無防備な自宅へ招いた小柄な同級生の黒い巨根に幼馴染と妹が恥辱の水音を刻まれ兄だけが知らない背徳の春
あらすじ
空也は同級生の荒神仁がいじめられている場面を助け、寧音と共に友達となる。学力に不安がある仁を自宅に招き、放課後の勉強会を始める。無垢な空也の視点から、仁の弱々しい笑顔と自宅の平穏な空気、寧音の白い肌が放つ甘やかな存在感が綴られる。仁の伏し目がちな黒い瞳の奥に、空也は微かな違和感を覚えるが、すぐに打ち消す。空也は仁に寧音のことを「自慢げに」話し、恋心を打ち明ける。仁の「優しい助言」に空也は無防備に感謝する。仁は夜の仕事帰りの母の匂いを思い起こし、華奢な秘部を内側で熱く脈打たせながら空也の信頼を見つめる。章末は仁が「ここ、落ち着くね」と呟き、空也の家に溶け込む姿で終わる。
第1章 放課後の救済と白い部屋の匂い
第1章: 放課後の救済と白い部屋の匂い
放課後の西日が、校舎の渡り廊下に長く伸びていた。文化部の掛け声が遠くでまるく響き、開け放たれた窓から吹き込む風が、真木川空也の襟元を柔らかくくすぐる。帰り支度を終えた彼は、ふと足を止めて、校舎裏へと続く非常階段のほうへ顔を向けた。人の気配が、かすかに争うような空気のざわめきを帯びていたからだ。
空也が躊躇いなく近づくと、壁際に数人の男子が群がり、その中心で小柄な影が肩を竦めている。荒神仁だった。制服の袖は少し泥で汚れ、前髪の下で伏し目がちな黒い瞳が、行き場をなくして揺れている。名前は男らしいのに、と揶揄う声が薄笑いとともに投げられ、仁は言い返せず、唇の端をぎゅっと噛んでいた。
「おい、何してるんだ」
空也の声は、自分で思うより硬く渡り廊下に響いた。いじめる側が一瞬、気まずそうに顔を見合わせ、一人が舌打ちして離れていく。薄い胸板が小さく上下して、仁だけがその場に残された。彼の身体は華奢で、制服の下の骨格が触れれば折れてしまいそうな影をまとっている。
「大丈夫か、仁くん」
空也は近づいて、しゃがみこむように彼の顔をのぞき込んだ。仁の黒い瞳が、はじめて気づいたように空也を映す。その視線には、警戒とも安堵ともつかないかすかな膜が張られていた。
「……大丈夫、です」
声は蚊の鳴くほど細く、語尾がはかなく消えていく。空也は制服のポケットからハンカチを出して、仁の袖の汚れを軽く払った。泥の跡は薄い布地に吸い込まれていたが、傷はないようだ。
「あんまり気にするなよ。あいつら、暇なんだよ」
そこへ、ひたひたと控えめな足音が近づいてきた。振り返ると、源寧音が少し息を弾ませて立っている。腰まで届く艶やかな黒髪が、動きを追うたびにさらさらと光り、白いブラウスの襟元からは、透き通るように白い首筋がまっすぐに伸びていた。大きな茶色い瞳が空也と仁を交互に見て、心配そうに細められる。
「空也、どうしたの?」
「ああ、寧音。ちょっとな、仁くんが絡まれてたから」
寧音は口元に小さく手を当て、それから、しゃがんで仁と視線の高さを合わせた。
「仁くん、大丈夫? どこか痛いところはない?」
仁は一瞬、寧音の白い肌に思わず目を奪われたようにまばたきをして、首を横に振った。その仕草がかえって痛々しいほど控えめで、空也は胸の奥をすう、と冷たいものがよぎるのを感じた。彼はもう仁の肩を軽く叩き、笑って見せる。
「なあ、よかったら一緒に帰らないか。俺も寧音もこれから帰るとこだし」
寧音もにっこりと微笑んで、小さくうなずいた。
「そうしましょう。仁くん、途中まででも」
仁はしばらく二人の顔を見つめていたが、ようやく口を開いた。声はおぼつかなく、呼吸に溶けるような頼りなさを帯びている。
「二人とも、いい人……なんだね」
空也は照れて後頭部をかいた。その無邪気な仕草を、仁の黒い瞳が静かに見つめる。夕日が校舎の窓を朱に染め、渡り廊下に三人分の影がやわらかく並んだ。
帰り道、会話は自然と学校のことに流れた。仁は学年でも成績がふるわず、授業についていくのがやっとだと、伏し目がちにこぼした。教科書の文字が頭に入らないまま放課後を迎えることが多いのだと言う。声は小さく、時折、語尾が空気に吸い込まれて消えていく。
空也がおせっかいにも胸の内を明かした。
「だったらさ、うちで勉強しないか。教えられるかはわからないけど、一緒にやるだけでも違うだろ」
仁はまばたきを繰り返し、その誘いの真意を探るように空也を見上げた。小柄なぶんだけ、見上げる角度がことさら幼く映る。それでも仁は迷いを飲み込むように、こくりと首を縦に振った。
「じゃあ、私もお邪魔していいかな。仁くん一人だときっと心細いし」
寧音が柔らかく申し出ると、仁の頬にかすかな緊張が走る。彼の黒い瞳の奥を、空也はほんの一瞬、底知れない深さに感じた。けれどそれは、照れと遠慮が混ざった年頃の少年によくある曖昧さにも見えて、空也は「いいね、来ようよ」と笑い飛ばした。
真木川家のリビングは、陽の名残を含んだ窓辺の空気がゆっくり沈む場所だった。空也は母に断りを入れてから、仁と寧音を長方形のテーブルに座らせる。麦茶の入ったコップが三つ、途切れなく鳴く蝉の声を背景に並び、参考書とノートがひらかれる。
「ここ、ほんとに静かだね……うち、けっこううるさいから」
仁は物珍しそうにあたりを見渡し、声を小さくこぼした。空也はその言葉に、自然と胸があったかくなって、自分の家が恥ずかしくも誇らしかった。
「そうか。仁くん、家で勉強できないなら、これから毎日でも来いよ」
「うん、ほんと……助かる」
仁は初めて、目尻をわずかに和らげるように笑った。伏し目がちな黒い瞳が少しだけ持ち上がり、その顔に、ようやく年相応のあどけなさがのぞく。空也はそれを見て、ほっと息をついた。
一方、隣に座る寧音は、ノートの上に長い黒髪がこぼれないよう耳にかけながら、静かにペンを走らせる。白いブラウスの袖口から伸びる手首は細く、光を受けると陶器のように青白く透きとおった。蜂蜜のように甘やかな、かすかな柔軟剤の香りが、彼女の髪が揺れるたびにふわりと空也の鼻先をかすめる。心臓が知らず知らずのうちに速まるのがわかった。
「空也、この公式、ここで使うんで合ってる?」
寧音が顔を上げて、茶色い瞳をまっすぐに向けてくる。空也はどもりそうになるのをこらえて、ノートをのぞき込んだ。彼女の爪は薄い桜色をしていて、文字の下をなぞる指先が可憐に曲がる。近づいたぶんだけ、白い肌のきめの細かさがはっきり見えて、目を逸らすのに少しだけ勇気が要った。
「あ、ああ、合ってるよ。そのあと、こっちの式に代入するから」
「よかった」
微笑む寧音の横顔を、空也はまったく別の角度から見ているようでもあった。幼い頃から一緒に育ってきたのに、こうして向き合うたびに、彼女の輪郭は毎度あたらしい発見のように眩しく立ち上がる。
休憩がてら、仁をリビングに残して、空也は台所で追加の麦茶を注いだ。氷がコップに当たって、涼やかな音が鳴る。戻ると、仁は開いた参考書をじっと見つめたまま、動かなかった。黒い前髪がさらりと落ちて、小さく尖った鼻先だけがのぞいている。伏し目がちな横顔は、何かを耐えているふうにも、ただぼんやりしているふうにも見えた。
「仁くん、もしかして疲れたか?」
「……ううん、平気。ちょっと、ここの行を読んでた」
仁は顔を上げ、空也を見つめた。その黒い瞳は静かで、薄いガラス玉のように澄んでいるのに、奥で何かが熱を帯びて渦巻いているような錯覚がある。空也は首を振って、その印象を心の隅に追いやった。殴られたような胸騒ぎの正体に、覚えがないほうがいい、と無意識のうちに線を引いていたのかもしれない。
「仁くん、そういえばさ。俺、仁くんと同じクラスになってから気になってたんだけど、前から一人でいること多かったよな」
空也がコップを手渡しながら問いかけると、仁は一口飲んで、ゆっくりと口を開いた。
「……人と話すの、うまくできないから」
「そっか。でも、こうして話せてるじゃん」
仁の指がコップの水滴でしめった。彼はその指をズボンの膝にそっとぬぐい、ことばを探すように首を傾げる。
「空也は、なんていうか……あったかい」
その素直な物言いに、空也は照れて笑った。
「大げさだって」
寧音も隣で微笑み、湯気の立たない麦茶をひとくちふくむ。空気がやわらかくほどけて、三人の間に、まだ名前のつかない居心地のいい距離が生まれた。
やがて勉強は一段落し、空也は仁に、幼い頃から寧音と一緒に育ってきたことを得意げに話し始めた。小学生のときの登下校、夏祭りで迷子になった話、彼女が実は高いところが苦手で、観覧車の前では何度も引き返してしまうこと。そんな小さな思い出を、空也は我ながらくどいほど嬉しそうに並べた。
「寧音さ、見た目はおとなしいけど、意外と頑固なんだよな」
「ちょっと、空也。そんなこと言わないで」
寧音は抗議するように眉を寄せ、そのせいで白い頬に淡い朱がのぼる。空也は彼女のその反応に、くすぐったい幸福を感じながらも、仁の手前、言葉を続けるのに少し照れた。
「ま、でも、ほんとにいい子なんだ。仁くんも、きっとすぐわかるよ」
仁は黙って二人を交互に見つめていた。時折、黒い瞳が寧音の白い肌の上をゆっくりと滑る。まるで輪郭を指先でなぞるように、でも視線は淀みなく穏やかなままだった。空也は気づかない。その視線の湿度に、含まれた熱に、まったく気づかない。
「……うん、寧音さん、すごく優しいと思う」
仁がぽつりと言うと、寧音は恥ずかしそうに首を振った。柔らかな黒髪が、白いうなじのまわりにふわっと花開いて、夕暮れの光にとけて震える。
「もう、仁くんまで。そういうの、くすぐったいでしょう」
空也は三人の会話に胸が満たされ、このリビングの中だけ時間がゆるやかに水飴を引くように流れていると錯覚した。本当は蝉の声だって切れぎれに弱まっていたし、空はすでに淡い藍色を帯びていた。それでも、この一瞬が、記憶に残るほど澄みきっている。
仁がしばらく何かを考えたあと、口を開いた。
「空也はさ、寧音さんのこと……やっぱり、大切なんだね」
空也は心臓を柔らかく掴まれたようにどきん、と音を立てるのを感じた。
「え、まあ、そりゃあ、幼馴染だし。ついでに言うと、妹もいるんだけど、花凜って言うんだ。中学二年でさ、おれが帰ると毎日玄関まで走ってくるんだよ」
違和感を誤魔化すように、空也は妹の話へと話題をずらした。仁は笑みを深め、相槌を打つ。空也の家の中には、こうして家族の生活の気配がやさしく満ちていた。廊下の向こうで洗濯物をたたむ母の影がゆれ、台所からは夕食の支度が始まる油と醤油の匂いが漂ってくる。
仁は静かに息を吸い込み、その空気を肺いっぱいに満たした。誰も気づかない。彼のまぶたの裏で、もっと暮れの深い部屋の匂いが、かすかによみがえっていることを。甘ったるい香水、染みついた酒、慣れない男の煙草。夜の仕事帰りの母が、疲れた指先で仁の体に触れてきた記憶が、この清潔なリビングの空気の中で一瞬、異物のように浮かんだ。
「……ここ、落ち着くね」
仁の声は静かで、のどの奥に夜の記憶を沈めたまま、透明に響いた。
空也は笑って腕を伸ばし、仁の細い肩をぽんと叩く。
「なら、本当に毎日来なよ。寧音も、けっこうここには慣れてるし」
寧音は恥ずかしそうに下を向き、長いまつげを伏せて微笑んだ。空也はその横顔に見とれ、仁は二人を守るようにテーブルの隣で小さく息をついた。三人分のコップの底で、溶けかけの氷がちいさく歌う。夕暮れが、白い部屋の隅々にまで蜂蜜のように染みわたっていく。
空也はこの平穏が、きっと明日も明後日も続くと信じていた。仁の伏し目がちな黒い瞳の奥で、熱いものが静かに芽吹きながら脈打っていることも、彼はまだ何ひとつ知らなかった。
第2章 妹の無邪気な肌と夜の仕事の記憶

第2章: 妹の無邪気な肌と夜の仕事の記憶
夕方の光が真木川家のリビングをゆっくりと満たしていく頃、空也はソファの上で教科書を広げたまま、ペン先で数学の問題集の余白を何度かなぞっていた。キッチンからは湯が沸き立つかすかな音がして、換気扇の低い唸りが家じゅうに行き渡っていた。仁は向かいの座卓にノートを置き、前の章で解いたばかりの公式をうつむいた姿勢のまま復習している。そんな二人の間に、少し早い足音が近づいてきた。
「お兄ちゃん、仁くん、ごめんね。遅くなった」
リビングのドアが開くと、制服のままの花凜が肩で息をしながら立っていた。中学二年生の花凜は、肩につく程度の黒髪を汗で数本こめかみに張りつかせ、明るい茶色い瞳を心持ち潤ませていた。紺のスカートの裾は走ってきたせいで少し乱れ、かすかに覗いた太ももが柔らかそうな色を放っている。
「花凜、おかえり。走ってきたのかよ」
空也が振り返って笑うと、花凜は唇をとがらせた。
「だって、早く帰ってこないと仁くんが帰っちゃうかと思って。今日の勉強会、あたしも一緒に参加してみたいの」
「お前、仁くんだってまだ来たばかりだし、慌てなくても大丈夫だろ」
空也が苦笑しながら手招きすると、花凜は座卓のそばまで小走りで寄り、迷わず仁の隣に腰を下ろした。花凜の柔らかな黒髪からは、学校の廊下でまとわりついたほこりと、ほんのり汗ばんだ肌のにおいが混ざり合って漂っていた。仁はそのにおいを脾臓の奥まで吸い込むように一度だけ鼻を鳴らした。
「花凜ちゃん、こんにちは」
仁が小さな声で言うと、花凜は首をかしげて笑った。
「仁くん、こんにちは。あのね、あたし英語がすごく苦手でさ。宿題でわかんないところがあるんだけど、あとで見てくれる?」
「僕、英語あんまり得意じゃないよ。空也のほうが、きっと上手いと思う」
仁がうつむくと、前髪の影が黒い瞳に落ちた。花凜はその隣で、足を崩した姿勢になり、スカートの裾から細いふくらはぎと白い足首を無防備にさらしていた。その白さは、ほんの一瞬、空也の目にも留まった。空也は鼻の奥がむずむずするような、よくわからない感覚を感じてすぐに教科書へ視線を戻した。
「仁くんも、ときどき英語の宿題持ってくるじゃん。今度一緒にやろうよ」
花凜は背中を丸め、座卓に両肘をついて仁の顔を下からのぞき込んだ。中学生らしい高い声が、リビングの静けさに小さく弾け、空也はその声を聞きながら数学の問題を解き直していた。
「花凜、飲み物飲むか。今日、母さんが買ってきたジュースが冷蔵庫にあるよ」
空也が立ち上がりかけると、花凜はぱっと手を上げた。
「あたし、オレンジジュースにする。氷入れてほしいな」
「わがままだな」
空也が笑ってキッチンへ向かうと、花凜はその背中をじっと目で追い、足裏をフローリングにこすりつけていた。隣では仁がノートの端を指でたたき、何かを考えこむように黙り込んでいる。花凜はその横顔をじっと見た。
「仁くんって、いつもすごく静かだよね。学校でもあんまりしゃべらないの?」
「声が、あんまり通らないから。話しかけても、みんな気づかないことが多いんだ」
「あたしはしゃべるの好きだから、逆にうるさいって言われちゃう。お兄ちゃんにも、よく騒ぎすぎって言われるの」
花凜が笑うと、仁の口元にもうっすらと笑みが浮かんだ。その笑みは、夕日の柔らかい光の中でひどく弱々しく見えたが、仁の内側では、花凜の首元から立ちのぼる汗のにおいと、さっきまで空也が見せていた何気ない自慢話の温度が、まるで別の生き物のように渦を巻いていた。
「仁くん、あのね、あたし、仁くんに聞きたいことがあったの」
花凜が急に声をひそめたので、仁は背筋を伸ばし、横顔を向けた。
「なに?」
「仁くんは、お兄ちゃんが小さい頃どんな子だったか知ってる? あたし、お兄ちゃんの昔のこと、あんまり詳しくなくて。寧音さんと仲良しで、よく川へ遊びに行ってたんだって話だけは聞いたんだけど」
花凜の指先が、座卓の木目をなぞる。仁はその指の白さと、短く切った爪の形を眺めながら、首を横に振った。
「僕、空也と知り合ってまだ日が浅いから、そういう話はあんまり聞いてないよ」
「そっか。じゃあ今度、寧音さんが来たときに聞いてみよう」
花凜がそう言って足を伸ばすと、スカートの裾がさらに太ももの上へずり上がった。仁はそれを視界の隅で追った。細い太ももの内側の皮膚は、汗でしっとりとしていて、部屋の空気を含んで白く光っていた。
空也がオレンジジュースの入ったコップを二つ運んでくると、花凜は両手で受け取り、氷の当たる音を立てて一口飲んだ。冷えた液体が喉を通るたびに、花凜の首筋がこくりと動く。その首筋から胸元にかけての白い肌には、うっすらと青い血管が透けていた。
「仁くん、ほら、遠慮しないで飲んでよ」
花凜が仁の前のコップに目をやると、仁は「ありがとう」と小声で答え、ストローに唇をつけた。氷が溶ける細かな音が、三人の間にしばらく続いた。
やがて花凜は、宿題のプリントを鞄から取り出して座卓いっぱいに広げた。英語の長文の横には、日本語でびっしりとメモが書き込まれていて、黄色いマーカーが何本も引かれていた。花凜は問題の行を指で押さえながら、「ここ、どうして答えが二番なの?」と空也に問いかけた。
「ああ、これは仮定法で、後ろの文の時制がずれてるから」
空也がペン先で横から説明すると、花凜は首をどんどん傾けていった。
「仮定法、なんかもう頭がこんがらがるよ。あたし、英語の文法って無理かも」
「無理じゃないって。ほら、このカッコの前の単語を見てみろよ。過去形になってるだろ。だから後ろは時制になるんだよ」
「ジセイ?」
「そう、時制だ。ほら、見てみろ」
空也が指さした箇所を花凜がのぞき込み、二人の顔が近づいた。仁はその横で、空也の真剣な横顔と花凜のくずした姿勢を交互に眺めた。仁の太ももの奥では、制服の布の中で、思い出したように血が集まり始めていた。黒い肉茎がゆっくりと膨らみをもち、陰嚢がぎゅっと縮んだ。仁は唇の内側を噛んで、座卓の陰で膝を閉じた。
「仁くん、ここもわかんないの」
花凜が今度は仁のほうへプリントを寄せた。花凜の手首が仁の制服の袖に触れた。温かい。
「僕……あんまり文法は詳しくなくて。寧音さんのほうが得意だと思うよ」
仁がうつむくと、花凜は小首をかしげた。
「仁くん、もしかして英語も苦手?」
「うん。五教科ぜんぶ苦手」
花凜が丸い目をさらに丸くして、それから吹き出すように笑った。声は高く、窓の外で鳴くひぐらしの声に溶けていった。
「五教科ぜんぶ苦手って、仁くん、自覚はあるんだね」
「自覚はしてるよ。だから、いつも紙の裏に点をたくさん書かれちゃうんだ」
花凜は少し笑いすぎて、白い頬を上気させた。その笑い声は仁の記憶の奥で、夜の仕事帰りの母が男を部屋に上げたときに放つ甲高い笑い声と重なった。仁はまぶたの裏に、暗いアパートの一室で揺れる蛍光灯の青白さを一瞬見た。
幼い頃、仁が見てきた母は、いつもケミカルな香水の匂いをぷんぷん漂わせ、ベッドの上で見知らぬ男に足を開いていた。仁は隣の布団で眠ったふりをしながら、男の腰と母の白い太腿がこすれ合う音を聞かされていた。母はある日、酔った息を仁の耳元に吹きかけながら、ふやけた声で命令した。
「仁、いいかい。女ってのはな、どんなにおすまししてたって、チンポで突けばみんな声を上げるんだ。お前もナヨナヨしてないで、女はチンポで支配しなきゃ」
その記憶が、花凜の無邪気な笑い声に重なって、仁の頭の中でじわりと広がった。仁の指先が、座卓の下で一度だけひくついた。股間では、勃ち上がりかけた黒い肉茎が太い亀頭を先に膨らませ、ズボンの内側を押し上げるような圧迫感を作っていた。
「仁くん、顔赤いよ。のぼせちゃった?」
花凜が首をかしげた。仁は驚いて顔を上げ、それから弱く笑った。
「ううん、少しあったかいなって思っただけ」
「今日はけっこう蒸すもんね。あたしも汗かいちゃった」
花凜は首元をつまんで、制服の襟を少し浮かせた。白い鎖骨のあたりから、熱っぽい空気が揺れて、仁の視界に吸い込まれた。
そうするうちに、玄関からは空也の母が帰宅し、リビングへ顔を出した。花凜は「おかえり」と叫ぶように言い、空也も手を軽く挙げた。母が買い物袋をキッチンへ置き、三人分の果物を切って出してくれると、食卓の上に薄い林檎の香りが流れた。
仁は差し出された林檎を口に運びながら、この家の隅々にいきわたるぬるま湯のような空気を味わった。空也の家には、母の持ち込んでいた香水や酒の匂いがなかった。かわりに、煎茶の香りと、日中の陽に温められた畳のにおい、そして花凜の汗を含んだ肌の甘さが薄く混じり合っていた。
「仁くん、今日はうちに泊まっていかない?」
花凜が林檎を咀嚼したまま、急にそんなことを言った。空也が目を丸くした。
「花凜、いきなり何を言ってるんだよ」
「だって、仁くん、家にいてもひとりでしょ。うちのほうが、勉強もできるし、夜ごはんもおいしいよ」
花凜は仁の顔を見つめた。仁は林檎をろくに飲み込めないまま、口の端をかすかに上げた。
「ありがとう。でも、今日はまだ家でやらなきゃいけないことがあるから。また今度にするよ」
「そっかあ。じゃあ、今度お泊まりの日を作ろうよ。お兄ちゃん、いいよね?」
花凜が空也にねだると、空也は苦笑いを浮かべた。
「まあ、仁くんさえよければ、別に俺はいいよ。母さんにも聞いてみないとだけどな」
そのとき、空也のスマートフォンが短く震えた。画面を確認すると、寧音からのメッセージが届いていた。空也の表情が、見る間にゆるむ。仁はそれを静かに観察した。
「寧音からだ。今、家に着いたって。……あっ、でも今日は勉強会に来るのは難しいらしくて、明日会おうってさ」
空也は少し照れくさそうに頭をかいた。花凜が冷やかすような声を上げた。
「お兄ちゃん、寧音さんからメッセージ来て、今すごく嬉しそうな顔してたよ。口元ゆるみっぱなし」
「うるさいな。そんなことないよ」
「あるって。仁くんも見た? 今のお兄ちゃんの顔」
花凜に振られ、仁は静かにうなずいた。空也はさらに照れて、コップの中のオレンジジュースを一気に飲み干した。喉が鳴る音がリビングに響いた。
「仁くん、この前の帰りに言ってくれただろ。焦らなくてもいいって。俺、あれから何度も考えたんだけど、やっぱり仁くんの言う通りだなって思ったよ」
空也が真剣な声で言った。
「僕は、たいした助言は何もしてないよ」
仁がうつむくと、空也は首を横に振った。
「謙遜するなって。仁くんがいるから、俺、こうやって寧音の話を誰かにできるんだ。それだけでかなり楽になるんだよ」
空也の声は、夕闇の近づいたリビングで、溶けた飴のように甘く響いた。仁はその無防備な信頼を腹の底で反芻しながら、花凜の飲み残したオレンジジュースのコップへそっと目を落とした。コップの縁には、花凜の唾液がうっすらと膜を作り、氷が音を立てて崩れていく。
その夜、仁が真木川家を出るとき、空也は玄関まで見送りに来た。花凜はリビングから顔だけ出して、「仁くん、またね」と大きな声で手を振った。仁は靴を履き、玄関の段差を降りようとした。その直前、足を止めてリビングへ戻る素振りを見せながら、花凜のコップに指先を浸した。氷水に溶けた唾液のぬめりが指を包む。
「仁くん、どうした? 忘れ物か?」
空也が小首をかしげた。仁は背中越しに細い笑みを見せた。
「ううん。ちょっと手が冷たくなっただけ」
仁は右手の指を口元へ運び、花凜の唾液を薄く残した水を舐めた。舌の上に、わずかな甘みと、氷で薄まった果実のにおいが広がる。空也はそれを見逃さないまま、玄関の外へ出ようとする仁の肩を軽く叩いた。
「仁くん、また明日な」
空也の元気な声が、宵やみの住宅街に消えていく。仁は「おやすみ、空也」と小声で返して、制服のズボンの中で重く痛みを増した陰茎の存在を太ももに感じながら、街灯の少ない道へ足を向けた。白い肌と、夜の仕事の記憶と、母の笑い声と、花凜の飲みかけのコップの温度が、黒い肉茎の奥でどろりと混ざっていく。
「女はチンポで支配しなきゃ」
仁はそう一度だけ呟いて、湿った指を唇の内側に這わせた。
第3章 秘密の囁きと初めてのぬめる指

午後の陽射しが窓の桟を越えて、リビングの床へ長い光の帯を落としていた。机の上では参考書とプリントが汗ばんだ腕に貼りつき、開いたままの英語の問題集が扇風機の風にめくれては戻る。寧音は、生ぬるい空気のかたまりが首筋を撫でるたびに、肌の下で眠っていた熱がゆっくりと息を吹き返すのを感じていた。
空也は冷蔵庫をこじんまりと覗き込み、中身を確かめてから振り返った。
「飲み物、切れてたわ。ちょっと買ってくるよ」
寧音はシャープペンシルを置いて、そっと首をかしげた。薄い前髪が頬に張りつき、白いブラウスの襟元には汗のしみがうっすら滲んでいる。
「外、暑いんでしょう。私も行こうか」
「いいって。十分で戻るし、仁くんと待っててくれよ」
空也の言葉を合図に、玄関のドアが開いて閉じる音がした。かすかに靴底がアスファルトを蹴る音が遠ざかり、やがて耳の奥がじんと鳴るほどの静けさだけが部屋に沈んだ。寧音は自分の心臓が、少しだけ速くなっているのに気づき、汗ばんだ膝の上でスカートの布をそっと握り直した。
仁は伏せていた顔をすこしだけ持ち上げた。前髪の下から覗く黒い瞳が、扇風機の風に揺れる寧音の黒髪をゆっくりと追っている。彼の細い腕は制服の半袖から伸び、日に焼けていない指先だけがやたらと白く見えた。
「……暑いね」
仁の声は、まるで空気にすける糸のように細く、湿っていた。
「うん、風が生ぬるくて。窓、もうすこし開けようか」
寧音が立ち上がりかけた背中へ、仁の声が追いかけた。
「寧音さん、あのさ」
「なに?」
「空也って、ほんとはすごくエッチなんだ」
カーテンの裾が一瞬ふわりと膨らみ、寧音の白いうなじに張りつく後れ毛をすくい上げた。彼女は振り返れないまま、その言葉を背中に受けていた。耳の奥で蝉の声が遠ざかり、心臓が一つ大きく跳ねる。
「なに、急にそんなこと……」
「空也、中学の時からもうセックスしてるみたいだよ」
仁は床に座ったまま、教科書の角を指先でつまんだ。紙が静かに折れ曲がる音だけが、やけにはっきりと耳へ届く。寧音は言葉を飲み込もうとしたが、喉のあたりで熱い塊に変わってつかえた。
「空也くんに、いろいろエッチなことも教えてもらってるんだ」
「そんなの、空也に限って嘘だよ。幼馴染の私が知らないのに、仁くんが知ってるはず……」
「空也くん、処女とかもう面倒くさいし、付き合えないよって言ってたよ」
寧音の呼吸が、かすかに止まった。扇風機の羽根が首を振る風が、汗ばんだ膝の裏を冷やす。心臓の音だけが下着の奥で大きく波打っていた。空也が誰かと肌を重ねている。きっと自分が知りもしない部屋で、知らない女の髪を握っている。そう思うだけで胸の真ん中に細いひびが入り、熱くて冷たいものが一気に染みていく。空也に限って、そんな軽いことをするはずがない、と頭のどこかで否定しながら、胸の奥では仁の言葉が細い根を張り始めていく。幼馴染としての自分が知らない空也の夏の匂いや、帰り道でふと見せた大人びた横顔が、次々と疑わしい輪郭を帯びて浮かんでは沈んでいった。
仁は立ち上がった。畳を踏む足音はほとんどなく、なのに寧音の背中との距離が一足ごとに縮まっていくのが、後ろの空気の重さでわかった。
「僕も、空也みたいにエッチが上手くなりたいけど、相手がいないんだ」
「……なに言ってるの」
「寧音さんは、空也とエッチするために、もっと上手くならないといけないよね」
声がすぐ後ろから降ってきた。仁の吐息が寧音の耳のうしろ、産毛の生えぎわをぞわりと撫でる。彼女の背中が総毛立ち、腰のあたりに甘い痺れの兆しがほんの少し灯る。逃げようと足を動かしかけたのに、空也に「上手だ」と言われる自分の姿が一瞬浮かんでしまい、耳まで熱くなった。
「だからさ、僕と一緒に練習しない?」
「……練習って」
「空也くんに、エッチ上手だねって言われるようになろうよ」
寧音の肩が震えた。足の裏だけで直立している感覚。首をすくめると、仁の唇が耳たぶをすこしだけ挟んで、そっと食んだ。唾液の熱が薄い皮膚の上でねっとり滑り、くちゅりと小さな音が頭の内側で反響した。
「ひ、ぁ……っ」
「耳、すごく赤い。ここも、すごく汗ばんでるね」
仁の右手がブラウスの上から寧音の腰へすべり込んだ。布越しに指が背中のくびれをなぞり、しだいに脇腹へ回りこんでくる。彼女の白い肌は薄いブラウスの中でじっとりと汗をかき、その湿りを仁の手のひらが吸い取っていくようだった。
「やめて、離して……」
「嫌だけど、体は逃げようとしてないよ。ほら、腰がこっちに寄ってきてる」
「ちがう、そんなつもりじゃ……」
「空也はこういうの、とっくに知ってるよ。女の子の体が、どこで感じるかって」
仁の左手が、恐ろしくゆっくりとした仕草で寧音のスカートの裾をつまみ上げた。ひざがわの布がしわを寄せながら太ももの白い内側をざらりとこすり、外の空気が剥き出しの肌へ冷たく流れ込んだ。太ももの内側にはうっすらと汗が玉になり、光を含んでいた。
「っ……!」
寧音は両足を閉じようとした。けれども閉じようとする脚のあいだへ、仁の指先がするりと潜り込んでくる。ショーツの縁に沿って、人さし指と中指が、布の上から隠された肉の割れ目をゆっくりとなぞった。薄い白いショーツはすでに湿り、縦筋に沿って蜜のような染みがにじみ始めている。湿った布は彼女の肉の形をすきとおらせるように貼りつき、動くたびにぬるりと食い込んだ。
「もう、下着がすけてる。蒸れてるよ、ここ」
「汗だから……暑くて、それだけだから」
「指、こんなに濡れてるよ。汗だけの匂いじゃない」
仁は指を自分の鼻先へ近づけ、目を細めた。寧音は背後からその指先が、ぬめりを含んで光るのを感じた。内ももを擦り合わせようとすると、下着がさらにくい込んで、ぬるついた感触が花びらの奥へ逆巻いていく。
「やめ……触らないで」
寧音の声は、すでに息が半分ほど混ざっていた。肩が細かく震え、閉じようとした膝が指の動きに応えてわずかに開いていく。腰のあたりに甘い痺れが溜まりはじめ、彼女は自分の体が仁の指の行方を待っていることに気づいて、唇を噛んだ。空也の笑った顔が胸の奥でちかちかと明滅し、それだけで下腹の奥がきゅうと疼いた。
「乳首も、ブラウスの上からわかるくらい立ってるよ」
仁はブラウスの胸元へ湿った指を滑らせた。布越しに、硬くなりかけた突起が爪の先を押し返してくる。寧音の息が細く漏れ、自分の乳首が他人の指に探り当てられたという事実が、熱い針のように背中を突き抜けた。
「ひぅ、そこ……指、どかして」
「空也に触ってもらう自分の姿、考えたことあるでしょ。それと同じだよ」
仁の指は寧音の腰と下着のあいだを行ったり来たりし、湿りを帯びた布の輪郭を何度もなぞった。深くは潜らない。焦らすように、いとおしむように、白い太ももの内側だけを往復する。それなのに、爪の形と体温と、指の腹に残った粘液のぬめりだけが、皮膚の表面に焼けつくようにこびりついていく。
「……練習、ちょっとだけしてみる?」
仁の指が、ショーツの中心をそっと押した。くちゅり、と布越しに湿った肉がしぼむ音がして、寧音の背が小さくのけぞった。下腹の奥で、何かが閉じたり開いたりするような感覚が走り、太ももの内側を生温かいものが伝っていく。
「あ……んッ……」
声を殺そうと噛んだ唇の内側で、熱い吐息が歯のあいだから漏れる。仁の指先が、濡れた布の上から陰唇の膨らみを割るようになぞり、小さな肉芽のあたりを円を描いて押し上げた。くちゅ、くちゅ、と布越しの湿った音が太もものあいだから扇風機の風に混ざって響く。寧音は背後の仁の体温が急に濃くなったように感じ、汗とも蜜ともつかないものが内ももを伝っていくのを恥ずかしいと思う。膝が、笑うように震えた。自分の意思とは別の場所で、腰がくん、と浮いてしまう。
「んぅ……ぁっ……!」
彼女は天井を見上げ、喉をそらした。胸元をのぼる熱と、下着の中でぐちゅりと押し広げられる肉の感覚が、頭の芯をじんと痺れさせる。空也の手ではなく、仁の指でこんなふうになっている自分が、頭のどこかでまだ前の言葉に絡め取られている。空也が中学からセックスしていたのなら、自分がいくら恥ずかしくても、こういうことを知っておかないといけないのかもしれない。そんな考えが泡のように浮かんでは、たちまち熱い水に溶けていった。
玄関の外で、小銭の落ちる音がした。ドアノブが回るかすかな金属音。空也の声が、風に乗って玄関から流れ込んだ。
「ただいまー、買ってきたよ」
仁の手は一瞬で寧音の身体から離れた。何事もなかったように床へ座り直し、開きっぱなしだった英語の問題集を膝の上へ戻して、無垢な笑みを作る。寧音は立ちつくしたまま、スカートの裾を直すことすらできなかった。顔の熱が波のように押し寄せ、呼吸が浅い。耳たぶの内側には仁の唾液の温度がまだ張りつき、ショーツは下りた花びらのように湿っていた。
「お、おかえりなさい」
「ごめんごめん、レジ混んでてさ。仁くんのぶんも買ったよ」
空也はビニール袋を揺らしながらリビングへ入ってきた。寧音の乱れた前髪を一瞬見たが、暑さのせいだと思ったのか、にこにこと笑っている。
「二人とも、ちゃんと勉強してたか? 寧音、顔赤いじゃん」
「すこし、扇風機の風が熱くって……のぼせたみたい」
空也は笑って窓をさらに開けた。仁は教科書から顔を上げ、空也に向かって、どこまでも透明に見える視線を向けた。
「寧音さん、すごくいい子だよ。空也が好きになる気持ち、なんかわかった気がする」
空也は照れたように後頭部をかいた。
「おまえまで何言ってるんだよ。幼馴染だろ、ただの」
仁は自分の指先を、空也に見えない角度で静かに見つめた。皮脂と湿りが残る指の腹を、舌の先へそっと寄せる。寧音はそれを視界の端で捉えてしまい、心臓がもう一度、下腹の奥で震えた。指先に残った自分の匂いを仁が舐める。その薄い赤い舌が光った瞬間、彼女は足の裏で床の熱を感じ、この場から立ち上がれなくなるような気がした。
第4章 空也のいないリビングでくちゅくちゅと開く
第4章: 空也のいないリビングでくちゅくちゅと開く
空也の鉛筆がノートの上を走る音が、リビングの空気を一定のリズムで揺らしていた。寧音は教科書のページをめくる指先が震えていないか、そればかり気にしていた。耳の奥がまだ熱い。仁の舌が触れたあの感触が、溶けかけた蝋のように耳たぶの裏へ張り付いて離れない。ショーツのクロッチは、さっき仁の指がなぞった湿りを吸い込んだまま乾いていない。座り直すたびに、布が肌へ貼りつくねっとりとした感触が、空也の隣にいるという事実を背骨の奥へ突き刺してくる。
空也は何も知らずに隣で鉛筆を動かしている。時折、寧音の方を向いては照れたように視線を逸らす。その無防備な横顔が、罪悪感の刃を背中へじわじわとねじ込んでくる。
「仁くん、この問題なんだけどさ。解き方二通りあるよな?」
空也が明るい声で問いかけると、仁は伏し目がちに小さく頷いた。
「うん。途中で式を分けるか、そのまま進めるか」
「やっぱりか。寧音、お前もそう思うよな?」
寧音は唇を引き結んで、短く「うん」とだけ答えた。声を出すと喉が震えそうで、なるべく言葉を減らしていた。空也はそんな寧音の様子を気にするでもなく、ノートに式を書き込み始めた。
仁の視線が、教科書の縁から寧音の膝へすべり落ちた。紺のスカートの裾から覗く白い脛が、扇風機の風にさらされて微かに産毛を立てている。仁の指先がテーブルの下で動いた。寧音はその気配を感じて、反射的に膝を閉じた。空也が隣にいるのに。空也の肘が三十センチの距離にあるのに。仁の視線は、まるで布越しに肌を撫でるように、ねっとりと太腿の内側へ這っていた。
そのとき、空也の携帯が鳴った。画面を覗き込んだ空也の表情が、困ったように曇る。
「花凜だ。塾の送迎バスが来ないって。迎えに行かなきゃ」
「え……」
寧音の声が上擦った。空也が家を出る。その事実が、心臓を鷲掴みにしたような衝撃で胸の内に響いた。空也がいない時間ができる。仁と二人きりになる。嫌な予感が背筋を冷やしながら駆け上がってくる一方で、身体のどこかが、まるで待っていたかのように熱く脈打ち始めた。
「ごめん、一時間くらい戻るの遅くなる。仁くん、悪いけど寧音と待っててくれない?」
空也は立ち上がりながら、申し訳なさそうに仁を見た。仁は弱々しい笑顔を浮かべて、小さく首を縦に振る。
「うん。わかった」
「寧音、すぐ戻るからな」
「うん……気をつけて」
寧音は唇が乾くのを感じながら、精一杯の声を絞り出した。空也が靴を履く音をさせ、玄関のドアが開き、閉まった。その金属音が、リビングの空気を完全に凍らせた。
沈黙が五秒。十秒。扇風機の回転音だけが、粘つくように部屋を満たしていた。仁が顔を上げた。伏し目がちな黒い瞳の奥に、これまでの弱々しさとは別の、冷たい光が宿っているように見えた。
「寧音さん」
名前を呼ばれただけで、背中が粟立った。仁の声が変わっていた。小さく、たどたどしい普段の声ではない。低く、平坦で、どこか嗜虐的な響きを含んだ声。
「こっちに来て」
寧音は首を振った。教科書を握る指が白くなるほど力が込められている。
「……嫌」
「空也がいない時だけだから」
仁は立ち上がった。線の細い、小柄な体。制服のシャツの裾から手首が覗き、華奢な指が寧音の肩に触れた。その指が、蜘蛛の糸のように軽く、けれども確実に寧音の身体を引き寄せた。
「離して……」
「前も、嫌って言いながら腰はこっちに来てたよ」
仁の指が寧音の顎を持ち上げた。黒い瞳と目が合った瞬間、足の力が抜けた。仁は寧音の華奢な手首を掴み、ソファに座らせた。そして、制服のズボンの前を寧音の目の前で緩めた。
布が擦れる音がした。ジッパーが下りる金属音。下着の前を押し開ける。そこから現れたのは、仁の華奢な体格に不釣り合いなほど逞しい、黒ぐろとした肉の塊だった。亀頭が大きく、鈴のように張り、先端から透明な粘液が糸を引いている。脈打つ血管が、別の生き物のように肉茎の表面を這っていた。甘いような、生臭いような、鼻腔の奥を突き刺す匂いが寧音の顔を歪ませた。
「……っ!」
吐き気が喉の奥にせり上がり、同時に眩暈が頭蓋を回った。これが男の匂いなのだと、身体のどこかが理解してしまったことが、たまらなく恐ろしい。空也の匂いとは違う。もっと濃く、もっと生々しい、牡の匂い。
寧音は、以前空也から聞いた仁の家庭のことを思い出していた。仁の母親は夜の仕事をしていて、男の匂いと香水の混じった空気の中で仁を育てたのだと。薄暗いアパートの一室で、母が男を連れ込み、幼い仁の前で服を脱いでいた──空也が声を潜めて教えてくれたその話には、「女はチンポで支配しなきゃ」という仁の母の甲高い笑い声まで付きまとっていた。今、寧音の鼻腔を満たしている匂いと、その話の中の匂いとが、同じ温度で重なっていく。
寧音の白い指がソファのクッションを掴んでいた。逃げなければ。空也がいないこの密室で、仁と二人きりで、この黒い肉の塊を前にして、逃げなければ。けれど腰が動かない。膝がソファに縫い付けられたように重い。空也への罪悪感が胸を焼き、同時に、仁の放つ雄の気配が身体の奥を熱く痺れさせていた。
仁の手が寧音のブラウスの上から胸を包み込んだ。機械的な、慈しむような動きではなかった。的確に、乳首の位置を探り当てる指の動き。布越しに指先でつまむと、寧音の肩が跳ねた。
「んっ……」
「ここ、もう硬くなってる。空也のこと考えながら、こうされてるの?」
「ちが……言わないで」
仁の片手がブラウスのボタンを外し、もう片方の手がスカートの裾から太腿の内側へ滑り込んだ。白い肌に、仁の華奢な指が黒い影のように這う。下腹部を布越しに掌で押し当てられると、子宮の奥が熱く疼いた。ショーツのクロッチが、じわりと湿りを増していくのが自分でもわかった。
仁の指が、濡れた布越しに割れ目をなぞった。粘着質な水音が、リビングの静寂に響く。
「くちゅ……」
「ほら、こんなに濡れてる。空也に悪いって思ってるのに、体は正直だね」
「……っ、そんなこと……」
仁の指がショーツの横から滑り込み、直接濡れた襞に触れた。冷たい指先と、熱く溶けた粘膜の温度差が、寧音の背中を反らせた。
「ひっ、ぁ……」
「空也に上手だねって言われるための練習、始めたばかりなのに、もうこんなになってる」
寧音の白い太腿が震えていた。仁の黒い髪が頬にかかり、吐息が耳元にかかる。空也の匂いが染みついたこの部屋で、仁の指が自分の体を開いていく。心は泣いている。空也、ごめんなさい。空也、私は。けれど腰が、微かに、仁の指に向かって揺れていた。
仁は寧音の肩を押し下げた。ソファの前に跪かされる形になる。白い膝が床に付き、目の前に仁の黒ぐろとした巨根が、鈴のような亀頭を先端に膨らませて、脈打っていた。
「口、開けて」
寧音は首を振った。唇が震えて、言葉にならない。仁の手が寧音の後頭部に回り、ゆっくりと、けれども抗えない力で引き寄せた。
「空也に上手だねって言われたいんでしょ。だったら、これくらいできないと」
大きな亀頭が、寧音の唇に押し当てられた。熱い。脈打っている。生き物のように蠢く先端から、粘液が唇の上にぬるりと広がった。苦い。塩辛い。舌先が亀頭の表面に触れた瞬間、ねっとりとした粘液が口内に広がり、鼻腔に雄の匂いが逆流した。
「んっ……ぅ、っぁ」
「舌、もっと出して、先を舐めて」
仁の低い声が、寧音の髪の上から降ってきた。寧音は泣きそうになりながらも、恐る恐る舌を薄く差し出した。亀頭の先端の窪みから、とろりとした液体がまた溢れてくる。それを、ちゅっ、と音を立てて唇で吸い取ると、舌の上に生温かい苦味が広がった。喉の奥がひくつく。後頭部に添えられた仁の手が、寧音の頭をゆっくりと前後に揺らし始めた。
「そう……上手だよ。もっと唇を締めて」
仁は寧音の口内に亀頭の前半分を差し入れた。寧音は顎が外れそうな圧迫感に呻いた。歯が当たらないように、唇を内側に巻き込んで覆い被せると、口蓋を灼けるような熱が這い回る。舌が、自分の意思とは裏腹に、亀頭の裏側の筋の上をちろちろと這い回り、鈴口の割れ目から滲む汁を根元へ塗り伸ばしていた。空也のことを考えたくないのに、心の片隅では、空也に上手だねと言ってもらえるように、必死でこの肉茎を貪っている自分がいる。
「んっ……ふ、ぅ……くちゅっ……」
粘液と唾液が混ざり合い、口腔の奥でねっとりとした音を響かせた。唇の端から溢れた唾液が、寧音の白い顎先を伝って床へ垂れた。仁の腰が、ぐっと前に押し出される。途端、亀頭が喉の入り口を突き、寧音は胃の底からこみ上げる嘔気に肩を震わせた。
「ぐっ……ぅ、え……」
涙が滲む。目の前が揺れる。それでも仁は寧音の後頭部を支えたまま、腰を引かない。寧音は鼻腔で荒い息を繰り返しながら、なんとか舌根を動かして、喉の奥へ入り込んできた先端を押し返そうとした。だが、その舌の動きがかえって仁の敏感な箇所を擦り、亀頭がさらに硬く膨らんで口内を圧する。
「はぁ……いいよ、寧音さん。空也のじゃなくて、俺ので練習してるって思うと、もっと上手になるよ」
仁の指が、寧音の頬に余った唾液を拭い、そのまま口角に割り込んできた。仁の指とペニスが同時に口内へ入り込み、下顎をくいっと開かれる。寧音は、自分の口が仁の肉茎に輪をかけたまま、指までねぶる姿を空也に見られたら、と想像し、ぞくりと背筋を甘い痺れが駆け抜けた。恥ずかしいのに、膝が摺り合わさる。太腿の内側が、さっきから湿った下着の布地を肌に密着させたまま熱を持っている。
「くちゅ、くちゅ、ちゅぅっ……じゅぷり……」
寧音の小さな頭が、仁の手に導かれて前後に動くたび、ペニスの根元まで唇が沈む。飲み込みきれない唾液と先走りの粘液が、肉茎の血管を浮き上がらせた黒い肌を濡らし、蛍光灯の光を受けてぬらぬらと光った。鼻づまりのような苦しい呼吸音に混ざって、時折、生ぬるい生臭さが喉の奥へ流れ込む。寧音は、それを吐き出すことも、飲み込むこともできないまま、必死に舌をいっぱいに使って亀頭の周りをくるくると回した。空也との練習なんかじゃない。今ここで、仁という男の大きなペニスに支配されている。その事実が、腰の内側をとろとろに溶かし始めていた。
「あぁ……っ、そう、それ……舌、もっと絡めて」
仁の腰が小刻みに震え、寧音の口内で肉茎がまた太さを増す。亀頭の先から溢れた粘液が、寧音の舌の上で海の味のように濃く広がっていく。寧音は目の奥が真っ白な熱に焼かれそうになりながら、薄い唇を限界まで開いて、その黒ぐろとした肉塊を受け止め続けた。空也、ごめんなさい。空也、見ないで──そう祈る心の裏側で、寧音の舌は、確かに仁のペニスを求めて動いていた。
第5章 花凜の小さな口と兄の匂い
真木川家の玄関には、午後のむせかえるような熱気が、まるで澱んだ水のように沈殿していた。花凜はリビングの床に寝そべり、Tシャツの裾から臍が見えても気にするそぶりもなく、宿題のプリントを団扇であおいでいた。蝉の声が窓の外で波のように満ち引きし、冷房を入れていない室内の空気は、汗ばんだ素足の裏にべたつく湿りをまとわりつかせて離さない。プリントの余白には消しゴムの滓が散り、転がったシャープペンシルが畳の目に引っかかって、行き場を失くしたまま止まっている。花凜は首すじを伝う汗をTシャツの襟で拭い、天井の木目を数え始めた。あの木目の節くれが兄の寝癖に似ている、とぼんやり思った瞬間、呼び鈴の音が家中の沈黙を薄く切り裂いた。
ドアを開けると、仁が立っていた。白い半袖の制服シャツから伸びる細い腕をだらりと下げ、前髪の下の黒い瞳が、迷いのない静けさで花凜を映している。仁の全身からは、あの勉強会のときに感じた、兄にどこか似た穏やかな気配が漂っていた。けれど、その気配の底に、今日は何か別のものが潜んでいる。まるで、よく澄んだ水底に沈んだ黒い石のように。花凜は汗で張りついた前髪を指先で払いながら、警戒より先に声を出していた。
「仁くん、どうしたの。お兄ちゃん、今日は学校の用事で遅くなるって言ってたよ」
「うん。空也に、数学のノートを借りる約束してたんだ。家にいるって聞いたから、来てみたんだけど」
仁の声は、相変わらず小さくてたどたどしい。けれど、その舌っ足らずな言葉の端々が、むっとする午後の熱を含んで、花凜の耳の奥へねっとりと絡みつく。花凜はその弱々しさに、兄を迎えるのと似た気安さを覚えて、ぱっと身を引いた。裸足の爪先が、ひんやりとした玄関タイルの目地をなぞる。
「いいよ、あがって。あたし部屋にいるから、涼みがてら話そうよ。エアコン、つけちゃお」
仁は玄関で靴を脱ぎ、花凜のあとをついて家の中へ入った。裸足の足音が、ひんやりとした廊下に吸い込まれていく。花凜は階段を上がりながら、肩につく程度の黒髪を揺らし、振り返って笑った。汗で首に張りついた後れ毛が、白いうなじに黒い筆跡のように見えた。
「部屋、散らかってるけど、仁くんは気にしないで。お兄ちゃんがいないと、あたしこんなふうにだらけちゃうんだ」
花凜の部屋には、机の上に飲みかけの麦茶と、解きかけの英語プリント、丸めたティッシュがそのままになっていた。カーテンは半分だけ閉まり、午後の日差しが床に斜めの帯を落としている。畳の上には、脱ぎ捨てた靴下が片方だけ、小さな山を作って転がっていた。花凜はベッドの縁に座り、手近にあったクッションを抱きしめた。Tシャツの裾から太ももがすっかり見えていたが、家の中で仁といるくらいでは、花凜はそれを隠そうともしなかった。薄い生地の下で、汗に湿った下着のゴムが、肌にひっそりと食い込んでいる。
仁は部屋の真ん中に立って、ゆっくりと視線を動かした。花凜の体操着、折り畳まれたプリント、枕元に置かれた兄の写真。空也の存在が、この小さな部屋の隅々まで染みこんでいる。本棚の背表紙、窓枠に置かれた貝殻、カーテンの裾。仁の瞳はそれらをひとつずつ舐めるように辿ってから、花凜の裸の太ももへ戻った。花凜は、その視線に気づいて、太ももの内側がかっと熱くなるのを感じた。とっさにクッションで隠すのは、なんだか自分の動揺を認めるようで嫌だった。花凜は知らん顔で、足首をぷらぷら揺らす。
仁はベッドの端に、花凜と拳一つ分の距離をあけて腰を下ろした。スプリングがぎしりと小さく軋む。仁の細い太ももの熱が、空気を伝って花凜の素足に届く。
「花凜ちゃん、今日は塾はないの」
「今日は休み。お兄ちゃんがいないと暇でさ。仁くんが来てくれて、ちょうどよかった」
花凜はクッションに頬を押しつけ、足をぷらぷら揺らしている。仁はその白い太ももを眺めるとはなしに眺め、黒い瞳を細めた。細めた、その一瞬。部屋の空気が、それまでとは違う濃度を帯びた。
「ねえ、花凜ちゃん。お兄ちゃんの秘密、教えてあげようか」
唐突な仁の言葉に、花凜の足が止まった。部屋の空気が、それまでより少しだけ密になる。押し入れの匂い、畳の匂い、二人の汗の匂いが、だんだんと一つに混ざっていく。花凜は首をかしげた。
「お兄ちゃんの秘密って、なあに」
「花凜ちゃんが知らない、空也の本当のところ。聞きたい?」
仁の声は、甘く、どこか冷たかった。花凜は胸のあたりがくすぐったくなるような、落ち着かない感覚を覚えた。兄の秘密。聞きたい。知りたい。ブラコンと自覚する自分が、仁の黒い瞳に急にからめとられたような気がした。喉の奥がひりつく。手のひらが、じんわりと湿っていく。
「……聞きたい、かも」
花凜が小声で言うと、仁はベッドの脇にかけられた空也の体操着に、そっと手を伸ばした。洗い立てのはずなのに、汗の匂いが生地の奥からうっすらと滲んでいる。仁はそれを花凜の膝の上に置き、まるで花凜を安心させるように、その上から手を重ねた。
「これ、空也の匂いがする。花凜ちゃん、兄ちゃんの匂いを嗅ぐと、ほっとしない?」
花凜はこくりと小さくうなずいた。兄の体操着から立ちのぼる、柔軟剤と微かな汗の混じった匂い。それが、かきむしられそうに緊張した花凜の心を、慣れた温みで包みこむ。胸の詰まりがほどけて、指先の力が抜けていく。仁はそんな花凜のようすを、上から覗きこむように見下ろしながら、もう片方の手をゆっくりと花凜の手首へ伸ばした。
「花凜ちゃんは、お兄ちゃんの服の匂いを嗅ぐのが好きなんだ。それ、すごく大事なことだよ」
そう言って仁は、花凜の手首にそっと指を巻きつけた。華奢な指が、中学生の細い手首にやわらかく食い込む。仁の指は熱く、骨張っていて、まるで熔けた蝋のように肌へ密着する。花凜は抵抗する間もなく、その手を仁の太ももの上へ導かれた。制服のズボン越しに、体温がじわりと伝わる。兄の体操着の上から重ねられた仁の手が、ゆっくりと花凜の指を一本一本ほどいていく。
「ここ、触ってみて。これが空也の秘密に関係してるんだ」
花凜の指先が、仁の太ももの内側に触れた。硬い筋肉の下に、熱っぽく脈打つもう一つの生き物の気配があった。それは布越しでもわかるほど、ぬるりとした熱を帯び、存在を主張していた。花凜は指を引こうとしたが、仁の手がそれを押さえこんだ。仁の指が、花凜の指の一本一本に重なり、逃がさないように握りこんでくる。空也の体操着の匂いが、鼻の奥でまだ優しく揺れていた。
「動かさないで、そのまま。わかる? お兄ちゃんも、これを持ってる。でも、花凜は本当には知らない」
「なに……それ。仁くん、なに言ってるの」
花凜の声が上ずった。心臓が首の奥で跳ね、手のひらに汗が滲む。仁の太ももは熱く、指の腹が触れている場所から、甘いような、生々しいような、兄とは違う匂いが立ちのぼってくる。汗と、洗剤と、若い男の体臭が、ねっとりと鼻腔の奥を撫でる。逃げようとした肩を、仁が静かに引き寄せた。白いTシャツの肩口から、仁の鼓動が伝わってくるほど近い。
「空也は、花凜が思ってるよりずっと大人なんだよ。女の子と、花凜には言えない夜のことを、もうしてる」
「お兄ちゃんが……?」
「そう。花凜はまだ子どもだから、知らなくていいって空也は言うかもしれない。でも、花凜はお兄ちゃんのことを知りたいでしょ」
仁の指が、花凜の唇の端をそっと押さえた。中学生らしい、薄くて柔らかな唇。仁の指からは、墨汁のような、あるいは黒い土のような匂いがかすかにした。花凜は目を丸くして、仁の黒い瞳の中に沈んでいく。兄に似ている優しさと、兄にない暗い熱が、その瞳の中で混ざり合っていた。
「口、開けてみて」
「……え?」
仁の指先が、花凜の下唇をぬるりとなぞり、そのまま歯列のあいだに割り込んできた。指の腹が歯茎をなぞり、かすかな痛みとくすぐったさが走る。花凜は驚いて口を開けた。頭の片隅で、兄の笑顔がふわりと浮かんだ。夏祭りで金魚すくいをした帰り、汗びっしょりの兄が「花凜、まだ帰りたくない?」と笑った、あの柔らかな声。薄暗い境内で、二人まつわった道の匂い。花凜は兄の大きい手に手を繋がれ、綿菓子の甘い欠片を舌の上で転がしていた。あのときの兄の手は、もっと乾いていて、温かくて、花凜の指を包むと安心できた。今、仁の指が口に入ってきても、頭のどこかで兄の面影がちらつくから、花凜の身体は毒されるほど怖れずにいられる。兄の匂いを嗅いでいれば、兄がどこかで守ってくれている気がした。実際には、仁の指が、今まさに花凜の口内を犯しているのに。
仁の人差し指と中指が、花凜の小さな口内へ滑り込み、舌の上をぐっと押しつける。唾液の温かさが指を包み、仁の指先が、上顎のやわらかな部分をゆっくりと往復する。花凜はわけがわからないまま、その指を舌で転がすようにしてしまった。自分の舌が、勝手に男の指の形を確かめている。その事実に、目の奥が熱くなった。
「そう。舌で、舐めてみて」
仁の声が、うなじをぞわりと撫でる。花凜は涙を浮かべながら、ちゅぷ、と小さく吸った。口の端から唾液があふれ、あごを伝ってTシャツの胸元へ落ちる。舌先に残る仁の指の匂いは、少し苦くて、しょっぱい。兄の指とは違う、大人の男の味が花凜の口を満たしていく。兄の体操着からは、まだ優しい匂いがして、それが花凜の罪悪感をひどく甘やかした。味蕾が、指の関節のしわに残った汗の記憶を、ねちねちと拾い上げる。花凜は、仁の指を吸うたびに、自分の腹の底がじんわりと熱くなるのを感じた。
「んっ……ふ、ぅ」
吐息が指のあいだから漏れ、唇が音を立てる。唾液が指のつけ根を濡らし、仁の手の甲まで光る。花凜は頭の奥がくらくらして、仁の手を両手で掴んで逃れようとしたが、力が入らない。太ももに挟んだ手が、小刻みに震えている。仁は指をゆっくりと抜き、唾液で濡れた指を花凜の鼻先へ持っていった。指のあいだに、透明な糸がいくつも架かって、午後の光に銀色へ光る。
「この匂い、嗅いでみて。花凜の匂いだよ」
仁の指からは、花凜自身の唾液の匂いが混ざった、むっとする湿りが立ちのぼっていた。花凜は小鼻をひくつかせ、自分のものとは思えない甘ったるい匂いに、太ももの内側がむずむずと痺れるのを感じた。下着の布地が、汗と何か別のもので湿り気を帯び、歩くと貼りついてきそうな予感があった。頭ではおかしいと思うのに、胸の奥で何かがきゅう、と音を立てた。
「仁くん、あたし……お兄ちゃんには……言わない?」
花凜は涙の膜のむこうで、震える声を絞り出した。兄に知られることだけが、何よりも怖い。仁は花凜の乱れた前髪を、細い指でゆっくりと直してやった。その指先は、さっき花凜の口内で濡れたままだ。花凜の額に、湿った指の跡が残る。
「空也くんには内緒だよ。約束、花凜ちゃんが破らなければね」
仁は微笑んだ。目の奥だけが、笑っていない。花凜はその笑みに、胸の奥をぎゅっと掴まれた心地がして、うなずくことしかできなかった。自分の口から出た唾液の匂いが、まだ鼻の奥にこびりついている。空也の体操着を握る手だけが、汗で冷たくなっていく。
仁が立ち上がった。制服のズボンの前へ手をかける。金属の音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。ベルトの金具の擦れる音。ジッパーの下りる音。音のひとつひとつが、花凜の腹の底へ、石を投げ入れるように落ちていく。花凜はベッドの上で両足を揃え、Tシャツの裾を握りしめる。指先が汗で滑り、布をうまく掴めない。仁の指が下着を押しのけたとき、花凜は息を止めた。
そこには、仁の細い身体に不釣り合いなほど黒ぐろとした肉の塊があった。それは、蛇の胴のようにうねり、幾重にも浮き立った血管が、先端の膨らんだ亀頭へ向かって熱く脈打っている。先端からは、透明な汁が光っていた。鼻をつく生臭さと、甘酸っぱい匂いが、むわりと部屋の空気を汚していく。花凜は初めて目の当たりにする男の性器の、あまりのおぞましさと熱気に、目の前がぐらりと揺れた。部屋の光が、黒い陰茎の表面でぬらぬらと滑る。さっきまで花凜を安心させていた兄の匂いが、その黒い雄の匂いにかき消されそうになりながらも、まだ足元にかすかに残っている。
「これが、お兄ちゃんの秘密の入り口だよ」
仁の黒い肉茎が、花凜の白い視界を覆い尽くす。兄に似た優しい匂いは、もうどこにもなかった。ただ、陰湿で甘やかな雄の匂いだけが、花凜の未熟な鼻腔を奥まで焼いていた。花凜は声も出せず、自分の唇の内側に残った仁の指の味と、目の前で脈打つ黒い塊の存在を、ただ見つめていた。涙が一筋、頬を転がり、Tシャツの胸元へ染みていく。足元に置かれたままの空也の体操着が、沈黙のなかで、たまらなく遠いものに感じられた。仁の陰茎は、花凜の目前で、ふるり、と小さく震えた。
第6章 告白相談をする空也と裏切りの水音

第6章: 告白相談をする空也と裏切りの水音
放課後の昇降口で、空也は鞄の持ち手を握り直し、先に歩き出した仁の細い背中を呼び止めた。
「仁くん、ちょっといい? 帰りに寄るところあるんだけど」
振り返った仁の黒い瞳が、いつものように伏し目がちに揺れた。長めの前髪が頬にかかり、華奢な肩がブレザーの中で頼りなく収まっている。
「うん。いいけど」
二人は並んで校門を出た。五月の終わりの風が制服の袖を撫で、遠くのグラウンドから部活の掛け声が聞こえてくる。空也は何度か口を開きかけては閉じ、そのたびに頬が熱くなった。
通学路の脇にある小さな公園のベンチに、二人は腰を下ろした。錆びた滑り台と、枯れかけたツツジの低い垣根。人通りの少ない午後の光がアスファルトを白く乾かし、ベンチの木の感触が掌にざらついていた。
「あのさ……仁くんにしか言えないんだけど」
空也は膝の上で指を組んだ。声が少し上擦っている。
「寧音に、ちゃんと気持ちを伝えようと思うんだ」
仁は小さく瞬きをした。何の感情も浮かべていないような黒い瞳が、一瞬だけ鋭く光った。
「告白、するの?」
「うん。時期はまだ決めてないけど……ちゃんと向き合って話すつもりなんだ。仁くんがいろいろ教えてくれたおかげで、ちょっとずつ距離縮まった気がしてさ」
空也の顔が弾むように綻んだ。照れと決意が混じった、無防備な笑顔だった。午後の日差しがその表情をまぶしく照らし、仁はその光をじっと見つめていた。
「空也、寧音さんのこと、どれくらい好きなの?」
「どれくらいって……もう、ずっと前からだよ。気づいたら、ってやつ。仁くんならどうやって伝える?」
仁はしばらく沈黙した。ベンチの木のざらつきが掌に食い込んでいる。やがて、弱々しい声でゆっくりと言った。
「素直に言えばいいと思う。寧音さんは、空也のこと、ちゃんと見てるはずだから」
「そっか……そうだよな。ありがとな、仁くん」
空也は安堵したように息を吐いた。仁はベンチから立ち上がった。
「ごめん、今日はこれから用事があって」
「あ、そっか。じゃあまた明日な」
仁は小さく手を振り、公園を出た。細い背中が角を曲がるまで、空也はベンチに座ったまま手を振り返していた。
仁が去った後も、空也はしばらくベンチに座っていた。携帯を取り出し、画面をぼんやりと眺める。寧音との古い写真。中学生の頃の、運動会の後に撮った一枚。笑っている寧音の横で、空也が照れくさそうに立っている。
「寧音、今頃何してるかな」
空也は独り言のように呟いた。もうすぐ伝えられる、という期待が胸の奥で膨らんでいく。仁くんが応援してくれている。大丈夫だ。そう自分に言い聞かせて、空也は空を見上げた。
「もうすぐ伝えられるなって思うと、緊張するや」
—
真木川家のリビングは、午後の光がカーテンの隙間から差し込むだけの静けさに包まれていた。誰もいない。空也のいない密室。
源寧音は、仁から届いたメッセージを見て訪れた。「空也が家に忘れ物したって。取りに行ってくれない?」という短い一文。何の疑いもなく、インターホンを押した。返事はない。けれど鍵はかかっていなくて、寧音は少し躊躇ってからドアを押し開けた。
「おじゃまします……」
リビングのドアを開けた瞬間、背後から手が伸びた。口元を覆われ、腰を引き寄せられ、寧音の華奢な体が後ろに倒れ込んだ。甘い息の匂いと、制服の生地の擦れる音。耳のすぐそばで、冷たく平坦な声がした。
「寧音さん。空也はまだ帰ってこないよ」
「……仁くん?」
仁の声は、いつものたどたどしさが完全に消えていた。寧音の背中に押し当てられた華奢な体の奥に、異様な熱が脈打っている。黒ぐろとした巨根が、制服のズボンの生地越しに寧音の腰のくびれを押していた。
「なんで……ここに」
「空也から聞いたよ。告白するんだって。寧音さんのこと、すごく好きなんだって」
寧音の体が硬直した。空也の名前が出た瞬間、心臓が跳ねた。仁の指が、ブラウスのボタンを上から順に外していく。白い肌が少しずつ露わになり、午後の光がリビングのカーテンの隙間から差し込んで、その清らかな白さを浮き彫りにした。華奢な鎖骨の窪みに、光の筋が落ちる。
「空也くんは、君を抱きたいと思ってるよ」
「……っ、そんなの」
仁の唇が寧音の耳たぶに触れた。湿った吐息が耳の裏を這い、首筋にぞくりとした熱が走る。仁の指がブラウスの裾から滑り込み、脇腹の柔らかい肌をなぞった。その指の冷たさと、背後で脈打つ黒い肉茎の熱さが、寧音の意識を白濁させた。
「いや……」
「空也に抱かれるための準備、してるんだよ。覚えてないの?」
寧音の唇が震えた。空也への想いを盾にして拒もうとしたのに、その想いそのものが仁に利用されている。矛盾が胸を裂き、目の奥が熱くなった。
仁の手がスカートの裾から太腿に滑り込み、ショーツの布地を指の腹で押した。すでに湿りを帯びた綿の感触が、指先にねっとりと伝わる。寧音の腰が無意識に揺れ、膝が少し折れた。
「……もう濡れてる。空也の話をしただけで、こんなになるの?」
「ちが……そうじゃなくて」
仁の指がショーツの横から滑り込み、割れ目に沿ってゆっくりと下りていった。熱くふくらんだ襞が、指の動きに合わせてひくつく。粘つく液が指の腹に広がり、仁の指が襞の間を滑るたびに、ぬめる感触が寧音の恥恥を焼いた。
「ぐちゅっ」
粘着質な水音が、静かなリビングに響いた。寧音は自分の体が出した音に顔を歪め、唇を噛んだ。恥ずかしさと、空也への罪悪感が、胸の奥でどろどろに混ざり合う。
「ほら、空也に喜んでもらうための練習だよ。ちゃんと脚、開いて」
仁の指が膣の奥へ沈んでいく。一本、二本と増やされ、襞が押し広げられる圧迫感に、寧音の背中が反った。指先が子宮口をノックした瞬間、痺れるような快感が下腹から背骨を駆け上がった。
「んっ……ぁ、くぅ……」
「ここ、気持ちいいんだ。空也もここがいいって思ってるよ」
寧音の白い太腿が震え、ショーツのクロッチが濡れて重くなる。仁の指が動くたびに、くちゅ、ぐちゅと水音が重なり、リビングの空気が湿りを帯びていく。仁の背後で脈打つ黒ぐろとした巨根が、ズボンの生地を押し上げ、その存在感を主張していた。
寧音の脳裏に、空也の笑顔が浮かんだ。公園のベンチで話しているだろう空也の、真っ直ぐな瞳。仁くんがいてくれて助かるよ、と言った声。その声が、今、仁の指に弄ばれている自分の体を、残酷に照らし出していた。
「空也に申し訳ないって思ってるのに、こんなに濡れてる。腰は勝手に動いちゃうね」
「……っ、いわないで」
「空也に褒められたいんでしょ。だったら、もっと腰、揺らして」
寧音の腰が、意思に反してゆっくりと揺れた。仁の指が子宮口をノックするたびに、甘い痺れが脳を溶かし、膝が折れ、太腿の内側が濡れていく。空也への想いが、仁の指に絡め取られて、快楽の糸に変わっていく。
—
公園のベンチで、空也は携帯を弄っていた。仁が去ってから十分ほど経っていた。画面には、寧音との古い写真。笑っている寧音の横で、空也が照れくさそうに立っている。
「仁くん、いいやつだよな。いろいろ助けてくれるし」
空也は呟き、携帯をポケットにしまった。空は高く、風が心地よい。仁くんが応援してくれている。大丈夫だ。空也はベンチを立ち、軽い足取りで駅の方へ歩き出した。
—
真木川家のリビングで、仁の指が寧音の奥をまさぐっていた。子宮口をノックするたびに、寧音の腰が揺れ、太腿の内側が新たな液で濡れていく。仁の華奢な体の奥で、黒ぐろとした巨根が、ズボンの生地を押し上げて鈍い脈を打っていた。
仁の脳裏に、夜の仕事帰りの母の匂いがよぎった。香水と酒と、男の体臭が混じったあの匂い。母が仁の幼い手を取って、自分の股に導いた夜の記憶。女はチンポで支配しなきゃ、という母の声が、仁の内側でこだまする。母の派手な笑い声と、寧音の押し殺した喘ぎが、重なって聞こえた。
「空也くん、今頃君のこと考えてるよ。告白、うまくいくといいね」
仁の声が耳元で囁かれ、寧音の目から涙がこぼれた。空也への想いが、仁の指に絡め取られ、身体の奥に消えない火照りとして沈殿していく。仁の指がゆっくりと抜かれ、ねっとりと糸を引く液が太腿を伝った。
仁は何事もなかったように制服を整え、リビングを出ていった。残された寧音はソファに突っ伏し、スカートは腰まで捲れ上がり、ショーツは膝までずり落ちていた。白い太腿の内側は濡れて光り、唇は腫れ、目尻に涙の跡が残っていた。
寧音の耳の奥に、仁の声が残響していた。空也くんは、君を抱きたいと思ってるよ。その言葉が、空也への想いと混ざり合い、身体の奥に消えない火照りとして沈殿していた。
第7章 黒い肉茎が白い背を割り開く夜
夜の空気は、汗ばんだ素肌に吸い付く薄い膜のように湿って重く、錆びた街灯の光が外廊下の隅に溜まった小さな水たまりを脂ぎった色に光らせていた。源寧音は仁から送られた短いメッセージを胸の中で反芻しながら、集合住宅の二階へ続く外階段を上っていた。靴底が鉄板を踏むたび、錆のにおいと夜気を含んだ風が湿った裾を絡め、自分の心臓の音だけが耳の奥でやけに大きく弾む。指先は冷えているのに、下腹の奥だけがじくじくと熱を持ち、一歩ごとに太腿の内側の柔い肉が、昼間からじっとりと湿り気を帯びた下着の布地を押し潰しているのを感じる。
足音を殺すように扉の前に立ち、チャイムを押す代わりに携帯を開く。画面に浮かぶ短い文面を見つめるだけで、心臓が喉の奥まで持ち上がり、熱いものが下腹でとろりと溶けて広がる。
「あ、来たんだ」
内側から細く開いたドアの隙間から、仁の細い指が伸びて寧音の手首を掴んだ。小柄な体は廊下の灯りを背にし、黒い瞳だけが暗がりの中で濡れた獣のように光っている。薄いTシャツの襟元から覗く鎖骨は少年というよりは痩せた猫のように鋭く、それなのに掴む力は骨まで食い込むほど強く、寧音の爪先が段差に引っかかった。
「入って」
寧音は言葉を探したが、何ひとつ出てこなかった。靴を脱ぐ間もなく、狭い玄関で肩を押される。古い畳のにおいと、甘ったるい花の香り、それに酒と汗が混ざったような生温い空気が鼻を突き、喉の奥がきゅっと窄まる。
「この部屋、母がいた頃の匂いがまだ残ってる。落ち着く?」
小さく首を振る。それでも足は勝手に進んでしまう。薄暗い六畳間に、くたびれた布団が敷かれていた。壁に掛かった裸電球が、埃の積もった傘から弱々しい光を落とし、黒い髪を吸い込むようなカーテンが窓を覆っている。家具はほとんどなく、畳の目が浮き上がった床の上に、かすかに背の低い影が揺れていた。
「空也は今夜、家族の用事で家にいないんだよね。君はここにどうしても来たくなった。そういうことにしておこう」
仁が寧音の背中を押し、湿った布団の上に仰向けに倒した。むっとした綿布団のにおいが背中に張り付き、スカートの裾から覗いた太腿に畳のざらつきが歯を剥くように触れた。
「……っ、やっ」
「暴れてもいいよ。どうせここは僕しかいない。空也も助けに来られないよ」
仁の声はどこか平坦で、それでいて湿った熱を帯びていた。寧音のブラウスのボタンに小さな手がかかり、一つずつ外されていく。薄い下着に包まれた胸が露わになると、空気の冷たさに乳首が尖り、白い肌が浅黒い影の中でふわりと浮かび上がった。抵抗の言葉を喉で転がしながらも、寧音の唇は戦慄くだけで音にならなかった。空也に知られる恐怖が胸を締めつけ、逃げようとする手足を鉛のように重くする。仁の華奢な体がのしかかり、その下で脈打つ太い熱が下腹部に押し当てられている。布越しでも分かる雄の形が、恥毛の上から恥骨を圧し潰すようにあてがわれ、寧音は腹の底が痺れるのを感じた。
仁がスカートのホックを外し、薄いショーツの上から指の腹で割れ目をなぞった。くちゅ、と湿った音が、静かな部屋に粟立つように響き、寧音は自分の股間からそんな下品な音が出ることに耳まで熱く染めた。指は何度も縦に往復し、布の中心を鼻の頭のような硬さで膨らんだ陰核の上へ押しつけ、くるくると捏ね回す。
「下着、もう透けてる。自分で触って確かめてみなよ」
寧音は何も答えない。代わりに仁がショーツの裾から手を入れて、濡れた肉びらを押し開いた。熱い蜜が指の節を伝い、恥骨まで糸を引く。仁がその指を寧音の眼前に差し出し、粘ついた雫を灯りに透かして見せつけた。蜜は糸のように伸び、ぷつんと切れると、寧音の白い腹の上に落ちて淫らな染みを作った。
「ほら、空也と話した夕方よりずっと濡れてる。夜の間に、君はここが疼いて眠れなかったんでしょ」
「……ちが、う」
声が震えた。否定の形をした吐息が、自分の口から漏れるのが信じられなかった。仁は小さく笑い、膝で寧音の太腿を割り開いた。そして自分のズボンを緩めると、夜の闇より黒い肉茎を取り出した。小柄な体に不釣り合いなほどの、太く長い一物が、見せつけるように下腹の上に横たわっていた。黒ぐろとした竿には青黒い血管が幾筋も浮き、先端の亀頭は怒張してテラテラと光り、透明な先走りが尿道口から滲んで傘の縁を伝っていた。その漆黒の肉塊と、寧音の透けるような白い腹との対比が、裸電球の下で暴かれる。寧音は目を逸らそうとして、逸らせなかった。恐怖と、それとは別のざわめきが、視界の奥で渦を巻き、太腿の内側がひくひくと引き攣れた。
仁は黒い亀頭を、寧音のショーツ越しに割れ目へ押し当てた。布を通して伝わる焼け石のような熱と硬さに、寧音の背中が弓なりに反った。仁が腰を前後に擦らせると、下着の生地が蜜を含んで重くなり、肉茎の形がはっきりと浮かび上がった。ぬちゅ、ぬちゅ、と粘着質な水音が、布団と畳の隙間に吸い込まれていく。
「これが君の知らないもの。空也のじゃない、僕のもの」
寧音の唇から、押し殺したような声が漏れた。仁の腰の動きに合わせて、くちゅ、ぬちゅ、と水っぽい音が断続的に畳に吸われていく。薄い布地がめくれるたびに、亀頭の先端が湿った肉の襞を直接なぞり、恥骨の奥に鋭い痺れを投げ込む。クリトリスが擦られるたびに、下肢がビクンと跳ね、腰が無意識に揺れ、自ら黒い亀頭へ割れ目をすり寄せている。脳裏に空也の顔がちらついた。今日の夕方も、彼は何も知らずに笑っていた。その笑顔を裏で、自分はこんなものを感じている。涙がこめかみを伝い、耳の中に落ちた。
仁が寧音のショーツを片側だけ足首から引き抜くと、煎りたての牡蠣を思わせる生ぐさい己の匂いがふわりと立ち上り、寧音は羞恥で目の奥が熱くなるのを感じた。露わになった女陰は、すっかり濡れそぼち、充血した肉びらが左右に開いて、奥のぬめる襞までが燈火に照らされていた。黒い亀頭がその入口へ宛がわれた途端、くちゅ、と潰れた蜜の音が鼓膜を刺し、溢れた分泌液が先端の雁首をぬめらかに包む。仁は焦らすように腰を前後させ、挿入直前の硬い膨らみで陰核と膣口とを何度も擦り上げた。膨らんだ肉粒がぬるぬると捏ねまわされるたび、下腹の奥で白い火花のような鋭い痺れが爆ぜる。寧音は腰を浮かせてその刺激を追いかけまいと太腿の内側へ必死に力を込めたが、腰は哀れなほど素直に、擦られるたびにぴくぴくと跳ね返ってしまう。
「声、我慢しなくていいよ。ここは君と僕だけの場所だから」
「……や、やめて……おねが、い」
ようやく搾り出した懇願は、それ自身が上擦った甘い響きを帯びていた。仁は無視して、寧音の白い太腿をさらに開かせ、黒く大きな亀頭を膣口へゆっくりと沈め始めた。
ぬぷ、と鈍く、湿りきった肉が食い込んで押し戻す音が、密閉された薄闇の部屋にべっとりと響いた。寧音の四肢は硬直し、畳の目を掻き毟るようにして爪を立てた。膣口をこじ開けて侵入してくる黒い亀頭は、想像を遥かに超えた熱と硬度で、窄まった入口をぐりぐりと押し広げ、割り入っていく。体の中心を裂かれるような異物感が尾骶骨を突き抜け、腹の奥の方まで黒い塊が押し上げてくる。息が止まり、白い喉が反り返った。ぴったりと食いついた入口の肉輪が、雄の傘の形に拡がっていくのが、寧音自身の内側からありありと感じられ、ゾッとするような快感が背筋を駆け上がった。
「あ……ぁあ……んっ」
涙が次から次へと溢れ、視界が滲む。黒い肉棒が少し入っただけで、体の中が焼けつくほど満たされている。痛みと一緒に、得体の知れない痺れが子宮の近くで弾けた。仁は止まらず、寧音の反応を味わいながら、さらに深く太いものを埋め込もうと腰を押し込んだ。
「まだ半分も入ってないよ。ここまで来たら、奥まで全部、君の体に覚え込ませてあげる」
仁が寧音の両脚を折り曲げ、膝の裏を掴んでさらに腰を突き入れた。黒い肉棒がぬかるんだ膣の壁をゆっくりとこじ開け、奥へ奥へと進んでいく。内壁の襞が異物を包み込むように蠢き、蜜が泡立つほど溢れ、結合部からはぐちゅぐちゅと卑猥な粘液音が絶え間なく漏れ出している。寧音は目の前が白く明滅し、呼吸が細切れになった。腹の奥で、空也への罪悪感と黒い快楽がぐちゃぐちゃに混ざり、涙が止まらない。
「奥、押し開かれてるの、分かる? 空也の指じゃ届かなかった場所まで、僕のが入ってる」
仁の言葉が耳の内側を這い、寧音は首を振ることさえできなかった。黒い肉茎が内壁を擦るたび、膣肉が雄の形に合わせて蠢き、じゅぶじゅぶと卑猥な水音が布団に染み込んでいく。汗ばんだ背中と太腿が畳の上で滑り、白い肌が浅黒い影の中で艶めいた。腹を割かれるような圧迫感と、掻き回されるたびに増していく甘い溶解感が、身体の芯でぐるぐると渦を巻く。寧音の口からは、自分の意志とは関係なく「ひ、ぁ……」「んっ、く、ぅ……」という細切れの嬌声が転がり落ち、そのたびに太腿の内側が痙攣するように震えた。
「や、あ……っ、おく、だめ……」
声にならない拒絶が唇からこぼれ、その度に仁の腰の動きが速くなる。寧音の指が布団の端を握りしめ、爪が畳を引っかいた。下半身が自分のものではなくなっていく感覚に、頭の芯が痺れ、目の裏で星が散った。膣の奥を先端で突かれると、子宮口がこじ開けられるような圧迫が走り、反射的に腰が浮いてしまう。その動きがさらに深く黒肉を迎え入れてしまうことに、寧音は泣きたくなるほどの羞恥を覚えながら、もう抗う力を手放しつつあった。
仁が腰を引き、それから一気に突き上げた。ぐちゅ、じゅぷ、と粘着質な水音が部屋に響き、畳に吸われた。寧音の口から、悲鳴にもならない吐息が漏れた。下半身が火の塊のようで、太腿の裏に汗が滲む。内壁を擦り上げられるたびに、背骨の奥から震えが広がり、目の前がチカチカと明滅する。
そのまま仁は寧音をうつ伏せに反し、尻を高く突き出させた。うなじの産毛に浮く汗の粒が、橙の灯りに照らされて金粉のように散る。内腿に伝い落ちる蜜と汗が交じり、畳の上に小さな暗い染みを作っていた。仁の硬い腰骨が白い臀肉に押し当てられ、熱い肉茎が後方から裂け目を割って再び沈み込んでくる。ぬちゅ、どちゅ、と重い水音を立てて奥へ埋まるたび、寧音は顔を畳に押しつけ、指で布団の端を噛むほど掴んだ。涙と涎と鼻水で頬は濡れそぼち、声にならない悲鳴が肩の震えに変わる。それでも奥を突かれるたびに、子宮が甘く痺れ、下腹の奥から疼きが沸き上がってくるのを止められない。
「……ふ、あぅ……んっ、あ、あ……」
仁は寧音の白い背に片手を突き、黒い肉茎で内襞を捏ね回すように深く捻じ込んだ。入口の肉輪が雄の形にへばりつき、抽送のたびに蜜が泡立ち、結合部が白く濁っていく。部屋の中には、ぐちゅぐちゅ、ぷちゅぷちゅ、という淫猥なリズムが満ち、薄い壁に反響して寧音の耳へまとわりついた。空也の知らない音。空也の知らない匂い。空也の知らない自分。そう思うほど、奥からとろとろと体液が溢れ、黒いものを締めつけてしまう自分が、涙の向こうでただひたすらにいやらしい。
夜はまだ長く、仁は場所を変え、姿勢を変え、その度に寧音の身体を開いていった。仰向けに戻されて両脚を抱えられ、膝が自分の耳の近くまで折り曲げられた時には、子宮口を亀頭で捏ねられるような圧迫に、寧音は爪で自分の太腿を引っかいた。痩せた仁の腹が、汗で光る白い下腹に打ちつけられ、ぱちゅん、ぱちゅん、と肉のぶつかる音が小刻みに響く。黒い陰嚢が会陰を叩くたび、視界の端が滲み、内腿が痙攣した。寧音はすでに何度も身体の奥で小さな死を経験していて、そのたびに空也の笑顔がよぎり、そのたびに深いところでまた別の快楽の波が押し寄せた。
「もう一度イくよ。ほら、見えてる? 君のここ、僕の形に吸い付いて離れない」
仁の指が、結合した場所をなぞる。寧音は首を振りながら、自分の腰が浮き上がるのを感じた。黒い肉茎が引き抜かれるとき、内壁が追いすがるように蠢き、失われた熱を求めてひくつく。挿入されるたび、膣肉が雄を丸ごと包み込み、奥から蜜が噴き出して結合部を濡らした。もう涙の理由さえ曖昧になっていく。下腹の奥が熱く溶け、頭の中までとろりと蕩けて、空也への罪悪感さえ蜜の中に沈んでいく。寧音の口からは、ひっきりなしに「ひぅ、んっ、あ、あぁ……」と抜け殻のような声が漏れ、鼻にかかった甘い呼吸が、汗と精の匂いに混ざって濁っていく。
いつの間にかカーテンの向こうが薄青く変わり、朝の気配が畳の隅に染みていた。玄関の外では、早朝の新聞配達の足音が遠く去っていく。部屋の中には、二人分の汗と体液の匂いがどろりと溜まっていて、酸っぱく甘い空気が肺の底まで満たした。寧音の白い肢体は痣と紅潮に彩られ、太腿の内側には乾いた白濁が筋を作っている。それでも仁が腰を止めることはなく、寧音はすでに自分から仁の首に細い腕を回し、爪を食い込ませていた。瞳は焦点を失い、口元は半開きのまま、溢れた涎が顎から胸元へ筋を残して流れ、舌が薄く外へ這い出している。自分が空也に見せたことのない、獣のような顔をしていると、ぼんやり分かっていた。それでも、腰が勝手に黒い肉茎を呑み込み、内腿が仁の腰をきつく締めつける。涙で腫れた目が、明け方の薄闇の中でだらしなく潤んでいる。
「はぁ……はぁ……あ……ちんぽ、ちんぽが……だめ…やめられない…」
寧音はそう囁いて、白い腕を仁の背に回し、指先を食い込ませながら自ら腰を振り始めた。ぐちゅっ、ぬちゃっ、と下品な粘着音が朝の静けさに何度も跳ねる。仁の黒いものが奥をえぐるたび、白い喉がのけぞり、だらしなく開いた唇から熱い息が溢れていく。空也のいない明け方の部屋で、寧音はもう自分のものではなく、黒い巨根の形に貫かれ、揺すられ、満たされることだけを求める生き物になっていた。
第8章 兄のいない布団で花凜が跨る

第8章: 兄のいない布団で花凜が跨る
真木川家の玄関チャイムが、夜の静けさを割って小さく鳴った。時計の針は十時をいくつか回ったところで、花凜は居間のソファに寝転んだまま、天井を見上げていた。部屋着のTシャツの裾が腰のあたりでふわりと折れ、短パンから伸びた太腿が夜気に触れてひんやりと冷たい。お兄ちゃんがいない夜は、家中の物音がやけに大きく耳の奥へ入り込む。
花凜は体を起こし、裸足のまま玄関へ走った。覗き穴から外を見ると、街灯の白い光の中に、小柄な輪郭がぽつんと立っている。肩から下げたリュックの重みで、細い体が少し左へ傾いでいた。
ドアを開けると、仁は顔を上げて、伏し目がちに笑った。黒い前髪が夜の空気でわずかに揺れ、瞳の奥が月明かりを鈍く反射している。
「お兄ちゃん、いないんでしょ。僕が代わりに来たよ」
仁の声は低くて、まるで花凜の肩に掛ける毛布みたいに柔らかかった。花凜は一歩後ろへ下がり、ドアノブを握ったまま首を傾げる。
「でも、お兄ちゃんから何も聞いてないよ。仁くん、どうして家に来るって分かったの?」
「空也くんがね、花凜が一人でさみしがるから、お前が見ててやってくれって。連絡なかった?」
「……なかったかも。あたし、携帯、上に置いてたし」
「じゃあ、そういうことだよ。二日間もお兄さんいないんでしょ。心配で来ちゃった」
仁が一歩、玄関の内側へ足を踏み入れた。サンダルを持ち上げて、揃えて置く。その動作が妙に丁寧で、花凜は何かを言いかけたけれど、言葉にできないまま仁を居間へ通してしまった。
静かなリビングを通り抜け、階段を上がる。二人の足音だけが、木の床を小さく鳴らした。空也の部屋のドアは固く閉まっていて、花凜はそれを横目で見ながら、自分の部屋のドアを開けた。
中学二年生の花凜の部屋は、大きすぎるベッドと、整頓されていない机とに分けられていた。散らかった教科書の上に、空也が置いていったらしい白いTシャツが掛かっている。その空気と匂いに、花凜は無意識のうちに呼吸を深くした。
「お兄ちゃんの部屋、入らなくて大丈夫? あたしの部屋、あんまり片付いてないよ」
「花凜の部屋がいい。お兄ちゃんがいないときは、君のそばにいるね」
仁はベッドの縁に腰を下ろし、手を差し出して花凜を招いた。花凜は立ったまま、膝のあたりを片方の手で押さえている。相手が男の子で、夜で、家には二人きり。その状況が、胸の奥でじわじわと熱を持ちはじめた。
「仁くん、あたし……やっぱり、今日は」
「お兄ちゃんがいないから、でしょ。大丈夫、君が嫌なことはしない。ただ、話してほしいだけ。お兄ちゃんが留守の夜に、花凜が何を考えてるのか、知りたいんだ」
仁はそう言って、花凜の手を軽く引いた。抵抗する力は、花凜の細い腕にはなかった。ベッドの上へ引き寄せられ、仁の太腿の上に横座りするかたちで収まる。仁が花凜の背中をゆっくりと撫でた。手のひらの温かさが、Tシャツ越しに染みてくる。
「お兄ちゃんのことで、不安じゃない? 一人で夜を過ごすの、心細くて仕方ないでしょ」
「……べつに。あたし、もう子供じゃないもん」
「そうだね、もうお兄ちゃんに隠れて、人に甘えたい年頃だもんね。でも、花凜が寂しくならないようにしてあげる。お兄ちゃんが見せたことのないものも、僕が教えてあげるよ」
仁の唇が花凜の耳のすぐ横に寄り、吐息が産毛をくすぐった。花凜の肩がぴくりと震え、腰のあたりがむずむずする。自分でも理由の分からない感覚に、太腿をきゅっと閉じると、仁の手がその上から短パンの裾に触れた。
「やだ、急に触らないでよ……仁くん、変だよ」
「変なのは、君の体のほうじゃないかな。顔、赤い。お兄ちゃんがいない夜に、男の子が部屋に来てるのが、ちょっと嬉しいんでしょ」
「ち、ちがうもん。お兄ちゃんがいないから、あたしがしっかりしなきゃって」
「それなら、もうちょっと素直にこう言ったら? 一人で寝るの怖いから、傍にいてくださいって」
仁の声は静かで、なのに花凜の頭の芯へするりと入り込む。花凜は爪の先まで熱くなり、唇を噛んだ。首を振る代わりに、仁の胸に手を突っ張ってみたけれど、小柄なくせに仁の体は思った以上にしっかりしていて、びくともしなかった。
仁の指が花凜のTシャツを裾からゆっくりと持ち上げた。まだ膨らみきっていない胸が、夜の空気と仁の視線とに晒される。陥没気味の乳首は、自分でもはっきり分かるくらい硬く尖っていて、仁は目を細めてそれを見つめた。
「お兄ちゃんの下着、あるよ。ほら、前にここへ来たとき脱ぎ忘れていったやつ」
仁がランドセルの近くから、空也の部屋で使っているらしい白いシャツを一枚手に取った。甘くて、少し汗ばんだ兄の匂いが、鼻の奥をなでる。花凜はそれを見た瞬間、心臓が早鐘を打ちはじめた。
「なんで、それ……」
「君に貸そうと思って。お兄ちゃんの匂いがすると、安心して眠れるでしょ」
仁はそのシャツを花凜の首にそっと回し、襟元で軽く結んだ。空也の匂いが、花凜の顔のすぐ近くでふわんと広がる。お兄ちゃん。胸がぎゅっと苦しくなる。その匂いが、今、仁と二人きりでいることを、いっそう強く意識させた。
「お兄ちゃん、いい匂いするね。花凜は毎日、この匂いのする人と一緒にいたんだ」
仁は花凜の体をまた自分の太腿の上へ座らせ、小さな腰を前後から挟むように支えた。背中から、仁の細い腹と、もっと下にある硬い熱がうっすらと当たる。花凜はもじもじと腰を動かし、その度に仁の体温が直接伝わって、頭の中がくらくらした。
「仁くん、あたし、だめ……なんか、ふらふらする」
「大丈夫。もっと楽な体勢にしてあげるから、少しだけ、俺の思うままにさせて」
仁の声はいつものたどたどしさを捨て、どこか命令めいた響きを帯びていた。花凜の手首を片方だけつかみ、自分の肩へ回させる。花凜はされるがままに仁の体へもたれかかり、首に巻かれた空也のシャツの匂いを吸い込むたび、頭の後ろがしびれていった。
仁が花凜の短パンとショーツを一緒に、太腿の半ばまで引き下ろした。白い下着の股の部分はすでにじっとりと湿っていて、暗がりの中でも薄く透けている。仁は指の腹でその湿りをなぞり、ぬるりと光る糸を花凜の目の前に見せた。
「こんなに濡れてるよ。お兄ちゃんの匂いで、ここ、熱くなってる」
「ち……ちがうの、これは」
「嘘。触っただけで分かる。ねえ、花凜。君の中、自分でもぐちゃぐちゃになってるの、分かってる?」
仁は花凜の胎内へ指を一寸だけ差し入れ、軽く掻き回した。くちゅ、という音が小さく響き、花凜の口から息とも言葉ともつかない声が漏れた。太腿の内側が濡れて、仁の腹筋のあたりまで滴っている。花凜は自分の分泌液が、仁の体を汚している事実に、目の前が真っ暗になるほどの羞恥を覚えた。
「やだ、あたし……お兄ちゃんに、こんな……お兄ちゃん、ごめん……」
「なんで謝るの。お兄ちゃんには内緒にできるように、僕が優しくしてあげるから」
仁は花凜の胸に舌を這わせ、尖った乳首をゆっくりと口に含んだ。舌のぬめりと体温が、未熟な感触を丁寧に包みこむ。ちゅるる、と音を立てて吸い上げると、花凜の背中がしなり、喉の奥で悲鳴のような喘ぎが弾けた。
「あっ……や、それ、だめ……ひゃっ」
「可愛い声。お兄ちゃんに聞かせられない声、いっぱい出して」
仁は花凜の腰を抱え、自分の体の上で少しだけ浮かせた。仁のズボンの前はひどく膨らんでいて、花凜の太腿の裏に、その硬く熱いかたまりがはっきりと押し当てられる。花凜の腹の奥が、切ないくらいきゅんと縮んだ。
「仁くん、お願い……あたし、まだ……」
「お兄ちゃんしか知らない花凜を、別の花凜にしてあげる。そんなの、嫌じゃないでしょ。ここまで来たら、ちゃんと見て、選んで」
仁が自分の前を寛げ、黒々とした肉茎を摘み出した。小柄な胴体に似合わない巨きな陰茎が、夜の空気のなかで持ち上がる。青黒い血管が浮いた竿と、ぬらぬらした亀頭が、花凜の視線の先でゆるやかに脈打っていた。花凜は息を呑み、首に巻いた空也のシャツをぎゅっと握った。
「これ、まだ少ししか入れたことなかったね。でも今日は、花凜のほうから跨って、おいで」
仁の手が花凜の小さな腰を支え、亀頭の先端を花凜の入り口に押し当てた。熱い。触れただけで、お腹の奥まで溶けてしまいそうな熱を持っている。仁は挿れるのを急がず、ぬるりと先端を前後させ、桜色の襞を開いては閉じ、また押し戻すという動作をゆっくり繰り返した。くち、ぬち、と粘る音が、花凜自身の耳にいやらしく届く。
「や……そこ、こすらないで……も、おかしくなりそう」
「おかしくなったら、そのまま腰を下ろせばいい。ほら、君のいちばん柔らかいところで、握ってみて」
仁が花凜の両手を自分の肉茎に添えさせた。両手で握っても余る太さと、ずっと奥まで届きそうな長さ。花凜の手の中で、それがどくん、どくんと脈打つ。もう駄目だ、と思うのに、腰が自分から下がっていく。仁の支える手が、花凜の体を誘導した。
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
花凜の唇が震えて、その言葉だけが部屋に落ちた。次の瞬間、ぬぷり、と入り口をこじ開ける音がして、黒々とした亀頭が花凜の小さな胎内へ呑み込まれていく。十四歳の窄い肉が、雄の形にぴったり吸い付いた。
「あ……ぁ……や、はいってる……奥に、くる……」
「まだ先っぽだけだよ。今日は、花凜がいちばん欲しい深さまで、ゆっくり進めてみようね。腰、もう少しこっちに」
仁は花凜の腰を捉えて、自分の体へ近づけた。花凜の視界がにじみ、涙がぽろぽろと仁のTシャツを濡らした。後ろめたい気持ちと、太腿の奥で溢れる熱い快感とが、どこまでもぐちゃぐちゃに混ざって、涙と一緒に溢れてくる。
「っ、ん……あ、らめ……おく、あたっちゃ……」
「分かる? 花凜のいちばん深いところ、もうぐちゃぐちゃだよ。もっと声出していい。誰も来ないから」
仁の腰が下から小さく突き上げた。ぬちゅ、ぐちゅ、と水音が強くなるたび、花凜の細い体が跳ね、空也の下着が首の上で揺れた。お兄ちゃんの匂いが、仁の匂いと混ざって、花凜の頭の中をどろどろに塗りつぶしていく。
「もう、やめ……あ、あ、だめ……おにい、ちゃん……あたし、あたし……」
「いいね。それでいい。花凜は今、お兄ちゃんのためだけの花凜じゃなくなる。僕の花凜になっていく音、ここで響かせて」
仁がさらに深く腰を押し込み、花凜の胎内を満たしていく。黒い肉茎が、白く未熟な内壁を形に合うように広げ、抜き差しするたびに雌の汁を溢れさせた。花凜は仁の首にしがみつき、泣きじゃくりながら、わずかに腰を動かしてしまう自分の体を持て余していた。
第9章 交差する二つのよがりと無垢な待ちぼうけ

真木川花凜は、雨戸を閉めた自室の薄闇のなかで、布団の上に膝を抱えて座りこんでいた。兄の浴室からは、壁越しにぬるい湯の落ちる音だけが断続的に響き、ときおり石鹸の泡が肌をすべる気配さえ伝わってくる。スマートフォンが布団の上で小さく震え、光をひらくと、仁からの短い文が浮かんだ。「いま、兄ちゃんが頭を洗ってる。家を出るならいまのうちだよ」花凜は唇を噛み、薄いパジャマの前で乳首が布にこすれて尖るのも気づかないまま、カーディガンを羽織って立ちあがった。裸足の足裏が廊下の板をとらえ、心臓は喉の付け根で泡のように弾ける。階段の軋みさえ自分の吐息を告げ口しているようで、彼女は呼吸を殺し、玄関の鍵を音もなく回した。夜の空気は生ぐさい草の匂いと湿りをはらみ、熱い頬へ冷たく吸いつく。兄が目を閉じて湯を浴びている、たった数分のあいだに家の外へ出る。扉は油の切れた蝶番を鳴らさず、まるで二人だけの秘密をのみこむように、そっと閉じた。
そのころ源寧音は、荒神仁のアパートの一室に、膝を揃えた正座のまま蹲っていた。
真木川家の浴室は、湯気で白く濁り、鏡もまた曇りに覆われていた。空也は温水を頭から首筋へ流しながら、鼻の奥へ溜まる湿度をゆっくりと吸いこんだ。明日、伝えるんだ。その決意が胸の内側で小さな火のように弾け、朝のニュースを反芻するように何度も脳裏で再生される。彼は鏡の表面を掌で拭い、濡れた睫毛の奥から自分を覗きこんだ。額から生え際へ流れる雫、喉仏のあたりで光る水の粒、石鹸の香りが白く甘く肺へ散る。空也は強張った頬を手のひらで揉み、「よし」と声に出した。換気扇の回る低い音だけが耳の底に沈み、その音の裏で、妹の部屋がいつになく静かなことに、彼の耳はまだ気づかない。
荒神仁のアパートの一室は、閉めきった窓の外から湿った夜気を吸いこみ、古い畳のい草の匂いと、花のような残り香、そして熟れた汗の匂いが揺れていた。それは仁の母が落としていった香水の残滓で、嗅ぐたびに思い出の奥から女の声が滲みだすのだと、仁はときに言った。花凜は、その仁の腹へ小さな腰を跨らせ、ぬらりと汗を浮かべた太腿で彼の脇腹を締めつけながら、黒い肉茎の天辺だけを入口へくわえこみ、ゆるゆると腰を回していた。小さな割れ目の入り口からは、白く濁った愛液が糸をひき、肉茎の幹を伝って縮れた陰毛へ絡んでいた。首には兄の白い下着が巻きついたまま、涙と汗で半ば透けるほど湿り、布地は淡い肌に張りついて色を濃くしている。
「お兄ちゃん、いい子に待ってるよ」
仁の囁きが耳たぶをなぞり、花凜の背筋を震わせた。肉茎の先端が、まだ未熟な襞の上の方を浅い牡蠣の内側へこするように往復する。ぷちゅ、こぷっ、と絡みつく蜜が淫らな音をたて、飛沫が仁の引き締まった腹へ散って光った。眼球のふちから涙が熱く溢れ、下着の繊維へ吸いこまれていく。お兄ちゃんに、こんな自分が知られてしまったら。思考のどこかでは叫び声が響いているのに、花凜の腰だけは仁の指に導かれ、浅い肉筒の襞を擦りあげるたび、小さな陰核が愛液のなかで埋もれて震え、腹の奥が鈍く疼いた。
「や、あ……っ、これ、おかしくなりそう……」
「ならなきゃいいんだよ。浅いところだけで、もっと溶けていい」
仁の手が花凜の骨ばった腰を掴み、指がまだ青白い肌へ沈む。彼女の膣は根元を飲みこむには狭すぎて、亀頭が入口を目一杯に広げ、濡れた襞を引きずりながら抜ける感覚が、痛みと痺れの境を溶かしていく。首に巻かれた布から兄の匂いが立ちのぼり、それを吸いこむたび、下腹の内がわがじくじくと潤み、太い陰茎を咥えた肉の口がひくついた。花凜は唇を震わせ、目の前の薄闇に兄の眠る姿を探したが、そこには汗ばんだ仁の腹と、自分の白い腿の内側が濡れて光るだけだった。
浴室の鏡は、また曇りを取り戻していた。空也はタオルで髪を揉み、鏡の表面に自分の名前を指先で書く。文字はすぐ水に溶けて消え、白い膜が再び覆った。明日は屋上にするか、下駄箱の前で切りだすか。そんなことを考えているうちに胸の内側がきゅうと縮み、喉のあたりが熱くなる。風呂をあがって自室へ戻る途中、花凜の部屋の前で足をとめた。ドアの下の隙間からは暗い空気が洩れるだけで、いつもなら顔を出して「おやすみ」を言うのに、と思う。空也は足音を殺して通り過ぎ、自分の部屋のドアを閉めた。スマートフォンを握ると、画面が人の呼吸のように明るくなる。
仁のアパート、布団のそばで、寧音は正座したまま身をすくめていた。自分がどうしてここに来てしまったのか、思いだすたびに、仁からの短い文面が頭に浮かぶ。「明日、空也が告白するらしい。それを一緒に考えような」そう書いてあった。その一行に、告白へ向けて張りつめていた心の隅が揺れた。行くべきじゃないと知っていた。だが、今日の体温の名残をどこかで確かめたかったのも、また事実だ。目を上げると、すぐそこ、仁の上で花凜が腰を揺らしている。あの、兄を慕っていた中学生の薄い背中が汗に光り、首に巻きついた布が揺れる。仁の指は寧音の膝小僧を布越しに撫で、掌の熱をじわりと移してきた。
「二人とも、いい子だねえ。空也が知ったら、どうなるかな」
低い声に、寧音の肩がびくりと跳ねた。私は、空也に告白されるために、ようやく心を決めたのに。あの教室で隣にいて、窓の光を浴びて笑う空也の顔へ、まっすぐ応えたかったのに。なのに、この畳の上では、自分の内腿が仁の指を覚えていて、触れられる前から膣口が開きそうなほど濡れはじめている。指が太腿の内側をゆっくりと這いあがると、柔い皮膚がひくつき、短い息が唇からこぼれた。
「明日の告白、うまくいくといいね」
違う、と叫びたかった。でも声は泡のように消えて、寧音は仁の腕のなかへ抱えあげられ、花凜の余熱で湿った布団の上に沈められた。白い腹を照らす裸電球のひかりのなか、黒い肉茎の影がのしかかる。背中へ腕を回すと、仁の背は細いのに、その下の筋肉がしっとりとした厚みを持ち、爪を立ててもどこか逃げようがない。身体に刻みつけられた太い肉塊が、胎の入り口へゆっくりと押し入ってくる。襞はもう、その先端の形を覚えていて、抜こうとする腰へすがるように絡んだ。
「あ……ひぅ、それ、だめ……」
「だめじゃないよ。空也に抱かれても、いまのことを思いだせるようにしてあげる」
仁の重い腰が下りて、子宮口へ届くか届かぬ場所を、亀頭の先端でぐり、ぐり、と捏ねてくる。そのとたん、寧音の頭に教室の光景――窓べに浮かぶ薄い埃、昼休みのざわめき、となりで眠そうに笑う空也の喉元――がよみがえった。あの濁りのない光と、この湿った薄闇が、仁の肉棒でつなげられている。泣きたいほどの落差が、なぜか下腹の奥を甘く熱らせ、膣肉が男の形を咥えこんで蠢いた。寧音は爪を汗ばんだ背中へ食いこませ、そこに何本もの細い赤い筋を咲かせた。涙が目尻からこめかみを伝い、畳へ吸いこまれる。上になり、下になり、腿のつけ根まで滑りおりる快楽の波に、言葉を失って腰を振っていた。ぐちょ、ぬちゃ、と音がするたび、湿った布団の下へ愛液が泡立って沈んでいく。
横たわった花凜は、その姿を目だけで追っていた。兄に似合うはずの優しげな女の人が、仁の体へしがみついて、白い腰を波打たせている。さっきまで自分の浅い肉筒に埋まっていた肉の熱を、いまは彼女が深く咥えこんでいるのだ。見つめるほどに、花凜の中の擦られた場所が、じわ、じわと脈を打ち、触れてほしいと強請る。彼女は首に巻いた下着の端を口に含んだ。兄の匂いが唾液で溶け、口腔から脳へ流れこむ。お兄ちゃん、ごめんなさい。でも、あのとき腰を動かしたのは、間違いなくあたしだった。涙はとまらないのに、腹の奥はひどく熱く、痺れたようになっていた。
真木川家の自室で、空也はスマートフォンの画面を明るくし、メッセージアプリを開いた。送信先は仁。長いこと、この胸のつかえを聞いてもらった。励ましてもらわなければ、明日の勇気はとても持ちあがらなかっただろう。空也は湿った指先で、短い文を打ちこんだ。
「明日、応援してくれよな」
送信ボタンを押すと、すぐに「既読」がつき、画面のむこうから生返事のように文字が浮かぶ。空也は口元をほころばせ、風呂あがりの清潔な石鹸の匂いを指先へ探した。大丈夫。そう信じたい。窓の外では、雨の気配もなく、木々の匂いも眠っている。
薄暗い部屋の隅で、スマートフォンの画面が蛍のように光った。仁は寧音の身体を抱えたまま、彼女の熱い背中を片腕に預け、濡れた指を伸ばして端末を手に取る。画面の白い光が彼の黒い瞳をなぞり、唇がゆっくりと歪む。仁はそのまま寧音の耳たぶへ口を寄せ、息を吹きこむようにささやいた。
「空也、応援してくれるってさ。よかったね、寧音」
その声を聞いた瞬間、寧音の奥底で、何かが音もなく弾け、下腹から冷水のような汗が滲んできた。腕のなかで、彼女はただ黙り、指先だけが仁の背へぴったりと吸いついた。白い天井の裸電球が呼吸に合わせて明滅し、この薄暗い部屋で、仁の太腿に跨ったまま、花凜の白い背中がまだ小さく震えていた。その首に巻かれた下着からは、消えかけた兄の匂いと、新しい男の汗とが混ざり、青い夜の空気のようにひどく甘く、ひどく不浄な香りを放っていた。
第10章 告白の返事と消えない火照り
第10章: 告白の返事と消えない火照り
朝の光が、カーテンの隙間から細い帯になって床に落ちていた。空也は鏡の前でネクタイを結び直し、何度も深呼吸を繰り返した。襟元がやけに窮屈に感じる。
スマホの画面には、昨夜の仁からの返信が残っている。「ちゃんと伝えてこいよ。応援してる」。それだけの短い文が、今日の空也の心臓をぎゅっと支えていた。仁くんがこう言ってくれたんだ。きっと、大丈夫。
リビングに降りると、花凜がソファにうずくまるようにしてテレビを見ていた。パジャマ姿のまま膝を抱えて、小さく丸まっている。いつもなら「おはよう、お兄ちゃん」と飛びついてくるのに、今朝は顔も上げず、目だけをちらりと向けた。
「……おはよ、お兄ちゃん」
「おはよう、花凜。……なんか顔色悪いけど、大丈夫か?」
「うん。ちょっと眠れなかっただけ」
そう言って、花凜はまた画面のほうへ視線を戻した。空也は通学鞄を手に取り、少しだけ迷ってから「行ってきます」と玄関へ向かった。後ろから、ひそやかな声が届いた。
「……いってらっしゃい」
いつもみたいに「がんばってね」と言われることはなかった。空也はそれも、寝不足のせいだろうと思った。
授業は、まったく頭に入らなかった。黒板の文字は目を通過するだけで、何ひとつ残らない。時計の針が進むたび、心臓が大きく跳ねる。昼休み、空也は意を決して、寧音にLINEを送った。
「屋上に来てほしい。話があるんだ」
既読が付いたのは、十分ほど後だった。返ってきたのは、ただ一言。
「わかった」
屋上は、思ったよりも風が強かった。雲一つない青空が高く広がり、フェンスの影がコンクリートの床に細く落ちている。空也はフェンスのそばに立ち、落ち着かない気持ちで手のひらを何度も擦り合わせた。
「空也」
声のするほうへ振り返ると、寧音が立っていた。白いブラウスに紺のスカート。風に黒髪がふわりと揺れて、白い頬が少しだけ赤く染まっている。空也は、自分から声をかけたのに、いざ向かい合うと言葉が喉に張り付いてしまった。
「あのな、急に呼び出してごめん。……伝えたいことが、あって」
「うん」
「僕、寧音のことが好きなんだ」
言った。口にした瞬間、自分でも不思議なほど、すっと心が軽くなった。ずっと胸の奥に仕舞い込んでいたものが、ようやく日の光に出られたような、そんな気持ち。
「ずっと、小さい頃から隣にいたから、よく分かんなかったんだけどさ。気づいたら、もう、好きで好きで仕方なかったんだ。仁くんには何度も相談した。どうやって伝えたらいいかって。そしたら、素直に言えばいいって……笑われちゃったけど」
空也は照れくさそうに笑った。風が二人の間を静かに通り過ぎていく。寧音の瞳が、ゆっくりと揺れて、潤んでいく。唇が小さく開いて、何かを言おうとして、けれど声は出てこなかった。代わりに、一粒の涙が白い頬をすべり落ちた。
「ごめんね、空也」
その声は、風に消えてしまいそうなほど小さかった。けれど、確かに空也の胸の奥まで届いた。空也は目を見開き、それから精一杯の笑顔を作った。
「……そっか。うん。……また、いつか」
唇の端が、うまく上がらなかった。きっと、ひどく歪んだ顔をしている。そう思いながらも、空也は笑うことをやめなかった。寧音はもう一度だけ「ごめんね」と小さく繰り返し、俯いた。黒髪がさらりと垂れて、その表情を隠す。
「気にしないで。僕が、いきなりビックリさせちゃっただけだから」
空也はそう言って、屋上の扉へ向かった。フェンスの影が、白いシャツの上を横切る。
寧音は、空也の背中が完全に消えるまで、その場に立ち尽くしていた。涙はもう止まっていた。頬に残るのは、一粒分のひんやりとした跡。それを拭うこともせずに、彼女はそっと空を見上げた。
(泣いてはいけない。ひと粒だけ、涙を見せればいい。そうしたら、あの子はきっと、ずっと私を好きなままでいるから)
昨夜、仁から繰り返し言い聞かされた言葉だ。彼女はその命令に従った。心が泣いたからではなく、命令されたから、一粒だけ流した。なのに、胸の奥では、空也のまっすぐな視線がちくりと刺さって痛む。本当は、応えたかった。あの優しい笑顔に、ちゃんと「私も好き」って返したかった。
それなのに、太ももの内側が、じんわりと熱を持つ。昨夜の感触が鮮明によみがえってくる。ぬるりと這われた指。奥を押し開くあの熱。肌の上にしつこく残る、誰かの体温。空也の告白を聞いている間じゅう、ここは小さく震えていた。あの黒い熱を思い出すように。
(おかしいな。好きな人に告白されてるのに、私の頭の中にあるのは……あの人の指だ)
寧音は唇を噛み、目の前の青空を見つめた。夏の光が、まぶしいほどに降り注いでいた。
空也は、非常階段の隅で立ち止まり、壁に手をついた。胸の奥が、何か大切なものを落としてしまったように、ぽっかりと空いていた。
スマホを取り出し、仁に報告しようとする。指が少し震えていた。
ちょうどそのとき、階段の下から足音がして、仁が顔を出した。
「空也。……どうだった?」
いつものように小さく、柔らかい声だ。空也は苦笑いを浮かべて、首を振った。
「玉砕したよ。見事に」
「そう……なんだ」
「でも、伝えられたんだ。ちゃんと。それだけで、ちょっとすっきりしたというか。仁くんには、ほんとに感謝してる。アドバイス、ありがとな。また頼むよ」
「うん。次は、きっと大丈夫だよ」
仁は微笑んだ。細い眉が少しだけ下がり、黒い瞳が柔らかく細まる。その奥で何かが静かに光っていたけれど、空也には気づけない。
「あ、そうだ。来週、また勉強会しようぜ。テスト近いし、花凜も呼んで。あの時間、なんか好きなんだ。みんなで机囲んでるのがさ。僕にとっては、落ち着くっていうか……」
空也は遠くを見るように目を細め、少しだけ照れたように笑った。涙の痕がまだ残っている、濡れた笑顔だった。
「……うん、楽しみにしてる」
仁はそう答えて、制服の胸ポケットからスマホを取り出した。カメラを静かに起動し、非常階段を下りていく空也の背中を、無言で捉える。画面の中で、太陽の光を浴びた白いシャツが、ひときわ明るく輝いていた。
(……来週か。楽しみだね)
仁は、カメラの向こうの白い背中が完全に消えるまで、それを追いかけていた。そして、ゆっくりと、唇の端を舐めた。
その日の夕方、真木川家のリビングには、変わらない静けさが流れていた。花凜はソファに沈み込むようにして、スマホの画面を見つめている。兄が帰ってくるまで、あと少し。本当は玄関まで迎えに行って、「おかえり、お兄ちゃん」って言いたい。それなのに、体が動かない。
画面の中では、夜のアパートの一室が映っていた。ノイズの混じった映像。その中で、花凜自身の白い小さな背中が、細かく震えている。首には、兄の下着が巻かれていた。お兄ちゃんの匂いがする白い布。あの布を巻かれて、仁の膝の上に乗せられて、自分から腰を動かした夜。
花凜は小指を口に含んだ。ぎゅっと噛むと、じんわりと痛みが広がり、その痛みが妙に心地よかった。体の奥のほうが、まだあの感触を覚えている。仁の指の匂い。黒くて、熱い塊。それが、今もここで脈打っている。
「……お兄ちゃん、告白、どうだったのかな」
画面から目を離し、花凜は窓の外を見た。夕日が赤く沈みかけている。お兄ちゃんは、今ごろ笑っているだろうか。それとも、泣いているだろうか。あたしは、こんなものを見て、それをお兄ちゃんに隠している。あたしの体は、もう、お兄ちゃんのものじゃないのかもしれない。
「ごめんね、お兄ちゃん」
小さく呟いた。けれど、その言葉はソファに吸い込まれるように消えて、返事はなかった。指に残った自分の唾液が、ほんの少しだけ生温かった。
夜になって、空也は自室のベッドに仰向けに寝転び、スマホを手に取った。仁からメッセージが届いている。
「今日はお疲れさま。次は絶対うまくいくから」
空也はそれを、二度、三度と読み返した。そして、小さく笑った。
「……そうだよな。次があるよな」
窓の外はもう暗い。この部屋には、まだ仁の匂いも、仁の影もない。ただ静かに、平和な夜が広がっているだけだった。
けれど、この家の中には、空也が知らないものが、もういくつも沈んでいた。花凜のスマホに残された消せない動画。寧音の白い太ももに刻まれた、指の感触。二人の身体はまだ、あの黒い熱を覚えて火照り続けている。心のどこかで罪悪感を抱えながら、それでもあの熱を求めてしまう自分を持つ。
空也は何も知らない。今日の告白が失敗したことだけを知って、明日もまた、変わらない毎日を送っていく。来週の勉強会の予定が、彼の心の中に温かく広がっていた。穏やかな時間は、まだ笑顔の裏側で、少しずつひび割れ始めている。そのひび割れに気づかぬまま、空也は静かに目を閉じた。
登場人物
-
真木川空也 まきがわ くうや男性 ・ 16
外見: 短めの黒髪、優しげな茶色い瞳、中肉中背。服装: 高校の制服、休日はTシャツにチノパン。困っている人を放っておけない無垢な高校1年生。寧音に淡い恋心を抱くが奥手で、仁を心から信頼する。
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源寧音 みなもと しずね女性 ・ 16
外見: 腰まで伸びた艶やかな黒髪、大きな茶色い瞳、華奢で白い肌の美少女。服装: 高校の制服、白いブラウスに紺のスカート。道徳心が強く、空也に仄かな想いを寄せる。仁を友達として支えようとするが、調教により心と身体が引き裂かれる。
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真木川花凜 まきがわ かりん女性 ・ 14
外見: 肩につく程度の黒髪、丸く幼い輪郭、明るい茶色い瞳、発育途中の小柄な肢体。服装: 中学の制服、部屋着はゆるめのTシャツと短パン。ブラコンの無邪気な妹で、兄に甘える。仁に懐くが、兄への後ろめたさと快楽の板挟みになる。
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荒神仁 あらかみ じん男性 ・ 16
外見: 細く小柄、やや長めの黒髪が顔にかかり、伏し目がちな黒い瞳。制服の下に華奢な体と不釣り合いな黒ぐろとした巨根を隠す。普段は弱々しく孤立した高校生だが、内面は女を性的支配できるという歪んだ優越感を持つサイコパス。
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荒神仁の母(あらかみ じんのはは)(女性、40歳前後)
外見: 派手な化粧、染めた長い髪、疲れた目元、豊満な体型。夜の仕事帰りの香水と色香をまとう。息子を男のように扱い、性の支配を教え込んだ倒錯者。過去の回想でのみ登場する。





