第2章: 洗濯物と嗤う欲望(続き 2/2)
指の動きが速くなる。腰をくねらせ、流し台に額を押し付けながら、彼女は声を押し殺して喘いだ。膣の奥が激しく痙攣し、快楽の波が全身を洗い流そうとしている。トランクスの匂い。男の匂い。それらが彼女の脳を完全に支配し、理性も罪悪感も、すべてを情欲の炎で焼き尽くした。
「んぐっ……! あ、あああっ……!」
大きなけいれんが背骨を駆け上がり、彼女は膝をつんのめりそうになりながら、声を絞り出すように絶頂に達した。腿を伝ってぬるりと愛液が流れ落ちる。肩で息をしながら、彼女はゆっくりと目を開けた。鏡に映る自分は、髪は乱れ、目は潤み、口元にはよだれさえ光っていた。そして、手には、的場洋のトランクスがまだ握りしめられていた。
激しい後悔と羞恥が、熱い身体を一気に冷やした。
――何てことを……。
彼はあんなに紳士的に、そしてどこか諦めの境地で自分を受け入れてくれているのに。その人のものを、こんな汚らわしい想像に使って……。
しかし、その思いと裏腹に、股間にはまだ微かな疼きが残り、彼の匂いを深く吸い込んだ鼻腔の奥は、何とも言えない充足感で満たされていた。
翌日、的場洋のアパートのドアをノックして現れた佐藤叶は、いつもの介護のユニフォームではなく、淡いベージュのニットのタンクトップと、膝よりかなり上の長さの紺色のタイトスカートを身に着けていた。スカートの裾は、彼女がしゃがみ込むたびに、引き締まった太腿の健康的な白さをちらりと覗かせた。
「おはようございます、的場さん。洗濯物、乾きましたよ」
彼女は明るい声でそう言い、きれいに畳まれた洋の衣服をテーブルに置いた。タンクトップの胸元からは、ブラジャーのレースの縁がほんのりと透けて見える。これまで清楚一辺倒だった彼女の佇まいに、ほのかな色気が纏わりついていた。
洋はソファから立ち上がろうとして、ふとその姿に目を奪われ、動きを止めた。松葉杖を持つ手に力が入る。
「あ……どうも、すみません。いつも、本当に」
言葉がぎこちない。視線が、彼女の首筋から鎖骨、そして胸元の柔らかな膨らみへと流れ、慌ててそらす。だが、すぐにまた引き寄せられてしまう。
叶は気付いていないふりをした。だが、的場洋の視線が自分の身体のラインをたどるのを、皮膚の表面で感じ取っていた。ほんのりと頬が熱くなる。昨日のあの行為を思い出すと、胸が苦しくなるが、同時に、またぞろ股間がじんわりと温かくなるのを抑えられなかった。
「今日はお天気もいいですし、少し窓を開けましょうか? 空気を入れ替えますね」
彼女はそう言って窓に向かう。スカートの裾が、ふわりと揺れる。しゃがんで窓の鍵を開けるその姿勢で、タイトなスカートがさらに上がり、腿の付け根のふくらみが布に食い込む輪郭が浮かび上がった。
洋は息をのんだ。喉が渇く。まるで青春時代に、初めて女性の肢体を意識した時のような、たまらない緊張が全身を駆け巡る。彼は急いで視線を窓の外の空に移す。
――やべえ……。
自分がこんな風に、世話をしてくれる女性を性的な目で見ていること。そのこと自体に強い自責の念が芽生える。しかし、それ以上に、叶の姿が、長い結婚生活の中ですり減り、そして妻によって踏みにじられてしまった「男」としての感覚を、強烈に呼び覚ましていた。
叶は窓を開け、涼やかな風を取り込むと、振り返ってにっこり笑った。
「さあ、的場さん。今日も一日、頑張りましょう。まずは朝食の支度をしますね。何か食べたいものありますか?」
その笑顔は、昨日までのそれと何ら変わらない、誠実で優しいものだった。だが、その清らかさの裏側で、彼女自身も気付かない、あるいは気付こうとしない欲望が、静かに、しかし確実に蠢き始めていた。洗濯物を媒介に燃え上がった炎は、もう消えることなく、二人の間に張られた介護者と被介護者という薄い境界線を、じわりじわりと溶かし始めていた。
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