第2章: 理性とひだの間で

第2章: 理性とひだの間で
隣の席に座る佐藤悠人と、視線がぶつかった。
その瞬間、村越唯夏の世界から音が盗まれた。
校長の宣言も、斎藤先生の冷たい声も、クラスメートどものどよめきも、すべてが遠のいていく水底の音のように霞んでいく。
ただ、切れ長の瞳に浮かんだ戸惑いだけが、あまりに鮮烈に焼き付いて。
喉までせり上がってくる心臓のげっぷのような、窒息感だけが、残された。
「ペアを組んでください」という先生の言葉が、耳の奥に鋭く突き刺さる。
斎藤先生の理性的で、それでいて底知れぬ響きを持つ声が、静まり返った教室に張り付く。
「では、訓練を始める前に、一つ、確認させていただきますわ。昨日、配布した下剤は、皆さん、ちゃんと飲んでくれましたか? 腸内を空にしておくことは、衛生面…というだけでなく、快感を得るための、大切な第一歩ですから」
下剤…?
唯夏には、全く心当たりがなかった。
昨日の帰り道、葵が楽しそうに何かを囁いていたのは、まさにこのことだったのだろうか。
隣の席では、葵が元気よく手を挙げている。
「先生、私、飲みました!お腹がすっきりして、なんだか気持ちいいです!」
「ふむ、木村くんはいつも模範的ね。じゃあ、飲み忘れた人は?」
唯夏の体が、一瞬で氷の塊のように冷え切る。
恐る恐る手を挙げる数人の生徒。
その中に、自分も含まれている。
斎藤先生は挙手した生徒たちを一瞥すると、何の感情もない瞳で言った。
「残念だけれど、ルールはルール。保健室で特別な処置を受けてもらいますわ。村越くん、あなたもその一人ね。ついてらっしゃい」
「え、あ、はい……」
足が鉛にでも繋がれたかのように重く、先生の後を追い教室を出る。
廊下を歩くたびに、スカートの裾が太ももを撫でる感触が、異様に恥ずかしい。
保健室の白い扉を開けると、独特の消毒液の匂いが鼻の奥をえぐる。
先生はカウンターの引き出しから、いちじくのような形をしたプラスチックの容器を取り出した。
「これが浣腸よ。中には液体が入っているから、膝をついて、お尻を高く上げるの」
先生の指示は機械的で、少しの躊躇もない。
泣きそうになりながらも、ベッドの上で言われた通りに体を折り曲げる。
スカートがめくれ上げられ、薄いパンティー一枚になったお尻が、保健室の冷たい空気に丸裸にされる。
羞恥で目の奥が熱くなる。
次の瞬間、冷たい先端が羞裂に触れ、ぐいっと、中へと液体が注入された。
お腹の中がじわじわと熱くなり、強い圧迫感が襲いかかってくる。
「我慢できなくなったら、トイレへ行ってらっしゃい」
先生の言葉に、唯夏はよろめきながらトイレに駆け込んだ。
便座に腰を下ろした途端、意思とは関係なく体が反応し、汚くて水の音と共に、体内のものがすべて排出されていく。
耳を塞ぎたくなるような音。鼻をつく匂い。
すべてが唯夏のプライドを、ぐしゃぐしゃに引き裂いていく。
空っぽになった体で洗面台に向かうと、鏡には顔面蒼白で、目の下に涙の跡が残った自分が映っていた。
--もう、元の世界には戻れないのかもしれない…。
よろめく足で教室に戻ると、授業はすでに始まっていた。
教室の真ん中には、等身大の人体模型が置かれ、斎藤先生がその臀部に指を滑らせながら実演していた。
「このように、肛門の周りを優しくマッサージし、筋肉を弛緩させるのですわ。ローションはたっぷり使いましょう。乾燥は快感の大敵ですから」
先生の声は落ち着いているが、その内容は唯夏にとって悪夢そのものだった。
そして、隣のグループでは、葵がもう実践を始めていた。
彼女は四つん這いになり、後ろにいる男子に安心しきった様子で体を預けている。
「ねえ、もっとちゃんと塗ってよ…あ、くちゅっ……っ」
葵の口から漏れた甘えたような声と、それに続く明らかに下品で、湿った音。
くちゅっ。
その音が唯夏の鼓膜に直接こびりつく。
葵は苦痛そうな顔ではなく、むしろどこか楽しげに、お尻をくねらせている。
その光景に、唯夏の理性が少しずつ剥がれ落ちていくのを感じた。
「村越くん、佐藤くん。あなたたちも始めなさい」
先生の声に、悠人が震える声で答えた。
「あ、あの…村越さん…、もし、嫌だったら、言ってください…。僕、我慢しますから…」
「……っ」
唯夏は答えられない。
ただ、教室の隅に置かれたブルーのマットの上に、指示通りに膝をつく。
スカートの裾をめくり、震える指でパンティーを下ろしていく。
無防備になったお尻の穴が、教室の冷たい空気にぴくりと震える。
もう、誰かに見られているという羞恥よりも、これから起こることへの漠然とした恐怖の方が大きかった。
悠人が近づいてくる気配。
そして、ぬるりとした何かが、お尻の裂け目に触れた。ローションだった。
冷たい感触に、唯夏の体はびくりと跳ね上がる。
「ひっ……!」
「す、すみません……!冷たかったですか……?」
悠人の指が、おそるおそる唯夏のアナルをなぞる。
お尻の皺がヒクッと反応する。
指先の熱と、ローションの冷たさが混ざり合い、未知の感覚が背筋を伝っていく。
痛みではなく、でも快楽とも言えない。
ただ、異物が触れることへの純粋な拒絶反応と、その触れ心地に体が反応してしまうという、自分でも理解できない矛盾だった。
悠人の指が、恐る恐る肛門のひだを広げようとする。
その指先の動きに、唯夏の穴は意思を持っていないかのように、ぴくりと震える。
「じゃ、次は…これを……」
悠人が手にしたのは、先端が丸まった、小さなピンク色のプラグだった。
訓練用の一番小さいものだという。
その小さな塊が、唯夏には巨大な怪物のように見えた。
「入れるから…、気をつけるから……」
悠人は震える手で、プラグの先端にローションを塗り重ねる。
そして、唯夏の濡れたお尻の穴に、ゆっくりとその先端を押し当てた。
ぐうっと、鈍い圧力がかかる。
体の芯が震える。
--入れないで。こんなの、おかしい。帰りたい…。
でも、声にはならない。
ぷつり、と小さな音がして、プラグの先端が、固く閉ざしていた唯夏のアナルの筋肉を乗り越えた。
「んっ……!あ、あっ……!」
息が詰まる。
お尻の穴が、異物を取り込んでびくりびくりとひくつく。
羞恥で意識が遠のきそうになる。
でも、その意識の闇の中で、お尻の奥からじわじわと広がっていく、熱のようなものだけが確かにあった。
それは痛みとは違う、甘いような、危険な疼きだった。
理性は叫んでいる。これはおかしい、間違っている。
でも、お尻の穴は、その熱を、確かに記憶し始めていた。
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