第4章: 決断、引き裂かれる関係

不和先輩の部屋で明けた朝の光は、薄いベールのように窓から差し込み、朋美の肌に昨日とは違う色を落としていた。
腰の奥に鈍く、そして甘く残る疼き。シーツに染み付いた、男の汗と精液、そして先輩の優雅な香水が混じり合った、濃密な匂い。それらが昨夜の激しい情事の記憶を、あまりにも現実的に呼び覚ます。
彼女はベッドの上で胎児のように丸くなり、健輔の顔を思い浮かせようと必死に試みた。だが、脳裏に蘇るのは、不和の丁寧な声と、あの圧倒的な肉塊が自分の体の奥深くを貫き、抉り上げる感覚だけだった。
罪悪感が鉛の塊のように喉に詰まっているのに、なぜか体は芯から温かく、女として深く満たされてさえいるのだと自覚した瞬間、朋美はもう後戻りできないと悟った。このまま健輔との関係を続けることの方が、よほど酷く、身勝手な裏切りだと感じていた。
ゆっくりと身を起こし、枕元のスマートフォンを手に取る。冷たいガラスの画面が、まだ睡気に浮かされた彼女の瞳を冷たく映し出す。アプリの一覧から、慣れ親しんだ健輔とのトーク画面を開く。
永遠に続くと思っていた、愛情のこもったスタンプや、些細な日常を報告し合う無数の文章の列。それらが、今はもう、遠い昔の自分のもののように思えてならなかった。
震える指で、キーボードを打つ。一度でいい、ちゃんと顔を見て別れを告げるべきだという理性の声がかすかに聞こえるが、その声は、不和に弄ばれた肢体の記憶の前では、あまりにか細く、無力だった。
「…ごめんなさい、健輔。もう、やめたいの。好きな人が、できた…」
短く、冷たく、そして決定的な一文。送信ボタンを押す指に、力が入らない。画面の隅に表示された「既読」の二文字が、青い炎となって彼女の心臓に突き刺さる。
続けて、彼女は鍵を返すこと、彼の私物を梱包して送ることを告げる、事務的で無機質な連絡を打ち込んだ。これで全てが終わりだ。健輔がどんなに傷つこうと、自分はもう彼を振り返ることはできない。そう自分に言い聞かせ、朋美は顔を熱い掌に埋めた。掌の下から、抑えきれない熱い涙が零れそうになるのを必死にこらえていた。
一方、健輔は実家の自分の部屋で、朋美からの通知に茫然と立ち尽くしていた。好きな人ができた。その五文字の意味が、すぐには理解できなかった。悪い冗談なのか、それとも何かの間違いなのか。
彼は何度もその文章を読み返したが、文字は変わることなく、彼の世界を静かに、しかし確実に崩壊させていた。混乱と焦燥が頭の中で黒い渦となって巻き、彼は何も考えられなくなった。ただ、このままではいけない、朋美に直接会って、このことを確かめなければと、突発的に行動を起こした。
飛び乗った電車の窓から流れる街並みは、色も形もなく、ただのノイズのように眺めていた。心臓が異常な速さで脈打ち、手のひらは冷や汗でべっとりと濡れていた。アパートの前まで走ると、彼は慣れた手つきでインターホンのボタンを押そうとした。
しかし、その指がボタンに触れる寸前で、彼は動きを凍りつかせた。ドアの向こうから、かすかに、しかし確かに聞こえてくる音があった。それは、男の声だった。
「ああ…浅香さん、本当に…嬉しい。僕の全部を、受け止めてくれるなんて…」
その声は、丁寧で、優雅で、どこか聞き覚えがあった。テニスサークルの、不和先輩だ。健輔の思考は停止した。なぜ、先輩が朋美の部屋に?そして、その言葉の意味は?疑問が湧き上がるよりも先に、今度は朋美の声が聞こえてきた。
それは、健輔が一度も聞いたことのない、息も絶え絶えな、しかし明らかに悦びに満ちた、淫らな声だった。
「ひぃっ…!ああっ!先輩!そこ、そこをッ!もっと激しく…突いて…!」
その言葉に続いて、あぁぁあっ…と、生々しく、蕩けきった嬌声が響いた。健輔の足が、地面に根付いてしまった。信じられないという気持ちと、目の前で起こっている現実から逃げ出したいという恐怖が、彼の体を麻痺させた。
しかし、その足は、悪夢にでも引きずり込まれるかのように、ゆっくりとドアに近づいていく。彼は震える手で、ノブをそっと回した。ドアは、ほんの数センチだけ、罪深い隙間を開けていた。
その隙間から覗いた光景は、健輔の存在そのものを否定するほどに、淫靡で残酷だった。部屋は薄暗く、一本のスタンドライトだけが、ベッドの上を不気味に照らし出している。
そこには、全裸の二人が獣のように絡み合っていた。不和先輩が、穏やかでさえある微笑みを浮かべながら、朋美の股間に自らの腰を沈めている。彼の背中には汗が光の粒となってきらめき、引き締まったお尻が、獣のように力強くリズミカルに上下する。
その巨大な性器が、朋美の濡れそぼった膣から抜けたり、深々と抉り込んだりするたびに、ぬちゃっ、ぐちゅぐちゅ、じゅるじゅる…という下品で水音が部屋に充満していた。
朋美は、健輔が知らない顔をしていた。目は恍惚と潤み、口は半ば開き、快感に絶えず嬌声を上げている。彼女の白い乳房は、先輩の激しいピストンに合わせて不規則に揺れ、乳首は硬く勃起していた。
彼女は自分から足を大きく開き、先輩の腰に深く絡みつけ、できるだけ多くの肉を受け入れようと、自ら獣のように腰を突き上げている。その姿は、健輔が愛してきた、恥じらうことの多かった幼馴染ではなかった。それは、快楽にだけ忠実な、一つの雌の姿だった。
「ひぃっ…!ああっ!先輩…!そこ…ッ!もっと…!」
「浅香さん…僕も、もう…我慢できない。あなたの奥の、一番深いところで…全部、注ぎ込むね…」
不和の声は、最後まで丁寧だった。しかし、その言葉と裏腹に、彼の腰の動きはさらに荒くなり、まるで朋美の体を自分のものに刻みつけるかのように、容赦なく巨根を打ち込んでいく。
そして、朋美が背筋を反らせ、蝉の鳴き声のような甲高い叫びを上げて絶頂に達した瞬間、不和も大きく身を震わせ、彼女の膣の奥に熱い濃いものを注ぎ込んだ。ぴゅるっ、ぴゅるっ…と、獣の咆哮のような射精音。
二人の体は、しばらくの間、きつく絡み合ったまま動かない。
健輔は、その光景を見続けることができなかった。彼は無言で後ずさりし、震える足でその場を離れた。廊下を歩き、エレベーターに乗り、アパートの外に出ても、目に映るものは全て白黒だった。
頭の中では、先輩のたくましい股間が、自分の恋人のあそこに出し入れされている光景が、何度も何度もフラッシュバックする。自分にはない、あの圧倒的な肉体。自分では与えられなかった、あの底なしの快楽。
全てを奪われた、という喪失感が、彼の体の芯から凍りつかせていた。青春とは、かくも脆く、痛々しい形で、その幕を下ろすものなのだと、彼は骨の髄まで思い知った。
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