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旅先の酒の勢いで知り合った地元男性の巨根に貫かれ私の理性は一晩で崩れ去った

不倫/浮気 / 人妻/主婦 全5章 約56分で読了(27,604字) 短編 2026年9月8日

あらすじ

結婚十年目の主婦・下川恵は、たまにランチに行く友人・高村和江と二人で九州旅行に来ている。夕方から繁華街の居酒屋で飲み始め、和江が「良い男見つけて遊ぼうか」と提案する。恵は驚きながらも酒の勢いで期待が芽生える。和江が地元の男性グループに声をかけ、同年代の男たちと四人で飲むことになる。いつの間にか自然にカップル状態になり、恵は一番体格の良い男性と二人きりで向かい合って飲む。酔いでふわふわした気持ちになり、男性の腕に触れたくなる衝動を覚える。店を出る頃には脚がもつれ、男性に支えられるように外に出る。ネオン街の灯りがまぶしく、非日常の感覚が恵の理性を溶かしていく。旅館の窓から見える灯りが遠くに揺れている。

第1章 旅のはじまりと出会い

第1章のシーン

第1章: 旅のはじまりと出会い

夕暮れがゆるやかに街を包み始めた頃、私と友達の高村和江は繁華街の小さな居酒屋に腰を落ち着けていた。九州の旅先で訪れたこの街は、どこか懐かしいような、それでいて見知らぬ土地のざわめきに満ちていて、その空気が肌にまとわりつくたびに、日常から切り離されていく心地がした。

和江は手慣れた様子で焼酎の水割りを注文し、私もそれに倣う。ふだんは缶チューハイを一杯あけるかどうかという程度なのに、旅先の高揚感が、するすると喉を通す酒の量を増やしていた。氷のからんと鳴る音が、妙に耳に心地よくて、そのたびに肩の力が抜けていくのを感じる。

「恵ちゃんさあ、たまには羽目を外さないと」

和江が、グラスを傾けながらそう言った。目が少しだけ細められて、いたずらっぽい光が灯っている。この友人は昔から行動的で、男女の出会いにも積極的なタイプだった。ランチをしながら、そんな話を聞かされるたびに、私はただ笑って聞いているだけだったけれど、今日は様子が違う。

「この街、けっこういい店も多いし、地元の男の人たち、感じいいのが多いんだよね。ちょっと声かけてみようよ。ね、恵ちゃん。今日くらい、いい男見つけて遊んでみない?」

和江の声は軽やかで、まるで明日のランチの相談でもするような調子だった。私は一瞬息をのんで、それから曖昧に笑った。

「え……。そんなこと、できると思ってなかったから……」

「できる、できないじゃなくて、やるかやらないかだよ」

和江はそう言うと、もう店の中を見回し始めている。私はそっと手元のグラスを見つめた。薄く琥珀色の液体の中で、氷がゆっくりと溶けていく。夫のことを思い出していたわけではなかったけれど、胸の奥のほうで、かすかな痛みのようなものがひりついた。

結婚して十年になる。夫の卓也とは、恋愛の末に結ばれたわけではなく、職場で知り合って自然に一緒になった。真面目で仕事熱心な人で、休日も家で資料を読んでいるような姿を何度も見てきた。寝室ではお互いに義務のような営みをこなすだけで、ここ数年はそれさえも減っていた。この旅に出る直前も、夫は仕事に追われていて、私のいない数日間を気にする素振りさえ見せなかった。

それが不満だったわけではない。ただ、夫の不在というものをこんな形で意識するとは思ってもみなかった。家のなかではいつも一緒にいたはずなのに、心のなかにはいない。そんな感覚が、酒の酔いに滲んで広がっていく。

「あ、あの人たちいいじゃない?」

和江の声に顔を上げると、彼女はもう立ち上がっていた。視線の先には、三十代後半くらいの男性が二人、奥のテーブルで静かに飲んでいる。がっしりした体格の男性と、細身で眼鏡をかけた男性。和江は迷うことなく二人のほうへ歩いていき、軽く手を上げながら声をかけた。

「すいませーん、ちょっと一緒に飲みません? 私ら、東京から旅行で来てるんですけど、この街のおいしいもの教えてほしくて」

そのあっけらかんとした物言いに、男性たちも最初は戸惑っていたようだけれど、やがて少しだけ口元を緩めて、席を詰めてくれた。和江は当然のように細身の男性の隣に腰を下ろし、私は自然と、もう一方の男性と向かい合うかたちになった。

その男性は、肩幅が広くて腕もたくましい。顔立ちも整っていて、口数は少なそうだけれど、落ち着いた雰囲気をまとっていた。黒い瞳が静かに私をとらえて、ほんの少しだけ口の端を持ち上げる。

「……よかったら、どうぞ」

低くて響くような声だった。私はどきりと胸が鳴って、慌ててお辞儀をした。

「あ、ありがとうございます。下川です。よろしくお願いします」

自分がこんなに動揺している理由がわからなかった。旅先だから、酒が入っているから、それだけではない。目の前に座っている男性の存在そのものが、私のなかの静かな帳を、そっとめくっていくような感覚があった。

それから、四人での酒盛りが始まった。和江はさすがに慣れたもので、細身の男性――名前は坂口というらしい――とすぐに打ち解けて、楽しそうに話し込んでいる。私の前の男性は、名刺も出さなかったけれど、話をするうちに、この街で生まれ育った地元の人間だとわかった。

「旅行で来られたんですか。珍しいですね、こんなところに」

「友達が、どうしても行きたいって言って。私は、ついてきただけなんです」

「そうですか。でも、いい街でしょう。夜になると、あっちのほうに小さな温泉もあるし」

男性の指が、窓の外をさらりと指し示す。つられて目をやると、確かに遠くのほうに、ぽつぽつと温かな色の灯りが見えた。旅館の明かりだろうか。それとも住宅の明かりか。橙色のにじんだ光が、夜の闇のなかでゆらゆらと揺れていて、それが妙に心に染みた。あの灯りのひとつひとつに、誰かの日常が詰まっている。けれど、いまの私には、そのどれもが手の届かない、遠い世界のように感じられた。

「きれい……」

思わず口に出してから、恥ずかしくなって下を向く。男性は黙って、私の横顔を見つめているようだった。視線が肌に触れる。刺すようなものではなく、じんわりと熱を帯びた、不思議な感触だった。

酒がさらに進むと、私のなかの何かが少しずつ溶けていった。ふだんなら絶対に口にしないような話も、和江のリードに乗せられて、するすると出てくる。夫のこと、家のこと、退屈な日常のこと。男性は相槌を打ちながら、静かに聞いてくれた。時折、私のグラスに焼酎を注いでくれて、そのたびに指がかすかに触れ合う。その感触が、くすぐったいような、ぞくぞくするような感覚を腕の内側に走らせた。

いつの間にか、和江と坂口さんはすっかりいい雰囲気で、二人の世界に入り込んでいる。私と男性も、自然に二人だけで話すようになっていた。

「下川さんは、普段あんまりお酒を飲まれないんですか」

「あ、はい。今日はこんなに飲んだの、久しぶりで……ちょっと、ふわふわしてます」

「顔、赤くなってますよ。かわいいですね」

さらりと言われて、私はますます頬が熱くなった。心臓が早鐘のように打ち始めて、鼓動が耳の奥にまで届いてくる。夫以外の男性に「かわいい」と言われる機会なんて、ここ数年まったくなかった。それが、こんなに胸をざわめかせるなんて。

「そんな……。もう、三十四ですし……」

「三十四? ぜんぜん見えないですよ」

男性が微笑む。その目尻に浮かぶ細かな皺が、かえって落ち着いた色気を漂わせていた。私はもう、まともに顔を見ることができなくて、手元のグラスをいじるばかりだった。

店のなかには、焼き鳥の煙と甘いたれの香りが立ちこめていて、ときおり、隣のテーブルからどっと笑い声が上がる。カウンターでは店主が手際よくおしぼりを絞っていて、その水音が耳に届くたびに、現実と非現実の境目がぐにゃりと歪むような気がした。夫のことを考えればよかったのかもしれない。けれど、頭の片隅では、卓也の顔がどうしても浮かばなかった。浮かぶのは、家の壁にかかった時計の、秒針の音だけ。あの無機質で冷たい音が、遠い場所でかちかちと刻まれている。

私はふと、旅館の窓から見えた灯りを思い出していた。あの灯りは、きっと誰かの帰りを待っている。けれど、いまの私には、待つ相手もいなければ、待たれる覚悟もなかった。ただ、この夜のなかで、少しだけ違う自分になってみたい。そんな願望が、酒の酔いにまぎれて胸のなかに広がっていく。

和江が、隣で坂口さんに肩を寄せて笑っている。私は男性のほうへ、ほんの少しだけ身を乗り出していた。近づくと、彼のシャツから微かに香る洗剤の匂いと、汗ばんだ肌の匂いが混ざり合って、鼻腔をくすぐる。その匂いが、なぜだかとても心地よくて、もっと近くで嗅いでみたいと思ってしまった。

「そろそろ、店を出ませんか」

男性が静かに言った。私はこくりとうなずく。立ち上がろうとして、足がもつれた。酔いがまわって、床がゆるやかに傾いている。

「あ……すみません」

「大丈夫ですか」

男性の手が、さっと私の腕を支えてくれた。がっしりとした掌が、肘のあたりを包み込む。その感触があまりにも確かで、私は一瞬息を止めた。筋肉のついた腕に、思わずしがみつきたくなる。夫の細い腕とはまるで違う、骨太で頼りがいのある腕だった。

「ありがとうございます。ちょっと、ふらついちゃって……」

「ゆっくりでいいですよ。俺の腕につかまってください」

男性が少しだけ腰をかがめて、私に腕を差し出した。私は遠慮がちに、その腕に手を這わせる。布越しでもわかる、熱を帯びた体温。手のひらの下で、筋肉の線がかすかに動く。

和江と坂口さんはもう店の外に出ていて、私たちもそれに続いた。外に出ると、湿り気を帯びた夜風が頬をなでた。繁華街のネオンが、あちこちで毒々しいまでに輝いていて、その光がアスファルトに反射して揺れている。遠くに見えていた旅館の灯りは、もうこの通りからは見えなかった。代わりに、無数の人工の光が、夜の闇を切り裂くように瞬いている。

私は男性の腕にしがみつくようにして歩きながら、胸の高鳴りを押さえられずにいた。これから何が起こるのか、どこへ連れて行かれるのか。本当はわかっていたのに、わからないふりをしていた。夫の顔が、頭の隅でかすかに浮かびかけては、すぐに消えていく。かわりに、耳の奥で、あの秒針の音がかちかちと鳴り響いて、それが少しずつ、少しずつ遠ざかっていく。

「この先に、いいホテルがあるんです。一緒に行きませんか」

男性の声は、驚くほど静かだった。私はうつむいたまま、何も言えずに、ただ腕にしがみつく力を強めた。それが、返事の代わりだった。うなずくことも、拒むこともできなかった。ただ、身体が勝手に、彼のぬくもりを求めていた。

夜の街は、私たちを包み込むように、その灯りを揺らめかせていた。旅先の夜はまだ、始まったばかりだった。

第2章 第2章:路上の口づけとホテルへ

第2章のシーン

第2章:路上の口づけとホテルへ

「恵ちゃん、楽しんでる?」

和江の声が、耳の奥で妙に遠く響いていた。店を出てからずっと、彼女は隣で何か喋り続けていたはずなのに、私の意識はまるで水面に浮かぶ油膜みたいに、彼女の言葉を滑らせては弾いていた。ううん、違う。弾いていたんじゃない。ぜんぶ、あの人の気配に吸い寄せられていたのだ。

男の人が、私のすぐ左側を歩いている。それだけで、空気の粘度が変わってしまう。肩が触れそうで触れない距離、歩幅がふた呼吸ほどずれるたびに、彼の肘が私の二の腕をかすめる。そのたびに、腕の産毛が逆立つような、くすぐったい痺れが走った。指先が、制服のブラウスの裾を無意識にきゅっと握る。手のひらには、いつのまにかじんわりと汗がにじんでいた。夜の繁華街を彩るネオンの赤や青が、アスファルトに落ちては滲み、まるで魘される直前の夢みたいに輪郭を失っていく。

「ねえ、聞いてる?」

和江が顔を覗き込むようにして、私の目をじっと見つめた。茶色のショートヘアの先が、夜風にふわっと浮いて、彼女の耳元で遊んでいる。この子はいつも、自分のペースで世界を回してしまう。私はそれに乗っかっているだけで、ずっと楽をしてきた。楽をして、はぐらかして、ほんとうに欲しいものからは目を逸らして。なのに、いま自分のとなりで黙って歩く男の熱だけは、どんなに逸らしても視界の隅で燻り続けている。

「……ごめん、ちょっと酔いが回って」

声が、思ったより掠れていた。自分の喉から出た音なのに、誰か別の女が喋ったみたいな甘ったるい響き。和江は一瞬だけ目を細めて、それから芝居がかった溜め息をついた。

「あんたね、今日くらい羽目外しなさいよ。毎日まじめに生きすぎ。ほら、せっかく良い男捕まえたんだから、楽しまなきゃ損じゃん」

そう言って彼女は、私の腕にするりと手を絡めて、前方を歩くもう一人の男のほうへ歩調を速めた。連れ立って店を出た四人のうち、和江とその相手は、まるで息を合わせるように雑踏の奥へと吸い込まれていく。後ろを振り向きもしない。あの背中の軽やかさが、いまの私にはまぶしくて、同時に薄情にも見えた。だって、あなたが置いていこうとしている私の手を、この人が取ったら、もう後戻りできないのよ。

「……行こうか」

低い声が、肩口に落ちてきた。

声の高さも、間の取り方も、私の身体に染みる場所を正確に知っているみたいに、すっと奥へ入ってくる。返事はしなかった。代わりに、夜風に冷えた指先が、無意識に彼の指に触れた。触れたというより、探った。冷えた皮膚と、熱い皮膚がゆっくりと重なって、彼の太い指が私の指を優しく折り曲げるようにして絡まってきた。骨ばっていて、硬くて、ごつごつしていて、それでいてひどく繊細な力加減で。ただそれだけのことが、私の膝を笑わせる。

手を引かれるようにして、通りから一本、脇道に逸れた。

ネオンの洪水が嘘みたいに遠ざかって、街路灯の白い光がぽつん、ぽつんと等間隔に浮かぶ路地へ入る。人通りは急に絶えて、舗道には二人分の影が長く伸びていた。革靴の底がアスファルトを擦る音と、私のスニーカーの柔らかな足音が、壁に反響して絡み合う。昼間ならなんてことのない、古い雑居ビルの裏通り。なのに、彼と歩いていると、空気に甘い毒が混ざっているみたいだった。電線が夜空を縫って、月が見えない。遠くで「カラオケ」の看板がぱちぱちと瞬いて、その度に視界の隅が赤く染まる。

「今日は、楽しかった?」

不意に、男が訊いた。その声は、からかっている風でも、探っている風でもなく、ただ静かに確かめるような音だった。

「……はい。みんなと居るの、久しぶりで」

「そうじゃなくて」

彼は足を止めずに、私のほうをちらりとだけ見た。坊主に刈り上げた頭が、街灯の下で銀色に縁取られて見える。ジャケットの肩が、呼吸のたびに山みたいに持ち上がって、男の身体の厚みが布の上からでも分かってしまう。

「俺と居て、楽しいかって聞いてるんだ」

耳の奥が、かっと燃えるように熱くなった。

視線を落とすと、二人の靴先が不格好なリズムで並んでいるのが見えて、それになんだか無性に泣きたくなった。夫と歩くとき、私の目線はいつも三歩先の地面にあった。求めてもいないのに、自然と足並みを合わせて、二歩下がった場所で黙っていた。いまも、同じことをしている。そう気づいた瞬間、彼の手を握る力が強くなった。自分のものなのに、勝手に。勝手に、離したくないと叫んでいた。

「……はい。楽しい、です」

最後のほうは、夜風に横から攫われて、きちんと音にならなかったかもしれない。でも彼は、満足そうに口元だけを緩めた。

そのとき、不意に彼が足を止めた。

心臓が、喉のすぐ下で跳ねた。路地は静かすぎて、エアコンの室外機が低く唸る音と、私たちの呼吸だけがやけに大きく響く。彼が絡めていた手をほどき、空いた腕を私の背中に回した。腰のすぐ上、指先が薄いブラウスを通して背骨のくぼみに触れる。ひんやりした外気と対象に、その掌だけが病的に熱い。私は下唇を噛んで、石だたみに根が生えたみたいに立ち尽くした。

「こっち、あっ…」

彼の身体が近づいてくる。視界いっぱいに、黒いジャケットの胸元が迫って、鼻先に汗と香水の混ざった匂いが漂う。閉じた瞼の裏で、街灯の光がちらちらと瞬いた。来る、と分かったのに、指一本動かせない。

「ん……ぅ」

柔らかな、それでいて執拗な口づけが降ってきた。最初は、確かめるように下唇を食む。唇と唇のあいだにぬるい空気が挟まって、それが驚くほどいやらしい音に変わる。唾液の音を、頭のどこかが拾っている。彼の舌先が、唇の内側をゆっくりとなぞった後、そのまま熱い口腔内に入り込んできた。ぬるりとした肉の感触が上顎に触れて、背筋から尻の奥まで、一気に痺れが駆け下りる。

「は……っ」

鼻から抜ける吐息が、情けないほど艶を帯びていた。口のなかを彼の舌が蹂躙しながら、節張った親指が私の耳の裏をゆっくり撫で上げる。触覚が、壊れた蛇口みたいに全開になっていた。ぬるぬると粘りつくような舌の温度、顎を固定するように添えられた厚い手の力、唾液が混ざり合うときの、ちゅぷ、という粘性のある水音。どれもが私の身体の奥に直結していて、下腹のあたりが、しくしくと疼きだす。

夫の唇は、いつも乾いていた。

皮がめくれていて、触れ合うたびに微かな痛さがあった。けれどこの人の唇はちがう。湿っていて、熱くて、私の呼吸を根こそぎ奪いながら、もっと奥へ入ってこようとする。そんな人に初めて触れてしまったら、駄目になる。直感にも似た怯えがあったのに、私の爪先は無意識に彼の靴を踏みそうなほど近くに寄っていた。身体全体が、逃げる理由を手放した。後頭部に回された手が、髪を撫でる。その指の感度ばかりが異様に高まって、彼の指紋の凹凸さえ分かる気がした。

唇が離れたとき、自分の口元と彼の唇をつなぐ銀色の糸が、街灯の光を受けてはらりと切れた。

口のなかに、男の味が残っている。

「……かわいいよ」

低い声が、鼻先で笑う。返す言葉を探したけれど、舌はしびれて上手く回らず、代わりに、湿った呼吸が洩れるだけだった。誰かに見られているかもしれない。そう思うのに、壁と彼の身体に挟まれて、逃げ場のないこの熱を確かめることで頭がいっぱいだった。瞼を開けると、彼の黒い瞳が、薄暗い路地のなかで光を盗んで光っていた。この人は、はじめから分かっていたのだ。私がこうなることを、分かっていて、笑っている。

「……やらしい声」

「ちが、ぁ……」

違う、と否定したかった。でも、違わないことを、私の太腿のつけねが、じくじくと訴えている。閉じた腿の奥、ショーツが張りつく場所。さっきの口づけの途中から、恥ずかしいほど湿っているのを感じていた。下着の布地が、濡れた皮膚に吸いついて、歩くたび、身動ぐたびに、ぬるっと滑る。それは紛れもなく、私の身体がこの人を欲しがっている証拠で、そんな事実を熟れた果実みたいに自覚させられた。

「……いこ」

彼は有無を言わせない声で言うと、私の腰を引き寄せた。私は逆らわなかった。逆らう力なんて、最初から持ち合わせていなかった。

歩き出した並木道の向こうに、ぽつんと品のない明るさのビルが見えた。白い外壁に、オレンジ色の間接照明が淡く当たっていて、そのコントラストが妙に浮いていた。一階の入り口には、枯れかけの観葉植物が置かれていて、自動ドアの上にだけ「HOTEL」という文字が控えめに光っている。街並みに溶け込もうとしているのか、隠れようとしているのか分からないその佇まいを見た瞬間、私の心臓は、否応なく高鳴った。

──嘘でしょう。

そう思ったのに、足は止まらなかった。

むしろ、彼の腕のぬくもりに体を押しつけるようにして、わずかに歩幅を広げている自分がいた。逃げられない恐怖と、それと同じ重さで、解放への期待が身体じゅうを巡っていた。二つの感情が、酔いのなかで溶け合って、とろとろになったシロップみたいに甘い。心のどこかで、夫の名前を探した。探して、見つからなかった。胸の中にあるはずの「つま」という分厚い本の背表紙が、アルコールで墨の滲んだ紙みたいに、繊維ごと崩れてぐずぐずになっていた。

自動ドアが音もなく開き、空調の冷たい風が首筋をなでた。

フロントに人影はなかった。カウンターの上に小さな呼び鈴が置かれていて、淡い照明がその銀色を無意味に眩しく照らしている。彼は迷うこともなくエレベーターへ向かう。慣れた足取りだった。その背中に一瞬、夫以外の男と何度もこの場所へ来たことのない自分が、場違いな生き物みたいに思えた。

エレベーターの扉が閉まると同時に、視界がぐるりと回る。彼の大きな手が私の肩を壁に押しつけ、背中から冷たい鏡面が衣服を通して肌に刺さった。息を吸う間もなく、再び彼の唇が降ってくる。さっきよりも深く、骨ばった指が私の顎を上向かせ、舌が歯列をこじ開けるように入り込んできた。口腔の隅、上顎の裏、歯茎の付け根まで、ぬらぬらした先端が探るように這い回る。水音が、狭い箱のなかでやけに大きく反響して、そのすべてが自分の口から溢れている水音だと思うと、耳まで火が点いたように熱くなった。

「ん……ふぁ、んん……」

拒むための唇が、いつの間にか応えている。自分の舌が、彼の舌に巻きついていく感覚がある。歯が当たって、それがいやらしくて、でももどかしくて、もっと深い場所を求めている自分がいた。くちゅ、ぐちゅ、と湿った音が二人の唇の隙間から蜜みたいに溢れる。太腿を閉じると、ショーツの布地がぬるりと動いて、その感覚が一層、腰を震わせた。

エレベーターの駆動音が、低く、遠い海鳴りのように響いている。

上昇しているのか、沈んでいるのかも分からない。誰もいない静かな箱のなかで、私と彼だけが深い水底へ降りていくようだった。

「……部屋、着いた」

耳のすぐそばで、低く囁く。私は彼の肩にすがりつきながら、こくりと頷いた。頷くという意思表示が、とても重大な契約のように思えた。でももう、二本の足で立つ力すら残っていない。彼の腕に身体を預けるようにして、視界ににじむ廊下の明かりを、ひたすら白い影として追いかける。カーペットの柔らかさに足を取られ、そのたびに彼の体へ激しくもたれてしまう。彼は黙って、私の腰を支えてくれた。その無言が、よけいに恥ずかしくて、同時に、もう何もかも許してくれたみたいな、不思議なあたたかさがあった。

カードキーが差し込まれ、ドアが開く。閉め切った空気がむわりと肌に触れた。シーツを洗った洗剤の匂いと、他人の体温の名残みたいな微かな甘さが混ざって、鼻の奥をくすぐる。彼が壁のスイッチを押すと、枕元のダウンライトだけが薄橙色に灯った。

部屋は、外のけばけばしいネオンから切り離されたみたいに静かだった。薄暗く、窓ぎわのレースのカーテンがわずかに揺れ、ブラインド越しの街灯が白い光を線状に落としている。中央のベッドは広く、糊のきいた白いシーツがピンと張られていて、それを覆う枕が二つ。その清潔すぎる光景が、かえってこれから起こることを生々しく際立たせた。誰かが磨き上げたシーツを、汗と体液でぐちゃぐちゃに汚す。その想像が鋭い刃のようになって下腹部を刺し、私は入り口の壁にたたずんだまま、床をじっと見つめていた。

「…、後悔してる?」

振り返った男の声は、静かだった。黒い瞳が、薄明かりのなかで、私の顔をまっすぐに見下ろしている。その視線の重さに、胸の奥が苦しくなった。後悔しているかと聞かれれば、している。夫の顔が、一瞬だけ脳裏をよぎった。だけど、それと同じだけ、またあの唇に触れてほしかった。このまま帰してもらえたとしても、私の下腹は彼の熱を覚えたまま、夜通し熱を冷ませない。

私が何も答えずにいると、彼は一歩だけ近づき、私の手首を軽く握った。手首の骨ばった内側を、親指でゆっくり撫でながら。

「答えないなら、勝手にしていいってことだね」

その言いぐさは、乱暴なくせに妙に優しくて、私は彼の顔を見上げた。泣き出しそうだった。理由も分からない涙が、まつげのつけねから滲みあがってくる。謝りたいのに、気持ちよくしてほしい。気持ちよくなりたい。でも、誰よりも、この男にめちゃくちゃにされたい。はらわたの奥から込み上げる声が、頬を熱くさせた。

「……して」

私の口が勝手に動いていた。

それ以上、何も言えなかった。言おうとした唇は、再び男の唇に塞がれてしまった。身体がふわりと浮いて、背中がベッドに沈む。しなるスプリングが、みしりと淫らに軋んだ。弾んだマットレスの上で、ジャケットの胸元に包まれるように男が覆い被さり、彼の太ももが私の太もものあいだに割り込んでくる。

「あ……っ」

彼の大きな掌が、ブラウスの上から左の乳房を包んだ。反射的に腰が浮く。布越しなのに、彼の指の形がひとつひとつわかってしまう。胸の脂肪をゆっくりと持ち上げるように揉まれ、先端のふくらみを親指で押しつぶされるたび、じん、と痛いような甘いような痺れが、背中を駆け上がる。下着のなかで、乳首が硬くしこっていく感覚が、恥ずかしいほど自覚できた。

夫の手は、こんなふうじゃなかった。

卓也が私の胸を触るのは、夜の営みの順番として、果たすべき手順のひとつでしかなく、いつもすぐに離れていった。もどかしくて、寂しくて、触れてほしくてたまらない場所に、彼の手が届いたことは、何度あっただろう。この男は違う。私の身体が何を欲しがっているのか、服の上から確かめるように、指先がゆっくりと腫れあがった乳首の周りを円を描く。わかっている。わかられている。

「乳首、ぴんぴんに立ってる」

「……や、言わないで……」

「イヤらしいな。奥さんのここ、触ってるだけでブラウスに滲みそうだ」

その言葉が、鼓膜をなぞるたびに、胸の奥が溶けてしまう。子宮のあたりが、きゅう、と切なく波打った。もう片方の手が、スカートの裾を這い上がってくる。太ももの外側から、内側へ。ぬる、とした指先が膝から腿のつけねをゆっくりと滑り、そのたび、肌がぴりぴりと泡立つ。

自分で買った、無難な黒のストッキングが恥ずかしかった。夫と歩くための、目立たない、無難な素材。それがいま、男の指先に撫で回されるためだけの薄い膜に変わっている。破れないで、とも思うのに、破ってしまえばいい、とも思う。破られて、剥かれて、その下から、夫にさえ見せたことのない場所を暴いてほしい。そうすれば、私はもう、自分を誤魔化さなくて済む。

男の指が、ついに、スカートの奥のいちばん熱い場所へ触れた。

ストッキング越しに、下着の上から、指先の腹が割れ目に沿ってゆっくりと押し込まれる。ぐちゅ、と、自分の愛液が布地に擦れる音。耳を塞ぎたくなるほど下品なのに、その音が自分の体の内側から響いているのを感じて、私はシーツを握った。濡れている、自分でもわかる。下着もストッキングも、みっともないほどじっとりと湿っていて、その場所だけが、まるで熱帯の花みたいに蒸れている。

「すごいな。下着の中までぐちゅぐちゅだ」

「……いわ、ないで、ぇ……」

「降りるか? いまなら、まだ、帰れるぞ」

彼が動きを止めて、私の目を見た。くちびるを半開きにして、彼の指先に集中していた私の腰が、はしたなく揺れる。行き場をなくした熱が、内腿を伝い、膝を震わせる。彼の顔は、この期に及んでひどく真剣で、その瞳が私に最終確認をしているのだとわかった。

「……お願い」

紡いだ声は、泣いていた。

「帰らない……このまま、めちゃくちゃにして……私、……っ」

語尾は、自分の口からもれた微かな嬌声に飲まれて、闇のなかに溶けていった。

私はもう、夫のいない旅先の夜を知っている。この人の指の形を、舌の熱を、肌の匂いを知っている。それが正しくないと叫ぶ正気はまだ残っているのに、いちばん淫らにぬめる部分だけが、夫以外の男を待ち望んでいた。部屋の空気が、さっきよりもさらに熱い。男の手が、私のストッキングの腰ゴムに掛かり、ゆっくりと、その薄い膜を下ろしていく。

窓の外で、街灯の白い光が、犯されるのを待つシーツに、細く鋭く落ちていた。

第3章 初めての夫以外

第3章のシーン

第3章 初めての夫以外

窓の外では、旅館の灯りが夜露に滲んで、青白い玉のように揺れていた。障子の桟がつくる細い影が、畳の上をゆっくりと横切り、部屋の空気までもがひっそりと息を潜めている。あの男の指が、スカートの裾からするりと入り込んできたのは、ちょうどそんな時刻だった。

ストッキング越しに、ナイロンのつるりとした冷たさを押し上げて、節の太い指が私の中心をなぞる。ただそれだけのことなのに、秘裂のあたりはとっくにどろりと重たく濡れていて、その指が動くたびにくちゅ、くちゅ、と陰湿な水音が上がった。あられもない、という言葉では到底追いつかないほど、その響きは淫らに耳へ飛び込んでくる。私は思わず目を閉じ、唇を噛みしめ、首を横へ捻って彼から視線を外した。だが、どれほど顔を背けても、身体の芯に棲みついた疼きだけは、どうしても誤魔化せなかった。閉じた瞼の裏で、暗い血潮がどくどくと波打っている。頬の内側まで燃えるような羞恥と、腰の奥でひたひたと満ちていく期待とが、一つに溶けてぐるぐると渦を巻いていた。

男は低く、満足そうに息を吐いた。その吐息が耳のすぐ後ろに落ちて、首筋の産毛がさあっと逆立つ。

「こんなに濡らして……本当は、したいんだな」

問いではなく、確信だった。私の身体がすでに答えを出してしまっていることを、この男は指先で読んでいたのだ。違う、違うの、私は夫がいる、こんなこと、と思えば思うほど、膣は浅ましく収縮して、侵入者であるはずの指をきゅうっと締めつけた。もうその段階で、私の裡では夫の影がゆらりと揺れ、そして音もなく遠ざかっていくのを感じていた。

社交辞令のような前戯だけの夜が、十年も続いた私たちの寝室。手探りで触れられ、決まった順番になぞられ、達したかどうかすら確かめ合わないまま終わっていく行為。それに慣れきった私の身体をいま、他人である男の指が、まるで別の生き物の芯にまで火を点けるみたいに解し開いていく。背徳が、罪悪感が、その炎によりいっそう油を注いでいた。

彼の両手が、私のストッキングと下着を一息に膝まで引き下ろした。内腿を冷たい夜気が這い、そこだけ切り取られたように温度が変わる。露わになった割れ目から、とろりと重たい蜜がしたたり、しっとりと湿った太腿を伝って、シーツの上へ落ちる気配があった。男の手のひらが膝裏に触れ、ゆっくりと私の脚を開かせる。抵抗するには、残っているはずの理性が、遠くで首を振っているのがわかった。でも指は、もうシーツを掴んだままで、身体は素直に彼の前で門扉を開いていく。

ブラウスのボタンが、ひとつ、またひとつと外されていく。衣擦れの音は、耳もとでさっと静かに鳴って、白い肌が間接照明の光にさらされていく。男の視線が、私の全身を舐めまわしている。卑猥だとか、恥ずかしいだとか、そんな型通りの言葉では言い表せない生々しい光が、瞳の奥でちろちろと燃えていた。その視線だけで、乳首は薄布の下でぷつりと粒立ち、乳房の先端から痺れが背骨を伝って腰へ落ちる。ブラジャーだけを残してブラウスを肩から剥ぎ取られ、スカートも中途半端に足首へ絡まったまま、私はほとんど裸体に近い格好でベッドの上へ横たわった。

男が覆いかぶさってくる。筋肉の張った胸板が、私の横たわった身体のすぐ上に影を落とす。男の着ているシャツの繊維が、私の臍のあたりをかすかに摩って、それだけであそこがひくんと蠢いた。首筋に、彼の厚い唇が押し当てられる。熱い。まるで熱病の塊を押しつけられたような温度だった。その唇が、耳たぶを、顎の線を、鎖骨の窪みをたどって、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら胸の谷間へ移動していく。男の舌は鮎のようにぬめって、思うがままに私の肌を舐め分けた。ガーゼを剥がすみたいに、私のささやかな抵抗が一枚ずつ剥がれていく。

ブラジャーの上から膨らみの輪郭を舌で確かめるように、男の熱い舌先がゆっくりと弧を描いていく。布越しに硬く立ち上がった乳首へ、唇が吸いついた。ぬちゅ、という淫らな吸啜音が、密やかな部屋に響いて、私の身体がびくんと跳ねる。彼は私の反応を楽しむように、軽く歯を立て、舌先で布を押し込み、下にある肉を甘く捏ね回す。電流が横切り、その鋭さに息が喉へ詰まる。

「あっ……んん……は……ぁ……」

漏れ出た声は、自分でも驚くほど濡れそぼっていて、恨みがましくていやらしい。夫の卓也は、一度だってこんなに長く私の胸を吸ったことなどなかった。いつもの決めた手つきで胸元をまさぐり、機会があれば吸うとしても、そこにはいつも「次の段階へ進むための動作」という無機質さがあった。けれど、この男の愛撫はちがう。舌先を私の乳首に巻きつける動きだけで、私の全身と、あの一番深い場所がしっとりと融かされていく。

男は器用に片手でブラのカップをずり下げた。冷たい夜気と、熱い視線と、唾液に濡れた蕾が同時に露出する。男の唇が、ぱくりと先端を食んだ。

「あう……っ!」

乳首を中心に、焼け火箸を押し当てられたような、それでいて切なく甘やかな熱が、ぎゅっと下腹の奥へ突き抜ける。男の舌はぐちゃぐちゃに濡れそぼった先端をぬらぬらと這い回り、たまに転がすように、また吸い上げるように、私の弱い場所だけを正確に責めてくる。れろ、れる、ちゅる、ぬちゅ。音の一つ一つが、私のなかに溜まっていく。あそこが、蜜で溢れて、じんじんと疼いて、布団を汚してしまうほどの濡れ方をしているのが、脚を閉じてもわかるほどだった。

恥ずかしさに耐えきれず、閉じようとした両膝を、彼の手がゆっくりと断ち割るように押し開いた。下着を奪われた後、露わになった陰裂が、夜気と視線のあわいにさらされる。想像以上に濡れていることを、まざまざと目の前に突きつけられて、私は死にたくなるくらい恥ずかしかった。だけど、隠したいと思う気持ちとは裏腹に、蜜はとろりと溢れて、くぱ、と小さく息でも吸ったみたいに入口が開いた。

「すごく綺麗だ。中まで、ちゃんと見せて」

低く、しかし有無を言わせぬ響きの声だった。そのまま太い肩を私の両脚のあいだへ割り込ませ、男の顔がそこへ落ちていく。だめ、言いたい。見ないで、恥ずかしい。そう思うのに、舌先が陰裂に触れた瞬間、言葉は全部ひくりと喉で死んだ。

「ひああっ……!?」

ぬるくて、ざらついて、それでいてぬめった舌の平が、濡れた縦筋を根元から舌先まで一気に舐め上げる。ぞわぞわと背中を駆け上がった感覚に、腰が浮き上がり、シーツが引き攣る音がした。口で激しく吸いつかれ、火照った内襞にぬちゃぬちゃと舌を突き入れて、内側から溶かすみたいに舐め回す。音が、部屋中に満ちる。私自身の浅ましい蜜と、男の唾液とがぐちゅぐちゅと混ざり合う、官能的で、どこか残酷な響き。

「あっ……ああ……そこ、ちが……あああっ」

やめさせなければ。こんなふうに舐められて、夫でもない男の口で、あそこをぐちゃぐちゃにされていい人間じゃない。頭のどこかで、女としての倫理が叫んでいる。けれど、身体はすでに幸福へ羽撃こうと震えていて、膣は舌の侵入にむしろ媚びるように、くぱくぱと浅ましいほど開閉を繰り返した。

「んぁ……あっ……はぁん……!」

背骨が浮き上がり、つま先が丸まる。彼の舌が、尖らせた先端をびくびくと震える肉芽へ撥ねつけ、ちゅっ、と吸い上げる。視界の端で、星が散った。思考が全部、遠い夜のなかへ消えていく。気がつくと、私の両手は男の坊主頭を抱え込み、自分の腰を勝手に浮かせて、もっと深く舐めて、とねだっていた。まるで発情した雌そのものだった。誰のものかもわからない荒い息が、喉笛を震わせる。夫以外の男に、初めてあそこを口で愛撫されて、快感で頭が沸騰している。なのに、もっともっと奥まで暴いてほしいと思ってしまっている。

「もっと……おく……あてて、ください……」

音にした瞬間、涙がこめかみへ伝った。それはもう、理性の敗北というより、私自身の裡にずっと閉じ込めてきた淫らな本性が、夜の静けさのなかで一斉に解き放たれていく瞬間だった。私は、夫以外の男の唇に、いちばん恥ずかしい場所を押しつけて、泣きながら腰を揺らしていた。

ややあって、男がゆっくりと顔を上げた。口のまわりから顎へかけて、私の蜜がてらてらと銀色に光っている。その下品な照りを拭うふうもなく、彼は薄く笑んで、私の目をじっと射抜いた。それから音を立ててベルトを外し、ジーンズの前をくつろげる。じゃら、という金具の音は、この夜のなかで一番いやらしい音に聞こえた。下着の膨らみが目の前に晒される。その形だけで、尋常ではない質量を帯びていることがわかって、心臓がみぞおちを叩く。

下着から引き出された男の肉棒を、私はしばらく呼吸も忘れて見つめた。燭台を思わせる怒張を、先端から根元までどくどくと脈打たせながら反り返っている。大きい、太い、熱そうだ。その三点だけが頭のなかを駆け巡り、私のなかに収まるはずがない、という不安と、それに貫かれたいという倒錯した願望が同時に膨れ上がった。夫のものとは、驚くほど違う。毎晩のように見ていたわけではないけれど、あの人のはもっと穏やかで、肉感的な暴力性とは無縁のものだった。目の前のこれは、ぬめりを帯びた先端が意志を持った生き物のようにそそり立ち、私のすべてを喰らい尽くす勢いで脈打っている。

「こんなに……大きいの……」

声に出して初めて、自分が彼の男根を直視しているのだと気づいて、耳まで熱くなる。男は私の右手をとって、そっと自身へ導いた。指を触れた瞬間、その表面の熱さにぎょっとする。内包された血液が、ここまで熱いのかと驚くほどで、浮き出た血管のいやらしい凸凹が指の腹を滑る。握ってみると、満月のように重く、脈動が手のひら全体にずしん、ずしんと響く。こんなものが、私のなかに入ってきたら、もしかしたら身体が裂けてしまうかもしれない。そう思うのに、腹の奥は淡い期待と恐怖に痺れて、ぐしょぐしょの入口がひくひくと待ち遠しげに痙攣する。夫以外との性交という大罪が、ほんの数秒ほど先に迫っている。

「お前を、めちゃくちゃにしてやる」

男が、掠れた声でささやいた。私の脚を大きく左右に開かせ、怒張した先端をひどく濡れそぼった秘裂へ押し当てる。ぬちゅり。生々しい粘液が絡まる水音がして、亀頭が、私の入口をゆっくりと割り開こうと食い込んでくる。ごつ、ごり、と骨と肉とが押し合うような圧迫感が、尾てい骨へ響いた。

「あ……あああ……!」

挿入は、絶望的なまでにゆっくりだった。太すぎる肉茎が、私のなかを無理やり拡張しながら進んでくる。膣壁の一点一点が、彼の形に押し負けて、内側から裂けていくような痛みと灼熱。褥瘡でも起こすみたいに、肉と肉とがずるり、ずるりと擦れ合い、私の蜜が入口で泡立って溢れる。く、く、と喉が鳴り、視界のにじむ先で、私の腹のあたりだけが膨らんでいるような錯覚さえあった。夫のときは、こんなにも時間をかけて、私のなかを暴かれることなどなかった。するりと滑り込み、物足りないまま律動が終わっていくのが常だったのに。いまは一ミリ進まれるたびに、私の内側に爪で引っ掻き傷を刻まれているみたいで、痛みの中に決して融けない悦びの核があった。

「全部、入ったぞ。わかるか、お前の奥に当たってる」

男の声は、獣の呼吸と紙一重の低さになっている。彼の怒張が、私の子宮の入り口を圧迫している。その熱い塊が、私のなかで脈打ち、ぐちゅ、とひどく湿った音を立てる。その鼓動を、あたかも内臓のすぐそばで感じるようで、犯されている、という実感が否応なく全身を這い回った。夫以外の男を、しかもこれ以上ないくらいの剛直を、私はいま、自分の膣で咥え込んでいる。

「あ、あ……すご、い……これ、奥……とどいてる……」

子宮口が、彼の亀頭に吸いつくのとは逆に、突き上げられて悲鳴を上げていた。男が少し腰を引く。それだけで、膣内の肉襞が残らず裏返りそうになって、私の口から「ああっ」と間の抜けた声が溢れた。彼が私の反応を確かめるように、また静かに押し込む。くちゅ、ぬぷ。淫水の音と、内側で肉が裂けるような粘つきとが混ざり合い、いやらしいほど丁寧な一往復が、私の息を止めさせた。

「動くぞ」

宣言と同時に、腰を打ちつけられた。

「ひ、あああっ!?」

最初の一突きで、目の奥に電光が弾けた。ぐちゅん、という下品な音が股間からほとばしり、その瞬間、太いペニスが一番深い場所を抉じ開けて、子宮の入り口をかち上げた。骨が軋み、肉が絡まり、蜜が泡立って溢れていく。ベッドのスプリングが、外の夜が明けるまで止まらないかもしれない、と思うほど激しく、男の律動に合わせて悲鳴を上げる。彼は私の脚を肩へ担ぎ、さらに深い角度から私を貫いた。ぱちゅん、ぱちゅん、と肌がぶつかり合う音。ずちゅ、くちゅ、ぬぷ。猥猥しい水音が規則的に重なって、部屋の隅々まで、私のよがり声と絡み合っていく。

「あ、あっ、ちが……あ、あああ……! きもち……いい……!」

脚の内側が、流れ落ちた愛液と汗で濡れ光っている。男は私の太腿のつけ根を強く掴み、時々わざと腰を止めては浅いところを亀頭でぐりぐりと捏ねた。そのたびに、快感のありかが散らばって、どこを突かれても「ああ」としか言えなかった。膣の中は、もうあなたの形に縛られっぱなしで、内壁が男根をくわえ込み、引き抜かれるのを拒むみたいに絡みついた。

「お前のなか、ぐちょぐちょで締めつけてくる。俺のを、ちゃんと覚え込もうとしてる感じだな」

嘲笑うように、だけど熱っぽくささやかれ、私は首を横に振りかけて、けれどその言葉が股間へ染みるのを止められなかった。覚え込まされている。夫のものとは比較にならない、この暴力みたいな肉棒の太さと律動を、いま私の内臓は刻んでいる。この夜が終わっても、私の身体はこの男の形を、忘れられなくなる。そう思うと、涙よりも早く、底知れない快感が下腹部から競り上がった。

「も、むり……や……あ、あっ、ああああ……!」

突き上げの間隔が短くなり、ぬぷぬぷ、ずちゅずちゅと、粘液の音が畳みかける。彼の腰は止まらず、浅い場所を素早く擦りながら、私の弱い襞を集中的に攻め立てる。夫との営みでは遠く霞んでいた絶頂が、いまははっきりと、この男の剛直の先で花開こうとしていた。膣口が紐のように締まり、肉襞が何度も細かく震え、身体が熱のなかでほどけてしまう。

「来るぞ、お前の中、奥に出してやる。……受け入れろ」

低い声が、私の鼓膜から全身へ染み込んでくる。彼が深く腰を突き入れて、亀頭を私の子宮口に押し当てた。その瞬間、ぐぽん、という水音がひと際大きく響き、内腹をどん、と熱い塊が貫いた。子宮口をこじ開けられるような、快楽と圧迫とが同時に爆発して、目の前がちかちかと明滅する。

「あ、あ、ああああっ――!」

自分とは思えない、低く、長い鳴き声が喉のずっと奥から溢れ出た。彼の精液が、どくっ、どくっ、どくっ、と脈打って、私の子宮口を濡らしていく。火の玉みたいに熱くて重い飛沫が、奥の襞をひとつひとつ舐めるように染みわたっていった。夫はいつも早々に終えてしまうか、最後を外へ漏らすかで、私の奥へ注がれること自体がほとんどなかった。けれど、いまこの男は、私という器のいちばん底まで、種を沁み込ませるようにして射精している。お腹の中が、他人の熱で満たされていく。その感覚が、背徳という名の甘い毒になって、私の全身を痺れさせた。

荒い息を繰り返すたびに、閉じきれない入口から、男の精液と私の蜜とがぐちゅ、くちゅ、と音を交えて溢れていく。腹の奥では、まだ彼が微かに脈打っている。私の膣は、男根を咥えたまま、何度も小さく不随意の痙攣を繰り返した。全身の力が抜けて、指先から足先まで、溶けた砂糖菓子みたいに弛緩していく。

乱れた濡れ髪が額に張りつき、汗ばんだ首筋が夜気に冷やされ、下肢から漂う精液と愛液の匂いが、薄闇のなかでぐんと濃くなる。その生々しい自分の匂いさえ、いやらしくて、甘ったるくて、嗅いでいるだけでまたうっとりしてしまう。

これは、夫以外の男に貫かれた身体の跡だ。戻ろうと思えば、隣にちゃんと帰る家はある。けれど、このぬるつく快楽の残骸を洗い流すことも、身体の奥に残る彼の形を薄れさせることも、今はしたくなかった。窓の向こうの灯りが、ひどく遠い。その奥には私の帰るべき日々が眠っているのに、私の身体はもう、この熱い男の重みと、底の知れない肉欲の夜に、すっぽりと浸されてしまっていた。

そして、私は知ってしまったのである。自分の膣が、夫のものでは届き得なかった場所を、こんなにも欲しがっていたのだと。その事実は、彼の剛直を失った今も、私の腹の奥でくすぶり続けていた。この夜が明けたら、また何食わぬ顔で日常へ戻るつもりでいた。だが、まだ半ば開いた私の唇は、次の熱をねだるみたいに、言葉のない吐息をもらしていたのだった。

第4章 狂おしい夜

第4章のシーン

第4章: 狂おしい夜

絶頂の余韻が、まだ子宮の奥で小さく痙攣を繰り返している。ぐったりとシーツに沈み込んだ私の胸は荒く波打ち、閉じた睫毛の裏で間接照明の淡い光が揺れていた。膣のなかには、さっき放出されたばかりの精液がどろりと溜まっていて、その生温かい重みが内壁にじわりと染み込んでいく。夫以外の――これほどまでに熱く濃い精を、私は生まれて初めて身体の奥で受け止めたのだという戦慄が、快楽の残滓とともに背筋を這いあがってきた。

けれど、それなのに。

私の右手は、まるで別の生き物のように、ゆっくりと男性の下腹部へと這っていった。指先が触れたのは、まだ硬さを失っていない肉棒の根元だった。どくどくと脈打つ血管の震えが、手のひらにじかに伝わってくる。さっきまで私のなかでこれほど激しく暴れていたものなのに、こうしてそっと握り返すと、絹のように滑らかで、それでいて芯に宿った熱だけが凶暴なまでに主張していた。

「……触っても、いいですか」

自分からそんな言葉が口をついて出たことに、私は自分でいちばん驚いていた。夫にこんなことを尋ねた記憶は一度もない。いつも向こうが求めてきて、私がそれに応じるだけの営みだったのに、いま私は、ついさっき初めて肌を重ねたばかりの男性に、もっと触りたい、もっと確かめたいとねだっている。

男性は少しだけ目を見開き、それから喉の奥でくつりと笑った。

「触るだけじゃ、たぶん満足できないぜ」

その声には優しさと同時に、あきらかな嗜虐の色が滲んでいた。男の掌が伸びてきて、私の後頭部をそっと包み込む。指が髪のあいだに差し込まれ、ぐっと押しつけるような力が加わった瞬間、私の顔は自然と彼の股間に近づいていった。鼻腔をくすぐるのは、汗と、微かな石鹸の残り香と、そしてなによりもむせかえるような雄の匂い。その生々しい体臭が、なのに妙に甘ったるく脳の芯を痺れさせて、私は思わず深く息を吸い込んでしまった。

ゆっくりと顔を寄せると、亀頭の先端がぷっくりと膨らんでいて、尿道口からは透明な液がとろりと滲み出している。私はそっと舌を伸ばし、ちゅ、と音を立ててそこに口づけた。ぬるりとした粘液の味が舌の先に広がり、わずかに塩辛くて、けれどなぜだかもっと舐めたいと思わせる味だった。

「んっ……ちゅ……ちゅぷっ……」

思いきって舌の平で亀頭の裏筋をなぞりあげると、男性の腰が小さく跳ねた。れろれろ……と唾液をたっぷり絡ませながら全体を舐めまわすうちに、口のなかで肉棒がさらに硬く膨張していくのがわかる。くちゅくちゅと卑猥な水音が、私の口元から絶えまなく響いてきて、その音さえもいまはむしろ心地よかった。

「あんた……うまいな、ほんとに初めてかよ」

男性の声には驚きと、そしてあからさまな悦楽が滲んでいる。そんなふうに褒められると、下腹のあたりがきゅっと疼いて、もっともっと気持ちよくさせたいという衝動が湧きあがった。私は大きく口を開け、亀頭を咥え込むと、頬の内側をすぼめながらゆっくりと奥まで飲み込んでいく。ずりゅ……ぬぷ……と淫らな水音が喉の奥で鳴り、口蓋いっぱいに男性の熱が広がって、息がつまりそうになる。苦しいのに、その苦しささえも陶酔に変わっていく。

「ん……んぐっ……ちゅぷ……れろ……」

頬の内側で竿の部分をきつく締め付けながら、私は必死に舌を動かした。亀頭の先端を舌先でくすぐり、根元まで含んではまたずるりと引き抜く。口の端からは抑えきれない唾液がつうっと顎をつたって、胸元にまで垂れ落ちていった。こんなはしたないことをしている自分なのに、心のなかは不思議なくらい満たされていて、むしろもっと汚されたい、もっと彼のものになりたいという欲求だけがどんどん膨らんでいく。

男性の手が、私の頭を押さえつける力を徐々に強めていった。腰が小さく突きあがってきて、肉棒の先端が私の喉の奥をこつんと叩く。そのたびに喉の粘膜がひくついて、オエッというような反射が起きるのに、それすらも愛しく感じられた。

「そろそろ、出すぞ……。そのまま飲めるか」

私はもう、首を大きく縦に振っていた。飲みたい、この人の精を私のなかに取り込みたい。そんな衝動が理性を完璧に塗りつぶしていく。男性の腰の動きが一気に速くなり、ずりゅずりゅと連続的な水音が部屋に響き渡った。私の膣の奥が、それに呼応するようにきゅうきゅうと締まって、自分の蜜が太腿を伝ってシーツに染みを作っていくのがわかる。

「んぐっ……ん、んんん……!」

どくんっ、どくんっ、と喉の奥で肉棒が爆ぜる感触があった。熱くて苦い液体が、口のなかいっぱいに広がっていく。思わず咳き込みそうになったけれど、私は懸命に喉を鳴らして、こくこくとそれを飲み下した。どろりとした粘液が食道を落ちていく感覚が、まるで彼そのものを身体に取り込んでいるようで、胸のなかがじんわりと熱くなる。

男性がゆっくりとペニスを引き抜くと、口の端から精液が一筋こぼれ落ちた。私は指先でそれをそっとぬぐい、何のためらいもなくぺろりと舐めとる。しょっぱくて、少しだけ苦くて、でもなんだかとてもいとおしい味だった。

「……すごかった。あんた、やっぱり初めてなんかじゃないだろ」

男性が息を整えながら、苦笑まじりにそんなことを言う。私はただ首を横に振って、ぐったりとシーツに身を沈めた。口のなかにはまだ、精液の残り香がまとわりついている。けれど、身体の芯はまだちっとも満たされてはいなかった。いや、むしろさっきよりももっと、もっと奥のほうを突き上げられたくて疼いている。

そんな私の様子を見透かしたように、男性の指が再び私の太腿の内側を這いあがってきた。ぐっしょりと濡れそぼった秘部に指先が触れるやいなや、ぐちゅり、と粘つく水音が鳴る。

「まだ全然足りねえんだろ。ここ、さっきよりずっとぐちょぐちょじゃねえか」

返す言葉もない。あれほど激しく貫かれたばかりなのに、膣のなかは新しい蜜を溢れさせて、まるで次の挿入を待ち焦がれるようにひくついている。男性は覆いかぶさるようにして、私の耳のすぐそばでささやいた。

「今度は、ついてこいよ。遠慮なんかすんな」

そう言うが早いか、男性は私の両脚を抱え上げ、一気に最奥まで突き入れてきた。ぬぷううっ、と肉厚な音を立てて、さっきよりもさらに深い場所まで肉棒が沈み込んでいく。

「ひあっ……! ふか、すぎ……ああっ!」

膣のなかを無理やり押し広げられるような圧迫感と、子宮口をこじ開けられるような衝撃とが同時に襲ってきて、目の前が白く弾けた。ベッドのスプリングがぎしぎしと耳障りな音を立て、それにかき消されないほどに、私の口からはあられもない嬌声が迸る。

「あ、あ、ああっ! すご、きもち……おく、あたって……!」

二度目だというのに、身体はもう完全に彼の形になじんでいて、しかも奥まで届くたびに、さっき膣内に放たれた精液がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立ててかき混ぜられているのがわかった。夫との営みでは一度も感じたことのない、ぬめるような潤滑と、それでいてきつく締まる摩擦の快感。私の膣はもう、夫以外の味を覚えてしまったのだ。そんな事実が頭の片隅でちらつくのに、いまはもう何もかもがどうでもよくなるくらい、ただただ気持ちよかった。

「ああっ、あっ……だめ、もう、おかしくな……あ、ああっ!」

「イけよ。イくところ、ちゃんと見せてくれ」

男性の腰がさらに加速し、ぬぷぬぷ、ぐちゅんぐちゅんという音が途切れることなく響き渡る。私は無我夢中で彼の首に腕を回し、汗ばんだ背中に爪を立てた。膣の内壁がぎゅうぎゅうと痙攣し始め、もう自分では制御できないほどに締まりが強くなる。

「あ、イく……イっちゃ……ああああっ!」

どくん、どくん、とまたあの熱いものが子宮口に叩きつけられる感覚と同時に、私のなかで何かが弾けて、身体じゅうが総毛だった。膣が勝手に収縮を繰り返し、男性の精液を一滴残らず搾り取ろうとしているみたいだった。荒い息を繰り返しながらぐったりとしていると、ぬるりと肉棒が引き抜かれる感触があり、そのあとに、どろっ……とした精液の塊が太腿をつたって落ちていった。

けれど、まだ終わりではなかった。

数分も経たないうちに、男性は私の身体をひっくり返し、四つん這いにさせていた。背後からずっしりと覆いかぶさられ、尻たぶに硬く勃ちあがった亀頭が押しつけられる。

「今度は、後ろからだ。ちゃんと尻、突き出して」

私は言われるがままに、ぐっと腰を浮かせた。自分がいまどんな恥ずかしい格好をしているのか、鏡がなくてもありありと想像できる。それなのに、はやく突いてほしいと膣口がひくつき、愛液がぽたぽたとシーツに滴り落ちていた。

男性の手が私の腰骨をがっしりと掴み、次の瞬間、ずぶうううっ! と今までにないほど深く、奥まで一気に貫かれた。

「んあああああっ……!」

枕に顔を押しつけても、声が抑えきれない。バックからの挿入は、さっきまでとは比べものにならないくらい深く、子宮の入り口をこじ開けて、さらにその奥まで届いているかのようだった。男性の腰が前後に動くたびに、ぐぽん、ぐぽん、と空気と愛液の混ざりあった下品な音が響き、ぶつかるたびに私の尻たぶが彼の下腹部にぱちんぱちんと弾かれる。

「あ、ああっ……ふか、すぎ……あ、あ、あ……!」

私はもう、言葉にならない声をあげ続けるしかなかった。快楽の波が絶えまなく押し寄せてきて、イっているのかイっていないのかもわからないような状態がずっと続く。頭のなかは真っ白で、ただ突き上げられるたびに身体が跳ね、膣が勝手に締まってしまう。旅館の灯りも、夫の顔も、罪悪感も、すべてが遠くのほうに霞んでいった。いま、この世界に存在しているのは、私の膣を蹂躙する大きなペニスの感触と、そこから生まれる絶頂の連鎖だけだった。

「あ……も、だめ……わたし、もう……」

どれだけの時間が経ったのか、私の意識はもう途切れ途切れだった。何度イかされたかもわからない。ただ、最後のほうはほとんど気を失いかけていて、それでも腰だけは淫らに動かしつづけていたらしい。男性が満足して引き抜いたあとも、私の膣はしばらくのあいだひくひくと蠢いていて、どろりどろりと精液が後から後から溢れ出てくる始末だった。

私はもう、身動きひとつできずに、シーツのうえでただ荒い息を繰り返していた。汚れたシーツの感触も、汗で肌に張りついた髪の気持ち悪さも、すべてがどうでもよかった。むしろ、いまはこのぐちゃぐちゃに汚れた状態こそが、自分のなかでいちばん正直な姿なのだと思えた。遠くのほうで、窓の外の灯りがちらついている気がしたけれど、もうそれを確かめることさえできずに、私の意識はすうっと暗闇のなかに沈んでいった。

第5章 朝の余韻と日常への帰還

第5章のシーン

第5章: 朝の余韻と日常への帰還

瞼の裏で、淡い光が揺れている。まだ閉じたままの目蓋越しに、朝の気配がじんわりと滲み込んでくるようだった。私はゆっくりと意識を浮上させながら、全身を包む怠さと、下腹のあたりでまだ燻るような疼きに、ぼんやりと息を吐いた。シーツの感触が汗ばんだ肌にまとわりついていて、昨夜の記憶が少しずつ輪郭を取り戻してくる。

隣で、静かな寝息が聞こえていた。私はおそるおそる首をめぐらせて、男性の寝顔を盗み見る。がっしりとした肩がシーツから覗いていて、規則正しく上下する胸板に、昨夜あれほど激しく動いていた同じ身体なのだと思うと、妙に胸がきゅうとなった。閉じられた瞼の線は存外に優しく、口元も少しだけ緩んでいて、眠っている姿はなんだか無防備だった。

私はそっと視線を逸らせた。頬のあたりがかっと熱くなって、全身が羞恥に染まっていく。この人と一晩中あんなことをして、しかも自分からフェラチオまでして、あんな声を上げて――思い出すだけで耳の奥がじんと痺れて、指先まで震えてくる。夫以外の男性と肌を重ねたという背徳感が、ようやく現実のものとして胸にのしかかってきたのに、なぜだかその重みさえも、甘ったるくて苦しい。

頭の片隅で、かちかちと時計の秒針が刻む音が聞こえる気がした。家のリビングに掛かったあの時計。いつも無機質に時間を刻んでいたあの音が、いまはとても遠くに感じられて、けれど確かに私を呼んでいるようでもあった。日常へ戻れと、戻ってはいけないと、そんな矛盾した声が交錯している。

ふと、私は男性の腕に目を留めた。昨夜、道を歩くときにつかまった、あのたくましい腕。寝返りを打った拍子に、シーツの上に投げ出されたその腕が、あまりにも無防備で、でも力強くて、私は気がつくと手を伸ばしていた。指先がそっと二の腕のあたりに触れる。熱い。男の人の体温は、どうしてこんなに高いのだろう。その熱が指の腹からじんわりと伝わってきて、全身の力が抜けていくような心地だった。

もっと近くに行きたい。その衝動を抑えきれずに、私はゆっくりと身を寄せていった。シーツが擦れるかすかな衣擦れの音。自分の鼓動がうるさいほどに響いていて、こんなことで起きてしまうのではないかと思いながらも、身体は勝手に動いていた。胸のあたりが男性の脇腹に触れて、肩に額を寄せるようにして凭れかかる。彼の肌からは、昨夜の汗と、かすかな石鹸の残り香と、そして紛れもない雄の匂いがして、それを嗅いでいるだけで目眩がしそうだった。

男性の身体が、ふっと動いた。私はぎくりとして身を固める。

「……寒いのか」

寝起きの掠れた声が、すぐ頭上から降ってきた。見上げると、男性が薄く目を開けて、私の顔を覗き込んでいる。その瞳にはまだ眠気が揺蕩っていたけれど、口元にほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。私は慌てて首を横に振った。

「寒くは、ないんです。でも……」

そこまで言って、言葉に詰まる。でも何だというのだろう。寂しかったから、温かさがほしかったから、もっと触れたかったから――そんなこと、口が裂けても言えなかった。私はただ俯いて、彼の腕にしがみつく力を強めてしまう。自分の身体がこんなにも素直に動くことに、心はついていけていないのに。

男性は何も言わず、そっと私の肩を抱き寄せた。その大きな掌が背中をなぞるように撫でて、昨夜と同じ、いや昨夜よりもずっと優しい手つきで、私の髪を梳いていく。指が耳の裏をかすめて、首筋をなぞるたびに、ぞくぞくとしたものが背骨を駆け上がった。

「昨夜は……すごく、よくしてもらって……」

声が震える。うまく言葉が出てこない。夫以外の男性と一夜を共にして、その翌朝にどんな顔をすればいいのか、私にはわからなかった。ただ、この腕から離れたくないという気持ちだけが、胸のなかで膨らんでいく。

男性の指が、するりと私の顎に触れた。軽く持ち上げられて、視線が絡まる。昨夜、路上でキスをされたときと同じように、心臓が早鐘を打ち始めた。

「まだ足りないって顔をしてる」

その声は、まるで私の心を見透かしているようだった。私は何も言えずに、ただ彼の瞳を見つめ返す。違います、そんなことありません、そう言わなければいけないのに、唇は動かなかった。違うどころか、私は彼の言う通り、もっと触れてほしいと願っている。自分のなかで、下腹のあたりがじんと熱を持ち始めていて、その熱がゆっくりと全身に広がっていくのを感じていた。

男性の顔が近づいてくる。私は目を閉じた。

唇が触れ合った瞬間、昨夜のすべてが蘇ってきた。あの路上でのキス、ホテルの部屋での口づけ、何度も何度も重ねた唇の感触。それらが一気に脳裏を駆け巡り、私のなかで何かがまた、音を立てて崩れていく。昨日までは決して越えてはいけないと思っていた境界線が、もうどこにあるのかもわからなかった。

ちゅ……と控えめな音を立てて唇が離れる。けれどすぐに、また深く塞がれた。舌が割り込んできて、私の舌を探り当てる。ぬめる感触が口蓋を這い、歯列をなぞり、息継ぎの隙間さえも奪っていく。私は彼の首に腕を回して、必死にしがみついた。

「ん……ふぁ……っ」

唇が解放されたとき、漏れた声はもう甘く蕩けていた。男性の手がシーツの下に忍び込み、私の腰を抱き寄せる。裸の肌と肌が直接触れ合って、その熱さに頭がくらくらする。彼の指が腰骨をなぞり、太腿の内側へと滑り込んできた。

「まだ、こんなに濡れてる……」

耳元でささやかれて、私はますます身体を縮こまらせる。自分の秘部が、昨夜の精液と新しく溢れた蜜とで、ぐっしょりと濡れているのが自分でもわかっていた。恥ずかしいのに、その指がもっと奥に触れてほしくて、腰が自然に浮いてしまう。

「……お願いします」

声が掠れて、ほとんど息だけだった。けれど男性は聞き逃さずに、ゆっくりと私の上に覆いかぶさってくる。

「もう一度だけ……奥に、ください」

自分からそんなことを口にしている。夫の顔が頭の片隅を掠めたけれど、いまはもうその面影さえも、目の前の男性の熱気にかき消されていった。脚を大きく開かされて、硬く勃ち上がった亀頭がぬかるんだ秘裂に押し当てられる。粘膜と粘膜が触れ合う生々しい感触に、背筋が震えた。

ぬぷ……んっ、と鈍い水音を立てて、肉棒の先端が沈み込んでくる。昨夜あれほど貫かれたというのに、中はまだきつく締まっていて、押し広げられるたびに内壁がひくひくと蠢いた。男性は焦らすようにゆっくりと腰を進めて、そのたびにぐちゅ、ぐちゅ、と粘液の絡まる卑猥な音が響く。

「あ……ああ……はいる……おく、きてる……!」

昨夜よりも深く、昨夜よりも確かに、彼の形が私のなかを満たしていく。子宮の入り口あたりまで亀頭が達して、その圧迫感に目の前がちかちかと明滅した。夫のものでは決して届かなかった場所を、この人はやすやすと突いてくる。その事実が、快感とともに罪悪感を呼び覚ますはずなのに、いまはただ、もっと奥までと腰が動いていた。

「動くよ」

男性の短い言葉のあと、ゆっくりと抽送が始まった。ぬぷ、ぬぷ……と規則的な水音が朝の静けさのなかに響き渡る。窓の外ではもうとっくに陽が昇っているはずなのに、カーテン越しの光は淡くて、部屋のなかはまだ昨夜の余韻に包まれていた。

「あ……ああ……きもちいい……ふかくて、あつくて……」

私は無我夢中で彼の背中に腕を回した。汗ばんだ肌に爪を立てて、腰の動きに合わせて自分の腰も揺らしてしまう。昨夜あれほど激しく交わったのに、身体はまだこんなにも彼を求めている。その貪欲さが自分でもおそろしくて、けれど止められなかった。

男性の腰が次第に速くなる。ぐちゅん、ぐちゅんと粘液の音が激しさを増し、ベッドのスプリングがぎしぎしと軋み始めた。奥を突かれるたびに、子宮のあたりがきゅうきゅうと締まって、目の奥が熱くなる。

「あ……ああ……も、イきそ……」

声が裏返る。昨夜、さんざん叫んだ喉はもうかすれていたけれど、それでも言葉は溢れてくる。男性が耳元で短く息を吐いた。

「いいよ。俺も、一緒に」

その言葉に背中を押されるように、私のなかで何かが弾けた。どくん、どくんと子宮口に叩きつけられる熱い液体の感触と同時に、膣の内壁がぎゅうぎゅうと痙攣して、全身が総毛立つ。

「ああ……あ、あああ……!」

声にならない声が喉をついて出た。目の前が真っ白になって、何も見えなくなる。下腹の奥で、熱いものがじわじわと広がっていって、その熱が身体の芯を溶かしていくようだった。夫との営みでは一度も感じたことのない、深くて重い快楽の波が、いつまでもいつまでも引いていかない。

「んあああ……あつい……おなかのなか、あつい……」

私のなかで、彼の精液が脈打っている。その生々しい鼓動が、子宮の奥深くまで染み込んでいく。ああ、私はいま、この人のものになっている。夫以外の人の、証を、身体のいちばん奥で受け止めている。そう思うと、胸のなかが切なくて、なのに甘くて、涙が滲んだ。

男性がゆっくりとペニスを引き抜くと、どろりとした精液が太腿をつたってシーツに染みを作った。私は荒い息を繰り返しながら、ぐったりとベッドに沈み込む。もう指一本動かせなかった。

どれくらいそうしていただろう。やがて男性が身を起こして、床に落ちていた服を拾い集める気配がした。私はシーツを胸元まで引き上げて、ただその背中を見つめていた。昨夜から何度も触れた、広くてがっしりした背中。この人の名前も知らないのに、身体の隅々まで知ってしまったような気がした。

しばらくして、男性が一枚の紙切れを差し出した。名刺だった。

「これ、俺の連絡先。もし、またこっちに来ることがあったら」

私は少しだけ逡巡してから、それを受け取った。小さな紙片に記された名前と電話番号。それを見つめているうちに、胸の奥がきゅっと痛む。また来ることなんて、あるのだろうか。そんなことが許されるのだろうか。でも、それを考えることさえもできずに、私は名刺をバッグのなかにしまい込んだ。

ホテルを出ると、外はもうすっかり明るかった。昨夜のネオンは姿を消し、代わりに穏やかな日差しがアスファルトを照らしている。遠くのほうに、昨夜見た旅館の灯りがあったはずの方向をぼんやりと眺めたけれど、そこにはもう何も見えなかった。

帰りの新幹線のなかで、和江は隣の席でぐっすりと眠っていた。昨夜は彼女も彼女で、坂口さんと楽しく過ごしたらしい。私はといえば、窓の外を流れていく風景をただじっと見つめていた。頭のなかにはまだ、昨夜の感触と、朝のぬくもりがこびりついている。身体の奥に、まだ彼の熱が残っているような気がして、座席に座っているだけなのに、下腹のあたりがじんと疼いた。

「ただいま」

玄関を開けると、リビングから夫の卓也が顔を出した。もう夕方で、テーブルの上には近所のスーパーの惣菜が並んでいる。

「おかえり。旅行、どうだった」

「楽しかったわ」

そう答えた自分の声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。卓也はいつも通りの顔で、いつも通りの口調で、旅行のことをあれこれと尋ねてくる。私は当たり障りのない返事をしながら、心のなかで、昨夜の男性の声を反芻していた。

「疲れただろう。風呂、沸かそうか」

「ううん、大丈夫。あとで自分で入れるから」

夫はそれ以上は何も言わず、テレビのリモコンを手に取った。リビングに響くニュース番組の声と、壁に掛かった時計の秒針の音。かちかちかちかち。いつもとまったく変わらない、私の日常がそこにあった。夫は何も知らない。私が旅先で、まったく知らない男性と一晩中肌を重ねて、朝まで抱き合って、身体の奥にまで精液を受け止めたことなど、知るはずもなかった。

私は洗面所に行って、鏡に映る自分の顔を見つめた。頬はまだ少しだけ火照っていて、目のあたりには昨夜の名残のような隈が浮かんでいる。でも、それだけじゃない。自分の顔なのに、なんだか少しだけ、別人のように見えた。夫の知らない私が、鏡のなかからじっとこちらを見つめている。

夕飯のあと、卓也が「そろそろ寝るか」と言ったとき、私はほんの少しだけ身体を強張らせた。寝室に行けば、もしかしたら夫が求めてくるかもしれない。でも、もし夫に触れられたら、私は昨夜のことを思い出してしまうだろう。大きさの違うペニス、巧みな愛撫、あんなに激しく突かれたこと、自分からフェラチオまでしたこと……。そんなことを考えている自分が、とてもおそろしくて、それでいて、もう戻れないところまで来てしまったような気がしていた。

寝室の灯りを消すと、窓の外に遠くの街灯がぽつりと浮かんでいた。あの旅館の灯りに少しだけ似ていて、なんだか胸がすうっと冷たくなる。あの夜の熱は、もう遠い。でも、私の身体は確かに覚えている。夫とは違う誰かに触れられたこと、夫の知らない声で叫んだこと、夫以外の精液で満たされたこと――。

布団のなかで目を閉じると、耳の奥で、またあの秒針がかちかちと鳴り始めた。戻れない。戻らなければ。その矛盾した思いがぐるぐると渦巻いて、私はいつまでも眠れなかった。

バッグのなかには、彼から受け取った名刺がしまってある。その紙片の存在が、胸の奥でじんわりと熱を帯びていた。

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読み終えたあとの余韻に。

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登場人物
  • 下川恵 しもがわ めぐみ
    女性 ・ 34

    外見: 肩にかかるくらいの黒髪、茶色の瞳、ふっくらした体型。服装: 普段はカジュアルな服、旅先ではワンピース。真面目で控えめな性格だが、一度解放されると積極的になる。

  • 高村和江 たかむら かずえ
    女性 ・ 34

    外見: 茶色のショートヘア、茶色の瞳、細身の体型。服装: カジュアルな服。陽気で行動的。男友達が多く、男女の駆け引きに慣れている。恵を誘って旅先でナンパを楽しむ。

  • 地元男性 じもと だんせい
    男性 ・ 35

    外見: 坊主頭、黒い瞳、がっしりした筋肉質の体格。服装: ジャケットとジーンズ。口数は少ないが、行動力がある。女慣れしていて、恵の反応を見ながらリードする。

  • 平山卓也 ひらやま たくや
    男性 ・ 35

    外見: 黒い短髪、茶色の瞳、細身の体型。服装: スーツ。恵の夫。真面目で仕事一筋。結婚十年でセックスレス気味。登場せず、恵の回想で存在感を示す。

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