第5章: 終わらない夏と、芽生えた新たな飢え

第5章: 終わらない夏と、芽生えた新たな飢え
夕闇が、プールの水面を静かに、だんだんと濃い藍色へと染め上げていく頃、慈は水から上がった。
肌にまとわりつく水の冷たさが、じわじわと体の芯まで浸透していく。
指先は一日中、水に浸かっていたせいで少しふやけ、プールの塩素の匂いが鼻の奥にこびりついていた。
青白い蛍光灯がともるプールサイドは、昼間の子供たちの喧騒を嘘のように静まり返っている。
遠くからは、掃除のホースを床に引きずる、ゴツゴツという乾いた音だけが虚しく響いている。
鈴木さんと悠くんはもう帰っていた。
別れ際、悠くんが「また遊ぼうね!」と元気に手を振ってくれたこと。
そして、その隣で柔らかく微笑んでいた、鈴木お父さんの温かい視線。
それらの記憶が、慈の胸の奥で、温かく、そして同時に鋭い痛みを伴う塊になっていた。
彼女は一人、再びあの重厚な金属のドアの前に立つ。
朝は恐怖で心臓が張り裂けそうだったが、今は奇妙な虚無感と、やり遂げたことへの達成感が混じり合い、体をふわふわと浮かせるような不思議な感覚に包まれていた。
ぐっと息を吸い込んでドアを開け、男の匂いがまだ残る空気に足を踏み入れる。
誰もおらず、ただ湿った石鹸の匂いと、男の体臭が混じり合った、独特の空気が慈の孤独を包み込んでいた。
自分のロッカーの前で立ち止まり、濡れた紺色の水着が体に食い込んでいる感触を確かめた。
股間の薄い生地は、プールの中でずっと疼かせていたアソコの熱と濡れをそのまま閉じ込めていて、指でそっと押さえると、ぐっと濡れた弾力が戻ってくる。
ゆっくりと、彼女は水着の紐を結び解く。
濡れた生地が、肌の上をずるりと滑り落ちていく感触は、まるで一日分の嘘と興奮にまみれた皮を一枚ずつ剥がされていくようだった。
裸になった体を、タオルで優しく、しかし丁寧に拭う。
短く切った髪が濡れて、うなじやまだ膨らみのない胸元にぴたりと張り付く。
その冷たく、滑らかな感触が、今日この瞬間の自分こそが本当の自分なのだと、慈に囁きかけていた。
男の子の格好をした自分ではなく、この羞恥に満ちた行為を完遂した、小坂慈という存在が。
家路につくと、夕暮れの空はオレンジと紫の絵の具で燃え上がり、無数の窓から温かい明かりが漏れ始めていた。
その何の変哲もない日常の風景が、まるで別世界の出来事のように慈には映った。
自分だけが、この昼間、誰にも言えない禁断の世界にいたのだ。
自宅のドアを開け、「ただいま」とも言わずに自分の部屋へと駆け上がり、カチャリ、と鍵をかけた。
その乾いた金属音を合図に、一日中張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れた。
慈はベッドに倒れ込むように、体を預けた。
柔らかいマットレスが、疲れ果てた体をすっぽりと受け止める。
そして、蓋を開けた映画フィルムのように、今日の出来事が脳内で再生され始めた。
まず、あの脱衣所の薄暗い光。
そして、目の前に現れた、鈴木お父さんのあの太く、長い、獣のようなもの。
黒く剛毛に覆われた根元から、脈打つように威圧的に立ち上がっていた、大人の男の性器。
あの光景が蘇るたびに、慈の秘部に熱い電流が走る。
幼い頃に握らされた、あの小さな硬いものとは全く違う。
これは、圧倒的な力と、生々しい欲望の塊だった。
それを見てしまった自分の、あの「大っきい…」という声も。
そして、何より、あの優しい言葉。「君も大人になったら大きくなるよ」。
女の子だと気づかず、ただの男の子の仲間として話しかけてくれた、その無自覚な優しさ。
その歪んだ甘さが、慈の体を内側からじわじわと溶かしていく。
彼女は無意識に、自分の胸に手をやった。
Tシャツの上から、まだ小さな、ごく僅かな膨らみを押さえる。
あの時、裸で晒された胸。
冷たい空気に触れて、びくん、びくんと震え固くなった乳首。
誰も見ていなかったはずなのに、全ての男の視線を感じたあの感覚。
プールの青い水。
水着が体にぴったりと張り付き、股間のアソコの形が浮き出てしまうのではないかという恐怖。
水の冷たさと、鈴木お父さんの温かい視線。
その一つ一つの記憶の断片が、慈の体を苛み、疼かせ、熱くさせていく。
んっ…と、思わず漏れる息が熱い。
慈は目を閉じた。
ベッドの上で、彼女の体が勝手に動き始めていた。
片手が、ゆっくりと、お腹の柔らかな上を滑り降りていく。
指先が、ジーンズのベルトの冷たい金具に触れる。
ぐっとためらうが、もう止められなかった。
ボタンを外し、ジッパーをじりりと下ろす。
下着の上から、熱を帯びた秘部を押さえると、ぐっと濡れた感触が指に伝わってきた。
くちゅっ、と小さな音が立てば、慈の顔がカッと火照る。
恥ずかしい。
でも、もっとしたい。
彼女は下着のゴムを指でくいりとずらし、もう片方の手をその温かい湿りの中へと滑り込ませた。
まだプールの水で湿っている、柔らかな産毛。
そして、その中央にある、熱く、ぬるりと濡れた割れ目。
指が、その敏感な溝をそっとなぞる。
はぁんっ、と背中が反る。
プールで感じたあの興奮が、今、ここで、一人で、さらに濃密になって甦る。
指先が、小さなクリトリスに触れる。
びくん、と体が小さく跳ねる。
そこを、優しく、そして執拗に、ぐりぐりとこすり始める。
くちゅっ、ぐちゅっ…下品で淫らな音が、静かな部屋に響き渡る。
慈はもう、恥ずかしさよりも快楽の波に身を任せていた。
頭の中では、鈴木お父さんの大きなペニスが、自分の小さなアソコを、無理やりに、でも優しく、抉り込んでくるような幻が渦巻いている。
あの温かい、硬いものが、自分の中に入ってくる。
そんな想像をしながら、慈は指の動きを速める。
中指が、じゅわっと溢れ出る愛液に滑り、膣口をそっと押す。
まだ何も入ったことのない、硬く閉じた入口。
指先がそこをぐるぐると回されると、耐えられない快感が頭のてっぺんまで駆け上る。
「あっ…んんっ…!」
声を殺しながら、慈は体を丸める。
指が一本、ぬるりと、中へと滑り込んだ。
狭い、温かい壁が、侵入したものを強く締め付けてくる。
ぐちゅっ、という音と共に、未知の快感が彼女を襲う。
これが、自分の中。
これが、女の体。
男の子として過ごした時間が、全部嘘だったことを証明する、熱い、濡れた、けれど空っぽな場所。
指を動かすたびに、プールでの記憶が色濃く蘇る。
水着が股間に食い込んだ感触。
風が乳首を撫でた感触。
鈴木くんの無邪気な笑顔。
全てが、全てが、この快楽の燃料になっていく。
彼女はもう、何も考えられなかった。
ただ、もっと、もっと、この感覚が欲しいと体が叫んでいた。
指を二本にして、激しく自分の中をかき乱す。
ぐちゅぐちゅ、と愛液が卑猥な音を立て、ベッドシーツがぐっと濡れていく。
あの大きなペニスで、もっと深く、もっと乱暴に突かれていたら。
あの優しいお父さんに、女の子だと気づかれて、見せしめのように犯されていたら。
そんな汚い、自己破壊的な想像が、慈の絶頂へと押し上げていく。
「ひぃっ…んんんんっ!」
全身の筋肉が硬直し、白い閃光が脳裏を焼き切る。
膣内が激しく痙攣し、中の指をぎゅうぎゅうと締め付ける。
体中の血液が、一ヶ所に集まっていくような、激烈な快感。
そして、ぱったりと、全てが静まる。
慈は、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。
荒い息が、熱い吐息となって部屋に満ちる。
指は、まだぬるりと濡れたまま、アソコの奥深くに挿さっている。
達成感。
そして、その直後にやってきた、底知れない虚無感。
今日の経験は、慈の欲望を満たしたどころか、さらに深く、もっと暗く、もっと汚い快楽を求める飢えを、彼女の心に植え付けたのだ。
彼女はゆっくりと、濡れた指を体から抜き取る。
ぐちゅっ、という音が、何かを終わらせるようで、そして何かを始めるようでもあった。
窓の外では、もう夜が更けていた。
でも、慈の中では、終わらない夏が、まだ始まったばかりだった。
次は、どんな嘘で、どんな羞恥に、身を晒すのだろう。
その考えが、恐怖と共に、甘い期待に満ちた熱を、彼女のただれた秘部に、もう一度、宿させたのだった。
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