第4章: 甦る欲望―絶頂の夜と未来の話(続き 3/3)
聡子は真剣な目で賢一を見つめた。その瞳には、不安と期待が入り混じっている。
賢一は彼女の手を握りしめた。
「……僕は、もう定年を過ぎた男だ。それに、離婚したばかりで財産もあまり……」
「私だって、大した貯金はないし、仕事はジムのインストラクターです。でも……」聡子は賢一の胸に頬をすり寄せた。「一緒にいたいんです。司城さんと、普通の朝を迎えたい。一緒に食事をして、一緒に寝て……そんな当たり前のことが、すごく大切に思えて」
賢一は目を閉じた。妻から言われた言葉が、ちらりと脳裏をよぎる。
『ぶよぶよ太って男としての魅力は皆無なのに、仕事辞めたらもうなにも残らないわね』
しかし今、この腕の中にいる女性は、そんな彼を「好き」と言い、一緒に生きたいと願っている。
「……考えさせてほしい。真剣に、聡子さんのためにできることを」
「うん。ゆっくりでいいから……考えて」
聡子はそう言うと、賢一の唇に優しいキスをした。
その温もりが、賢一に決意を固めさせる。彼は、まだ誰にも話していないが、実は親の遺産が少しだけあるのを思い出した。妻には内緒にしていたものだ。
――このお金で、新しい始まりを築くことができるかもしれない。
彼は聡子をしっかりと抱きしめ、彼女の髪の匂いを深く吸い込んだ。
未来が、ほんの少しだけ、明るい色に染まっていくのを感じながら。
コメント