら、高橋くん。まだいたんだ」
入ってきたのは、シャワーを浴びたばかりの音羽だった。彼女は白いタオルを頭に乗せ、髪の毛をくるみ込むように包んでいる。身体には薄いグレーのタンクトップと、その下に着ているであろうスポーツブラのストラップが透けて見えるほどだ。タンクトップは汗で少し色が濃くなっている部分があり、胸のふくらみの頂点あたりが、ほんのりと湿った影を落としていた。
祐馬は思わず目を泳がせた。
「先輩も……まだなんですか」
「うん。さっきまでシャワー浴びてたの。あー、すっきりした」
音羽はそう言うと、タオルで髪をゴシゴシと拭いながら、部室の奥にある冷房のリモコンを手に取った。ボタンを押す軽い音がして、すぐに冷風が出始める音が聞こえた。
「暑いから、ちょっと涼んでいきなよ。汗、びっしょりじゃん」
彼女が近づいてくる。シャワー後の石鹸の香り――清潔なはずなのに、何故か甘くてふわっとした香りが、祐馬の鼻をくすぐった。音羽は彼の前に立ち止まり、じっと彼の顔を見下ろす。
そして、彼の首筋を流れている一滴の汗を、人差し指の腹でそっと撫でるように拭い取った。
「ほら、ここも」
その指の感触は、驚くほどに柔らかく、そして冷たかった。シャワーで冷えた皮膚が、祐馬の汗ばんだ首の皮膚に触れ、ひんやりとした感覚が背骨を伝って下へと流れていく。彼は思わず息をのんだ。
「あ……」
「高橋くん、結構汗かくんだね。練習熱心だなぁ」
音羽はその指を自分の目の前にかざし、汗の粒を不思議そうに見つめた。そして、何を思ったか、その指を自分の唇の端に軽く当て、ほんの少しだけ舐めるようなしぐさを見せた。
――な、何してるんだ……
祐馬の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。喉が渇き、唾を飲み込むのさえ困難に感じた。
「先、先輩……」
「ん? どうしたの?」
音羽はきょとんとした顔をして、彼を見返す。しかしその目は、完全に澄んでいるわけではなく、どこか濁った蜜のような光を宿していた。彼女はもう一歩近づき、今度は両手を祐馬の肩に置いた。
「あ、肩も凝ってるね。陸上部の男子って、意外と肩に力入っちゃうんだよね」
「そ、それは……」
「大丈夫、大丈夫。少し揉んであげるから、逆らわないで」
彼女の手が、ゆっくりと祐馬の肩を揉み始める。指先の圧力は適切で、確かに凝りをほぐしてくれるのだが、そのたびに彼女の胸が彼の背中に、ほんのわずかながら触れている。タンクトップの薄い布地越しに、柔らかく温もった膨らみの感触が、断続的に伝わってくる。
祐馬は目を閉じた。頭の中が真っ白になりかけた。
麻衣のことを考えようとした。麻衣がもし、こんなふうに彼に触れてくれたら――しかしそれはあり得ない。麻衣は彼の肩を揉むことさえ、きっと恥ずかしがってためらう。彼女の触れ方はいつも、そっと、そしてすぐに離れてしまうものだった。
「……気持ちいい?」
音羽の声が、すぐ耳元で聞こえた。彼女は彼の耳たぶのすぐ後ろに唇を寄せ、吐息をかけるように話しかけている。その息は温かく、湿っていて、祐馬の耳の皮膚をぞわぞわと震わせた。
「は、はい……」
「よかった。でね、高橋くん」
彼女の声が、一層低く、艶やかさを増してくる。
「麻衣ちゃんとは……まだ、何もしてないんでしょ? キス以外は」
その言葉に、祐馬の体が硬直した。なぜ彼女がそんなことを知っているのか、どうしてそんなことを聞くのか――疑問が渦巻くが、それ以上に、その質問そのものが、彼の胸の内側にある恥ずかしい真実をえぐり出すようでたまらなかった。
「……それは」
「答えなくていいよ。だって、わかっちゃうもん」
音羽の手が、肩から首筋へとゆっくりと移動する。彼女の指が、彼の首のうなじあたりを、まるで何かを確かめるように撫でる。その動きはあまりにもゆっくりで、一つ一つの指紋が皮膚に刻まれていくような錯覚さえ覚えた。
「男の子だもんね。欲求だってあるよね。麻衣ちゃんが可愛いから我慢してるんだろうけど……そりゃあ、つらいよ」
「……先輩」
「私、わかってるの。だって私だって、女の子だから」
彼女はふっと笑った。その笑い声は、蜜のように粘っこく、祐馬の鼓膜にまとわりついた。
「でもね、高橋くん。我慢しすぎるのは体に悪いんだよ? ほら、見て」
音羽の手が、突然、祐馬の胸のあたりに移動した。彼女の手のひらが、彼の心臓の鼓動を、制服のシャツ越しに感じ取ろうとするかのように、そっと押し当てる。
「心臓、ばくばく言ってる。緊張してるんでしょ?」
「……っ」
「大丈夫、誰にも言わないから。ここには私と高橋くんしかいないんだから」
部室の外からは、遠くで野球部の掛け声が聞こえるだけだった。室内には冷房の音だけが規則的に響き、その冷たい空気が、二人の間に漂う熱気をかえって際立たせているようだった。
祐馬はようやく目を開けた。目の前には、音羽の顔が寄り添っていた。彼女の瞳は、彼の瞳の奥を覗き込むように見つめている。その目には、麻衣にはない、何かが溶け出したような甘い色が浮かんでいた。
「先輩……なぜ、そんなことまで」
「んー? なんでだろうね」
音羽はいたずらっぽく首を傾げた。すると、タオルが少しずれ、濡れた髪の毛が数本、彼女の頬にへばりついた。彼女はそれを指でつまみ、耳の後ろに押しやる。その動作が、なぜかとても淫らに見えた。
「高橋くんが、可愛いからかな。一生懸命なところが、すごく……ね」
彼女の言葉の最後は、かすかに消え入りそうなため息に変わった。そして彼女は、祐馬の胸から手を離すと、今度は自分のタンクトップの裾を、少しだけ引き上げるようなしぐさを見せた。
「私さ、今日、すごく汗かいたんだ。シャワー浴びたけど、まだなんだかほてってるの」
「……え?」
「ねえ、高橋くんの手……冷たくない?」
音羽はそう言うと、祐馬の右手をそっと掴み、自分の頬に当てた。確かに彼の手は、冷房が効いた部室にいたせいか、ひんやりとしていた。彼女はその冷たさに、目を細めて甘えたような声を漏らした。
「あー、気持ちいい。やっぱり男の子の手って、大きいんだね」
「そ、それは……」
「こっちにも当てて? ほら、首のあたりも熱いから」
彼女は祐馬の手を、自分の首筋へと導いた。指先が、彼女の滑らかな皮膚に触れる。シャワーで冷えたはずなのに、確かにその下からは、生温かい体温が伝わってくる。そして、彼女の首の付け根あたりには、微かに汗の湿り気が残っていた。
「どう? 熱いでしょ」
「……はい」
「でしょ? 私、ほんとにまだほてってるんだよ。このままじゃ、また汗かいちゃいそう」
音羽は祐馬の手を、自分の首から鎖骨のあたりへと、ゆっくりと滑らせていった。その動きはあまりにも自然で、まるで本当に体温を確かめているだけのように見えるが、しかし指先が通る軌道は、明らかに境界線を侵犯していた。
祐馬はもう、何も考えられなかった。
頭の中は麻衣の顔でいっぱいになるかと思いきや、意外にも空白に近い。ただ、指先に伝わる音羽の皮膚の感触、その柔らかさと温もり、そして微かに漂うシャワー後の香り――それらが、彼の理性を少しずつ溶かしていく。
「あのさ、高橋くん」
音羽はまた囁くように言った。
「今度の週末、私の家に遊びに来ない? 両親、旅行でいないから。涼しいし、のんびりできるよ」
「先輩の……家?」
「うん。DVD観たり、ゲームしたり……あ、私、料理もそこそこできるんだよ? なんか作ってあげようか」
彼女の目が、ゆっくりと祐馬の唇を見つめる。その視線は重く、湿っていて、まるで直接触られているかのような錯覚を覚えた。
「それに……ここじゃ話しづらいことも、家ならゆっくり話せるかもね。高橋くんの悩みとか……麻衣ちゃんとのこととか」
「……」
「来てくれる? 約束」
音羽の指が、今度は祐馬の手のひらをそっと撫でた。その愛撫は、言葉以上に多くのことを語っていた。来い、と。ここにはないものを見せてあげる、と。
祐馬は、ゆっくりとうなずいた。それはほとんど無意識の動作だった。
「……はい」
「やった! じゃあ、詳細はあとでラインするね」
音羽は満足そうに笑い、ようやく祐馬から少し離れた。彼女はタオルを頭から外し、濡れた髪をばさりと揺らす。そのとき、数滴の水しぶきが祐馬の頬に飛び散った。
「あ、ごめんごめん」
「い、いえ……」
「じゃあ、今日はここまで。また明日、部活で会おうね。高橋くん」
音羽は軽く手を振り、部室のドアに向かって歩き出した。彼女の背中を見送りながら、祐馬はようやく自分が深く息を吸い込んでいなかったことに気がついた。肺が痛むほどに、空気を吸い込む。
――何を、してしまったんだ。
胸の内側で、遅れてやってきた罪悪感が、じわりと広がり始めた。麻衣の顔が、ちらりと脳裏をよぎる。彼女が委員会で頑張っているだろうその横顔が、無邪気に笑っている様子が。
しかし、それと同時に、指先にまだ残っている音羽の皮膚の感触、あの甘ったるい香り、そして低く艶めいた声――それらが、罪悪感を上回る熱となって、彼の下腹部にうごめき始めていた。
彼はゆっくりと立ち上がり、スパイクを鞄にしまった。手がわずかに震えているのを感じる。
部室を出ると、廊下には誰もいなかった。遠くのほうから、どこかのクラスで合唱の練習をしている歌声がかすかに聞こえてくる。それは清らかで、彼が今感じているものとは対極にあるような響きだった。
――週末、先輩の家。
その言葉だけが、頭の中でくり返し響く。来てはいけない、とわかっている。それでも、行きたいという衝動が、確かにそこにある。
祐馬は鞄を肩にかけ、ゆっくりと歩き出した。夕日はもう沈みかけ、廊下の窓ガラスが茜色に染まっていた。その光は、彼の顔を照らしながらも、彼の目に映る世界を、どこかぼんやりと歪ませているようだった。
理性の糸は、一本、また一本と、音羽の指先によって静かに解かれ始めていた。そして彼はまだ気づいていないが、その糸が全部切れたとき、もう後戻りはできないのだということを。
ただ歩きながら、彼は思った。
麻衣には、何て言おう。週末、先輩の家に行くって――いや、言えない。言ってはいけない。
秘密が、彼の胸の中に、重くて温かい塊として沈殿していく。それは罪悪感と、しかしどこかわくわくするような期待感が混ざり合った、複雑な感情だった。
校門を出る頃には、空はすっかり暮れ色に変わっていた。街灯がぽつりぽつりと灯り始め、その淡い光の中を、彼はゆっくりと家路についた。
背中には、まだ音羽の手の感触が、消えない暖かさとして残っているようだった。
第3章 部室の陰で、堕ちゆく初めて

第3章: 部室の陰で、堕ちゆく初めて
約束を交わした翌週の水曜日、空はどんよりとした雲に覆われていた。
午後の練習は雨が降り出す前に切り上げられ、部員たちは早々に解散していった。祐馬は荷物をまとめながら、胸の内でこみ上げる期待と不安が入り混じった感覚に揺れていた。音羽先輩からは週末の詳細な連絡はまだ来ておらず、そのことがかえって彼の心を落ち着かなくさせていた。
部室には彼一人だけが残っていた。窓の外では小雨がパラパラと音を立て始め、硝子を伝う雨筋がゆっくりと筋を作っている。
ドアが開く音がしたとき、彼はなぜかそれが来ることを予感していた。
「あら、高橋くん。まだいたんだ」
音羽が入ってきた。彼女はユニフォームの上にジャージを羽織り、髪は少し湿っているように見えた。雨に濡れたのだろうか、それともさっきまでシャワーを浴びていたのだろうか。
「先輩も……雨、大丈夫でしたか?」
「うん。ちょっとだけ濡れちゃった。でも大丈夫」
彼女はにっこりと笑い、部室のドアを背後で閉めた。カチャリという鍵の音が、何故かいつもより大きく響いた。
音羽はゆっくりと近づいてくる。ジャージのファスナーは胸のあたりまで開いていて、その下からユニフォームのタンクトップが覗いている。彼女の頬には微かに水滴がついており、それがゆっくりと顎のラインを伝って落ちていく。
「高橋くん、週末のこと……楽しみにしてる?」
「え……そ、それは……」
「だって、約束したじゃん。私の家に来るって」
彼女はもう一歩近づいた。二人の距離は、もう息が届きそうなほど近い。部室には雨音と、冷房の低い音だけが響いている。
音羽の手が、そっと祐馬の頬に触れた。その指先は冷たく、雨に濡れたのだとわかる。
「それまで待てないなって、思っちゃった」
「……え?」
「私さ、高橋くんのことがすごく気になってるんだ。麻衣ちゃんの彼氏なのに、こんなこと思っちゃいけないんだろうけど」
彼女の声はとても低く、甘ったるい蜜のように耳の中に流れ込んでくる。
「男の子の我慢って、ほんとに大変なんだよね。わかってるの。私、全部わかってるから」
「先輩……そんな……」
「大丈夫。誰にもばれないから。ここには私と高橋くんしかいないんだから」
音羽のもう一方の手が、祐馬の胸にそっと置かれた。彼女の手のひらが、制服のシャツ越しに彼の心臓の鼓動を感じ取っているようだった。
「ほら、早くなってる。緊張してる?」
祐馬は言葉を失った。喉がカラカラに渇き、うまく声が出ない。頭の中では麻衣の顔がちらつくが、それは次第に遠ざかっていくようだった。
音羽の顔がさらに近づく。彼女の唇が、彼の耳たぶのすぐそばまで寄る。
「ねえ、我慢しなくていいよ。先輩が……気持ちよくしてあげるから」
その言葉と同時に、彼女の手がゆっくりと下へと移動していった。
祐馬は身体を硬直させた。抵抗しようとする意志はあるのに、手足が言うことを聞かない。それは恐怖なのか、それとも期待なのか、自分でもわからなかった。
音羽の指が、彼のズボンのベルトに触れた。金属のバックルがカチャリと音を立てる。
「だ、だめ……先輩、それは……」
「嘘だよ。本当は欲しいんでしょ? 高橋くんのここ、すでにこんなに……」
彼女の手のひらが、ズボンの上から彼の股間を押さえた。確かに、彼のペニスは自らの意志とは関係なく硬く膨らんでいた。恥ずかしさで顔が火照るのを感じた。
「ほら、正直だね。かわいいなあ」
音羽はいたずらっぽく笑うと、ズボンのボタンを外し、ファスナーをゆっくりと下ろしていった。
「いや……やめて……あっ……」
ファスナーが下りる鈍い音が、雨音に混ざって聞こえる。ズボンの前が開き、下着が露出する。祐馬は天井を見つめた。古い電灯の蛍光灯が、ちらちらと瞬いているように見えた。
「初めてだね、誰かに触れられるの」
音羽の指が、彼のボクサータイプの下着の上から、形を確かめるように撫でる。その感触に、思わず腰が浮き上がりそうになる。
「ん……っ」
「感じやすいんだ。いいねえ、そういうの」
彼女はしゃがみ込むと、ゆっくりと彼の下着を下ろしていった。冷たい空気が、熱く硬くなったペニスに直接触れる。その瞬間、祐馬は背筋が震えるのを感じた。
「きれいな形してるね。男の子の初めてのもの、触らせてもらえるのって、なんだかドキドキする」
音羽の息が、彼の勃起した先端にかかる。温かく湿った吐息が、敏感な皮膚をくすぐったく刺激する。
「じゃあ……いってみよっか」
次の瞬間、彼女の口がそれを包み込んだ。
「んっ……!」
思わず声が漏れた。あまりにも予想外の感覚に、祐馬は目を見開いた。口の中の熱さ、湿り気、柔らかい舌の動き——すべてが初めての感覚だった。
音羽はゆっくりと上下運動を始める。唇がペニスの幹を包み込み、舌先が先端の裏側をくすぐるような動きを見せる。
「くちゅ……んっ……ちゅぱ……」
卑猥な音が静かな部室に響く。雨音と混ざり合い、なぜかさらに艶めいた響きに聞こえた。
祐馬は天井を見つめたまま、呼吸が乱れるのを感じていた。麻衣のことを考えようとした。麻衣の笑顔、麻衣の優しい声、麻衣がキスの時に見せた恥ずかしそうな表情——
しかし、それらは次第にぼやけていった。股間に集中するあまりの快感が、思考を麻痺させていく。腰が自然に動き出し、彼女の口の中へと深く押し込もうとする。
「あっ……ご、ごめん……」
「んー……んんっ……だいじょ……ぶ……」
口の中にペニスを含んだまま、音羽ははっきりとは聞き取れない言葉を発する。彼女の目が上から見上げてきて、その瞳は潤んで濁った色をしていた。
彼女の手が彼の太ももを撫でる。爪が軽く皮膚を引っかくような感覚が、さらに興奮を煽る。
「くちゅ……ちゅぱっ……んっ……」
音羽の動きが速くなる。唾液が溢れ、彼のペニスから彼女の顎へと光る糸を引く。その様子を盗み見た祐馬は、あまりの淫らな光景に目を背けそうになるが、同時に見つめずにはいられなかった。
「はぁ……はぁ……先輩……もう……やばい……」
「んっ……だいじょ……ぶ……出して……?」
その許可のような言葉に、理性の最後の糸が切れた。
腰が激しく震え、深く押し込む。音羽はむせそうになりながらも、全てを受け止めるように口を深くあける。
熱い衝動が下腹部から迸り、彼女の口の奥へと激しく放出される。幾度も脈打ちながら、精液が注がれていく。
「っ……ああっ……!」
祐馬は天井を見つめたまま、身体を弓なりに反らせた。あまりの快楽に、目から自然と涙が滲んだ。
音羽はゆっくりと口を離し、飲み込むように顎を動かした。彼女の唇の端に、白い液体がほんの少しついている。
「ごくっ……ふう……すごい量だったね。我慢してたんだ」
彼女は立ち上がり、自分の唇を袖で拭った。その動作が、何故かとても大人びて見えた。
祐馬はまだ呼吸が整わず、膝ががくがくと震えていた。射精後の虚脱感が全身を覆い、同時に激しい罪悪感が胸を締め付ける。
――何をしてしまったんだ。
――麻衣に……どうやって顔を合わせればいい。
「大丈夫、大丈夫」
音羽は彼のズボンをゆっくりと上げ、ファスナーを閉めてくれた。その手つきは、まるで母親のようでもあった。
「でもね、高橋くん。これだけじゃ物足りないでしょ?」
彼女は彼の耳元に唇を寄せ、囁くように言った。
「今度は私の家で、本当のことしてあげる。全部……教えてあげるから」
「……本当の……こと?」
「うん。今みたいなことじゃなくて、もっと気持ちいいこと。私の中に入れて……ってやつ」
その言葉に、祐馬のまた下腹部が微かに疼くのを感じた。射精したばかりなのに、再び興奮の兆しが訪れていた。
「週末、ちゃんと来てね。約束だよ?」
音羽は彼の頬に軽くキスをすると、にっこり笑って部室を出ていった。
祐馬は一人残され、壁にもたれかかったままゆっくりと身体を滑り下ろした。床の冷たさがジーンズ越しに伝わってくる。
手が震えている。股間にはまだ彼女の口の湿り気と温もりが残っているようで、それが罪深い記憶として皮膚に刻まれていく。
外では雨が強くなり、窓を打つ音が激しさを増していた。
彼はゆっくりと立ち上がり、鞄を肩にかけた。足元がふらつくが、何とか歩き出す。
部室を出る時、ふと鏡に映った自分の顔を見た。目が虚ろで、どこか別人のような顔をしている。
――もう戻れない。
その思いが、冷たい重りとなって胃の底に沈んでいった。
週末が来た。
祐馬は音羽から送られてきた住所をたよりに、彼女の家を訪ねた。閑静な住宅街の一軒家で、確かに車は一台も停まっていなかった。
インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。
「やったー、来てくれた!」
音羽は普段の私服姿だった。薄いピンク色のタンクトップと、短いホットパンツ。素足で、足の爪には淡いピンクのマニキュアが塗られている。
「あ、あの……お邪魔します」
「いらっしゃい! 上がって上がって」
家の中は涼しく、清潔な匂いがした。音羽は彼を二階の自室へと導く。
「私の部屋。広くはないけど、ゆっくりしてってね」
部屋は女子高生らしく、ぬいぐるみがいくつか置かれ、机の上には化粧品が並んでいた。ベッドはシンプルなシングルサイズで、淡い水色のシーツが敷かれている。
「座って、座って。何か飲む?」
「あ、いえ……結構です」
「遠慮しなくていいんだよ。じゃあ、お茶持ってくるね」
音羽は部屋を出ていく。祐馬はベッドの端に腰掛け、落ち着かないように部屋を見回した。壁にはポスターが貼られ、その中には陸上部の大会の時の集合写真もあった。
数分後、音羽がグラスを二つ持って戻ってきた。
「ほら、麦茶。冷えてるよ」
「あ、ありがとうございます」
グラスを受け取り、一口飲む。冷たい液体が喉を通り、少しだけ緊張が和らいだように感じた。
「それでね、高橋くん」
音羽は彼の隣に座り、身体を寄せてきた。彼女の肩が彼の肩に触れ、タンクトップの薄い布地越しに体温が伝わる。
「部室でのこと……覚えてる?」
「……はい」
「気持ちよかった?」
その直球な質問に、祐馬はうつむいた。顔が熱くなるのを感じた。
「恥ずかしがらなくていいんだよ。私も楽しかったから。高橋くんの反応、かわいかったし」
彼女の手が、彼の膝の上にそっと置かれた。
「でもね、今日はもっともっと気持ちよくしてあげたいんだ。私、ずっと考えてた。高橋くんの初めて、全部私がもらっちゃいたいなって」
「先輩……」
「ねえ、私のこと『先輩』って呼ばないで。今は部活じゃないんだから。『おとは』でいいよ」
彼女は彼の顔をそっと持ち上げ、目をじっと見つめた。
「私、高橋くんのこと……祐馬って呼んでもいい?」
「そ、それは……」
「いいでしょ? だって、特別な関係なんだから」
音羽――おとははそう言うと、ゆっくりと彼にキスをした。柔らかい唇が彼の唇に重なり、舌がそっと入り込んでくる。
祐馬はその甘い口づけに、次第に身を任せていった。麻衣とのキスとは違う。もっと積極的で、もっと情熱的で、全てを奪い取るような熱さがあった。
おとはの手が彼のシャツの下に入り、腹筋を撫でる。その指先がじんわりと温かく、皮膚を這うたびに小さな震えが走る。
「祐馬……服、脱ごうか」
彼女は彼のシャツのボタンを外し始めた。一つ、また一つ。胸が露出し、彼のまだ少年らしいすっきりとした体格が現れる。
「まだ1年生なのに、結構筋肉ついてるんだね。かっこいい」
おとはは彼の胸を撫でながら、もう一度キスをしてきた。今度はより深く、より激しく。
彼女の手が彼のズボンのベルトに触れる。部室の記憶が蘇り、祐馬の身体が再び緊張する。
「今度は……私が気持ちよくなりたいな」
おとはは彼から離れ、ゆっくりと立ち上がった。そして、彼の目の前で、ホットパンツのボタンを外し、ファスナーを下ろしていく。
「見ててね。祐馬に見てもらいたいんだ」
パンツが床に落ちる。その下には薄いラベンダー色のパンティが現れた。布地は彼女の体形にぴったりとフィットし、陰毛の柔らかな膨らみが透けて見えるほど薄い。
「こっちにも……触ってほしいな」
彼女はベッドに戻り、祐馬の手を自分の腿の上に導いた。パンティの布越しに、確かに温もりと湿り気が感じられる。
「私、もう濡れちゃってる。祐馬のせいだよ」
「お、おとは……先輩……」
「触っていいよ。私のここ……感じたいでしょ?」
祐馬の指が震えながら、パンティの上からその膨らみを撫でる。柔らかく、温かく、確かに湿っている。
「そう……それで……んっ……」
おとはが甘い吐息を漏らす。彼女の目がとろんとし、頬が薄く赤らんでいる。
「もっと……下から直接触って……」
彼女の手がパンティの脇をめくり、隙間を作る。祐馬の指がその隙間から滑り込み、直接肌に触れる。
「あっ……!」
柔らかな陰毛、その下の熱く湿った肉襞。全てが初めての感触だった。祐馬の心臓が激しく鼓動する。
「指……入れてみて? 私の中……」
震える指が、ゆっくりとその湿った入口へと進んでいく。熱く、締まり、しかし驚くほどに濡れている。
「ん……あっ……そこ……祐馬の指……初めて……」
おとはの息遣いが荒くなる。彼女は彼の肩にしがみつき、顔を彼の首筋に埋める。
「もっと……もっと動かして……気持ちいい……」
祐馬は恐る恐る指を動かす。中はさらに熱く、粘膜が彼の指に絡みつくように感じられる。ぬめりが増し、小さな水音が聞こえる。
「くちゅ……くちゅ……んっ……」
「おとは……先輩……」
「あん……そう……その調子……あっ!」
突然、おとの身体が激しく震える。腿の筋肉が硬直し、彼女の爪が彼の背中に食い込む。
「はあ……はあ……いった……祐馬の指で……」
彼女は放心したような表情で彼を見つめ、汗ばんだ額を彼の肩に預ける。
「ありがとう……すごく気持ちよかった……」
しばらくして、彼女は顔を上げ、妖しい笑みを浮かべた。
「でもね、まだ終わりじゃないよ。私が祐馬に教えてあげたいこと……まだあるんだ」
おとははベッドから降り、ゆっくりと腰をかがめた。パンティを完全に脱ぎ捨てると、彼の前に完全な裸の下半身を晒した。
濃い栗色の陰毛、その下にぷっくりと膨らんだ陰唇、光沢のある愛液でぬれ光る恥丘。そして、その少し下――肛門の皺のある小さな穴。
「見て……私の全部」
彼女は自らの恥丘を指で広げ、さらに奥まで見せつけるようにした。ピンク色の粘膜が、じっとりと湿って光っている。
「こっちにも触ってほしいな。私の……お尻の穴」
「え……そ、そっちまで……」
「うん。こっちも気持ちいいんだよ。特に、舐められると……」
おとははうつ伏せに寝転がり、腰を高く上げた。その姿勢で、肛門とまだ滴る膣が彼によく見える。
「ねえ、祐馬……舐めて? 私のここ……」
彼女の声は甘ったるく、誘惑に満ちていた。
祐馬は喉を鳴らした。理性は拒絶を叫んでいるが、身体はもう興奮で熱くなっていた。彼はゆっくりと彼女の後ろに回り込み、その光景を間近で見つめた。
肛門の周りはきれいに剃られており、小さな穴が微かに縮んでいる。膣からはまだ愛液がにじみ出ており、甘酸っぱいような生々しい匂いが漂う。
「どうしたの? 怖い?」
「……いや」
「じゃあ……お願い」
彼は覚悟を決め、ゆっくりと顔を近づけた。まずは恐る恐る、舌先で肛門の周りをなぞった。
「んっ……! そ、それ……くすぐったい……」
塩味がした。汗の味だろうか。彼はもう一度、今度は少し強くなめる。
「ああん……そう……優しく……んっ……」
おとの嬌声が背中を這う。彼女の腰が微かに震えている。
祐馬は次第に大胆になり、舌で穴の周囲をぐるりと舐め回す。次に、膣の方へと舌を移動させ、たっぷりと溜まった愛液を味わう。
甘く、少し酸っぱく、濃厚な味が口の中に広がる。これが女の子の味か――その思いが、さらに興奮をかき立てる。
「くちゅ……ちゅぱ……んっ……」
彼は夢中になって舐め続ける。おとはの呻き声が次第に大きくなり、腰が彼の顔に押し付けてくる。
「あっ……あん……そこ……もっと……んんっ!」
突然、彼女の身体が再び激しく震え、腿が彼の頭を締め付けるように挟む。熱い液体が彼の顔に迸り、甘い匂いが一段と強くなる。
「はあ……はあ……すごい……祐馬……すごく上手……」
おとはは放心したようにベッドに崩れ落ち、胸を波打たせながら喘いでいる。
彼女はゆっくりと身体をひっくり返し、潤んだ目で彼を見上げた。
「じゃあ……次は祐馬の番だね」
彼女は彼を引き寄せ、熱いキスをしながら彼のズボンを下ろしていく。もう彼のペニスは限界まで勃起し、先端からは透明な液がにじんでいる。
「入れて……私の中に……全部入れて……」
おとはは自らの腿を広げ、濡れ光る膣の入口を彼に見せつける。
「これが……私の本当の初めてってこと……覚えててね」
彼女の手が彼の腰を掴み、ゆっくりと彼を引き寄せる。
熱く湿った入口が、彼の先端を受け入れる。あまりの締まりと熱さに、祐馬は思わず目を見開いた。
「ゆっくりでいいよ……あっ……入ってくる……」
一寸、また一寸と、彼は彼女の中へと沈み込んでいく。膜を破る感覚はなかった――彼女はすでに経験者なのだと、遅ればせながら理解する。
しかし、その熱さ、締まり、ぬめり――全てが彼を狂わせるには十分だった。
「ああ……っ……おとはせんぱい……」
「うん……私の中……感じて……全部……」
完全に根元まで埋めると、彼女は深い溜息をついた。
「動いて……祐馬……好きなように動いていいから……」
許可を得て、彼は腰を引いて、再び押し込んだ。
「んっ! あっ……そう……それ……気持ちいい……」
おとはの嬌声に後押しされ、彼は次第にリズムを速める。ずぶずぶと水音が響き、ベッドがきしむ。
「あっ……あん……もっと……強く……んんっ!」
彼は彼女の腿を掴み、激しく突き上げる。快感が脊髄を駆け上がり、もう限界が近い。
「一緒に……おとは……私も……」
「ああ……もう……だめ……!」
「いいよ、中に出して…あぁああ」
腰の動きが乱れ、深く押し込んだまま、熱い液体が彼女の奥で迸る。幾度も脈打ち、全てを注ぎ込む。
「はあ……はあ……」
彼は彼女の上に崩れ落ち、激しい呼吸を繰り返す。おとはは優しく彼の背中を撫でながら、小さく笑った。
「どうだった? 気持ちよかった?」
「……うん」
「よかった。でもね、まだ終わりじゃないよ。今日は何回でもしていいから。私、祐馬の全部が欲しいんだ」
彼女の言葉に、祐馬はまた少しだけ興奮が蘇るのを感じた。
窓の外では夕日が沈みかけ、部屋の中をオレンジ色の光が優しく染めていた。
彼はもう、麻衣のことを考える気力さえ残っていなかった。
第4章 君の去った背中と、壊れた約束

第4章: 君の去った背中と、壊れた約束
音羽の家でのあの日から、時間はゆっくりと、しかし確実に流れていた。
部室でのフェラチオ、彼女の自室での初めての性交——それらは「セフレ」という便利な言葉で括られ、週に一度、時には二度の肉体の交わりとして日常に定着していった。
祐馬は毎週土曜日の午後、音羽の家を訪れるようになった。
彼女の両親は仕事が忙しく、ほとんど在宅していなかった。鍵を預かっている彼女は、いつでも彼を招き入れることができた。
「おかえり、祐馬」
ドアを開けるたびに、音羽は軽いタンクトップと短いパンツ姿で現れた。彼女はもう「先輩」と呼ばせることなく、最初から馴染んだ口調で彼を迎え入れる。
「今日も暑いね。クーラーつけておいたよ」
彼女の部屋はいつも涼しく、甘い芳香剤の匂いが漂っていた。ベッドは整えられ、枕はふわふわと膨らんでいる。
「どうしたの? なんか疲れてるみたい」
「あ、いや……別に」
祐馬はベッドの端に腰掛け、鞄を床に置いた。実際、彼は少し疲れていた。というより、心がどこか宙ぶらりんの状態だった。
音羽との肉体関係は、確かに快楽に満ちていた。彼女は彼の身体の反応をよく知り、巧みに興奮させ、何度も絶頂へと導いてくれた。
しかし、その後に訪れる虚脱感は、日を追うごとに深くなっていくばかりだった。
「ねえ、祐馬」
音羽が彼の隣に座り、肩を寄せてきた。彼女の体温が、薄い布地越しに伝わってくる。
「麻衣ちゃんとは、最近どうなの?」
その名前を聞いた瞬間、祐馬の胸がぎゅっと締め付けられた。
「……別に、変わらないよ」
「そう? でも、前みたいに毎日一緒に帰ってる様子、見かけないけど」
音羽の指が、彼の膝の上をそっと撫でる。その動きは優しいが、どこか探るような感触があった。
「私、祐馬が麻衣ちゃんと別れるなんて望んでないからね。最初に言ったでしょ? セフレでいいって」
彼女は彼の耳元に唇を寄せ、吐息をかけるように囁いた。
「だから、彼女とは普通に付き合ってて。ただ……時々、私のところに来てくれればそれでいい」
「……なんで、そんなことするの?」
祐馬は思わず尋ねた。彼はまだ、彼女の動機が完全には理解できていなかった。
音羽は少し間を置き、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「だって、祐馬が可愛いから。それに……私も気持ちよくなりたいし」
彼女の手が彼の太ももを這い、股間へと近づいていく。
「今日はどんな風にしようか。前回みたいに、後ろからもいいし……口でする?」
その選択肢を与えられるたびに、祐馬は自分の欲望の浅ましさを痛感した。彼は彼女の誘惑に抗えず、毎回深みにはまっていくのだった。
一方、麻衣との関係は、目に見えて変化していた。
放課後、二人で帰る道すがら、祐馬は以前のように彼女の手を握らなくなっていた。握ることはしても、それはかつてのような温もりを感じさせない、形式的なものだった。
「祐馬、最近……なんか変だよ」
ある金曜日の放課後、麻衣は小さな声でそう切り出した。彼女は下を向きながら、ゆっくりと歩いていた。
「宿題も一緒にやらなくなったし、ラインの返事も遅いし……」
「ごめん。部活が忙しくて」
祐馬はすぐに言い訳を口にした。それは真実ではなかった。部活は確かに忙しかったが、それ以上に、音羽との関係を隠し通すことの心理的重圧が彼を消耗させていた。
「祐馬、私……何か悪いことした?」
麻衣の声が震えていた。彼女はやっと顔を上げ、潤んだ目で彼を見つめた。
「もし私が、祐馬をがっかりさせることしたなら……謝るから。教えてくれる?」
その真摯な眼差しに、祐馬は胸が痛んだ。彼女は何も悪くない。悪いのは、音羽の誘惑に負けた自分だ。彼女の「結婚まで純潔を守る」という信念を尊重できなかった自分だ。
「麻衣は悪くないよ。ほんとに、部活が忙しいんだ」
彼は彼女の肩を軽く叩き、無理やり笑顔を作った。
「来週の文化祭が終わったら、落ち着くから。それまで、ちょっと我慢してくれる?」
麻衣はじっと彼の顔を見つめ、ゆっくりとうなずいた。
「うん……わかった。文化祭、一緒に回ろうね。約束だよ」
「ああ、約束」
その言葉は、彼の口の中で重く澱んだ。
文化祭前日の木曜日、祐馬はまた音羽の家を訪れていた。
「明日は文化祭かあ。楽しみだね」
音羽はベッドに仰向けになり、天井を見つめながら言った。彼女はパンティ一枚だけの姿で、腿をゆっくりと開いたり閉じたりしていた。
「祐馬も麻衣ちゃんと回るんでしょ? うらやましいな」
「……別に、うらやましがることないだろ」
「だって、私と祐馬の関係、誰にも言えないじゃん。文化祭で手をつないで歩くなんて、絶対できない」
彼女はくるりと身体をひねり、うつ伏せになった。腰を少し持ち上げ、パンティの薄い布地が陰部の形に張り付いている様子を彼に見せつける。
「だから、今日はたっぷり私を満たしてよ。明日、彼女と一緒にいるときも、私のことを思い出せるように」
「おとは……」
「ねえ、後ろから入れて。深く、いっぱいまで」
音羽は自らのパンティを横にずらし、濡れて光る陰唇を見せた。肛門の皺もわずかに開き、誘うように脈打っている。
祐馬はズボンを下ろし、すでに勃起したペニスを握った。彼は彼女の背後に立ち、腰を押し付ける。
先端が湿った入口に触れる。熱い。締まっている。
「あっ……ゆっくりでいいよ……んっ……」
彼は腰を押し出し、膣の奥深くへと侵入していく。ずぶりと根元まで埋まり、肉襞が彼をぐっと締め付ける。
「ううん……それ……すごい……奥まで……」
音羽の嬌声が部屋に響く。彼女は枕に顔を埋め、腰をくねらせる。
祐馬はリズムを刻み始めた。ずっぽり、ずっぽりと、水音を立てながら。
「くちゅ……ぐちゅ……んっ……あっ……」
彼の手が彼女の腰を掴み、激しく引き寄せる。毎回、睾丸が彼女の陰部にぶつかる感触が、卑猥な快楽を増幅させる。
「もっと……強く……あん……祐馬の……感じる……」
彼女の喘ぎ声に促され、彼はペースを上げる。汗が額から滴り、ベッドシーツに落ちる。
腰の動きが荒くなる。射精が近い。
「おとは……もう……」
「うん……一緒……私も……」
彼女の膣が痙攣し、ぐっと締まる。その刺激に、祐馬は耐えきれずに中で放出した。
熱い液体が迸り、何度も脈打つ。
「はあ……はあ……」
彼は彼女の上に崩れ落ち、激しい呼吸を繰り返した。音羽は小さく笑いながら、彼の汗ばんだ背中を撫でた。
「ありがとう。これで、明日も頑張れる」
その言葉が、なぜか彼の胸に冷たい棘を突き刺した。
文化祭当日、学校は非日常の熱気に包まれていた。
教室は模擬店や展示に改装され、廊下には浴衣姿の生徒たちが溢れかえっていた。夜には花火も上がり、夏の終わりを惜しむように空を彩った。
祐馬は麻衣と一緒に、各クラスの出し物を回った。彼女は淡い水色の浴衣を着て、いつもより少し大人びて見えた。
「祐馬、綿あめ食べる?」
「あ、うん……」
彼は彼女の笑顔に応えようと努めたが、心はどこか遠くにあった。昨夜の音羽との情事の記憶が、時折フラッシュバックのように甦るのだ。
麻衣が綿あめをほおばる様子、はしゃいでゲームに挑戦する様子——全てが可愛らしく、彼女らしいのだが、なぜかその純粋さが彼を苦しめた。
「祐馬、あっちのクラス、お化け屋敷やってるよ。行ってみよう」
彼女が彼の袖を引っ張る。その触れ方が、あまりにも無邪気で切ない。
夜が更け、花火が終わり、生徒たちが少しずつ帰り始めた頃だった。
麻衣は祐馬を校舎の裏手——人気のない中庭へと連れて行った。そこには古いベンチが一つ置かれているだけで、街灯の光も届きにくい暗がりだった。
「ここ、静かだね」
麻衣はベンチに腰掛け、そっとため息をついた。
「今日、すごく楽しかった。祐馬と一緒に回れて」
「……そうか。よかった」
祐馬は彼女の隣に座った。二人の間に、ぎこちない沈黙が流れる。
遠くで、まだ残っている生徒たちの笑い声がかすかに聞こえる。文化祭の余韻が、ゆっくりと冷めていく音のようだった。
「祐馬」
突然、麻衣が彼の名前を呼んだ。彼女の声は、今までになく固く震えていた。
「私……もう限界なんだ」
「え?」
「嘘だってわかってる。部活が忙しいなんて……祐馬の心が、私から離れて行ってるの、感じてる」
彼女は涙を浮かべていた。街灯のわずかな光が、その頬を伝う一滴をきらめかせた。
「私が悪いんだよね。祐馬が触りたいって言ったとき、拒んじゃった。でも……でも、私だって祐馬のこと好きなんだよ。ただ、それが……恥ずかしくて、怖くて」
「麻衣……」
「もう我慢できない。祐馬が欲しい。全部……全部あげるから」
麻衣は立ち上がり、彼の前に立った。彼女の手が、浴衣の帯に触れる。
指先が震えながら、結び目を解いていく。帯が緩み、前が開く。
「待って、麻衣……」
「ダメ。聞かないで」
彼女は浴衣の襟を広げ、その下の肌を露出させ始めた。鎖骨の滑らかなライン、白いブラの一部——
そして、彼女の手がブラの真ん中のホックに触れた。
「私、変わるから。祐馬が望むように……なるから」
カチャリ、という小さな音。
ホックが外れた。
「だから……私のこと、見捨てないで」
彼女の指がブラの肩紐を外そうとした瞬間、祐馬は立ち上がり、彼女の手を掴んだ。
「やめて」
その声は、思った以上に冷たく、固かった。
麻衣は凍りついたように動きを止め、ゆっくりと顔を上げた。彼女の目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「……なんで? 私、祐馬に捧げようとしてるのに」
「ごめん、麻衣」
祐馬は彼女の手をそっと離し、一歩後ろに下がった。胸の奥で、何かが砕ける音が聞こえたような気がした。
「もう……遅いんだ」
「……遅い?」
麻衣の声がかすれた。
「どういうこと? 説明してよ、祐馬」
「俺……他の女と、関係を持っちゃったんだ」
言葉が、一つ一つ重たく落下していく。
「先輩と……音羽先輩と。何度も……セックスしてる」
麻衣の顔から血色が引いていくのがわかった。彼女の唇が微かに震え、しかし声は出ない。
「最初は誘惑に負けたって思ってた。でも……今は違う。俺は、あの快楽に溺れてる。麻衣とは違う、何でも許される関係に」
「……うそ」
やっと、か細い声が彼女の唇から漏れた。
「祐馬が……そんなことするわけない。私たち、幼馴染じゃないか。ずっと……ずっと一緒だったじゃないか」
「だからこそ、なんだよ」
祐馬は思わず声を強めてしまった。自分の中に溜まっていた罪悪感と後悔が、堰を切って溢れ出そうとしていた。
「麻衣とは、いつも『正しいこと』をしなきゃって思ってた。キスするのも、手を繋ぐのも、全部……ちゃんとしなきゃって。でも、音羽先輩とは違うんだ。何も考えなくていい。ただ気持ちよければそれでいい」
彼は深く息を吸い込み、最後の一撃を放った。
「別れよう、麻衣。これ以上、お前を傷つけたくない」
麻衣は一言も返さなかった。彼女はただ、ぼんやりと彼を見つめている。頬を伝う涙も、もう止まっていた。
やがて、彼女がゆっくりと浴衣の襟を閉じ、帯を締め直した。その動作は、機械的で、感情を剥ぎ取られたものだった。
「……わかった」
彼女の声は、驚くほど平然としていた。
「じゃあ……もう、帰るね」
「麻衣……」
「何も言わないで。今、祐馬の声を聞いたら……私、崩れちゃいそうだから」
彼女はくるりと背を向け、暗闇の中を歩き出した。浴衣の裾が、ゆっくりと夜の闇に消えていく。
祐馬はその背中を見送るしかなかった。
彼女が去った後、彼は一人でベンチに座り続けた。手のひらを開くと、そこには彼女の涙が少しだけ残っていて、冷たい夜風にさらされてもなかなか乾かなかった。
彼は立ち上がり、校舎の外へと歩き出した。
携帯電話が震える。画面には、音羽からのメッセージが表示されていた。
『文化祭、どうだった? 今日、私の家に来ない? 両親、終夜外出だし』
彼は少しだけ考え、返信を打った。
『うん。今から行く』
その夜、音羽のベッドで、彼はかつてない激しさで彼女と交わった。
「んっ! ああ……祐馬……今日、すごく……激しい……」
音羽の嬌声が耳元で響く。彼女の腿が彼の腰を締め付け、膣が彼のペニスを貪るように吸い付く。
「もっと……もっと強く……あん!」
彼は腰を振り続けた。麻衣の泣き顔が、一瞬脳裏をよぎる。あの震える声、崩れ落ちそうな背中——
しかし、次の瞬間、音羽の膣の奥で迸る快楽が、そのイメージを粉々に打ち砕いた。
「ああっ……! おとは……!」
「うん……出して……私の中に……全部……」
熱い液体が放出され、彼は彼女の上に崩れ落ちた。汗の匂いと体液の甘ったるい匂いが、部屋の中に充満していた。
音羽は優しく彼の髪を撫でながら、小さく笑った。
「今日も、ありがとう」
彼女の声を聞きながら、祐馬はふと気づいた。
彼はもう、麻衣のことを考えることすら、苦痛ではなくなっていた。ただ、遠い記憶の中の、色あせた写真のように感じられるだけだった。
窓の外では、夜が深まっていく。
街灯の光が部屋の中に差し込み、交わり合った二人の身体を淡く照らしていた。
祐馬は目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。
彼の胸の奥には、もう何もなくなっていた。罪悪感も後悔も、全て音羽という快楽の沼に沈み、消えていった。
ただ一つ、確かなことがあった。
あの日、校舎の裏で去っていった麻衣の背中は、もう二度と追いかけることはできない——ということ。
彼はそっと音羽の身体に寄り添い、眠りについた。
夜風が窓を軽く叩き、遠くで誰かの笑い声がかすかに聞こえるような気がしたが、それはすぐに消えていった。
すべてが終わり、新しい日常が始まる——ただそれだけの、静かな夜だった。
登場人物
-
高橋 祐馬 たかはし ゆうま男性 ・ 16外見: 少し寝癖のある短い茶髪、焦げ茶色の瞳、少年らしく細身だが陸上部で鍛えられた引き締まった手足。身長168cm。服装: 学校では学生服、私服はシンプルなTシャツにジーンズ。性格・特徴: 明るくさわやかで友人も多いが、思春期真っ只中の性への好奇心は強い。麻衣への純粋な想いと、湧き上がる肉欲の間に板挟みになりやすい。
-
友永 麻衣 ともなが まい女性 ・ 16外見: 肩まで届くストレートの黒髪、大きく澄んだ黒目、華奢で細い腕と足。身長155cm。制服の下は未だ子供っぽさの残る柔らかな身体。服装: 学生服をきちんと着こなし、私服も清楚なワンピースやブラウスが多い。性格・特徴: 真面目で芯が強く、恋愛に対しては理想主義的。大切なものは結婚まで取っておきたいという強い信念があり、それがゆえに祐馬との間に微妙な距離を生む。口調は丁寧で、ときには頑な。
-
木村 音羽 きむら おとは女性 ・ 17外見: 軽くウェーブのかかった栗色のロングヘア、切れ長の茶色の瞳、女子陸上部らしいスラリとした手足と、緩やかに隆起した胸と腰の曲線。身長162cm。服装: 部活後はユニフォームの上にジャージを羽織ることが多く、私服は大人びたタンクトップやフィットしたトップスを好む。性格・特徴: 自由奔放で男慣れしている。性的なことへの抵抗が薄く、欲求をストレートに表現する。後輩の祐馬を「可愛い」とからかいながらも、その純真さを弄ぶような誘惑を仕掛ける。口調は少しだらっとした、甘えたような巻き舌が特徴。





