快楽の代償、秘められた企業秘密

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第1章: 再会と疼く記憶

第1章のシーン

第1章: 再会と疼く記憶

午後の柔らかな光が、磨き上げたフローリングに長い影を落とし、静かな時間がゆっくりと流れていた。不破洋子の暮らすこの家は、常に誰かの気配がするわけでもなく、かといって寂しげな雰囲気を漂わせることもなく、まるで高級な模型のように完璧な調和を保っていた。エッセンシャルオイルのほのかな香りが空気に溶け込み、埃一つ見当たらない家具は、夫である満男が築き上げた安定した生活の象徴だった。けれど、その完璧さが、時折、洋子の胸の奥にぽっかりと空いた穴のように感じられることがあった。それは退屈という名の、静かな渇きだった。

「洋子、同窓会、行ってらっしゃい。久しぶりに楽しみなさい」

満男は、出勤準備をしながら鏡に映る自分のネクタイを整え、何気なくそう言った。その声には優しさがあったが、同時に、洋子の内面に渦巻く感情を察知するほどの鋭さはなかった。彼は妻を愛し、信じていた。だからこそ、地元に帰るための一夜の許しを、ためらいも与えたのだ。洋子は「いってきます」と小さく声をかけ、彼の背中に微笑みを浮かべた。その笑顔は、妻としての、完璧な愛情表現だったはずなのに、唇の端だけが少し上ずっていることに、彼女自身気づいていなかった。

洋子は寝室へ向かい、クローゼットの前に長く立ち尽くした。何を着ていけばいいのか。普段着ているような清楚なワンピースでは、あまりにも地味すぎるだろうか。かといって、派手すぎるのも不自然だ。十年ぶりの再会。十年という歳月は、人をどれだけ変えてしまうだろうか。彼はもう、あの頃の青臭い少年ではない。社会人として、男として、どんな風に変わっていただろうか。洋子の指が、一枚の紺色のシルクのワンピースに触れた。滑らかな肌触りが、彼女の指先をくすぐった。このワンピースは、胸の膨らみを強調し、細い腰のラインを際立たせる。夫が買ってくれたものだが、満男はあまり洋子の身体をこうした形で見たいとは思っていないようだった。彼は、妻を守るための、穏やかな存在として愛していたのだ。洋子は、ためらいもなくそのワンピースを身にまとった。鏡に映る自分は、どこか見慣れない、色気を帯びた女に見えた。その姿に、胸の奥で何かがきしむような、甘い痛みが走った。

電車に揺られる時間は、過去へと逆行するような不思議な感覚に満たされていた。窓の外では、見慣れた都会のビル群が次第に低くなり、緑豊かな田園風景へと変わっていく。その景色の変化が、洋子の心の整理をつける時間を与えてくれた。これはただの懐古主義だ。昔を懐かしむだけの、無害な一夜だ。そう自分に言い聞かせるけれど、心臓がどうしようもなく速いペースで鼓動しているのは、どうにも止められなかった。十年前、彼に向けた自分の視線が、決して片思いだけのものではなかったかもしれない、という淡い期待が、ふわりと心に舞い上がる。それは、禁断の果実を味わう前の、そんな甘美な恐怖だった。

会場となったホテルの宴会ホールは、すでに旧友たちの喧騒で満ちていた。懐かしい顔、少し太った顔、すっかり垢抜けた顔。様々な声が洋子の耳に飛び込んでは消えていく。彼女は適当に笑い、適当に頷き、グラスに注がれた白ワインの冷たさに唇を濡らした。その時だった。人混みの向こう、カウンターに片肘をついて立っている一人の男の姿が、洋子の視界にくっきりと焼き付いた。短く刈り込まれた黒髪、シャープな顎のライン、少し肩幅の広い、引き締まった体つき。洗練されたグレースーツを羽織ったその姿は、まるで雑誌から抜け出てきたモデルのようだった。しかし、洋子が一瞬で彼だと見抜いたのは、そんな外見だけではなかった。人を射抜くような、鋭い瞳。その瞳が、昔と変わらず、強い意志を宿していた。三ツ矢圭介。彼は、洋子の青春のすべてを占めていた名前だった。

「…洋子さん?」

気づけば、圭介が目の前に立っていた。彼の声は、思春期の頃よりも低く、落ち着きを帯びていたが、その響きは洋子の記憶の奥深くに刻まれているものと同じだった。彼は微笑み、その笑みに、昔の無邪気さと、今の男の成熟した色気が混じり合っていて、洋子は一瞬、息を呑んだ。

「あ…三ツ矢くん。久しぶり」

洋子は、どういうわけか、自分の声が少し震えているのがわかった。圭介の視線が、洋子の顔から、彼女が身につけているワンピースの胸元へと、ゆっくりと滑り落ちていくのを感じた。その視線は、物理的な熱を帯びているかのようで、シルクの生地を通して彼女の肌を焼き焦がすようだった。洋子の胸が、きゅうと締め付けられるような感覚に襲われた。

「全然変わらないね。いや、むしろ…昔よりも、もっと綺麗になっている」

彼の言葉は、ただの社交辞令ではなかった。その瞳の奥に燻る欲望の色が、洋子の心臓を直接掴んでいるようだった。洋子は顔を熱くし、目をそらしてグラスを口に運んだ。アルコールの苦みが、彼女の口の中で広がる。

「ううん、もうおばさんよ。三ツ矢くんのほうこそ、すっかり男らしくなって驚いたわ」

「そうかな?」

圭介は、一歩、洋子に近づいた。彼の身体から放つ、洗剤と、それに混じった彼自身の生々しい体臭が、鼻をつく。それは、満男の身体からする、穏やかな石鹸の香りとは全く違う、野性的で、男の匂いだった。その匂いを嗅いだ瞬間、洋子の身体の奥で、忘れていたはずのスイッチが入るような衝撃が走った。下腹部に、鈍い熱がこみ上げてくる。彼女は無意識に太ももを強く挟んだ。

「君が来るって聞いてたんだ。だから、来たんだよ」

圭介は、さらに低い声で、洋子の耳元に囁いた。彼の温かい息が、耳たぶをくすぐり、背中に電流が走るのを感じさせた。なぜ、自分が来るのを知っているのだろう。そんな疑問も、彼の近すぎる存在感に溶けていった。圭介の視線は、もはや隠すことなく、洋子の身体を貪るように、その曲線をなぞっていた。特に、重厚に膨らむ胸を、その熱のこもった瞳で見つめている。その視線に晒されているだけで、洋子の秘部は、じっとりと濡れ始めていた。下着の生地が、自分の愛液に湿って、肌に張り付くような感覚。恥ずかしい、という気持ちよりも先に、からだが事実を突きつけていた。この男の前に立っているだけで、自分は女として、そう簡単に反応してしまうのだ。

「…ねぇ、洋子さん」

圭介が、彼女の名前を呼んだ。その声に、洋子の体中の細胞が反応する。彼は、宴会ホールの騒がしさから離れた、少し暗い隅のソファへと彼女を誘った。二人で並んで座ると、彼の肩が、洋子の肩にわずかに触れた。そのわずかな接触だけでも、洋子の心臓は跳ね上がるようだった。

「あの時、高校の卒業式の日に…もし、僕が君に声をかけていたら、どうなっていただろうね」

突然の、十年の時を超えた問いかけ。洋子は、答えることができなかった。もし、あの時…もし、自分の想いが、彼にも届いていたなら。この十年間、自分の人生は、全く違うものになっていただろうか。満男と出会うことも、この何不自由ないけれどどこか退屈な日々を送ることも、なかったかもしれない。

「…わからないわ」

ようやく絞り出した声は、か細く、震えていた。圭介は、そんな洋子の横顔をじっと見つめていた。そして、彼は静かに、自分の手を伸ばし、洋子の膝の上にそっと置いた。ワンピースの薄い生地の上から、彼の大きな、温かい手のひらの熱が伝わってくる。その熱は、洋子の全身を駆け巡り、理性の鎖を少しずつ溶かしていくようだった。

「僕は、ずっと君のことが好きだったんだ。あの時も、今も」

その言葉は、宣告だった。洋子の頭の中が、真っ白になった。耳鳴りがして、周りの喧騒が遠のいていく。胸の高鳴りが、まるで他人事のように大きく聞こえる。圭介の視線が、もうただの視線ではない。それは、洋子の心と身体のすべてを、自分のものにしたいという、剥き出しの欲望そのものだった。洋子は、抵抗することができなかった。彼の視線に、彼の言葉に、彼の掌の熱に、すべてを奪われていく。膝の上に置かれた手が、そっと、彼女の太ももを撫で始めた。その指先の動きが、直接、彼女の膣壁をこするような、あまりにも生々しい快感を生み出す。

「んっ…」

思わず、漏れてしまう息。洋子は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。こんな場所で、こんな風に…。でも、からだは正直だった。秘部は疼き、熱を帯び、愛液が溢れんばかりに濡れそぼっていた。もう、どうでもよかった。夫への罪悪感も、主婦としてのプライドも、この男の前では、すべてが無意味に感じられた。洋子は、ゆっくりと顔を上げ、圭介の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳は、もう迷いがなかった。それは、十年もの間、眠っていた欲望が、ついに目覚めた瞬間だった。

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AIが紡ぐ大人の官能短編『妄想ノベル』案内人です

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