第5章: # セカンドライフの始まり

第5章: # セカンドライフの始まり
電話が鳴る音は、いつもより少し高く、緊張を帯びて聞こえた。
洋はリビングのソファに腰掛け、手の中の携帯電話の画面を見つめていた。表示されているのは娘・美咲の名前だ。叶は隣に座り、そっと彼の手を握った。その掌は温かく、少し汗ばんでいた。
「……大丈夫ですよ」
叶の声は、いつもより少しだけ低く、慈愛に満ちていた。
洋はうなずき、通話ボタンを押した。
「もしもし、みさきか?」
『お父さん。今、いい?』
美咲の声は明るく、しかしどこか気遣いを滲ませていた。
「ああ、ちょうど良かった。実はさ、話があってな」
洋は深呼吸をした。叶の手の温もりが、背中を押してくれるようだった。
「最近……いい人ができたんだ。佐藤叶さんって言うんだ。近所に住んでる、45歳の方でね」
電話の向こうで、一瞬の沈黙が流れた。
そして、美咲が息を吐く音が聞こえた。
『……そっか』
その声には、驚きよりも安堵が色濃くにじんでいた。
『それで、その方……いい人なの?』
「ああ。すごく……世話になってる。いや、世話って言うか……」
言葉に詰まる洋を、叶が優しく見つめた。彼女の目には「ゆっくりでいいんですよ」という言葉が浮かんでいるようだった。
「とにかく、とても良い人なんだ。俺も……この歳になって、こんな気持ちになるなんて思ってなかったけどな」
『良かった……本当に、良かったよ、お父さん』
美咲の声が、突然震えた。
『お母さんのこと、ずっと気にしてたでしょう? あたしも、あの手口には心底呆れたけど……お父さんがずっとぼんやりしてるのを見てるのが、辛くて』
洋の喉が詰まった。娘の本心を、初めてこうして聞く。
「すまないな、心配かけて」
『いいの。でもね、お父さん……ちょっと聞いておいてほしいことがあって』
美咲の口調が、少しだけ真剣になった。
『お母さん、あの男……不倫してた相手に、見事に捨てられたみたいなの。最近、わけのわからない泣き言を電話で並べてきて……もしかしたら、お父さんのところに押しかけるかもって言い出したんだ』
洋の背筋が、ぴんと伸びた。
隣で闻いていた叶の手が、わずかに強く握り返した。
『だから、あたしからちゃんと言っておくね。お父さんにはもう新しい人ができたから、絶対にそっちに行かないで、って』
「みさき……」
『お父さん、幸せになって。あたし、本当にそう願ってるから』
電話を切った後も、洋はしばらく携帯電話を握りしめたままだった。胸の奥で、長い間固く凍りついていた何かが、ゆっくりと溶けていく感覚があった。
「……娘さん、優しい方なんですね」
叶がそっと呟いた。
彼女の目尻が、わずかに赤くなっているのに気づいた。
「ああ。あいつは……母さんとは全然違うんだ」
洋は叶の手を、そっと自分の両手で包んだ。
「叶さんも……息子さんに、話してみるか?」
叶は深くうなずいた。
次の日、叶が自分のアパートに戻り、息子の遼との電話をかけたのは夕方のことだった。
洋のアパートに戻ってきた彼女の表情は、穏やかで、どこかしら晴れやかだった。
「どうだった?」
洋が聞くと、叶は照れくさそうにうつむいた。
「『母さん、楽しそうで何よりだよ』って……あの子、そう言ってくれたんです」
彼女の声は、嬉しさで震えていた。
「『ゆっくりしてね』って。ずっと……ずっと、あの子のためだけに生きてきたつもりだった。夫が亡くなってからは、女であることを全部押し殺して、ただの母親でいようとしてた」
叶の目から、一粒の涙が零れ落ちた。
「でも、あの子は私が幸せになることを、心から望んでくれていた。洋さん、私……また女でいていいんだって、本当に思えるようになりました」
洋は何も言わず、叶をそっと抱きしめた。
彼女の身体は柔らかく、髪の匂いがほのかに甘かった。
子供たちの理解を得た後、二人の関係はさらに深みを増していった。
ある金曜日の夜、叶は洋を風呂場に誘った。
「今日は……ゆっくり入りませんか? 私、新しい入浴剤を買ってきたんです」
彼女の声には、いたずらっぽい含みがあった。
浴室には、ラベンダーの香りが漂っていた。湯船は少し大きめで、二人が向かい合って入っても余裕があった。
叶が湯につかる姿は、妖艶そのものだった。
湯気が立ち込める中、張りのある乳房が水面に浮かび、先端のピンクがほんのりと色づいている。彼女はゆっくりと洋に近づき、その胸を彼の胸板に押しつけた。
「洋さん……」
叶の唇が、洋の首筋に触れた。
柔らかい舌先が、鎖骨の窪みを舐める。その感触に、洋は湯の中ですでに硬くなっていた自身の陰茎が、さらに脈打つを感じた。
「叶さん……」
「ん……?」
「あの事故がなかったら……俺たち、出会えなかったよな」
叶の動きが、一瞬止まった。
そして、彼女はゆっくりと顔を上げた。湯気で濡れた睫毛の下、瞳が潤んで光っている。
「ええ。そう思います」
彼女の手が、湯の中を潜り、洋の股間に辿り着いた。
熱い水の中、さらに熱い肉柱を、柔らかな指が包み込んだ。
「あの時、私は本当に……どうしようもなく惨めだったんです。夫を亡くしたのも私の運転ミスだって、ずっと思い詰めていて。息子のためだけに生きて、自分が女だってことすら忘れようとしてた」
叶の指が、ゆっくりと上下に動き始めた。
ぬるりとした湯と、彼女の手のぬめりが、敏感な皮膚を刺激する。
「でも、洋さんにぶつかって……骨折させてしまって。その時は、また私のせいで誰かを傷つけたって、絶望的でした」
彼女の声が、次第に熱を帯びていく。
「でも、洋さんは私を責めなかった。それどころか……私の介護を受け入れてくれて。そして、私を……女として見てくれた」
叶のもう片方の手が、洋の背中を抱き寄せた。
二人の身体が、湯の中で密着する。乳房の柔らかな圧迫感。下腹部で、互いの恥毛が絡み合う感触。
「私は……あの日、洋さんの下着の匂いを嗅いだ時から、もうダメだったんです。こんなに……ひとりの男性を、身体の底から欲しくなったことなんて、なかった」
彼女の唇が、洋の耳朶に触れた。
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