第6章: 腕を組んで

第6章: 腕を組んで
玲子の告白が、森本の乾いた大地に降り注いた最初の雨となり、その後の彼の生活は、まるで別の物語のページをめくるように劇的に変貌していった。
あの朝、彼女が「森本さんのものよ」と言って差し出したクレジットカードは、ただのプラスチックの板ではなく、彼の失われた自尊心を取り戻すための鍵だった。
最初はためらいがあった。
66歳の男が、35歳の女の金を使うことへの羞恥。
しかし、玲子は彼のその逡巡を、優しく、しかし強く打ち砕いた。
「森本さんが、私の幸せなんだから。当たり前でしょ?」
彼女のその言葉に、森本はもはや逆らうことができなかった。
最初の目的地は、彼が働いていたころに憧れていた、一度も足を踏み入れたことのなかった高級ブティックだった。
ヨレヨレのジャージや、首のすり切れたセーターを段ボールに詰め込み、まるで過去の自分を葬り去るかのようにごみ集積所へ捨てていく時、彼は不思議と涙が出なかった。
むしろ、解放感に近い軽やかさが胸を満たしていた。
玲子が選んでくれた、上質なコットンのシャツと、少しシルエットがきれいなスラックス。
試着室の鏡に映る自分の姿を、森本は呆然と見つめた。
白髪は混じっているが、疲れていた目つきは、どこか澄み渡り、痩せていた体も、服に包まれると意外としなやかに見える。
「どうかしら?」
更室外で待っていた玲子が、扉を少し開けて尋ねる。
その声に、森本は鏡の中の自分に微笑みかけた。
「……ああ、違う人間みたいだ」
「ふふっ、見違えるわ。やっぱり、こうあるべきだわ。森本さんは」
玲子はそう言って、彼の胸元にそっと手を置き、シワを伸ばした。
その指先の熱が、シャツの生地を通して彼の胸に染み渡り、心地よい震えが背中を走った。
これは、愛情なのだ。
自分という男を、新しい形で愛してくれているという、確かな証。
彼はその手を握り、力強く頷いた。
もう、過去の自分に戻ることはない。
そう決意した。
夜の彼の部屋は、玲子の存在によって、ただの寝泊まりする場所から、濃密な愛の巣へと変容を遂げていた。
彼女の甘い香水の匂いと、ベッドシーツに残る二人の体液の匂いが混じり合い、部屋中を官能的な空気が支配していた。
その夜も、愛撫の後、森本は玲子の裸体を抱きしめていた。
彼女の肌は、絹のようになめらかで、彼の老いた体を優しく受け入れてくれる。
しかし、その瞳の奥には、いつも少しの自己嫌悪と、不安が漂っていた。
「私……こんなに、汚い女なのに……」
ベッドの上で、彼女は俯きながら囁いた。
その声は、かすかに震えている。
「森本さんみたいな、素敵な人に、抱かれていいのかな……こんなに、欲望にまみれた私を……」
その言葉は、彼女のファザコンとしての出自と、今のこの過剰な愛情表現への葛藤だったのだと、森本はわかっていた。
彼は何も言わず、ただゆっくりと彼女の体を起こし、自分の膝の上に座らせた。
そして、その豊満な胸を、両手で優しく包み込んだ。
柔らかく、弾力のある肉の感触が、彼の掌に伝わる。
「玲子は、汚れていない」
彼は低い、しかし確かな声で言った。
「美しい。俺が、これまで会った中で、一番美しい女だ」
その言葉に、玲子の肩が小さく震えた。
森本は、その耳元に唇を寄せ、耳たぶを舌でそっと舐め上げた。
「ひゃっ……んっ!」
か細い吐息が漏れる。
彼は、忘れていたはずの、自分のテクニックを思い出していた。
若い頃、何人もの女を喜ばせてきた、確かな手管。
それは、年を重ねても、体の奥深くに刻み込まれているのだ。
彼の指が、彼女の白い喉筋を撫で、鎖骨のくぼみをなぞり、そしてゆっくりと、ふっくらと隆起した乳房の谷間へと滑り込んでいく。
「ああ……森本さん……んっ……」
彼女の体が、彼の指先に反応して熱を帯びていく。
森本は、その片方の乳首を、親指と人差し指で優しくつまみ、ねじった。
「んぐっ!あ、ああっ!」
硬く勃ち上がった乳首を、今度は口に含み、舌で執拗に弄んだ。
「ねちゅっ……じゅるる……」
甘い唾液の音が、静かな部屋に響く。
彼女の腰が、求めるようにくねり始めた。
もう、我慢の限界なのだろう。
森本は彼女をベッドに優しく寝かせると、その両足を大きく開き、最も神聖な場所に目を落とした。
うっすらと刈りそろえられた黒い毛の向こうに、愛液に濡れて光る桃色の肉裂けが、息を潜めている。
匂いが立つ。
蜜の甘さと、少しの粘膜の生々しさが混じり合った、濃密な雌の匂い。
森本は、その匂いを深く吸い込んだ。
「玲子、見てて。俺が、どれだけ君を愛しているか」
そう言うと、彼は彼女の股間に顔をうずめた。
そして、そのぬれたクリトリスを、舌でそっと舐めた。
「くちゅっ!」
そんな下品な音が、二人の間に響き渡る。
「ひゃっ!あ、だめぇっ!そんな、恥ずかしい……!」
玲子は叫ぶが、その体は拒絶してはいない。
むしろ、彼の頭を自分の股に押し付けようとしている。
森本は、その反応を確かめると、舌先をさらに大胆に動かした。
ぬるぬると濡れた粘膜を舐め回し、膣口に舌を突き入れ、中の愛液を啜るように味わった。
「じゅるるっ……ぐちゅ……」
汚らしい音が、玲子の羞恥心を煽り、同時に快楽の炎に油を注いだ。
「ああっ!もう、ダメっ!森本さん、入れて……お願い、入れてぇっ!」
彼女は泣きそうな声で懇願した。
森本は顔を上げると、自分の硬く熱くなった性器を手に取り、その先を彼女の濡れた入り口にそっと押し当てた。
「ぶちゅっ……」
温かい肉が、彼のものを貪欲に飲み込んでいく。
若い女の、きゅっと締まった膣壁に、彼の老いた肉棒が包み込まれる感覚。
それは、まるで故郷に帰ってきたかのような、あまりにも甘く、あまりにも激しい喜びだった。
「はぁん……!森本さん……!入ってる……ああ、すごい……!」
玲子の声は、喜びに満ちて震えていた。
森本は、腰をゆっくりと動かし始めた。
彼女の膣内は、驚くほど濡れていて、彼の動きを妨げるものは何もなかった。
しかし、その内壁は、彼の性器を締め付け、離そうとしない。
それは、彼女の渇きと、愛情の表れだった。
森本は、その愛情に応えるかのように、腰の動きを速めていった。
「ぴちゃっ、ぴちゃっ」と、愛液が飛び散る音。
二人の汗が混じり合う匂い。
そして、玲子の甲高い喘ぎ声。
それらが、一つの音楽となって部屋に充満していた。
「あっ!ああっ!いく、いくっ!森本さん、一緒に……!ああああああッ!」
玲子の体が、弓なりに反り、激しい絶頂に襲われた。
その膣が、ビクビクと彼の性器を締め上げるのを感じながら、森本もまた、限界の淵に立たされていた。
彼は彼女の深くに、自らの熱い濁流を放り込んだ。
「うおおおおっ!いくううううう!」
それは、彼の人生のすべてを吐き出すような、激しい射精だった。
静寂が戻った部屋で、二人はただ息を切らしていた。
森本は、玲子の汗で濡れた髪を撫でながら、その温かい体を抱きしめた。
彼女は、満ち足りた猫のように、彼の腕の中で眠りについていた。
彼は、この女のすべてを受け入れた。
その富も、その欲望も、その脆さも。
そして、この女に抱きしめられることで、自分は救われたのだ。
そう、確信した。
それからというもの、二人はいつも腕を組んで街を歩くようになった。
森本は、玲子に選んでもらった上品な服をまとい、胸を張って歩く。
かつて自分を蔑んだ世間に対して、彼は今、最高の恋人と共に優越感に浸っていた。
通行人の視線が気になるどころか、それが彼の誇りになった。
この美しい女は、俺のものだ。
俺という男を、ここまで愛してくれるんだ。
その幸福感は、街の喧騒の中で、さらに確かなものになっていく。
そして、その幸福の頂点で、彼はやがて訪れるであろう、最後の仕上げを、まだ知らずにいたのである。
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