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(濡れ場ロングバージョン)見守りカメラの俯瞰映像で夫が知った、暗がりの寝室が明々と灯る寝室に変わってしまった妻の堕落と離婚の全貌

不倫/浮気 / 寝取られ(NTR) 全10章 約129分で読了(64,137字) 2026年10月10日

あらすじ

融資先のベンチャーから借りた見守りカメラが映したのは、明々と灯る寝室で見知らぬ大学生たちに抱かれる妻の姿だった。子作りを願い姫のように妻を扱っていた地方銀行員の夫が、暗がりの寝室と電球の下の寝室の落差、匂いと写真立ての位置ずれを追いながら、静かに離婚を選ぶまでの記録。

第1章 姫のように妻を扱う銀行員の夫が子作りを願いながら迎えた結婚二年目の平穏な食卓

第1章のシーン

四月の平日、十九時を少し回った頃。俺は自宅マンションの玄関を開け、革靴を脱ぎながら、台所から流れてくる出汁の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。鰹節と醤油の甘やかな湯気に混じって、微かに柑橘系の洗剤の香りがする。有紗が何かを作り終えたばかりなのだろう。リビングの照明は暖色に落としてあり、ダイニングテーブルの上には白い器がふたつ、箸置きとともに整然と並んでいた。

この平穏が、あと数ヶ月で音を立てて崩れ去るとは、あの頃の俺には露ほども知りようがなかった。いや、誰に分かっただろう。部屋に満ちる出汁の匂いも、食卓に並ぶ白い器の静けさも、すべてが当たり前のように続いていくはずだと、俺は一片の疑いもなく信じていたのだ。見守りカメラの映像であの夜を目の当たりにするまで、妻の名を呪う日が来るなんて想像さえしていなかった。

「おかえりなさい。ちょうど出来たところよ」

エプロンを外しながら有紗が振り返る。紺のリネンシャツに、裾の広がったフレアスカート。肩まで流れる黒髪が、動きに合わせてふわりと揺れた。白い肌が照明を受けて、首筋から鎖骨のあたりにかけて滑らかな光を帯びている。銀行に勤めていた頃から目を引く美貌だったが、家にいる時の有紗は化粧が薄く、肌の質感そのものが柔らかく見えた。焦茶の瞳が俺を捉えて、口元に小さな笑みが浮かぶ。三十一歳の妻は、こんな何気ない瞬間でさえ、俺の胸の奥を静かに締めつけてくる。

「今日は煮魚にしたの。あと、菜の花のお浸しと豆腐の味噌汁」

エプロンを畳む指先は白く細く、それでいて主婦らしい手つきに落ち着きがあった。有紗が台所に立つ後ろ姿を見るたび、俺は銀行の窓口にいた頃の彼女を思い出す。あの頃から彼女は、人に安心感を与える空気を纏っていた。今はその空気が、家という器に染みわたっている。

「美味そうだな。先に着替えてくる」

「ゆっくりでいいわよ」

その声に背を向けて、俺は寝室へ向かった。ネイビーのスーツを脱いでハンガーに掛ける。白いシャツのボタンを外しながら、ふと窓の外に目をやった。地方都市の夕闇は早く、四月の終わりの空は藍色に沈んでいる。新しい支店の立ち上げ準備で、ここ数週間は帰宅が遅くなることが多かった。今夜は久しぶりに、有紗とゆっくり顔を合わせて夕食を取れる。それだけで肩の力が抜けていくのを感じた。

部屋着のカットソーとスウェットに着替えてリビングへ戻ると、有紗はもう食卓についていた。湯気の立つ皿の向こうで、彼女が箸を手に待っている。

「いただきます」

煮魚は鰆の西京焼きだった。ふっくらと焼けた身を箸で割ると、味噌の甘い香りがふわりと鼻をくすぐる。菜の花のお浸しは苦味がほどよく、豆腐とわかめの味噌汁は出汁がきちんと利いていた。俺が黙って食べるのを、有紗は向かいから時折こちらを窺うようにして、それから自分も小さく口を動かす。そういう食卓だった。派手な会話があるわけでもなく、けたたましい笑い声が響くわけでもない。けれど、その静けさが俺には何より心地よかった。

「ねえ、今日ね、スーパーで梅の花が咲いてるのを見たの。もう春なのね」

「ああ、今年は桜も早かったからな」

「和明、覚えてる? 去年、お花見に行ったとき、屋台の焼きそばがすごく美味しくて」

「覚えてるよ。お前、二杯も食ってたろ」

「もう、言わないで」

有紗が恥ずかしそうに俯いて、耳のあたりをほんのり赤くした。その仕草が愛おしくて、俺の口元が勝手に緩んでしまう。出会ってから六年、結婚して二年。有紗は相変わらず、こんなふうに小さなことで照れてみせる。学生の頃から人気者だったと本人は笑うが、家の中の有紗は銀行にいた時よりずっと柔らかく、甘え上手だった。男という生き物が、こういう彼女を放っておかないだろうことも、肌感覚として分かっていたはずなのに。

「ねえ、和明」

食事が半ばを過ぎた頃、有紗が箸を置いて背筋を伸ばした。俺は味噌汁を一口啜ってから彼女を見た。何かを言いたそうに、焦茶の瞳がわずかに揺れている。

「どうした?」

「あのね……私、アルバイトをしたいの」

予想していなかった言葉に、俺は少しだけ箸を止めた。有紗は正座したまま、膝の上に置いた両手をきゅっと組んでいる。指先が白くなるほど力を込めているのが分かった。何か重大な相談をする時に彼女が必ず取る姿勢だった。

「アルバイトって、どんな?」

「ファミレスの給仕。家から自転車で十五分くらいのところにある、一階に駐車場のあるお店なんだけど」

有紗は早口で続けた。接客の仕事は銀行にいた頃から好きだったこと、家に一人でいるのが少し寂しいこと、身体を動かすのは元々嫌いじゃないこと。言い訳のようにも理由の説明のようにも聞こえる言葉を、俺は黙って最後まで聞いた。

「子供が出来たら、すぐにやめるから。だから、その、お願いしてもいいかな」

最後の言葉だけ、有紗の声が小さく沈んだ。俺は空になった味噌汁の椀を置き、彼女の正面に向き直る。白い喉が、緊張を飲み込むように細く動いた。

「子供が出来たら、すぐやめられるようなアルバイトなら」

俺がそう言うと、有紗は一瞬きょとんとして、それから大きく息を吐いた。

「いいの?」

「うちはまだ子供もいないし、お前が外で働きたいなら構わないよ。ずっと家にいるより、気分転換にもなるだろ」

「ありがとう、和明」

ぱっと花がほころぶように笑った有紗は、それからの食事中、ファミレスの制服はどんな色かとか、シフトの入れ方はどうするかとか、矢継ぎ早に話し始めた。俺は相槌を打ちながら、嬉しそうに語る妻の姿を目に焼きつけていた。この時、何の心配もしていなかった。本当に、何ひとつ。

夕食を終えて風呂に入り、俺はリビングのソファで明日の予定をスマホのカレンダーで確認していた。有紗はキッチンで食器を洗い終えると、手を拭きながらこちらへ来る。濡れた髪をタオルで包んだ姿は、湯上がりのせいか肌がいつもより白く透けて見えた。首元から胸元にかけてほのかに上気していて、リネンシャツの襟から覗く鎖骨がしっとりと光っている。有紗は俺の隣に腰を下ろし、そっと肩にもたれかかってきた。石鹸と、彼女自身の肌から立ちのぼる甘い匂いが鼻先に届く。

「明日も早いんでしょ?」

「七時には家を出たいな」

「お弁当、作るわ。何がいい?」

「卵焼きと、生姜焼き」

「いいわよ。あと何か入れたいものはある?」

「有紗の好きなものでいいよ」

有紗が小さく笑って、俺の腕に指を絡めてきた。柔らかい指先が、手の甲を探るように触れる。しばらくそうやって、互いの呼吸だけがソファの上に落ちていた。テレビはついていなかった。換気扇の音も止まった室内には、マンションの外を走る車の音だけが遠く聞こえる。彼女の体温が肩を通して流れ込んでくる。その重みも、温かさも、俺の帰る場所そのものだった。

「寝ようか」

俺が言うと、有紗はこくりと頷いた。寝室へ入り、俺がベッドの上掛けを捲る。有紗は壁側の定位置に腰を下ろして、髪を乾かし終えた黒髪を背中へ流した。照明を消すのは有紗の決まりだった。まだ恥ずかしいのだと、結婚して二年になっても彼女は言う。俺はそれに従い、枕元のスタンドも点けない。こうして部屋が暗闇に沈んでから、ようやく彼女は身体を許すのだった。

暗がりの中、シーツが衣擦れする音だけがやけに大きく響く。俺が手を伸ばすと、有紗の指がそっと俺の手に重なった。熱いくらいの指先が、俺の手のひらを確かめるように握ってくる。汗ばむ一歩手前の体温。吐息が近い。有紗の髪の香りが、闇の中で輪郭を帯びる。まるで目隠しをされたかのように、嗅覚と触覚だけが研ぎ澄まされていく。

「和明……」

有紗の声が甘く掠れて、俺の耳に落ちてくる。暗闇で手探りに彼女の頬を探し、唇を寄せた。最初は触れるだけ。何度目かには互いの唇をそっと食み、それから舌先がほんの少し触れ合う。その瞬間、有紗の腰がぴくりと震えて、シーツのかさねがまた静かに鳴った。口の中に広がるのは、彼女の唾液が混じった味。うっすらと甘苦い。何度味わっても、飽きるどころかもっと深く欲しくなる。

俺は彼女のシャツの裾から手を滑り込ませ、背中の曲線を確かめる。しっとりと吸い付くような肌が手のひらに馴染む。指を上へ這わせてホックを外すまで、有紗はずっと微かな吐息を漏らしていた。暗闇に慣れた目が、うっすらと白い肌の輪郭を捉える。恥ずかしそうに腕を交差させて胸を隠す妻の手首に触れて、そっと外させた。シーツの海に、有紗の豊満な胸が沈む。俺がそこへ唇を寄せると、彼女は「んっ」と短く息を詰めた。乳房の下の窪みに鼻先を埋めると、垢染みた汗ではなく、湯上がりの肌に染みた香りが立ちのぼってくる。男にとっての媚薬そのものだった。

触覚と聴覚だけが、この部屋のすべてだった。指の腹で確かめる胸の柔らかさ。その頂でこわばる尖り。口に含んだ瞬間、有紗の背が浮く。胃のあたりまで響くような甘い吐息が、暗闇を細かく震わせた。下腹部に熱が集まり、スウェットの中で質量を変えていく。有紗の太腿の内側が、俺のそれを遠慮がちに擦った。布越しの脚の感触。燃えるように熱い。

「触って」と有紗が囁く。その声には泣きそうなほど切実な響きがあって、俺は一瞬で理性を手放しそうになった。下着を脱がせる指先が、彼女の腰骨のくびれをかすめる。露わになった茂みに手を這わせると、もうそこは湿り気を帯びて熱を持っていた。俺の指が割れ目に触れるたび、有紗の腰が小さく跳ねて、枕に押し付けた声が漏れる。

「指、入れるぞ」

「……うん」

にゅっくと、濡れた窄まりに中指が吸い込まれた。有紗の内側は柔らかく、熱い。俺の指を締めつけてくる感覚に、自分のペニスが痛いほど反応した。指を引き抜いては、くちゅ、と濡れた音が暗がりに立つ。その水音が、暗闇の中でやけに卑猥に響いた。有紗はシーツを握りしめ、時折「ああ、ああ、あなた」と囁くように喘いだ。

彼女の胎内に指を二本埋め込みながら、俺は唇で首筋を辿った。有紗が身を捩り、俺のペニスを探るように手を伸ばしてくる。パジャマの上から、握るでもなく添えるだけの手つき。それが逆に官能を煽り、俺は彼女の指だけでは足りない、彼女自身が欲しくなった。自分の鼓動が、腹の奥で鈍く鳴っている。

「有紗、入れていいか」

「……消したまま、して」

有紗の返事は、いつものそれだった。暗い中で彼女を抱き、俺は自分の下着を膝まで下ろした。有紗の両脚を開かせて、ぬかるんだ入り口に先端を添える。熱い粘膜が、挿入の前からひくひくと震えて俺の亀頭を啜り出した。亀頭の裏が湿り気に吸いつかれる感覚。腰が勝手に前へ進みたくなるのを、なんとか一度だけ堪えた。

「いくよ」

ずぶり、と沈み込む。途端に有紗の両脚が俺の腰へ絡みついて、内側全体で俺を絞り上げた。声は出さない。代わりに、有紗の爪が背中に食い込み、喉の奥で「ひぅ」と空気が抜けた。俺は動きを止め、彼女の内部の痙攣が少し収まるのを待ってから、深くまで抉る。ぬちゃり、ぬちゃり、抽送に合わせて濡れた音がやむことなく響いた。

「和明、もっと……」

有紗の囁きは、泣き声の中に溶けるような甘さだった。腰が内側から震えて、太腿が俺の体側を締めつける。俺は有紗の左足を腕に抱え上げ、浅い角度から何度も奥を穿った。喘ぎ声を噛み殺すように、彼女は枕に顔を押しつけている。俺の下生えが有紗の肉厚とぶつかるたび、淫らな水音が暗闇の密度を変えた。奥に突き当たるたび、彼女の中の襞が意思を持った生き物のように巻きついてくる。

肌と肌のぶつかる音。有紗の呼吸。背中を伝う汗。彼女の牝の匂いが、交わりが深くなるごとに濃くなって、俺の鼻腔を犯していく。内臓の奥まで届きそうな、酸を含んだ匂い。この匂いも、音も、温度も、すべて有紗だ。俺の妻だ。この暗がりでしか見せない顔も、身体も、ぜんぶ。

「有紗、いくぞ……」

「ああ……きて、来て来て……」

その言葉と同時に、俺は奥の奥で自分を爆発させた。どくどくと注ぎ込む間、有紗の内腔が搾り上げるように脈を打った。彼女も同時に達したのだろう、あーっと掠れた声が漏れて、背骨が板のように反る。俺は精を吐き切り、しばらくの間、有紗の上に覆いかぶさったまま動けなかった。彼女の心臓の音が、胸を通して伝わってくる。

ようやく身を起こして、手探りでティッシュを引き寄せる。有紗は静かに横たわったまま、暗い天井を見上げていた。交わしたばかりの汁が、太腿を伝ってシーツに滲んでいく気配がする。それすらも愛おしいと思った。有紗の中に、いつか子供が宿る。今夜のこれが、その始まりになればいい。そう願わずにはいられなかった。

「……和明」

有紗がそっと俺の名を呼んだ。俺が布団を直しながら顔を向けると、彼女はこちらに背中を寄せて、小さく笑った。

「あなた、明日も早いんでしょ」

その囁きは、もう有紗の呼吸が落ち着いていく最中の穏やかさだった。俺は喉を軽く鳴らす。

「ああ」

暗がりの中で、有紗が俺の指先に手を絡めてきた。じんわりと温かい。二月目の春。平穏すぎる夜に、俺は妻の寝息が隣に来るのを待った。子作りの願いと、言い知れぬ充足だけが胸を満たして、それ以上の何もこの日はまだ、影すら落としていなかった。

第2章 バイトを始めて三ヶ月の妻が大学生との打ち上げを申し訳なさそうに相談する夜

第2章のシーン

第2章: バイトを始めて三ヶ月の妻が大学生との打ち上げを申し訳なさそうに相談する夜

七月に入って初めての金曜日、夕食の支度をする有紗の背中を眺めながら、俺はリビングのソファでネクタイを緩めた。エアコンの風が首筋を撫でて、一日の汗ばみをさらっていく。キッチンからは油の跳ねる音と、玉ねぎを炒める甘い匂い。有紗は薄い水色のリネンシャツに、生成りのエプロンを重ねていた。腰の後ろで結ばれた紐が、動くたびに小さく揺れる。黒髪を低い位置でひとつに束ねた後れ毛が、白いうなじに張りついていて、汗ばむ肌の質感までが手に取るように想像できた。

「今日ね、話したいことがあるの」

食卓に並んだ皿を前に、有紗が切り出したのは、俺がちょうど箸を取ったその時だった。豚の生姜焼きと冷や奴、それに味噌汁。湯気の向こうで、有紗の焦茶色の瞳がわずかに揺れている。何かを言いにくそうに、箸先で小さく豆腐をつついた。

「どうした? 改まって」

「あの、今度の土曜日、バイト先の打ち上げに誘われちゃって。夜のシフトはほとんど挨拶だけの大学生の子たちなんだけど、新人の歓迎も兼ねてるらしくて、断れなくて」

「ああ、そういう話か。行きたいなら行けばいいよ」

「行きたいっていうか、行かなきゃいけない感じで。私、もう三十一だし、学生さんたちの話に入っていけるかしら。おばさん扱いされたり」

「お前は全然おばさんじゃないから、その心配は要らないだろ」

「もう、そういうことを軽く言わないの。ほら、二十歳前後の子たちって、話のテンポも違うし、流行ってるものも知らないんだもの」

「まあ、でも、十数名で社員さんも来るんだろ? なら大丈夫だよ。若い子たちが羽目を外さないか、そっちの方が心配だけどな」

俺が笑いながらそう言うと、有紗は小さく唇を尖らせて、それからくすりと笑った。白い指先がグラスの表面をなぞって、結露の雫を拭う。リネンシャツの襟元から覗く鎖骨の窪みに、冷房の風が影を落としていた。

「社員さんも来るし、お店の飲み会だから。そんなに心配しないで。終わったらすぐ帰るから」

「わかった。楽しんでこい。どうせ俺はその日、遅くなるし、気にせず行っておいで」

その時の俺は、心からそう思っていた。有紗が外で働き始めて三ヶ月。接客の仕事は明るく誰とでも打ち解けられる有紗に合っていたし、家の中でだけ過ごしていた頃より、肌つやもいい気がする。食卓で語られるバイトの話には、銀行にいた時とは違う生気があった。学生たちの無邪気な振る舞いや、常連客の些細な注文の話。それを聞くのが、いつの間にか俺の楽しみにもなっていた。

土曜日の夜、俺は支店に残って週明けの新規融資の資料をまとめていた。時計が八時を回った頃、スマホに一度目のメッセージを送る。

「そろそろ一次会終われよ。無理して飲むな」

返信は十分ほどしてから来た。

「大丈夫、焼き鳥屋さんでみんないい子たちだよ。和明さんこそ、ちゃんとご飯食べてる?」

俺は短く「ああ」と返して、パソコンの画面に視線を戻した。エクセルの数字が、頭の端で浮つく。妙に落ち着かない夜だった。有紗が楽しそうにしているのが、少し遠く感じられた。

九時を過ぎて、二度目のメッセージを送る。

「今どこにいる? 終わったら連絡しろ。駅まで迎えに行く」

返信はすぐだった。

「今ね、二次会でカラオケに呼ばれちゃった。大学生の子たちノリがすごくて。ごめんね、もう少しだけ」

「無理すんなよ」

それが、その夜の有紗との最後のやりとりになった。

十時を過ぎ、十一時を過ぎても既読がつかない。何度か電話もしてみたが、コール音が続くだけで出ない。終電がなくなる前に家に帰してやりたい。そればかりが胸を過った。カラオケボックスで騒いでいるのなら、スマホに気づかないこともある。そう自分に言い聞かせながら、俺は資料を閉じて帰宅した。

マンションのドアを開けると、玄関には有紗のサンダルが片方だけひっくり返っていた。リビングの照明は消えたままで、寝室のドアが薄く開いている。胸が小さく軋んだ。まだ帰っていない。

俺はスーツのまま食卓の椅子に座り、スマホを置いて時計を睨んだ。秒針の音だけが、しんと静まり返った部屋に響く。エアコンの室外機の音が遠く唸っていた。

零時を少し回った頃、ようやくインターホンが鳴った。モニターに映った有紗は、心なしか俯き加減で、髪の毛を耳にかける仕草がどこか怯えているように見えた。

「おかえり。遅かったな」

「ごめんなさい。あの、私、ちょっと飲み過ぎちゃって、カラオケで寝ちゃったみたいで」

玄関に入ってきた有紗は、そう言ってくしゃくしゃになった髪を片手で押さえた。白いブラウスが背中に汗で貼りついていて、鎖骨のあたりがぼんやり上気している。酒の匂いと、甘いにおいがわずかに混じった空気が、ひやりとした玄関に溜まった。

「よかった。心配したよ。電話も出ないから」

「ほんとにごめん。飲み会慣れてなくて、つい。あの、私、先にお風呂入るから。あなた、もう寝てて」

そう言うと有紗は、俺の返事を待たずに浴室のドアへ消えた。脱いだヒールが、揃えられることもなく脱衣所の隅に転がっている。蛇口から湯の落ちる音が、夜の静けさに染みた。

その夜は結局、俺はリビングのソファで眠った。いや、眠れなかったと言った方が正しい。有紗は風呂から上がると、薄暗い室内を抜き足で通り過ぎて、寝室に閉じこもった。扉の向こうからドライヤーの低い音が聞こえて、しばらくして消えた。最後まで自分の目を見ようしなかった妻の横顔が、何度も瞼の裏に浮かぶ。

翌朝、有紗はいつも通りキッチンに立っていた。白いカットソーにフレアスカート。腰の後ろで結んだ髪の毛が、昨日よりわずかに細くなった気がした。

「昨日はごめんなさい。学生さんたちが盛り上がっちゃって、なんだか私まで巻き込まれちゃった」

目が合うと、有紗は照れくさそうに肩をすくめてみせた。その仕草が、いつもの彼女だった。

「楽しかったんだろ。それはよかったよ」

私はトースターから食パンを取り出しながら、小さく微笑んだ。焦げ茶の瞳が、朝の光に透けて蜂蜜色に見える。この人を疑う理由なんて、どこにもなかった。酒の勢いで連絡を忘れてしまうくらい、久しぶりに羽目を外した。若い子たちの熱気に圧倒された。それだけの話だと、自分に言い聞かせたかった。

「圧倒されちゃった。でも、いい子たちでよかった。バイト辞めなくて済むわ」

「辞める前提で考えてたのかよ」

「そういうわけじゃないけど。おばさんが浮かないか、やっぱり心配じゃない」

「有紗はどこにいたって浮かないタイプでしょ」

「やめてよ、恥ずかしい」

はにかんだ有紗の白い頬に、薄紅が差す。洗いたての靄のような香りが、キッチンにふんわり立ち込めて、俺の胸の奥をくすぐった。

その夜、寝室に入ると、有紗は先に布団の中にいた。照明は豆電球ひとつ。暗がりに浮かぶ肩の線が、呼吸に合わせて淡く上下している。俺が隣へ滑り込むと、シーツ越しに有紗の体温が流れ込んできた。昨夜のアルコールの痕など残っていない、いつもの清潔な、ほのかに花のような甘い女の匂い。

「昨日、寂しかった?」

ぽつりと聞くと、有紗は暫くしてから、背中を向けたまま小さく頷いた。

「少しだけ」

「俺もだよ」

俺は有紗の肩に手を触れた。指先がしっとりと吸い付くような、色白のもち肌。有紗が身じろぎして、顔を横に向ける。薄闇の中で濡れた黒い眸が、俺を見上げた。そのままゆっくりと唇が重なる。何度も角度を変えて、互いの息を味わうように。有紗の膝小僧が、俺の太腿の横ですり合わされた。

「和明……」

熱い息が首にかかる。俺は有紗のカットソーの裾をまさぐり、素肌へ手のひらを差し入れた。汗ばんだ背中の真ん中を、ぐっと手のひらで掴むように撫で上げると、有紗が切なげな声を漏らす。くちゅ、と湿った音が、互いの口の端から聞こえた気がした。

「触ってもいいか」

「……あなたも、触ってほしいの?」

そう言うと有紗は、暗闇の中で手探りのまま俺の指を胸へと導いた。柔らかな膨らみが、指の腹でつぶれるように形を変える。レースの薄いブラの上から、中央の尖りを親指で転がすと、有紗の腰が小さく揺れた。

「あ……やんっ」

「声、もっと聞きたい」

「やだ……恥ずかしいから、消してして」

「消してるよ」

「わかってる。でも、なんとなく」

有紗の指が、俺のワイシャツの背骨をなぞった。その繊細な手つきだけで、夜が濃くなっていく。汗の匂いが布団の中に籠もり、互いの吐息がどちらともなく重なる。有紗の太腿に掌を這わせると、ツルツルとした肌の上で、汗の薄い被膜だけがわずかに抵抗した。内腿はひどく熱くて、指先が汗ばむ。

下半身を脱がせようと有紗のショーツへ手をかけると、有紗がわずかに腰を浮かせて、それを許した。薄闇に浮かぶ白い太腿が、シーツを掻くように動く。俺は膝立ちになって、有紗の両腿を割った。豆電球の淡い光が、逆光のまま恥丘へ落ちて、濡れそぼった割れ目の輪郭をうっすら浮かび上がらせる。

「あっ……和明、見ないで。暗いのに、ちゃんと見てるの?」

「見えるよ。髪と同じくらい、黒いな」

「やだ、そういうこと言わないの」

有紗が、開かれた両腿を閉じようとする。俺はそれを手のひらで受け止めて、茂みの下のひだへ人差し指を添えた。ぬるりと熱い汁が、第一関節を包み込んでくる。くちゅ、と水音が微かに鳴って、有紗が肩を震わせた。

「指、入れるなよ。俺のは後で」

「もう……今日も、するんでしょ」

「お前がいいなら」

「……いい、の。私、あなたが好きだから」

官能的な韻を帯びた声で、有紗がそう囁いた。その純朴な言葉が、布団の熱に溶けて、腹の奥へ沈んでいく。俺は下着を脱ぎ捨てると、有紗の熱い股間へ自分の物をあてがった。先端は既にぬらぬらと光っていて、L字に反り返るほど硬い。自分の物が夫婦生活二年間で、少し太くなった気がしないでもないが、たぶん気のせいだ。

「入れるぞ」

「……うん、ゆっくりね。昨日の今日だから、なんだか、変になっちゃいそうで」

「俺も、お前が帰ってきてからずっと、こうなるのを我慢してた」

そう言いながら、俺は腰を沈めた。ずぶり、と押し込まれる。有紗の肉襞が、間髪入れずに咥え込んできて、根元まで一息に呑み込んだ。ドクン、と心臓が鳴る。有紗の内側が、熱い果肉みたいにうねうねと波打って、男の物を搾るように引き締めた。

「ひぅ……あっ、和明、奥……奥まで、きちゃった」

「今日は、やけに絡むけど。酒残ってるんじゃないか」

「しらない……あぁ、もう、動かないで。動くと声出ちゃう」

「声、出せよ。防音だし、誰も聞いてない」

「やっ、でも、恥ずかしいのは、恥ずかしいの」

有紗はシーツの端を引っ張って口元を覆いながら、それでも俺の腰の動きに合わせて小さく肢を開いた。俺は有紗の白い膝裏を抱え直して、ねっとりと腰を突き上げる。ぐちゅ、ぐちゅ、と愛液の混ざった下品な水音が、夜の静寂を割っていく。有紗の豊満な胸が、シーツの上でぷるんと揺れた。

「ああっ……あ、あっ……和明……んやあっ」

「中が、きゅうきゅう締めてくる。俺もう、そんなに余裕ない」

「わたしも、わたしも、おかしくなる……。今日、すごい、いつもより……あっ、はぁああんっ」

有紗が背を反らし、腰を小さく痙攣させる。その反応を確かめるように、もっと深く、もっと早く、当然のように求めていく。汗の飛沫が、暗がりの中の首や鎖骨に散った。ふたり分の肌が、シーツを蒸し暑く濡らしていく。

「有紗、いくぞ」

「あ……来て、わたしの、奥に……お願い」

だから俺はためらわずに、有紗の白いうなじへ顔を埋めて、腰を突き出した。ドクン、と尿道を精が灼いていく。有紗の肉壺が、しゃぶりつくように男の物を締めて、最後の一滴まで吸い上げようとした。有紗が、はあ、はあ、と浅い息を途切れ途切れに漏らしている。その汗ばんだ額をぬぐいながら、俺はゆっくりと己の物を引き抜いた。ぬぷ、と閉じなかった蜜口が、特有の淫らな音を立てて空気を含む。

「ねえ、和明……私、今日、ちゃんと帰ってきたでしょ」

「ああ。楽しかったんなら、また行けばいいよ。でも、俺から連絡したら出ろ」

「わかった。あなた、焼きもちやきなんだから」

「当然だろ。姫は大事にしないと、攫われちまう」

「……ふふ、馬鹿ね。私は誰にも攫われたりしないわ」

有紗の声は、さっきまでの切迫した高さが嘘のようにほぐれて、柔らかい余韻を残していた。その言葉が祈りみたいで、縋るよりはむしろ、静かな夜の土台みたいだった。本当に、いつもの暗がりのセックスだった。

そう、この章のどのシーンにも、まだあの妙な甘い匂いは無い。電子タバコの残り香も、写真立てが左端へずれている不穏な気配も、まだこの家には欠片ほども訪れていなかった。

第3章 出張が増えた夫の留守に妻が女友だちとの飲み会を重ねていく秋

九月に入ってから、俺の宿泊出張は急に増えた。新支店の立ち上げ準備が佳境を迎え、融資先の企業周りも重なって、週の半ばから一泊、あるいは二泊で家を空けることが当たり前になっていた。カバンにシャツと下着を詰めながら、リビングのソファで洗濯物を畳んでいる有紗の背中を見る。薄い麻のカーディガンを肩にかけた、白いブラウスの輪郭が、蛍光灯の光に淡く透けて浮かんでいた。その境目には、ブラジャーのストラップが細く影を落としていて、真面目に家事へ没頭している姿の中に、男だけが知っている柔らかなからだの実在がひそんでいるようで、俺の手元はいつの間にか遅くなっていた。

「今週も出張なの?」

振り向いた有紗の黒い髪が、肩から鎖骨のあたりへするりと流れ落ちる。白い肌に描かれたその線が、薄闇のように艶めかしくて、俺は一瞬、シャツを畳む指を止めた。

「ああ、木曜から二泊。金曜の夜には戻れないから、土曜の朝に帰る」

「そっか……。じゃあ、金曜の夜、私、友達と飲みに行ってもいい?」

畳み終えたタオルを膝の上で整えながら、有紗が少し首を傾げる。その仕草には、申し訳なさと期待が半々に溶け合っていた。

「もちろん。お前も家に一人だと淋しいだろ」

「淋しいから、ちょうどよかった。前の銀行の同期の子が、最近こっちに戻ってきたらしくて」

彼女は立ち上がると、畳んだ洗濯物を抱えて俺の横を通り抜けた。すれ違いざま、柔軟剤の人工的な花の香りと、その下から有紗自身の肌が発する甘い体温の匂いがふわりと鼻をかすめる。男という生き物は、妻のこういう匂いに抗えない。たとえ自分を規律で固めた銀行員であっても、鼻腔の奥が勝手にひらいて、吸い込んだ息を逃がしたくなくなるのだ。

「楽しんでこい。駅前は遅くまで騒がしいから、終電逃すなよ」

「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」

振り向いた有紗の笑顔は、出会った頃から少しも変わっていない。俺はその笑顔を疑うことなく、カバンのファスナーを閉めた。

出張へ向かう朝、玄関で有紗が見送ってくれる。九月の空気はもうひんやりとしていて、彼女は薄手のパーカーの袖を、自分の二の腕ごと抱きしめるようにしていた。爪先がひっそりと浮き、肩をすぼめた拍子に黒髪が揺れて、露出したうなじが白く光る。朝の弱い陽を浴びたそれは、触れれば冷たいのか、それとも昨夜の寝床の名残で温かいのか、俺の指は知りたがっていた。

「気をつけてね。向こう、朝晩は寒いって天気予報で言ってたから、上着ある?」

「ああ、薄いジャケット入れた。お前も夜に出歩くなら、羽織るもの持っていけ」

「うん。金曜は飲み会だから、帰り遅くなるかも」

「わかった。飲み過ぎんなよ」

「あなたこそ。仕事ばっかりで、ちゃんとご飯食べてるの?」

有紗の細い指が、俺のネクタイの結び目に触れる。少しきつく締め直して、胸のあたりをぽんぽんと叩いた。その手の温もりが、出張の間中、シャツの上から薄く残っている気がした。

出張は慌ただしかった。日中は取引先のオフィスと打ち合わせ室を行き来し、夕方には担当者との会食、夜はホテルの部屋に戻って翌日の資料をめくる。そんな日々の中で、有紗からのSNSのやり取りだけが、乾いた時間の合間に水をやるような救いだった。

「今日は友達と駅前の居酒屋に行くね」「今、和明さんはもうホテル?」

画面の文字を追いかけながら、俺は返信を打つ。すると、数分おきに既読がついて、短い言葉が返ってくる。そのテンポが、有紗の機嫌の良さを伝えてくるようで、俺の胸は温かくなった。同時に、ほんの少しだけ寂しくもあった。妻は妻で、俺がいない夜を楽しんでいる。それは良いことだ。良いことのはずだ、と、ホテルの薄い壁に背を預けながら、誰にともなく言い聞かせていた。

土曜の夕方に自宅へ戻ると、有紗は夕食の準備をしていた。キッチンから豚肉と生姜の焼ける匂いが漂い、換気扇の低い音が部屋全体を包んでいる。

「おかえり、お疲れさま。お風呂沸いてるよ。先に入る? ご飯にする?」

「先に風呂もらう。汗かいたから」

脱衣所でスーツを脱いでいると、洗面所の鏡越しに、廊下を歩く有紗の姿が映り込んだ。白いTシャツに腰のあたりで結んだエプロン、脚には短いスウェットパンツ。家の中で見る、何の飾り気もない姿なのに、俺の目はどうしても彼女の太腿や胸の膨らみを追ってしまう。ずっと離れていたせいか、身体の奥に熱いものが溜まっているのが自分でもわかった。

夕食の食卓では、出張の話と有紗の飲み会の話が交互に並んだ。彼女は嬉しそうに友人との再会を語り、俺は曖昧に相槌を打つ。酒は出さず、麦茶で済ませた。理由は、俺自身の喉よりも、今夜この後に備えてのことだ。

「なんだか、出張が多いと、こういう普通のご飯がありがたいな」

「私も。一人だと、なんとなく適当になっちゃうから」

「なに食ってたんだよ」

「冷やし中華とか、コンビニのおにぎりとか。あなたこそ、外食ばっかりだと野菜不足になるわよ」

「まあ、それは言えてる」

食器を重ねて流しへ運ぼうとした有紗の手首を、俺は背後から軽く掴んだ。石けんと生姜の混ざった匂いが、あまりに生活に根差していて、それなのに堪らなく官能的に感じられる。細い手首の骨が、俺の指の輪の中を逃げようとわずかに動いた。

「ちょっと……まだ片付けの途中」

「あとでやる。こっち来い」

「やだ、もう。あなた、急にどうしたの」

耳の後ろに唇を寄せると、有紗の肩がすくんで、逃げるように首をすぼめた。その反応が初々しくて、俺の胸をざわつかせる。夜の寝室は、相変わらず有紗が消灯を望んだ。暗がりの中、指先の感覚だけが彼女の輪郭をなぞっていく。襟元から手を差し入れると、ブラジャーのカップ越しに、触れているだけで掌が吸いつくような、しっとりした肌の弾力が伝わってきた。

「和明……そんな、焦らなくても」

「一週間も我慢したんだ。無理」

「あ……んっ」

背中のホックを外すと、暗闇でもわかるほど有紗が身をよじった。彼女の呼吸が肩に触れ、快感と羞恥の間で震えている。今までと、何かが違う。彼女の腰が、指の動きに添うように少しずつ浮き沈みを始めた。俺はそれを、久しぶりの触れ合いに妻の感度が高まっているのだと解釈した。もっと感じている彼女の姿に、俺の手のひらは汗ばみ、指先が濡れそぼった花弁の合間へ自然に導かれていく。

「あっ……あ、それ、だめ……だめ、なのに……」

「嫌か?」

「や、そうじゃなくて……も、指、動いてる……やぁ、あっ」

ぐにぐにと内壁を確かめるように指を曲げると、有紗の膣がきゅうと締まって、とろりとした蜜が指のつけ根まで這い降りてくる。ヌチャンッという、たどたどしく湿った音が、静かな寝室にやけにはっきり響いた。こういう秘めやかな音は、暗闇では殊更に淫らに耳へ達する。

「すごい音、してる」

「やだ……聞かないで……」

「消せって言うのは灯りだけで、音までは消えないんだよな」

「あなた、いじわる……あっ、そこで、そこ、だめ、ひぅ……ああっ」

彼女の声を聞きながら、俺は自分の下腹の熱を抑えきれず、膝で有紗の両脚を割り開いた。挿入を許すと、一週間ぶりの妻の身体は覚えているよりも熱く、内側から吸い付くように俺のものを包み込む。奥へ進むたび、有紗の指が俺の背中に食い込み、彼女の呼吸が喉の奥で泣き声に変わっていく。俺は腰を動かしながら、この肌と、この粘膜と、この匂いが、確かに俺の妻のものだという悦びに浸っていた。しかし、その一方で、自分でも気づかぬうちに、彼女の蕩けきった腰の動きから目を離せないでいた。

翌朝、有紗は照れたように朝食を並べ、俺は遅い朝のコーヒーを啜った。窓の外は雲が厚く、九月の光は青みがかって部屋の中を冷たく見せていた。

「和明、次っていつ出張?」

「来週の半ばだったか。また二泊」

「そっか。じゃあ、また友達を誘おうかな」

「いいよ。寂しいなら、好きに飲み会でも入れろ」

「ありがと。いつも心配ばかりかけちゃうから」

「心配はしてない。楽しんでるなら、それでいい」

そう言ったものの、胸のどこかに薄いフィルムが一枚貼りついたような違和感があった。誤魔化すようにコーヒーを飲み干すと、苦味が喉の奥でわずかに引っかかった。

出張のたびに、有紗は飲み会を入れるようになった。その頻度は、友達と、バイト仲間と、時には名前も知らない相手と、というふうに混ざり合っていく。いつからか、俺の出張予定が決まると、彼女が先に予定を組んでいることが当たり前になった。淋しいから、という言葉は、まるで決まり文句のように繰り返された。

それは、ある二泊出張から戻った夜のことだった。

十月を前にした、まだ残暑の残る夕方。スーツの背中が汗で湿ったまま、重いカバンを下げて玄関を開けると、家の中はしんと静まり返っていた。有紗は買い物にでも出ているのか、靴箱の上に小さな鍵が行儀よく置かれている。空気はこもっておらず、どこかで窓が少し開いているらしい。その微かに流れる外の空気の底に、家庭的な匂いとは別の、嗅ぎ慣れない甘い匂いが混じっていた。

電子タバコの、あの人工的な果物のような匂いだ。俺は立ちすくみ、鼻を鳴らす。この家で吸う者などいないはずだった。

まず喉の奥を、青臭さに近い甘ったるさが薄く撫でていった。ドラッグストアの清涼剤とも、菓子の香料とも違う、粘膜の奥をねっとりと舐めるような合成の果実香。それが鼻から喉へ落ちるたび、胸の真ん中を冷たい爪先で引きずられるような違和感が走り、背筋の毛穴がすうっと縮むのがわかった。指先はまだカバンの取っ手を握ったままで、汗で滑る。俺は玄関の薄暗がりに突っ立ったまま、耳鳴りのような沈黙を聞いていた。

シャワーを浴びてから自分で自分の首元を確かめても、匂いはすでに薄れている。気のせいか、あるいはどこからか流れてきた外の空気のせいか。そう片付けようとして、拭きかけの髪をそのままに、なんの気なしに寝室へ足を踏み入れた。

寝室の空気は、廊下よりわずかに重かった。鼻の奥へまっすぐ入ってくる、フルーツ系の、喉の奥が甘ったるくなるような残り香。微かだが、消えずに漂っている。それは換気では散らせない熱の名残を伴っていて、例えば汗ばんだ肌に衣服が吸わせた香りが、暗闇の冷めた空間でようやくほどけていくときのような、生ぬるい質量があった。体内へ入り込んだそれが、肺の奥まで浸みるたびに、みぞおちの裏側がざらつく。心臓は早くなるでもなく、一つひとつ重い抽動を打ち、そのたびに冷えた汗が脇の下と背筋を伝っていく。確かな悪寒があった。まだ何かを疑ったわけではない。家の外から迷い込んだ匂いに、身体だけが先に反応している。俺の身体は、頭より先に、この匂いを覚えようとしていた。

眉をひそめてベッドサイドへ目を向け、俺は息を呑んだ。

サイドチェストの上、あの沖縄の写真を入れた写真立てがある。白い砂浜の上で、鮮やかな水着姿の有紗が俺の横で笑っている。青い海を背に、胸元の谷間が白日に晒された、今の年齢の彼女より少しだけ幼い姿。それがいつもの中央ではなく、左端にずれている。

三人分の写真立ては、中央にあの水着の一枚、右に結婚式の白無垢、左に友人たちと撮ったカジュアルな記念写真という並びで統一されていたはずだった。有紗が定期的に埃を払い、少しでも傾いていると直している、繊細で整然とした場所。なのに、水着の写真だけが、まるで誰かが手に取って戻す際に、そのまま置き忘れたかのように、一列の外側へ追いやられていた。

俺はしゃがみ込み、目線の高さを写真立てに揃えた。ガラス面に薄く、指の形が残っている。俺の指よりも、もっと大きい。有紗の手ではない。胸の奥で、何かが音を立てずにひび割れる感覚があった。先ほどまで鼻にまとわりついていた甘い煙の香りが、突然、喉の奥で蘇ってくる。それはもはや外から流れ込んだ空気ではなく、この部屋の空気と、この写真立てと、目には見えないいくつかの時間を結ぶ、湿った痕跡のように思えた。

その時、玄関の開く音がして、明るい声がした。

「和明? おかえりー。買い物行ってたの。夕飯、豚汁にしようと思って、ごぼう買ってきちゃった」

廊下から届く妻の声は、少し弾んでいた。俺は写真立てを元の位置には戻さず、立ち上がってリビングへ向かう。顔を出した俺に、有紗はスーパーの袋を抱えたまま、いつもと少しも変わらない微笑みを見せている。

「ただいま。買い物、重かったろ」

「大丈夫。ねえ、聞いて。この間の友達との飲み会の帰りに、駅前のたい焼き屋さん見つけたの。今度、一緒に食べに行かない?」

無邪気に話しかける彼女の姿が、妙に遠く感じられた。髪を耳にかき上げる指先。白い首筋。買い物袋から覗く長ネギの青。生活のすべてが、数秒前までと変わらず俺の前に並んでいるのに、その真ん中で寝室の匂いと写真立ての位置だけが、俺をじっと見返しているようだった。

「和明? どうかした? 疲れてる?」

「……いや、なんでもない。豚汁、久しぶりだな」

「でしょ。今日はね、生姜を多めにしようと思ってるの」

有紗は嬉しそうにキッチンへ向かう。エプロンを手早く身につける動作、冷蔵庫から牛肉を取り出して確認する顔つき、すべてがこの二年間で見慣れたものであるのに、俺はその背中を、たった今知った女の背中を見るような心地で眺めていた。喉の奥には、まだあの人工の果実香がうっすらと張りついていて、吐息のたびに胸の裏側をざわりと逆撫でする。

夕食の間、俺は何度か有紗に戯れの質問をした。友達は元気か、飲み会は楽しいか、変な男に絡まれていないか。彼女はどれにも自然に答え、時々笑いながら、逆に俺の出張先の話を引き出す。その声が、暗い食堂に沈むように響いた。

「そういえば、和明。あなたの出張中、お部屋の空気入れ替えようと思って、寝室の窓も開けたの。そしたら、なんか外の匂いが入ってきちゃったみたい」

「あの近所、最近、電子タバコ吸いながら歩く若いのがいるのかもな」

「そうなの? 私、匂いには敏感なのに、全然気づかなかった。あなた、すごいわ」

有紗の口元がふわりと緩む。俺も、それに合わせて笑った。笑いながら、彼女が付けた「友達と行った」という飲み会の帰り道、あるいは飲み会そのものの輪の中に、電子タバコを吸う若者がいた可能性を、頭の隅で何度も転がしていた。たかが匂いだ。たかが写真立ての位置だ。そう結論づける理性的な声がある。だが、その理性的な声は、寝室に足を踏み入れた瞬間に嗅いだ甘ったるい残り香を、ひとつも打ち消すことができなかった。それは喉ではなく、もっと深い場所へ、胃の裏側や背骨の付け根のあたりへ、ぬるい染みのように残っていた。

夜、寝室の灯りを消すと、有紗が先にベッドへ潜り込んで、こちらに背を向けた。俺は暗闇の中で目を開けていた。水着の写真は、まだ左端に置いたままだ。明日になれば、有紗がそれを見て、どういう反応をするのか。いや、彼女は気づくかもしれない。気づいて、黙って定位置に戻すかもしれない。それとも、本当になんの意味もなく、たまたま誰かが触れただけなのか。天井の微かな光の粒が、視界で溶けては浮かぶ。隣で有紗の寝息が聞こえるまで、俺は寝返りすら打てなかった。

それから数日後、また新しい出張の予定が入った。有紗は、もう迷いもなく、その日の夜に友人を誘うと言った。俺は「楽しんでこい」と、いつものように送り出した。声は、自分でも驚くほど平坦だった。

出張の準備をしながら、俺はカバンの内ポケットに、融資先のベンチャー企業から預かった小さな箱を思い出していた。あの日、担当者が差し出した見守りカメラの試作品。まだ箱を開けてもいないそれを、今度の出張の日、家のどこに置いていこうか。そんなことを考える自分の指先が、微かに震えているのを感じていた。葬るはずの何かに、逆に近づいていくような、暗い引き寄せがあった。

第4章 融資先のベンチャーから借りた見守りカメラをいたずら心で寝室に仕掛ける夜

第4章のシーン

第4章: 融資先のベンチャーから借りた見守りカメラをいたずら心で寝室に仕掛ける夜

「持留さん、これ、家で使ってみてくださいよ」

十月に入ってすぐの、午後三時を少し回った頃だった。新支店立ち上げの融資案件で足を運んだ駅前の雑居ビル、その三階にあるベンチャー企業の応接室で、担当の若い男が白い段ボール箱をテーブルの上に滑らせてきた。名刺には「プロダクト開発部」とあった。眼鏡の奥の目が妙に輝いていて、趣味の話をするときの顔に似ているなと思った。

「家で、ですか」

「ええ。今度リリースする見守りカメラの試作品なんですけど、モニターになってもらえると助かるんです。超高精細で、スマホからリアルタイムで映像が見られるんですよ。暗くても写るし、音も拾います」

箱を開けると、手のひらに収まるくらいの小さな白い半球型のカメラが、緩衝材の上にちょこんと乗っていた。思っていたより軽い。レンズの周りが黒く縁取られていて、こちらの視線をじっと追いかけてくるような、妙な存在感があった。

「これ、ずっと電源入れっぱなしでいいんですか」

「基本はコンセントに繋いだまま置くだけで大丈夫です。あとはアプリで設定してもらえれば、どこからでも見られます。寝室とかに置くと、留守番中のペットの様子とか見られていいですよ」

若い担当者は「ペット」という言葉を口にしたあと、一瞬だけ言い過ぎたような顔をして、それから愛想笑いを浮かべた。俺は「ああ、そうですね」と応じ、カメラを箱に戻した。断る理由もなかった。なにより、あの夜からずっと胸の奥に刺さったままの小さな棘が、この白い機械を見た瞬間に、かすかに疼いたような気がしたのだ。

自宅に帰り着いたのは夜の八時を回った頃だった。玄関を開けると、有紗がキッチンから顔を出して、にこりと笑う。

「おかえり。ご飯、もう少しでできるよ」

「ただいま。今日は冷えるな」

「でしょ。だからシチューにしたの」

甘いバターと小麦粉の焦げる匂いが、廊下まで流れてきていた。有紗は薄いクリーム色のカーディガンを羽織っていて、下には紺色のワンピースを着ている。料理をするとき、髪が邪魔にならないように耳の後ろへ掛ける仕草が、結婚前から好きだった。白い首筋がすっと伸びて、その線に沿って視線がどうしても下りていってしまう。

食卓では、有紗が今度の日曜に駅前のたい焼き屋へ行きたいと話した。この前の飲み会の帰りに見つけたらしい。俺は「いいよ」と短く返して、シチューを口に運んだ。じゃがいもがほろほろと崩れて、舌の上でとろけた。

夕食が終わり、有紗が食器を片付けているあいだ、俺はスーツを脱ぎ、ネクタイを外し、洗面所で顔を洗った。鏡に映る自分の顔は、どこか疲れて見えた。三十五歳の、ごく普通の銀行員。目の下にうっすらと影が差している。

風呂から上がると、有紗はもう寝室にいた。ベッドの上で、読みかけの雑誌を閉じるところだった。

「明日、早いんでしょ」

「ああ、七時半には家を出る。二泊だから、スーツは二着持っていく」

「そう……なんか、最近ずっと出張だね」

有紗の声が、ほんの少しだけ沈んだ。白いパジャマの襟元から鎖骨が覗いていて、湿った黒髪が肩に張り付いている。俺は何か言おうとして、やめた。代わりに、ベッドサイドのチェストへ目をやった。三つの写真立て。奥に並んだ二つは位置が変わっていない。手前のひとつ、沖縄のビーチで二人並んで水着姿で写った写真だけが、今日も左端に寄っていた。

水着の有紗が、写真の中で笑っている。白い肌に花柄のビキニが食い込んで、胸の谷間がくっきりと影を作っていた。あのときの有紗は、まだ銀行を辞める前で、今より少しだけ痩せていた。俺は視線を外すと、カーテンを閉めた。

「有紗、明かり消すぞ」

「うん……でも、今日は疲れてるんでしょ。無理しないで」

「してない。お前がいいなら」

暗くなった部屋の中で、有紗が小さく身動きする。シーツの擦れる音がして、それから、ひやりとした空気の中に、有紗の肌から立ちのぼる湯上がりの石鹸の香りが混ざった。俺は片手で有紗の頬に触れた。しっとりと熱い。親指で唇の端をなぞると、有紗がふっと息を漏らした。

「……和明」

名前を呼ばれて、俺は何もかもを忘れたかった。写真立ての位置ずれも、電子タバコの匂いも、有紗の髪から漂っていたあの甘ったるい煙の残り香も。指先が記憶している有紗の身体は、たしかに俺の妻で、ここにいて、そして暗がりの中で俺を受け入れてくれる。それだけでいいはずだった。

「あ……っ、和明、指……も、急に、あぁ」

「今日は、お前のほうが濡れてる気がする」

「やだ、しらない……。やっ、そんなに、こすったら……んぅ」

有紗のパジャマの下へ手を差し入れる。胸元のボタンを外し、素肌の腹を撫で上げると、有紗は小さく身をよじった。指先が、下着の中へ滑り込む。ぬかるんだ茂みのあいだを分け入ると、もう充分にねっとりと濡れていて、クチュリと小さな音が立った。

「声、出していいぞ。防音だから」

「いや……でも、あっ、あん、だめ……そこ、触らないで……ひゃう」

逞しいほど豊かな胸を包んでいたブラを外すと、暗がりでもわかる白い膨らみがこぼれた。汗ばんだ肌に手のひらが吸い付く。先端がすでに硬く熟れていて、指で転がすたび、有紗の腰が浮いた。

「上、脱いで寝ろ」

「……うん」

有紗が自らパジャマを脱ぎ捨てる。月明かりに照らされた裸身が、ぼんやりと浮かび上がった。荒い呼吸に合わせて波打つ下腹。閉じた太腿のあいだに、黒い茂みがうっすらと浮かんでいる。俺は有紗の脚を左右に開かせた。クチュ、クチュと粘り気のある花芯を指で分けると、中の肉襞がきゅっと指先へ絡んでくる。

「あっ、あっ……指、そんなに……も、わたし、今日、本当に……」

「気持ちいいんだろ」

「あ……ちが、ちがうの……おかしく、なりそう……」

逃げようとする腰を押さえ込み、中指を奥へ沈めた。熱い。ちゃんと食べたシチューより、ずっと熱い。内壁がはしたなく蠢いて、俺の指を締め上げる。親指で肉芽へ触れると、有紗は「ひぅっ」と仰け反った。

「この指、飲み込んでるみたいだ」

「やあ……言わないで……あっ、ああっ、も、動かさないで……動いたら、わたし……んくぅ」

「動かすぞ」

「やっ、あ、あああっ!」

グチュグチュと掻き回す音が、二人の荒い息のあいだに響く。ぬかるんだ秘所は溢れた愛液で泡立ち、俺の手のひらを汚した。有紗は声を殺そうと唇を噛みしめながら、腰をこねる。手首を掴んだ指に力が入った。

「ね、挿れて……お願い……」

切羽詰まった声だった。俺は指を抜き、立ち上がった自身を有紗の入り口へ押し当てる。先端が熱を含んだ襞に吸い込まれるように沈んでいった。じゅぶ、と重い音を立てて有紗の身体が開く。

「あ、フォ……奥……く、ぅ」

「……今日、ほんとに、すごく締まる」

「だって、あ、あなたが……んぁ、何日も……あっ、ああっ」

俺は腰を進め、最奥まで一息に貫いた。有紗の背が弓なりに沸き上がる。しとどに濡れた肉壺へ、浅く、深く、ゆっくりと杭を打つように抽送を始めた。ぴちゃぴちゃと粘膜の吸い付く音が、夜の静けさに滲んでいく。

「も、なかで、いっぱいになって……ああ、んっ、気持ち……あっとおっ、和明ぁ……」

「聞けよ、有紗。……聞こえてるか、この音」

「やだ、恥ずかし……クチュクチュ……しちゃって、ごめんなさ……あんっ」

「謝ることないだろ。可愛い声で義父さんに聞かせるわけにもいかないが」

有紗が一瞬、笑ったような吐息を漏らした。そのゆるみを突くように下から激しく突き上げる。肉と肉のぶつかる音が、俺の腰骨と有紗の尻たぶのあいだで湿った打撃音を繰り返した。

「はっ、あ、あああっ、だめっ、それ、いちばん奥、ぐりぐりしちゃ……ふぁ……もう、いっちゃ……あうっ」

「俺も、そろそろ出る。有紗、口開けていろ」

「んぁ、あ、あなたと、いっしょに……いきたいの……あっ、あっ、い、く、いくううぅぅっ!」

ビクン、と全身を強張らせた有紗の膣が、罪深いほど気持ちよく死ぬほど締め付けてくる。中で脈打ち、吸い上げるような蠕動に導かれ、堪えきれなくなっていた精を最奥へ思いきり吐き出した。どく、と腹の中へ熱い塊が流れ込んでいくのを、有紗が半泣きの喘ぎで受け止めている。

「あ……中に、出てる……あつ……ん……」

「……入れっぱなしでいると、また硬くなるぞ」

「いいよ……今日は、俺が中に出して終わりにする。子供、できたらいいな」

「……うん……わたしも、早く和明の赤ちゃん、ほしいな……」

荒い呼吸のまま有紗が呟く。俺は指先で有紗の腹のあたりをそっと押さえた。自分の精を受け止める妻の身体が、いやに愛おしかった。だが、胸の奥の棘は消えない。ふと視線を戻した先に、相変わらず沖縄の写真は左端にあった。

翌朝、六月の雨を含んだような湿った空気のなかで、俺は出張用のスーツに袖を通した。リビングにはトーストと目玉焼きが並んでいて、有紗がマグカップへコーヒーを注いでいた。鼻歌まじりの、いつもの朝。柔らかな日差しの中で白いカーディガンが透けて見える。俺は黙って椅子に座った。

「和明、コーヒー飲む?」

「飲む。ありがとう」

「今回の出張は何時に出るの?」

「九時二十分の新幹線に乗るよ」

「そっか。じゃあ、出社しないで直行?」

「ああ、それでいい。で、主任が現地で合流する」

「大変だけど、頑張ってね」

「ありがとう」

薄紅色の唇に黒いコーヒーが触れていくのを、俺はぼんやりと眺めていた。カップに残った口紅のあと。その小さな仄色の染みを見つめながら、朝食を終える。

「……ねえ、和明、お願いがあるの」

「どうした。改まって」

「二泊でしょ? またそっちで……え、なに?」

俺は手に持っていたトーストを置いた。この女は、無自覚に非常識なことをしてくる。最近、頻度が上がっている。

「いや、出張の日程をあんま細かく言うなよ。俺の後ろめたいこと見つけるみたいで」

「何言ってるの? 変なの。寂しいから近所の友達とご飯に行きたいなって話」

「ああ、いいよ。友達と行ってこい」

「やった。和明、ありがと」

「お前が寂しくない方が俺は嬉しい」

「私も、和明さんが安心してお仕事できるように、私なりに楽しんで過ごすわね」

その純真な表情を見ながら、俺は内心で靄を抱えていた。けれど、この女は何を知っているわけでもない。俺はスケジュールの打ち合わせが終わったあと、事務所へ寄り、ベンチャーから借りたカメラの入った箱をマンションへ持ち帰った。

いつもと同じリビング。有紗が洗濯物を畳んでいる。化粧水の匂いだろうか。嫌な話だ。彼女と過ごした痕跡が濃く残っているのに、この部屋に置かれた小さな段ボール箱は浮いていた。俺は、まるでこの不安の種が初めから決められていたみたいに、何の抵抗もなくクローゼットの上へ手を伸ばした。

「……有紗、ちょっとだけ寝室、一人にしてくれないか。準備したい」

「あ、うん。洗濯、リビングでするね。なにか持っていこうか?」

「いい。すぐ終わるから」

クローゼットの上。天井近くまで積まれた収納ボックスのほこりを軽く払う。高さはかなりあり、ベッド全体を見下ろせる。この位置なら死角なく写り、アプリからクラウド映像を開けば、妻の寝顔がいつでも、どこにいても覗ける。

……何を考えてるんだ、俺は。

手にした白い半球のカメラを見つめる。半径百八十度の魚眼レンズが、ひんやりと重みを伝えてくる。俺は付属の電源ケーブルを延長コードへ繫ぎ、カメラをタオルで隠すように置いた。天井の白い壁と同化して、ぱっと見ではわからない。心臓は痛いくらいに脈打っていて、着手前から猛烈な後悔が襲ってきていた。

「そっちは、いいの? 何か探してる?」

後ろから声がして、心臓が跳ねる。振り返ると、有紗がリビングのドアのところから首だけを覗かせていた。俺は慌ててクローゼットの扉を閉めた。バレたか。いや、まだだ。落ち着け。俺は平静を装って言った。

「いや。カメラが入ってただけだよ。このあと新幹線の中でもいじれるかと思って」

「カメラ? なにかの試供品みたいな感じ?」

「ああ、取引先の。一晩だけ家の観葉植物でも監視しようかな」

俺の即興の嘘は、けっして上手くない。有紗はぴくりと眉を動かした。

「……仕事忙しいのに、何してるの」

「たまにはこういうのも面白いかなって」

有紗はふっと力を抜き、呆れたような、それでいて優しい目をした。

「馬鹿ね。それより、子供ができたとき用の見守りカメラの方がよっぽど使い物になるわよ」

そう笑った有紗の顔を見ているうちに、なぜだろう、陰毛のない女陰のようなカメラのレンズが、俺の胸の奥でいやにはっきりと姿を結んだ。

「……そうかもな。まあ、試作品だから安く回ってきただけだよ」

俺は力なく言って、居間のソファへカメラの箱を置いた。有紗は何も疑っていない。それどころか、宇宙服みたいな色をした物体に興味すら持っているように見えた。

翌朝。玄関で、スーツケースを引く俺の背中へ有紗が声をかける。

「気をつけてね。新幹線、乗り過ごさないで」

「大丈夫。行ってくる」

「うん。お土産、なにがいいか考えとくね」

そういえば、十月の朝。都会の空気はひんやりしていて、青い空が高かった。防波堤の見える駅前に、煮干しだしの匂いを運ぶ海風がぬるく吹いている。俺は新幹線のホームでiPhoneを取り出し、カメラアプリを起動した。

「……なにやってんだ、本当に」

自嘲の笑みがこぼれる。いや、まだだ。まだ始まってもいない。アプリのアイコンは、まるで他人のものみたいに画面の中で小さく光っている。設定画面上では、自宅のマンションが「オフライン」と表示されていた。電波が届いていないのか、電源が入っていないのか。焦れて、もう一度アプリを開き直した。

新幹線の座席に腰を下ろし、スマホを膝の上に置く。窓の外には住宅地と田んぼが交互に流れていった。

――こんなことをして、何になる。

胸ではわかっているのに、指先は、まるで自分のものではないみたいに設定を弄りつづけた。そして、出張先のホテルへ着いて、ベッドサイドの小さなテーブルへスマホを置いたとき、画面の「接続済み」の文字が、たしかに俺を待っていた。夜が来る。

第5章 出張初日の深夜、ホテルで見守りカメラのクラウド映像にアクセスした夫が見たもの

第5章のシーン

ホテルの一室に戻ったのは、零時をとうに回った頃だった。十月の風は昼間こそ生ぬるいが、夜になると肌を刺すような冷たさに変わる。それを、窓の外を流れる国道の光が証明しているようだった。スーツの上着をデスクチェアに掛け、ネクタイを緩めながら、俺はバスルームへ向かった。シャワーは熱すぎるくらいに設定し、懇親会でまとわりついた煙草の匂いと、妙に甘ったるい接待用の焼酎の気配を肌から剥がす。湯が首筋を叩くたび、こめかみの奥で小さな鐘が鳴っているような気がした。

水を止めて、体を拭き、備え付けの白いバスローブを羽織る。鏡の中の男はいつもより青白く、頬のあたりにだけ酒の名残が灯っていた。俺は、その顔から目を逸らすように、ベッドサイドに置いたスマホを手に取った。

画面には、有紗からのメッセージが残っていた。受信時刻は、つい三十分ほど前。

「今飲み会から帰ってきた。和明さんはまだかな?おやすみ」

その文面を二度、三度と目で追う。普段と変わらない、やわらかな言葉。卵色のカーテンを閉めるような、穏やかな夜のあいさつ。けれど、その裏に何があるのかを考えそうになって、俺は一度スマホを伏せた。空中に残る湯気が、白い靄のように室内を漂っている。加湿器の振動音だけが、やけに耳の奥で大きく響いた。

窓際へ歩き、遮光カーテンを指で割る。眼下には、地方都市の二十三時を過ぎた道路が黒く濡れていた。車のヘッドライトが連なり、コンビニの看板が緑色の輪郭を浮かべている。ここから北へ三百キロ以上離れた自宅では、有紗が一人で風呂を終え、髪を乾かし、寝室へ入る時間だろう。いや、もしかすると、まだ飲み会の余韻でリビングのソファに腰を下ろし、テレビの光を浴びているかもしれない。その姿を想像するとき、胸の奥で何かが軋むようで、俺はカーテンから手を離した。

ベッドに腰を下ろす。スプリングがぎしりと鳴る。スマホを握り直し、アプリの一覧を指先でたどった。見守りカメラのアイコンは、無機質な眼のような図柄でそこにある。最後に設定を確認したのは、新幹線の座席だった。あのとき、画面の右上に小さく「接続済み」と表示されているのを見て、俺は自分の浅ましさに唇を噛んだものだ。

――見るのか。

自問の声は、指先のほうが早かった。アイコンを押す。読み込み中を示す白い円が、暗い画面の上でかすかに回転する。喉の奥が乾き、唾を飲み込む音が耳についた。まだ、繋がるかどうかも分からない。家庭用の回線を通じ、三百キロ先の寝室が映る仕組みだ。試作品のくせにやけに親切な設計で、たとえ繋がらなくても、それでよかったのかもしれない。

だが、次の瞬間、画面ははっきりと光を吐き出した。

まず目に飛び込んだのは、明々とした照明だった。柔らかい笑みを浮かべるような暖色の光が、壁という壁に降り注いでいる。寝室の、あの、ベッドを照らすシーリングライトが、全開で点いている。

有紗は、光を嫌った。そのことに、俺は最初に気づいた。恥ずかしいから、暗くして、と囁いて、俺がスイッチに手を伸ばすとほっとしたように息を吐く。いつも、そうだった。なのに、今、画面の中の寝室は、隅々まで曝け出すように照らし出されている。

その異様な明るさを認識した瞬間、心臓が一度、喉の奥で跳ねた。鼓動が早鐘を打ち、指先から血の気が引いていくのが分かる。俺は、何が映っているのかを正しく理解する前に、視線を逸らしたくなった。けれど、眼球は勝手に画面へ釘づけにされ、呼吸だけが浅く、小刻みになった。

ベッドの上で、女が揺れていた。横向きに映る身体は紛れもなく有紗のものだ。いつも俺の隣で眠る、白くて、なめらかな、あの身体。しかし、今は裸で、膝をシーツに突き、背中を弓なりに反らしている。その背後から、若い男が覆いかぶさるようにして腰を打ちつけていた。画面の上から見下ろす構図は、文字通り、俺の知らない妻を、天井の隅から突きつけてくる。

男の手が、有紗の乳房を下からすくい上げる。親指が乳首の上で円を描くたび、有紗の口が開き、熱い息がシーツに落ちるのが、かすかな音として聞こえてきた。枕元に置いたスマホのスピーカーは、意外なほど生々しい音を拾う。肌と肌がぶつかる、ぬるい粘着質の音。骨と骨の奥で反響するような、低いリズム。そして、何よりも、有紗の声。

「も、だめ……イッたのに……もう、何回も、イってるのに……」

かすれた声が流れ、乾いた空気を震わせた。日常では決して聞いたことのない、蕩けるほどに唾液の絡んだ音の連なり。俺は、その言葉を胸で組み立て直そうとして、失敗する。声の響きひとつ取っても、俺に向けられたものではない。あの濡れた声の行き先は、有紗の背後にいる若い男で、画面のこちら側にいる夫ではない。その単純な事実が、胸の真ん中に無数の細かい針を落としていくようだった。

「……そんなに、ついたら……おかしく、なっちゃ……あ、ぁぁ、また、いっちゃ、うぅぅ……」

尻を突き上げ、髪を振り乱す。珍しく下ろした黒髪が、汗の匂いでも立っているかのように、画面の上で濡れて光っていた。背景には、サイドチェストが映り、その上に並べられた写真立ての輪郭が見える。真ん中にあるべき水着の写真が、この画面からは左端に寄っていた。あの、僅かな位置のずれ。俺が不安の棘を抜けないまま据え置いたあの写真を、今、別の男が眼の端にも入れないようにして、有紗の体を前後に揺さぶっている。

「ねえ、有紗ねぇえさん。こっちも、忘れないでくれる?」

有紗の顔のすぐ傍に、もう一人の男が立っていた。浅黒い、厚い胸板。腹の真ん中あたりで浮き上がる血管の流れまで、この試作品の解像度は容赦なく拾い上げる。いや、男は最初から全裸で、その浅黒い太腿の間に、硬く反り返ったものが影を落としていた。有紗は、息を乱しながら、その先端を片手で支えるようにして、口を開いた。

唇が、かたちを失くすほどに押し広げられる。頬の内側が、男のものの形に沿って膨らみ、吸い込まれるたびに、くぐもった声が漏れた。男が有紗の後頭部に手を添える。指が髪に絡み、腰を突き出すとき、有紗の背中がびくりと跳ねた。

その瞬間、俺の胸の内で、二つの感情が同時に鎌首をもたげた。一つは、言いようのない怒りだ。俺の妻に、よくも、という黒い焔が腹の奥で燃え上がり、指先が小刻みに震え出す。もう一つは、それよりずっと深い場所から、じわじわと這い上がってくる、熱を帯びた何かだった。画面上の有紗は、俺が知るどこか取り澄ました、しかしすぐに自分の殻へ引っ込んでしまう妻ではなく、唇を押し広げ、喉まで男を受け入れようとしている雌そのものだった。それが、たまらなく、目を離せない。怒りとは別種のどろりとした感情が、腹の底から湧き上がり、両者があらぬ場所で絡み合っていくのが、自分でも分かった。

「有紗ねぇえさん、お口も、ほら、イキそう。たっぷり飲んで」

細マッチョの男が、有紗の尻を正面から突き込みながら、笑みの混じった声で囁く。その声は、初めて聞くはずのものなのに、妙に落ち着いていて、場に馴染んでいた。俺のベッドで、俺の妻を抱きながら、まるでリビングでテレビを見るかのように自然な呼吸をしている。

そこまで見て、ようやく怒りが込み上げてきた。腹の底から、黒い塊がせり上がるような熱だ。スマホを持つ手に、じわりと汗が滲む。指先が震えている。折れるほどに握りしめたくて、けれど画面を割らないよう、力の加減だけは体が覚えていた。奥歯を噛み締め、目を見開く。怒りに任せて何かを叫べたら、どれほど楽だったか。だが、声は喉の奥で蓋をされたように、かすかに空気が抜けるだけだった。

喉の奥で、胃液がわずかに熱を持った。シャワーを浴びたばかりの肌に、ねっとりと汗が滲む。エアコンの風が、湿ったうなじに触れて、嫌になるほど冷たかった。画面の中では、浅黒い男が、有紗の口からものを抜き、その先端を有紗の唇に擦りつける。光を反射して、ぬらぬらと濡れた先端が、有紗の鼻先に白い糸を引くのが見えた。

「あ、……んんっ、……おちん、ぽ……」

聞こえてはいけないはずの言葉が、スピーカーから染み出した。その言葉を聞いた瞬間、怒りの熱は一瞬で別の熱へ変わっていた。下腹の奥が、ぞくりと冷えて、その直後にどろりとした熱が溜まる。太腿の間に、はっきりと、硬く張り詰めた自分の熱があった。布越しに、それが脈打っている。あり得ないことだと、頭のどこかが否定する。それなのに、視線は有紗の揺れる乳房から離れず、耳は肉の重なる音を追い続けていた。

有紗は、まだ終わっていなかった。細マッチョの男が角度を変えるたびに、画面越しでも分かるほど、太腿の付け根がひくひくと蠢いている。最初は、顔の横に手を置いて、下唇を噛みしめていた。けれど、挿入のたびに、指先がシーツを掻き毟り、腰のあごが浮き上がっては砕けるように落ちる。恥じらいの欠片が、時間の経過とともに一つずつ剥がされていく。鼻にかかった声はまだ我慢の色を含んでいるのに、腰の揺れだけは、確実に男の動きを追いかけ始めていた。

撮影役の若者が、ベッドの隅に立ったままスマホを構えていた。三人目だ。画面の端で、その男だけが服を脱ぎかけのまま、淡々とレンズを向けている。口笛でも吹きそうな、軽い足取りで、時々角度を変えては、有紗の尻と、そこに埋まっている男の腰元を接写している。時折、小さく笑う声だけが、スピーカーから滑り込んだ。

「ね、有紗さん。自分が今、どういう格好してるか、分かってる?」

撮影役の男が、声をころがすように言う。有紗は答えない。答える余裕などないのか、細マッチョの男の抽送に合わせ、喉の奥で「ひゅっ、ひゅっ」と鳴いた。浅黒い男が、有紗の顎を持ち上げる。逃げ道を塞ぐように、唇を親指で割られ、再び男のものが押し込まれる。有紗の喉が、嚥下を拒むように脈打ち、唾液が口の端から一筋、顎を伝った。

その一筋が、ベッドのシーツに落ちる。シーツは、もう、あちこちに湿りを吸って暗い染みを作っていた。そして、その染みのひとつひとつから、嗅いだことのない、甘いような生ぐさいような匂いが立ち上っている気がした。電子タバコの匂いとは違う。もっと濃く、熱を帯びた、粘膜の匂い。

――これは、なんだ。

目の奥がひりついた。心臓が、胸の骨を内側から打っている。怒りではない。もっと、原始的な、制御の利かない何かが、腹の底からせり上がる。俺は片手でローブの前を掻き合わせた。いや、掻き合わせたのは、冷えたからじゃない。太腿の間に、はっきりと、硬く張り詰めた自分の熱があったからだ。布越しに、それが脈打っている。あり得ないことだと、頭のどこかが否定する。それなのに、視線は有紗の揺れる乳房から離れず、耳は肉の重なる音を追い続けていた。

嫉妬と興奮が、ひとつの器の中で混ざり合い、ぐらぐらと煮えたぎっていく。妻を奪われた悔しさが、腹の奥で熱い針のように突き刺ささる一方で、その針が刺さるたび、下腹の奥が電気を流されたようにびりびりと疼く。画面の向こうの男たちが、あまりに自然に有紗の肌に触れるのが許せない。許せないのに、目が離せない。いや、許せないからこそ、その先を、もっと深くまで見届けたいと、頭のどこかの細胞が叫んでいる。俺自身の体が、こうして反応していることが、何よりも恐ろしかった。

やがて、その興奮は自分への嫌悪へと沈んでいった。妻が他の男に抱かれている映像で、自分が昂っている。あり得ない。忌まわしい。なのに、眼は離せない。手のひらは画面に汗を滲ませ、心臓は相変わらず肋骨を打ち壊すように跳ねている。頭の芯は冷えているのに、下腹だけが火のように熱い。ローブの前を掻き合わせた自分の手が、ことさら醜く思えた。情けない、と唇の内側で呟いた。声にはならなかった。喉の奥で、空気が潰れるだけだった。

有紗が、また、果てようとしている。背がしなり、腰が浮き、内腿が小刻みに震えた。細マッチョの男が、一際深く突き入れ、動きを止める。有紗の内側が、画面の上からでも分かるほど、痙攣している。男の腰が二度、三度、ゆっくりと押し込まれ、有紗の口から「あ――――」という、息の音だけが洩れた。浅黒い男のものが、有紗の唇から抜ける。唾液の橋が幾筋も切れ、有紗は、その男の腹に額を押しつけて、肩で息をしている。

そこには、もう羞恥はほとんど残っていなかった。ほんの三十分ほど前まで、自分の身体が何をされているのか理解できないという具合に、男たちから視線を外し、唇を震わせていただろう。それが、今では、三人の男の視線を正面から受けている。有紗の動きは、もはや先ほどまでの上ずった口調や、恥ずかしさから逃れようとする目線を留めておらず、逆に、もっと奪われるために自ら腰を差し出しているようにすら見える。あれほどまでに恥じらい、夫である俺の前ですら明かりを拒んだ妻が、今この瞬間だけは、暗がりではなく明るい光の下で、他人の男たちにその全身を晒していた。羞恥が薄れ、代わりに、より濃い甘い熱が彼女の四肢を浸していく。その変化を、俺は指一本動かせずに見ていた。

「出しますよ、有紗さん」

細マッチョの男が、噛み締めるように言った。

「う、ん……出して……いっぱい……」

有紗の返事は、泣いているのか笑っているのか、判別できない潤みを帯びていた。男が、最後の何度かを荒々しく打ち込み、腰を押しつけたまま震えた。浅黒い男が、有紗の髪を掻き上げる。撮影役が、一歩前に出て、有紗のうつ伏せの背中を舐めるように撮っている。俺の妻の身体から、汗と精液の匂いが、この部屋にまで届くような気がした。

実際には、匂いなんて届かない。空調の吸い込み口から、微かに黴の匂いが混じった風が出ているだけだ。けれど、俺の鼻腔の奥には、誰かの電子タバコの残り香と、有紗の髪から立ち上っていた、あの、微かな甘ったるい匂いが蘇っていた。出張のたびに、風呂上がりの有紗から、ほんのわずかに香った、俺の知らない匂い。服に移っただけだと笑った、あの夜のことに、今ようやく、輪郭がついた気がした。

スマホを置くことができない。指が画面に張りついたようだった。映像は容赦なく続いている。細マッチョの男が、有紗の尻を割り、中の白濁を確かめるように指で摘まんで広げる。浅黒い男が、また、有紗の口を探す。有紗は、もうほとんど腕に力が入らない様子で、されるがままだった。それなのに、男の腰に手を添え、自分から顔を近づけていく。撮影役だけが、明るい声で、有紗の耳元に何かを囁いている。

「ねえ、今度さあ、君のご主人の写真、目の前に置いてやってみない? そういうの、燃えない?」

その声を聞いた瞬間、背筋を、冷たい刃が走り抜けた。心臓が一度、大きく跳ねて、そのあと急に重くなった。体のどこにも力が入らない。無力感。その言葉の意味を、誰よりも痛いほど分かっている自分がいた。映像を見続けている罪悪感。何もできない距離。繋がった画面の向こうで、俺の知らない有紗が、俺の存在を知らぬまま抱かれている。止めることなど、できない。電話をかければ、この異様な光景が現実だと認めることになる。声を荒らげたところで、誰にも届かない、三百キロ先の部屋。俺は、ようやく自分の呼吸が止まりかけていたことに気づく。ごくりと唾を呑み、ベッドの上に仰向けに倒れ込む。天井の、安っぽい木目模様が、ゆっくりと回転しているようだった。視界の端で、スマホの画面が、まだ、明々と灯った寝室を照らし続けている。有紗の声が、また、小さく「あ、ああ、ん、……おちんぽ……」と途切れ途切れに流れてきた。俺は、右腕で目の上を覆い、奥歯を噛みしめる。なのに、腹の下の熱は、いっこうに収まる気配がなかった。

どこかで、冷蔵庫のモーターのような低い音が響いていた。窓の外では、時折、通り過ぎる車の音が、雨の匂いを孕んだ風とともに過ぎていく。十月の夜は、まだ明けない。画面の中の寝室だけが、別の世界のように、熱く、明るく、濡れそぼっていた。俺は、スマホを胸の上に伏せた。けれど、スピーカーからは、有紗の短い悲鳴と、三人分の若い笑い声が、子守唄のように繰り返し漏れ続けていた。眠りからは、果てしなく遠い場所にいる。

第6章 明々と灯る寝室で妻が水着の写真に懺悔しながら三人の大学生と交わる朝まで

第6章のシーン

スマホの画面の中で、有紗の身体が大きくのけぞった。背中から腰へかけての白い曲線が、ベッドの上で弓なりに撓み、汗でしっとりと光っている。後ろから腰を掴んでいた細マッチョの若者が、ゆっくりと腰を引いていくたび、結合部から溢れた白濁がとろりと糸を引いた。有紗の太腿の内側を伝って、シーツに染みを作っていく。照明は煌々と灯ったまま、その光の下で何もかもが曝け出されている。あの、暗がりでなければ身体を許さなかった有紗が、今は明るい部屋の真ん中で、三人の男に囲まれて笑っている。

「ねえ、有紗さん。こっち、まだ硬いんだけど」

浅黒い肌の若者が、有紗の顔の前に腰を突き出した。さっきまで口に含んでいた男だ。腹筋が浅く割れ、股間から伸びる一物は、有紗の唾液と自分の先走りで、てらてらと照明を反射している。有紗は乱れた黒髪を耳にかけて、上目遣いにそのペニスを見上げた。汗の匂いと男の体臭が混ざり、むっとするような空気ごと、その視線の動きまで、カメラは鮮明に映し出す。超高精細の試作品とやらは、嘘をついていなかった。

「も、お腹いっぱい……お口、疲れちゃった……」

「じゃあ、下でいいよ。ほら、自分で広げて」

浅黒い若者が有紗の肩を押して仰向けに寝かせる。有紗は素直に両脚を持ち上げ、自ら膝を抱えた。膝裏に手を回して、脚を胸に押し付ける。俺が何度も見てきた、恥ずかしがり屋の妻の姿がそこにあった。違うのは、その股間がとろとろと濡れ光っていることと、尻の穴までもが、ひくひくと呼吸するように収縮していることだった。薄い産毛が汗で肌に貼りつき、鼠蹊部のくぼみには、男たちが注いだ精液と彼女自身の愛液が入り混じった、あの甘酸っぱい匂いが充満しているようだった。

「有紗さんって、見た目はおっとりしてるのに、こうやって足を持ち上げるの、すっかり板についてきたよね」

細マッチョの若者が、ベッドの端に腰掛けたまま、ぬるりと汗ばんだ声で言った。有紗の太腿の裏に指先を這わせ、そこがびくりと震えるのを確かめるように、ゆっくりと撫で上げる。

「やだ、そんな言い方……わたし、別に、慣れてなんか……」

「慣れてるじゃん。最初はさ、明かり消してくれって泣いてたくせに。今日はこの電気の下で、自分から脚を広げてるし。なあ、今どんな気分?」

細マッチョの若者の指が、有紗の膝裏から内腿を伝って、ぐっしょりと濡れそぼった女陰のすぐ手前で止まる。有紗はその指を追うようにして、腰をよじった。目が一点を見つめたまま、唇がはくはくと震えている。

「あ、あ……はずかしい……はずかしいけど、でも、からだが……勝手に、ひらいて……」

「恥ずかしいのに開いちゃうんだ。そこ、誰に見られてるの?」

細マッチョの若者は、わざとらしくカメラのほうへ顔を向けてから、再び有紗の耳元へ唇を寄せた。

「……あなた、に……」

「俺だけ? あのカメラ、試作品で、しかも保存できないって話だったけど、ほんとに信じてた?」

言葉の弾みが、急に野太い熱を帯びた気がした。俺の背中にも、冷たい汗がにじむ。有紗は、はっとしたように両脚を閉じようとして、すぐに若者の太腿に阻まれた。膝を掴まれ、再び、股間を夜の空気に晒される。

「ちが、やだ……しんじてたのに……あのカメラ、だめなの? 残ってないよね、ねえ……」

「さあ。残ってるかもしんないし、誰かが見てるかもしんないっすね。でも、だからって止める?」

浅黒い若者が、有紗の耳の裏を舐めながら低く笑った。有紗の全身が、硬直したあと、ゆるゆると脱力していくのが、映像越しでもありありと映っている。脚を閉じる力が意思に反して抜けて、その代わりに、浅黒い若者の後ろ手に壁を作られ、身動きを封じられていた。

「だめって言っても、この音、してるもんね」

撮影役の若者が、それまで黙ってレンズを向けていた姿勢のまま、有紗の下半身へスマホを近づけた。濡れた粘膜のひだが、指先の不在に物欲しげに開いたり窄まったりしている。あの弱火で煮詰めたジャムのような、どろりとした彼女の汁が、会陰から肛門まで一筋の川を作っていた。

「や……やだぁ、見ないで、そこ撮らないでえ! あっ、でも、ああ、さわるなぁ」

有紗は泣きそうな声で撮影役を拒んだが、その最中も浅黒い若者の指が後孔の縁をくるくると撫で回している。抵抗を示す言葉と、それに逆らって腰を突き出してしまう身体との、矛盾そのものまでが、光の下に逃げ場なく照らされていた。

「ああ、こっちも使っていい?」

浅黒い若者の指が、有紗の後ろの窄まりに触れた。ぬるりと滑る指先が、抵抗なく第一関節まで沈み込んでいく。有紗は「ひぅっ」と短く鳴いて、背を浮かせた。

「もう、ぬるっと平気で入るね。一ヶ月前まではきつきつで痛がってたのに」

若者が笑いながら、指の腹で中を擦る。ぐちゅぐちゅと粘る音が、スマホのスピーカーから流れてくる。その音に混じって、ぴちゃぴちゃと濡れた粘膜が指を啜るような、より下品な水音が重なる。有紗は手で口を覆い、首を振った。だが、腰が、自分から指の動きに合わせて小さく揺れている。我慢できずに、腰をくねらせている。

「もう、言わないで……お尻も、き、気持ちよくなったの……もっと、擦って……いっぱいして……」

「いっぱいしてほしいの? 奥さんのどこが、一番気持ちよくなったか、ちゃんと言ってごらんよ」

浅黒い若者が、指を根元まで埋めたまま、その先で内壁をぐるりと掻き回した。ぬちゃぬちゃという粘ついた音が、耳を犯すように響く。

「ひあっ! い……一番は、その、おしりの……中ぁ……おくのほう、くにくにされると、あたま、ちらちらして……」

「ふうん。じゃあ、ここに俺の精液、出しても喜ぶんだ? 他の男の子供、孕めないおまえの一番奥に、種付けしてやっても?」

浅黒い若者の口調が、急にゆったりとした加虐的なものへ変わった。有紗の両脚が、びくん、と跳ねる。それでも、いや、だからこそ、後孔の入り口は指をきつく食い締めて、まるで物が欲しいとねだるように痙攣していた。

「あ、ああ、いっぱい出して……お尻に、いっぱい……だして、印いい……つけて……」

有紗の腰が、自ら浅黒い若者の手のひらへ押し付けられる。その仕草は、もはや懇願というより、巣穴に雄を誘う獣じみていた。浅黒い若者が、有紗の尻を抱え直した。下半身を突きつけるようにして、自らの亀頭を窄まりに当てがう。抵抗らしい抵抗もなく、ぬちゃあ、と卑猥な音を立てて、若者の一物が有紗の尻の中へずぶずぶと沈んでいった。有紗の口から、悲鳴とも嬌声ともつかない声が漏れる。

「おっほぉおおっ! あっ、あっ、そこ、お尻の奥、ぐりゅぐりゅって……だめ、おかしくなるぅ……」

「締まる締まる。こっちも、もう限界。うっ、出しますよ、有紗さん……」

若者が腰を打ち付けるたび、有紗の白い身体が跳ねた。枕の上で黒髪が乱れ、汗で額に張り付く。豊満な胸が、男の突き上げに合わせて、ばたんばたんと左右に弾れた。その先端は、照明の光を受けて、熟れた果実のような赤みを帯びていた。肌と肌がぶつかり合うたび、ぱん、ぱん、という湿った乾いた音が交互に響き、それが部屋の空気を切り裂いていくようだった。

「あぁぁぁっ、ケツマンコ、い、いく……いくいくいくいく……ッッ!」

有紗が叫んだ。その瞬間、浅黒い若者が低く唸り、尻の奥に腰を押し付けたまま痙攣するのが、画面越しにも分かった。射出の瞬間、有紗の喉が仰け反り、口元がはしたなく開く。舌が覗き、唾液が顎を伝って鎖骨に落ちた。汗の粒が首筋から胸元へ流れていく。

「あー……マジで出たわ。有紗さん、どうだった? ケツマンコ、疼いてる?」

「……ふあ……お、お尻の中、全部、精子で……熱いのが、奥まで……」

有紗が虚ろな目で天井を見上げて呟く。口元は笑っているのに、焦点は合っていない。あの、俺に一度も見せたことのない表情。腹の上で男の精が冷えていく感触と、内側から満たされる熱さの間で、妻の身体が小刻みに震えているのが、映像越しでも手に取るように分かった。

「誰だよ、有紗さんにケツマンコとかの言葉教えたの」

撮影役の若者が、スマホを有紗の尻に近づけながら言った。レンズは、精液を溢れさせる窄まりを接写している。襞の一本一本まで見えるほど、映像は精密だった。窄まりがひくひくと収縮するたび、白い液がにじみ出て、尻の割れ目を伝い落ちていく。

「いやぁ、そういう言葉言わせると萌えるじゃん。他にも、口マンコとかも教えたよ。ねっ、有紗ねぇえさん」

撮影役が返す。有紗は「あ、ああ……」とだけ応えて、顔を横に向けた。その視線の先に、サイドチェストの上の写真立てがある。水着で写った俺と有紗。あの写真が、真ん中から左端にずれていたことを思い出した。俺は今、その意味を、これ以上なく思い知らされている。

「お姉さんってさ、最初はあんなに上品ぶってたのに、今の声、この家の壁中に響いてたと思うよ。ご近所、大丈夫?」

浅黒い若者が、汗で張り付いた前髪をかき上げながら、有紗の耳殻に舌を這わせる。有紗は「ううっ」と身を縮め、けれどもその層のどこかで、その羞恥を愉しんでもいるようだった。耳の後ろを舐められるたび、脚の先がぴんと伸びる。

「ほら、ちゃんとお礼を言わないと。うちの奥さん、行儀だけはいいんだから」

細マッチョの若者が、有紗の頬を軽く叩く。軽い、というにはねちっこい、粘りつくような感触の音がスピーカーから流れた。有紗の口が開き、赤く膨らんだ唇の内側に、とろりと唾液が糸を引く。

「あ……ありがとう……ございました……お尻、いっぱいにしてくれて……」

「どういたしまして。で、次はそこ、自分で尻の穴、押さえて精液漏らさないようにしないと。四つん這いになって、旦那さんにも見えるように」

細マッチョの若者が、まるでヨガの指導でもするように静かな口調で指示する。有紗はぐずぐずと鼻を鳴らしながらも、言われるがままに四つん這いになった。自らの右手を背中越しに回し、白い臀を指先で割り開く。その小さな窄まりから、浅黒い若者が注いだものが、泡立つように滲み出しているのが、無防備な姿勢のまま露わになった。

「あーあ、尻から垂れてきてるよ。ほら、旦那さんに見せてあげようよ。有紗ねぇえさん、カメラ目線ください」

撮影役が、有紗の顎を掴んで、レンズのほうへ向かせる。有紗は従順に従った。その顔を、スマホの画面いっぱいに、精液と汗と涙で濡れた有紗の表情が映る。目は潤み、唇は腫れ、頬は上気して、それでいて、どこか嬉しそうだった。

「10も下の男のチンポで入れられて、すごい顔になってるよ。今の奥さん、自分がどんな顔してるか、わかってる?」

細マッチョの若者が、有紗の耳のすぐ横で、吐息を混ぜながら囁く。有紗は首を振る。だが、その口元が、まだ快楽の余韻を含んだようにゆるく弛んでいることを、本人だけが知らない。いや、本人よりも、レンズのこちら側にいる俺が一番、克明に知っていた。

「……旦那さーん、奥さん、すっごいイってますよ。安心してください、毎日ちゃんと寝かせてますから」

撮影役が笑う。

「おまえ…中出しばっかして、安心はないだろ…」

その声に、細マッチョの若者も、浅黒い若者も笑い声を重ねた。画面の外で、俺は一人、ホテルのベッドの上で、拳を握りしめている。なのに、腹の下のものは、さっきからずっと怒張したまま、下着を押し上げていた。指先は震え、歯の根が合わないほど、全身の筋肉が強張っていた。視界の端で、未読メールの通知が落ち着きなく明滅している。出張先の郵便受けに投げ込まれた請求書の封筒、銀行の稟議書類、そんなものが、遮光カーテンで閉ざされた部屋の、薄暗い隅っこに散らばっていた。

「また、旦那さんに懺悔の時間ですよ」

細マッチョの若者が、サイドチェストへ手を伸ばした。写真立てを持ち上げ、フレームの中の俺たちの顔を一瞬眺めてから、有紗の眼前に差し出す。水色の海、白い砂浜、隣で笑う俺。二十八歳の夏、沖縄で撮ったあの写真を。有紗の目が、ゆっくりと写真の俺を捉えた。瞳孔が開くのが分かった。息が、不規則に乱れ始める。

「あ、あなたぁぁ、ごめんなさい……ごめんなさい……もう、わたし……」

有紗が写真に向かって叫んだ。涙が一筋、こめかみへ流れ落ちる。撮影役がすかさずその横顔をアップで捉える。細マッチョの若者が、有紗の耳元で囁いた。

「ほら、ちゃんと言わないと。俺らのオチンポ、どうしてほしいの?」

「いや、いや、でも……それは、言えないよ……お願い、そこまで言わせないで……」

「言えないなら、終わりにするよ。写真の旦那さんと、今夜は二人で寝る?」

「やめて……やめてっ! わ、わたし、もう……和明のオチンポより……あ、和明のオチンポより、大きくて、太くて、気持ちいいおちんぽ……いっぱい、ちょうだい……!」

有紗が泣き叫びながら言い切った。その瞬間、腹の底から、どろりとしたものが沸き上がってくる。怒り、屈辱、嫉妬、憎悪。そのすべての下に、どうしようもなく滾った、どす黒い昂奮が横たわっていた。俺は無意識に、自らの前立てへ手を伸ばしていた。映像を見ながら、妻が他人のペニスを懇願する姿に、指を這わせている。何度目になるか分からないその行為に、吐き気と劣情が同時に込み上げた。

すると、浅黒い若者が、にやりと口の端を持ち上げて、写真立てに顔を近づけた。

「旦那さーん、すいませんね。旦那さんも使ったことがない奥さんのケツマンコ、たくさん使わせていただいてます」

わざとらしい敬語で、写真の中の俺に向かって言う。その口調がおかしかったのか、撮影役が声を立てて笑った。

「それ、俺も言おうと思ってたのに。じゃあ俺は……おれは、奥さんに俺の肛門、舌でたくさん舐め回してもらいました、スミマセン…気持ちよかったです」

撮影役が、照れた芝居じみた声でそう続けた。どっと笑いが起こる。浅黒い若者は腹を揺すり、細マッチョの若者は「おまえ、それ懺悔になっちゃいねえよ」と肩を叩く。三人分の笑い声が、明るい部屋に反響する。その中心で、有紗だけが笑っていなかった。写真立ての中で笑っている俺と、画面の前でわななく俺とを、交互に見つめるように、その潤んだ目を泳がせていた。

「奥さんの隅々まで、オレたちに差し出してくれてありがとうございます、ってか。なあ有紗さん、旦那の前で犯されると、そんなに締まるわけ?」

細マッチョの若者が、笑いを飲み込みきれない声で、有紗の後頭部へ手を差し込んだ。その指が、汗に濡れた髪の奥へゆっくりと沈んで、頭皮を撫でる。有紗の後孔が、再びひくひくと動いた。まるで、言葉の代わりに、そこだけで肯定の返事をするように。

「やあ……っ! しらな……い……あ、あなた……みてたら、だめえ……」

「見てるのは写真だろ。まあ、その写真越しに、旦那さんが全部見てるかもしれないけど。おっと、これは失礼。旦那さん、ほんと大事にされてますね、奥さんのお尻」

細マッチョの若者が、なんでもない会話の続きのような口調で、有紗の括れを撫で回した。その指が、唾液で濡れた撮影役の雄を含ませてもなお余裕のある、妻の熟れた穴の縁へ触れるたび、有紗の喉から獣の仔犬が啼くような音が零れていた。俺は、無理やりに閉じようとする右脚の感覚だけで、自分がどれだけ長く昂奮しているのかを知った。内腿の肉がつりそうなほど硬直している。なのに、右手は自らの先走りを馴染ませるように、円を描く動きを止めない。爪の先にひどく汗が滲んでいた。

「ちがうの… あなた、心はあなたのものなの……ごめんなさい……」

有紗が、震える声で呟いた。涙が鼻梁を伝い、唇の端から顎へ流れる。その言葉と裏腹に、彼女の腰は浅黒い若者の太腿に押し付けられたまま、ゆるゆると動いていた。心が俺のものなら、身体はおまえたちのものか。いや、心だって、もうとっくに、写真の俺には向けられていないことくらい分かっている。それが、あの言葉の、たまらなく下品な媚びにしか聞こえなかった。

「はい、良く言えました。じゃあ、ご褒美。今度はこっちの三人目君のも、ちゃんと咥えて」

細マッチョの若者が、撮影役の若者へ顎をしゃくる。撮影役は、それまで回し続けていたスマホを、ようやく三脚か何かに固定したようだった。画面がわずかに揺れて、ベッド全体を斜め上から映す構図に落ち着く。見守りカメラの位置と、ほとんど変わらない俯瞰のアングル。明々と灯る照明の下、白いシーツの海に、四人の裸体が浮かんでいる。その中心で、有紗は四つん這いになり、三人の若者の股間へ順番に顔を埋めていく。

「んっ、んぶっ……ちゅぱ……れろ……ぉ……」

卑猥な唇の音が、スピーカーから流れてくる。三人分のペニスを、汁まみれの顔で交互に舐めしゃぶる有紗の姿は、俺が知っている妻ではない。その背中は弓なりに反り、尻は高く突き上げられ、足の間からは、さっき尻に注がれたものが滴り続けていた。それを見ながら、俺は気づけば腰を浮かせて、自らのものを激しくしごいていた。スマホを持つ左手とは別に、右手の動きが止められない。脳のどこかで「止めろ」と叫ぶ声はするのに、映像から流れる有紗の嬌声が、その声を押し流していく。

「なんで、なんでおまえ、そんなに嬉しそうに……ちがう、そうじゃない、俺は……」

思わず口をついた己の声が、部屋の空気に吸い込まれていく。見ている自分が一番汚れている。妻を犯す男たちの背徳よりも、それを盗み見て、息を荒げる夫の醜悪さ。なのに手は止まらなかった。映像に合わせて腰が動く。返り血のように跳ねた自らの体液が、手のひらの中でぬちゃぬちゃと音を立てるのを聞きながら、いっそこのまま死んでしまえたらと、どうしようもない昂奮と自己嫌悪とが、腹の底で一つに溶け合っていた。

「やるじゃん有紗さん。自分から、顔を突っ込んでくなんて。あー、喉、ちゅぱちゅぱ鳴ってる。マイク拾っちゃってるよ」

撮影役が、固定したスマホの位置を確かめるように言った。有紗は、一瞬だけ顔を上げてカメラを見た。その顎から、男たちの体液と己の唾液が混じった糸が、ふたつみっつ、白く伸びている。口の中は、まだ別の男のそれを含んだままだ。その目が、潤んだまま、確かにレンズを見ていた。俺は思わず、画面の端に映る有紗の顔に、手を伸ばしそうになって、熱いガラスに指先を押し付けた。

「ここで一度、俺も出したい。なあ、有紗さんがいつも言ってたヤバいやつ、今日はやってよ。自分で口、開けて、全部見せて」

浅黒い若者が、有紗の頭をゆっくりと自分の腰へ誘導する。有紗は逆らわず、自らの人差し指で唇を左右に引っ張り、赤い口腔をあらわにした。舌が、まだ男の精を求めるように、ひくひくと蠢いている。カメラが、その口内をじっくりと映した後、浅黒い若者が自らの亀頭を、ねっとりと舌の上へ押し付ける。有紗の両目が、ぎゅうと閉じられ、次いではっと見開く。

「んぐ……んむ……じゅぷ……は、あむ……ちゅうう……」

「舌、出したままにしといて。そう、そのまま、上目で見て。すごい。完全にメスの顔。旦那さんに見せたいわ」

細マッチョの若者が、淡々と演技指導のように言葉を続ける。その声は低く、どこか恍惚としている。有紗の手が、浅黒い若者の太腿にすがり、爪を食い込ませた。

「おいおい、ぬるぬるしてきてるじゃん。お姉さん、見られるだけで濡れるタイプ? 今日は特にえっろいな」

「うるさ……っ、ちが、これは……すみません、見ないで……っ、あ、それ、舌の裏、やあ……っ」

有紗が口を離して喘ぐ。だが、再びぺろりと舌を伸ばし、自ら男の竿の裏筋を、根本から先端まで、ゆっくりと味わうように舐め上げていった。背後では、細マッチョの若者が、有紗の膣に差し入れた指を、わざと見せつけるように回している。ぐちゅ、ぬち、と結合部と変わらぬ粘度の水音が部屋に溢れた。

「よだれ、すごい垂れてるよ。口、閉じられないくらい好きになっちゃったわけだ」

撮影役が楽しそうに囁く。有紗の口の端から流れた涎が、顎を伝って、既にべとついた首筋を汚していく。腹の下あたりに光る汗の膜が、紙のように白い彼女の肌を、さらにぬめらせて見せた。

その後も、朝方まで映像は続いた。有紗が男の尻を舐める場面があった。舌先を窄まりに埋め、ちゅぷ、ちゅぷと音を立てながら、汗で湿った皺を丁寧に舐め伸ばしていく。クローゼットにしまってあった俺のゴルフパターを持ち出して、自らの股間に押し当てて腰を振る場面があった。金属の冷たい感触に、あられもない声を上げ、打ちっぱなしの脚を戦慄かせている。二人の男に同時に前と後ろから貫かれ、何度も何度もイかされる場面があった。前後から同時に突き上げられるたび、有紗の腹の中央が盛り上がるのが見えた。自分でも気づかないような小さな声で、何度も俺の名を呼んでいた。そのたびに有紗は、写真立てに向かって懺悔の言葉を口にした。そのたびに、撮影役の若者が笑い、細マッチョの若者が「上手に言えました」と褒めた。浅黒い若者は、事あるごとに有紗の身体の変化を観察しては、その成長を楽しむような物言いで貶した。

「有紗さん、最初はフェラだけで泣いてたのに、今じゃ自分から尻を突き出すものな。いいね、そういうの、たまらない」

「や、あ……わ、わたし、もう、君たちの、ことしか……あああ、中、熱いのに……抜いちゃ、やだ……」

有紗が、男たちの合間で、呂律の回らない声で応える。出張中の夫の悲鳴など、この明るい部屋には、一片も届いていなかった。

そして午前四時を回った頃、四人はようやく動かなくなった。有紗はベッドの中央で、三人分の精液に全身を濡らしたまま、口を開けて眠っていた。腹の上には、浅黒い若者の腕が乗っている。細マッチョの若者は床に転がり、撮影役はベッドの足元で、有紗の太腿を枕にしている。明かりは、まだ点いていた。あれほど明々と灯されたまま、四人は朝が来るのも知らずに眠っている。汗と精液と唾液の匂いがこもった部屋の空気が、レンズ越しに伝わってくるようだった。

俺は、ホテルの部屋で一人、画面を見つめていた。下半身は裸で、手には己の萎えたものが、その先端からは、何度目かの精液が、ティッシュの塊とともに指を汚していた。呼吸は荒く、喉は乾き、膝頭は笑っていた。窓の外が白み始めている。清潔なはずの客室が、生臭い自分の匂いで満ちていた。

「……なんで」

呟いた声は、誰に届くでもなく、絨毯の上に落ちた。スマホを裏返しに置く。裏返しにしたくらいで、あの映像が消えるわけではない。画像が、音が、有紗の拗れた声が、網膜と鼓膜に張り付いて離れない。ティッシュの塊を一つひとつ拾い集めて、ゴミ箱へ捨てる。白い紙片が、異様に重く感じられた。かたわらの灰皿に、何も入っていないのに煙草の焦げた匂いが残っている。俺は二度、三度、手を開いたり閉じたりした。指のあいだに、自慰のあとの饐えた臭いが、湿った霧のようにまとわりつく。

窓のほうへ歩く。足元がふらつく。カーテンを開けると、まだ薄暗い空が見えた。十月の夜が、終わろうとしている。あの部屋の明かりのように、俺の頭の中だけは、いつまでもぽっかりと灯り続けたままだ。不意に、妻の腹の上で男の精が冷えていた映像を思い出して、胃の奥がひっくり返るような気がした。それでも、手のひらに残る熱だけが、否定できない。

「……上司に、話そう」

口に出してから、ようやく決意が固まる。そうだ、これ以上、一人で抱えておけることではない。俺はポケットから、もう使用済みでくしゃくしゃになったティッシュを、最後の一枚取り出して、手についた汚れを拭いた。指先がまだ震えている。爪の間に入り込んだ己の体液の臭いが、肺の奥まで侵食してくるような心地がした。洗面台へ行って、水で手を洗う。蛇口から溢れた水が、ぬめりを帯びて排水溝へ消えていくのを、少しのあいだ、感情のない目で見つめていた。

ベッドへ戻って、スマホを拾い上げる。画面には、依然として、自宅の寝室の映像が流れていた。明々と灯る照明。白いシーツ。その上で、有紗が、ほんの少しだけ身じろぎをした。隣の若者の胸元へ、無意識に擦り寄るようにして動いたその横顔は、かつて俺が姫のように扱った妻の、見知らぬ姿だった。朝の光が、カーテンの隙間から射し込んでくる。俺は充電ケーブルを乱暴に引き抜くと、スーツのポケットへスマホを突っ込み、フロントデスクに、タオルをもう一枚もらえないかと、ひどく落ち着いた声で電話をかけていた。

第7章 上司に打ち明けて弁護士と探偵を介し現行犯の証拠を押さえる準備をする午後

第7章: 上司に打ち明けて弁護士と探偵を介し現行犯の証拠を押さえる準備をする午後

フロントに電話を切ったあと、俺はしばらくベッドの縁に腰かけたまま動けなかった。カーテンの向こうから差し込む朝の光が、絨毯の上に薄い四角形を作っている。部屋の中は静かだったが、耳の奥にはまだ有紗の声がこびりついていた。あの、裏返ったような叫び声。俺の名前を口にしながら、他人のものをねだる声。スマホの画面は伏せてあるのに、そこから音が漏れているような錯覚がいつまでも抜けない。

ノックの音がした。タオルを届けに来たハウスキーピングの女性の声が、ドア越しに小さく聞こえる。俺は立ち上がり、くしゃくしゃになったスラックスを直してからドアを開けた。白いタオルを差し出す若い女性が、俺の顔を見て一瞬、目を伏せた。よほど酷い顔をしていたのだろう。無理もない。一睡もせず、自慰を繰り返し、その手で何度も己を慰めた男の顔だ。俺は無言でタオルを受け取り、誰にともなく小さく会釈してドアを閉めた。

洗面所へ向かう。鏡に映った男は、俺であって俺ではなかった。目の下は黒ずみ、顎には薄く無精髭が浮き、唇の端は乾いて白くひび割れている。何より、目の光が死んでいた。銀行の融資課で、取引先に頭を下げて回る男の顔ではない。妻に裏切られ、一人ホテルで自慰に耽った男の顔だった。蛇口をひねり、冷たい水を両手に溜めて顔へ叩きつける。十月の冷えた水が、膨張した血管を引き締めていく。何度も、何度も。息が止まるまで顔を水に沈めて、ようやく頭の芯が覚醒してくるのを感じた。タオルで顔を拭き、ふと視線を落とすと、洗面台の縁に、昨晩使ったティッシュの切れ端が落ちていた。俺はそれを掴んでゴミ箱へ押し込む。ゴミ箱はもう、白い紙片でいっぱいだった。

スーツに着替える。ワイシャツのボタンを上から順に留めながら、頭の中で今日すべきことを並べてみる。まず、上司だ。そう、上司に話さなければ。そう決めたはずだ。廊下を挟んだ隣の部屋には、バツイチ独身の上司が泊まっている。四十代で、いつも落ち着いた物腰の、あまり感情を表に出さない人だ。仕事では何度も同行しているが、プライベートな話をしたことなど一度もない。その人に、俺はこれから、自分の妻が三人の大学生と乱交しているのを見ました、と告げようとしている。ネクタイを結ぶ手が止まった。馬鹿げている。だが、一人では抱えきれないのも事実だった。あの映像を、あの声を、あの感触を、誰にも話さずにいることなどできるはずがない。

俺はスーツのポケットからスマホを取り出した。画面を点けると、見守りカメラのアプリがまだ起動したままになっている。ライブ映像には、変わらず明々と照明の灯った寝室が映っていた。四人はまだ眠っている。有紗が横向きになり、背中を丸めて若者に凭れかかっている。その肩甲骨のあたりに、昨夜誰かがつけたのだろう、赤い鬱血の痕が見えた。俺は画面を閉じ、スマホをポケットへ戻した。あのアプリを消すことはできなかった。いや、消してはいけない。これは証拠だ。俺の目で見た、確かな証拠なのだ。

部屋を出る。廊下の蛍光灯がやけに白く、じんじんと眼の奥に染みた。隣の部屋の前まで来ると、俺は自分の心臓が耳のすぐ裏で打っているのを聞いた。拳を握り、ドアを二度ノックする。

「誰ですか」

低く落ち着いた上司の声。

「持留です」

声が掠れた。情けない。

少し間があって、ドアが開く。白いシャツにスラックス姿の上司が立っていた。まだ寝巻きか何かに着替える前なのか、白いワイシャツの袖を捲り上げただけの、くだけた格好だ。五十近い顔には、この朝方の時間帯に突然訪ねてきた部下への当惑が、ほんの僅かだけ浮かんでいる。

「どうかしましたか。持留さん」

上司が静かに言った。切れ長の目が、俺の顔をまっすぐ見る。

「お話したいことが、あります。今、少しだけ、よろしいですか」

「ええ、構いませんよ。入ってください」

促されるままに部屋へ入る。上司の部屋は俺の部屋と同じ作りで、ベッドと小さな机、椅子が一つ。机上には眼鏡ケースと、読みかけらしいビジネス誌が置かれていた。上司はドアを閉め、「座ってください」と椅子を指した。俺は椅子に座り、上司はベッドの端に浅く腰掛けた。沈黙が降りる。窓の外では、早朝の地方都市を走る車の音が、遠く微かに響いていた。

「うまく言えるか分からないんですが」

話し始めて、喉の奥に何かが張りついているのに気づく。

「昨晩、家の、見守りカメラを見ました」

「見守りカメラ?」

「ええ。実は出張の前に、融資先のベンチャー企業から試作品を借りまして。今、自宅の寝室に、そのカメラを置いてあるんです」

上司は黙って聞いている。私見を差し挟まず、俺の言葉を待っている。バツイチで、他人の家庭の話など腐るほど見聞きしてきた人の顔だった。

「妻の有紗が、昨夜、家に男を上げていました。三人です。大学生らしいです。妻は、その三人と……性行為を、していました」

最後の言葉が、自分でもひどく滑稽に響いた。性行為。もっと別の言い方があるだろう。俺は、あの映像に映っていた行為を、もっと正確に言葉にできる。妻が四つん這いになって後ろから貫かれ、口で別の男のものを咥え、もう一人に写真を突きつけられて懺悔していた。そう言えばいい。だが、声が続かなかった。胃の裏から、こみ上げるものがある。昨夜のアルコールか、それとも別の苦い液体か。俺は唾を飲み込み、拳を強く握った。

「信じられない思いです。現実が、まだ、うまく飲み込めなくて。そのくせ、恥ずかしい話ですが、映像を見ている間、身体は反応していました。自分が嫌になります」

上司は、深く頷いた。顔の皺が、窓からの光でくっきりと浮かび上がっている。それから静かに言った。

「話してくれて、ありがとう。つらかったでしょう」

その声に、妙な色はなかった。

「人がそういう修羅場を見たとき、身体が勝手に反応するのは、おかしなことではありません。むしろ、よくあることです。だからといって、あなた自身が何か悪いわけじゃない。……仕事は、今日は休みなさい。私から上の者には適当に話をつけておきます」

「ありがとうございます」

頭を下げる。ネクタイの結び目が、首に食い込んだ。

「それで、どうしますか。まさか、このまま夫婦を続けるわけにもいかないでしょう」

「はい。……離婚するつもりです」

口に出した瞬間、胸の奥で何かが、ポキンと折れる音がした。もう後戻りはできない。昨晩までの俺は、妻の不貞を目の当たりにしても、どこかでまだ、この結婚を取り戻せるかもしれないという淡い期待を持っていた。だが、もはや違う。離婚する。その決意を口にした途端、腹の底が急に冷えていく。不思議なくらい冷静だった。

「分かりました。あなたが決めたことなら、私は応援します。知り合いに、離婚に強い弁護士がいます。今、電話してみましょうか」

上司はベッドサイドのスマホを手に取った。画面をスクロールして番号を探す指の動きを、俺はじっと見ていた。

ここから先のことは、驚くほど速く進んだ。上司が電話をかけると、弁護士は早朝にもかかわらず電話に出たらしい。手短に事情を話し、俺に変わってくれとスマホを手渡してきた。俺は事務的に、自分の名前、年齢、住まい、状況を説明した。弁護士は落ち着いた口調で、「現時点ではお一人で抱え込まず、証拠の確保を最優先に動きましょう」と言った。見守りカメラの録画機能のことを尋ねられたので、ライブ映像がアプリから見られ、おそらくクラウドに一定時間保存される仕様だと答えた。

「では、その映像の保存状態を確認しておいてください。こちらでも、今日中に探偵を手配できます。ご自宅の現状は、映像で確認できるのですね」

「今、この瞬間も、家の寝室が見えています」

弁護士が、受話器の向こうで「なるほど」と呟いた。驚くでもなく、呆れるでもなく、ただ淡々と。

「それなら、証拠の価値は十分にあります。今日、この後、信頼できる探偵を派遣します。持留さんは、できるだけ早くご自宅のある都市へ戻ってください。現行犯で押さえるのが確実です」

現行犯。その言葉が、乾いた畑に水が染みるように、俺の頭の中へ静かに浸透していく。そうか、あいつらは今も俺の家にいる。有紗はあの断られた部屋で、三人の男と、まだ、生温かく眠っている。だったら、逃がしてやる必要はない。捕まえればいい。俺の家で、俺の妻を抱いていた連中を、白日の下に引っ張り出す。どうして昨夜は思い至らなかったのか。いや、昨夜の俺は、あの映像をただ眺め、呆けていた。今日からは違う。目的ができた。そのことが、不思議なほど、くしゃくしゃだった心の襞を一枚ずつ平らにしてくれる。

上司に礼を言い、部屋を出た。それから急いで荷物を纏め、チェックアウトを済ませる。ロビーで精算を待つ間、スマホで見守りカメラを開いた。昼前の寝室には、若者たちが起き出してだらけていた。全裸で。有紗も一人と軽いキスを交わし、浴室へ向かうところだった。

「今日も、一日楽しもうよ。もう、きょうはみんなバイト休みだし、旦那さんが明日戻るまで、あと何発やれるかなぁ」

スピーカーから若者の声。

「もう、そればっかり。ご飯も一緒に食べようね。ピザとかとって」

有紗の声。あどけなく、蕩けている。昨夜、あんな獣のような声を出していた女とは思えない。そのあまりの落差に、爪の先が白くなるほどスマホを握りしめた。画面の中では、裸の若者たちが有紗を囲んでいる。

「いいねぇ、じゃあさぁ、今から手マンして、イッたら、ピザの受取り裸エプロンね」

楽しげにルールを決めている。有紗の身体を触りながら、裸エプロンだのケツマンコだのと、まるで玩具を品定めするみたいに。実際、有紗は彼らにとって玩具なのだろう。三十一歳の色白で豊満な女を、自分たちの玩具にすることに酔っている。なのに有紗は、ほんの半年前まで俺の腕の中で恥じらいながら灯りを消してくれと請い、アナルなんて汚いからと頑なに拒んでいたはずの女は、今や彼らの掌の上でとろけた飴のように溶けている。俺が七年かけて築けなかったものを、連中はたった数ヶ月で壊した。

ホテルを出て、タクシーを拾う。新幹線の時間まで余裕はない。駅へ急ぐ途中、弁護士から電話があった。探偵と合流する打ち合わせだ。相手の弁護士は手早く、探偵はカメラを持ったアシスタントを一人連れて、午後四時に俺のマンションの前で待つ、と説明した。宅配ピザの業者を装うか、いや宅配業者と同時にドアの隙間から踏み込む手が確実だと。俺はただ「お願いします」と答えた。新幹線の車窓から流れる十月の風景が、やけに遠く明るく見える。あのマンションに戻れば、そこには現実がある。変わってしまった寝室があり、写真立てがあり、有紗がいる。目を閉じると、あの水着の写真が浮かんだ。サイドチェストの上で真ん中から左端へ、数センチだけずれていた写真。帰ったら、その写真を確かめよう。いや、もう、確かめる必要もない。あれは初めから、ずっと、あの位置にあったのだ。ずれていたのは、俺の信じていた日常のほうだった。

新幹線を降り、駅前で探偵と落ち合った。三十代半ばから四十代ぐらいの、小柄だが無駄のない体つきをした男だ。グレーのジャケットに黒のチノパン。首から小型のカメラを提げたまま、俺の顔を見て軽く頭を下げた。隣には、もう少し若い、四角い体格の男が立っている。彼がアシスタントなのだろう。肩に仕事用のバッグを斜めがけにしている。探偵はよどみなく、手早く言った。

「持留さんですね。弁護士の先生からお聞きしました。現在、室内には四名。男性三人と奥様、ですね。見守りカメラでは、昼過ぎから寝室でまた性行為をしていたようですね。そろそろピザを注文する声が聞こえる頃合いかと。今なら慌てずに行けます」

「分かりました。こちらも、中に誰がいたかを正確に確認したい」

「そのための映像と、現認です。よろしくどうぞ」

車に乗り込む。流れていく町並みを、俺は助手席から黙って眺めていた。見慣れた街路、角のコンビニ、有紗といつか歩いた河川敷のほう。そんな光景が、どれも遠くの世界みたいに思えた。助手席の足元で、大きなバッグが揺れる。中には何が入っているのか知らない。知らなくていい。必要なのは、家の中の連中をこの目で一匹残らず捕まえることと、弁護士と探偵に、証拠を余さず押さえてもらうことだけだ。

「……あとどれくらいですか」

俺は運転席の探偵に、絞り出すように訊いた。

「渋滞がなければ十五分です」

十五分。短いようで、長い。時間は残酷に均等に流れて、あの寝室へと俺を運んでいく。スマホを手に取る。まだ、見守りカメラは動いている。画面の中には、白いシーツと、明るい照明。この数時間の間に、彼らはまたそこで飽き足らずに肌を重ねた。有紗が笑っている。肩のあたりに、若い男の手が回されている。あんまりだ。俺が七年間、大切に守ってきた暗がりを、他人が明々と照らして、こね回している。肉欲の匂いが、画面の向こうから流れ込んでくるような気がした。

午後四時を少し回った頃、見知らぬ乗用車の後部座席で体を固くしていた俺の耳に、探偵の小さな声が届いた。

「着きましたよ。ご自宅のマンション前です」

俺は顔を上げた。十月の日差しが、マンションの白い壁に照りつけている。駐車場に車を入れて、三人、無言のままスマホを置き、ドアを開けた。エントランスの向こうに、あの部屋の窓が見える。すべてはこれからだ。ポケットの中でスマホの画面が熱を持つ。アプリはまだライブのままだ。画面の中では、有紗がエプロンを手に、こちらに背を向けて笑っている。あと数分。あと数分で、その画面の中の四人と、現実の俺は、同じ空気を吸うことになる。俺は一度だけ、深く、肺の底まで空気を吸い込んだ。生温かい午後の風が、首筋を撫でていった。

第8章 ピザ宅配に紛れて自宅に踏み込み裸エプロンの妻と全裸の大学生三人を押さえる夕暮れ

第8章のシーン

第8章: ピザ宅配に紛れて自宅に踏み込み裸エプロンの妻と全裸の大学生三人を押さえる夕暮れ

マンションのエントランスを抜けるまで、俺は一度も瞬きをしなかった。十月の午後五時を回った空はまだ明るさを残していて、白い外壁に夕陽がべったりと張りついている。探偵が先に、アシスタントが最後尾につき、俺はその真ん中を歩いた。足音を殺すまでもない。宅配の男が到着するまで、あと三分かそこら。集合玄関のオートロックの前で、探偵が振り返り、無言で顎をしゃくった。俺はポケットからキーを取り出し、カードリーダーに押し当てる。電子音。解錠。ロビーの空気が、ひやりと頬を撫でた。

「ピザの到着は、あと二分です。ここから三階まで階段で」

探偵が小さな声で言った。

「分かりました」

声が、他人のもののように低く、平らだった。

階段を上がる。靴音だけが、コンクリートの吹き抜けに反響する。踊り場を曲がるたび、窓から差し込む夕陽が、階段の隅へ橙色の三角形を作っていた。あの部屋まで、あと三十秒。心臓は、変に落ち着いていた。昨夜から朝にかけて、あれほど暴れた感情が、今は底の方で静かに固まっている。腹の奥に、冷たい石が一つ、沈んでいるようだった。これは覚悟とか、そういう立派なものじゃない。ただ、すっかり心が痺れてしまったのだ。

三階の廊下に出ると、壁に沿って進んだ。突き当りが俺の部屋だ。蔦の植えられたプランターが、昼の間に乾いて、土の匂いを微かに漂わせている。玄関のドアの前で、三人は背を壁につけて息を潜めた。真鍮色の表札が、夕陽に光っていた。持留、の二文字。ここが俺の家だ。そう思うのに、なにも感じない。

探偵が腕時計を確認し、耳を澄ませる。アシスタントの男は、すでに小型のカメラを胸の前に構えていた。エレベーターの駆動音。かごが止まり、扉が開く。軽い足音が、こちらへ近づいてくる。赤いジャンパーを着た若い男が、ピザの保温バッグを捧げ持って、階段側から現れた。男は俺たちを見て一瞬首を捻ったが、そのまま部屋のチャイムに指を伸ばした。

ピンポン。

耳に馴染んだ、家の呼び鈴の音だった。この音を、帰宅した俺が自分で鳴らすことなど、これまで一度もなかった。いつも有紗が、俺の帰りを待たずに玄関の鍵を開けてくれていたから。あの、ほんの僅かな温かい音。その音を合図に、探偵が一歩、ドアの影へ身体を滑り込ませる。

内側から、リビングの床を裸足で歩く音。小走りに近づいてくる。若い男の、はしゃいだ声。

「ピザきたきた。有紗ねぇえさん、玄関行ってよ」

「えー、だって、裸エプロンで出るんでしょ、俺がお前の裸にピザの金持たせるわけにいかないし」

ばたばたという足音。近い。扉の向こうで、チェーンを外す音。高めの、楽しげな声。

「はーい、いま開けまーす」

ガチャリ、と鍵が回った。その瞬間、探偵の肩がドアを押し込んだ。俺も、ほとんど同時に、靴を履いたまま玄関の中へ足を踏み入れていた。ピザの男が目を丸くして後ずさる。アシスタントはカメラを回したまま、戸口を背に塞いだ。

玄関の照明。明るい。シンクの蛇口から、水が流れているような音が、奥から聞こえている。そして、目の前に、有紗が立っていた。

全裸に、エプロンだけ。淡いクリーム色の、襟ぐりの深い割烹着。裾が太腿の付け根までしかなく、白い脚が二本、まっすぐ伸びていた。肩ひもの下から、豊満な胸の膨らみが、横へあふれんばかりに押し出されている。汗ばんだ肌が、裸電球の光を含んで、しっとりと光っていた。首には、昼間から付けていたらしい細いネックレス。鼻の頭が赤い。口元は、ピザを頼んだ女の、ゆるみきった笑いの残骸で半開きだった。その口が、宙を食んだように、ひくり、と痙攣した。

「た、だいま」

自分の声が、玄関の空気を裂いた。語尾に、感情の欠片も乗っていない。有紗の目が、零れ落ちるほどに見開かれる。瞳孔が、照明を受けて一瞬でちぢこまる。頬から、音を立てて血の気が引いていく。唇が震え、顎が持ち上がり、喉の奥で、息を呑む小さな音がした。

「ち、ちがうのよ……ちが、うの……あなた、これ、ちがうの……」

有紗が後ずさるたび、裸のかかとがフローリングを叩いて、ぺた、ぺた、と湿度のある音を立てた。背中がリビングのドアにぶつかって、身体ごとびくんと跳ねる。エプロンの肩ひもが、汗に滑って、右肩からずり落ちた。露わになりかけた胸の先端が、照明の光の下で、熟れた木苺のように充血しているのが見えた。あの暗がりの中でしか、俺にすら見せなかったものが、今、玄関の明るさのなかで、丸裸にされようとしている。

「ちがうのよ、ちがうの。あなた、ちがうの、お願い、話を聞いて、これ、冗談で……」

有紗がしゃがみ込んだ。太腿を抱え、胸を隠すように膝を突き合わせ、丸まった。エプロンの裾がめくれ、尻の割れ目が半分ほど露わになる。皮膚が汗ばみ、白い背中が、ひくひくと呼吸に合わせて上下していた。豊満な横乳が、膝の間からこんもりと盛り上がっている。俺は黙って、その姿を上から見下ろした。夫が、妻の裸を見下ろしている。それなのに、どうしてこう、まるで知らない女を見ているような、遠い心地なのだろう。

「中だ。先に通します」

探偵が、俺の肩越しに短く言い、カメラを床の低い位置から有紗の背中へ向けた。シャッターではない。動画だ。赤いピザの男が、呆けて突っ立っている。

「あの、これ、代金……」

声をかけられて、俺は振り返った。

「帰ってくれ。頼んだ覚えはないが、金は払う」

小銭入れから、間に合うだけの札を抜いて渡す。男は、なにがなんだか分からない顔で、俺と、蹲る全裸の女とを交互に見て、逃げるようにして廊下へ消えた。保温バッグが、遠ざかっていく。

「入るぞ」

俺は靴を脱がずに、リビングのドアを開けた。リビングには、ケンタッキーの匂いか、あるいは汗と酒と精液の饐えた臭気か、分からない甘ったるい空気が、むわりと渦巻いていた。テーブルの上には、空のグラス、スナックの袋、灰皿の代わりにされた小皿。床のあちこちに、脱ぎ散らかされた衣服が、雑草のように生えている。ソファの前、床に尻をついて、こちらへ背を向けていた三人の若者が、一斉に顔を上げた。全裸。三人とも、腰から下へは何も着けておらず、股間はあらわだ。細い体つきの男。浅黒い、筋肉の盛り上がった男。長い前髪の、痩せぎすの男。あの画面で、有紗を犯していた男たちそのものだった。

「え、なに、誰? ちょっと、なにしてんスか」

長い前髪の男が、スマホを持ったまま立ち上がりかける。

「……ここの主だ。君たちは俺の家で何をしている?」

俺の声が、リビングのざわついた空気を、するりと押し分けた。途端に、三人の顔が強張った。浅黒い男が、庇うような仕草で、股間を手で隠す。細マッチョの男が、じっと俺の顔を睨み、言った。

「主って、もしかして、旦那さん……? ちわっス」

片手をひらりと上げて、ふてぶてしい薄笑いを浮かべる。

「お前、なにしに来たんスか。急に、不法侵入すよ、それ」

「この家の名義は俺だ。不法侵入はお前たちのほうだ」

俺は一歩、リビングの中へ足を進めた。靴の裏が、床に落ちていた輪ゴムのようなものを踏んで、微かに粘る音を立てる。有紗が、玄関のほうで、くぐもった泣き声を漏らし始めていた。

「あの、さ、話し合いません? まあ、その、いろいろ、勘違いとかなんじゃないスか」

撮影役の長い前髪が、早口でまくしたてる。細マッチョが、横で節くれだった頬を掻いた。

「そっすよ。俺ら、ちょっと遊びに呼ばれただけっすから。有紗さんが、今日、パーティしよって。なあ」

浅黒い男が、裸の肩を竦めて、玄関のほうへ声を投げた。

「有紗さん、大人しくしてないで、ここの夫に説明してくださいよ。俺ら困るんスけど」

探偵が、リビングへ足を踏み入れ、ビデオを三人の顔の高さで回しながら、静かに割って入った。

「説明は、あとで弁護士へどうぞ。現在、ご主人と代理人の依頼で、ただいまの状況を不貞行為の証拠として撮影しています。もし、この件が大っぴらになったり、余計なことをすれば、あなたたちの学業や就職に、少なからず影響が出るはずです。大人しくしなさい」

細マッチョの男が、面食らったように口を開けた。浅黒い男は、わずかに後退した。長い前髪だけが、苛立たしげに舌打ちして、スマホを指で弄っている。探偵が、さらに言った。

「手に持っているスマホを、そのまま机の上に置きなさい。録画済みのデータを、こちらで確認させてもらう」

「は? なんで、俺のスマホ、関係なくない?」

前髪の男が、挑むように言った。探偵は答えず、一歩、男の前に踏み込む。床の抜けきった日焼けの照りが、男の青白い胸板に落ちて、まだらな影を作っていた。

「関係がないなら、中を見られて困ることもないはずです。拒むなら、それなりの手続きになるだけですよ」

探偵の声に、三度目の粘り気が混ざった。男の手が止まる。舌打ちを、もう一度。それから乱暴に、スマホを床へ置いた。液晶には、ロック画面の女の写真。有紗だ。腰に男の手を回されて、ピースしている。アシスタントが拾い上げるのを見て、若者の唇がまた悪態の形に歪む。

「ロック番号は」

探偵が、靴の先でスマホを指した。前髪の男は答えない。細マッチョが面倒くさそうに、六桁の数字を呟いた。アシスタントがその番号を打ち込み、すばやく動画ファイルを開いていく。端末から送られてくる、微かな音。布が擦れるような音。誰かの小さな嬌声。

「……出てますね。本日の録画。粒子は粗いですが、声も問題なく入ってます」

アシスタントが、音量を絞ったヘッドホンの片側を探偵へ渡す。探偵は十秒ほど黙って聞き、電源を入れたままケーブルを繋ぎ、SSDへ転送を始めた。転送を待つ間も、リビングには、有紗の鼻を啜る声が、ひっそりと途切れずに流れ込んでくる。俺は動けなかった。目の前の三人が、全裸のまま、俺のスポーツタオルを尻に敷いていたり、脚を投げ出していたりする。部屋の隅の観葉植物が、十月の夕陽に影を長く伸ばしている。あの植物は、有紗が水をやっていたやつだ。床には、大学ノートの切れ端。リモコン。俺の部屋着のパンツ。この場所が、夕べ、どれだけ汚されたかが、空気の色で分かった。

「転送、終了です」

アシスタントが言う。探偵はスマホを男の足元へ滑らせて、肩を戻した。

「では、こちらの撮影は続けますが、あなたたちは今から、身支度を整えてここを出なさい。支度が済むまで、こちらは待ちます」

「マジかよ……最悪」

浅黒い男が、低く唸って立ち上がった。裸のまま、床の衣服を拾い始める。細マッチョは、まだ薄笑いのようなものを口元に貼りつけたまま、スウェットを履いた。前髪の男だけは、しばらく床に座り込んでいたが、やがて「ちっ」ともう一度舌打ちして、ジーンズを引き上げる。三人が身支度を整える間、俺の視線は、彼らの股間と、彼らの背後にあるリビングのテレビとに、居場所を失って漂っていた。角のテーブルに、ファミレスの制服が畳んで置いてある。有紗のエプロンと同じ、淡い生成りの色。

「出るなら早くしろ。ついでに、お前たち、俺の妻に、最初に声をかけたのは誰だ」

俺は突然、口を開いていた。低く、問い詰めるような声。三人は、びくりと背を強張らせて、互いの顔を見合わせた。長い前髪が、面倒だといった顔で、顎をしゃくった。

「全員ですよ。お宅の奥さん、飲み会で誰彼かまわず、肌、触らせるんで。おごってくれたし。俺ら、年下ってだけで、もてなし受けてる気分でしたよ。あの人、酒入ると、ほんと、すごいんスもん」

男は、鼻で笑った。怒鳴り返す気力もない。俺はひとつ、大きく息を吐いた。

「……お前たち、年齢は」

「十九」

細マッチョが、短く答える。

「二十です」

浅黒い男。

「十九」

前髪。

学生証を見せてやる、と細マッチョが、財布から半透明のカードを取り出した。探偵が、片手で押し戻す。

「結構。身元は、あとで学校ごと確認します。逃げるなら、それなりの対応になりますよ」

三人は、靴を履き始めた。玄関の隅で、有紗がまだ蹲っている。男たちは、そんな有紗を一瞥もせず、あるいは横目で見て、開いたドアからぞろぞろと、裸足のまま表の廊下へ出て行った。夕陽が、薄い背中を、つやつやと照らしている。

「……有紗」

呼ぶと、エプロンの肩ひもが落ちた背中が、ひどく震えた。有紗は、膝のあいだへ顔を埋めたまま、動かない。肩甲骨が、か細く呼吸するたび、白い背骨の列が浮かんだ。

「これからの連絡は、代理人の弁護士へ。お前からは、もう、なにも聞かない」

ポケットから、折り畳んだ紙を取り出した。弁護士から言われていた連絡先のメモだ。有紗の、冷え切った指に握らせる。有紗が、初めて顔を上げた。化粧が、涙で溶けて、目の下にだらしなく滲んでいる。唇の端には、まだ、なにか白っぽいものの名残がこびりついていた。首のネックレス。俺が、去年の誕生日にやったものだ。それが、白い胸の谷間で、呼吸と一緒に、ゆらゆらと揺れていた。

「和明、わたし、あの……」

「出て行く。お前も、必要なものをまとめて、この部屋をもう使うな。今日中に、出られる荷物だけ持って、実家か、どこかへ行け」

言いながら、目線だけは、リビングの奥の、閉まった寝室のドアへ行く。見守りカメラは、まだあのクローゼットの上にある。あの明々とした部屋を、今も録り続けているかもしれない。分かった。分かっていた。この家の中を、一秒でも歩き回れば、部屋の空気で自分が壊れてしまうと。だから、朕は寝室へは入らない。入らない、と決めた。靴の裏で、フローリングを強く踏みしめた。

「……和明、ごめんなさい、お願い、話を聞いて」

有紗が、這うようにして、俺のスラックスの裾に手を伸ばした。白い、この数年、毎晩のように触れてきた指。その指先が、今は、地面に落ちたピザのチラシのような、かさついた紙きれに見えた。

「触るな」

息だけで言った。有紗の手が、ぴくりと引っ込む。俺は、ポケットからもう一枚、家の鍵を取り出し、玄関の靴箱の上に置いた。それから、後ろ手にドアを開け、外へ出た。探偵とアシスタントが、静かについてくる。廊下の壁際に、宅配ピザの保温袋が、置き去りにされていた。熱い湯気を、まだうっすらと立ち上らせている。

「……ありがとうございました。今後のことは、弁護士を通してご連絡します」

エレベーターへ向かう探偵に、俺はそう、掠れ声で礼を言った。

「こちらこそ。ご依頼、確かに果たしました。お疲れでしょう。どうか、少し、休んでください」

探偵の声は、やわらかかった。隣で、アシスタントが無言で、カメラのバッテリーを入れ替えている。三人で、狭い箱に乗り込んだ。扉が閉まる直前、俺は、振り返りそうになった。振り返らなかった。

マンションを出て、駐車場の片隅で、探偵と別れた。秋の夕風が、ワイシャツを通して、無性に冷たかった。近くのビジネスホテルまで歩いた。途中で、コンビニの灯りを見つけて、紙パックの水と、使い捨てのカミソリと、新しい靴下を買った。指先は、もう震えていなかった。ただ、靴下を選ぶとき、無心で、有紗が好きだった生成りの色を手に取って、すぐに棚へ戻した。

ホテルに入り、部屋へ上がる。カーペットの青い匂い。空調の唸る音。バスルームの白いタイル。誰にも邪魔されない、無機質な箱。鍵を内からかけて、スーツのまま、ベッドの端に倒れた。目蓋の裏で、有紗が蹲っている。全裸の背中。エプロンの肩ひもが、また落ちる。違うのよ、と壊れた機械みたいに繰り返す声が、耳の穴へ、ぴったりと張りついている。それでも、あの三人の男の姿と、その間の、有紗の裸の白い痙攣は、今も自分の目蓋の裏に、はっきりと焼きついたままだ。

気がつくと、声が漏れていた。はじめは、喉の奥に引っかかった、咳のようなもの。膝を抱えて、額を、汚れたスーツの袖に押し付ける。肩が、ひとりでに跳ねた。涙が、眼球の奥から、ぬるま湯みたいに溢れて、鼻の穴を塞いだ。ああ、泣いているのだ。悲しいのか、悔しいのか、それすらも判然としない。ただ、熱い水が、止めようもなく、目の縁を伝って、頬を濡らし、枕を汚していく。

あの部屋に、妻がいた。俺の知らない笑い方をする妻。ピザを頼んで、エプロン一枚で玄関に出てくる女。もう、俺の有紗では、ない。

涙が、ぽたぽたと音を立てる。呼吸が、浅く、ひどく乱れて、咽び泣きになる。十月の、どこかのビジネスホテル。知らない街の、安いベッドの上で、三十五の男が、一人、声を殺して泣いていた。窓の外では、夜が、静かに街を沈めていく。俺は、眠り方も分からない眠気の中、それでも、いつか朝が来ることを、冷たい水の味と一緒に、ゆっくり受け入れていた。

第9章 離婚交渉の中で学生のスマホ映像が貼られた報告書を見た妻の両親が土下座するまで

第9章のシーン

第9章: 離婚交渉の中で学生のスマホ映像が貼られた報告書を見た妻の両親が土下座するまで

翌朝、俺はベッドの上で、天井の染みを数えていた。ビジネスホテルの、のっぺりした白い天井。蛍光灯の笠の縁に、ほこりが薄く積もっている。昨夜泣き腫らした瞼が、塩を塗り込まれたように重い。枕カバーは涙と涎でまだ湿っていて、寝返りを打つたび、頬に張りつく感触が生々しかった。

起き上がって、水を飲んだ。喉を通る冷たさが、空っぽの胃袋に染みていく。スマホを確認する。不在着信、三十七件。SNSのメッセージ、数え切れない。全部、有紗からだった。指先でスワイプして、通知を消していく。心の底に、何かの感情が引っかかることもなく、ただ機械的に、赤い数字を減らしていった。

有紗の実家に電話をかけたのは、朝の九時を少し回った頃だ。カーテンを開け放った窓から、十一月の陽射しが、絨毯の上へやわらかく落ちていた。受話器の向こうで、呼び出し音が三度鳴る。四度目で、有紗の母親が出た。

「はい、持留でございます」

懐かしい声だった。正月に会って以来か。明るく、少し甲高い、いつも愛想のいい義母。だが、その声を聞いても、胸は動かなかった。俺はペットボトルの水をもう一口含んで、言った。

「お義母さん、和明です。朝からすみません」

「あら、和明さん。どうしたの、こんな朝早くに。有紗に何か……」

「有紗と、離婚することにしました」

受話器の向こうで、小さく息を呑む音がした。数秒の沈黙。冷蔵庫が唸るような、遠い生活音が微かに漏れてくる。

「り、離婚って、どうして急に……なにがあったの、和明さん」

「理由は、有紗本人に聞いてください。俺の口からは、言えません」

「そんな、有紗はなにも話してないわ。昨日の夜、突然帰ってきて、部屋に閉じこもったきりで……」

「そうですか」

俺は静かに答えた。義母の声は動揺で震えている。可哀想だとは思った。だが、それ以上に、この会話を早く終わらせたかった。耳の奥に、別の女の嬌声が、まだこびりついている。

「幸せにできずに、すみませんでした。有紗を、よろしくお願いします」

「ちょっと、和明さん、待って。ねえ、ちゃんと話を……」

俺は電話を切った。スマホをテーブルに伏せて、壁にもたれる。義母の困惑した声が、耳の中でしばらく反響していた。これで、一つ片づいた。いや、片づいた気になっているだけで、実際には何ひとつ、片づいていないのかもしれない。

その日のうちに、弁護士から連絡があった。有紗の両親が、近々、直接話をしに来るかもしれないという。有紗がなにも話そうとしないので、両親としても事態が掴めず、困り果てているらしい。俺は「分かりました」とだけ答えた。窓の外では、駅前のロータリーを、くすんだ銀色のバスが、のろのろと横切っていた。

それから三週間ほどが過ぎた。十一月の半ば。空気はすっかり冷えて、コートの襟を立てずにはいられない日が続いた。俺は相変わらずビジネスホテルに滞在しながら、仕事に出かけていた。銀行の業務は、留守を許してはくれない。新支店の立ち上げ準備は佳境で、取引先との折衝に追われた。忙しさは、ありがたかった。夜、ホテルへ戻って、缶ビールを一本飲んで、眠る。休日には、散歩に出て、知らぬ街の路地を歩いた。心は、凍った湖のようだった。波は立たないが、その下で何かが静かに沈んでいる。

十一月中旬のある火曜日、銀行の応接室で、俺は有紗の両親と向かい合っていた。二日前に、支店長室へ「持留さん、奥様のご両親がお見えですが」と内線が入り、俺はすぐに弁護士へ連絡した。今日は立ち会ってもらえない。予定が合わないという。一人で会うことになった。

応接室のドアが開いて、中年の夫婦が入ってくる。有紗の父は、白髪混じりの短い頭をした、四角い肩の男だった。銀行員だった義父は、定年退職してから小さな会計事務所に勤めていると聞いたことがある。濃紺のスーツを着て、ネクタイを締めていた。隣りの義母は、つい先日電話で話したばかりの、栗色の髪を短く揃えた小柄な女だった。二人とも、ひどくやつれていた。特に義父は、頬がこけて、目の下に深い陰を落としている。義母は、化粧の下の肌が荒れているのが分かった。部屋に入るなり、義父はテーブル越しに俺を睨みつけた。

「持留くん、話というのは一体なんだ。うちの娘になにをした」

大きな声だった。義母が、そんな、お父さん、と、義父の袖を引く。

「有紗が、おかしくなってしまった。お前、有紗に何かしたんだろう」

「なんにもしていません」

俺は、落ち着いた声で言った。本当に、胸の底は凪いでいた。

「離婚の意志は固いです。それだけを、今日はお伝えしに来ていただきました」

「ふざけるな。理由も聞かせず、一方的に離婚だと。そんなことが通ると思っているのか」

義父の語気が荒くなる。隣りの義母が、すみませんでした、と小声で頭を下げた。だが義父は、テーブルを人差し指で二度、強く叩いた。

「有紗はなにも話さない。いいか、持留くん。お前には世話になった。感謝もしている。だが、だからといって、娘を泣かせるのを黙って見ているわけにはいかないんだ」

俺は黙って、持参していた封筒をテーブルの上に置いた。厚みのある、角型の封筒。表面には、探偵事務所の名前が、小さく印字されている。義父は、その封筒を見て、眉をひそめた。

「なんだ、それは」

「あなたが知りたいと言うなら、その中身が、すべてです。知りたくないなら、開けずに、そのまま持って帰ってください。ただ、俺が有紗に何かをしたのではなく、有紗が俺に何をしたのかを知りたければ、必ず目を通したほうがいい」

俺の声は、驚くほど平坦だった。義父は、しばらく俺の顔を睨んでいた。応接室の空調が、低く唸っている。外では、この地方特有の乾いた風が、建物の壁を叩いていた。義父は、ゆっくりと封筒を手に取った。義母が、固唾を呑んで、夫の手元を見つめている。義父は、封筒の口を乱暴に破いた。中から、表紙に「不貞行為調査報告書」と書かれた、分厚い冊子が顔を出す。

「ちょっと、お義父さん、ここで開けるんですか」

俺は、思わず口を挟んでいた。だが、義父は聞き入れなかった。震える手で、一ページ目を開く。生々しい画像が、白い紙面に大きく貼り付けられている。あの寝室の見守りカメラの静止画。明々と灯る部屋の中央で、有紗が、三つの裸の影に囲まれている。次のページには、スマホで撮影された動画のキャプチャーが並んでいた。有紗が四つん這いになって、背後から男を受け入れ、正面から別の男のものをしゃぶっている。さらに、次のページには、アナルに男根を呑み込まれた接写。有紗の顔は快楽で溶け、口が半開きになり、目が上向いている。アヘ顔、と報告書には小さなキャプションが付いていた。

応接室が、深海のように静まり返った。義父の手が、ページを繰るたびに大きく震える。義母が、横から覗き込んで、小さく息を呑んだ。顔から血の気が引いていくのが、対面に座る俺にも分かった。

「なんだ、これは……」

義父が、絞り出すように言った。

「これが、離婚の理由です」

俺は、自分の指先が、すっかり乾いているのに気づいた。テーブルの下で、膝の上に揃えた両手が、微かに冷たかった。義父は、さらにページを進めた。風呂場で裸の有紗が、怒ったような顔でしゃがんでいる。股間から、液体が流れ出ている。放尿。大学生のスマホで撮った動画の切り抜きだ。次のページ。裸エプロンの有紗が、ソファの上でピザの箱を開けている。胸ははだけ、太腿は光っていた。その胸の谷間に、白く濁ったものが、だらりと筋を作っている。報告書には、被写体が受領したピザの箱と、その箱に盛られたビスケット。精液がけのビスケットを、幸福そうに口へ運ぶ有紗。その一枚一枚に、日付と時刻が刻印されていた。

「嘘だ。こんな… こ、これは…有紗じゃない。うちの娘が、こんなことをするはずがない」

義父の声が、張り裂けそうになっている。だが、その目は、ページの上から離れない。義母はもう、手で顔を覆って、肩を震わせていた。

「これは、すべて、令和七年十月に、我が家の見守りカメラと、学生たちのスマホで撮影されたものです。探偵事務所が、私の依頼を受けて、現行犯の証拠として押さえました」

俺は、事務的な口調で言った。

「動画はあるのか」

義父が、絞り出すように訊いた。

「ありますよ。ですが、まさかとは思いますが、今ここで再生するつもりですか」

「……いや、いい。いい、もう……」

義父は、報告書を閉じた。閉じたまま、しばらく俯いていた。部屋の外では、廊下を歩く行員の足音が、微かにしていた。義父の背中が、深く曲がる。

「持留くん」

義父が、消え入りそうな声で言った。

「すまない。お前が何かしたとか、疑ったりして。本当に、すまなかった」

「いえ」

義父は、テーブルの向こうで、椅子を後ろに引いた。立ち上がる気配。俺は、反射的に「どうぞ、お座りください」と言おうとした。だが、言えなかった。義父は、その場で、深々と頭を下げた。床に額がつきそうなほど、深く、直角に、腰を曲げた。土下座、だった。行員にあってはならないほどの、深い土下座。私は何も知らなかった。この老いた男は、俺の前で、床に染みになるほど深く、頭を垂れている。

「娘が、娘が、本当に、申し訳ないことをした。あんたの一生を、うちの馬鹿娘めが、めちゃくちゃにしてしもうた。親として、どう詫びたらいいのか。どう……」

義父の声は、涙で詰まっていた。隣りで義母が、床に崩れて、泣いている。俺は、ただ黙って、その姿を見ていた。お義父さんの地獄よりも、俺の地獄のほうが、もっと深いのだと、心のどこかで叫ぶ声がした。だが、口は開けなかった。この男を、立ち上がらせる力も、殴りつける力も、今の俺にはなかった。

「もう、結構です。顔を上げてください」

自分でも驚くほど、労わるような声が出た。

「そんなに詫びられることじゃありません。俺が、有紗のことを、最後まで見抜けなかっただけです。気づいてやれなかった。そういうことで、もう、終わりです」

義父は、それでも、長いこと、床に手をついていた。義母の啜り泣きが、空調の音に混じって、どこか遠くへ消えていく。十一月の陽は、いつの間にか傾いて、窓のブラインドが細い影を、壁へ何本も投げていた。

その日を境に、有紗からの電話も、SNSのメッセージも、ぱったりと途絶えた。有紗の両親が、有紗を実家に軟禁したのかもしれない。いや、あるいは、あの報告書を見せられて、有紗自身がようやく口を閉ざしたのか。どちらでもよかった。俺はホテルから近い支店に、出張先での仕事を言い訳にして、しばらく身を寄せた。

十一月が終わる頃には、離婚手続きは、ほぼ片づいていた。慰謝料と一緒に、マンションの残った家財道具も、有紗の両親が引き取ることで話がついた。大学生たちの弁護士とも交渉して、三人からそれぞれ、形ばかりの慰謝料を受け取った。彼らの通っている大学へは、こちらから明かすことは、最後までしなかった。そんなことをする気力も、悪意すらも、もう残っていなかった。

有紗が、離婚調停の際に、こう言っていたと、弁護士から伝え聞いた。出張続きで寂しかった。学生たちにチヤホヤされて、自分でも歯止めが効かなかった。悪いこととは分かっていたけれど、夜のシフトで、何度も、抱いてもらう約束を、重ねてしまった。そういった趣旨の反省の言葉を、有紗は絞り出すように話したらしい。

「そうですか」

俺は、弁護士の電話に、ただそう返した。十一月の終わりの、どんよりと曇った日だった。ホテルの窓の外で、枯葉が、風に揉まれて、くるくると回っていた。興味はなかった。なんで自分が裏切られたのか、その理由を、今さら知りたくはなかった。何度考えたところで、あの映像は消えない。有紗の身体が、三人の男に開かれる音も、あの、指先が震えるほど低い声も、何も。

なぜだろう。月が変われば、少しは心が動くかと思っていた。だが、十二月を迎えても、俺の心は、やはり凍ったままだった。年末の忙しない空気も、街に流れるジングルベルも、全部、遠い国のことみたいにしか思えなかった。銀行の外回りで取引先に向かう途中、どうしても家の前を通らなければならない日があった。俺は、下唇を噛み、視線を斜め上に逸らして、歩いた。あのマンションの三階、その一室に、まだ、見守りカメラはある。クローゼットの上、天井近くから、空っぽの寝室を見下ろし続けている。

それでいい。あのカメラは、誰かの帰りを、静かに待っているのだ。

第10章 離婚後に痩せやつれた妻が合鍵で現れた部屋で水着の写真を手に懺悔し続けろと告げる

第10章のシーン

第10章: 離婚後に痩せやつれた妻が合鍵で現れた部屋で水着の写真を手に懺悔し続けろと告げる

十二月の日曜日、午前十一時を少し過ぎた頃だった。俺は銀行の休日当番を終えて、スーツのままマンションの一室にいた。正確には、かつて俺たち夫婦が暮らしていた、あの三階の部屋だ。十二月の陽射しは白く乾いていて、カーテンを閉め切ったリビングにも、その輪郭だけが薄く滲んでいた。空気は冷え切っていて、床に立っていると、革靴の底からコンクリートの冷たさが這い上がってくる。荷物の整理というには、すでに何も残っていない部屋だった。ソファも、テレビも、食器類も、有紗の実家が引き取った。残っているのは、エアコン、備え付けの家具、それから、寝室に置いたもの。引っ越し業者が来るのは明日の午前だ。最後の確認に寄っただけだった。

本当は、来なければよかったのかもしれない。だが、財布の中に入れっぱなしだった合鍵が、いつの間にか、俺の指先で温まっていた。この部屋を、もう一度、何の感情も持たずに、ただの箱として見届けたかった。そういう気持ちが、ないと言えば嘘になる。けれど、結局、俺が向かったのは、リビングでも、キッチンでもなく、閉まったままの寝室のドアだった。

ドアノブは、手のひらに吸いつくほど冷たかった。回す。金属の小さな音。開いた瞬間、部屋の中の空気が、ふわ、と流れてきた。それは俺の知っている匂いではなかった。二人で暮らしていた頃の、柔軟剤と、有紗の肌の匂いが混ざった、甘くて微温い空気。そんなものは、とっくに消えていた。代わりに、誰もいない部屋独特の、乾いた埃の匂い。それだけだ。壁紙の青みがかった白さが、正午前の光を淡く跳ね返していて、それがかえって、この部屋の空虚をくっきりと浮かび上がらせているように見えた。

足を踏み入れる。フローリングが、わずかに軋んだ。ベッドはもうない。カーテンも外されていて、窓ガラスが裸のまま、十二月の空を映している。クローゼットの上を見た。いつかの見守りカメラは、もう回収されていた。俺が離婚手続きの途中で探偵に頼んで、回収してもらったのだ。天井近くの壁紙に、カメラを固定していた名残のような、ごく薄い跡がある。指で触れてみる。なにも感じない。こんなものか。あんなに俺の人生をひっくり返した装置が、消えてしまえば、ただの擦り傷にも似た跡だけを残す。それが、なんだか妙に滑稽だった。

サイドチェストだけが、ぽつんと残っていた。幅六十センチほどの、白い木製のチェスト。有紗が、確かどこかの雑貨屋で買ったものだ。引き出しは空だった。開けてみる。指先に木の粉のような感触。閉める。音が、部屋に沈んだ。その上に、一枚の写真が立てかけられていた。いや、立てかけられていた、のではない。俺が、今、そこに置いたのだ。スーツの内ポケットから、封筒に入れたまま持ち歩いていた、あの写真。沖縄の海。白い砂浜。有紗の水着姿。隣で笑う俺。サイドチェストの上で、あの写真は、かつて真ん中にあった。そして俺が、わざと、左端に置いた。

馬鹿なことをしている。自分でも分かっていた。写真の向こうの俺は、何も知らずに笑っている。八ヶ月前の異変など、知る由もない顔だ。その隣りの有紗も、まっすぐに視線を向けて、健康的な肢体を惜しげもなく陽の光に晒して、幸福そうに目を細めている。こんなにも、なにもかも、遠くに行ってしまった。

玄関のドアが、外で音を立てた。

俺は写真から指を離した。耳を澄ます。下の階で誰かが水道でも使ったのかと思ったが、違う。錠前に金属が差し込まれる音。かちり。かちり、と、二段階のロックが外れた。誰かが、合鍵で、この部屋の玄関を開けている。俺は振り返った。寝室のドアから、リビングを斜めに見通す。玄関の扉が、ゆっくりと内側へ開いていく。隙間から、十二月の白い光が、廊下の床を薄く伸びていった。その光の中に、細い黒い影が入ってきた。有紗だった。

俺は息を止めた。いや、自然に、呼吸が浅くなっただけかもしれない。有紗は、玄関を入って、俯いたまま、静かに靴を脱いでいた。栗色のロングコート。黒いタートルネックのセーター。グレーの膝丈スカート。黒タイツ。黒いショートブーツ。かつての有紗なら、家に入るとき、必ずコートを脱ぎながら、ちょっとした笑い声を立てて、俺の名を呼んだものだ。だが今の彼女は、無言だった。マフラーを解く指も、どこか覚束なく、白く細くなっている。髪は一つに結んでいた。昔から、落ち着いた色の、上品な服を好む女だった。けれど、こんなにも沈んで見えるのは、服の色のせいだけではないはずだった。

有紗が、顔を上げた。目が、リビングの奥、寝室のドアの前に立つ俺を捉えた。大きく見開かれる。唇が半開きになり、白い息が、口元から零れた。化粧は、ほとんどしていない。薄い口紅だけ。肌は、かつてのようには白く濁らず、うすべったい紙のような艶消しに変わっていた。頬がこけている。目の下の窪みが、光の加減で、青黒く見えた。有紗は、その場に立ち尽くした。手に提げていたショルダーバッグが、肘のあたりで、小さく揺れている。

「……和明」

有紗が、呟いた。その声は、俺の記憶の中にある彼女のそれよりも、ずっと低く、掠れていた。

「なんで、ここに」

俺は言ってから、しまった、と思った。もっと冷たく、事務的な声になるはずだった。だが、喉の奥から漏れたのは、困惑のほうだった。なにしろ、合鍵は弁護士を通じて回収したはずなのだ。なぜ、まだ持っている。その問いを、俺の唇が、別のかたちで吐き出した。有紗は、しばらくの間、俺を見つめていた。長い睫毛が、小刻みに震えている。それから、ゆっくりと、首を横に振った。

「……ごめんなさい。荷物を、取りに来たの。もう一度だけ、来たかったの」

有紗の声は、ぼろ布を引き裂くようだった。潤んでいる目。唇の端が、無理に笑みのかたちを作ろうとして、失敗している。ああ、そうか。有紗は、俺のいない時間を見計らって、この部屋に来るつもりだったのだ。俺が今日、ここにいるとは、思ってもいなかったのだろう。俺だって、今日ここに来るつもりは、つい数時間前までなかった。明日、業者が来る。最後の確認。そんな些細な用事の重なりが、俺たちを、同じ箱の中に閉じ込めた。それが、なんだか、神様の意地悪みたいだと思った。

「荷物なら、もう残ってない」

俺は、絞り出すように言った。

「実家に送ってある。お前も、よく知ってるだろ」

「……うん」

有紗が、小さく俯いた。白い首筋が、タートルネックの上で、折れそうなほど細い。ふと見ると、左手の薬指に、指輪の痕が、うっすらと窪んでいる。指輪を外してから、それなりに時間が経つはずなのに、その痕だけが、まだ生活を、俺たちの、ここにあった二年間の、名残のように残っていた。目を逸らした。胸の奥ではなく、もっと浅い、目蓋の裏のあたりが、ちり、と灼ける。

有紗が、靴を脱いだ。すでに履物は脱いでいたはずなのに、もう一度、つま先で床を確かめるように、コツコツと小さな音を立てる。それから、裸足のままでフローリングへ上がった。黒タイツの足先が、床を踏む。一歩。もう一歩。近づいてくる。空気が、少しだけ動いた。香水の匂い。微かに、甘く、青い、昔の香水と同じ香り。だが、その下に、身体を洗っていないわけではないのに、なにか、生乾きの洗濯物みたいな、冷たい生活の匂いが混じっている。俺は動けなかった。背中に、寝室の冷たい空気を感じている。有紗が、三歩ほど手前で、足を止めた。

「……見ないうちに、瘦せたな」

自分でも、なにを言っているのか分からなくなった。有紗が、はっと顔を上げる。涙が一筋、右の目尻から、こめかみのあたりを伝って、髪の生え際へ消えた。有紗の右手の指が、コートの前立てを、ぎゅう、と握った。骨の浮いた指。折れてしまいそうな手首。そのすべてが、昔の彼女ではない。いや、昔の彼女が、こんなにも壊れたかたちで、俺の目の前に立っている。その事実だけが、心臓の下あたりを、錆びた釘で刺していく。

「……前より、ぜんぜん、元気ないじゃないか」

俺は言った。皮肉でもなんでもない。ただ、そのままの言葉だった。有紗が、下唇を噛む。首を振る。振るたびに、結んだ髪の先が、肩の上で揺れた。耳の前に落ちた後れ毛が、汗ばんでいるのか、頬に張りついている。

「和明、お願い。聞いて。わたし、やっと、話せるの。あの日のこと。あの、カメラの、なかにいた、わたし。ほんとうの、わたし。ちがうの。あれ、ちがうの。聞いて。お願い」

有紗の声が、続けざまに、壊れた蛇口みたいに溢れてくる。俺は背を向けた。頭の中が、じん、と冷えている。怒りでも、悲しみでも、もっと遠い、真っ白な寒さ。それなのに、目蓋の裏では、あの十月の夜の、明々と灯された寝室の光景が、音を連れて蘇ろうとしていた。有紗の肌。有紗の嬌声。三人の大学生。水着の写真。あの映像は、俺の脳を、何度でも灼き直す。この女が、今、なにを言っても、なにを嘆いても、あの映像の上に、音が重なるだけだ。俺は寝室へ戻った。サイドチェストの前まで。後ろから、有紗の裸足の足音が、あとを追ってくる。

「……来るな」

振り向かずに言った。声は、低く、壁に染み込むようだった。足音が止んだ。代わりに、有紗の、細くしゃくり上げるような呼吸だけが、背中に絡みついてくる。十二月の部屋の中は、息が白く濁るほど冷えていた。俺は、サイドチェストの上の写真を手に取った。ガラス越しに、指先の温度が、写真の中の二人へ、わずかに伝わっていくようだった。水色の海。白い砂。水着の有紗。隣りで笑う俺。そう、この写真を、俺はいま、持っている。この、左端に置いた写真を。あの夜、真ん中から左端へ、数センチだけ位置がずれていた、あの写真立ての中の、大事な、二人の写真を。

「有紗」

俺は振り返った。有紗が、寝室の入り口に立っていた。コートを脱いでいない。黒いセーターの上からでも分かるほど、胸のあたりが、薄い。豊満だった乳房の重みが、今は、重力だけが、彼女の全身を下へ引っ張っている。目が、写真を追っていた。俺の手の中で、フレームの嘘みたいな透明さが、窓からの光を、きら、と反射させる。俺の指が、写真の上に、影を落としていた。

「これでも、お前は、やっぱり違うの、と言うんだな」

俺は静かに、写真を、有紗のほうへ、そっと差し出した。突きつける、ではなく、手のひらの上で、見えるように。有紗の目が、写真の中の、あの笑っている自分の顔を捉えた。次の瞬間、有紗の顔から、残っていた最後の色が、音を立てて消えた。唇が開き、喉が鳴り、銀色の糸のような唾液が、顎の内側に光る。大きな瞳が、みるみる潤んで、零れる。鼻の奥が赤くなって、眉が、へし折れるように寄っていく。

「ちがうの。ちがうの。和明。あのね、あの夜だけ。あの人たちと、そうなったのは、あの夜だけだったの。それまでの飲み会の夜も、やっと出張から帰ってきた夜も、みんな、あの子たちは、すごく優しくて、話を聞いてくれて、でも、わたし、あの夜、どうしても……」

「だから、なんだ」

俺の声が遮った。自分でも、こんなに鋭い声が出るなんて思わなかった。有紗が、びくりと肩を竦めて、一歩、後退る。かかとが、寝室の入り口のレールに当たって、こつ、と軽い音がした。十二月の冷気が、裸足の足の裏から二人の間に立ち昇る。俺の指先は、もう震えていなかった。あの夜から、ずっと、何かを握り潰して凍らせてきた男の手だ。写真のフレームの角が、俺の指の腹を、硬く、冷たく、押し返している。

「お前に、なにか理由があったとしても、俺には関係ない。お前が、誰と、どんな気持ちで、なにをしてきたかなんて、俺は知らない。知りたいとも思わない。俺の人生は、お前が、三人の男に、はい、そうです、ってひれ伏したあの日から、終わってる。それだけだ。あの言葉を、お前は、この写真に向かって言った。この、お前の顔に向かって。お前の、笑ってる、水着の写真に向かって。なあ、有紗。お前、あのとき、確かに、自分で言ったんだぞ」

有紗が、床に崩れた。膝から、折り畳まれるように、へな、と落ちる。腿の上に、細い身体を丸めて、両腕で、自分の肩を抱いた。コートの裾が、フローリングの上に、だらりと広がる。黒いタイツの膝頭が、床の上で、小刻みに揺れていた。そこから先は、なにもかも、二人きりだった。外の風が、窓を唸らせて通り過ぎる。遠くで、昼のサイレンが、街を横切る。俺の手にある写真の中の有紗だけが、十二月の寒さとは無縁の、あの、夏の白い光の中にいて、ずっと前を向いている。

「……心があるなら」

俺の口から、言葉が零れた。自分で考えてから口にしたのではない。あの十月の夜から、ずっと、どこか暖かい場所で燻っていた言葉が、今、唇のかたちを借りて、外へ、出ていった。

「この写真に、あのときのように懺悔しつづけろ」

有紗が、顔を上げた。涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃの顔。目は、焦点が、あっていない。俺を見ているようで、俺の向こうの、とても遠い場所を見ている。唇が震えて、声になる前の、ひゅっ、ひゅっ、という空気の音が、喉の奥から漏れている。

「お前が、あの夜、三人に犯されて、それでもあの子たちを求めてたこと。この写真に向かって、旦那のオチンポより気持ちがいいって叫んでたこと。それを、全部、これから先、この写真に、ひとりで、話しつづけろ。毎日でも、毎晩でも。もう誰にも、見てもらえなくても。俺は、聞かないから。お前の中だけで、あの夜を、お前の声で、お前の言葉で、洗い直してみろ」

有紗の口が、言葉もなく動いた。なにかを言おうとして、息だけが、白く、唇から逃げていく。私は、なにも、言う資格すら、あるのか。その目が、そう言っていた。いや、あるわけがない。あったとしても、俺が、聞く耳を持っていないだけだ。それでも、俺は、あと一言、言わなければならないことがあった。

「それで、お前が、人と話せるくらい、まともになったと思う日が来たら。そのときは、弁護士を通してでも、なにでも、好きにすればいい。俺は、いない。ずっと。いないから」

言い切って、写真を、サイドチェストの上に、元のように置いた。いや、俺は、わざと、真ん中ではなく、左端に、静かに触れさせた。ガラスの縁が、木の天板に触れる音。冷たくて、小さな音。あの日、帰宅した俺が、なにも知らずに、少しだけ居心地の悪さを感じた、あの位置。有紗が、あの夜、大学生の男に背中から抱かれる前に、自分の指で、左端へずらしたであろう、あの位置。今、俺は、もう一度だけ、その場所へ、思い出を返したのだ。俺の記憶の中の有紗と、目の前の有紗。二人とも、ここに置き去りにして、俺は、行く。

「……和明」

有紗が、消え入りそうな声で、俺の名を呼んだ。だが、俺の足は、もう、返事をしなかった。振り返らず、リビングを抜け、玄関で、脱ぎっぱなしだった革靴を拾った。靴紐を結ばず、そのまま、足の甲を押し込む。踵が、ひやりとする。ドアを開けると、十二月の廊下の空気が、ひときわ冷たく、首の後ろを撫でた。後ろ手にドアを閉めた。厚い金属の板が、俺の背中と、有紗との間を、静かに断ち切る。中の音は、もう聞こえない。泣き声なのか、吐息なのか、それすらも分からない。

エレベーターに乗った。箱が下りていく間、俺は、壁に寄りかかって、自分の両手を見た。写真を、確かに、左端へ置いた。はずなのに、指先が、かすかに震えている。誰もいない鏡の裏の壁に、俺のスーツの、濃紺色の腕が映っていた。指先の感覚だけが、あの冷たいガラスをまだ掴んでいる。一階へ着いて、扉が開いた。マンションの外に出ると、十二月の乾いた風が、頬を、平手で打つように横切った。空は、薄い水色の、あたたかみのない青。陽は真上に近いのに、光の粒が、一つひとつ、粉雪みたいに冷たかった。

俺は、五歩ほど歩いて、立ち止まった。一度だけ、振り返った。白いマンション。三階の、あの部屋。カーテンのない窓が、日差しを反射して、何かを、しばらく見せまいとしている。有紗の姿は、なかった。いるはずなのに、見えない。見えなくていい。目を逸らして、駅のほうへ向かって、歩き出した。マフラーはない。コートもない。スーツのポケットに、財布と、スマホと、家の鍵。それから、あの封筒。さっきまで写真が入っていた、白い長形の封筒。俺は、それを、歩きながら、手でぐしゃ、と握り潰した。紙の感触が、冬の空気の中で、やけに確かだった。

携帯が、ポケットの中で、一度だけ震えた。たぶん、有紗だ。出なかった。バイブ音が、太腿を伝って、消える。それから、もう一度。震えて、消える。俺は、左手でポケットの上からスマホを押さえて、足を速めた。十二月の町は、日曜日の正午を、ゆっくりと噛みしめるみたいに、静かに光っていた。どこかの家の窓から、煮物の匂い。どこかの商店から、焼き芋の甘い香り。生きている町の匂いが、俺の周りを、通り過ぎていく。俺は、その中を、なんの匂いも持たない男のように、まっすぐ駅へ向かって歩いた。振り返らない。心は、もう、あの写真の、左端の位置に、置き去りのままだ。

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読み終えたあとの余韻に。

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登場人物
  • 持留和明 もちどめ かすあき
    男性 ・ 35

    外見: 黒髪短髪、濃茶の瞳、中肉中背。服装: ネイビーのスーツに白シャツ、地味な柄のネクタイ。奥手で真面目な地方銀行員。妻を姫のように扱い、クンニを好む。

  • 持留有紗 もちどめ ありさ
    女性 ・ 31

    外見: 黒髪ロング、焦茶の瞳、白いもち肌で豊満な胸。服装: リネンのシャツにフレアスカート、エプロン。元銀行員。明るく身持ちの固い性格。大学生に堕ちていく。

  • 細マッチョの大学生 ほそまっちょのだいがくせい
    男性 ・ 20

    外見: 茶髪マッシュ、黒い瞳、細身の筋肉質。服装: Tシャツにジーンズ、パーカー。淡々と主導する演出家気質。

  • 浅黒い大学生 あさぐろいだいがくせい
    男性 ・ 20

    外見: 黒髪刈り上げ、黒い瞳、浅黒い筋肉隆々の体格。服装: 白いTシャツにショートパンツ、サンダル。アナルの変化を口にする観察者。

  • 撮影する大学生 さつえいするだいがくせい
    男性 ・ 20

    外見: 長めの前髪、茶色の瞳、中肉。服装: パーカーにカーゴパンツ、スマホを手に。撮影と言葉責めを楽しむ悪戯っ気の人物。

  • 和明の上司 かすあきのじょうし
    男性 ・ 42

    外見: 白髪交じりの黒髪、暗い茶の瞳、やや痩せ型。服装: グレーのスーツに薄いブルーのシャツ。バツイチ独身。聞き役に徹する地方銀行の上司。

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