熟年離婚、屈辱をバネに甦る肉体と若いインストラクターとの熱い夜

第5章: 「ざまあ」―元妻の来訪と新たな門出(続き 2/2)

彼女の目が、聡子の全身を走り、その若さ、プロポーション、そして何より賢一との間にある親密な空気を一瞬で見抜いた。

「こ、この女性は……?」

幸恵の声が上ずった。

賢一は迷わず、聡子の腰に手を回した。彼女の体が、少し緊張しているのを感じたが、すぐに彼に寄り添うように身を委ねた。

「五十嵐聡子さんだ。僕の恋人です」

「恋、恋人……? まさか、あなたが……こんな若い子と……」

幸恵の顔から血の気が引いていく。彼女の唇が震え、目が大きく見開かれた。

「そうです。聡子さんと付き合っています。そして明日からは、新しいマンションで一緒に暮らすことになりました」

賢一は一つひとつ、明確に言葉を重ねた。

「親の遺産を使いました。内緒にしていたが、あなたには関係のないお金だしね。新しい家を、新しい人生を、僕はこれから築いていくつもりです」

「そ、そんな……嘘でしょ? あなたみたいな年寄りが、若い子に相手にされるわけない……」

「幸恵!」

賢一の声が、初めて鋭くなった。

「その言い方は、もうやめてくれ。僕はもう、あなたに否定される男じゃない。この体も、この人生も、全部自分で取り戻した。そして、僕を男として見てくれる人に出会えた」

聡子がそっと賢一の腕に触れた。彼女の目には、幸恵への複雑な感情――同情と、わずかな優越感と、何より賢一を守りたいという強い意思が読み取れた。

「司城さんは、とても素敵な方です。私が引き止めたいくらい、真面目で誠実で……そして、すごく頑張り屋さんなんです」

聡子の声は穏やかだが、芯が通っていた。

「あなたがどんなことを言ったか、全部聞いています。でも、もう大丈夫。私は司城さんの全てを受け入れます。過去も、今も、これからも」

幸恵は言葉を失い、二人を見つめていた。彼女の目に、怒り、悔しさ、嫉妬、そして何より深い後悔の色が渦巻いていた。

「ざ、ざまあみろ……って言うの? 私がこんな目に遭うのを、楽しみにしてたの?」

「違う」

賢一は静かに首を振った。

「僕はあなたを恨んでいない。むしろ、あの時言われた言葉があったから、ここまで来られたのかもしれない。だから――お互い、第二の人生は別々の道になってしまったけれど、せめてこれからは、幸せになってほしい」

幸恵の目から、ついに涙が溢れた。しかし、それは悔恨の涙だろう。愛情からではなく、自分自身の選択の結果に泣いている。

「……さよなら」

賢一がそっと言った。

「明日にはここを引っ越すから、たぶん会うのはこれが最後かな。僕たちには、新しい明日が待っている」

幸恵はうつむき、震える手でコートの襟をしっかりと握りしめた。彼女は何か言いかけたが、言葉が出ず、ただ黙って踵を返した。

賢一は静かにドアを閉めた。

玄関の明かりが消え、二人だけの空間が戻ってきた。

長い沈黙が流れる。

やがて、聡子がそっと賢一の胸に顔を埋めた。

「……怖かった。彼女があなたを連れ戻そうとしてるのかと思って」

「大丈夫。もう、あの女には戻らない」

賢一は聡子をぎゅっと抱きしめた。彼女の体の温もり、汗のほのかな匂い、そして心臓の鼓動が、彼の全てを満たす。

「賢一さん、本当に強くなったね」

聡子が顔を上げ、涙目で笑った。

「あの時の賢一さんとは、もう別人みたい」

「聡子さんがいたからだ。あなたが、僕の価値を教えてくれた」

賢一は彼女の唇にそっとキスをした。

短い、しかし深い口づけ。そこには欲望よりも、むしろ感謝と決意が込められていた。

「さあ、鍋が冷めちゃう。明日は引っ越しだ。しっかり栄養をつけないと」

聡子が笑いながら、賢一の手を引いてリビングへ戻った。

再び鍋を囲む二人。湯気がゆらゆらと立ち上り、部屋を温かい空気で満たす。

「ねえ、賢一さん」

「ん?」

「新しい家で、最初にすることって、なにがいいかな?」

賢一は少し考え、微笑んだ。

「そうだな……まずは、一緒に朝日を見ることかな。新しいマンションのベランダから、二人でコーヒーを飲みながら」

「素敵。それから、一緒に朝食を作って……そして、夜は……」

聡子の頬がまた赤らんだ。

「夜は、新しいベッドで、ゆっくりと……あなたのことを、もっとたくさん知りたい」

その言葉に、賢一の胸が熱くなった。

彼は聡子の手をテーブルの上で握りしめ、固くうなずいた。

「ああ、そうしよう。全部、一緒に」

窓の外には、新しい始まりを告げる星々が静かに瞬いていた。

苦い過去を振り切り、手に入れたこの瞬間が、確かな未来への第一歩となる。

賢一は聡子の笑顔を見つめ、心の中で誓った。

――もう二度と、あの惨めな男には戻らない。この手に掴んだ幸せを、誰にも壊させない。

鍋の湯気が、二人の明日を祝福するように、ゆらりと舞い上がった。

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AIが紡ぐ大人の官能短編『妄想ノベル』案内人です

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