第1章: 喪失の底で鳴る、冷たい時計の音(続き 3/3)
町のどこかで、誰かが悲鳴を上げ、誰かが泣き、誰かが必死に生きようとしている。
その音は次第に遠ざかり、やがて雨音だけの世界に戻る。ただ、雨戸を打つ音だけが残る。
学はゆっくりと立ち上がった。関節が悲鳴を上げる。
洗面所に向かった。鏡に映った自分の顔は、涙で汚れ、みすぼらしく老け込んで見える。目の周りが赤く腫れ、鼻の頭も赤い。
水で顔を洗い、タオルで拭う。全ての動作に、どこか機械的な無感情が宿っている。手の動きだけが、淡々と続く。
再び居室に戻り、布団に入る。体は冷え切っていた。足先が氷のように冷たい。
もう一度、天井の染みを見上げる。ぼんやりと闇の中に浮かび上がる、不規則な形。
今日という日が終わり、明日も同じ日が始まる。
その先に、何があるというのだろう。
希望という言葉は、まるで別の言語で書かれた異国の単語のように、頭の中では意味をなさなかった。空虚に響くだけだ。
闇の中で、学は静かに目を閉じた。
耳を澄ませば、自分の心臓の鼓動と、雨戸を打つ雨の音だけが交互に響いている。
トン……トン……ザー……ザー……
それらが混ざり合い、冷たい時計の音のように、彼の残りの人生を刻み始めているように感じられた。
その音は、終わりに向かって、ただひたすらに、静かに響き続けるのだろう。
永遠に。
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