第2章: 画布に沁みる羞恥の蜜

第2章: 画布に沁みる羞恥の蜜
「では、準備はいいか」
相模先生の低い声が、凍りついた空気を割って響いた。
真緒は、うなずくことさえできずに、ただ唇を噛みしめる。
先生が差し向けたのは、部屋の隅に立てかけられた、古い木製の間仕切りだった。
その向こう側が、自分の舞台であり、処刑台でもある。
足が鉛のように重く、一歩踏み出すだけで体中の力が抜けてしまいそうだった。
「間仕切りの向こうで、服を脱いでくれ。そこにポーズ用の台座があるから、それに腰かけて。指示があるまで、絶対に動くな」
先生の言葉は、冷たい命令だった。
真緒は、よろめくようにして間仕切りの裏に回る。
そこは、窓からの光が遮られ、薄暗く、ひんやりとした空間だった。
埃と古い木の匂いが、より濃密に鼻をつく。
彼女は震える指で、学校指定のブレザーのボタンを一つ、また一つと外していく。
重い生地が肩から滑り落ち、床にどさりと音を立てた。
次に、白いブラウス。
指先が、自分の胸の鼓動を感じる。
ドキドキ、ドキドキ、と臓器が暴れているのがわかる。
ブラウスを脱ぐと、薄い色のキャミソールが露出した。
その下の、まだ発育途上のふくらみが、緊張と寒さで小さな突起となって表れているのを感じて、顔がさらに熱くなる。
スカートのウエストのホックを外し、ジッパーを下ろす。
チェックの生地が、くるりと足元に落ちた。
最後に残ったのは、薄いキャミソールと、小さな綿のパンシーだけだった。
真緒は、ためらいがちに自分の体を見下ろす。
まだあどけない、細い腕と足。
くびれた、と言えるほどでもない腰。
そして、恥ずかしさで思わず閉じてしまう太ももの間。
ここから先、自分は何も着なくていいのだ。
その事実が、頭の中でぐるぐると回って、思考を麻痺させる。
「…早く」
間仕切りの向こうから、原田陸の、少し苛立ったような声が聞こえた。
その声に、真緒の体はびくりと反応する。
彼は、待ちきれずにいるのだ。
自分の裸を。
その考えが、背筋を電流が走るような衝撃と、奇妙な熱で満たした。
彼女は、最後の布をそっと脱ぎ捨てた。
全身無防備な肌に、空気の冷たさが刃物のように触れる。
思わず、腕で胸と陰部を隠そうとする。
「ポーズを」
今度は、相模先生の、容赦ない声だ。
真緒は、仕方なく、間仕切りの向こう側にそっと顔を出す。
そこには、円形のポーズ用の台座が、寂しく置かれていた。
彼女は、息を殺して台座に近づき、おそるおそる腰かける。
冷たい木の感触が、お尻の肉に染み渡る。
「そうだ。そのまま、体を少し右にひねって。左手は膝の上に、右手は頭の後ろで組め。顔は、こっちを向く。だが、目は閉じろ」
先生の指示に、真緒はロボットのように体を動かす。
右手を頭の後ろで組むと、脇の下や、まだ産毛の残る脇腹が、無防備に曝け出される。
胸のふくらみが、その姿勢でより強調される。
目を閉じると、他の感覚が異常に鋭くなる。
鉛筆がカリカリと紙を削る音。
誰かが息を呑む音。
そして、何本もの視線が、自分の肌を刺しているような感覚。
特に、原田の視線が、熱い。
それは、他の生徒の単なる好奇の目とは全く違う、飢えた獣のような眼差しだ。
その視線は、真緒の足首から、ゆっくりと、なめるように這い上がってくる。
ふくらはぎ、膝裏の柔らかなデリケートな部分、太ももの内側。
そして、彼女が隠したいと願う、最も秘められた部分へ。
その視線は、まるで実際に指で触れられているかのように、肌の上に熱く疼く感触を残していく。
くしゅん、と鼻がかむ。
涙が、目を閉じたままずるずると溢れ出てくる。
恥ずかしい。
怖い。
でも、その恥ずかしさと恐怖が、なぜかお腹の底で温かい塊になって、ゆっくりと溶けていくのはどうしてだろう。
見られている。
自分のすべてを、この男に、みんなに、じっくりと見られている。
その事実が、耐え難い屈辱であると同時に、甘くて危険な蜜のように、心の奥底から滲み出てくる。
「…んっ」
小さく、漏れてしまった声。
自分でも驚く。
それは、苦痛の声なのか、それとも、快感の呻きなのか、自分でもわからない。
陰部が、じくじくと疼き始める。
見つめられているという意識が、直接その敏感な部分を刺激しているみたいだ。
無意識に、太ももに力が入り、内側の筋肉がぴくりと痙攣する。
すると、そこから、熱い something が、じゅわっと滲み出てくるのがわかった。
蜜だ。
自分の蜜が、興奮の証として、股間を濡らしている。
その匂いが、薄暗い空間にこもって、自分自身の鼻に届く。
少し甘酸っぱい、生々しい匂い。
真緒は、顔が火照るのを感じながらも、その匂いに、さらに体が反応していくのを止められなかった。
乳首が、カチカチに硬くなり、キャミソールの生地が擦れるたびに、びくびくと快感が走る。
原田の視線が、さらに激しくなった。
彼は、自分の股間から滲み出る蜜の匂いまで、嗅ぎ取っているのではないか。
そんな想像が、真緒の理性の最後の糸を、ぷつりと切ってしまった。
もう、我慢できない。
ポーズを崩してでも、ここから逃げ出したい。
でも、体は動かない。
快感が、体中の血管を支配して、動かなくさせていた。
「あっ…んんっ…」
呼吸が乱れ、声が抑えきれずに漏れる。
全身の皮膚が、一枚の敏感な膜になったようだ。
視界の裏側で、白い光がきらきらと弾けている。
頭の中が、ぐちゃぐちゃに溶けていく。
芸術も、ポーズも、もうどうでもよかった。
ただ、この見つめられる感覚から逃れたい。
いや、逃げたいんじゃない。
もっと、もっと、強く見つめられたい。
このまま、骨の髄までしゃぶり尽くされたい。
「ひっ…んッ!」
その欲望が、頂点に達した瞬間だった。
真緒の全身が、弓なりに反り返る。
がくがくと、大きく痙攣が体を襲う。
目からは、大粒の涙が溢れ落ちる。
子宮の奥から、何かが爆発するような、激しい快感が脳を焼き尽くした。
はぁん、はぁん、と、獣のような喘ぎ声が、自分の口から漏れているのも気づかない。
意識が、白く溶けていく。
その絶頂の、まさにその瞬間。
真緒の体から、すべての力が抜けた。
ぐっと、お腹のあたりで緩みがくる。
そして、じゅるり、と、生々しい音がした。
温かい液体が、勢いよく、自分の股間から噴き出すのだ。
おしっこ。
我慢しきれずに、漏らしてしまった。
温かいおしっこが、自分の太ももを伝わり、台座の上に、ぴちゃぴちゃと音を立てて広がっていく。
おしっこの、少しアンモニアを含んだ生臭い匂いが、ターペンタインの匂いに混じって、部屋中に充満していく。
真緒は、その匂いと、股間に広がるひんやりとした濡れ感触に、自分が何をしてしまったのかを、ようやく理解した。
羞恥。
それ以上の言葉が見つからないほどの、地獄のような羞恥が、彼女を襲った。
意識が、真っ暗闇に落ちていくのだった。
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