第5章: 愛と背徳の沈黙

第5章: 愛と背徳の沈黙
獣たちの乱舞が、ふっと息を切らした。部屋に満ちていたのは、もはや興奮の熱ではなく、情事の後に染み付く、生温かく、そして粘稠な沈黙だった。空気は汗と精液と、そして二人の体から混じり合って立ち上る背徳の匂いで重く、吸い込むたびに肺の奥までその罪深い香りが染み渡る。由香の耳には、孝三の年老いた心臓が、どくんどくんと、自分の胸の内側で響くかのように規則正しく鼓動する音が聞こえていた。彼女は孝三の皺の深い腕に抱かれ、そのまま動く気力もなく、彼の痩せた胸に顔をうずめた。その胸の皮膚は、今しがて自分が唾液でねっとりと濡らした場所が、少し冷たく、そしてひんやりと感じられる。膣内には、孝三の濃密な種がまだ温かく留まり、ぬるりと、太ももの内側を伝って零れ落ちるたびに、先ほどまでの激しい快感の名残が、痙攣のような微細な震えとして由香の背中を走った。健太との間では決して感じたことのない、この老いた男との結合の証。それは汚らわしいはずなのに、由香はその感触に、歪んだまでの安堵と満足感を覚えていた。
「…もう、ダメ…」
由香の唇が、孝三の乾いた肌に触れて、かすれた声が漏れた。それは疲労の言葉ではなかった。これ以上、何かを感じたり、考えたりすることができないという、感覚の飽和状態を意味していた。彼女の意識は、まるで溶けたろうのように、ただこの男の腕の中という温かい容器に流れ込み、固まることなくただゆっくりと揺らめいている。健太の顔が、ふと頭の片隅をよぎった。仕事で疲れ果て、無愛想に「ただいま」とだけ言ってソファに倒れ込む夫。彼が自分に向ける視線は、いつも家族という枠組みの中での、無関心に近い温かさだった。女として見てほしい、抱きしめてほしいと心の底で叫んでも、その声は届くことなく、空しく消えていく。でも、この人は違う。このお義父さんは、自分の汚れ、自分の渇き、そのすべてを、獣のように受け止めてくれた。皺も、加齢臭も、衰えた体も、すべてを自分のものとして欲しがって、貪ってくれた。
由香は、ぐっと力を込めて孝三の腕にしがみついた。その腕は、自分の父親のものよりも細く、そして、男の熱をまだ保っている。彼女は顔を少し上げ、孝三の顎の下、深く刻まれた皺の溝に、自分の濡れた頬をこすりつけるようにして、囁いた。
「誰にも…渡さないから…」
その声は、愛情と依存が混濁した、甘く、そして危険な響きを持っていた。
「お義父さんのものだから…あなたから、もう離れたくない…」
由香の瞳から、新たな涙がぽつり、ぽつりとこぼれ落ち、孝三の胸の皮膚を濡らす。それは先ほどまでの羞恥や快楽の涙とは違う、独占欲と、この束の間の安息を永遠のものにしたいという、必死の願いの涙だった。孝三は何も答えなかった。彼はただ、震えるほどの力を込めて、由香の裸の背を、ゆっくりと、そして繰り返し撫で続けていた。その手の動きは、慰めよりも、むしろ「もう遅い」という事実を、彼女の肌に刻みつけるかのようだった。夕日が障子を通して差し込み、部屋全体をオレンジ色の、まるで絵画のような光で満たしていた。その光の中で、二人のからだは、罪を犯したアダムとイブのように、静かに寄り添い、罪悪感と絶対的な安息感という、相反する感情に同時に浸っていた。由香は孝三の心臓の音を聞きながら、この瞬間が永遠に続けばいいと、心から願っていた。
その時だった。
ピンポーン、ピンポーン。
玄関のチャイムの音が、この聖域とも言える密室の空気を、鋭い金属音で容赦なく引き裂いた。
由香の全身が、電流に打たれたように硬直した。抱きしめていた腕の力が、すっと抜けていく。孝三の胸に感じていた温もりが、一瞬で焼けるような熱に変わった。ああ、そうだ。この家には、もう一人、この時間に帰ってくる人がいるのだ。自分の夫が。健太が。由香は息を呑んだ。先ほどまで孝三の性器を受け入れていた自分の膣が、今や恐怖でひきつり、冷たい汗が背中を伝った。孝三の体もまた、こわばり、彼の心臓の鼓動が、今度は狼狽と恐怖の速さで高鳴るのがわかった。部屋に充満していた背徳の匂いが、突如として、決して隠しきれない罪の証として、由香の鼻孔を突き刺した。チャイムは、再び鳴り響く。その音は、もう、ただの来客を知らせる音ではなかった。それは、二人が築き上げた、束の間の楽園の終わりを告げる、冷徹な運命の鐘だった。
コメント