第2章: 合宿の夜、壊された純潔

夏の始まりの、粘つくように湿った空気が汗の甘ったるい匂いと安物ビールの酸っぱい匂いを混ぜ合わせ、合宿所の薄汚い廊下に充満していた。
薄い壁を隔てて響き渡る宴会の騒ぎが、まるで朋美の鼓動を無理やり掻き立てるかのように、不快な高音で耳に突き刺さる。
健輔と過ごした穏やかで、どこか青臭い日々が、まるで遠い国の出来事のように色褪せ、胸の奥がきゅうと締め付けられるような苦痛が襲う。
派手な笑い声や、グラスがぶつかる甲高い音が響くたびに、この輪にただ居合わせることさえ、耐え難い恥辱として肌に焼き付いていく。
「よーし、じゃあ次の王様は…んーと、オレだ! うわーっと面白いことしようぜ…よし、10番の番号の奴、パンツ脱げ! ちなみに女の子だったら、ブラジャーもな!」
王様になったサースの先輩が、酔いにまなこを潰らせながら大声で叫ぶ。
周囲の男たちは「おーっ!」と下品な声を上げて盛り上がり、女たちからは「ヤメてよ!」というブーイングが飛んだ。
朋美は、自分が引いた札の番号「10」を、じっと見つめる。顔から一気に血が引いていく、氷のような感覚が全身を駆け巡った。
一瞬、世界から音が消え、呼吸が止まる。
「…はい」
堪えきれない羞恥に喉が渇き、か細い声で名乗りを上げる。
部屋がどよめく。男たちの視線が熱い針となって肌を刺し、女たちの視線が冷たい刃となって心をえぐり取っていく。
ゲームを中断させることなどできない。そんな重苦しい、呪われた空気。
羞恥で目の前が霞み、彼女は震える指でスカートの裾をそっと掴んだ。
健輔に選んでもらった、控えめで可愛らしい純白の綿の下着。
それをそっと足首まで引き下ろし、小さく丸めて手のひらで握りしめる。裸になった下半身に、廊下の冷たい空気が心地悪く、しかし刺激的に触れた。
「お、おう! 浅香さん、やるじゃん!」「えちえち…!」
下品な歓声と野太い笑いが渦巻く中で、不和だけが少しだけ眉をひそめ、静かに、しかし貪るようにこちらを見つめていた。
その視線に、他の誰よりも強烈な羞恥が、炎のように燃え上がる。
ゲームは続き、次の王様は別の男子が引いた。
そして、その命令は、朋美の心臓を氷漬けにした。
「おーい、王様の命令でーす! さっきパンツ脱いだ10番の子、不和先輩の股間、よろしくな! なでて、もてあそんで、って感じで!」
「え…?」
世界が音を立てて崩れ落ちていく。周りはただ面白がって騒ぐだけ。
どうしよう、どうすればいい。立ち上がれない。動けない。
その時、不和が隣に座り、身を乗り出して囁いた。
その声は、騒がしい部屋の中でも不思議と澄んで、耳の奥にじんわりと染み渡った。
「…大丈夫だよ、浅香さん」
「僕が、ついてるから」
その優しさが、かえって朋美の罪悪感に油を注ぐ。彼をこの泥沼に巻き込んでしまう。
ごめんなさい、先輩…。心で謝りながらも、彼女は仕方なく膝をつき、不和の前に進んだ。
ブランド物のラフなジーンズ。その太ももの付け根あたりから、信じられないほどの熱が放射されている。
震える右手を、ゆっくりと伸ばす。
ジーンズのザラついたデニムの感触が、指先を過敏に刺激する。そして、その生地の下に、信じられないほどの塊が、獣のように眠っていた。
「ごめんね、浅香さん」
不和が言う。だが、彼の股間は朋美の手のひらに、明確に反応していた。
うっすらと熱を帯びていただけだったものが、みるみるうちに脈動を始め、硬質な塊となって彼女の手にその存在を押し付けてくる。
大きすぎる。健輔のとは全く、質が違う。
これは、成人した男の、逞しく、獣のような部分だ。
周りの笑い声が嘘のように遠のき、朋美はただその熱と硬さに、息を呑んでいた。指先を伝う脈動が、まるで彼女の脳を直接揺さぶっているかのようだった。
ゲームが終わり、やれやれというどよめきの中、朋美は必死に下着を穿き直した。
不和の顔は見られない。どうやって顔を合わせればいいのか。
宴会が終わって部屋に戻る廊下を歩くだけで、足がガクガクと震えて止まらない。
部屋のドアに鍵をかけ、背中で預けると、全身の力がぬけた。
ベッドに倒れ込むと、まだ残る酒の匂いと、自分の体から発する恥ずかしい汗の匂いが混ざり合う。
でも、頭の中に浮かぶのは、あの感触。
不和先輩の、あの熱くて、硬くて、大きすぎるもの。
指先が、今もあの脈動を記憶しているかのように、疼いている。
何でこんなに…。
何で、こんなことをしてしまったんだろう。
健輔のことを考えると、胸が張り裂けそうになる。
でも、体は正直だった。
スカートの下を、自分でも信じられないくらい濡れていることに気づく。羞恥と、それとは別の、暗い熱が、下半身を中心に渦巻いていた。
だめだ…。こんなこと、考えてちゃ。
でも、考えないではいられなかった。
彼女はそっと、自分の指を、濡れた布地の下へと滑り込ませた。
アソコは、まるで誰かを待ちわびていたかのように、熱い蜜を噴き出していた。
くちゅっ、と、少し下品な音が静かな部屋に響く。
朋美は顔を真っ赤にしたが、指を止めることはできなかった。
健輔と二人きりの時に感じることのなかった、このどろどろとした、粘っこい欲望。
「先輩の…」
ふと、漏れてしまった声。
彼女は目を閉じ、あの光景を思い出した。
ジーンズの上から触れた、あの逞しい隆起。
もし、あれが直接、自分の…。
想像しただけで、膣内がきゅうっと痙攣するように締め付けられる。
指先で自分のクリトリスを弄り始めると、びくん、と腰が跳ねる。
くちゅっ、ぐちゅっ、と愛液を弄る音が、彼女の耳には甘い調べのように聞こえ始めていた。
「んっ…はぁん…」
もう、健輔の顔は思い浮かばない。
あるのは、笑いながら優しく声をかけてくれる、チャラ男の見た目をした不和先輩の顔だけ。
その丁寧な口調で、自分を罵倒してくれるような、そんな倒錯した幻想に浸りながら、彼女は指の速度を上げていく。
先輩の、あの太いもので…ずぶずぶと、抉られるように…。
はぁん、んんっっ!
頭の中が真っ白になり、背筋を電気が走る。
羞恥と背徳の快感が、潮のように彼女を飲み込み、体を震わせながら、静かに、しかし激しく絶頂が襲った。
息を切らし、ベッドに倒れ込む。
部屋には、愛液の生々しい匂いが充満している。
純情だったはずの自分が、たった一夜で、こんなにも汚れてしまった。
罪悪感に涙が滲むが、体の奥に残る快感の余韻は、消えようとしなかった。
壊れてしまった。
もう、元の純情な浅香朋美には、戻れない。
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