第3章: 堕ちる瞬間、濡れる襞

第3章: 堕ちる瞬間、濡れる襞
駅のホームで彼の手が触れた腕の感触が、香里の皮膚の下をずっと疼かせていた。電車の窓に映る自分は、頬が不自然に紅潮し、目が泳いでいる。そんな自分が、とてもみっともなく、そしてなぜか生々しく感じられた。
隣に立つ中年のサラリーマンが新聞を読んでいる。その無関心な日常が、彼女の中に渦巻く混乱とはあまりにもかけ離れていて、ふと笑いが込み上げそうになった。いや、泣きそうだった。
彼女は鞄の紐をぎゅっと握りしめ、目を閉じた。栗原章介の声が耳朶にこびりついている。
『気をつけて帰れよ』。その言葉の裏に潜んでいた、押し殺したような熱い何かが、彼女の子宮のあたりをじんわりと温めていた。
次の駅に着くまでの十分ほどの間に、スマホが震えた。画面には、彼からのメッセージが一行。
「今からでも、俺のところに来られないか」
彼女は息を詰まらせた。指先が冷たくなり、その冷たさが逆に股間の熱を際立たせた。
来られないか。それは疑問形ではなかった。懇願に近い、切実な誘いだった。
彼女は返事を打とうとして、指が震えてうまく動かない。
打ち消す言葉を思いつかない。
いや、思いつきたくない。彼女はゆっくりと、一文字ずつ打ち込んだ。
「……今、引き返します」
送信ボタンを押すと、全身の力が抜けるような、そして同時に禁断の快感が背筋を走るような感覚に襲われた。
次の駅で降り、反対ホームに渡り、また電車に乗る。その一連の動作を、彼女はまるで他人事のようにこなした。
頭の中は真っ白で、ただ体が自動的に動いているだけだった。
しかし胸の奥では、ずっと眠っていた獣が、ゆっくりと目覚め、体の内側を爪で引っ掻き始めていた。
栗原のマンションがある駅に着いた時には、もう夜は更けていた。街灯の下を歩きながら、彼女は自分の足音だけを聞いていた。
これから何が起こるのか。いや、起こることは分かっている。だからこそ、膝がわずかに震えていた。
長年使われていなかった女としての部分が、恥ずかしさと期待で熱く濡れ始めているのを、彼女は感じずにはいられなかった。スカートの内ももが、ほんのりと湿気を帯びてこすれる。
彼のマンションの前に立った。古い団地タイプの建物で、玄関の照明は一本だけが切れていた。
彼女はインターホンのボタンの上に指を置き、深く息を吸った。押した。
チャイムの音が響く。すぐに内側から足音が近づき、ドアが開いた。栗原章介が、シャツの袖をまくり上げた姿で立っていた。リビングの灯りが彼の後ろから漏れ、その輪郭を浮かび上がらせていた。
彼の表情は硬く、しかし目だけが異様に輝いていた。
「……上がってくれ」
彼の声は嗄れていた。
彼女はうなずき、玄関の敷居を跨いだ。狭い玄関には、男性一人の生活の匂いが染みついていた。
革靴とスニーカーが並び、上着が一本のフックにかかっている。彼がスリッパを差し出した。
彼女が靴を脱ぎ、素足になる時、彼の視線が彼女の足首からふくらはぎにかけて一瞬滑るのを感じた。
その視線の熱さに、またもや股間が疼いた。
リビングは質素だった。ソファとテーブル、テレビ。本棚にはビジネス書らしきものが雑然と並んでいる。
窓の外には、ぼんやりとした街明かりが見えた。
彼は立ったまま、彼女も立ったまま。
僅か数畳の空間が、張り詰めた空気で満たされた。
今までのLINEでの会話、家電量販店での笑顔、居酒屋での涙――全てが、この緊迫した沈黙の向こう側に遠のいていくようだった。
栗原が一歩近づいた。彼女は思わず後ずさりそうになり、踵がわずかに揺れた。
しかし逃げなかった。彼の手が、ゆっくりと彼女の手に触れた。
最初は指先だけ。彼の指はごつく、節くれ立っていて、長年のデスクワークのわりに驚くほど力強い。
その指が、彼女の指の間を滑り込んできた。ぎゅっと握られた。
「手、汗ばんでるな」
彼が呟いた。彼女は顔を上げられなかった。ただ、握り返すことしかできなかった。
彼女の手のひらも確かに湿っていた。恥ずかしいほどの汗が、二人の手の間で混ざり合う。
「……怖いのか?」
栗原が問うた。声は低く、優しさと苛立ちが入り混じっていた。
彼女は首を振った。でも、言葉が出ない。喉が渇いていた。彼女が顔を上げ、彼を見た。彼の茶褐色の瞳は、彼女の奥底を見透かすように深く、暗く光っていた。
その目に映る自分は、もう年寄りの女ではなく、ただの女だった。
彼はもう一歩近づいた。彼女の息が止まった。彼のもう一方の手が、彼女の頬に触れた。
掌のざらつきが、彼女の滑らかとは言えない肌を撫でる。
その感触が、信じられないほど官能的で、彼女は思わず目を閉じた。
「香里」
名前を呼ばれて、彼女の瞼が震えた。彼の顔が近づく。彼の吐息が彼女の唇に触れる。
酒とタバコの微かな匂い。男の匂い。
彼女はその匂いに、胸の奥が締め付けられるような懐かしさを覚えた。あまりに長く忘れていた、異性の生々しい気配。
そして、唇が重なった。
最初は乾いていた。彼の唇も、彼女の唇も、年齢と緊張でかさかさしていた。しかしそれは一瞬のことだった。
彼がわずかに圧力を加え、彼女の唇を開かせようとする。彼女は抵抗なく従った。彼の舌先が、彼女の唇の内側をそっと撫でる。くちゅっ、と小さな音がした。
その瞬間、彼女の体の内側で何かが溶け始めた。
長年錆び付いていた蓋が、音を立てて外れるような感覚。彼女の舌が、おずおずと、しかし確かに彼の舌に触れた。絡み合う。唾液が混ざり合う。ねっとりとした甘さと、微かな塩気。彼の舌は力強く、時折彼女の舌を咥え、吸い込むように弄んだ。んっ、と彼女の喉の奥で音が零れた。
それはもう抑えようのない、肉体の肯定の声だった。
彼の腕が彼女の背中に回り、ぎゅっと抱き寄せられた。彼女の柔らかな胸が、彼の硬い胸板に押し付けられる。
ワンピースの薄い生地越しに、彼女の乳首がこすれて、鋭い疼きが走った。ああ、と思った。こんな感覚、何十年も忘れていた。
女の乳首が、男の体に擦られるだけで、こんなにも熱くなり、立ってしまうものなのか。
彼の手が彼女の背中を下り、腰のあたりで止まった。そしてその手のひらで、彼女の尻を、たるみ始めたとはいえまだ丸みを残したその肉を、ぎゅっと掴んだ。ぐっと、と力が込められる。
彼女はその乱暴な愛撫に、膝がガクガクと震えた。彼の口が彼女の唇を離れ、顎、そして首筋へと移っていく。
熱い舌が、彼女の首の皺を舐め上げる。くすぐったさと、直截的な快感。
「章介……さん……」
彼女の口から、初めて彼の名前が出た。それはもう敬称など意味をなさない、切実な呼びかけだった。
「ここで……いいのか?」
彼が唸るように問うた。彼女は理解した。ここは玄関を入ったばかりの、リビングの入り口だ。ソファにもベッドにも行っていない。
彼は、もう我慢できないと言っているのだ。
彼女も、我慢できない。彼女はうなずいた。ただ、うなずくことしかできなかった。
彼の手が彼女のワンピースの背中のジッパーに探り当てた。ざっ、と下ろされる音。生地が緩む。
彼女の肩が露になる。彼は彼女の腕をワンピースから抜き出させ、そのまま上から脱がせようとした。彼女はわずかに身を捩り、恥じらいで腕を胸の前で交差させた。
下着が見える。地味なベージュのブラジャーだ。長年、機能性だけを考えて選んできたものだった。
「恥ずかしい……こんな年で……」
彼女が呻くように言った。彼は彼女の腕を優しく、しかし確実に押しのけた。
「年なんか、どうでもいい」
彼の言葉は乱暴だった。そして彼の視線が、彼女のブラジャーに覆われた胸に釘付けになった。
彼の喉がごくりと動いた。
「……綺麗だ」
彼がそう呟いた時、彼女の目に涙がにじんだ。綺麗だ、なんて、この皺だらけの体に、誰が言うだろう。
しかし彼の目は真剣だった。彼の手が彼女のブラジャーのフックに掛かった。
パチン、と小さな音がして、拘束が解かれた。ブラジャーが緩み、彼女の乳房が露わになる。
年齢相応にたるんでいた。しかしかつて二人の子供に乳を与えた名残か、乳輪は大きく色が濃く、中心の乳首はくすんだピンクで、今、彼の視線を受けて微かに勃起していた。
彼女は思わず腕で胸を隠そうとしたが、彼がそれを制止した。
彼の指が、彼女の左の乳房をそっと包み込んだ。重みを感じ取るように、揉み上げた。ぎゅ、ぎゅ、と柔らかい肉が彼の指の間からはみ出す。
その感触が、彼女の子宮の奥をじんわりと圧迫する。彼の親指が乳首をこする。
びくん、と彼女の体が跳ねた。電気が走った。
「あっ……ん……」
細い吐息が漏れる。彼はそれを合図のように、俯いて彼女の胸に口を寄せた。まずは乳房のふくらみ全体に、熱い息を吹きかける。その温もりに、彼女の皮膚が鳥肌立った。
そして、彼の舌が乳輪をぐるりと舐め回す。ぬるっ、と湿った音。彼女の背筋がぞくぞくと震える。
「だめ……そんなに、舐められると……」
彼女の言葉は途中で途切れた。彼が乳首を口の中に咥え、強く吸い付いたからだ。じゅぽっ、という音。その吸い付く力に、彼女の股間がぐっしょりと濡れた。彼女の手が思わず彼の白髪混じりの頭を抱えた。
指がその硬い髪の毛に絡まる。彼は啜りながら、もう一方の手で彼方の乳房を揉みしだく。
捻るように、時折乳首を爪で引っ掻くように。
「あ、あぁ……章介……さん……そんな、激しく……んっ!」
彼女の声はもう泣き声に近かった。長年忘れていた快楽が、あまりに急激に、あまりに濃厚に押し寄せてくる。
彼女の腰が無意識に前後に揺れ始めた。スカートの内側で、腿がこすれ合う。彼女は自分の女陰が、恥ずかしいほどに熱く腫れ上がり、汁を垂れ流しているのを感じた。
彼は乳首を離し、唾液で光るその先端を見下ろした。彼女の乳房には、彼の唾液と彼女の汗が混ざり合って光っていた。
「香里……ここも、ずっと淋しかったんだろ?」
彼が呟きながら、手を彼女のスカートの裾に這わせた。腿を伝って上へ。彼女はその手の行く先に身を硬直させた。彼の指が、スカートとストッキングの境目に触れた。
そしてそのまま、ストッキングの上から、彼女の股間を覆った。
「っ!」
彼女の体が大きく跳ねた。彼の掌の熱さが、ストッキングの薄い生地越しに、濡れそぼった陰部に直に伝わってきた。彼はぐっと押し当て、円を描くように揉み始めた。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、と下品な音が、ストッキングのナイロンと愛液で響く。
彼女の膝が完全に力を失い、彼に抱き支えられなければ倒れそうになった。
「ほら……こんなに、濡れてる」
彼が唸るように言いながら、彼女の耳朶に息を吹きかけた。彼女は首を振った。いや、違う、こんなんじゃない、こんなに簡単に、こんなにぐしゃぐしゃに濡れる女じゃない、と思いたかった。しかし彼の指の動きが、彼女の嘘を容赦なく暴いていく。
彼の指先が、ストッキングの上から陰唇の割れ目を探り、その襞を左右にこじ開けるように動かす。
ぬめる感触。彼女の愛液がナイロンを伝い、彼の指を湿らせている。
「中まで……熱いな」
彼の指が、ストッキングと下着を押し込みながら、膣口を探った。彼女はぎゅっと目を閉じた。もうだめだ。ここで、ストッキングの上から、指一本で、イってしまいそうだ。
長年使われていなかったその場所は、驚くほど敏感に、彼のわずかな刺激に反応していた。
「だめ……中、入れたら……あっ、んんっ!」
彼女の抗議は、彼の指がストッキングと下着の布越しに、膣口の皺に食い込み、ぐいと押し込まれた瞬間、喘ぎに変わった。布地がひだに擦れる。直接ではないが、その摩擦が却って淫靡で、彼女の腰が跳ね上がった。
彼はそれを押さえつけ、じっとりと濡れた布を、彼女の膣の奥へとねじ込むように動かした。
「あ、あぁっ……や、やめて……そんな、汚いのに……」
彼女の言葉は、快楽に押し流されて意味をなさなかった。彼は彼女の耳に唇を寄せ、低く囁いた。
「汚くなんてない。香里のここは……ずっと待ってたんだ。俺を、待ってたんだろ?」
その言葉が、最後の理性の枷を外した。
彼女の頭の中で、何かがぷつんと切れる音がした。彼女は彼の首にしがみつき、顔を彼の肩に埋めた。
そして、布越しに彼の指に締め付けられながら、人生で初めてと言っていいほどの、深くて激しい絶頂に突き落とされた。
体が波打つ。股間から熱い液体がどくどくと溢れ出し、ストッキングをぐっしょりと濡らす。嗚咽が零れる。涙が彼のシャツの襟を湿らせた。
彼は彼女が震え終わるのを、ぎゅっと抱きしめたまま待っていた。そして、ゆっくりと指を抜いた。
ストッキングは愛液で光り、彼の指も滴るほどに濡れていた。彼はその指を彼女の目の前に差し出した。
「見ろ……香里。これが、お前の『喜び』だ」
彼女は目を開けた。彼の指先から、糸を引くように彼女の愛液が垂れている。透明ではなく、ほんのり白濁した、成熟した女の体液だ。彼はその指を自分の口に運び、ゆっくりと舐め取った。
彼女はそれを見て、またしても衝撃が走った。あまりに卑猥で、あまりに直接的で。しかし同時に、彼が彼女の全てを受け入れようとしていることの証のように思えて、胸が熱くなった。
彼は彼女を抱き上げた。六十五歳の男の、まだ衰えを知らない力に、彼女は驚いた。彼は彼女をソファに横たえ、その上に覆い被さった。スカートをまくり上げ、完全に股間を露出させる。びしょびしょに濡れたストッキングと、その下の安物の綿パンツが、恥ずかしいまでに淫らな光景を晒していた。
彼はそのパンツの脇を引き裂いた。びりり、と布が破れる音。彼女は叫びそうになったが、声が出ない。彼は破れ目から直接、彼女の陰部に触れた。今度は布越しではない。彼のごつい指が、ぬめっと腫れ上がった陰唇をこすり分け、硬く膨らんだ陰核を摘んだ。
「きゃっ!」
鋭く嬌声が上がった。彼はそれを何度も弄り、彼女をまたしてもうねらせた。そして指を膣口に当て、ゆっくりと挿入していった。長年使われていなかった通路は、最初はきつく締まっていた。しかし愛液がたっぷりと溢れ、彼の指を容易に受け入れた。ぐちゅっ。生々しい水音。
「中、すごく……熱い……」
彼が息を詰まらせて呟く。彼女は天井を見つめ、ただ感じていた。異物感。しかしそれは憎らしいほど快い異物感だった。彼の指がゆっくりと出入りし、内壁の皺を一つ一つ撫でていく。その度に、彼女の腰が微かに跳ねた。彼の指が曲げられ、ある一点をこする。ぐり、と。
「あっ! そこ……そこっ!」
彼女の声はもう羞恥も何もかなぐり捨てていた。彼はその点を執拗に攻め立てた。ぐりぐり、と。彼女の膣が激しく痙攣し、またもや熱い液が噴き出した。彼の指がその収縮に締め付けられる。
彼は指を抜き、今度は自分のズボンのファスナーを下ろした。彼女はちらりとそれを見て、息をのんだ。彼の男性器は、完全に勃起していた。
年齢のわりに太く、力強く脈打っている。先端からは、彼の先走りが光っていた。生々しい男の匂いが微かに漂う。
彼は彼女の腿の間に跪き、その先端を彼女のぐしょぐしょの膣口に当てた。熱い。二人の体温が混ざり合う。
「香里……いいか?」
彼が最後の確認をした。彼女は彼を見つめ、ゆっくりとうなずいた。涙がまた頬を伝った。しかしそれは悲しみの涙ではなかった。
あまりに遅すぎた再会と、あまりに早すぎる堕落と、それでも抗えない悦びに震える、複雑な涙だった。
彼は腰を押し出した。
ずぶり、と。
重く、深く、年老いた二つの肉体が、四十数年ぶりに――いや、初めてと言っていいほどの激しさで――結合した。
彼女の膣は驚くほど熱く、そして驚くほど締まっていた。長年の不使用が、逆にその緊縮感を増していたのかもしれない。彼はその締め付けにうめき声を上げた。
「ああ……ちっ……香里……!」
彼女もまた、埋め尽くされる感覚に、目を見開いた。あまりに大きい。あまりに深い。彼女の内臓の隅々まで、彼が侵入してくるようだった。そしてその侵入が、彼女の全ての空虚を、一瞬で埋め尽くした。
彼は動き始めた。ゆっくりとした、しかし確実なストローク。ずぶずぶ、ずぶずぶ。年老いた肉体の交わる音は、若い頃のそれよりもずっと水音が多く、ずっと淫らに響いた。
彼女の愛液が泡立ち、彼の動きの度にぬちゃぬちゃと音を立てる。
「あ、あぁ……あん……しょ、章介……あたし……あたし……んっ!」
彼女はもはや言葉にならない声を上げながら、彼の背中に爪を立てた。彼はその痛みを快楽に変え、動きを速めた。ソファがきしむ。彼の腰骨が、彼女の柔らかい下腹に打ち付かる。どん、どん、という鈍い音。
彼女はもう、何も考えられなかった。女としての喜び。その言葉の意味が、今、この瞬間、血肉を伴って理解できた。これだ。これが、彼女がずっと求めていた、飢えていたものだった。
単なる肉体的快感ではない。自分がこのように求められ、このように乱され、このようにして女であることを確認されることそのものだった。
彼の動きがさらに激しくなり、彼女の体がソファの端まで押しやられた。彼は彼女の腿を高く上げ、より深く突き入れる角度を見つけた。その角度で、彼の先端が彼女の子宮口を直撃する。
「いっ! そこ、だめ……あ、イク……イっちゃう……!」
彼女の叫びは、彼をさらに興奮させた。彼はその一点を狙い撃ちにし、執拗に攻め立てた。彼女の体は弓なりに反り返り、絶頂の波に飲み込まれていった。膣が痙攣し、彼を締め上げる。
彼もまた、その収縮に耐えきれず、唸り声を上げて深く突き込み、彼女の奥深くに熱い精を吐き出した。
どくっ、どくっ、と脈打つ感覚。彼女の子宮のあたりが、注がれる彼の液体で温かく満たされていく。彼は重い体を彼女の上に預け、二人の汗と体液が混ざり合った。
しばらくの間、ただ荒い息遣いだけが部屋に響いた。
窓の外から、遠くを通り過ぎる車の音が聞こえる。日常は、何も変わらず流れている。しかしこのソファの上では、二つの人生が、決定的に変わってしまった。
栗原章介はゆっくりと顔を上げ、身を引いた。結合が解かれる時、ちゅぽっ、と小さな音がした。彼女の腿の間から、彼の精と彼女の愛液が混ざり合った白濁の液体が、ゆっくりと流れ出た。
それはソファの布地に染み込み、二人の罪と悦びの証を刻んでいった。
彼女は目を閉じたままでいた。全身がぐったりとし、しかし心は不思議に軽かった。
彼が彼女の横に座り、そっと彼女の汗ばんだ額に手を当てた。
「……大丈夫か?」
彼が尋ねた。彼女はうなずいた。言葉はまだ出てこない。
彼は黙って彼女の体を拭い始めた。ハンカチで、丁寧に、まずは顔から、そして首、胸へ。
その手つきは、先ほどの乱暴さとは打って変わって、驚くほど優しかった。彼女はその優しさに、また涙が溢れそうになった。
ふと、彼が呟いた。
「……また、会えるよな」
それは疑問形ではなかった。確信に満ちた、約束の言葉だった。
彼女は目を開け、彼の顔を見上げた。彼の目には、六十五歳の男の疲れと、少年のような不安と、そして彼女だけを見つめる熱が同居していた。彼女は微笑んだ。それは、何十年ぶりかの、心からの微笑みだった。
「ええ。いくらでも」
彼はその言葉に、ほっとしたように息を吐いた。そして彼女の手を握りしめた。二度と離さないように。
ソファの上で、彼らのセカンドライフは、ようやく、淫らで甘い最初の一歩を踏み出したのだった。外の夜は、まだ深い。
コメント