第2章: 疼く身体と壊れる自尊心

第2章: 疼く身体と壊れる自尊心
あの日から、塾の薄暗い一室で繰り広げられる「レッスン」は、架純にとっての日課となった。
放課後の教室に残る生徒たちのざわめきが遠のき、栗崎が鍵をかけたカチャリという乾いた音が合図になる。
彼の求めるままに膝をつき、その熱い肉塊を頬張る行為は、初めの頃の吐き気に近い抵抗感を、いつしか諦めのような慣れに変えていた。
口の中に広がる唾液のねばつきと、独特の生臭さ、そして最後に喉奥を抉るように突き上げられる精液の塩辛い味。
それらは今や、アイドルになるという夢への通行料だと、架純は自分に言い聞かせた。
何度も繰り返すうちに、舌の動きも少しは滑らかになり、栗崎が満足そうに呻く声を聞くと、なぜか胸の奥に小さな達成感が芽生える自分がいて、その事実に更に深い羞恥がこみ上げてきた。
「ふう…上手くなったな、架純さん。昨日よりずっと、舌がしなやかになっている」
栗崎は満足げに息を整え、ジャージのズボンを上げる。その大きな手が、いつもより長く架純の髪を撫でる。
指の腹が耳の後ろを掠め、ぞくっとする感触に架純は小さく肩をすくめた。その仕草を見逃さず、栗崎の目に狡猾な光が宿る。
「だが、それだけじゃ不十分だ。口だけで男を喜ばせるのは、ただの都合のいい女のやることだ。本当のアイドルは、全身で魅力を発信しなければならない。そのためには、まず自分の身体を知ることから始めなければならない」
「体…を、知る…ですか?」
架純は不安げに尋ね返す。彼の言葉はいつも正論のように聞こえるが、その裏に潜む何かが、少女の直感に危険信号を送っていた。
栗崎はにやりと笑い、架純の前にしゃがみ込んだ。その身長差が、圧倒的な支配感を生み出している。
「そうだ。君の身体は、まだ何も知らない。だから、僕が教えてあげる。どこを触れれば、どんな音を立てれば、男が興奮するのか。その全てを、一からね」
そう言って、彼の手が架純の肩にゆっくりと乗った。体操着の薄い生地の上から伝わる、彼の掌の熱と重み。
架純は息を飲んだ。動けない。夢のために、ここで断ることはできない。
--そう自分に言い聞かせ、固く目を閉じた。
栗崎の手は、肩から腕を伝い、まだ膨らみかけた胸の上へとゆっくりと滑っていく。
その指先が、服の上で乳房の輪郭をなぞるように動いた瞬間、架純は今まで感じたことのない電撃が脊梁を駆け上るのを感じた。
「んっ…!」
思わず漏れる声。栗崎はその反応を気に入ったように、さらに指先で乳首のあたりを優しくこすった。
体操着の生地が擦れて、鈍い痛みと、それとは違ううずくような熱が、一点に集中していく。
--これは何? なぜ、こんな気持ちに…? 理性は拒絶しているのに、身体は正直に反応してしまう。
乳首は栗崎の指先に応えるように、硬くこわばり、服の上からでもその形がはっきりとわかるほどに脈打っている。
「ほら、見てごらん、架純さん。君の身体は、僕に触れらるのを求めている。こんなに可愛らしい声を出して」
「ち、違います…っ! そんな…んっ…!」
否定する言葉が、甘い吐息に変わってしまう。恥ずかしい。
--でも、この指が離れてほしくない。そんな矛盾した欲望が心の中で渦巻き、自尊心はボロボロと剥がれ落ちていく。
栗崎はもう一方の手で架純のあごを持ち上げ、無理やり目を開けさせた。
その焦げ茶色の瞳が潤み、快楽と混乱に揺れているのを確認すると、彼は満足そうに低く笑った。
「いい子だ。その顔、最高に萌えるよ。審査員も、きっと君を気に入るさ」
その時、教室のドアが静かに開き、ピンクの髪がちらりと見えた。
相原優衣だった。彼女は面倒くさそうに息をひとつき、部屋の中の光景に何の驚きも示さなかった。
ただ、冷めた目で、栗崎の手に弄ばれ、顔を赤らめて喘ぐ架純を見つめている。
「…まだそんなところで時間を無駄にしてるの」
優衣の声は、棘のないような、それでいて突き刺さるような響きを持っていた。
「あんたが早く覚えちゃえば、こっちも楽できるのに。覚悟がないなら、さっさと辞めればいいのに」
「優衣さん…」
架純は彼女の名前を呟いたが、それは嗚咽に近かった。同情でも、助けでもない。
ただ、自分がたどってきた道を、後から来る者に冷たく突きつけるだけの言葉。
それがかえって、架純の心に最後の抵抗の芯をへし折った。
--そうか、これがこの塾の「正しい」姿なのか。自分が置かれている状況は、特別なことなんかじゃない。ただの通過儀礼なのだ。
「その通りだよ、優衣ちゃん。架純さんには、まだまだ教えることがたくさんあるんだから」
栗崎は優衣に向かって言うと、再び架純の乳首を強く摘んだ。
「ひゃっんっ!!」
跳ねるような声が、部屋に響いた。背筋がビクンと痙攣し、足の力が抜ける。
熱が下半身に一気に巡り、内ももがじっとりと濡れるのを感じた。
--これは、ただのレッスンじゃない。
自分という人間を根底から壊して、栗崎の望む「もの」に作り変えるための、汚れた儀式なのだ。
その事実を突きつけられた時、架純の中で何かがぷつりと切れた。もう、いい。
--夢のために。この身体が、どうなろうと、いいじゃない。
栗崎は指を離し、立ち上がった。彼の顔には、獲物を完全に手に入れた男の、満ち足りた笑みが浮かんでいた。
「今日はここまでだ。よく頑張った。
次のレッスンは、もっと深い場所を…君の『素質』を、もっと引き出してあげよう」
深い場所。
その言葉が意味するものを想像するだけで、架純は恐怖と、それと等しいくらいの背徳的な期待に体を震わせた。
一人残された教室で、彼女は体操着の胸元を押さえ、まだ残る栗崎の指の熱と、自分の身体が覚えてしまった初めての快感に、ただただ俯くしかなかった。
理性は夢という名の欲望に完全に侵食され始めていた。
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