熟年離婚、屈辱をバネに甦る肉体と若いインストラクターとの熱い夜

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第2章: ジムの柔肌―膨らむ股間と赤面

第2章のシーン

第2章: ジムの柔肌―膨らむ股間と赤面

司城賢一は、ジムの入り口で足が止まった。

ガラス張りのドアの向こうには、鏡張りの広い空間が広がり、若い男女が黙々とマシンに向かっている。汗の匂いが、わずかに開いた隙間から漂ってくる。金属の鈍い音、息づかい、そしてどこか冷たい空気。

――こんなところに、本当に来るべきだったのか。

胸の奥で、妻の言葉が疼いた。ぶよぶよ太って男としての魅力は皆無。確かに、ドアに映った自分の姿は、ゆるんだポロシャツの下にたるんだ腹を隠しきれていなかった。六十歳。もう若くはない。

しかし、娘の声がそれを押しのける。

「いまからでも遅くないから」

深く息を吸い込み、賢一はドアを押した。

受付の女性が明るく笑いかけてきたが、賢一は目をそらしがちに名前を伝える。申し込んだのは、ごく普通のマシンジム。初心者向けのパーソナルトレーニングを、週二回のプランで契約していた。

「司城様ですね。では、担当のインストラクターをお呼びしますので、少々お待ちください」

待合のソファに腰を下ろすと、革の感触が冷たかった。膝の上に置いた手の甲には、年齢を示す深いシワが刻まれている。これから、あの若い人たちに混ざって体を動かすのか。恥ずかしさが、じわりと頬を熱くした。

「お待たせしました。司城さんですか?」

ふと頭上から聞こえた声は、思ったより柔らかく、しかし芯のある響きを持っていた。

賢一が顔を上げると、そこにはネイビーブルーのレオタードに身を包んだ女性が立っていた。肩にかかる栗色のボブヘアは少し湿り気を帯び、額にうっすらと汗が光っている。明るい茶色の瞳が、賢一をまっすぐに見つめていた。

「私、五十嵐聡子(いがらし さとこ)といいます。今日から、司城さんの担当をさせていただきます」

彼女はにっこりと笑い、右手を差し出した。

賢一はあわてて立ち上がり、その手を握り返した。掌は意外に小さく、しかし握力がしっかりと感じられた。鍛えられた人の手だった。

「わ、わざわざすみません。司城です。よろしくお願いします」

「いいえ、こちらこそ。まずは簡単なカウンセリングから始めましょうか。こちらのブースへどうぞ」

聡子に導かれて、ガラスで仕切られた小さな個室に入る。机の上には体組成計やファイルが置かれている。賢一は向かい合わせの椅子に座り、思わず背筋を伸ばした。

「では、司城さん。まずは今回トレーニングを始めようと思われたきっかけや、目標をお聞きできますか?」

聡子はファイルを開き、ペンを手に取った。その姿勢はプロフェッショナルそのものだが、口元には常に穏やかな微笑みが浮かんでいる。

賢一は喉を鳴らした。

「えっと……実は、最近定年退職しまして。それで、これからは自分の体もちゃんとケアしないと、と思いまして」

「そうでしたか。では、健康維持が主な目的でしょうか」

「はい。あと……少し、見た目もなんとかしたいというか」

言葉に詰まる。妻の辛辣な言葉を、そのまま口にすることはできなかった。

聡子は一瞬、ペンを止めた。そして、賢一の顔をじっと見て、ゆっくりとうなずいた。

「わかりました。では、まずは現在の体の状態を把握するために、体組成計で測定させてください。その後、司城さんに合ったプログラムを組んでいきますね」

測定は、賢一にとっては苦痛の時間だった。数字が表示されるたびに、聡子が優しく解説してくれるのだが、体脂肪率の高さや筋肉量の少なさに、顔が熱くなるのを感じた。

「大丈夫ですよ、司城さん。誰にでも最初はありますから」

聡子の言葉に、賢一はうつむいたまま頷くしかなかった。

トレーニングフロアに移動すると、マシンの並ぶ空間が広がっていた。聡子はまず、軽いウォーキングから始めるよう指示した。トレッドミルの上を歩きながら、賢一は周りの若い会員たちを盗み見た。皆、引き締まった体で、重い重量を上げ下げしている。

――ついていけるだろうか。

不安がよぎった時、横から聡子の声が聞こえた。

「司城さん、ペースはこれでいいですか? 無理しないでくださいね」

彼女は賢一のすぐ脇に立ち、時々様子を覗き込む。レオタードの肩紐のあたりから、鍛えられた上腕の筋肉がのぞいていた。健康的な小麦色の肌が、ジムの照明にさらりと光る。

「あの……五十嵐さんは、いつもこんなに皆さんに付きっきりで指導してるんですか?」

思わず尋ねてしまった。賢一は、自分だけ特別扱いされているような気がして落ち着かなかった。

「そうですね。パーソナルトレーニングですから、基本的にはマンツーマンですよ。でも、司城さんみたいに真面目に取り組んでくださる方は、私もつい熱が入っちゃいます」

聡子は悪戯っぽくウインクした。その表情は、年齢よりも少し幼く見えた。

「真面目……ですか。いえ、ただ、やると決めたからには、ちゃんとやらないと」

「その心意気がすばらしいです。実は、最初に目標を聞いた時、司城さんの目がすごく真剣だったんです。なんていうか……ひたむきというか」

ひたむき。

そう言われて、賢一は胸が少し疼いた。会社では、いつもそう言われてきた。家族のため、がむしゃらに働くことを、ひたむきと評価されて。しかし、家に帰ればその価値は否定された。

「……ひたむき、か」

呟くように言うと、聡子がそっと近づいた。

「私、余計なこと言っちゃいましたか?」

「いえ、そんな。ただ……最近、ひたむきにやってきたことが、全部否定されたような気がして」

言葉が、つい零れ出た。

妻の離婚の要求。財産分与。十年も年下の男。それらが、頭の中でぐるぐると巡る。トレッドミルのベルトの上を歩く足取りが、次第に重くなっていくのを感じた。

「司城さん」

聡子の声が、突然真剣なトーンに変わった。

賢一が振り向くと、彼女は真摯な表情でこちらの目を見つめている。

「もし、話したくなければ聞きません。でも、何か心に抱えているものを吐き出せるなら……トレーニングは、体だけじゃなくて心も軽くするものですから」

その優しい眼差しに、賢一の胸のつかえが少しずつ解けていくのを感じた。

次のセッションでは、柔軟体操を取り入れることになった。

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AIが紡ぐ大人の官能短編『妄想ノベル』案内人です

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