義父と秘め昼下がりの蜜

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第2章: 皺と蜜の初体験

第2章のシーン

第2章: 皺と蜜の初体験

由香が吐き捨てたように呟いた言葉は、静かな午後の居間に重い沈黙の膜を張った。時計の秒針が、時を刻む音だけが不気味に響き、窓から差し込む木漏れ日に舞う埃の粒子が、まるでこの場の決定的な瞬間を凝固させるかのようにきらめいて見える。義父である孝三の視線が、自分の唇から離れない。その目に映るのは、驚き、戸惑い、そして何より、自分自身の口から出た言葉に顔を真っ赤にして震える嫁の姿だ。恥ずかしさで喉が渇き、心臓は肋骨を破って飛び出してしまいそうなほどに激しく鳴り響く。夫、健太の顔が脳裏に掠める。彼はいつも疲れた目をして、自分の話を上の空で聞き、夜の寝室では背中を向けてばかりいる。そんな健太との間にあった、ぬるい水のような時間とは全く違う、この瞬間の空気の張り詰め方。この危険な熱気こそが、由香が無意識に渇望していたものだったのだと、体の芯から理解してしまう。もう後戻りはできない。この呟きを、ただの勘違いで片付けてしまうわけにはいかない。由香は膝をついたまま、ゆっくりと体を起こした。薄手のニットが擦れて、畳の上で「ささっ」という乾いた音を立てる。その音が合図だったかのように、孝三の肩がびくりと震えるのを由香は見逃さなかった。彼の隣に、そっと腰を下ろす。二人の体が触れ合うわけではないのに、間に数センチしかない距離に、互いの体温と匂いが混じり合い、もう既に境界線は曖昧になっていた。

「お義父さん…」

由香の声は、自分でも驚くほどに、甘く、そして震えていた。彼女は自らの意志で、孝三の置いていた膝の上に、そっと自分の手を重ねる。驚いて手を引っ込めようとする孝三の動きを、由香は両手で優しく、しかし決して離さないように包み込んだ。その手は、長年使われ続けたことで薄く、乾燥して、地図のように皺の刻まれた手の甲だった。指は関節がごつごつと突き出て、力強さというよりは、時間の重みを感じさせる。由香はその手を、まるで神聖なものでも扱うかのように、自分の柔らかい頬にそっと押し当てた。ぎゅっと、目を閉じる。孝三の皮膚から伝わってくるのは、微かな温かさと、加齢という名の、どこか土のような、そして古い本のような匂いだった。それは、由香が今まで感じたことのない、深く、落ち着く匂いだった。健太の若々しい、洗剤のような匂いとは全く違う、生きた人間の、老いの匂い。それが、由香の内側に眠っていた獣を静かに、しかし確実に呼び覚ましていく。

「…私を、ただの嫁じゃなくて…一人の女として、見てください…」

涙が、ぽつり、ぽつりと頬を伝い、孝三の乾いた手の甲に濡れた跡を残す。その塩辛い涙の感触に、孝三の体が大きく震えた。彼の目に、拒絶の色が浮かぶかと思った瞬間、それはすぐに、長く押し殺してきた何かと戦うような、苦悩の色に変わった。由香は、その目を見た。彼女の濡れた瞳が、哀願するように、そして誘うように、孝三を捕らえて離さない。震える唇を、わずかに開き、息を切らしている。その息には、由香自身も気づいていなかった、甘いシャンプーの香りと、その下から滲み出る、若い女の生々しい体温の匂い、そして欲情の初期の湿りが混じっていた。その匂いが、孝三の理性の最後の綻びを、音もなく引き裂いた。彼の喉が「ごくり」と鳴るのが聞こえた。そして、由香の頬に当てていた彼の手が、そっと動き出す。それは、拒絶の動きではなかった。その皺だらけの指先が、ためらいがちに、由香の涙を拭うように、頬を撫で下りた。その触れられた部分の皮膚が、電流が走ったように熱を帯び、びくびくと痙攣する。

「由香…」

孝三の声は、砂を噛むように乾いていたが、その中には、もはや父としての威厳はなかった。ただ、一人の男が、目の前にいる女に呼応する、原初的な響きだけがあった。その呼応に応えるように、由香はもっと近くに体を寄せた。今度は、肩が彼の腕に触れる。その柔らかい感触に、孝三の腕が硬直する。しかし、由香は離れない。彼女は自分の全てを、この瞬間、この男に預けたいと心から願っていた。孝三の、もう片方の手が、おずおずと、由香の肩に回ってくる。その力は弱く、震えていたが、その腕が作る輪は、由香にとって何物にも代えがたい、救いの檻だった。そして、ゆっくりと、ゆっくりと、顔が近づいてくる。白髪の混じる頭、深い皺に刻まれた額、そして、その先にある、年を重ねた唇。由香は目を閉じた。すべてを受け入れる覚悟。そして、待ち望んでいたことへの、歓喜。

くちゅっ、と、小さく、けれど明確に、水の音がした。

最初は、ただの接触だった。乾いて、荒れた彼の唇が、自分の潤った唇に、そっと触れるだけ。その感触に、由香は全身で喜びを感じた。皺の感触が、そのまま唇に伝わってくる。それは、健太とのキスでは決して味わえなかった、生々しく、そしてどこか哀れみを誘うような感触だった。しかし、その哀れみが、由香の中では禁断的な甘さに変わる。孝三の唇が、わずかに動く。彼の経験豊かだが、長ら使われていなかったであろう舌先が、ためらいがちに、由香の唇の隙間を探る。由香は、それを迎え入れるように、口を開いた。彼の舌が、自分の口腔内に滑り込んできた瞬間、由香は「んっ…」と、抑えきれない声を漏らした。彼の唾液の味。それは、少し苦く、どこか薬のような味がしたが、それさえもが由香には愛おしく、この瞬間の一部として受け入れられた。互いの唾液が混じり合い、ぐちゅぐちゅと、下品で、しかし情熱的な音を立てる。由香は、自らの舌で、彼の舌を積極的に絡め、舐め回した。彼の口の中の、古い男の匂いを、奥まで吸い込むようにして。孝三の腕が、ぎゅっと、由香の背に力を込める。その力は、もはやためらいなど微塵も感じさせない、抑えきれない欲望の表れだった。二人は、ただひたすらに、互いの唇と舌を貪り、吸い、味わい合った。部屋の空気は、二人の吐息と唾液の匂いで、濃密で、粘っこいものに変わっていた。このキスは、単なる行為ではない。これは、由香が嫁という殻を脱ぎ捨て、女として生まれ変わるための、最初の儀式だった。そして、孝三が、父という仮面を剥がし、久しく忘れていた男としての本能を取り戻すための、最初の聖餐だった。皺と蜜。交じり合うことのないはずの二つが、この禁断の午後に、一つになったのだ。

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AIが紡ぐ大人の官能短編『妄想ノベル』案内人です

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