第1章: 目覚めれば、そこはケツ穴の教室

第1章: 目覚めれば、そこはケツ穴の教室
まぶたの裏を焼き付ける、白く鋭い朝の光。
それはいつもと違う、何かを断ち切るような危険な輝きを帯びていた。
ゆっくりと意識を泳がせる。
昨日までの世界が、薄い硝子を一枚隔して少しだけ歪んで見えるような、そんな不思議な感覚に包まれて。
枕に横たわる自分の長い黒髪の、涼やかな感触。
布団にこもった、微かな体温と甘い汗の匂い。
窓から聞こえる鳥のさえずりが、今日だけは不気味に響く。
どれをとってもこれまでと同じはずなのに、心の奥底で何かが軋む音がする。
体を起こして鏡の前に立つ。
そこにはいつもの村越唯夏が映っている。
ぱっちりとした黒い瞳にまだ幼さの残る顔、小柄で華奢な体。
何も変わっていないはずなのに。
それなのに、この空気の重さ、肌を這う微細な違和感は何だろう。
学校へ向かう道、友人の木村葵が明るい声で私に駆け寄ってきた。
彼女の茶色のボブカットが朝風に軽く揺れ、同年代にしては少し早熟な、ふっくらとした胸がブラウスの下で弾んでいる。
少し短く加工されたスカートの丈から覗く、白く滑らかな脚。
その無防備な光景が、なぜか突き刺さる。
「ねぇ、唯夏っ!おはよー!」
「あ、葵、おはよう…」
「ねぇねぇ、聞いた?今日のアナルの授業!すっごく楽しみじゃない?私、もうドキドキしちゃって!」
葵の言葉に、私は息を呑んだ。
空気が喉に詰まるような、鋭い痛み。
--アナルの…授業?
何のことだか、すぐには理解できなかった。
葵は私の戸惑いを見て、大きく目を丸くする。
「え、もしかして唯夏、知らなかったの?昨日の帰りに、教室の掲示板に貼ってあったよ。『十二歳より、健全な異性交際を促進するための実践授業開始』って。今日から始まるんだって!」
葵はソックスをハイソックスにしている脚を軽く揺らしながら、興奮した様子で話し続ける。
私の頭の中は、彼女の言葉が反響するだけで、思考が追いつかない。
アナル…お尻の穴の授業?
そんなばかな。
冗談に決まっている。
でも、葵の顔は真剣そのもので、少しも冗談を言っているようには見えない。
周りを歩いていた他のクラスメイトたちも、何気なくそんな話題で盛り上がっているらしく、時折「アナル」「拡張」といった言葉が風に乗って聞こえてきて、私の耳に痛いほど突き刺さる。
校庭に入ると、朝の全校集会の音楽が流れていた。
いつもと同じ光景。
生徒たちが整列し、校長先生が壇上に立っている。
しかし、今日の校長先生の顔はどこか引き締まり、その眼差しには異様な熱がこもっているように感じた。
「皆さん、朝より元気な顔をしていますね。本日は、我が国の未来を左右する、極めて重要なお話があります」
校長先生の声は、いつもより張りがあり、体育館に響き渡る。
生徒たちは静かになり、その言葉に耳を澄ました。
「ご存知の通り、我国は深刻な少子高齢化に直面しております。このままでは、私たちの未来は明るいものとは言えません。そこで国は、今般、画期的な方策を打ち出しました。それは、未来を担う皆さんに、健全な异性との交わりを、より早い段階から経験していただくことです」
ざわめきが走る。
私の心臓が、喉までせり上がってくるくらい大きく跳ねた。
何を言おうとしているの?
「もちろん、十八歳までの性交は固く禁止されております。しかし、膣にペニスをいれなければ、それは性交にはあたりません。そこで、十二歳より、アナルセックスを奨励し、学校教育の一環として、その実践と心得を指導していくことになりました!」
体育館に、一瞬、気の遠くなるような沈黙が落ちた。
そして、次の瞬間、どこからか拍手が起き、それが波のように広がっていく。
信じられない。
私の耳がおかしいのではないか。
校長先生は、真顔で、国の威信をかけた重大な政策であるかのように、アナルセックスの奨励を宣言した。
隣に立つ葵は、顔を赤らめ、興奮と期待に満ちた目で私を見ていた。
反対に、少し離れたところにいる佐藤悠人の顔は、真っ青になっていた。
彼は切れ長の瞳を大きく見開き、ただ呆然と壇上を見つめている。
その姿が、私の混乱をさらに深く引き裂いていく。
教室に戻ると、空気はもはや昨日までのそれではなかった。
女子たちは顔を赤らめておしゃべりし、男子たちはどこか気まずそうに、それでいて好奇心の光を瞳に宿していた。
私の席は窓際で、隣は悠人だ。
彼が席に着くと、私たちは無言で、お互いに目を合わせることさえできなかった。
この教室が、もう安全な場所ではないことが、肌で感じられた。
その時、教室のドアが開き、担任の斎藤麻耶先生が入ってきた。
長くウェーブがかった栗色の髪、知的な印象のメガネ。
白いブラウスとタイトな黒いスカート、ハイヒールという、プロフェッショナルな装いだが、その歩き方には色気を感じさせる。
先生は、何の表情も見せずに、教室の前に立つと、大きなダンボール箱を床に置いた。
「皆さん、おはようございます。校長先生の話は、聞きましたか?」
先生の声は冷静で、一切の揺らぎもない。
「これから、皆さんは新しい性教育の一環として、お尻の穴を快楽で受け入れるための訓練を始めます。羞恥心など、無用な感情は捨ててください。これは、国の未来のための、皆さんの大切な務めです」
そう言うと、先生はダンボール箱を開けた。
中からは、大小様々な形をしたバイブレーター、そしてたくさんのローションが入った瓶が、無機質な光を放って転がり出る。
細くて滑らかなもの、ぶつぶつと筋が刻まれたもの、異様に太く長いもの。
淫らな肉色や、不気味な紫色のプラスチックが、天井の蛍光灯を反射してキラキラと輝いている。
教室から、小さな息をのむ声がいくつも聞こえた。
葵は「わぁ…」と、目を輝かせてその光景を見つめている。
私は、恐怖と羞恥で体が硬直し、息すらできなくなった。
--お尻の穴に…そんなものを…入れるの?
この目で見ている光景が、現実だとは思えなかった。
私の視界が白く霞み始め、耳鳴りがした。
ふと、横を見ると、悠人も私と同じように、顔を真っ青にして、唇を震わせていた。
その時、私たちの目が、偶然にも合ってしまった。
彼の瞳に映るのは、私と同じく、絶望と混乱に満ちた表情だった。
世界が、音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。

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