夫の留守に庭師の祖父似の節くれだった手で縁側から始まった私が、土と加齢臭に溺れて週三回その指に膣奥を突かせ続けた三ヶ月
あらすじ
広い庭だけが残った家で、42歳の有希子は亡き祖父の面影を庭師の老いた手に重ねてしまう。土と加齢臭に呼び覚まされる風呂場の記憶、縁側で交わされる視線、言えない過去が今の身体を疼かせる。背徳の追憶が、静かな日常を静かに崩していく。
第1章 砂利の庭とよみがえる手のひら

第1章 砂利の庭とよみがえる手のひら
引っ越して二週間目の、七月の夕方だった。西日が庭の奥の桜の古木を透かして、砂利の上に長い影を落としていた。縁側に立つ有希子の足元まで、伸び放題に育った雑草の先端が届いている。どこから手をつければいいのか分からないまま、小さなため息が唇からこぼれた。湿った空気が肌にまとわりつき、首筋を汗が一筋、這うように流れていく。
息子は大学の寮へ入り、夫は連日終電で帰ってくる。四人で暮らす予定だった中古の一戸建ては、二人分の留守と静けさだけを抱えていた。夕暮れの庭には、羽虫が舞い、砂利の隙間からは乾いた土の匂いが立ちのぼっている。有希子は縁側の柱に右手を添えたまま、伸びすぎた芝と無秩序に枝を広げた植木を眺めていた。手のひらに伝わる柱のザラつきが、この家の古さと、これから始まる暮らしの重さを指先に教えているようだった。
庭の手入れをしてくれる人を近所の不動産屋に紹介してもらったのは、五日前の午後だ。段ボールの山がようやく片付いて、窓から荒れた庭が視界に入る時間が増えた頃だった。電話口で名乗った声は、低くて擦れていた。
「明日の夕方なら、空いてますよ」
受話器を置いた後も、その声が耳の奥に残った。乾いた土を踏みしめるような、低い響き。有希子はなんとなく、胸の奥がざわつくのを感じていた。
その翌日、約束の時間きっかりに、荒川登志夫は砂利道を踏んで現れた。六十一歳。白髪の混じった短い髪に、日に焼けた濃い肌。腰には使い古した手拭いを下げていた。目元には深い皺が刻まれ、眉は濃く、口元はきつく結ばれている。作業シャツの下の肩幅は厚く、腕には土仕事でついた引き締まった筋肉の線が浮き上がっていた。
「荒川と申します。今日は全体を見て、次にどうするか決めましょう」
「よろしくお願いします」
有希子は軽く頭を下げた。荒川の濃い焦茶色の瞳が、一瞬だけ有希子の顔を捉え、すぐに庭へと移っていく。その視線の移動に、有希子はわずかな安堵と、それからほんの少しの物足りなさを覚えた。
色褪せた作業シャツの背中が、到着して五分後には汗で湿っていた。荒川は黙々と庭を歩き、低い枝に触れ、伸びすぎた草の根元にしゃがみ込んだ。彼の指が土に触れるたび、乾いた土の表面が崩れ、湿った黒い土が顔をのぞかせる。
「奥さん、この桜、だいぶ暴れてますな。来年も花を咲かせるなら、今のうちに切らせてもらったほうがいい」
「そうなんですか。じゃあ、お願いします」
荒川の声は、庭の空気に溶けるように低く響いた。有希子は返事をしながら、彼のしゃがみ込んだ背中を眺めていた。腰のあたりで汗が染みを作り、色褪せた布地が肌に貼りついている。漂ってくる汗の匂いには、土と、それから煙草のヤニの匂いが混ざっていた。
彼が最初に手をつけたのは、縁側の近くで伸びすぎた沈丁花の枝だった。剪定鋏を握った手が、枝を掴み、切っ先を差し込む。節くれだった指が、茶色い木の肌に食い込んでいく。指の一本一本が、古い木の枝のように曲がり、太く、硬そうだった。
その手だった。
有希子は無意識に自分の指先を胸の前で握りしめていた。太い指。ゴツゴツとした関節。日に焼けて黒ずんだ皮膚の下に浮き上がる、青い血管。爪の間には土が詰まり、手の甲には無数の細かな傷跡が白く走っている。そのすべてが、二十年以上前に見たままの形で、有希子の目の前で枝を切り落としていく。
祖父の手だった。
剪定鋏が沈丁花の枝を断つ音が、乾いた庭の空気に響いた。鋭い金属の音。それなのに有希子の耳には、その音がどこか遠く、別の場所から聞こえてくるように感じられた。胸の奥が、じわりと熱くなる。下腹のあたりに、何か懐かしいものが渦を巻いて沈んでいく。
一時間ほど経った頃、荒川はベランダの端に腰かけて煙草を吸っていた。有希子は洗い物をしていた台所の窓から、その横顔を見ていた。作業シューズは砂利の上に揃えてある。背中から立ち上る湯気のように、汗と埃の匂いが風に流れてくる。煙草の煙が、夕暮れの光の中で青く揺れていた。
その匂いが、鼻の奥に届いた瞬間。
加齢臭と、土の匂いと、汗の混ざった匂い。生臭くて、少し甘くて、乾いた埃の匂い。その複雑な匂いの層が、有希子の息の奥をくすぐり、彼女の記憶の底に沈んでいた何かを急激に浮かび上がらせた。あの風呂場のタイルが、目の裏に浮かんだ。白い壁。湯気。滑り止めのマット。鏡に映る、幼い自分の裸体。
小学生の頃。夏の夕方。お風呂は母ではなく、祖父と入ることが習慣になっていた。白いタイルの浴室。湯気で曇る鏡。滑り止めの付いた洗い場に、ピンク色の小さな椅子を置いて、有希子は祖父の前に裸で座っていた。
祖父は石鹸を手で泡立てると、最初は背中を、次に腕を、そして胸を洗った。素手で。スポンジもタオルも使わなかった。泡に包まれた大きな手のひらが、まだ膨らんでいない胸の上を何度も往復する。おへその周りをくすぐるように洗い、太ももの内側をなぞった。手のひらの硬い皮が、泡越しにこすれる。祖父の手のひらは、いつも微かに熱を持っていて、その温度が有希子の肌に残った。
「有希子、足を開いて」
低い声だった。湯気に包まれた浴室の中で、その声だけがやけに澄んで聞こえた。有希子は逆らう理由がわからないまま、膝を左右に開いた。祖父の泡まみれの指が、有希子の一番柔らかい場所に触れた。幼い割れ目に沿って、指がゆっくり上下する。石鹸の泡がすべりをよくして、その指は迷いなく奥へと分け入ってきた。泡の細かい粒が、敏感な皮の上を滑っていく。
「ここも、きれいに洗わんとな」
祖父の指は、有希子の小さな突起を探り当てて、柔らかく押した。お腹の底が熱くなる。何かが違う。でも、気持ちいい。その感覚は、有希子の幼い体の中で、言葉にならない熱として膨らんでいった。指は湯船の中でも有希子の割れ目を広げ、その芽をねぶるように揉み続けた。有希子の体は、水面の下で、小さく何度も震えていた。
やがて水音がした。有希子の体が跳ねた。おへその下から何かが溢れて、足の力が抜けていく。天井の蛍光灯が滲んで見えた。
「気持ちいいか」
祖父の囁きは、湯気に溶けて消えていった。
有希子は台所の窓から離れられなかった。洗い物をする手が止まっている。シンクに落ちた水音が、やけに大きく耳に響いた。下着のクロッチが、体温とは違う熱さで湿っていた。太ももの内側に張り付く感覚に、有希子は足をぎゅっと閉じた。息を深く吸って、吐く。それでも動悸は収まらず、こめかみのあたりが、じんと痺れている。
窓の外では、荒川が煙草を灰皿代わりの携帯灰皿に押しつけ、静かに立ち上がった。彼の一挙一動を目で追いながら、有希子はまだ泡のついた両手を流しに突っ張ったまま、身動きができなかった。
荒川が仕事を終えて縁側に立ったのは、日が落ちて庭の輪郭が青みを帯びた頃だった。薄闇の中で、沈丁花の切り口から溢れた樹液が、わずかに甘い匂いを放っている。虫の音が、あちこちで始まりかけていた。
「今日はここまでです。次は十日後に、桜の剪定と草刈りをさせてもらいます」
「ありがとうございました」
有希子は封筒を差し出した。煤けた作業着から立ちのぼる匂いが、至近距離で鼻を突く。汗と土と煙草が織りなす、あの匂い。指先が震えているのが自分でも分かった。荒川は何も言わず、節くれだったその指で封筒を受け取った。一瞬、有希子の指先と荒川の指先が触れる。ザラついた硬い皮膚の感触が、有希子の指先を焼くように走り抜けた。
「たしかに。じゃあ、よろしく」
有希子はその場に立ち尽くしたまま、自分の指先を見つめていた。触れた箇所が、まるで熱いシロップを垂らされたように、じわりと熱を持っていた。
荒川が砂利道を歩き去る背中を、有希子は縁側から見送った。作業着の後ろ姿に、祖父の夏の浴衣の背中が重なった。あの背中も、いつも黙っていて、何も語らなかった。けれど、その腕の中だけが、有希子の体を一番よく知っていた。
夜、夫に「遅くなる」という連絡を確認してから、有希子は浴室に入った。シャンプーの匂いで満ちた空間。白いタイル。曇る鏡。あの家の風呂場より小さいけれど、蒸気の質感は何も変わらない。肌にまとわりつく湿度も、床に伝わる水の冷たさも、すべてが記憶の輪郭をなぞっていた。
シャワーを頭から浴びた。お湯が首筋から肩へ、胸へ、太ももへと流れていく。細かな水流が、有希子の全身を這うように撫でた。指に石鹸を泡立てる。白い泡が、自分の手をあの太い手のひらに変えていく。泡のついた指が、有希子の指よりずっと太く、硬く、長いものに思えた。
泡をまとった右手が、無意識に股間へ滑り降りた。祖父の動きをなぞるように。割れ目に泡を塗り込み、小さな突起を探り当てる。指の腹で、円を描くように。泡の滑りが、指の動きをなめらかにし、敏感な肉を包み込んだ。
「……っ」
浴室の水音に混じって、自分の吐息が響いた。体の奥で何かが疼いている。あの夕方、荒川の手を見た瞬間からずっと、この場所だけが、熱を持ったままだった。
石鹸の泡が溶けて流れても、有希子は指を止められなかった。太い指の記憶を追いながら、何度も、何度も、同じ場所をなぞる。指の腹が、熟れた果実のような敏感な突起の上を往復するたび、下腹がきゅっと引き締まり、太ももの内側が小刻みに震えた。
目の裏に浮かぶのは、今日見た節くれだった指。そして、あの白いタイルの浴室。祖父の低い囁き。幼い有希子の割れ目を這い回った、泡まみれの指。あの指の感触が、そのまま自分の中に流れ込んでくるような気がした。
体の芯が、きゅうと締まった。指の腹に、自分の一番柔らかい場所が吸い付くような感覚。シャワーの音が遠ざかる。視界の端で、湯気がゆらゆらと揺れていた。天井の灯りが滲み、湯気の中で光の粒が漂っている。
祖父の指よりも細い有希子の指が、祖父の動きを正確になぞっている。泡を足す。割れ目を広げる。突起を押しつぶして、そこから円を描くようにこする。太ももの内側が震えていた。背中が手すりに押し付けられ、冷たい金属の感触が熱くなった体に食い込む。
浴室の窓の外で、庭木の影が月の光に揺れているのが見えた。今日一日、あの男が切り残した枝の断面が、闇の中で青白く光っている。切り口から溢れた樹液が、月の光を受けて湿った輝きを放っていた。あの男が触れた枝。あの男の手の匂いが残る庭の空気。窓の向こうの闇に、まだあの匂いが潜んでいる。
潰れた吐息が浴室に響く。有希子は手すりに背中を預けたまま、股間にある指の動きを止められなかった。あの手が、土と加齢臭をまとったまま、有希子の体を洗っていたあの時間が、シャワーのお湯として全身を流れていく。お湯は有希子の胸の先端を硬くさせ、へその窪みを満たし、開いた太ももの間に泡を流していった。
誰に言えるはずもなかった。夫にも、息子にも。そしてあの庭師の手を持つ男にも。有希子はただ、湯気の中で目を閉じて、息を殺して、過ぎ去った夏の感触を取り戻していた。目を閉じた闇の中で、あの節くれだった指が、土の色をした指が、有希子の体を洗っていく。その指の動きを、自分の指でなぞりながら、有希子は静かな河の底へ沈んでいくような感覚に身を委ねていた。
十日後、また荒川が来る。そのことだけが、空白になった夜の輪郭をかろうじて形づくっていた。有希子は濡れた体を拭きながら、浴室の窓の外を見た。月明かりの下で、切り残された枝の断面が、まるで誰かを待つ白い傷口のように見えた。
第2章 縁側の麦茶と夕暮れの視線

第2章: 縁側の麦茶と夕暮れの視線
冷蔵庫を開けた途端、麦茶の冷えた瓶が白く曇り、表面に無数の雫を浮かべていた。私はその雫を指で拭わず、ただ手のひらで瓶を握りしめた。今日は荒川さんが来る日だった。十日ぶりに聞く、庭の砂利を踏む足音を、朝からずっと待っていた自分がいる。
この十日間、私の身体は少しずつおかしな方向へ傾いていた。夜、夫の帰りを待つより先に風呂場へこもり、祖父の指の感触を肌に蘇らせようとする。石鹸の泡を股間に滑らせるたび、あのごつごつした節くれだった指の形が、私の内側をなぞっていく。荒川さんの手は、祖父にあまりにも似ていた。
玄関の引き戸を開けると、すでに荒川登志夫は裏庭の木の下に膝をつき、剪定した枝を束ねていた。白髪混じりの短い髪は汗で額に張り付き、日に焼けた首筋がしっとりと光っていた。色褪せた作業シャツの背中には、土と汗の混じった染みが地図のように広がっている。草いきれと一緒に、あの加齢臭と土の匂いが風に乗って流れてきた。私は思わず胸の前で手を重ねた。下着の中心が、じわりと熱を持ち始めるのが分かった。
昼食の支度を終えた私は、冷えた麦茶を盆に載せ、庭へ歩き出した。茶碗がかちりと小さく鳴り、手が震えていることを自覚する。溢れた冷たい飛沫が指先に触れるたび、下腹部の奥がきゅうと疼いた。彼が腰を落として鍬を振るうたび、作業ズボンの太もも越しに浮かぶ脚の筋肉が、祖父の寝間着姿を思い起こさせた。あの脚の力強さ、土を踏みしめる足音。祖父は毎夜、私の身体を開発するとき、ああして黙って触れてきたのだ。
「荒川さん、お手を止めて。少し休んでください」
声をかけると、彼はゆっくりとこちらを見た。焦茶色の瞳が私を捉え、口元がわずかに動く。
「奥さん、わざわざ。昼飯前にもらっちまって、すみませんね」
低い声が空気を震わせ、私は手足に汗を感じた。彼は鍬を土に差し込み、手を腰の手拭いで拭いながらこちらへ歩いてきた。その指は節くれだち、爪の間に土が黒く詰まっている。祖父の指もあんなふうだった。石鹸の泡の中で、私の身体を隅々まで洗った、ごつごつとした指。
縁側に盆を置き、私は彼を座らせた。板の上に腰を下ろすと、彼は息をつき、茶碗を受け取った。喉が上下して麦茶を飲み干す音が、やけに近く聞こえる。
「この麦茶、うまいわ。奥さん、よく冷えてる」
「よかった。今日はもう一杯分、作ってありますから」
私は隣に座らず、わずかに身を屈めて彼の喉元を見つめた。作業シャツの襟から覗く鎖骨は骨ばっていて、汗が一粒、胸元へ垂れていく。祖父もまた、浴槽の縁で汗をかいていた。私は祖父の汗を舐めたことがある。しょっぱくて、少し苦くて、身体の奥が熱くなる味。
その記憶が、今、荒川さんの加齢臭と土の匂いに混ざり合って、鼻の奥をくすぐった。私は無意識に両脚をすり合わせた。麻のスカートが擦れる音が、縁側に響く。彼の視線が、私の素足に落ちた気がした。
昼過ぎ、日差しがやわらぎ始めた頃、私は再び縁側に座っていた。風が吹くたび、スカートの裾が膨らみ、太腿の内側が露わになる。脚を閉じることはしなかった。タンクトップの下はノーブラで、汗が胸の谷間を伝い、薄い布が乳首の形を浮かび上がらせていた。その輪郭を、彼が見ている。作業ズボンの股間が、息を呑むほど露骨に膨らんでいるのを、私は横目で確かめた。
心臓の音が、耳の奥でどくどくと鳴る。私は彼の隣へ身を寄せ、作業用の腰帯の布がずれているふりをして、指先を彼の太腿へ置いた。
「荒川さん、ここの紐、曲がってますね」
布越しの太腿は硬く、脈が伝わるほど熱かった。彼の身体が一瞬、びくりと震える。
「奥さん……」
耳元で囁かれた声は低く、かすれて、拒絶の色はなかった。私はそのまま、掌をゆっくりと彼の股間へ滑らせた。作業ズボンの布は厚く、しかし奥で硬く反り返ったものをはっきりと感じ取ることができた。指先が震え、手のひらが汗ばむ。あまりにも熱くて、脈打っていて、頭の芯が痺れるようだった。
ちゅ、と布と掌が吸い付く音がした。
私は目を閉じた。まぶたの裏に、あの風呂場の白いタイルと、祖父の手に泡立つ石鹸が揺らめいた。祖父のごつごつした指が、幼い私の割れ目をゆっくりと広げ、クリトリスを包み込む。熱い湯の中で、身体の奥が溶けていく感覚。あのときの声が、耳の奥から溢れてくる。
「気持ちいいか」
祖父の囁きが、今ここにいる荒川さんの荒い息と重なった。私は彼の股間を、布越しにそっと握り締め、その硬さを確かめた。掌がじんと痺れ、太腿の内側が濡れていくのが分かった。下着はもう、すっかり湿っていた。
蝉の声だけが、夕暮れの庭に満ちていた。縁側の板に長い影が落ち、家の中は深い沈黙に包まれている。荒川さんは私の手を退けることなく、ただ俯き、肩で息をしていた。私はその手を、名残惜しむようにゆっくりと離した。
どれほどの時間が過ぎたのか、分からない。やがて彼は、押し黙ったまま身を引き、作業着の裾を直して立ち上がった。
「また、来週に来ます」
夕闇に溶けるような声だった。私は頷くことさえできず、熱を持った掌を膝の上で握り締めた。彼の背中が門を抜け、土の匂いと加齢臭が夜の空気に薄れていくのを、私は縁側に座ったまま聞いていた。
足下に残された彼の体温が、板を通してまだ伝わってくる。指先には、あの硬さと鼓動が残っていた。私は乱れたスカートの裾を直すこともせず、ただ庭の木々が夕闇に沈んでいくのを見つめていた。頭の中では、祖父の指が、まだ私の身体を洗い続けている。その感触を、もう一度確かめたくて、私は自分の太腿を強く抱き締めた。
第3章 作業ズボンのベルトと汗の匂い

第3章: 作業ズボンのベルトと汗の匂い
朝から降り積もる蝉の声が、生垣の向こうで狂ったように膨れ上がっていた。私は洗濯物を干し終えると、生温い風に吹かれて額の汗を拭った。今日、荒川さんが来る。その事実だけで、胸の奥が早鐘のように打っている。
門前に軽トラックの音が停まったのは、まだ九時になるかならずだった。私は台所の窓からそっと外を見た。色褪せた作業シャツに、いつもの腰帯。白髪混じりの短い髪は汗で束になって、首筋に張り付いている。荒川登志夫は無言のまま、庭の砂利を踏みながら、木の下へ足を進めていく。
彼の背中を、私はしばらく見つめていた。作業着の背中には、土と汗の混じった染みが地図のように広がり、風が吹くたび、あの加齢臭と土の匂いがゆっくりと台所の中へ流れ込んでくる。鼻の奥が、それだけでツンと疼いた。
十時を過ぎ、日差しが一層強くなった頃、私は麦茶の新しいポットを手に庭へ出た。
「荒川さん」
声をかけると、彼は鍬を土に立て、汗を滴らせた顔をこちらへ向けた。焦茶色の瞳が、私の素足を一瞬見つめて、それからゆっくりと上がってくる。
「今日は、随分と早いですね」
「早朝のうちに、土が固まる前の除草をやっておきたかったんです」
荒川さんは低い声でそう答え、腰の手拭いで顔を拭いた。その仕草に、祖父の影がちかちかと重なる。祖父もまた、庭仕事のあとで、ああして無造作に汗を拭いていた。
私は一歩、彼に近づいた。地面の草が素足の裏に熱くて、土の感触が指の間へ入り込む。心臓がうるさい。
「荒川さん、こんなに暑いから、少しだけでも奥で休んでいきませんか」
物置小屋のほうへ視線をやると、彼の顔がわずかに陰った。物置は、庭の北側の木陰にあって、扉が半ば開いたまま、中は薄暗く沈んでいた。
「いけませんよ、奥さん」
声は低く、しかし拒絶とは違う色を帯びていた。私は彼の作業ズボンの側面に指を触れ、その熱を確かめるように、静かに押した。
「少しだけ、ですから」
荒川さんの唇が何かを言いかけて、それから閉じた。彼は鍬を土から引き抜くと、音もなく地面に置いた。
歩き出した彼の背中を追いながら、私は自分の下着が、もうとっくに湿っているのを感じていた。四日前の夕暮れに触れた熱が、今、身体の中心で膨張している。物置の土壁が近づくたび、呼吸が浅くなっていく。
物置の中は、土埃と藁の匂いで満ちていた。壁際に重ねた植木鉢の向こうで、荒川さんが立ち止まる。薄暗がりの中、私の目はすぐには彼の輪郭を捉えられなかった。ただ、あの加齢臭と土の匂いだけが、むわっと濃く、空気を固めていた。
「……足元、散らかってますから」
低い声が、薄闇の上から降ってくる。
「平気です」
私は答えると、彼の言葉に構わず、そのまま床に膝をついた。土の荒れた冷たさが、スカート越しに膝蓋骨を刺す。目の前には、彼の作業ズボン。煤けた布を透かして、奥で硬く持ち上がっているものが、薄明かりの中で浮かんで見えた。
心臓が、耳の奥でどくどくと鳴っている。私は手を伸ばし、彼のベルトに指をかけた。古い金具が、かちり、かちりと乾いた音を立てる。カチャカチャという小さな金属音が、土壁に跳ね返って、まるで耳元で誰かが囁くように響いた。
「奥さん、そこまで……しなくても……」
荒川さんの声は掠れていて、それなのに私は一度も手を止めなかった。ベルトが外れて、作業ズボンがゆるむ。私は下着の黒い布をゆっくりと下ろし、彼のペニスを取り出した。
瞬間、濃い匂いが私の鼻を包み込んだ。汗と尿と、乳酪臭が混じりあった、生暖かい匂い。鼻の奥が、指先でこじ開けられたようにむずむずとする。私は目を細め、彼のペニスを目の高さで見つめた。艶のある亀頭は充血して膨れ、幹の太さに反して、根元の陰毛が乱れている。早朝から作業をしていたせいか、尿の残り香が、ぬるい膜のように表面を覆っていた。
「……汚いです、奥さん」
か細い声が、土壁の闇に吸い込まれて消えた。
私の右手は、もう彼のペニスを握っていた。指の腹が、しわの寄った包皮の質感を確かめる。幹は熱く、脈がびくびくと跳ねている。指先で亀頭の先端をそっと撫でると、透明な汁が糸を引いて、人差し指の腹へ絡みついた。
ネチャッ。
私は顔を近づけ、まず先端に舌の先を触れさせた。しょっぱい塩気と、粘膜の苦味が舌に広がる。匂いが、肺の深いところまで入ってくる。それだけで頭の芯が痺れた。私は亀頭を唇で包み込み、舌を這わせながら、ゆっくりと口の中へ導いていく。幹を握る指に力を込めると、彼の身体が一瞬、びくりと震えた。
「……う」
荒川さんの喉が、小さく鳴った。
口の中で、彼のペニスがさらに膨らみ、熱くなる。私は唾液を絡めながら、舌の裏で裏筋を押し上げるように舐めていく。ぬるっとした感触が唇に溢れ、口の端から涎が一筋、顎を伝って落ちていく。私は頭をゆっくりと前後させながら、唇を締め付けて亀頭を引きたてた。
「あ……奥さん、それ……」
掠れた声が、私の髪をかき分けるように降ってくる。彼の太い指が、私の頭に触れた。土の匂いと伐採した木の匂いが、指先から焼き付いてくる。祖父の手も、ああだった。決して優しく撫でるのではなく、ただ私の後頭部を抑え込むように、触れるだけの指。
私は顔を彼の股間に押し付け、彼のペニスを喉の奥まで飲み込んでいった。息が苦しくなるほど、口の中がいっぱいになる。鼻から抜ける空気が、彼の陰毛と肌の匂いで満ちていた。
「……っ、奥さん、そんなに深く……」
私は頭を前後に揺らし続けた。唾液が粘り、水音が物置の中でくちゅくちゅと反響する。私自身の息が、鼻から抜けるたびに、彼の下腹の肌を熱く濡らした。
手の中の彼は、もう鉄のように硬い。私は一度口から出して、亀頭の先端に舌先でねっとりと円を描いた。ネチャッ、ネチャッと音を立てて、粘りつく唾液を塗り広げる。太い幹を握る手が、上下に動くたび、ぬるぬるとした汁が指の間から溢れて股間を濡らした。
「……もう、我慢……」
荒川さんの手が、私の頭を強く抑えた。その瞬間、彼のペニスが口の中で大きく脈打つ。
ビクビクビクッ。
荒川さんの腰が震え、熱いものが喉の奥へ走った。苦みと塩気の塊が、粘膜を焼けつかせる。私は目を閉じ、彼の射精を唇で受け止める。生々しい精液の匂いが鼻の奥を犯し、祖父の味が、遥か昔から舌の上で重なっていく。あの時も、こうだった。祖父の精液は、もっと苦くて、もっと濃くて、喉の奥を焼いた。荒川さんのそれは、少し薄い。薄いのに、記憶の蓋を剥がすには十分だった。
ごくり、と最後の一滴を飲み込むと、私はゆっくりと口を離した。唇は涎で濡れ、口の周りがぬらぬらと光る。彼のペニスは、まだ硬さを失っていなかった。
立ち上がると、スカートの裾が膝上で乱れ、鼠径部の熱がぶわりと広がった。私の下着はぐじょぐじょで、太腿の内側まで濡れ濡れに光っている。
荒川さんは、無言のまま私の肩を抱き寄せ、物置の外の日陰へ導いた。庭の桜の木の下には、古いござが敷かれている。彼は私をござの上に座らせると、スカートの裾を両手でゆっくりと持ち上げていった。
「……ひどいですね」
荒川さんは低く呟きながら、太い指を私の割れ目に押し当てた。指の腹が、ぬめる唇をゆっくりと左右に割り開く。熱い空気が、剥き出しになった粘膜を撫でる。
「あぁ……」
私の腰が、勝手に浮いた。彼の指が、湿った割れ目の奥を、ぐっと押し上げるように探ってくる。祖父の指よりも、少し骨ばっていて、硬い。それなのに、入ってくるときの角度が、あの風呂場の記憶と、あまりにも似ていた。
「……こうすると、気持ちいいんですか」
答えられなかった。代わりに、私の膣がきゅうっと指を締め付ける。指が中で曲がり、内壁のざらついた襞を、ゆっくりと擦り上げた。
「……あ、あぁ……」
声が、木漏れ日の中でほどけていく。荒川さんはもう片方の手で私の腰を支え、指を二本に増やして出し入れし始めた。くちゅくちゅという水音が、蝉の声に紛れて、私の耳の奥で増幅されていく。下腹部の奥が、のぼせたように熱い。
やがて荒川さんは私の下着を片方の太腿から引き抜き、彼自身も作業ズボンを膝まで下ろした。先ほどの口淫で濡れた彼のペニスが、木陰の仄明かりの中で、ぬらぬらと光っている。亀頭が私の膣口に触れた瞬間、全身の毛が逆立つようだった。
「……いきますよ」
荒川さんの声は低く、情けないほど静かだった。
亀頭が、私の濡れた膣口をゆっくりと押し開く。入口が、指とは比べ物にならない太さに広がっていく。痛みと、圧迫感と、その奥に込み上げる快感が、一本の熱線になって背筋を走り抜けた。
「あ……うぅ……!」
彼のペニスが、私の中でゆっくりと前進してくる。くねくねくねくねと、内壁が勝手に蠕動するように締め付け、引き込もうとする。祖父のものとは違う太さ。祖父のものはもっと細くて、硬くて、奥に突き当たると胃の裏まで貫かれるような感覚があった。荒川さんのそれは、太い。熱い。そして、雄の匂いが濃い。
「……奥さん、締め付けたら、俺、もう……」
彼の吐息が、私の耳元にかかった。私は首を振り、涙交じりの声で応えた。
「動いて……ください」
荒川さんは一呼吸おいてから、私の腰を両手で掴み、ゆっくりと律動を始めた。土の上に敷かれたござが、体重を受けて、ごわごわと音を立てる。私の太腿が、汗で滑り、彼の腰に絡みつく。
「あぁぁ……あ、あ……!」
彼の抽送が、徐々に深くなる。膣の奥を突くたび、私の身体がござの上を跳ねた。祖父の記憶が、荒川さんの腰つきの中に重なって、消えて、また浮かぶ。夕暮れの縁側、祖父の寝間着、湯気の向こうのしわがれた笑み。それらが目の裏で、セミの鳴き声と一緒に乱反射する。
「……奥さん、奥さん……」
荒川さんが、私を呼ぶのか、私の中の何かを呼ぶのか分からない声で、ただ繰り返す。彼の腹が私の下腹にぶつかり、ぬかるみのような水音が、日陰の風に乗って響いた。
「……あ、あぁぁ、だめ……いやぁ……」
私の声は、もう祖父の前で何度も零した、あの泣き喚く幼い声に近づいていた。
荒川さんは突然、私の腰から手を離し、自分のペニスを引き抜いた。私の膣が、空気の中で物欲しそうにひくひくと蠢く。
荒川さんは何も言わなかった。ただ荒い息のまま、私の腹の上に自分のペニスを当てた。
ビクビクビクッ。
熱い塊が、私の下腹に放物線を描いて飛び散った。ぬるい精液が、汗ばんだ肌の上を、とろとろと垂れていく。祖父の精液も、ああして私の腹の上で冷たくなっていった。土の匂いと、汗の匂いと、精液の匂いが混ざり合って、私の身体を覆っていく。
荒川さんは、しばらく私の上で肩を上下させていた。やがて、無言のまま私の腹から精液を拭い始めた。彼の手拭いが、私の肌をゆっくりと滑る。布の繊維が、精液を吸い込み、汗を拭い、土の匂いを上書きしていく。
私も、荒川さんも、しばらくは声を出さなかった。
やがて荒川さんは立ち上がり、作業ズボンを元に戻した。私はスカートの裾を直し、太腿の内側を拭こうとして、下着がもう片方の足から抜けたままになっていることに気づいた。拾い上げて握ると、布は信じられないほど重く、熱かった。
「……作業、戻ります」
荒川さんの声は、もう普段の落ち着きを取り戻していた。彼は物置の影から出て、庭の陽射しの中へ歩き去っていく。
私はござの上に座ったまま、しばらく身動きができなかった。腹の上の精液の跡が、生温かくて、少しずつ冷えていくのを感じていた。汗で湿った胸元を、私はタンクトップの上からそっと押さえた。心臓が、まだ強く脈打っている。下腹部の奥が、煮崩れた果実のように、ぐずぐずに熟れていた。
そこに残っているのは、荒川さんの体温と、祖父の記憶と、消えない罪悪感のかけらだった。でも、もう身を起こして家に戻らなければ、近所の誰かが不審に思うかもしれない。
私はようやく立ち上がった。足が震えた。手のひらには、まだ彼の熱がこべりついていた。
自宅の勝手口から中へ入ると、午前中の家は静かで、エアコンの白いカーテンだけがゆっくりと揺れていた。夫はいつもどおり、夜まで帰らない。
洗面所の鏡を見ると、頬が赤く火照り、唇の端がわずかに荒れていた。髪に埃が、土が、あの匂いが染み付いていた。
次の約束など、いらなかった。あの物置の中の、土と汗と精液の匂いが、私の身体から消えるまでのあいだ、私はもう、この空白を埋める術を知っていたから。
第4章 祖父の声をなぞる腰つき

第4章 祖父の声をなぞる腰つき
八月の半ばを過ぎた庭は、椿の葉が厚みを増して日の光を裏返しに弾き、蝉の声に代わって夕方の蜩の音が薄く混じるようになっていた。有希子は台所のガラス戸を細く開け、門の外へ続く砂利道を見つめている。軽トラックの排気音はまだ聞こえない。荒川登志夫がこの家に通うようになって二週間。あの暑い昼の出来事のあと、彼は週に三回、決まって昼前にやって来るようになっていた。
こまめに手入れの頻度を増やしましょうと有希子から電話をかけたのが最初だった。庭のため、というよりも、自分の身体の奥で燻る火種に燃料を求めるようなものだったけれど、荒川は何も問いたださず、指定した曜日に黙ってやって来る。そして作業の終わる夕暮れ、二人は必ず縁側で身体を重ねた。それは有希子の側から仕掛ける、土の匂いに溺れるための密かな儀式になっていた。
「奥さん、今日は裏の木槙を透かしますけど、よろしいですかね」
低い声が勝手口の外から届いた。有希子はエプロンの裾を整え、麦茶の入ったガラスのポットを胸に抱えて外へ出る。作業シャツの背中には汗と土の染みが地図のように広がり、腰の手拭いが腿の動きに合わせてゆらゆらと揺れている。鼻をかすめる加齢臭と土の匂いに、下着の中心がぎゅっと吸い付くように湿っていく。彼女は無意識のうちに太腿をすり合わせ、ガラスポットの冷たさをへその下へ押し付けた。
「ええ、お任せします。荒川さんの、いいようにしてください」
「あい。じゃあ、先に伸びすぎた下枝から手をつけます」
彼は鍬を地面に置くと、有希子の手元から麦茶のコップを受け取り、喉を二度鳴らして一息に飲み干した。節くれだった指が汗で光り、動くたびに土の匂いが濃く立ちのぼる。有希子は自分の呼吸が浅くなっていくのを悟られないよう、両手でポットを抱え直した。コップを返してもらうとき、彼の薬指が一瞬、人差し指と小指の付け根に触れて、それだけで脚の内側が震えた。
それから数時間、有希子は家の中から庭の彼を見つめ続けた。樫の木の下で腰を落とし、腕を伸ばして枝を切り落とす。作業ズボンの太腿が盛り上がり、夕暮れの光が背中の汗を橙色に光らせる。庭木の影が東へ伸びていく。あと少しで、あの影が縁側まで届く。有希子の内腿はもう、布が張り付くほど汗ばんでいた。下着の布地はしっとりと重く、よじれて皮膚に食い込み、入口はひくひくと脈打って何かを待っていた。
作業が終わった荒川は、裏口の蛇口で顔と手を洗い、静かに縁側へ上がった。有希子は先に座っていた。一枚の薄い麻のワンピース。下着は外してある。夕闇が庭を包み始め、木々の影が畳の上へ長く差し込んでいた。
「今日は、また一段と暑かったですね」
有希子は隣に座った彼の腕に、そっと自分の太腿をくっつけた。汗ばんだ肌同士が触れて、ぬるりと滑る。彼の腕の産毛が、有希子の柔らかい内腿をちりちりと舐めた。
「奥さんがそういう格好をしていると、余計に暑うなります」
荒川はぼそりと呟き、有希子の太腿へ節くれだった手を置いた。その掌は熱く、土の匂いをともなって彼女の肌に染み込んでくる。木槙の若い枝を握った後の、あのぎらつく老いた指の腹が、内腿のきめ細かい汗をぬぐうように往復した。
「汗を流したほうがいいかなって思って」
「わざとでしょう、そんなん」
彼の声は呆れを含み、それでいて笑いの気配があった。その手が太腿を這い上がり、ワンピースの裾の内側へ入ってくる。下着がないことを知るや、指先がぬめる割れ目を探り当てた。
「濡れてる。のどが渇いてるんじゃないですか、奥さん」
有希子は何も答えられず、ただ息を詰めて身を震わせた。彼の指は彼女の陰唇をゆっくりと左右へ押し開き、露わになった窄まりの上を円を描くように撫でる。くちゅ、ぐちゅ、と粘る音が、静かな庭に吸い込まれていった。閉じた瞼の裏で、夕暮れの赤が波打った。
「……荒川さん」
呼びかける声が、自分のものとは思えないほど掠れていた。
「今度こそ、私のお願い、聞いてもらえますか」
彼の指の動きが一瞬止まる。有希子は夕闇の中で目を開け、彼の横顔を見た。彫りの深い皺が目元に寄っている。二週間の間に、一度だけ、彼女は彼に頼んで断られたことがあった。自分の後ろの窄まりを舐めてほしいと、そう告げた夜、荒川は黙って首を振った。
「あんな、汚れた場所をですか」
今度は彼がそう言った。想定していた言葉だった。有希子は彼の手の上に自分の手を重ね、指を割れ目に押し込ませた。ぬぐ、と中指の第一関節まで沈み、内襞がきゅっと吸い付く。
「汚れてるから、いいんです。荒川さんに、全部きれいにしてもらいたいの」
荒川の喉が、こくりと鳴った。彼は有希子の指ごと、ぬかるむ膣口をくちゅりと押し、それから静かに頷いた。
「奥さんが、そう望むなら。俺は、それで構いません」
縁側の板が彼の重心を受け止めて、きしりと鳴った。有希子は仰向けに寝かされ、ワンピースの裾を胸の上まで捲り上げられる。夕風が剥き出しの下腹部を撫で、太腿の内側がひくひくと震えた。荒川は作業ズボンのベルトを外し、下着を引き下ろす。あの匂いが、むわりと立ち上がる。汗と尿と、土と老いた肌の匂い。それが彼女の脳を焼き、祖父の存在を一気に引き寄せる。
「あ……、おじい……」
唇から零れそうになった声を、有希子は慌てて飲み込んだ。荒川は気づかなかったのか、彼女の両足を手で持ち上げ、その間に腰を落とす。亀頭が入口に触れた瞬間、背筋がしなり、腰が浮き上がった。
「いきますよ」
「……はい、きて」
ぐり、と鈍い圧迫が押し込まれてくる。二週間で慣らされた身体は、その太さを受け入れると同時に、内壁をきゅうっと縮めて絡みついた。
「あぁっ、あ……、ぁぁ……」
亀頭が最奥へ届く。祖父のものより太くて、肉厚で、内臓の壁を内側から押し広げている。荒川の腹と有希子の腹が隙間なく密着し、彼の重さで縁側の板が再び、ぎぎ、と鳴いた。
「動いて……今日は、もっと奥を。ぐっと、上に、押し上げるみたいに」
「こうか」
荒川は腰を引き、角度を浅くしてから、彼女の中の上壁へ向けて突き上げてきた。どちゅ、と水音が跳ね、有希子の口から叫びにも似た息が溢れる。そこだった。祖父が好きだった角度。毎夜、彼女を達かせていた、あの深い場所。あの人はいつも、彼女の腰に手を回して、この角度で突き上げてきた。
「あ、あぁ、そこ、そうです……もっと、何回も……!」
有希子の声は涙で潤んでいた。荒川は応えるように腰を速め、彼女の腰骨を掴む手に力を込める。彼の青白く濁った目が彼女を覗き込み、汗が額から落ちて彼女の頬に飛んだ。汗の粒が目尻に入って、じわりと沁みた。
「奥さんの中、今日は特別、熱いです」
「あ……もっと、言って、荒川さん……私、変になる……ああっ」
ずぼずぼっ、と陰茎が出入りするたび、ぬかるんだ汁が泡立って、縁側の板の上へ滴り落ちた。尻の下が、零れた愛液でぬるぬると滑る。祖父とこうして身体を重ねた夜、彼女はいつも縁側の冷たさを背中で感じながら、この恥ずかしい音だけを聞いていた。あの頃の板の冷たさと、今の板の冷たさが、同じ背筋に重なって染みるようだった。
「荒川さん、一回、抜いて」
「……ああ」
彼は素直に腰を引き、彼女の中心から陰茎を抜いた。胸の上で荒い息をつく彼に、有希子は身を起こすと、手を伸ばして亀頭を握った。透明な液と白い泡がまとわりついて、ぬるりと掌に吸い付く。脈打つ陰茎の裏筋を、指の腹でゆっくりなぞると、先端がとろりと蜜を溢した。
「おしっこ、出せますか」
有希子の言葉に、荒川の手が一瞬止まり、顔に明らかな戸惑いが浮かんだ。
「今、ここで、ですか」
「私の口に、ください。全部。……あの人が、そうしてくれたから」
祖父の名前は出せなかった。出せるはずがなかった。荒川は困惑した表情のまま、ただ彼女の口元を見下ろし、恐る恐る手で陰茎を持ち上げた。
「奥さん……本当に、いいんですね」
「ええ、私が欲しいんです。荒川さんの、あったかいのが」
荒川は深く息を吐き、しばらく腹に力を込めていた。それから、じょろろ、と透明に近い液体が先端から溢れ出した。有希子は目を閉じず、その雫を瞳に映しながら、思いきり口を開けて迎え入れる。生温かく、しょっぱい。鼻の奥に上がる匂い。尿の味は、かすかに苦いのに、どうしてこうも身体の芯が甘く疼くのか。
「ん、ちゅる……ちゅるる……」
喉を鳴らして飲み下す。荒川の腰が、ぴくりと震えた。彼の目は、彼女の口から溢れ、顎を伝って胸元へ落ちる透明な液体を、呆然と追っている。
「もう、ええでしょう……奥さん、これ以上は」
「まだ、出るだけでいいんです。荒川さん、私の口の中まで、きれいにしてください」
有希子は再び口を開けて待った。彼は一瞬ためらい、それから残りの尿を彼女の舌の上へ細く垂らした。生ぬるい味が広がり、頭の奥がしびれる。祖父の尿も、あんな味だった。もっと年を経た、濃い、腎臓から絞り出したような匂い。荒川のものは薄く、けれど彼女の身体を蘇らせるには十分すぎた。
「……ありがとう、荒川さん」
有希子が微笑むと、荒川は何か言いたげに口を開き、結局、彼女の後頭部を引き寄せて胸に抱いた。汗と土の匂いに顔が埋もれる。有希子はその胸に頬を押し当てたまま、彼の鼓動を聞いた。祖父の心臓は、最後、彼女の耳のすぐ下で急に止まった。荒川の心臓は、まだ力強く血を送っている。この胸の音を聞くたび、生きた男がここにいる幸せと、いずれ失われる恐怖とを同時に味わう。耳の奥で、心音が祖父の声をなぞるように響いていた。
「後ろも、洗って。今度はしてくれるんですよね」
腕の中から囁くと、荒川は静かに頷いた。有希子は彼の前で四つん這いになり、尻を高く突き出す。麻のワンピースは乱れたまま腰に絡み、脇から汗が一筋流れて板の上に落ちた。尻肉のあいだに夕風が入り込み、開きかけの窄まりがひくんと震えた。
「ここ、私の一番恥ずかしい場所。おじ……あの人は、毎晩みたいに舐めてくれた」
荒川の太い指が、左右の尻たぶをゆっくり割り開く。夕闇の空気が窄まりのひだに触れ、有希子は肩を震わせた。彼の顔が近づく気配。やがて、熱い舌先が尾てい骨から割れ目を下り、肛門の縁をちろりと撫でた。
「ひぁ……んっ……」
「ここは、なかなか綺麗な場所ですよ、奥さん」
彼の低い囁きが、有希子の返事を待たずに舌を押し込んでくる。ぬめぬめとした肉の塊が、窄まりをこじ開けて中で動く。括約筋がびくびくと痙攣し、背中から腰にかけて鳥肌が立った。
「あ……あぁ……荒川さん、もっと……もっと中を、ふかく……」
額を板に擦りつけ、有希子は泣きそうな声でねだった。彼の鼻が会陰に押し当てられ、舌が入口を掻き回すたび、じゅうじゅう、という嫌らしい水音が耳のすぐそこで跳ねる。彼女は自分の手でクリトリスを探り、充血した突起を親指の腹で押し潰しながら、気の遠くなるような快感にしがみついた。
「んちっ、ちゅるる……ふ、じゅぱ、くちゅ……」
「あぁ、もう、それ、いや……いや、でも、やめないで……」
彼の舌は容赦なく窄まりを往復し、時折、膣口までなぞっては愛液を舐め上げた。有希子の身体は、肛門を舐められるだけで達してしまいそうなほど高ぶっていた。祖父によって開発された後孔は、こういう愛撫に弱い。あの人が毎夜、彼女の後ろを舌で開き、指をねじ込み、娘の名前を呼びながら貫いた場所。その記憶が、今、荒川の舌によって隅々まで起こされていく。
「あ、いく……いく、荒川さん、私、このまま……ぁぁっ!」
びくん、と全身が跳ね、内腿から足の指先まで糸の切れたように震えた。ぴゅる、と愛液が吹き出して彼の顎を濡らした。荒川は彼女の後ろから顔を上げ、ぜいはあと息を継いだ。口の周りが彼女の液でぬらぬらと光っている。
「……すごい、奥さん。ここだけで、いけるんですね」
「……まだ足りないの。荒川さん、前も。私の顔、汚してほしいんです」
有希子は言葉とともに仰向けにひっくり返った。目を閉じ、口を半開きにして、差し出された羞恥と期待で胸の奥が張り裂けそうだった。荒川は彼女の頬に陰茎をこすりつけ、髪をかき回すように腰を動かす。汗と尿と愛液が混ざり合った雄の匂いが、顔を覆い尽くす。ぬらつく亀頭が鼻先を滑り、そのたびに生臭い熱が鼻腔を満たしていく。
「もう、出すぞ。……動かないでくださいよ」
「ね、かけて。私の顔に、いっぱい、荒川さんの精液ちょうだい。あの人のミルクみたいに、ね、お願い……」
有希子の懇願に、荒川は荒い息のまま頷いた。彼の手が陰茎を扱き、先端が彼女の唇を擦り、鼻を擦り、額へ何度もぶつかる。彼女は目を開け、その瞬間を見つめた。びゅく、ぬちゅっ、ぶるるる、熱くて粘い塊が、額、睫毛、鼻梁、唇、歯の上へ飛び散った。濃い塩の味が口の隅から奥へ広がり、生臭い匂いが肺をいっぱいにする。祖父の精液の味。あの人の苦くて甘い、後腐れのない、粘度の高い液体。口元に垂れてきた白濁を、舌先で掬ってそっと味わった。
「……美味しい。おじ……あの人の味を、思い出す」
肩で息をしながら、有希子は呟いた。荒川は、まるで自分のしたことを確かめるように彼女の顔をじっと見つめ、汗の光る胸を上下させていた。その視線には哀しみにも似た諦めがあって、彼女の胸は締め付けられた。
「……奥さん、俺には、あの人が誰かは分かりませんよ」
彼は静かに言うと、作業ズボンから手拭いを抜き、彼女の顔を拭いた。優しく、丁寧に。けれど、その手は少し震えていた。手拭いの布目が、精液の残るまぶたや額をなぞる。それが彼女には、祖父の指の追憶と重なって、涙の代わりにちいさな吐息を溢れさせた。
「それでも、奥さんが俺を呼ぶたび、心臓が痛むんです。俺にできることなら、全部、やってしまうのに」
胸の奥が、熱くなった。有希子は生まれたままの身体で彼に抱きつき、汗に濡れた広い胸へ顔を埋めた。トクトクと脈打つ心臓の音が、耳の奥で祖父のそれと重なる。いつかこの音も、止まる。男は、いつか私の前から消える。そのことだけが、喜びの淵で彼女を呼び止める、冷たい指だった。
荒川が帰った後の家は、日暮れとともに急に静まり返った。有希子は灯りを点けない台所で、冷蔵庫の光をぼんやりと眺めていた。ワンピースは着替えたが、まだ下着は付けていない。肌には土と汗と精液の残り香が薄く張り付き、太腿の裏はぴったりと湿っていた。冷蔵庫から豆腐と鯵の干物、それから茄子の漬け物を取り出して、夕食の支度を始める。荒川が触れた場所が、動くたびにぬるぬると滑って、膝のあいだには昼間の熱がまだ棚引いていた。
ちょうど湯を沸かそうとしたとき、台所の壁に掛けた子機が、たった二度、短く鳴った。画面に出た夫の名前を見て、有希子は指で手を拭いてから受話器を取る。
「もしもし」
「あ、有希子? 今日も遅くなるから、先に食べてて。九時過ぎると思う」
夫の声は、駅の改札か、オフィスの廊下か、低い雑音を窓の向こうに背負っていた。有希子はへその下が一瞬ひやっと縮むのを感じた。唇を開いて「わかった」と答えようとした瞬間、昼の荒川に「いきますよ」と言われたときの、あの低い声が耳の裏に甦り、背中がふるりと震えた。
「……うん、わかった。気をつけてね。お風呂、先に沸かしておくから」
「ありがとう。お前も早く食って、休んでろよ。最近また痩せただろ」
電話はそれで切れた。受話器を置くと、台所の時計の音だけが、しん、と夜の空気に刻まれていた。有希子は、へつの下に集まった罪悪感を押し込めるように深く息を吐いた。荒川に身体を開いた余韻が、まだ陰唇の裏でちりちりと疼いている。そのような身体のまま夫と話した後ろめたさが、胃のあたりを冷たく締め付け、唾液がにがく湧いた。
けれど、心のどこかでほっとしている自分がいることも、有希子は知っていた。夫が遅い夜は、荒川の匂いを洗い流さずにいられる。身体の内側に残された卑猥な記憶を、布団の中でゆっくり反芻できる。安堵が、後ろめたさのすぐ隣で、柔らかく裸足の足音のような静かさで忍んでいた。
結局、夫は九時半を少し回ってから帰ってきた。玄関の鍵が回される音を聞いて、有希子は炊き上がった米の香りがまだ寝るには早い台所から、名残を隠すように立ち上がる。ワンピースの裾が太腿にまとわりついた。
「ただいま。……あ、まだ起きてたんだ。先に食えって言ったのに」
「すぐ眠くなるかと思って、あなたの分だけ味噌汁を温めてたの。一緒に食べよう」
夫はネクタイを緩めながら、疲れた目で有希子を見た。ワイシャツの襟にはオフィスの空調匂いが染みていて、荒川の土の匂いとはまるで違う、栓をされていた生活の匂いがした。
「悪いな。今日は会議が長引いて、蝉の声がうるさい部屋でずっと座ってたよ。外もまだ暑いな」
「そう。ビール、冷えてるけど、飲む?」
「ああ、一杯だけもらうよ」
有希子は台所へ立ち、冷蔵庫から缶ビールを取り出してコップを用意した。後ろ向きの間に、太腿の付け根が濡れた下着のない布地へ吸い付いて、彼女は背中を向けたまま唇を噛んだ。食卓の上には、胡瓜の叩き、冷奴、干物を焼いたものが並んでいる。湯気の立つ味噌汁が、静かな居間の灯りに白い息を昇らせていた。
夫は最初の一口を呑み、それから手を合わせて、ゆっくりと豆腐を箸で崩した。
「お前、今日は庭の手入れ入ってたんだろ。荒川さん、見かけなかったよ。家に篭るなら篭るって、俺に言っときなよ」
心臓が、どくりと鳴った。夫の言葉はただの何気ない気遣いで、顔も上げずに食べながら零されたものだった。けれど有希子は、夕方あれほど激しく拓かれた身体の奥が、夫の口から出た荒川の名に反応して、くぷ、と小さく蠢くのを感じた。
「……ええ。庭の木が茂ってたから、透かしをお願いしたの」
「そう。暑いのに年寄りだろ、無理させんなよ。麦茶くらい出してやってるか」
「出してるわ。かき氷でも出そうかしら」
有希子が無理に笑うと、夫も口元を僅かに緩めた。食器の音が、ふたつの影を隔てて小さく鳴る。夫の指が、湯飲みを置くときに少し震えていた。疲れているのだろう。荒川のごつごつした指先が、夕方、有希子の奥を掻き回したときの、あの痛いくらいの確かさとは違う。
「有希子、なんか、火照ってる顔してるぞ。熱中症じゃないのか」
「大丈夫。風呂、先に入ってきなよ。汗、かいて気持ち悪いでしょう」
「ああ、そうする。……お前、先に入ればよかったのに」
夫はそう言い残し、空いた皿を台所へ持ってから浴室へ向かった。彼の背中が廊下へ消えると、有希子は食卓に肘を突き、浅い息を漏らした。閉じた瞼の裏で、夕暮れの縁側に光る荒川の汗が、夫の疲れた背中に重なって揺れた。この家の夕餉の空気が、情事の濃い匂いをじわじわと薄めていくほど、身体の中だけがまだあの人の重さを覚えていて、夕飯の湯気さえも生温かく、媚薬のように鼻先へまとわりついた。
それからの三ヶ月は、流されるように過ぎていった。夫のいない昼間に荒川を招き、庭の物陰、物置、縁側、寝室——場所を替え、今日のように濃厚な時間を重ねた。週三回の逢瀬はいつしか当たり前になっていた。週末、夫が有希子に触れようとすると、彼女は決まって身体を引いた。仕事に追われて帰宅し、それでも妻を求めてくる夫の腕を、指を、唇を、有希子は自分の身体に合わない異物のように感じ始めていた。
「有希子、今夜は少し早く帰れたんだけど、どうかな」
ある夜、夫が有希子の肩に触れた。彼の匂いは、ワイシャツに移ったオフィスの消臭剤の香りがして、荒川の加齢臭とはまるで違っていた。有希子は、肩に置かれた手の重みを、ゆっくりと自分の方へ引き寄せればいいのだと分かっていた。分かっていながら、背中がうすくこわばって、まるで知らない男に触れられたように呼吸が上擦った。
「ごめん、今日は本当に疲れてるの」
そう言って身を引くと、夫は何度も瞬きをして、困ったように口元を緩めた。
「最近、ずっとそれだな」
「……そう? でも、ほんとに疲れてて」
「歳のせいか。……ならいいけど、無理して返事しないで、早く休めよ」
夫はそれ以上追わなかった。いや、追えなかったのかもしれない。有希子は夫の手から逃れるたび、胸の底で小さな後悔を飼いながらも、荒川の土と汗の匂いを、自分の肌へ摺り込むことばかりを考えていた。玄関の鍵を閉め、台所の灯りも点けないまま浴室へ向かう。服を脱ぐと、汗を含んだ布が肌から剥がれるたび、指先にまだ荒川の熱が残っているようで、彼女は軽く目を伏せた。夕方の光が磨りガラスを橙に染め、浴槽に注いだ湯がしんしんと音を立てる。湯面へ足先を沈めると、太腿の内側がまだ火照っていて、あの人の腰の重さを思い出させる。
身体を洗おうと石鹸へ伸ばした手を、途中で止めた。今日は、その匂いを全部消してしまうのが惜しかった。土と汗と精液と、自分自身の愛液が混ざり合った残り香。それを湯に流す代わりに、有希子は胸元へ手を滑らせ、濡れた乳首をそっと指で押し潰した。ぷちゅりと小さく鳴る。腹の下へ指を下ろすと、まだ赤く熟れた入口が、指を誘い込むように開いた。
「……あの人も、今ごろ、帰り道ね」
声に出せば、湯気の向こうに荒川の背中が見える気がした。軽トラックの座席に揺られ、作業着の袖口から土の匂いをこぼしながら、無口なまま夜の道を走っている。彼女の身体の奥には、彼が残していった温かいものと、祖父に教えられた古い疼きが、同じ場所で静かに澱んでいた。湯の揺らぎが、拓かれた内壁のひだをやわらかく舐め、膀胱のあたりに残る尿の味の記憶まで呼び覚ます。
夫はもう寝たはずだった。夕食の席で、あの人は「今日も遅くなるから、先に食べてて」と言った。有希子はその言葉を胸の中で何度も反芻しながら、縁側の荒川の指を思い出し、台所の夫の声を思い出した。週に三回、こうして身体を重ねる日々が続くほど、夫の帰宅を待つ時間は逆に長く、白々としたものに変わっていった。彼女は毎晩、こうして風呂に沈み、自分に残った男の匂いを確かめることでしか、日付の変わらない夜を越えられなくなっていた。
湯を掬って顔へかけると、しょっぱい雫が唇の端に入り込み、昼間の匂いが鼻の奥で蘇った。有希子は浴槽の縁へ頭を預け、伸ばした足の先を見つめながら、長く息を吐いた。夕暮れが完全に翳るまで、祖父と荒川の二人分の温度を、まだこの身体に抱きしめていたくて、彼女は湯の中に沈んだまま動かなかった。台所で夫が残りのビールを一口飲む、かすかな喉の音が、遠い部屋から水音のように届いていた。
第5章 土に還る指と残された熱

第5章 土に還る指と残された熱
金木犀の香りが寝室の障子をすり抜け、風のない夕暮れの空気に沈んでいた。十月に入っても昼の暑さが尾を引いていて、畳には日中の温もりが染み込んだままだった。有希子は二階の寝室へ荒川を案内していた。庭ではなく屋内へ、それも夫と自分の寝床へ彼を上げたことには、その日だけの覚悟に似たものがあった。
荒川は部屋の入り口で立ち止まり、低い声を落とした。
「奥さん、ほんまに、ここで……ええんか」
「今日は誰も帰ってきません。だから、荒川さんの好きなようにしてもらおうと思って」
有希子はそう答えると、彼の作業着の袖を引いた。汗と土が混ざった匂いが、ふと顔の周りを温かく包む。何十回と吸い込んだ、あの加齢臭。そのたびに祖父の呼吸を思い出して、胸の底がきゅうと縮まるのを感じた。
「後ろからでも、口でも。私のこと、最後まで貰ってくれますか」
「奥さん、そういう言い方はやめてください」
荒川は困ったように眉を寄せ、それでも有希子の腕をそっと外すことはしなかった。彼の指が彼女の襟元へ触れて、リネンのボタンを一つずつ外していく。節くれだった指に、また黒い土が爪の縁まで残っていた。土の粒が素肌に触れるたび、襟元に細かい泥がこぼれ、有希子は自分の身体の奥から温かいものが広がっていくのを感じた。
布団の上で後ろを向いて四つ這いになると、畳の青い匂いと、荒川の身体から流れ出る土の匂いが、下からむわっと立ちのぼった。荒川はいつものように無言で彼女の太腿を割り、ごつごつした手のひらで彼女の尻を包む。その掌の固い感触が祖父の手と重なって、有希子は息を浅く繰り返した。
「……きついやろか」
荒川の声が、彼女の背中に落ちてきた。返事の代わりに、有希子は彼の中指を自分の後ろの窄まりへ押し当てる。唾液と汗で濡れた指先が、くちゅりと音を立てて肛門の縁をなぞり、ゆっくりと中へ沈んでくる。痛みと、焼けつくような熱。彼女は枕に額を押し付けて、咽喉の奥で声を殺した。
やがて硬いものが後孔を押し広げ、ぬぷ、と深くまで入ってきた。祖父のものとは違う、肉ある太さが腸の奥を押し上げる。有希子の腰は畳へ臥せったまま、彼の律動に合わせて揺さぶられた。ぴたぴたという肌の音と、荒川の荒い息だけが、静かな家の中に流れていた。
「……奥さん、俺、もう……ええか」
荒川が彼女の肩に口を寄せて囁いた。有希子は首だけで振り向いて、唇を開けた。彼は彼女の後ろからぬるりと抜くと、汗ばんだ亀頭を舌の上へ差し出してくる。汗と、土と、それから少しの尿の匂いが、口の奥でぐらりと揺れた。舌先で先端を舐めながら、有希子は祖父の味を探した。荒川の精液は、あの人のものより薄くて、少し弱々しかった。それでも、喉の奥へ流し込まれるときに、突き放せない温かさがあった。
「ん……ごく……ん……」
有希子が精液を飲み干すと、荒川は乱れた息のまま、彼女の顔を両手で包んだ。その顔が、夕暮れの薄明かりの中で、彼女には驚くほど穏やかに見えた。
「奥さん、俺、しあわせですわ」
低い声が、汗ばんだ畳の上に落ちた。有希子の頬を伝う彼の指が、少しだけ震えていた。祖父も、最期の夜に同じようなことを言った。あの時も、笑っていた。有希子は心臓のあたりがきゅうと痛むのを感じながら、その顔をただ見つめていた。
荒川は有希子の身体を拭き、自分も身なりを整えると、音もなく寝室を出ていった。一人になった有希子は、窓の外を流れる夜風を浴びながら、口の奥に残る精液の味を、噛み締めるように舌で転がしていた。
翌朝、玄関の呼び鈴が鳴った。有希子はまだ眠りの淵にいた身体を起こし、乱れた髪のまま薄暗い廊下を歩いて、外へ出た。門の前に立っていたのは、見知らぬ男だった。細身の身体に濃紺のカーディガンを羽織り、黒い鞄を胸のあたりに抱え、何度も小さく頭を下げながら、荒川のアパートの管理人だと名乗った。
「朝から申し訳ありません。昨夜、荒川さんが……お亡くなりになりました」
管理人の声は、十月の澄んだ空気に吸い込まれていくように小さく、有希子はしばらく意味が取れなかった。唇が半開きになったまま、男の顔の輪郭だけを追っていた。
「心臓……だったそうです。お部屋の畳の上で、苦しまれた様子もなく」
その言葉を聞いた瞬間、有希子の指は台所の戸口に置きかけていた茶碗の縁を滑り、床へ落としそうになった。指先が細かく震え、茶碗の中のぬるい水が指のあいだを伝って流れ落ちる。目の前が暗くなる、というよりも、視界のすべてが遠くへ引いていくようだった。朝の光も、管理人の黒い鞄も、欅の葉擦れの音も、一枚の薄い幕の向こう側へ遠のいていく。
祖父の死の記憶が、皮膚の下からいっきに這い上がってきた。畳の上で、苦しまずに。祖父もそうだった。あの日も同じように、誰かの声が遠く、自分の下で祖父の心臓がゆっくり止まって、浴室の白いタイルと石鹸の泡の白さが、目の裏でちかちかと明滅していた。有希子は流しの縁に手をついた。指先は冷え、蛇口の金属の冷たさだけが、彼女をその場に立たせていた。
管理人によると、荒川の顔には笑みのようなものが浮かんでいたらしい。有希子は台所に立ったまま、流しの縁に手をついていた。蛇口の冷たさが指の骨まで浸みて、それ以上の言葉を飲み込んでいた。
その夜、有希子は荒川の通夜に参列した。小さな斎場の入り口には白い菊が飾られ、線香の煙が低くたなびいていた。隅の祭壇に、荒川の写真が据えられていた。作業着ではなく、一張羅のスーツを着た写真。照明を受けて、写真の上で白く光っていた。
有希子は焼香台の前に進み、畳に額をこすりつけるように頭を下げた。顔を上げ、もう一度、その笑った顔を見た。あの庭の木立の下で、剪定ばさみを置いてこちらを振り返った横顔。麦茶のグラスを受け取ったとき、節くれだった指が一瞬だけ自分の指に触れたこと。縁側に腰かけたまま、庭の土を落としていた背中。白い袋に詰めた落ち葉を運んでいた後ろ姿。低い声で「いけませんよ」と言いながらも、決して彼女の手を払いのけなかった腕。土と汗の匂い。雨の日の泥の匂い。汗で濡れたシャツの背中。それらが、まるで走馬灯のように、有希子の目の裏をゆっくりと流れていった。
読経の声が遠くで波のように続いていた。有希子は鼻をすすり、焼香台の下の畳の縁を指先で意味もなくたどった。写真の中の荒川は笑っていて、その顔ばかりが目に焼き付いた。
家に帰ると、庭が闇に沈んでいた。有希子は勝手口の灯りを点けず、土の上に立ち尽くした。昼間の熱はもう消えていて、冷えた土が素足を刺す。金木犀の香りは夜濃くなって、どこか甘い死の匂いのようにも思えた。祖父と荒川、二人の男の土と汗と精液の匂いが、有希子の身体の中にまだ残っている。それだけが、二人が生きた証のように、彼女の鼻の奥で夜通し鳴り続けていた。
第6章 庭に残る二人分の影

第6章: 庭に残る二人分の影
縁側の板が、西へ傾いた陽を浴びて、乾いた木の匂いを静かに放っていた。十月の末、風は冷たく澄んで、伸び放題の雑草が庭の隅でかさかさと身を寄せ合っている。有希子は羽織を膝に乗せたまま、目を細めて庭を見つめていた。
土の匂いを含んだ風が、頬をかすめて通り過ぎる。あの日から、庭は誰の手も入らず、足首まで草が生い茂っていた。荒川登志夫が最後に植えた彼岸花の球根は、土の下でひっそりと眠っている。その不在が、庭のあちこちに影となって落ちていた。
有希子は縁側から降り、濡れた土を踏んだ。素足ではなかったのが救いだった。草を抜こうと屈みこむと、スカートの裾が風に揺れて、太腿に冷たい空気が這い上がる。十月の空気は、肌に触れると細い針のように鋭く、それでいて、どこか懐かしい冷たさを含んでいた。乾いた草の葉が、彼女のふくらはぎに触れて、さやりと音を立てた。
指先を地面へ差し入れた瞬間、ひんやりとした土の感触が、手のひら全体に広がった。粒の細かい砂と、腐葉土のやわらかさ。その下にある、しっとりと冷えた粘土質の重み。土はまだ昼の陽をかすかに残していて、表面は乾いているのに、少し深く指を入れると、湿った暗い温度が指先を包み込んだ。爪の先まで、土の冷たさがしみ込んでくる。
有希子の指が、ゆっくりと雑草の根を探り当て、引き抜いていく。細い根が土にしがみついて、指先に抵抗の感覚を送ってくる。あの人の指も、こうして土の中を掻き分けていた。節くれだった太い指が、地面にめり込んで、小さな根を一本ずつ丁寧に取り除いていく。有希子の指は細く、すぐに土の冷たさに染まってしまうけれど、あの人の指は、土と同じ温度になっても、なお熱を保っていた。
「あの指は、もう、どこにもない」
声に出さずに、有希子の唇だけが動いた。鼻の奥に、あの加齢臭と汗の匂いが、かすかに蘇る。作業シャツの背中に染み付いた、土と混じり合った男の匂い。汗と、乾いた草と、畑の肥料と、長年日光を浴びてきた肌から滲む、独特の匂い。風が吹くたび、有希子は無意識にその名残を探して、空気を深く吸い込んでいた。
草を一握り抜いたところで、指先が土に食い込み、爪の間に黒い泥が詰まった。この泥を、あの人も落とさないまま、あの作業ズボンのポケットに手を入れていたのだろうか。作業ズボンの布地に泥がこすれて、黒い染みになっていくのを、有希子は何度も間近で見ていた。土が乾いて、布の繊維の奥で白っぽく筋を作る様子まで、覚えている。
そう思うと、喉の奥が熱くなって、有希子は顔を上げた。庭の木々が、夕暮れ前にしては深い影を落としている。椿の葉は厚く、西陽を受けて艶を返し、樫の木は枝を広げたまま、彼女を見下ろしていた。木々の沈黙の色が、胸の内に重なって落ちてくる。
どれくらいそうしていたのだろう。不意に、門の外で車のタイヤが砂利を砕く音がした。砂利が軋み、車のドアが閉まる音が、夕方の静けさに響く。
夫の帰宅だった。いつもの黒い革靴が、ゆっくりと歩道を踏み、門をくぐってくる。ワイシャツの胸元が汗で薄く濡れ、ネクタイが少し緩んでいた。夫の姿を見ると、有希子の背中に隠した指先が、無意識に強く握り合わされた。泥が手の中でつぶれて、指の隙間から湿った土がこぼれ落ちる。
夫は庭の惨状を見て、足を止めた。
「庭、荒れてるな。ずいぶん伸びたじゃないか」
低い声が、夕方の空気に広がる。有希子は泥のついた手を背中に隠しながら、ゆっくりと立ち上がった。土がめり込んだ指先が、背中で小さく震えている。
「そうね。私がそのうちやるつもりでいたの」
「一人でか。広いだろ、あれを全部やるのは。業者、頼むか」
夫の目は、土の上の草ではなく、有希子の顔をまっすぐに見ていた。その視線は、心配というより、少し困惑した色をしていた。有希子の指先にこびりついた土の匂いを、夫は何か別のものと混同しているようにも見えた。
「いいの。自分でやるから」
有希子は首を横に振り、背中に回した手を前に戻した。指先の泥が、乾いて白っぽくなっている。その白さが、夕陽の色の中で異様に明るく浮かんだ。
夫はしばらく庭を見ていたが、やがて小さくため息をついて、玄関へ歩き出した。
「無理だけはするなよ。最近、顔色も良くないしな」
足音が、砂利を噛みながら遠ざかっていく。その後ろ姿を、有希子は動けずに眺めていた。夫の背中は、荒川さんのように土の匂いを運んではこなかった。ワイシャツからは、オフィスの空調と、汗の乾いた匂いが薄く漂うだけだった。その匂いの薄さが、かえって胸の内の空洞を広げていく。
夕食の支度を始めると、台所の窓から、庭の雑草が風に揺れる音が聞こえてきた。かさかさ、と枯れた葉が擦れ合う音が、窓ガラスを伝って滑り込んでくる。有希子はエプロンの紐を背中で結び、包丁を取った。手を洗うと、泥が水と一緒に流れ落ち、排水口の金網に細かい砂が溜まった。金網の目に詰まった砂を指でこすりながら、しばらく水流を見つめていた。指の間のざらつきが、水に溶けるまでに、長い時間がかかった。
この砂も、あの人の作業シャツの奥に、ずっと入り込んでいたものだ。作業シャツを脱ぐとき、砂がパラパラと床に落ちる音。あの人の背中に白く残る汗の跡と、土の粒子。指先のざらつきを、有希子はもう一度、唇で確かめようとして、やめた。唇につけたら、きっと、あの人の指の味まで思い出してしまう。
大根を薄切りにしながら、まな板の音だけが台所に響いた。ことん、ことん、とリズムが途切れるたび、庭の草の音が静かに割り込んでくる。夫がテレビをつけた気配が、居間のほうから聞こえてきた。
「今日の味噌汁、しじみにしたの」
食卓に並べながら、有希子は夫に声をかけた。彼はリモコンを置いて、椅子を引いた。
「いいな、この季節はしじみが旨い。最近、胃が疲れてたから、嬉しいよ」
夫はそう言って、茶碗を受け取った。二人分の箸が、瀬戸物の箸置きに並ぶ。湯気が天井に向かって、しずかに立ち昇っていく。しじみの出汁の匂いが、台所と居間の境界をゆるく溶かしていった。
「今日、会社で何かあったの」
「いや、別に。普段通りさ。お前こそ、本当に無理してないか。昼間、何をしてたんだ」
「庭を、少し見てたの。草が伸びたなって」
「ああ。あんなに広いと、素人じゃ手に負えないだろ。俺も休みに手伝うよ」
夫の言葉に、有希子は味噌汁を口に運びながら、曖昧に頷いた。手伝ってほしくなかった。あの土に、夫の手が入るのも、荒川さんの影が薄れるのも、どちらも怖かった。しじみの殻から滲む汁の温さが、舌の上で薄い膜を作った。
「……ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
「ふうん。まあ、いいけど。お前、最近、前より寡黙になったな」
そう言われて、有希子は箸を止めた。自覚はなかった。けれど、言われてみれば、三週間前まで埋まっていた空白が、また広がっている。あの人と会う前より、もっと深い空洞になっている気がした。器の中の味噌汁に、自分の顔が薄く映って、ゆらゆらと歪んでいた。
「そうかしら。年のせいかも」
「四十過ぎたら皆そうなるよ。俺も、仕事だと愛想ばかりで疲れるんだ」
夫は茶碗の飯をかき込み、テレビの天気予報へ目をやった。会話は、それ以上続かなかった。食卓の上には、しじみの殻が、から、から、と小さくぶつかる音だけが残った。薄暗い居間の中で、その音だけが、やけに大きく耳に残った。
片付けを済ませてから、有希子は風呂の支度をした。夫は先に、明日の朝が早いからと、居間でスーツを脱いでいた。ベルトが外れる音と、ワイシャツの布が擦れる音が、薄い壁越しに聞こえる。
浴室に入り、服を脱ぐと、鏡に映った自分の身体が、夕方の光に染まっていた。鎖骨の上に汗のあと、下着の跡が肌に赤く残っている。ブラジャーのワイヤーが食い込んだ跡が、乳房の下に細い弧を描いていた。乳房は、少しだけ張りを失って、重力に従っていた。それでも、乳首は淡い茶色に色づき、肌の白さの中で小さく存在を主張している。腹の下の部分は、まだ柔らかく沈み、真ん中に指を沈めると、熱い。陰毛がその熱を覆うように、薄く黒く、まとわりついていた。
脱衣所で下着を取り去り、浴室のドアを閉めた。小さく音を立てて、扉が閉まる。まずはシャワーを出した。お湯が、肩から背中へ流れ落ちると、昼間に庭で浴びた風の冷たさが、ゆっくりと溶けていく。湯は肌の上を滑り、背骨の窪みに沿って流れ、臀部の膨らみを伝い落ちていった。
石鹸を泡立てる。手のひらの中で、白い泡がふくらみ、指の間から溢れそうになった。泡の感触は、柔らかくて、ぬるくて、それでいて、肌の上の塩分を溶かしてしまう強さがあった。あの日の石鹸も、こんなふうに、祖父の手の中で泡立っていた。風呂場の白いタイルが、湯気の向こうで滲む。
有希子は胸元へ泡を塗り広げた。ぬるりと掌が滑り、乳首の上を通過するたび、胸の奥が小さく震えた。泡が乳輪の皺をなぞり、乳首の先端に溜まる。掌で押しつぶすように動かすと、ざらりとした泡の細かい粒が、敏感な突起をちりちりと刺激した。「……ん」と、声が浴室に短く漏れた。
指を下腹部へ移動させ、太腿のつけねへ触れたとき、泡と一緒に、あの感覚が蘇ってくる。祖父の太い指が、幼い有希子の割れ目を割り開き、石鹸のぬるつきを入り口にまで塗り込んでいた。石鹸の泡が、幼い陰唇の襞の一つひとつを滑り、ぬめる感覚を奥まで運んでいく。風呂の湯気の中で、祖父の指は迷いなく、彼女の恥ずかしい場所を清めながら、いつも少し長く、その中心を擦った。
「気持ちいいか」
耳の奥で、低い囁きがよみがえった。今度は、荒川さんの声が重なる。
「それは、ええんですか」
二人の声が、湯気の中で折り重なり、有希子は目を閉じた。指が、無意識にクリトリスを探り、泡の膜の上から円を描く。ぬるい泡の下で、突起は熱く脈打ち、指の腹にひくひくと反応する。指が動くたび、下腹の奥がきゅう、と引きつれるように疼いた。
「……ん、はぁ……」
鼻から漏れた声が、浴室にこもった。身体の奥が、まだ疼いている。あの人の太い陰茎と、祖父の硬い指と、二人分の熱が、有希子の中の同じ場所に、今も住み着いている。二つの熱は重なって、彼女の膣の奥を、昼も夜もなく、緩く満たし続けた。
有希子は泡越しに指の動きを速めた。中指と薬指で、陰唇の襞をゆっくりと割り開く。ぬるぬるとした泡が割れ目に沿って滑り、入り口の粘膜にまとわりつく。指先が、膣口の柔らかい肉に触れると、そこは泡と自分の体液で、もうとろっと溶けかけていた。くちゅ、と小さな音が、湯気の奥から浮かび上がる。
「あ……ぁ……」
吐息が漏れる。指の腹で、腫れたクリトリスの周りを、ゆっくりと時計回りに撫でた。そのたび、身体がふる、と小さく震えて、太腿の内側が痙攣のように細かく動いた。もう片方の指は、まだ膣口の浅い場所を、遠慮がちになぞっていた。
祖父は、もっと深くまで指を入れて、石鹸の泡を奥の襞にまですり込んだ。有希子の中を掻き回すようにして、声にならない声を出させた。荒川さんは、あの太い指を彼女の中に差し入れ、節くれた関節で前壁をこするように曲げた。二人の指の形が、有希子の内壁に、はっきりと記憶の痕を残している。
「……あ、んん……」
有希子は自分の指を、ぬるりと入り口に沈めた。指の第一関節が肉に包まれ、熱い内壁が締め付ける。自分の指では足りない、足りるはずがない。祖父の指はもっと太く、荒川さんの指はもっと節くれていて、長く、奥の柔らかい場所まで届いた。有希子は指を曲げ、内壁のざらざらした天井の面を、こすり上げるように動かした。ごり、と指の骨が内側から響く感覚。その振動が腹の底にまで届いて、視界の裏が白く明滅した。
「……ひ、ぅ……」
水面に落ちるように、声が漏れた。股の間から、泡と混じった愛液が、とろとろと太腿を伝い落ちていく。その粘りが、浴室の空気に甘い匂いを広げた。有希子の匂いだった。女の身体が熱を持ったときの、奥のほうから滲み出す匂い。それを祖父は、きっと知っていた。荒川さんも、あの土と加齢臭の匂いの下で、彼女の濡れた匂いを嗅ぎ分けていた。
シャワーで泡を流すと、肌の上を、泡と一緒に熱が滑り落ちていった。指の間の泡が消えても、まだ、クリトリスの根元はひりひりと火が残っている。湯船に肩まで沈んだ。天井を見上げると、曇りガラス越しに、夜の匂いがかすかに流れ込んでくる。湯船のお湯が、彼女の動きに合わせて、ちゃぷん、と揺れて、湯面が波紋を描いた。
その時、背中に、つきん、と冷たい感覚が走った。畳の冷たさ。荒川さんが心臓発作で倒れたという、あの夜の布団。祖父が息を引き取った部屋の、硬い床。二人の男が、最後に触れていた場所の感触が、湯の中の有希子の背骨を、一瞬、氷のように撫でた。
「……いや」
声が、水面に落ちて、また静寂に戻った。有希子は膝を抱え、胸の前に折り畳んだ。お湯が揺れる。残された熱の輪郭を、この身体に確かめるように、自分の肩を、二の腕を、太腿を、有希子はそっと抱いた。自分の腕の中にある身体は、温かくて、まだ内側から火照っていて、それなのに、とても冷たかった。
誰もいない。祖父も、荒川さんも。この浴室には、有希子一人だけ。それなのに、二人分の指と声と、土と加齢臭の残像が、彼女の肌の表面を這い回っている。背中には畳の冷たさ、胸には石鹸の泡のぬめる感触、鼻の奥には土と汗の匂い。それらが、湯気の中でゆっくり混ざり合い、有希子を包んだ。
風呂から上がると、夫はすでに布団を敷いて、背を向けて横になっていた。夫の寝息が、薄暗い寝室に満ちている。有希子は明かりを消し、静かに隣へ滑り込んだ。布団の中は、夫の体温と、使い古した綿の匂いがしていた。
暗闇の中で、夫の寝息が規則正しく聞こえてくる。有希子は仰向けのまま、目を閉じ、まだ熱い身体の中心に、そっと手を置いた。掌が、下着の上から、自分のあたたかい吐息のような熱を受け止める。そこには、荒川さんの精液の温度も、祖父の唾液の名残も、もう何も残っていない。それでも、有希子の身体の奥は、二人の男の指を記憶している。指の形、動き、挿し入れられた角度、内壁をこすった節くれの感覚。それらが、熱の波として、まだ、身体の奥底でゆっくりと打ち寄せていた。
庭の雑草は、明日もまた、少しだけ伸びるだろう。有希子はこの家で、夫のいない昼間に、草を引き、土に指を入れて、失われた男たちの熱を、もう一度だけ確かめるのだ。そうすることが、彼女の身体と、彼らが遺した土とを繋ぐ、唯一の道だった。
夜の風が、庭木を揺らす音が、障子越しに聞こえてきた。かさり、と枯れ葉が軒を転がる。その音を聞きながら、有希子は自分の身体を抱く手に、もう一度だけわずかに力を入れた。掌の下で、熱の輪郭が、静かに、しかし確かに脈打っていた。
登場人物
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有希子 ゆきこ女性 ・ 42
外見: 栗色の肩甲骨までの緩い波打つ髪、琥珀色の瞳、やや細身だが胸と腰に丸みを残した体格。服装: リネンのシャツワンピースやタンクトップにスカート、家ではノーブラの部屋着。穏やかだが内面に渇きを抱え、夫や近所には従順を装う。夜の風呂で自分の身体を抱く癖がある。
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荒川登志夫 あらかわ としお男性 ・ 61
外見: 白髪混じりの短く刈った黒髪、濃い焦茶の瞳、土仕事で締まった体格、低い声。服装: 色褪せた作業シャツと綿パンツ、腰に手拭い。無口で職人気質、照れると黙って手を動かす。加齢臭と土の匂いが染み付いている。
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祖父 そふ男性 ・ 68
外見: 記憶の中の白髪交じりの短髪、褐色の肌、ごつごつした大きな手。服装: 家では白い肌着と綿パンツ、風呂場では裸。穏やかだが有希子の身体を支配する低い声を持つ。故人。
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夫 おっと男性 ・ 44
外見: 短い黒髪に白髪まじり、疲れた目、中肉中背。服装: スーツ、家ではジャージ。家庭を守るために働くが妻の内面に無関心な会社員。





