第4章: 若返る夫と、気づく妻の焦燥

第4章: 若返る夫と、気づく妻の焦燥
水沢真美は、松本公夫という男を自分好みの彫像へと作り変える行為そのものに、無類の喜びを感じていた。
彼女の部屋の床には、公夫がいつも着ていた無地のポロシャツと、古びたチノパンが投げ捨てられている。
まるで、脱ぎ捨てられた古い皮のように、無残に。
薄汚い生地の感触と、汗と古い洗剤の匂いが、真美の鼻をくすぐる。
「ほら、これを着なさい。あんたのその地味な服、もう燃やしたるわ!」
真美が投げ渡したのは、鮮やかなブルーのシルクシャツと、少し細身のデニムパンツだった。
高級そうな生地の滑らかな感触に、公夫は戸惑いを隠せずにいた。
定年退職後、自分の体を何かで飾るという感覚は、とうの昔に彼から失われていたのだから。
「いや…こんなの、俺には、どうも……」
「あらあら、何言ってんの。早く、着なさいよ」
真美は強引に、公夫の古いシャツのボタンを一つひとつ外していく。
その冷たい指先が、公夫の胸や腹を意識的に撫でるたびに、彼は年甲斐もなく身を震わせる。
--恥ずかしい。しかし、抗えない。
鏡に映る自分は、確かに見違えるほど若々しく見えた。
白髪混じりの髪も、真美が連れて行ってくれた美容院で刈り整えられ、以前の「湿気た」印象はどこへやら。
十年は若返った、と公夫は本気で思えた。
「ほらね、やっぱ似合うじゃない。男っていうか、あたしの好み」
真美は満足げに頬を撫でながら、公夫の尻をぴんと叩いた。
その鋭い音と、皮膚に残るヒリリとした痛みに、公夫は屈折した誇らしさを感じていた。
彼はもはや、真美の言うことを何でも聞く、従順な人形になっていたのだ。
一方、自宅で松本陽子は、夫の変化を静かに、しかし鋭く観察していた。
彼が外出から帰り、玄関で脱ぐ靴がいつもと違う。
洗面所に置かれたシャンプーの匂いが、これまでの無臭のものから、甘く官能的なフローラルの香りに変わっている。
何より、食事の席で向かい合う夫の目つきが、以前の諦観に満ちたものから、どこか熱を帯び、輝きさえ感じさせるものに変化していたのだ。
「あなた、最近…何か始めたの?」
ある夜、陽子は恐る恐る切り出した。
その声は、できるだけ平静を保とうとしているのが伝わってきた。
「何もしていないけど」
公夫は、目も合わせずに答えた。
その冷たさに、陽子は胸に鋭い痛みを走るのを感じた。
「でも、服装も変わったし、なんだか…元気になったみたいじゃない。それに、時々、変な香水の匂いがするわ」
「それは、君の気のせいだ」
公夫はそう言って席を立った。
彼の背中には、もはや陽子が入り込む隙間は一切なかった。
陽子は、夫が自分の手の届かない場所へ行ってしまったことを、肌で感じていた。
卒婚という形で距離を置いたのは自分だったのに、今になって、その溝があまりにも深すぎることに気づき、焦りが内側からこみ上げてくるのを抑えられなかった。
その夜、公夫は真美の部屋へ向かう足が、いつもよりも熱を帯びていた。
妻の問い詰めが、かえって彼の背徳心に油を注いだのだ。
ドアが開くと、真美は透けけるレースのランジェリーだけの格好で待っていた。
彼女は公夫の新しい服装を上から下まで舐めるように見て、満足そうに笑った。
「んっ、その格好、やっぱええわ。あたしの男、みたい」
「あんたの男…か」
公夫は呟くと、真美を腕に抱きしめた。
唇を重ね、舌を絡ませる。
真美の甘く粘つく唾液の味が、公夫の口の中に広がる。
彼はもう、この女なしではいられない。
その体、その匂い、そのすべてが、公夫の生存意義そのものになっていた。
ベッドに倒れ込むと、公夫は真美のランジェリーを乱暴に引き裂いた。
張りのある白い乳房が弾け出し、硬く勃起した桃色の乳首が彼の目を釘付けにする。
彼はその乳首を貪るように舐め、真美は甘い声を上げて身体を反らせた。
「あっ…公夫…んっ、激しい…」
真美の股間は、すでに愛液でぐしょ濡れになっていた。
その甘酸っぱい愛液の匂いが、部屋中に充満する。
公夫は彼女のパンティを引き裂くと、むき出しになった濡れ光る桃色の膣に、自分の硬く熱くなった陰茎を突き立てた。
「ひゃっんっ!」
ずぶっ、という生々しい音と共に、公夫は真美の奥深くへと沈んでいく。
膣壁が、彼の陰茎を熱く、そして強く締め付ける。
その締まりが、公夫の理性を完全に破壊した。
彼は獣のように、腰を激しく突き始めた。
ずっぽん、ずっぽん、という腰がぶつかる重い音と、ぐちゅぐちゅ、という愛液が混じる淫らな音が、部屋中に不協和音のように響き渡る。
「ああっ!公夫!もっと!もっと深く!」
真美の嬌声が、公夫の昂奮にさらに油を注ぐ。
彼は彼女の足を肩に乗せ、より深く、より激しく突き上げた。
真美の膣が、何度も痙攣するように締め付け、彼を歓喜の渦へと引きずり込んでいく。
やがて、公夫は真美の膣内に、熱い濃密なものをすべて放出した。
虚脱感に包まれ、二人は重い息を切らしながら、ベッドの上で崩れ落ちた。
しばらくして、真美が公夫の汗で濡れた胸に顔を埋め、囁いた。
「ねぇ、公夫…」
その声は、いつもの乱暴さがなく、甘く、そして危険な響きを持っていた。
「そろそろ、奥さんに、あたしのこと話したら?隠し続けるの、疲れてへん?」
公夫の心臓が、氷水を浴びせられたように冷たくなった。
現実が、牙を剥いて彼に襲いかかる。
この関係が終わるかもしれない。
この快楽が失われるかもしれない。
恐怖が、彼の背中を冷たく駆け上った。
しかし、その時だった。
真美のまだ濡れ熱い膣が、再び公夫の半立ち状態の陰茎を、優しく、しかし執拗に挟み込み、ゆっくりと蠕動し始めたのだ。
その熱と、そのぬめりと、その生命感。
すべてを失うかもしれないという恐怖よりも、この瞬間の快楽と、この女への渇きが、彼の中で勝利を収めた。
公夫は、ゆっくりと腰を動かし始めた。
そして、真美の耳元で、低い声で言った。
「…ああ、そうだな。話そうか」
そう言うと、彼は再び、真美の中へ深く、深く挿入していった。
それは、もはや快楽のためだけの行為ではなかった。
それは、現実からの逃避であり、この女への完全な屈服であり、そして、古い自分への決別の儀式だった。
公夫は真美の体中に、自分の匂いを、自分の熱を、自分のすべてを擦り付けるようにして、もう一度、溺れそうな絶頂の底へと、まっしぐらに突き進んでいくのだった。
夜明けの光が、窓から静かに差し込むのが、二人には見えなかった。
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