第六章「バイブ、届く午後」
ピンポン、と玄関のチャイムが鳴ったのは、午後三時を少し過ぎたころだった。
母も弟も出かけていて、家には私ひとり。
手のひらがじっとり汗ばんでいるのがわかった。待ち望んでいた“それ”が届く時間だったから。
玄関を開けると、配達員の男性がにこやかに立っていた。
「お届けものです」
「あっ、はい……ありがとうございます」
私はできるだけ自然な声を出したけど、震えがあったと思う。
彼の手から受け取った小さな箱。茶封筒に無地の伝票。外から見れば、ただの通販商品。でも、私にはわかっていた。
この箱の中に、私を壊すものが入っている。
ドアを閉めてから、リビングを素通りして、自室の扉を鍵ごと閉める。
机の上に箱を置き、そっとカッターを走らせた。
開けるたびにドキドキする。目に入る赤黒い色のプラスチック、説明書、USBコード――その下に、ビニールに包まれた“本体”があった。
ぬめるような質感のシリコン。
リアルな造形。指でなぞれば、表面の細かな凹凸まで感じ取れる。
太さはペンの倍以上。先端に膨らみのある、しっかりと“男”の形をした頭。
「……本当に、これ、入るの……?」
手の中のバイブを見つめながら、私は生唾を飲み込んだ。
だけど、怖さよりも、期待が勝っていた。
バイブを充電している間、私はそわそわと部屋の中をうろうろした。
シーツを整え、部屋の灯りを落とし、空気を入れ替える。
まるで“初めての相手”を迎え入れる準備をしているみたいだった。
1時間後。
USBケーブルを外し、スイッチを押す。
「……っ!」
ブルッ……という低く濁った振動が、掌に伝わる。
震えるのは玩具だけじゃなかった。私の指先、膣の奥、息の仕方まで震えていた。
服を脱ぐ。ブラウス、スカート、下着。全部。
鏡の前に立って、自分の裸をまっすぐに見つめた。
首から胸へ、へそを過ぎて、うっすら生えた恥毛の奥。そこが今日、開かれる。
ベッドに横たわり、両膝を立てて、股を少し開く。
左手で膣口を開き、右手に持ったバイブの先端をそこに当てた。
「あ、あぁ……♡」
冷たさに、身体がピクリと跳ねる。
濡れていた。触れただけで、ぬちっ、と音がする。
クリトリスも、すでにぷっくりと膨らみ、指で触れただけでビクビクと震えた。
私はバイブの先端をゆっくり、ゆっくりと押し込んでいく。
「く……ふ、ぁ……っ、太っ……♡」
入り口の肉が押し広げられる。今まで挿れてきたペンやスティックのりとは、まったく違う質感と太さ。
膣が拒絶するように締まるけれど、それ以上に身体が“欲しい”と叫んでいた。
ぬちゅ、ぬちゅう……
いやらしい音とともに、バイブが少しずつ呑み込まれていく。
「ふあっ、あっ……これ、やば……♡」
一気に奥まで押し込んだとき、膣壁にグイと何かが当たって、ビリッと快感が走った。
腰が勝手に浮いて、背中がベッドに叩きつけられる。
私は、バイブの根元までずっぷりと挿れたまま、全身を震わせていた。
まだ、スイッチは入れていないのに――これほどまでに気持ちいい。
指でスイッチを押す。
「ッッっんんああああああっっ♡♡♡」
破裂音のような声が喉の奥から漏れた。
膣の奥で、バイブが震えている。震動が内壁をビリビリと擦り、奥の奥まで、ビクンビクンと痙攣して、涙が溢れた。
太ももを閉じようとしても、挿れたままではできなかった。
代わりに、私は両手でお腹を押さえながら、腰を自分から振り始めた。
「ん、あっ、だ、だめ、やばい、またイクっ、イっちゃ……♡♡♡」
絶頂は、早かった。
振動のせいか、最初から身体が高ぶっていたからか、わたしは数分もたたずにイッた。
叫び声を枕に沈めながら、全身を弓のように反らせて、膣がバイブを締め上げ、蜜が溢れ出た。
「はっ……はぁ、あ……♡♡」
抜けない。奥で膣がまだ、咥えたまま。
震動を止めても、膣は自分から離そうとしない。
私はそのまま、バイブを挿れたまま、ベッドに寝転がった。
股を広げたまま、ベッドのシーツが濡れていくのを感じながら、
私は、もう“普通の女の子”には戻れないと実感していた。
バイブは、私の“彼氏”になった。
でも、それはまだ序章にすぎなかった。
私の本当の欲望は――このまま、これを“挿れたまま”外に出ることだった。
コメント