第3章: 溶け出す境界線

第3章: 溶け出す境界線
浴室での出来事から数日が経過したが、アパートの廊下で顔を合わせるたび、詩織と陽介の間に漂う空気は以前とは明らかに異なっていた。
詩織はスーパーのレジを立ちながらも、頭の片隅で陽介のことを考えてしまう時間が増えていた。あの湯気の中で唯夏が口にした言葉。そして、彼女自身が目にしてしまった、あの輪郭の記憶。それらは夜、一人で布団に入ると鮮明によみがえり、彼女の股間をじんわりと熱くさせた。
ある午後、陽介の部屋のインターホンが鳴った。宅配便の配達員が、発泡スチロールの箱を抱えていた。
「佐々木様でいらっしゃいますか? 冷凍便です」
「ああ、私です」
箱を受け取ると、差出人はかつての職場の同僚だった。中には高級な焼き肉用の肉が詰め合わせられ、付箋には「退職後も元気でやっているか? たまには贅沢しろよ」と書かれていた。
陽介は箱を台所に置き、しばらく考えた。これを一人で食べるにはあまりにも量が多い。かといって、誰を呼べばいいのか。
彼の頭に、詩織と唯夏の顔が浮かんだ。
ためらいがあった。前回の食事の後、あの微妙な緊張関係を考えると、また招くことは適切なのかわからなかった。しかし、彼女たちが貧しい食事でやりくりしている姿を思い出すと、この肉を分け合いたいという気持ちが勝った。
夕方、詩織が唯夏を連れて帰ってくる時間を見計らい、陽介は廊下に立った。
ドアが開き、疲れた表情の詩織が現れた。彼女は陽介の姿を見て、わずかに目を見開いた。
「あら…佐々木さん」
「こんばんは。ちょうどよかった」
陽介は少し照れくさそうに言葉を続けた。
「実は、昔の知り合いから焼き肉のセットが届いてね。一人では食べきれない量でして…。もしよろしければ、今夜うちででも一緒にいかがでしょうか?」
詩織の表情が一瞬固まった。彼女は唯夏の手を握りながら、考え込むように下を向いた。
「そんな、またご馳走になるなんて…」
「いえいえ、むしろ助かります。賞味期限も迫っていますし」
その時、唯夏が飛び跳ねた。
「やきにく! ママ、やきにく食べたい!」
詩織は娘の興奮した顔を見て、ふっと笑った。
「…本当によろしいのですか?」
「もちろんです」
「では…お言葉に甘えさせていただきます。何か持っていくものは?」
「何も結構です。ただ、お腹を空かせてきてください」
そうして約束は決まった。
午後七時、詩織は唯夏の手を引いて陽介の部屋のドアをノックした。彼女はこの日、スーパーの制服から着替えたばかりだった。薄いグレーのTシャツと、短いホットパンツという、家でくつろぐときのラフな格好だ。普段はエプロンやゆったりした服で隠れていたふくよかな体型のラインが、この服装ではっきりと浮かび上がっていた。
「ごめんください」
ドアが開き、陽介がエプロンを着けて現れた。彼は詩織の格好を見て、一瞬目を泳がせたが、すぐに笑顔を作った。
「いらっしゃい。さあ、上がってください」
部屋の中には、肉を焼く良い香りが立ち込めていた。テーブルには電気コンロが置かれ、その周りに皿や野菜が並べられている。
「わあ! お肉いっぱい!」
唯夏が目を輝かせた。
「ちょっと豪華なのを用意してみました。ビールも冷やしてありますが…」
陽介は詩織の顔を伺った。
「あ、私は…あまり飲めないんです」
「そうですか。では、無理のない範囲で」
詩織はうなずき、テーブルに着いた。彼女はいつもより少し緊張しているように見えた。ホットパンツから伸びる太ももや、Tシャツの胸元がふくらんでいることに、自分で意識しているようだった。
食事が始まると、会話は自然に流れた。陽介が肉を焼き、詩織が野菜を盛り付け、唯夏がおいしそうにほおばる。ビールを一口だけ味わった詩織は、ほんのりと頬を染めていた。
「このカルビ、本当に柔らかいですね」
「届いた箱に、上等と書いてありましたからね(笑)」
陽介は詩織のグラスに、また少しだけビールを注いだ。
「もう少しどうですか?」
「あ、すみません…でも、本当に少しだけにしてください。弱いんで」
詩織は控えめに笑った。二杯目を飲み干した頃、彼女の体の力が少しずつ抜けていくのがわかった。肩の緊張が緩み、笑い声も大きくなっていた。
唯夏がお腹をさすりながら言った。
「おなかいっぱい! でもまた食べたい!」
「ゆっくり食べなさい。まだたくさんあるから」
陽介がそう言うと、唯夏は席から飛び降りた。
「ねえねえ、おじいちゃん! このあとお風呂入ろうよ!」
一瞬、空気が変わった。
詩織の手が止まった。彼女はグラスを持ったまま、ゆっくりと顔を上げた。頬は先ほどよりさらに赤く、目にはビールのせいか、いつもよりゆるんだ光があった。
「唯夏、またそんなこと言っちゃだめ」
詩織の声には、叱るというより、ためらうような響きがあった。彼女は陽介を見つめ、唇を少し濡らした。
「…でも、佐々木さん」
彼女の声が低くなった。
「あの…娘が申しておりましたこと。あれは…本当なんでしょうか?」
陽介は息をのんだ。彼は無意識に湯のみ茶碗を取り上げ、中の麦茶を一口飲んだ。
「…まあ、そうですね。歳の割には、まだ恵まれている方かもしれません」
「はあ…」
詩織は深く息を吸った。彼女の視線が、テーブルの下、陽介の腿のあたりを一瞬掠めた。
「どのくらい…?」
その質問は、ほとんど囁くような声だった。
陽介は咳払いをした。
「えっと…測ったことはないですが」
「そう…」
詩織はグラスを手に取り、残っていたビールを一気に飲み干した。そして、ふらりと立ち上がると、コンロの火を消しに行った。
背を向けながら、彼女は言った。
「…私も、一緒に入らせていただけますか?」
「え?」
「お風呂に。唯夏と、佐々木さんと…私も」
振り向いた詩織の顔は真っ赤だったが、目はしっかりと陽介を見つめていた。それは酔いの勢いだけでなく、何かを決意したようなまなざしだった。
「それは…詩織さん、あなたは若い女性ですし、私は年寄りですから…」
「年齢なんて関係ないと思います」
詩織の言葉が、普段の彼女らしからぬ直球さで飛んできた。
「だって、佐々木さんは優しいし、唯夏も大好きだし…」
彼女は言葉を詰まらせた。胸が大きく上下している。
「ただの好奇心です。だから…お願い。一度でいいから、見てみたいの」
その告白に、陽介は言葉を失った。彼の体は、この誘いにすでに反応し始めていた。股間が熱く、重くなっていくのを感じた。
唯夏が二人の間に割って入った。
「ねえねえ、みんなでお風呂はいるの? はいるの?」
詩織は娘を見下ろし、ゆっくりとうなずいた。
「…うん。佐々木さんがよければだけど」
二人の視線が陽介に集中した。彼は喉を鳴らし、かすれた声で答えた。
「…わかりました。ただし、一回だけです」
「やったー!」
唯夏が跳び上がった。
詩織の部屋のユニットバスは、前回と同じく湯気で満ちていた。陽介は唯夏と先に入り、湯船に浸かっていた。
「おじいちゃん、ママもくる?」
「…ああ、すぐ来るだろう」
陽介の心臓は早鐘を打っていた。彼は湯船の底に沈み、できるだけ体を隠そうとしたが、湯は透明で、それほど効果はなかった。
脱衣所で物音がし、ガラス戸が開いた。
詩織が入ってきた。彼女はバスタオルを胸に当て、もう一枚を腰に巻いていた。湯気の中、その肌は桃色に染まり、水滴が光っていた。
「すみません、待たせて」
彼女の声は少し震えていた。
詩織はためらいがちにタオルを外し、湯船の縁に腰を下ろした。まず足を湯につけ、ゆっくりと体を滑り込ませた。その過程で、彼女のふくよかな胸が湯に浮かび、先端がかすかに湯の上に現れた。
陽介は息を詰まらせた。彼は必死に視線をそらそうとしたが、目は詩織の体に釘付けになっていた。
三人が入ると、湯船はきゅうくつだった。唯夏が陽介と詩織の間に挟まれ、嬉しそうに湯をバシャバシャさせている。
「せまいね! でもあたたかい!」
「そうだね」
陽介はぎこちなく答えた。彼の膝が、時折詩織の腿に触れた。そのたびに、二人は微妙に体を引いた。
詩織は湯に浸かったまま、うつむいていた。しかし、彼女の目は水面の下で、こっそりと陽介の体を探っているようだった。
しばらくして、陽介が湯船から立ち上がろうとした。洗い場で体を流そうと思ったからだ。
「ちょっと、体流してきます」
彼が湯から上がると、湯気の中にそのシルエットが浮かび上がった。
詩織の息が止まった。
陽介の股間には、すでにしっかりとした勃起があった。湯でふやけているとはいえ、その大きさは唯夏が報告した通り、いや、それ以上だった。長さは二十センチ近くあり、太さも詩織が持っていたどんな玩具よりもずっと逞しかった。
「あ…」
思わず漏れた声を、詩織はすぐに押し殺した。しかし、彼女の目は見開かれたまま、その光景から離れられなかった。
唯夏が湯船から首を伸ばした。
「ほら、ママ! 見て! 言った通りでしょ?」
「唯夏、だめ!」
詩織は慌てて娘の目を覆おうとしたが、彼女自身の視線は陽介から離れていなかった。
陽介は背中を向け、急いで体を洗い始めた。しかし、彼は詩織の視線を肌で感じていた。それは好奇のまなざしを通り越し、熱を帯びた、欲求に満ちたものだった。
詩織は湯船の中で、自分の腿の間に手をやった。彼女は無意識に、そこを軽く押さえていた。股間は熱く、濡れていた。彼女の呼吸が次第に荒くなっていく。
「…佐々木さん」
彼女の声はかすれていた。
陽介が振り向いた。彼はまだ石鹸の泡を体に付けていた。
「はい?」
「…本当に、大きいんですね」
その言葉は、ため息混じりに零れ落ちた。
陽介は黙ってうなずき、また背を向けた。彼の耳まで赤くなっていた。
湯から上がる時間になった。詩織は先に唯夏を連れて上がり、彼女をタオルで包んだ。しかし、彼女自身はまだ湯船に浸かったままで、陽介が上がってくるのを見つめていた。
陽介が湯から出ると、彼の体は湯気に包まれながらも、先ほどの興奮は少し収まっていた。しかし、それでもその大きさは圧倒的だった。
詩織はゆっくりと湯船から立ち上がった。彼女の体は水滴が伝い落ち、湯気の中でくっきりと浮かび上がった。ふくよかな胸、くびれた腰、丸みを帯びた臀部。すべてが、長い間誰にも見られず、触れられずにきた成熟した女性の体だった。
二人の視線が空中で絡まった。
言葉はなかった。ただ、湯気とともに立ち込める性的な緊張が、狭い浴室を満たしていた。
「ママ、さむいよ」
唯夏の声で、二人は現実に引き戻された。
「あ、ごめんね。すぐ拭くから」
詩織は慌ててタオルを取り、まず娘の体を拭き始めた。しかし、彼女の手つきは少し震えており、何度も陽介の方へ視線を走らせていた。
陽介も急いで体を拭き、バスローブを着た。彼の心臓はまだ激しく鼓動を打ち続けていた。
「それでは、一度部屋に戻ります。着替えてから…」
「はい」
詩織はうつむいたまま答えた。
陽介が部屋を出た後、詩織は唯夏を拭き終えると、その場にしゃがみ込んだ。彼女は顔を手で覆い、深く息を吐いた。
体中が熱かった。股間はひどく濡れており、彼女は無意識に腿を擦り合わせた。
あれが、本当の男性の…
彼女の頭の中は、あの光景でいっぱいだった。長さ、太さ、そしてあの威圧感のある存在感。
「ママ、どうしたの?」
唯夏が心配そうに顔を覗き込んだ。
詩織は慌てて笑顔を作った。
「何でもないよ。さあ、パジャマ着ようね」
彼女は立ち上がると、唯夏のパジャマを探し始めた。しかし、彼女の指先はまだ震えており、ボタンをかけるのに何度も失敗した。
リビングでは、陽介が自分の部屋で着替えを済ませ、再び詩織たちの部屋に戻ってきていた。彼はソファに座り、持ってきた日本酒の徳利を開けた。今夜は、もう少し強いものが必要だと思った。
しばらくして、唯夏を寝かしつけた詩織がリビングに現れた。彼女は薄いピンク色のネグリジェを着ていた。それは安物で、ところどころほつれているが、その薄さゆえに下の体の輪郭が透けて見えた。胸元は深く開き、ノーブラであることが明白だった。裾は腿の付け根までしかなく、彼女が下着を着けていないことも容易に想像できた。
詩織はソファの前に立つと、ゆっくりと膝をついた。
「…触らせてください」
彼女の声は震えていたが、意志に満ちていた。
「あの…風呂場で見たものを。自分の手で確かめさせて」
陽介は息を飲んだ。彼は徳利を置き、詩織を見つめた。
「詩織さん、あなたは酔っています。こんなこと、後で後悔するかもしれません」
「後悔しません」
詩織の目には涙が浮かんでいた。
「だって…ずっと、ずっと寂しかったから。触れられるのも、触れるのも…全部忘れちゃいそうだったから」
彼女の手が、そっと陽介の膝に触れた。
「お願い。一度でいいから…」
陽介はゆっくりとうなずいた。彼は自分の浴衣の帯を解き、前を開いた。
詩織の目が見開かれた。間近で見るそれは、湯気の中で見たときよりもさらに迫力があった。血管が浮き出ており、先端からは透明な滴がにじみ出ていた。
「すごい…」
彼女の囁きが聞こえた。
詩織の手が伸び、そっとそれを包んだ。彼女の手のひらは熱く、少し汗ばんでいた。
「温かい…」
彼女はそう呟くと、ゆっくりと上下に動かし始めた。最初はためらいがちだったが、次第にリズムを掴んでいった。
陽介はうめくような息を漏らした。長い間、誰にも触れられていなかったその部分は、詩織の手に激しく反応した。
「こんなに…大きいのに、こんなに硬くて…」
詩織は夢中で動かしながら、つぶやくように言った。彼女のもう一方の手が、自分の腿の間に滑り込んだ。ネグリジェの下で、彼女は自分自身を弄び始めていた。
「ああ…」
詩織の息遣いが荒くなった。彼女は陽介のものを握ったまま、顔を近づけていった。
湯気の中で見たときの記憶。あの威圧感。そして今、手の中で脈打つ生命力。
彼女はついに、唇をその先端に当てた。
「詩織さん…」
陽介の声はかすれていた。
詩織は答えず、ゆっくりと口の中に含み始めた。彼女は必死に顎を開き、できるだけ深くまで受け入れようとした。涙が彼女の頬を伝い落ちた。痛みもあったが、それ以上に、この充実感が彼女を狂わせそうだった。
長い間忘れていた感触。男性の肌の味。脈打つリズム。
彼女は夢中で動き続けた。片手はまだ自分の股間を激しく弄り、もう片方の手は陽介の根本をしっかりと握りしめていた。
陽介はソファの背もたれに頭を預け、目を閉じた。彼の手が、詩織の頭にそっと触れた。彼女の髪はまだ湿っており、洗い流したシャンプーの香りがした。
「そろそろ…だめだ…」
陽介が喘ぎながら言った。
しかし、詩織は離れなかった。彼女はますます激しく動き、喉の奥まで受け入れた。
そして、陽介が放出した時、詩織はすべてを飲み込んだ。彼女は一滴も零さず、最後まで口の中に受け止め、ゆっくりと飲み下した。
その後、彼女はようやく口を離し、息を切らしながら陽介を見上げた。彼女の口の周りは少しよだれで光り、目は潤んでいた。
「…全部、いただきました」
彼女はそう言うと、弱々しく笑った。
陽介は詩織の頬に手を伸ばし、そっと涙を拭った。
「どうして…そんなことを」
「だって…佐々木さんのものだから。全部、私の中にしまいたかった」
詩織はそう言うと、陽介の腿に顔を埋めた。彼女の肩がわずかに震えていた。
リビングには、二人の荒い息遣いだけが響いていた。窓の外では、夜の闇が深まりつつあった。
この瞬間から、二人の関係は決定的に変わった。家族でも恋人でもない、しかし肉体と孤独を分かち合う、新たな絆が生まれ始めたのだ。
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