第3章: 剥かれた羞恥心(続き 2/3)
声が上擦り、かすれている。彼女はうつむいて玄関に上がり、スリッパに履き替えようと腰をかがめた。その瞬間、ドレスの胸元が大きく開き、中身を包むもののない乳房の谷間が、小林の立ち位置からはっきりと見下ろせる角度になったはずだ。彼女はわざと動作を遅らせ、スリッパの踵をゆっくりと押し込んだ。振り返ると、小林はもう彼女から目を離しており、無言で居間へと歩き出していた。しかし、その沈黙が、先ほどの濃密な視線の余韻をさらに増幅させてしまう。
いつものように雑巾がけを始めたが、今日はすべてが違った。体の動きのすべてが、布地の下の裸の肌に直結している。床に膝をつくことも、中腰で前にかがむことも、すべてが刺激となって跳ね返ってくる。特に、床を拭くために腰を落とし、お尻を後ろに突き出した時、薄いニット生地が恥丘と肛門の間にぴったりと張り付き、割れ目の形が完全に浮き彫りになる。しかも、愛液でべとべとと湿っているため、生地が肌に密着し、陰唇の左右の膨らみさえもが、透けるほど薄いベージュ色の布越しに、その存在を主張しているように思えた。
小林は居間のいつもの椅子には座っていなかった。今日は、窓際に立ち、外を見ているように見えた。しかし、恵子にはわかる。彼の身体の向き、頭の角度からして、窓ガラスに映る彼女の姿を、静かに見つめているに違いない。その確信が、彼女の体内に甘い痺れを走らせた。拭き掃除の動作は次第に、単なる清掃ではなく、見せるための淫らなパフォーマンスへと変質していった。雑巾を押し出す手の動きに腰の動きを合わせ、お尻を左右にゆっくりと振る。そのたびに、ドレスの裾が少しずつ上がり、腿の後ろの白い肌が露出し、その上を伝うように愛液の光りさえ見えそうな気がした。
そして、彼女が食器棚の近くまで雑巾がけをしてきた時、事は起こった。小林が窓際から静かに歩み寄り、彼女のすぐ後ろ、触れられるか触れられないかの距離に立った。彼の存在感が、背中一面に重くのしかかる。古びたセーターから漂う、かすかな樟脳と老齢の体臭が混ざった匂いが、恵子の鼻腔を満たした。彼女の動作は止まり、雑巾を握った手が微かに震えた。
「……」
小林は何も言わなかった。しかし、彼の枯れた、血管が浮き上がった手が、ゆっくりと伸びてきた。目標は、彼女の腰だった。ドレスの薄い生地越しに、その手のひらが、彼女の左の腰骨のあたりに、静かに、しかし確実に触れた。
「あっ……」
息が詰まるような声が、恵子の唇から零れた。触れられた部位から、電流が走り、子宮の奥までがきゅんと痙攣した。彼の手のひらは乾いていて、ざらりとしていたが、触れられた自分の肌は、一気に火照り、汗ばんでいた。小林はそのまま、手を動かさなかった。ただ、触れているだけだ。しかし、その静止した圧迫が、かえってすべてを物語っていた。彼は許可を得た。いや、許可など最初から必要としていなかったのかもしれない。ただ、自分の所有物に触れるように。
そして、小林はその手を、わずかに動かした。腰を包み込むように、そして、彼女が雑巾を持っている右手の方へと、ゆっくりと導いていった。恵子は息を殺し、その動きに身を任せた。震える彼女の手の甲の上に、小林の冷たい手が覆い被さる。雑巾を持った指を、一本一本、ほぐすように、そして、彼女の手を完全に小林の手に従属させるように動かした。雑巾は床に落ちた。自由になった彼女の右手は、小林の意図するがままに、彼の体の方へと引き寄せられていった。
ズボンの上から、まずは大腿部に触れる。硬い筋肉ではなく、年齢とともに萎え、ゆるんだ感触。その上を、小林の手に導かれて、彼女の手はさらに上へ、前へと移動する。そして、ついに、小林のズボンのファスナーの部分、股間の膨らみの真上に、彼女の手のひらが置かれた。
「……」
小林はようやく、最初の言葉を、砂を擦り合わせるような低い声で発した。
「開けろ」
命令形だった。優しくもなんともない、乾いた指示。その言葉の響きが、恵子の耳の中で、これまで妄想で聞いていた「舐めろ」という淫らな囁きと重なり、腰がぐらりと崩れそうになった。彼女は俯いたまま、震える指先をファスナーの金具に掛けた。金属の冷たさが、熱く火照った彼女の指先に鋭く伝わる。チャックを下ろす。小さな歯車が噛み合う音が、静まり返った部屋に響く。彼女の呼吸はますます荒く、浅くなり、ドレスの胸元からは、激しい鼓動に合わせて乳房が波打っているのが自分でもわかった。
ファスナーが最下部まで下りた。その下には、グレーのズボン地と、おそらくは下着の生地が一枚あるだけだ。小林は彼女の手を放さなかった。彼女の手を、そのまま、ズボンと下着の隙間へと、ゆっくりと押し込んでいこうとしている。恵子は目をぎゅっと閉じた。もうだめだ。ここで、この汚れた老人の、萎えた男根に、自分の手を直接触れさせられる。それが現実になる。妄想は終わりを告げ、生々しい肉体の交わりが始まろうとしている。
彼女の指先が、ズボンの裾から内部へと入り、温かく、そしてゆるんだ肌の感触に触れかけたその瞬間――。
「恵子さん」
突然、小林が彼女の名前を呼んだ。普段は「小柳さん」か、何も呼びかけない。その呼び方の変化に、恵子ははっと目を見開いた。
彼はまだ彼女の手を握ったまま、その灰色の瞳を、彼女の潤んだ目にじっと据えていた。
「お前は、ずっと、これが欲しかんだろう」
それは疑問形でもなければ、確認でもない。事実の陳述だった。そして、その言葉は、恵子がこれまで自分自身にさえ言い聞かせてこなかった真実を、無慈悲に引き剥がした。そう、欲しかった。夫に蔑ろにされ、母親としての役割に押し潰されながら、ただ、女として弄ばれ、辱められ、欲望の渦に飲み込まれること。それを、この汚らわしい老人からされることを。
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