妻を眠らせて犯した会社の先輩を、夫が睡眠薬で縛り上げ肛門を犯して復讐するまで
あらすじ
同僚に妻を寝取られた男は、彼女が自ら快楽へ堕ちていた事実までを知り、愛憎と屈辱のあまり復讐を誓う。妻を囮に加害者を眠らせ、ホテルで拘束。剃毛と落書き、ナイフの冷たい恐怖、そして肛門への貫通という加虐の果てに、夫婦は歪な絆と倒錯的な幸福へと踏み込んでいく。
第1章 妻の膣から流れ出た他人の精液が俺の指を伝い、信頼という名の壁が音を立てて崩れた夜

カーテンの継ぎ目から滑り込んだ朝の光が、美沙の肩甲骨のあたりを薄く切り取り、その輪郭だけを白く浮かび上がらせていた。俺はベッドの端に腰を下ろしたまま、身じろぎひとつせず彼女の背中を眺めていた。いつもの朝なら、眠りの浅い美沙は俺が寝具を抜け出す気配だけで薄く瞼を開き、あなた、と寝ぼけ声を寄越す。だが今朝に限って、彼女は深い水底にでも沈められたようにぴくりとも動かない。シーツの白さがやけに網膜へ張り付いて、部屋の輪郭をぼやけさせる。エアコンの送風がカサカサと低く唸るたび、彼女の黒髪が一筋、二筋と揺れ、その流れに沿って、うなじから背へかけて汗の乾いた痕が、星を散らしたように薄く光って見えた。
俺は掌をそっとシーツの上に滑らせ、彼女の腰のあたりへ触れようとした。指先が布越しに沈む柔らかさを捉えるかどうかといううちに、美沙の肩がひくりと小さく跳ねる。まるで俺の指の温度を、ずっと遠い場所から注がれる他人の手のように拒む、そんな痙攣だった。胸の内で、何かが小さく濁った音を立てる。それは疑いというには鈍く、不安というには生温い、澱のような手触りだった。
「美沙」
声をかけると、彼女の背中がほんの少し硬直した。それから、水を切るようにゆっくりとこちらを振り返る。黒い半円を描いた睫の下で、涙の乾いた痕が頬から耳のあたりまで白く流れ、唇の端がわずかにひきつれていた。彼女の瞳は俺の顔を映してはいない。その奥の、俺の背後にある壁の一点を、ぼんやりと見つめているようだった。
「……あなた」
その声は、乾いたセロファンを爪で引っ掻くように掠れていた。俺は二の句が継げず、ただ彼女の手を取ることしかできない。美沙の指先は外気より冷たく、血管の一本一本が浮き彫りになって、哀れなくらい細かった。握り返す力もない。頼りなく折れ曲がった指を、俺の両手のひらでそっと挟み込むと、冷たさが手のひらの肉に滲んでくる。
「どうしたんだ」
返事の代わりに、美沙の喉がひくりと鳴った。一度、薄く唇を開き、吐息だけを零して、すぐに閉じる。それが二度、三度と繰り返された。俺は、その口が何かを吐き出そうとするのを、声もなく待つしかなかった。喉の奥で渦巻くものが形になるのを、彼女自身が必死に押し留めているようでもある。ベッドのスプリングが妻の震えを拾って、ぎしり、と小さく揺れた。部屋の隅では、昨夜脱ぎ散らかされたパンプスが片方だけ、踵をこちらに向けて倒れていた。
やがて美沙は、細い息をゆっくり吸い込み、水底から引き上げられた者のように、言葉を堰き止めた。
「私、昨日……。ねえ、聞いてくれる? あなた、怒らないで、聞いてくれる」
怒らないで、と彼女は言った。まだ何ひとつ聞いていないのに、その一言は俺の腹の奥へ細い針を落とした。俺は彼女の肩を抱き寄せることしかできなかった。パジャマ越しの肉体は、いつもと違って弾力を失っている。いや、彼女の体はこんなにも薄かっただろうか。温い、けれど芯の冷えきった熱。何かが絶望的に消耗したあとにだけ残る体温が、押さえつける俺の胸をじわじわと灼いた。
「話してくれ」
自分の声が、他人の喉から洩れたみたいに低く揺れる。美沙は、彼女ひとりの内的な海を凝視めているようだった。視線が時折、泳いでは、また闇の奥へ引き戻される。
「寝込まされて……。あの人、あの、会社の香川さんに」
その名前が出た瞬間、俺の耳の奥で、べしゃり、と泥を踏むような音がした。香川淳弥。同じ会社の別部署に籍を置く、年長の男。女にだらしないと専らの評判で、酒の席では平気で他人の妻の尻を触るような、薄ら笑いを貼り付けた顔。バツイチで、悪評を勲章か何かのようにひけらかす男。あの男が、俺の妻の名を。美沙の唇から、そいつの名が零れただけで、足の先から頭のてっぺんへ向かって、熱い泥が一気にせり上がってくるようだった。
「何を、されたんだ」
問う声は、情けないほど細かく震えている。美沙は首を振り、ぼろぼろと泣き始めた。涙が熟れすぎた果実の汁のように何筋も頬を伝い、鎖骨のくぼみで小さく光る。その光が、苦い。俺の胸に、煮えた鉛が一滴、二滴と落ちてくるようだった。
「眠ってるうちに……。飲み会のあと、気がついたらホテルで……体中、揉まれてて、私、何もできなくて」
彼女はそこで、パジャマの襟元をぎゅっと掴んだ。白い指の関節が骨の形のまま浮き立ち、その力みが彼女の細さを際立たせる。俺の目は、その手の向こう側にある胸のふくらみを捉えていた。自分の妻の身体を、犯した、髪の毛一本に至るまで。あの男が触れ、舌を這わせ、指を。この白い肌の上に、あの浅黒い男の指が這い回った。視界の奥が、ぐらりと一面にひっくり返る。壁が歪み、朝の光が腐ったように濁って見えた。
「警察に、すぐにでも」
立ち上がりかけた俺の腕に、美沙がしがみついて引き戻した。彼女の細い指が、俺の前腕に食い込む。
「待って、まだ、続きがあるの。お願い、聞いて。私を、私だけを見て、聞いて」
切れ切れの、しかし鋭い必死さを孕んだ声が、俺の胸をまっすぐに貫いた。動けなくなる。美沙は私の指を握ったまま、それを自分の額へ押し当てた。ひたひたと、彼女の額の脂が俺の指先に滲む。熱い。泣き腫らした肌だけが、異様に熱い。
「写真を撮られて。あの、ホテルの時の写真。それで……会うたびに、脅されて、身体を」
喉が一気に閉じた。美沙は俺を見た。その瞳は濁り、潤み、何かを隠しているというより、隠しきれずに蠢いているものを、俺に見届けさせようとしているように思えた。彼女の唇が、途方もなく重たいものを押し出すように、ゆっくりと、ひらく。
「何度も……身体を、重ねたの。あの人と。私……恥ずかしいのに、身体が、感じてしまって。だんだん、自分から、感じてるところなんて、見せてしまって。ごめんね、ごめん、なさい。ごめんね、ごめんね」
地鳴りのような苦い熱が、喉を逆流してくる。美沙の口から、他人の名前と快楽の記憶が混ざり合って流れ出ていく。頭の芯で、どす黒い怒りと、もっと激しい絶望が、溶岩の筋を作って這い回った。感じてしまって。妻は、あの男の下で、喜んでいたというのか。俺の知らない男の荒い指で、俺の名を呼ばずに、あえいでいたというのか。倒れたパンプスのある部屋の空気が、甘ったるく、獣の棲家のような、息苦しい温度を帯びている気がした。
俺はもう、正気ではいられなかった。美沙の両肩を乱暴に掴み、ベッドの上へ押し倒す。彼女の頭が枕に沈み、長い黒髪が、水面に広がる水草のように敷かれた。肩で呼吸をするたび、胸が浅く上下して、涙に濡れた肌が光る。
「君は、あいつに、どこまでやらせたんだ。ここもか」
服の上から、彼女の胸を握る。指の腹に、柔らかな脂肪が根こそぎ絡みつく。美沙の体温が臙脂色の鳥のように暴れて、俺の手の甲を灼いた。彼女は小さく首を左右に振り、唇の端から唾液の細い橋を伝わせて、あ、あ、と声を漏らす。
「違う、違うの。あなた、お願い。痛い、あ、やさしく」
「どこまでやらせたか、見せろよ」
自分の口から、乾いた氷を噛むような声が出た。目の裏で、香川という男のにやけた顔が、美沙の胸に顔を埋めて笑っている。心臓は早鐘を打ち、脈の乱れが指先まで血を昇らせる。美沙は逃れようともがいたが、俺は彼女のワンピースの襟元を乱暴に割った。ボタンが一つ、ぽん、と音を立てて畳へ落ちる。
「いや、やめて、あなた、顔、見ないで。汚れてる、私、身体が、お願い」
「見ろっ、ここを」
強引に、柔らかな胸のふくらみを覆う下着を引き下げる。まろい乳房が、朝の光を吸い込んで、吸い付くように白く陰った。頂の乳首は、薄紅色を浮かせ、恐怖のためか、皮の凹凸がきゅっと窄んで小さな実のようになっている。その頂を、俺は指先で弾いた。ぴん、と硬さに弾かれ、美沙が鼻を鳴らして背をしならせる。辛そうに眉を寄せ、震える口元から、荒い吐息が散った。
「あいつも、こうして触ったのか。なあ、この乳首を、しゃぶったのか」
「言わないで、ひどい、いや、あ、だめ」
「答えてくれ、美沙」
責める声が、泣き声のようにくぐもる。俺は、彼女の胸に顔を沈めた。視界が、ほろりと冷たい涙の膜で歪む。美沙の乳房はしっとりと汗を吸っていて、鼻先を押し付けると、石鹸の残り香と、奥から立ち上がる甘ったるい女の匂いが混ざり合った。とろりと、目の奥が熱く灼ける。失ってしまった、いや、壊されてしまった何か。恨むべき男と、愛しむべき妻が、涙でぐずぐずに溶けた視界の向こうで揺れている。俺は、美沙の胸の谷間に蒸れた顔を埋めたまま、声を上げて泣いた。
「おまえの体は、おれのもんだ。そうだろ。あの男の精液なんか、ぜんぶ洗い流して、俺が、お前の、中まで」
情けない。復讐さえ満足に形にならず、ただ泣いて妻の胸に縋ることしかできない。それでも、美沙の手のひらが、俺の後頭部を撫でた。冷たかった指が、俺の髪を梳いて、彼女の体へ導く。
「うん……私、あなたのもの。あなただけの、もの。ごめんね、ごめん、ね。身体の中、全部、あなたで洗って。お願い、あなたの跡を、一番奥に、つけて」
美沙は俺の顔を胸から引き剥がすと、両手で俺の頬を包み、口を吸った。生あたたかい唇と唇がくっつき、苦い、塩辛い、二人ぶんの涙と唾液が、重なった割れ目へ流れ込んでくる。ちろ、と彼女の舌が俺の歯列を割って入り込んだ。蕩けたようになめらかな肉が、俺の舌をねぶり、歯茎をなぞり、鼻から抜ける互いの息が、部屋の温度を一段、濃くする。
美沙の背へ腕を回し、抱え起こすようにしてワンピースを脱がせていく。白い下着が食い込んだ腰を、汗ばんだ指でなぞり、太ももの内側へ滑らせた。むっちりと柔らかな腿は熱く、指が沈むたび、彼女の物足りなげな吐息が俺の顔へ吹きかかる。下着をずらすと、細やかな陰毛の茂りが、ぬかるんだ蜜で湿り、薄い下生えの中から唾液のように光っていた。内腿のつけ根が、朝の匂いに埋もれて、強く俺の鼻を誘う。
「あなた、来て。あの男の、指の形を、上書きして」
美沙の濡れた声に、くわえこまれる心地がした。膝を開かせると、彼女の壺はとっくに沸いていて、暗紅色の肉が盛り上がり、ひく、ひく、と呼吸するように波打っている。隠すべき襞は剥き出しで、外輪の粘膜から蜜が小さな唇を這い、割れ目の尾を伝って、シーツにしみのような濃淡を描いていた。俺は震える指で、彼女の裂け目を縦に割り、奥の窄まりを、湿った肉に包まれた括れを、押し広げる。
「あ、あ、それ、あなたの、指……。入ってる、奥、ひらいてる。んっ、はぁん」
くちゅ、と水音が立つ。中は沸騰したように熱く、襞の一粒一粒が無数の生き物になって指へ吸いつき、くねった。糸を引く汁が抜き差しに従って泡立ち、白く濁って指の股へ絡む。美沙はシーツを爪立て、腰をくっと浮かせた。彼女の中の、まだあの男の残り香を抱えている隘路を、俺は指で隅から隅まで、洗うように掻き回した。ぐちゅ、ぐちょ、くちゅ、と肉の狭間で鳴る卑猥な囁きが、部屋の沈んだ空気を食い破る。
「俺の、欲しいか。美沙。どの奥まで欲しい」
「欲しい、欲しいの。一番奥。子宮に届くまで。あなた、ください。あの男の残り、ぜんぶ、精で追い出して」
泣きながら囁く妻の顔に、俺はこらえきれず、熱い肉茎を一気に埋めた。ぐぷ、ぬぷ、と一突きごとに蜜が泡立ち、裏筋を吸い上げる。美沙が絹を裂くような声で叫ぶ。脚を絡められ、腰を打ちつけるたび、彼女の乳房は波の打ち寄せる砂丘のように形を変えて震えた。ぐちょぐちょと繋がりの肉へ音が溢れ、激しく、重く。俺の中の怒りと、同じだけ激しい愛しさが、むき出しの獣みたいに背を走る。
「あ、あ、あなた、きもち、いい、奥、とどいて、あ、ごめ、ごめんなさい、ん、あ、あ、来る、くる、あなた、あなた、あなたぁ」
美沙の内壁が幾重もの襞で俺の全体をしごき、搾る。腰の奥で、煮えたぎった憎悪めいた熱が、熱塊になって込み上げる。どくどくと射精した。彼女の奥へ、何もかも。あの男の残したであろう、彼女の汚れも官能も、自分の欲望で染め直す。そうでもしなければ、自分が二つに割けて散ってしまう。美沙が体を痙攣させ、膣壁が流星の渦みたいに収縮して、俺の最後の一滴まで飲み尽くした。
荒い息を、首元へ吐く。美沙の胸の谷に埋めた鼻先へ、妻の汗がとろりと垂れ、唇の上の産毛まで濡らしていた。繋がったまま、俺は彼女の髪を撫でた。乱れた黒髪の先から、しっとりと首の汗が、暗い海藻の香りを孕んで指をくすぐる。
「あいつは、ゆるさない」
声に出した。幼い頃、苛められた腹いせを机の裏に何度も刻んだのと同じ、黒い誓いだった。怒りはまだ、煮立った汁の表面のように破裂寸前で、くつくつと静かに泡立っている。香川淳弥。この甘ったるい部屋の空気の、すぐ外に、奴はいる。のうのうと、今日も同じ空の下で、薄ら笑いを浮かべている。
美沙が、そっと俺の腰を自分の脚の間で包んだ。胸がふさりと押し当てられ、心臓の音が互い違いに鳴る。夫婦の鼓動。断ち切れなかったもの。まだ、ふたりの身体は繋がっていた。
「いっしょに、考えよう。あなた。私、もう、絶対に負けないから」
彼女の声は、乾ききった井戸の、ずっと底から石を拾い上げるように、ひっそりと、けれど硬かった。
「復讐が、したい」
俺は、彼女のこめかみに唇を寄せながら、呪詛の後味を腹の底へ落とした。それは、美沙の肌に付いた己の精液の生臭みと同じ。浄化ではなく、穢れの上書き。俺はもう、前の俺には、戻らない。
第2章 第2章 妻が告白した輪姦と快楽の記憶に腸を焼かれながら、俺は復讐の道具と毒を揃えていく

第2章 妻が告白した輪姦と快楽の記憶に腸を焼かれながら、俺は復讐の道具と毒を揃えていく
明け方の寝室を、弘樹の気配が裂いた。澱んだ空気が、彼の肩の動きに合わせて重く揺れる。カーテンの向こうから差し込む薄明かりが、素足の踝を冷たく浮かび上がらせていた。
美沙は裸のまま弘樹の脇に身を寄せ、汗の乾いた肌が触れ合うたび、夜の名残を惜しむような湿った音を立てた。弘樹は美沙の肩を抱き直し、暗い天井を睨む。喉の奥に、香川という名が苦い塊になって溜まっていた。吐き出すことも、飲み込むこともできず、ただ呼吸のたびに咽喉を灼いている。
「なあ、美沙」
弘樹は掠れた声を絞り出した。声帯が、昨夜の怒りと不眠で錆びついた蝶番のように軋む。
「全部、洗いざらい話してくれ。あいつが君に何をしてきたのか。俺は、知らないままでいるのが一番苦しい」
美沙の肩が強張った。白い肌の下で、細い筋肉が弦のように張りつめる。沈黙が数秒続き、カーテンの向こうが僅かに白み始めた頃、美沙は布団の縁を握りしめて口を開いた。
「……最初は、会社の帰りに声をかけられたの。香川さんに。『お疲れ、斎藤の嫁ちゃん』って。何度か、駅の喫茶店でお茶に誘われて。あの人は、あなたの会社の先輩だったから、無下にもできなくて」
弘樹は奥歯を噛んだ。香川の顔が瞼の裏に浮かぶ。浅黒い肌と不遜な笑み。女を品定めするような、あの下品な視線。目が合うたびに、唾液の分泌が増えるような粘つく眼差し。
「でも、だんだんエスカレートして。『斎藤が遅くまで残業してる間、寂しくないのか』って。私、あなたとの生活が大事だったから、曖昧に笑ってた。そうしたら、あの日。飲み会の日……香川さんが、『斎藤も来るから』って言って。それで繁華街の居酒屋に連れて行かれて」
言葉が途切れた。美沙の爪が布団に食い込む。白い指先に、血の気が失せていくのが見えた。
「着いたら、香川さんしかいなくて。私、おかしいなって思ったけど、もうお酒が用意されてて。『始まってるよ』って笑うから。私、馬鹿だった。あの時、断って帰ればよかった」
美沙の声が涙で湿った。弘樹は何も言わず、美沙の髪をゆっくりと撫でた。指先に絡む黒髪が、ひどく脆い生き物のように感じられた。絹糸よりも細く、切れやすい魂の束。
「飲み会と同じ銘柄のビール。あなたの好みって、香川さんが言うから。私、あなたのことを話してるうちに気が緩んだ。飲みやすくて、二、三杯。そのあと、記憶が途切れ途切れで」
美沙は首を振った。熱に浮かされたような、緩慢な仕草で。
「気がついたらホテルのベッドで、香川さんが私の上にいて。全身、スーツのままなのに、私の下着だけ触られてて。声を出そうとしたけど、喉が麻痺したみたいに。手足は、お風呂上がりみたいに力が入らなくて」
弘樹は唇を噛み締めた。指先が、空気を掻いた。
「抵抗、できなかったのか。全力で、足でも腹でも、噛みつくとか」
美沙は弱々しく、しかしはっきりと答えた。
「できなかった。体が重くて、目は開いてるのに、金縛りみたいな。香川さん、それを知ってて。『眠り薬入りだよ。暴れても無駄だ』って。それで、私の体を好き放題。写真も、その時。スマホで何枚も」
弘樹は低く唸った。額に汗が滲み、全身を怒りという熔鉱が駆け巡る。吐き気が胃の底から込み上げ、咽喉まで酸っぱいものが昇った。
「その写真が、脅しの道具になったのか」
美沙は頷いた。目尻から涙がひとすじ伝い、耳のくぼみへ落ちる。
「『会社の連中や、旦那の実家にばらまいてやる』って。上手く撮れてるよ、お前の嫁の顔も、体も、全部わかるからなって。私は、あなたのお母さんに知られるのが……香川さんの言葉に、支配されてた」
弘樹は美沙の身体を抱き寄せた。彼女の体温が、湿った空気越しに弘樹の胸へ染みてくる。
「その後も、呼び出しのたびに身体を許してたのか。君は……」
美沙は震える息で答えた。
「私、逃げれなかった。そうよ。逃げる勇気がなくて、香川さんに会いに行ってた。でも、身体が勝手に反応してしまったのも……私、その時は、もう何がなんだか。自分を殺してるはずなのに、感じてる場所だけ、ぴくぴくして」
弘樹の心臓が氷を噛んだ。鼻の奥がツンと痛み、怒りと悲しみが混ざり合った感情が眼球の裏を熱くする。
「そして、あの日。香川さんに呼び出されて行ったホテルに、後輩が二人。学生みたいな若い男の子たち。香川さん、私を二人に差し出して。『可愛がってやれよ、経験になるから』って笑って。私は……拒めなくて。二人の前で、裸にされて、順番に……」
美沙の全身が、弓なりに強張った。
「一人は、四十代の男。香川さんの取引先の人。もう、小学生のお子さんがいるって。その人の匂い、汗と整髪料が混ざった、むっとする匂い。私、その人の顔を見るたび、子供の運動会を思い浮かべるようにしてた。そうしないと、自分が自分でなくなっていく気がして」
弘樹の腕に力がこもった。美沙の背骨が、折れるのではないかと思うほど。
「もう一人は、香川さんの学生時代の後輩で、今度結婚するからって。その人が、私のお尻の穴を、すごく時間をかけて。指を入れたり、舐めたり。『婚前のご祝儀だよ』って香川さんが笑ってて。三人が、私の周りに座って、私が泣いてるのを、まるで演技みたいに眺めてた」
美沙の口調が、僅かに早くなった。
「順番に舐めさせられて。前は、後輩の、細長いのが。香川さんは、私の口を、両手で頭を固定して。喉の奥に、何度も。途中で、おしっこをかけられたの。三人で、笑いながら。それで、放尿してるところを、二人の後輩のスマホで、動画に。私は、中腰の格好のまま、お尻を突き出して。香川さんが後ろから、私の割れ目を指で開いて、『ほら、小便出てるよ』って。それで私は、言われるままに拳でピースサインを作って。カメラに向かって、笑えって命令されて。私……笑ったの。泣きながら、笑ったの」
弘樹の視界が、赤く染まった。妻が、男たちのスマホに向かって、放尿しながらピースサインを強いられた。その映像が頭蓋の内側で反芻され、胃の粘膜が焼けていく。
「おしっこ、止まらなくて。自分の尿が、腿を伝って、ホテルの絨毯に染みて。香川さんは、その染みを、乾く前にまた舐めさせてって。後輩の一人を。『お前、飲めよ』って。私の、太腿に残った、温かい滴を、その若い男が舌で……」
弘樹は美沙の口を、そっと手で覆った。これ以上言葉にすれば、彼女の中の何かが決壊する気がした。それでも、心の耳が、彼女の告白を一つ残らず聴いていた。
「香川さんが撮った写真、何枚もあるの。四つん這いで、後ろから。お尻を両手で広げさせられて、穴が映るように。あと、お腹の上に、出してもらった白い液を垂らして、それを指ですくって口に入れてる写真。香川さん、そういうのを、後輩たちのグループLINEに送るって言ってた。それが一番、私、辛かった。知らない人に、私の体が、データとして渡って。どこに拡散されたのか、今もわからないの」
美沙の告白は、弘樹の内臓を掻き回した。怒りが、苦い胃液として咽喉を灼く。それでも弘樹は、震える声で問うた。
「見せてくれ、美沙。香川が、君のどんな場所を見て、触ったのか。俺に、教えてくれないか」
美沙は一瞬ためらい、それから涙に濡れた瞳で弘樹を見上げた。ゆっくりと自分の太腿に手を這わせる。白い指が、内ももをたどり、まだ昨夜の名残で赤く腫れた秘部へと近づいていく。
「ここも、香川さんに……奥まで、何度も。あの人、私の恥ずかしいところを舐めたり、拡げたり。私が嫌がると、余計に、酷く」
弘樹は美沙の手を止めた。
「俺が、全部、君の体から追い出してやる」
美沙の眦が、哀しげに緩む。
「でも、あなた。私の体に残った記憶、あなたが触れるたびに、あの人の唾液の味や、指の太さが蘇って。私、一生このままなのかな。あなたを愛してるのに、体の中に、香川さんの痕が残ってる気がして、眠れないの」
弘樹は言葉を失った。妻を抱く行為が、香川への復讐だと確信するのに十分だった。それから、日々の暮らしが、少しずつ戦争へ向かって動き始めた。
弘樹は美沙の心の崩落を支えながら、仕事の合間に復讐の念を育てた。社内で香川を見かけると、無意識に爪が手のひらへ食い込んだ。香川は相変わらず下品な笑みを浮かべ、女の同僚と廊下で話し込んでいた。その歯並びの悪い笑い声が、蛍光灯の白い光の中で魚の鱗のように光った。弘樹が通り過ぎると、香川の視線が一瞬、獲物を隅に追いやる狩人のように弘樹の背を追った。弘樹は石の面を被ったまま、声を出さず、心の裡では香川の首を絞める己を思い描いた。
帰宅後、弘樹は美沙とキッチンの灯の下で、かすかな小声で打ち合わせを重ねた。
「警察に言う場合、君の証言と身体の痕跡が必要になる。けど、風俗まがいの契約は立証しにくい。会社のコンプラ窓口も、自主退職を促すのが関の山だろう。慰謝料も、あいつは払わない。バツイチの遊び人に金はない」
美沙はうつむき、テーブルの木目を指先でなぞりながら呟いた。
「あなたが会社を辞めるのは、何か違うと思うの。私なんかのために」
「違わない。だが、それだけじゃ足りないんだ。あいつは、誰かの人生を食い物にして、それでも平気な顔で女を笑わせてる。俺は、あいつの笑みを、二度と浮かべられない顔に変えてやりたい」
弘樹の声は、冷たい湖の底から響くようだった。
「だから、内側から攻める。証拠を揃えて、お前の社会的な死を突きつける。写真という名の、心の首輪だ。君には、その罠の囮役を頼みたい」
美沙の指が止まった。それから、かすかに頷いた。
「香川さんからまた連絡が来たら、私、今まで通りに振る舞うのね」
「そうだ。あいつを油断させて、眠らせる。そのための道具を買い揃える。二人でやるんだ。一緒に立てた計画だ。それで君の心の膿を、俺が絞り出す」
美沙はゆっくりと弘樹の顔を見上げた。涙が乾いた跡が、彼女の柔らかい肌に、かすかな地図を描いている。
「私が、あなたのしたい通りにする。それで、また二人で笑えるようになるなら」
弘樹は仕事帰り、繁華街のドラッグストアに立ち寄るようになった。睡眠薬。粉状の睡眠導入剤。途切れないよう、数日に分けて買う。白い蛍光灯の下、薬のパッケージを手に取る弘樹の指が、微かに震えている。次に工具店で、細いロープと革ベルト。店主の老人が、黙って閻魔帳に数字を書きつける。文房具店では油性マジックを三色。黒、赤、青。小型の盗撮用カメラと、ダミー携帯は、電器街の裏路地の店で現金で買い求めた。黒いバッグをクローゼットの奥に隠し、買い足すたびに中身を確認した。
美沙の口からは、香川の所業が断片的にこぼれ続けた。夜の闇が濃くなるほど、彼女の声は平坦で、奥歯が薄く軋んだ。
「ある夜、香川さん、練乳をね、私のお腹と太ももにたらして舐めさせたの。私の舌で擦り取らせるの。それから、お尻の穴に、ぬるぬる液を流し込んで。指が二本、入って。私、お腹が痙攣して、おしっこみたいなのが……。香川さんは、『注腸プレイって言うんだよ』って。翌日もお腹が張って、下着にも、匂いが残って」
弘樹は吐き気を堪え、美沙の頭を膝に乗せた。耳の裏から、かすかに甘い汗の匂いがした。
「お前は、君は、そんなことまで。俺は、何も知らなかった。君が消える夜も、出張だと言いくるめられて、一人で飯を食ってた」
だが、弘樹には、それを責める権利はなかった。美沙が身を切るように白状している。弘樹はむしろ、聞き終えるまで離さないと決めた。香川の凶行の記憶すべてを、復讐の燃料にするために。
一週間ほど経った夜、美沙のスマホが震えた。リビングのソファで、彼女の肩がビクリと跳ねる。弘樹は黙って隣へ座り、録音アプリを立ち上げた。画面に香川の名前が浮かぶ。美沙は弘樹に一度目配せし、震える指で通話を押した。
「……もしもし」
弘樹には聞こえない声が、スピーカーの奥で、野太く響いた。
「おう、美沙。久しぶりだな。元気か。こないだは随分、俺のもんで啼いてたじゃねえか。また会いてえよ。なあ、旦那は、あいかわらず薄給でくたびれてんの?」
美沙の唇の色が、灰になった。
「香川さん……どうしたん、ですか」
「決まってるだろ。お前の、奥の締まりのいい穴が呼んでんだよ。今度もホテルで、二人きりでよ。来週の水曜、空けとけよ。写真のデータ、まだまだ元気だからな」
弘樹は拳を握りしめた。骨が軋むほどの力で。美沙は弘樹の表情をチラリと見て、涙を堪えながら甘く、少し掠れた声を返した。
「……はい。また、会いましょう。でも、私、あの日みたいに、二人の男の人にされるのは、やめてくださいね」
香川の下品な笑い声が、受話口から毒のように漏れた。
「ははっ、照れてんのか。分かったよ、今回は俺一人で堪能してやる。その代わり、サービスしろよ。じゃあ、水曜、時間はまた連絡するぜ」
通話が切れた。美沙はスマホを床に取り落とし、両手で顔を覆った。押し殺した嗚咽が、指の間から細く漏れる。
弘樹は録音を止め、すぐにファイルを二重保存した。そして、美沙の肩を抱いた。
「ようやく、来た。これで、あいつを落とせる」
美沙は泣き止まないまま、弘樹の胸に縋った。
「私、できるかな。香川さんの前で、笑顔を作るなんて。私……また、壊されちゃう」
弘樹は美沙の耳元に唇を寄せ、ガラス越しの月を見ながら答えた。
「大丈夫だ。君は一人じゃない。囮は、君だが、罠を仕掛けるのは俺だ。そして、あいつが眠ったら、全部がひっくり返る。あの男の、女を見下した笑みも、君を穢した指も、全部、俺が上書きする」
翌日、弘樹は仕事を早めに切り上げ、復讐の道具をひとまとめにした。革ベルトは二本、ロープは柔らかいが強靭な化学繊維。剃刀は両刃の新品。油性マジックは黒、赤、青。ローションと小型バイブは、美沙に見つからないように無色の袋で隠した。練乳色の下剤は、薬局で女性用に包ませた。
リビングのローテーブルに道具を並べると、美沙が物音に気づき、隣に座った。黒いバッグの口から、銀色の剃刀がのぞく。彼女は指先で、剃刀の冷たい背をそっと撫でた。
「これで、香川さんの……穢れを、剃り落とすのね」
「そうだ。あいつの、自慢の男の象徴を、笑いものにしてやる」
弘樹は、道具をバッグへ詰め直した。最後に、美沙の寝間着のリボンを直し、彼女のうなじへ手を当てた。指の先に、怖れと微かな期待の熱が込もっている。
「水曜まで、あと二日。君は、香川に連絡を待たせる素振りを絶やすな。自然体で、普段通りの妻でいてくれ」
美沙は弘樹の指に頬を寄せた。涙の残った睫毛が、電灯の光で細かく輝いている。
「あなたが、隣にいてくれたら。私……きっと、笑える。香川さんに、今までのお礼、たっぷり伝えてあげるわ」
弘樹は黒いバッグのファスナーを締め、クローゼットの一番奥へ置いた。リビングの時計が、深夜二時を指している。静寂の中、弘樹の胸の奥には、あの明け方の寝室で育った憎悪が、昏い花となって根を張り始めていた。
美沙の告白は、あと一日を残して、なお続いた。
「最後に会った夜。香川さん、私の髪を掴んで……無理やり口に、あれを、押し当てて。変な味がして、喉の奥が焼けて。私、吐きそうになったのに、香川さんは離してくれなくて。『お前のご主人は、これができないんだろ』って笑って」
弘樹は、心の裏側で、復讐のシーンを何度も反芻した。だが、その怒りはもう、熱い衝動ではなかった。何日も何日も、香川への憎悪を内側で煮詰めてきた弘樹の感情は、冷たく澄んだ刃物へと性質を変えていた。
今夜はこれ以上、傷口を開くのはやめようと思った。弘樹は美沙の手を引いて、狭い寝室へ戻る。
「休もう。明日は、最後の買い出しに行く。君の、震えてる肩が、俺の計画に火をつけてくれる」
美沙は小さく笑った。だが、その目尻には、泣き疲れた女の、繊細な陰りが漂っていた。
二人は布団を並べ、朝が来るのを待った。月明かりが消え、雨戸の隙間から冷たい夜風が差し込んで、美沙の剥き出しの足首を撫でていった。弘樹は彼女の身体をあたためるように抱きしめ、復讐の日を指折り数えた。
すでに薬も、縛る革も、剃刀も、そして、香川の恥辱を永久に縛るカメラも、黒いバッグの中で眠っている。あとは香川が、己の欲望という名の罠へ、自ら足を踏み入れるだけだった。
弘樹は天井を見つめたまま、静かに唇を動かした。
「水曜日が、お前の最後の女遊びだ。香川。二度と、美沙に手を出すな。二度と、人の妻を穢すな。お前の笑い声を、泣き声に変えてやる」
リビングの黒いバッグが、暗がりの中で、次の復讐を待っていた。弘樹の睾丸の奥に、復讐という名の熱が、じわりと新しく宿っていた。
第3章 ビールの泡に溶けた眠り薬と、妻の唾液で湿った嘘の口づけが加害者を夢の底へ落とす

第3章: ビールの泡に溶けた眠り薬と、妻の唾液で湿った嘘の口づけが加害者を夢の底へ落とす
水曜の夕暮れは、街を包む湿気が妙に生温く、背広の下で弘樹の肌に薄い汗の膜を作っていた。駅から伸びる雑踏を縫うように歩きながら、弘樹は十メートルほど先を行く美沙の背中を目で追っていた。淡い花柄のワンピースの裾が、彼女の歩みに合わせてふわりと揺れる。首に下げた細いチェーンが、夕陽の残りを拾って時折ちかりと光った。右手には白い紙袋。その中には、コンビニで買った缶ビールが二本、かちり、と氷のように冷たい音を立てている。いや、音が聞こえるはずはない。距離がある。それなのに、弘樹の耳の奥では、ガラス越しに揺れる缶の音が反響しているような気がした。心臓が、歩道のタイルにまで響いている。
香川が指定したのは、駅裏の古びたビジネスホテルだった。煌々としたネオンサインの光が、汚れた外壁を無理やり明るく染めている。弘樹は自動販売機の裏に身を潜め、腕時計を見た。美沙が約束の部屋番号を告げてきたのは、つい三十分前のことだ。四階の四〇七号室。昔、ふたりで旅行した時に泊まったホテルの部屋番号と同じ数字。虫唾が走った。香川は、番号まで意識して選んだのかもしれない。いや、あいつに妻との思い出を知る由はない。たまたまだ。たまたま、この糞みたいな偶然が、弘樹の腸をぎりぎりと絞り上げる。
エントランスへ消えていく美沙の華奢な背中を見送りながら、弘樹は黒いバッグを担ぎ直した。バッグの取っ手が汗ばんだ掌に食い込む。中には、折り畳んだ革ベルト、細いロープ、新品の剃刀、油性マジック、そして香川の人生を貶めるための装置が沈黙して収まっている。弘樹は一個だけ、深呼吸をした。空気が、油の焦げた匂いと、夕立前の埃っぽい匂いを混ぜて肺に入ってくる。
四〇七号室の扉が、静かに閉まった。
美沙は、廊下のぼんやりした蛍光灯の下で、一度だけ唇を引き結んだ。貝殻のような爪先が、白いサンダルの中で強張っている。ノックを三度。指の背で、軽く。心臓が喉の付け根で跳ね上がり、耳の奥がじん、と痺れた。
「入れよ」
香川の声が、扉の向こうでにちゃりと笑っている。美沙は一瞬だけ目蓋を伏せ、それから笑顔を作った。頬の筋肉が、ひきつけた薄氷のように冷たい。ドアノブを回すと、冷房の効いた部屋の空気が、汗ばんだ彼女の肌をべったりと撫でた。部屋の奥、ベッドに腰掛けた香川が、黒いポロシャツの袖をまくり上げて缶ビールを掲げた。浅黒い顔に、狩りを楽しむ獣の笑みが浮いている。首元の金のネックレスが、安物の証明のように鈍く濡れている。
「おう、美沙。待ってたぜ。相変わらず、けしからん身体してんな。胸、でかいままだ」
美沙は俯きがちに笑んだ。心の裏で、弘樹の低い声が「自然に、普段通りに」と繰り返している。
「お久しぶりです。香川さん、今日は、ありがとうございます」
「かたっ苦しい挨拶はいいって。ほら、座れよ。まずは一杯やろうぜ」
香川がベッドの端をぽんぽんと叩く。美沙は逆らわず、そこへ浅く腰掛けた。スプリングが軋む。男の脇からは、汗と古い煙草が混ざった酸っぱい体臭が流れてきて、美沙の鼻の奥を刺した。香川は美沙の手から紙袋を奪い、中を覗き込んだ。
「お、ビールか。俺も買ってたぜ。お前、気が利くじゃねえか」
「香川さんと、乾杯したくて」
美沙は上目遣いに、自分で思うよりずっと甘ったるい声を出した。香川の眉が、下卑た歓びを滲ませて上がる。男は缶ビールを一本、美沙に差し出した。美沙は受け取らず、首を振った。
「私、車じゃないけど、今日は、香川さんを酔わせたくて」
「はあ?」
「香川さんが、酔ったほうが、楽しいでしょ?」
美沙は、もう一本の缶を手に取った。プルタブに爪をかけると、小気味よい破裂音が部屋に弾けた。香川は目を細め、美沙の指先をじろじろと眺めている。美沙は、紙袋の内側に隠していた小さな折り紙の包みを、掌にそっと忍ばせていた。弘樹が昨夜、何度も練習して測り分けた粉末。その包みの角が、湿った指先で少しふやけている。缶の口を塞ぐように手を添え、炭酸の泡がしゅわしゅわと立ち昇る音に紛れさせて、美沙は白い粉を流し込んだ。指先が少し震えた。香川は気づかない。冷えた缶の表面に、結露が美沙の指を濡らしていく。
「ほら、香川さん。どうぞ」
美沙は、泡が口元まで盛り上がった缶を両手で差し出した。香川は受け取ると、美沙の腰に片腕を回して引き寄せ、鼻先を耳の裏へ埋めた。
「今日のお前、変にエロい声出すじゃねえか。来る前、一人でしてきたのか?」
「やめて、香川さん。びっくりしちゃう」
美沙はわざと肩を竦め、男の胸を押し返すふりをした。香川の舌が、ちろりと彼女の耳の縁を舐めた。粘ついた唾液の温もりが、背筋を震わせる。だが、彼女は笑っていた。心の中では、この男の舌を噛み千切ってやりたかった。缶を持つ香川の手が、美沙の太腿を這い上がる。ワンピースの裾から滑り込もうとする指を、美沙はまた「だめ」と短く制した。
「先に、乾杯。ね、香川さん。私、喉が渇いちゃった」
香川は舌打ちをひとつして、缶を口へ運んだ。ごく、と喉が鳴る。美沙は、香川の口元を食い入るように見つめた。喉仏が上下するたび、自分の中の何かが千切れていく音が聞こえるようだった。香川は缶をテーブルに置き、口の端を拭った。
「泡が、苦えな。でも、お前が注いだってだけで美味いわ」
美沙は微笑み、ゆっくりと香川の膝に手を置いた。男の太い腿の熱が、布越しにじわりと掌を焼く。
「香川さんだけのために、用意したの」
その言葉を、耳元へ。唾液の湿った嘘の口づけを、耳のすぐ後ろへ。美沙は、彼女の胸が香川の腕に押し付けられるほど身を寄せた。豊かな乳房の重みが、男の筋肉の上でくにゅりと潰れる。香川は下腹に力を入れ、下品に笑った。
「馬鹿、煽んな。今日は、たっぷり抱いてやるから、何本でも飲ませろ」
香川は、残りのビールを一気に飲み干した。ごぼ、ごぼ、と喉を鳴らし、空になった缶を乱暴に床へ転がした。美沙は、香川の髪を撫でる真似をして、その顔をそっと胸元へ抱え込んだ。男の熱い鼻先が、服の上から胸の谷を探る。気持ち悪い。それなのに、自分の中に、昏い熱が滲んでいくのが分かった。この男を、今から落とす。その興奮が、罪の意識より先に、彼女の腹の奥をずくずくと湿らせていた。
「もう一本、開けてくれるか」
香川の声が、少しだけ鈍く濁ってきた。美沙は内心で息を呑んだ。まだ飲み始めて数分。薬が効くには早い。だが、香川はもともと酒に強いほうではなかった。美沙は冷蔵庫から缶を取り出し、自分の飲みかけと偽って、もう一度だけ、粉の残りを混ぜた。今度は、泡の表面に白い粉が一瞬浮き、すぐに溶けて消えた。
「はい、どうぞ。私の、ちょっと飲んだやつだけど」
「ほう、間接キスかよ。お前、ほんと可愛いことするな」
香川は缶を受け取り、美沙の唇を見た。美沙は、自分の下唇を舐めてみせた。男の目が、欲望と眠気の間で少し泳いでいる。ごくり。二本目のビールが、香川の体内へ注ぎ込まれていく。
五分が過ぎた頃には、香川の呂律がはっきりと怪しくなった。
「おま……え、なんか、今日、酒、まわるの、早え……」
香川はベッドの背板にぐったりともたれ、首を左右に振った。目蓋が重たげに半分閉じられている。浅黒い肌も、青白く色を失い始めていた。美沙は、じっと香川の顔を覗き込んだ。呼吸が、深く、間延びしている。瞳孔が、わずかに散っている。
「香川さん、大丈夫?」
「へいき……じゃ、ねえかもな。でも、こ、れから、気合い、入れるからよ……お前、脱い……」
香川の太い指が、美沙の手首を掴もうとした。しかし、その指先は混乱したように空を掻き、シーツの上へ落ちた。口から「お、お」という泡のような吐息が漏れる。美沙は、香川の頬にそっと爪を立て、笑いかけた。
「眠たいなら、少し横になりましょう。私が、気持ちよくしてあげるから」
香川の口元が、だらしなく緩む。それきり、男の首ががくりと折れた。どしゃ、と重い音を立てて、香川はベッドに仰向けへ倒れ伏した。大きく開いた口から、酒の匂いの混じった鼾が、ひゅう、と細く漏れる。
美沙は、その場に立ち尽くした。冷房の風が、汗で首に貼りついた黒髪を、ゆるく持ち上げる。指先が、かたかたと震えていた。彼女は唇を噛み、乱されたワンピースの胸元を直すと、ハンドバッグからスマートフォンを取り出した。弘樹へのメッセージに、たった五文字。
「眠ったよ」
すぐに、既読がついた。美沙は、部屋の鍵を解錠したまま、ドアの前で待った。四十秒と経たないうちに、廊下を軋ませる足音が近づき、黒いバッグを抱えた弘樹が滑り込んできた。弘樹の目は、真っ赤に充血していた。
「香川は」
弘樹は低い声で問い、ベッドに沈む男を見た。美沙がこくりと頷く。弘樹は、震える妻の手を一瞬だけ強く握りしめた。その掌は、氷のように冷えきっていた。
「よくやった。ここからは、俺の番だ」
弘樹は黒いバッグの口を開け、素早く革ベルトとロープを取り出した。彼は、香川の腕を捻り上げ、ベッドの木製のヘッドボードへ縛りつける。ぐう、という低い唸りが、男の喉から漏れたが、目は開かない。弘樹は香川の片頬を、遠慮のない平手で打った。
パン、と乾いた音が、壁を叩いた。
香川の目蓋が、びくりと震えた。弘樹はもう一度、反対の頬を打つ。香川が、薄く目を開けた。焦点の合わない瞳が、弘樹の顔を捉え、それから、そばに立つ美沙を捉えた。
「……てめえ……」
香川の声は、水底から這い出るように濁っている。弘樹は、香川の黒いポロシャツの襟を掴み、顔を無理やり起こさせた。
「起きろ、香川。お前が、これから味わう恥辱の、まずは手始めだ」
香川の瞳が、僅かに見開かれた。しかし、薬が全身を重く沈め、指一本動かせないらしい。弘樹は、香川の足首もベッドの脚に縛り、最終的には、腰にベルトを回して大の字になるよう角度を整えた。男の胸が、浅い呼吸のたびに上下する。革ベルトの冷たい質感が、香川の肌に食い込んだ。
「まだ、完全に落ちきってないな。だが、それでいい。お前の顔に、俺のことが焼きつくまで、叩き起こしてやる」
弘樹は、美沙に目をやった。美沙は、壁際に立ち尽くし、両手で口元を覆っている。涙が、ひとすじ、頬を滑った。
「美沙、お前は、あいつの目の前で、その下着を見せてやれ。お前の体を穢した男が、これからどうなるかを、お前の姿で分からせろ」
美沙は、細かく首を振った。しかし、足は動いていた。彼女はゆっくりとベッドへ歩み寄り、香川の目の前に立った。香川の濁った瞳が、美沙の太腿を舐めるように動く。美沙は、花柄のワンピースの裾を、両手で握り締め、一気に持ち上げた。白い、生成りの下着が露わになる。布地には、汗と、そして今しがた自分の中に溢れたものの湿りが、かすかに染みを作っていた。香川の喉が、ひゅ、と鳴った。
「見なさい。私の恥ずかしいところ、全部。あんたのせいで、夫の前で、こんなことまでしてるのよ」
美沙の声は震えていたが、目は、もう泣いていなかった。弘樹は、その光景を背に、黒いバッグから一本の剃刀を取り出した。銀色の刃が、部屋の弱い照明を、するりと滑り落ちる。
弘樹は香川の腹に手を掛け、シャツをまくり上げた。浅黒い腹には、汗が滲み、ぎらぎらと光っている。爪先で、男のベルトに触れた。香川が、くぐもった声を洩らした。
「お前が散々、人の妻を味わったその身体だ。今日からお前の大事な毛は、一本残らず俺が剃ってやる」
弘樹は、剃刀の背を、まだ抵抗の残る香川のへそから下腹へ、ゆっくりと滑らせた。冷たい金属の感触に、香川の皮膚が総毛立つ。美沙が、息を呑む音がした。
「や、やめ……て……」
香川が、薬に沈む舌で、かぼそく喘いだ。弘樹は、笑った。喉の奥から、熱い塊が込み上げるような、初めて味わう種類の笑いだった。
「これからだ、香川。お前の身体の、恥ずかしいとこを、全部、剃り落としてやる」
弘樹は、香川のベルトを外し、下着へ手をかけた。部屋の空気が、汗と、男の怯えと、妻の湿りと、復讐の匂いで、ぎらぎらと澱んでいた。美沙が、そっと弘樹の背中に手を当てる。その指が、弘樹の怒りと興奮を、いっそう鋭く尖らせた。
香川を四つん這いの体勢に固定し直すと、弘樹は剃刀の刃を、男の下生えの入り口に当てた。冷たい鋼の刃が、じめりと汗ばんだ鼠蹊部の肌に吸いつく。香川の腿が、小刻みに震えている。弘樹は、妻の視線を背中に感じながら、その最初の一剃りを、刻み込むように動かし始めた。
第4章 剃り落とされた加害者の性器にマジックで「変態」と書き、ナイフの背で震える陰嚢をなぞる夜

第4章: 剃り落とされた加害者の性器にマジックで「変態」と書き、ナイフの背で震える陰嚢をなぞる夜
冷房の風が、汗ばんだ首筋を舐めていく。湿った空気の層が、ベッドの周囲にだけ澱んで、生々しい重さを帯びていた。ホテルの壁紙はところどころ黄ばみ、蛍光灯の白い輪郭が、まるで異国の手術室めいた無機質な光を投げかけていた。弘樹の指先は冷えきっていた。それなのに、手のひらの内側だけが妙に熱い。熱がそこにだけ閉じ込められたのは、憎しみというものが、体温よりも深い場所で燃えているせいかもしれない、と弘樹は、香川の下腹部を見下ろしながら思った。
剃刀の刃を腹毛へ当てた瞬間、香川の筋肉が総毛立つ。ピン、と張り詰めた皮膚の下で、胃のあたりが浅く痙攣したのが目に見えた。黒いポロシャツは腹の上までまくり上げられたままで、厚い胸板の中心から、白い汗の粒がじわりと浮き上がっては、重力に引かれて鎖骨の窪みへ流れ落ちていく。薬の効き目はまだ完全に切れていない。香川の目蓋は半ば落ちかかり、瞳は油の浮いた沼のように焦点を結ばない。だが、意識そのものは確かに弘樹を捉えていた。視界の端で、香川の唇が震え、「やめ」と、舌の先で溶けた泡のような声を吐く。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、弘樹は剃刀の背を、恥骨の薄い皮膚に到達するまで、ゆっくりと引き上げた。浅黒い腹に、白く乾いた跡が一本、道路地図のように浮かぶ。香川の鼻息が、濁った笛のように鳴った。皮膚の下、ちりちりと剃りの予感が走っていくのが、弘樹の手を通しても分かる。男の身体が恐怖で硬くなる。それが心地よかった。弘樹の奥底で、昼間の自分では決して知り得なかった加虐の衝動が、むくりと頭をもたげて、喉元を甘く締め付ける。
弘樹は、転がる香川の顔を覗き込んだ。焦点の合わない目。汗と脂でてらてらと輝く額。鼻梁の太さが、一層野蛮に見えた。この男が、美沙の柔らかな肌に触れた。この指が、美沙の秘密をこじ開けた。そう思うたび、弘樹の奥歯が、骨ごと軋る。後ろに立つ妻の気配が、空気を震わせた。弘樹は振り向かず、低く、身体の芯を這うような声を出した。
「お前の犯した男の姿をよく見ろ、美沙」
背後で、美沙が息を呑んだ。床に影が揺れ、一歩後ずさったのが気配で分かる。だが、彼女は逃げなかった。弘樹は、壁とベッドの隙間に落ちていたネクタイを拾い上げると、無造作に丸めて香川の口へ押し込んだ。絹の生地が、唾液と胃液の匂いを吸って、かすかに酸っぱい空気を吐き出す。香川が喉の奥で「ぐ、う」と唸り、顎を硬直させた。呼吸は鼻だけに許され、荒い息がひゅうひゅうと抜けていく。
「黙ってろ。声を出すなら、このまま顎を縛る」
弘樹はネクタイの端を、香川の後頭部で固く結んだ。剃刀の冷たい峰を、今度は腹毛の茂みへ垂直に押し当てる。目の前で、男の下生えが、逃げ場を失った獣の毛のように汗で濡れていた。弘樹は、一房をつまみ、根元から刃を滑らせた。じり、と音が立つ。黒い巻き毛が、白い刃の上に粉のように残り、ベッドのシーツへ散った。香川の鼻腔から、鋭い悲鳴が漏れる。脚がばたつき、ベッドがぎし、と軋んだ。美沙が、その暴れ方に「あっ」と短く喉を鳴らす。
「動くな。暴れると、剃る場所を間違えて、妙なものを切り落とすぞ」
弘樹の声は、自分でも薄気味悪いほど冷えていた。香川の身体が、凍りつくように静止する。弘樹は、腹と恥骨の境目を丁寧に剃り分け、浅黒い肌が露わになっていくのを、食い入るように眺めた。毛の下に隠れていた肌は、周囲より白く、汗で異様に青白く光っている。まるで、この肉の下にだけ、断罪の色が塗りこめられていたみたいだ。一剃りごとに、香川の男としての象徴が失われていく。弘樹の下腹に、ぞわり、と熱が這い上がり、指先を一層繊細にした。
美沙が、かすかな足音を立てて近づいてきた。弘樹の肩の後ろで、彼女の花柄のワンピースの裾が、視界の隅に揺らめく。震える息が、弘樹のうなじへ吹きかかった。
「あなた……私、何をすればいいの」
かぼそい声だった。泣いているのとは違う。美沙の声は、恐れと、そして別の何かで上ずっていた。弘樹は剃刀を止め、振り返った。美沙の大きな茶色い瞳が、涙の膜を張ったまま、香川の晒された下腹と、彼自身の性器を凝視している。口元がひきつれ、頬の筋肉が、笑みとも泣き顔ともつかない形に痙攣している。弘樹は、美沙の手を取った。彼女の掌も、氷のように冷えていた。
「お前の手で、あいつの顔を張ってやれ。お前の人生を踏みにじった男の顔だ。思い切り、心のままに」
美沙の指が、弘樹の指の中で、小さく震えた。迷いが、彼女の睫毛をふるわせる。だが、その奥の光は、恐怖を突き破って、別の欲望を宿し始めていた。弘樹は、彼女の背をそっと香川の方へ押した。美沙は二歩、三歩と近づき、ベッドに縛り付けられた男の顔を、上から覗き込んだ。香川の充血した目が、美沙を捉える。彼の口は塞がれているのに、太い眉の動きで、何か命じるような、媚びるような、ちぐはぐな祈りの色が浮かんだ。
美沙の右手が、空気を裂いた。
パシン、と乾いた音が、狭い室内に跳ねる。続けて、反対の手で、もう一発。三発目は、手のひらの肉がひっくり返るほどの強さだった。香川の首が揺れ、口に詰められたネクタイの隙間から、くぐもった耳鳴りのような声が漏れた。美沙の肩が上下する。彼女は、殴った自分の手のひらを、じっと見つめていた。赤く腫れ始めた掌。香川の汗と、彼女の涙が混ざり、ぬらぬらと光っている。
「……私、今、この男を、憎いって思った。心から。体のどこにも、香川さんへの同情が、ないの」
美沙が、唇だけで笑った。彼女の太腿が、ワンピースの布地の内側で震え、下腹の奥深くで、何かがほどけていくのが弘樹にも伝わった。それは、長い間、地獄の底に封じ込めていた憎悪だった。美沙は、香川の側頭部に爪を立てるようにして、髪を掴んだ。
「私を穢した罰よ。香川さん。あなたが味わうのは、これからよ」
美沙の声が、別人のように低く澄んでいた。弘樹は、その変化を、暗い愉悦と共に聞いた。正気と狂気の境目を、二人で渡ろうとしている。それでいい。この部屋の外の倫理は、もう俺たちを裁けない。弘樹は、再び剃刀を手にした。
「お前の、自慢の代物を剃ってやる」
香川の下着へ手をかけた。男の腰が、反射的に逃れようと浮き上がり、腰に回された革ベルトが食い込む。弘樹は容赦なく下着を引き下ろした。露わになった香川の陰茎は、恐怖と寒気と薬のせいで収縮し、幼児のように頼りなく、浅黒い肉の山に埋もれている。陰毛が汗に絡まり、先の尖った蕾めいたものを隠している。弘樹は、指の背で、その縮み上がった肉の付け根をなぞった。ぬるり、と嫌な脂汗が指へ流れる。香川の腰が跳ね、彼自身の意志とは別の場所で、尿道がひく、と痙攣する。
「小さくて、可愛らしいじゃないか。これで、よくもまあ、人の妻を好き放題にできたもんだな」
弘樹はわざと、剃刀の冷たい峰を、香川の陰茎の付け根から爪先へかけ、ゆっくりと滑らせた。金属の冷たさに、男の肉が総毛立ち、袋がきゅ、と萎縮する。香川の呼吸が、鼻の穴を塞がれそうなほどの早さに変わった。弘樹はそれを楽しみながら、丁寧に、いたぶるように、残った陰毛を剃り落としていった。黒い毛が、白い泡のように散り、シーツの上に溜まっていく。時折、剃刀の刃が、汗で湿った皮膚を「じりり」と鳴らした。香川の腰が何度も浮かび、くぐもった悲鳴が、鼻の奥で潰れる。
やがて、香川の股間は、毛という毛が一本も残らず、白っぽい肌が露わになった。陰茎と陰嚢だけが、周囲より黒ずんでいて、いっそう醜悪に映る。弘樹は、剃り落とされた陰毛を掌に集め、香川の顔の真横へばらまいた。
「お前が淫らに自慢してた毛だ。自分の顔に飾られて、感想はどうだ」
香川の瞳が、恐怖で揺れる。口を塞いだネクタイの下で、下唇を噛みしめているのが分かった。弘樹は、黒いバッグから油性マジックを取り出した。プラスチックのキャップを外すと、アルコールの刺激臭が、室内の汗と男の体臭に混ざって立ち昇る。ペン先を、香川の下腹、剃り終えた皮膚へ直接押し当てた。
「動くなよ。下手をすると、目に入るぞ」
弘樹は、一画ずつ、呪いを刻むように字を書いた。まず腹の白い皮膚に、黒く大きな字で「変態」。続けて、右の内腿から膝へ向かって「寝取り豚」。左の内腿に「美沙の奴隷」。インクの滲みが、汗で伸び、文字の輪郭がどろりと溶ける。香川の皮膚が、ペン先の圧力に合わせて小刻みに跳ねる。弘樹は、書いた字の上から、もう一度なぞった。インクが皮膚の溝へ沈み、消えない傷のように黒々と光る。
「これで、お前の身体は、誰が見ても変態の証明だ。会社の皆が相手にするのは、人妻を食い物にする豚で、美沙の奴隷だ」
美沙が、弘樹の隣で、小さく嘔吐き声を漏らした。だが、それは嫌悪の声であると同時に、笑いの震えだった。彼女は、自分の腹を押さえながら、香川の文字を指差した。
「……ねえ、あなた。この人の、いやらしい。いや、その。変な汁が出てる」
美沙の指先が、震えながら指し示す。香川の陰茎が、恐怖と摩擦と、そして、この異常な状況による別種の刺激で、中途半端に膨らみ始めていた。剃り立ての無毛の肌の上で、根元がうっすらと血の色を帯び、先端が紫がかって立ち上がりかける。尿か、それとも卑猥な粘液か、透明な雫が、尿道口のくぼみから滲み出ていた。美沙は、白い喉を鳴らして、それを凝視する。吐き気を催すのとは反対に、彼女の瞳の奥が、まるで毒の甘さを味わうようにぎらついていた。
「お前の、これは、なんだ、香川。恐怖で濡らしたのか。それとも、こんな風にされるのを、待ってたのか」
弘樹は、インクで汚れた指先を、香川の亀頭の先端へ押し付けた。ぬちゃ、と粘液が指紋をなぞる。香川が首を反らし、鼻から断末魔の細い息を漏らした。身体は逃げようとしているのに、陰茎の反応は、服従と変態性の兆しを見せている。その矛盾が、弘樹の怒りを、さらにねじり上げた。
「妻の前で、男がそれを垂らしてる。恥ずかしくないのか。ああ、豚だから、感じないんだな」
美沙が、こらえきれなくなったように、半笑いで口を押さえた。
「あなた、そんなこと言ったら、この人、ますます変な風に」
美沙の声は、泣き笑いの震えを帯びていた。弘樹は、彼女の髪を一房、ゆるく掴み、香川の眼前へ導いた。
「見せてやれ。お前の美貌と、お前の涙の跡を、目の前で。そいつがどれだけの女を穢してきたか、お前の顔で味わわせろ」
美沙は、香川の目の前に屈み込み、濡れた黒髪を耳にかけた。涙で張り付いた前髪の向こうから、彼女の濡れた茶色い瞳が、汚れた男を映す。美沙は、ゆっくりと、香川の頬に手を這わせた。汗と涙を混ぜた女の掌が、男の顎を伝い、首筋のくぼみへ下りていく。香川の喉仏が、ごく、と鳴った。
「苦しい? でも、まだよ。私がされたことの、半分も、こんなものじゃない」
美沙が、そう囁いた。弘樹は背筋に、冷たい快感が走るのを感じた。妻の内面にも、この復讐の毒は確かに行き渡っている。弘樹は、黒いバッグの底から、折り畳み式のナイフを取り出した。手のひらの中で、金属の重みが沈む。親指で刃を開くと、冷たい鋼の光が、蛍光灯の明かりを一筋、壁へ跳ね返した。
香川の呼吸が、止まった。次の瞬間、鼻腔から、鋭い笛のような連続音が溢れる。ネクタイの下で、彼の喉が必死に叫ぼうと蠢いている。弘樹は、ナイフの刃先を、香川の剥き出しの尿道口へ、ゆっくりと近づけていった。ほんの数ミリ。先端から滲む透明な粘液が、鋼の上で小さく光る。香川の陰茎が、ぶるぶると震え、陰嚢がきゅう、と持ち上がった。
「次に妻へ手を出したら、ここを切り開く」
弘樹の声は、静かだった。静かな分だけ、言葉の重さが、刃よりも鋭く部屋を満たした。
「お前の、女を犯すための道具を、二度と使えない体にしてやる。それとも……今、ここで、試してみるか?」
香川の顔から、血の気が引いた。浅黒い肌が、土色に濁り、瞳がこれ以上ないほど見開かれる。首を振ろうとして、ベッドの背板に後頭部をぶつけた。鈍い音が、沈黙に割り込む。美沙が、息を呑む。弘樹は、刃先を尿道口から、陰茎の裏筋へ移し、次に、震える陰嚢の上へ、刃の背を這わせた。
「これは、切れ味がいい。力を入れなくても、薄皮が裂けるタイプだ。お前の、ふたつの殊勝な鈴も、こう、背を当てて、引くだけで……」
弘樹は、ナイフの背で、陰嚢の皺をゆっくりと伸ばすように、下から上へ、二度、三度となぞった。香川の腰が跳ね、脚が痙攣する。全身に浮いた汗が、シーツへ飛び散った。陰嚢の表面が、冷たい金属の感触に、小さな粒を無数に立てて震える。
その時だった。
しゅう、という微かな水音が、弘樹の耳を打った。見ると、香川の尿道口から、黄色がかった液体が、断続的に溢れ出している。失禁だった。弘樹は、一瞬手を止め、それから、声を出さずに笑った。小便の匂いが、蒸れた部屋の空気を、もっと重くする。シーツに染みが広がり、白い布地を、地図の形に汚していく。香川の腿が、自分の尿で濡れ、冷たくなっていく。
「汚ねえな、香川。年下の同僚の前で、小便を垂れるか。いや、違うな。お前は元々そういう、腑抜けた男だったんだ。俺が知らなかっただけで」
弘樹は、ナイフを香川の目と同程度の高さへ掲げ、尿まみれのシーツを見せつけるように指で示した。美沙は、口元をわずかに歪め、香川の尿の染みを睨んだ。その眼差しは、もはや怯えではなかった。彼女の身体の奥から、この男を傷つけたいという、厚い欲動が込み上げてきている。
「私、この人に、色んなものを汚された。下着も、身体も、心も。今度はこっちが、あなたを汚す番なの」
美沙は、弘樹の顔を見上げた。涙の膜の奥に、強い光が燃えていた。弘樹は、自分のスマートフォンを彼女に差し出した。
「撮れ。こいつの、惨めな姿の全部。お前のメモリに、二度と逆らえない証拠を残すんだ」
美沙は黙って受け取り、カメラを起動した。画面が、香川の泣き濡れた顔を映す。彼女の指先が、少しも震えていない。レンズの音が、無音の密室に、わずかな電子の駆動音を流した。弘樹は、カメラへ背を向けるように、香川の腰を引き上げた。
「肛門も、撮っておけ」
弘樹は、香川の両膝を押し上げ、男の身体を折り畳むようにした。縛られた足首が、ベッドの脚の上で強張る。露わになった無毛の股間が、さらに淫らに広がる。肛門は、暗い色の窄まりが、汗で湿って隠れている。弘樹は、尿と汗を指先で掬い、その閉じた窪みへ軽く擦り付けた。香川の身体が、身の毛もよだつような戦慄に貫かれる。
「ここを、お前は、どれだけの女にやらせたんだ。ここで味わった女の悲鳴を、思い出せるか」
香川は、首を振ることすらできず、ただ鼻から、ひたすら細い息を吐き続けた。口を塞がれていなければ、今ごろ命乞いの声が、床に染みるほど響いていただろう。弘樹は、その日のために取っておいた、新品のバイブレーターと、無色のローションをバッグから取り出した。パッケージを破ると、人工的な甘ったるい香りが漂い、男の体臭と尿の刺激臭に重なる。弘樹は、ローションの小瓶を掌に垂らした。ぬるり、と液が指の隙間を伝い、手首を冷たく沈んでいった。
「香川。これから、お前の一番恥ずかしい場所を、ずぶずぶにしてやる。何をされるか、分かってるな」
香川が、涙をぼろぼろとこぼしながら、ようやく顔を横に向けた。首を振る。いやいやをするように。だが、その頭は、枕の半分に埋もれ、泣きながら、弘樹を見上げていた。拘束された男の体が、まるで魚のように、びくびくと跳ねている。口のネクタイは、涙と唾液でぐっしょり濡れ、絹の黒が、赤黒く光っていた。
弘樹は、美沙のスマートフォンを、彼女の横顔ごと視界に収めながら、小さなバイブの先端を、香川の閉じた窄まりへ押し当てた。冷たいシリコンの塊と、ぬるついた液が、男の熱い窄まりを押し広げようとする。弘樹の息が、自分の鼻を熱く往復する。心臓が、頭蓋の裏を叩く。
「よく見てろ、美沙。今から、この男の、一番深い場所に、俺たちの屈辱を差し込む。逃げようったって、そうはいかない」
美沙が、カメラ越しに頷いた。彼女の唇が、恐ろしいほど静かに、かすかな笑みを形作る。香川が、喉の奥で潰れた悲鳴を、断末魔のように震わせた。弘樹の指が、ローションに濡れた先端を、さらに食い込ませる。香川の足の爪が、空を掻いて、白いシーツに三日月の跡を刻んだ。
章が終わるまで、弘樹の頭の中で、あの明け方の寝室の匂いが、何度も反響した。美沙の涙、香川の精の臭い、そして、これから獲る復讐の、骨まで震えるような愉悦。今、ここに、その続きがある。拳に握った復讐の入口が、ぬるりと、男の身体に食い込もうとしていた。
第5章 加害者の尻穴を貫いた俺の怒りと、妻が見つめる前で放った復讐の射精が夫婦の歪な絆を溶かす
第5章: 加害者の尻穴を貫いた俺の怒りと、妻が見つめる前で放った復讐の射精が夫婦の歪な絆を溶かす
弘樹は、香川の窄まりへ押し当てたバイブの先端に、体重をゆっくりと乗せていった。冷たいシリコンの塊りが、閉じた皴をぐにゅりと凹ませ、ぬるついたローションを周囲へ滲ませる。香川の足の爪が、また空を掻いた。ベッドの脚に縛られた足首が、ぶるぶると震えながら、逃れようと内側へ曲がっていく。
「ひ、ぅ……や、やめ……」
ネクタイの下から、湿った吐息に溶けた懇願が漏れた。弘樹は、その声を聞きながら、先端をほんの少しだけ引き、もう一度、今度は角度を変えて突き込んだ。ぬちゃ、という粘液の啼き声が、男の尻の奥から微かに響く。指で解すまでもなく、窄まりは浅いところまで、こじ開けられるままに蠢いた。
「ほら、入りたがってるぞ。お前の身体は、誰の指でも、何でも咥え込むようにできてるんだな」
弘樹の声は、低く、しかし喉の奥で笑っているようだった。すぐ後ろで、美沙の吐息が、弘樹のうなじを湿らせる。彼女は片手にスマートフォンを構え、腰を落として、夫の手元と、香川の貫かれていく場所を、食い入るように画面へ映していた。
「あなた……これ、すごい……」
美沙の声は、興奮と嫌悪で半分ほどかすれていた。彼女の指が、弘樹の背中に触れた。汗で張り付いたワイシャツ越しに、女の掌の熱が染み込んでくる。弘樹は振り返らず、その体温を背骨のあたりに受け止めた。
「まだ、先っぽだけだぞ。こいつの中は、見た目よりずっと狭い。美沙、お前、よくこんな男に後ろを触らせたな」
美沙は、答えなかった。代わりに、息を呑む気配が、部屋の淀んだ空気を揺らした。弘樹は、もう一度だけ体重を前に運んだ。ぬぷ、と音がして、小型バイブの半ばまでが、香川の肛門へ沈み込んだ。香川の身体が、弓なりに反り返る。腹の落書きが、蛍光灯の下でどろりと光った。
「おご、……ッ」
香川の喉が、絞められたように震えた。鼻から吸い込んだ空気が、笛みたいな音に変わる。腸の奥で、器械の塊りが、意思を持つ生き物のように回転する。弘樹は、バイブの根元を指先で押し込みながら、香川の反応を観察した。男の尿道口から、また薄い液体が滲み出している。小便にしては透明すぎる。恐怖のあまり、前立腺から搾り出されたものかもしれない。
「こいつ、こういうのが気持ちいいのか。本当に、女に生まれりゃよかったのにな」
弘樹は、指先に力を込め、バイブをさらに奥へ送り込んだ。ごり、と硬い腹の中を器械が押し上げる感触が、手にまで伝わってくる。香川が、首を横に振り、涙と唾液で濡れたネクタイを吐き出そうとした。だが、結び目は後頭部で固く縛られていて、顎が外れそうに開くだけだった。
「苦しいか。苦しいままでも、俺の声は聞けるな。香川。お前が美沙を最初に抱いた日、どんな気分だった? 人の女房を、眠り薬で無力にして、股を開かせて、お前の汚い精を注ぎ込んだ日だ」
弘樹は、片手で香川の顎を掴み、顔を正面へ向けさせた。香川の瞳孔が、涙の膜の下で激しく揺れている。眼の下のくまが、いっそう黒く沈んで見えた。
「今日は、その借りを、お前の身体から、きっちり取り立てる。お前の妻だった女も、お前のこの恥ずかしい穴を見たら、なんて言うかな」
弘樹の指が、香川の顎から離れた。香川の頭が、力なく枕へ沈む。弘樹は、バイブのスイッチを、いちばん弱い位置まで回した。小さな機械音が、湿った肉の中で微かに唸る。香川の腰が、揺らめくように痙攣した。美沙が、撮影の手を止めずに、弘樹の肩へ額を押し当ててきた。
「弘樹さん。私、なんだか、身体が熱くて……あの人を見てると、胸の奥がきゅうっとして、それで、お腹の下が」
美沙は、言い淀み、ワンピースの裾を両手で握りしめた。弘樹は、妻の手首をつかんだ。彼女の脈は、薄い皮膚の下で、小鳥の心臓のように跳ねている。
「お前も、感じてるんだな。惨めな男の姿に、女の本能が疼いてる。それでいい。お前の中の、香川に犯された記憶が、今度はお前を犯す側の熱に変わる」
弘樹は、バイブを香川の体内へ残したまま、彼の拘束を調整した。腰のベルトをゆるめ、両脚をさらに開かせ、骨盤を持ち上げるように体位を作る。香川の肛門は、器械の根元を咥えたまま、硝子みたいに赤く充血し、ひくひくと収縮していた。汗と尿とローションが混ざった塊りが、縫い目のところで細かな泡を作っている。弘樹は、その泡を指先で拭い、肛門の縁を半周なぞった。
「この穴は、今から俺が使う。二本目を埋めて、お前の身体に、俺の形を覚え込ませる」
美沙が、スマートフォンを一旦、床へ置いた。露出した太腿をカーペットへ擦りつけ、熱に耐えるように膝を寄せる。呼吸が、浅く、何度も繰り返された。その口元から、ほとんど無意識の吐息が、くちびるの隙間へ滲んでいく。
弘樹は、自分のベルトを外した。スラックスの前を寛げ、下着の上から、すでに硬く反り返った怒りを取り出す。汗水と、復讐の昂ぶりが、男自身の重さを増している。表皮は憎しみの形に波打ち、先端からは、やるせないほどの雫が垂れていた。弘樹は、妻の肩を抱き、体を反転させて、香川の顔面へ向かわせた。
「跨がってやれ。こいつに、お前の一番近いところの臭いを嗅がせろ。散々、お前の匂いを味わった男なら、拒みはしない」
美沙の肩が、強張った。それでも、彼女は頷き、縛られた男の頭を跨いで、膝を突いた。花柄のワンピースが、太腿の上で乱れ、香川の額のすぐ上に、彼女の太腿の付け根が影を落とす。下着は、先刻から、普段の肌色の乾いた布ではない。彼女の体が生み出した少量の汗と、それ以上のものが、薄い生地の中央を、うっすらと濡らしていた。香川の鼻先が、その場所の真下にある。
美沙は、指で下着の布を摘むと、ゆっくりと片側へ寄せた。露出した女の割れ目に、ホテルの冷気が触れる。美沙の腰が、びく、と跳ねた。香川の瞳が、涙と充血の下で、それを見上げた。男の鼻が、ひく、と鳴る。
「お前の臭いを、たっぷり吸わせてやれ」
弘樹は、妻の腰を押し下げた。美沙の腿が、香川の耳を挟み込み、汗ばんだ女の肌が、男の顔の産毛を押し潰す。むわ、と押し寄せた女体の体臭に、香川の目が白く濁った。彼の鼻孔が、必死に逃れようと広がり、同時に、空気を求めて女の匂いばかりを吸い込む。美沙は、震える声で、短く囁いた。
「これが……私の、今の匂い。あなたのせいで、夫の前で、こんなに濡れてる。覚えておいて」
弘樹は、自分の中で怒りが爆ぜるのを感じた。もう、急かされるように背筋へ何かが走る。彼は、バイブのスイッチを切り、香川の肛門から、ぬぷ、と音を立てて引き抜いた。男の窄まりは、閉じ切れず、薄く口を開いていた。縁から、透明に近い粘液が一筋、シーツへ垂れていく。
弘樹は、美沙の手に握らせていたローションを、自分の性器へ惜しみなく垂らした。冷たい液体が、指の腹を伝い、怒張した幹を濡らしていく。十分に濡れた先端を、香川の開いた肛門へ、押し当てた。熱い。予想の三倍は熱い。その熱だけで、下腹の奥が煮えるようだった。
「これで、最後だ。二度と、人の妻へ触れない体にしてやる。お前の腸に、俺の憎しみを植え付ける」
弘樹は、腰をためるように一度引いた。美沙が、スマートフォンを再び構え、震える指で録画ボタンを押す。香川が、足首を突っ張らせた。唇の端から、泡のまじった唾液が一筋、顎を伝う。
「ん゛、……ぅ゛」
くぐもった鼻声が、ネクタイを震わせた。次の瞬間、弘樹は、一気に腰を突き入れた。ぬぶ、という生々しい水肉の音が、部屋の空気を裂いた。香川の胎内が、弘樹の怒張を根元近くまで咥え込む。想像よりずっと狭く、熱く、容赦なく締め付けてきた。弘樹は、しばらく動けなかった。膝の奥が、甘く痺れ、頭蓋の芯がじん、と震える。
「く……ぅ」
弘樹の口から、自分のものとは思えない唸りが漏れた。男の体内の襞が、異物を拒むように収縮し、押し出そうとするたび、弘樹の怒りと射精感を煽った。美沙が、弘樹の背中へ、小さい手を這わせてきた。彼女の掌から、励ましと、暗い快楽とが、混ざって伝わる。
「あなた……この人、あなたのを、全部、飲み込んでる。うちの、怒りが、あの人の一番深いところに、届いてる」
弘樹は、腰を引いた。香川の肉が、逃がすまいと絡みつく。それを無理に剥がし、また、ぶちゅり、と埋める。ぬちゅ、ぬちゅ、と繋がる部分が、複雑な水音を立てた。香川の背中が、汗で滑り、ベッドのシーツを波打たせる。香川の顔は、涙と、美沙のふとももの下で、苦痛なのか、それとも別のものか、見分けのつかない表情に歪んでいた。
「お願いします、もう、やめて……俺が、悪かったから……!」
ネクタイの下で、香川の必死の謝罪が、潰れた塊りとなって跳ねた。弘樹は、その言葉を、耳の奥で甘い愉悦に変えた。
「聞こえねえな。何を言ってるのか、はっきり言えよ。喉の奥まで、お前の声を聞かせろ」
弘樹は、片手で香川の後ろ首を掴み、腰を深く打ちつけた。ずぶ、ずぶ、と、怒りの幹が男の直腸を割り開く。香川の肛門は、もう抵抗する力をなくし、弘樹の形にめくれ上がりながら、ぬかるみのように咥え込んでいた。弘樹の腰が、リズムを刻むごとに、美沙の瞳の奥がぎらぎらと光る。
「なあ、美沙。お前の見てる前で、この男の身体を、俺の欲望で満たしてる。辛いか? 吐きそうか? それとも……」
弘樹は、美沙の手首をつかみ、自分の汗ばんだ首筋へ導いた。
「お前も、ここに触れて、確かめてみろ」
美沙の指が、弘樹の喉仏を、そっと撫でる。震えていた。その指が、鎖骨のくぼみへ滑り、ワイシャツの汗を含んだ胸元へ下りていく。弘樹の心臓が、骨の上で、激しく跳ねていた。美沙の目が、涙の膜を張ったまま、弘樹を愛おしげに見つめる。腰を動かすたび、香川の膝が、二人の影を床へ揺らした。
「あなた……私も、触って。あの人の目の前で、私のこと、触って……私、もう、怖くない」
美沙は、弘樹の手を取ると、自分の太腿の内側へ持っていった。湿り。柔らかさ。その先に、汗と女の汁で、花びらが重なり合っている。弘樹は、腰の動きを止めずに、妻の肉襞を指でなぞった。くちゅ、とそこが鳴いた。香川の顔が、真下で、その雫を鼻先に受けている。美沙の腰が、男の上で、ほんの僅かに淫らな弧を描いた。
「これが、夫の妻だ。香川。お前が穢した女は、今、お前の目の前で、お前を犯す夫の手で、満たされてる。その匂いを、死ぬまで忘れるな」
弘樹の腰が、激しさを増した。くちゅ、ずちゅ、ぬぷ、という淫靡な音が、狭い部屋に反響する。香川の口を塞ぐネクタイが、びしょびしょに濡れ、黒い絹の色を、赤黒い光へ変えていた。香川の四肢は、がくがくと痙攣し、自分ではもう、尿を止めることすらできず、床のあたりへ薄い水溜まりを作り始める。
「出すぞ。お前の一番奥に、俺の復讐を、とくと刻んでやる」
弘樹は、美沙の濡れた下腹部へ、自分の左手を重ねた。美沙の右手が、その上に重なった。二人の指が、絡み合い、香川の身体を貫く律動へ、力を与えた。香川の腸が、いや、いやと蠢くたび、弘樹の睾丸が、熱く持ち上がっていく。
「受け止めろ。そして覚えておけ。お前が妻に流した精の何倍もの恨みが、今、お前の中に積み上がる」
弘樹の唇が、耳の奥で、そんな言葉を紡いだ。深く、一番深い場所まで怒りを埋め込み、彼は、腰を止めた。腹の底から、熱い塊りが、取り返しのつかない勢いで駆け上がってくる。
「う、お……ッ」
どく、どく、と彼の精が、香川の腸内へと吐き出されていった。熱い奔流が、男の肉を焼き、弘樹の背骨を、甘い震えが駆け抜ける。虚脱感と、それ以上の征服感が、彼の頭を朦朧とさせた。美沙が、泣きそうな声で、夫の腕に縋った。
「弘樹……私、見てたよ。全部、目に焼き付けた」
弘樹は、ゆっくりと腰を引き、香川の身体を解放した。引き抜かれた拍子に、ぬるついた白濁が、開きかけた肛門の縁から、だらしなく溢れてくる。香川の足が、最後の啼き声を上げるように、数度、跳ねた。
美沙は、香川の顔の上から、静かに下りた。そして、そのまま、男の顔へ向かって、花びらの膨らみを突き出すように跨り直した。尿意を促す。彼女の唇が、冷たく囁いた。
「私達を不幸にしたのよ。私の、この身体から流れるものを、あなたの顔で洗わせてもらうわ。願い事なんて、もう聞かない」
美沙の下腹部が、小さく痙攣した。しゅう、という、かぼそい水音が、香川の頬を打つ。黄色がかった液体が、男の顔を濡らし、目のくぼみへ溜まり、鼻の頭を伝って、シーツへ染み込んでいく。香川は、声を上げられないまま、尿に咽せ、涙と小便と唾液を、同じ顔に流していた。
「お前の負けだ。二度と、俺たちの前へ現れるな。もしこれが漏れたら、会社の連中が、どんな顔でお前を見ると思う? 女を食い物にしてきた男の、泣き顔と、尻から精を垂らす写真だ」
弘樹は、美沙を支え起こし、スマートフォンの画面を、香川の眼前いっぱいに突きつけた。そこには、無残な姿の香川が、何枚も、はっきりと写っていた。香川は、濡れた顔を横へ振り、噛まされたネクタイの下で、あわれな謝罪の声を、繰り返した。
「も、やめて……もう、なにも、しないから……お願い……だから……」
弘樹は、ネクタイを解いてやった。香川が、むせ返り、大量の唾液と胃液を、シーツの上へ吐き出した。それから、香川は、手足を縛る革ベルトを外された。だが、全身の力が抜けて、起き上がれない。弘樹は、美沙の肩を抱き、香川の鞄からスマートフォンを抜き取った。
「暗証番号は」
香川は、震える声で、番号を口にした。弘樹は、画面を操作し、美沙の写真と動画のデータを削除させた。一枚残らず。ユーザーのゴミ箱からも消し、完全に削除させた。香川は、その間、泣き続けていた。恥辱と、失禁と、精液の匂いに塗れながら、年下の同僚夫婦の前で、一筆書かされた。
「俺は、斎藤美沙へ、二度と近づきません。会社でも、私生活でも、接触しません。破ったら、何をされても構いません」
弘樹は、その紙を折り畳み、自分の胸ポケットへ仕舞わせた。香川の携帯と、記録用のスマホは、別々に確保した。美沙は、乱れたワンピースを直し、香川の枕元に立った。彼女の唇は、紅茶の色よりも薄く、しかし、生気の通った強い曲線を描いていた。
「あなたは、今から、一人で片付けて。私達は帰る。声を上げても、逃げても、無駄よ。写真は、私達が持ってる」
美沙の言葉に、香川は、絨毯の上で、両手を畳みこむようにして、うなだれた。弘樹は、黒いバッグを背負い直し、妻の手を引いて、ホテルの部屋を後にした。
帰り道、雨が降り出していた。街灯の光が、濡れたアスファルトに溶けて、にじんだ。弘樹は、美沙の肩を抱き、駅までの暗い道を歩いた。美沙の髪に、雨のしずくが数粒、絡まっている。彼女は、弘樹の腕に体を寄せ、何度も、深い息をついた。
家に着くまで、二人とも、言葉を交わさなかった。玄関の鍵を開ける手元を、美沙の小さい掌が、背後からそっと包んだ。
「一緒に、お風呂へ入って。今日の、匂いも、記憶も、洗い流したい。あなたと一緒じゃないと、私、まだ震えてる。悔しさと……よくわからない熱で、手の先まで」
美沙の声は、泣き笑いのようでもあった。弘樹は、振り返って、美沙の前髪をかき上げた。目の縁が、かすかに赤い。その瞳に、自分と同じ、昏い水の底が映っている。彼は、コートを脱ぎ、風呂場の灯りを点けた。
二人でシャワーを浴びた。細い湯が、互いの肩を打ち、白い湯気が、狭い脱衣所まで流れていく。弘樹は、美沙の背中を、石鹸の泡を乗せた手で擦った。柔らかい彼女の背骨が、指の腹に浮く。美沙は、陶器のように白い肌の中央を、弘樹に預け、首を反らせた。
「弘樹。お尻に……触れて。今日、ようやく、あの呪いが薄れた気がする。あなたなら、私の恥ずかしいところも、全部、好きにしていいのよ」
美沙は、両手を壁へついて、腰を引いた。弘樹の指が、ぬるついた彼女の窄まりへ沈んでいく。美沙の背中が、湯の熱さとは違う痙攣を、小さく繰り返した。彼女は、右手を後ろへ回し、夫のものへ指を絡めた。まだ湯に濡れた怒りが、彼女の掌で重く反応した。
「二人の夜は、まだ終わってないよ。あの男の上で見たあなたの背中を、私、この先も、忘れない。憎かった男の身体に、あなたの私への気持ちを、出してくれたんでしょう」
弘樹は、答えず、鼻を彼女のうなじへ埋めた。シャンプーと、汗と、雨と、女の熟れた匂いが、鼻に満ちる。指を浅く、そして深く、彼女の後ろへ挿し入れた。美沙の口から、湯の音に混じって、あえかな吐息が漏れた。二人は、その場所で、指と性器を握り合い、泣き笑いに似た静かな呼吸を重ねた。
湯船に浸かる頃には、外はすっかり暗くなっていた。美沙は、弘樹の腕の中で、瞳を閉じ、赤子のように湯へ体を浮かしていた。弘樹は、妻の腹へ手を当てた。その下に、未来の、曲がりくねった希望が、微熱のように宿り始めている気がした。
「明日から、香川は、会社で俺の顔を見るたび、青くなって頭を下げるだろう。だが、許しはしない。あの一筆と、写真がある限り、あいつは一生、俺達の指の上で怯える」
美沙は、湯の表面に手を浮かべ、静かに頷いた。
「それでいいの。私達、これで、やっと、あの日の続きの夜を、自分達のものにできる。今度こそ、あなたと二人で」
弘樹は、美沙の手を引き寄せ、指を絡めた。湯船の湯が、とろりと揺れ、浴室の灯りが、二人の影を、天井でひとつに溶かしていた。外の雨は、まだやまない。けれど、家の中の空気は、ぬるく、静かで、甘ったるい熱を帯びていた。弘樹は、湯に沈めた妻の太腿を撫でながら、復讐の火が、終わりの愛に変わろうとしているのを、静かに感じていた。
第6章 復讐を終えた夫婦が互いの肛門を弄び、あの男の媚びた挨拶と涙の落書きを笑い飛ばす朝

第6章: 復讐を終えた夫婦が互いの肛門を弄び、あの男の媚びた挨拶と涙の落書きを笑い飛ばす朝
湯から上がった美沙の肌は、白い蛍光灯の下でしっとりと蒸気を含み、肩から腕へかけての柔らかな曲線が、乳白色の光を吸い込んでいた。弘樹は、彼女の漉いた髪の先から滴る雫を、指で払うでもなく見つめていた。雫は鎖骨の窪みへ垂れて溜まり、呼吸のたびに零れ落ちそうで、けれども落ちない。浴室のタイルに、冷たい水音だけが、ぴちゃり、ぴちゃりと、二人の沈黙の上に置かれていた。
「明日は、いつもより早く出るね」
美沙の声が、ガラス一枚隔てた向こう側から響くようだった。彼女は薄いバスタオルを胸に押し当て、弘樹へ背中を向けないまま、脱衣所の鏡をちらりと見上げている。鏡の中の妻は、鼻の頭がまだ赤く、瞼のきわにだけ、雨に濡れた花の色が残っていた。
「会社に着くのが、少し怖い。でも、あなたとすれ違うあの人を、逆に見てやりたいの。あの、泣き腫らした顔を」
弘樹は、浴室のドアを後ろ手に閉めた。湿った空気が、脱衣所の少し冷えた空気と混ざり、二人の間に白く濁る。
「焦らなくていい。お前のペースで行け。俺は後から始業すればいいし、あいつがどんな顔で立っていようが、俺はもう揺れない」
美沙が振り返った。片手で胸元を隠したまま、その手首の白さが、夜の空気の中に、ひどくしなやかな枝のように見えた。濡れた前髪が、彼女の右目に几帳面な影を作っていて、光を宿した左の瞳だけが、弘樹をまっすぐに映していた。
「うん。あなたが居てくれるなら、平気」
言葉は短かった。けれども、その短さの中に、昨日までは決して辿り着けなかった芯が通っているのを、弘樹は確かに感じた。彼は美沙の手を取った。指が、互いの湯冷めの温度を分け合う。美沙の指の腹が、弘樹の親指の腹へ、小さく擦り寄せてきた。
二人は、洗面所の隣の狭い脱衣所で、向かい合うように立っていた。美沙の肩を伝い落ちた雫が、タオルの端を濃く濡らす。弘樹は空いている方の手を伸ばし、美沙の背中へ触れようとして、指先が、彼女の肩甲骨のあたりで、ひやりとした空気と、生きている皮膚の狭間に触れた。美沙の背が、小さく強張った。しかし、次の瞬間、彼女は自ら弘樹の指へ、身体を押しつけてきた。
「触って、確かめて。私、あなたの手の形を、体が覚えてるかどうか」
美沙の吐息が、弘樹の喉元へ、熱く湿って吹き上げられる。弘樹は、美沙の背中から腰へ、掌をゆっくりと滑らせた。タオルが落ちかかり、彼女の腰のくびれが、掌の中に、細过ぎず膨らみすぎず、まるで水を含んだ果実のように収まった。美沙の肌は、まだ湯の熱を芯に閉じ込めていて、触れた部分から、しっとりとした油膜のような温もりが、弘樹の手のひらを包んでいった。
「覚えてる、なんてものじゃない。お前の体は、俺の指先で、声を上げるくらいに、俺を憶えてる」
弘樹の低い声が、脱衣所の壁に吸い込まれていく。美沙は、弘樹の胸へ額を押し当て、彼の鎖骨の中央に、唇を寄せた。
「じゃあ……試して。私の一番、恥ずかしい場所。そこが、ちゃんとあなたを覚えてるか」
彼女の右手が、弘樹の左手首をつかんだ。そのまま、ゆっくりと自分の背中を滑らせ、腰の後ろの、汗と湯でしめったくぼみへ、弘樹の指を導いていく。弘樹の指は、美沙の割れ目の入り口を通り過ぎ、薄く蜜を浮かせた場所には触れぬまま、もう少しだけ奥の窄まりへと当てられた。指先に、美沙の身体がひくん、と呼吸を止める震えが伝わる。それでも、美沙は、弘樹の指を、自分の窄まりの上へ、強く押しつけた。
「ここ……あなたなら、入ってきても、怖くない。昨日から、ずっと、あなたに触ってほしかった」
美沙の声は、濡れて、掠れて、けれど不思議なほど明るい。弘樹は、妻の額に、自分の額をそっと重ねた。汗ばんだ皮膚と皮膚が、吸いつきそうな距離で、互いのまつげの影を映し合う。
「なら、今から、俺の指を咥え込んでおけ。部屋に戻って、電気を消して、ゆっくりと」
美沙は、小さく肯いた。首の動きに合わせて、濡れた髪が、肩の上で、水の鱗のような光を落とした。
やがて二人は、脱衣所の明かりを消し、冷えきった畳の廊下を、裸足のままで歩いた。足裏に、畳の目の古びた感触が、ひやりと絡む。寝室のカーテンの裾から、外の雨が、まだ微かな実の音を立てていた。弘樹は、美沙の腰を引き寄せ、二人で布団の上へ崩れるように倒れた。美沙の濡れた髪が、乾いた枕へ、くすんだ黒い花を咲かせる。弘樹は、美沙の太腿の間へ膝を割り入れ、先ほどから汗ばむ指先で、彼女の窄まりの周りを、ゆっくりと円を描くように撫でた。
「あ……、あなたの指、熱い。お風呂で触れてくれたのと、少し違う」
美沙が、首を反らして、天井の暗がりを見上げた。弘樹の指が、窄まりの皴の一本ずつを、潰すように押し潰し、力を抜いたところへ、指の先端を浅く差し込んでいった。ぬるり、と湯とは違う、女の不安と受容が混じった液が、指先を迎えた。美沙の腰が、ゆらりと浮き、弘樹の腕を求めて、空を掻く。
「動いていいか」
弘樹が尋ねると、美沙は声にならない吐息を、喉の奥で、ひり、と震わせた。彼女の両手が、弘樹の肩へ縋る。
「うん……いいの。でも、ゆっくり。私、あなたを、あの場所に、指の形のまま感じていたい。あなたが私の後ろに入ってくれてるって、思えるだけで、胸が塞がれて、それなのに、気が遠くなるみたいに気持ちいい」
弘樹は、指を第二関節まで沈め、そのまま、壊れものを扱うように、奥の柔らかい膨らみを、極めて浅く押し上げた。くちゅ、という、あまりに小さな水音が、二人の耳のすぐ近くで、淫らな秘密を囁いた。美沙の唇が、あえかな音を、暗闇の中に零す。それから、彼女は弘樹の手首を、自分の腹の下へ導いた。
「前も……触ってほしい。後ろと、前と、両方、あなたに埋められて、私、どこがどこか分からなくなりそう。でも、それでいいの。昨日の夜から、ずっと、そんな風にあなたと繋がりたかった」
美沙の言葉は、涙声のようでもあった。しかし、鼻声に湿ったその響きは、悲しみではなく、尊いほどの解放に裏打ちされていた。弘樹は、自由な方の指で、美沙の花弁を丁寧に割り開いた。溢れた蜜が、内腿を、ぬらぬらと光らせて伝う。彼は、その蜜を、後ろへ沈めた指へ、惜しみなく塗り広げた。美沙の窄まりが、弘樹の指を、ぎゅう、と引き締めて、離すまいとする。弘樹は、その締めつけの一つ一つが、妻の体が「もう逃げない」と語る声のように思えた。
「綺麗だ。お前の、後ろの穴。俺のが入ったところも、全部、綺麗だ。指に絡んで、熱い」
弘樹の言葉に、美沙は、くす、と笑った。悦びと恥じらいの境を失くした微笑みだった。
「そんなこと、初めて言われた。でも、嬉しい。あなたに、壊れたって思われないなら、私……」
美沙の太腿が、弘樹の指を、内側からしっとりと挟み込んだ。彼女の吐息が、くちゅ、くちゅ、と動く弘樹の指の動きに合わせて、短く、数え切れないほど砕けていく。弘樹は、美沙の腰を抱き直し、うつ伏せに返した。白い背中が、布団のくすんだ色の上に、沈みかけた月のように浮かぶ。肩から、腰へ、太腿へ。弘樹は、その曲線を、唇で、顎で、掌で、あちこちから吸うように辿った。美沙の尻の肉は、指を埋めるたびに、ふるん、と波打ち、彼女の口から「んんっ」という、鼻にかかった甘い声が溢れた。
「好きだよ、美沙。お前の、俯いたまま笑うところも、今、俺の指を、自分の穴できつく締めるところも。全部、俺の女房だ」
美沙は、布団へ顔を押し付けたまま、肩を震わせた。しばらく言葉にならず、それから、泣き笑いの壊れた調子で言った。
「私、あなたの奥さんで……よかった」
弘樹は、美沙の後ろの窄まりから、ゆっくりと指を抜いた。くち、と窄まりが、名残り惜しげに唇を窄める。そこへ、舌先を吸いつかせた。美沙の背中が、弓なりにしなった。
「あっ、それ、だめ……!」
美沙が、腰を逃がそうと、シーツを握った。だが、弘樹は、両手で妻の豊かな臀を掴み、窄まりの皺の一本ずつを、舌の腹で舐め上げ、唇で吸い、時折、先端を差し込みながら、彼女の肛門を、愛液まみれの口で、満ち足りるまで咥え込んだ。失禁するような、濁った感覚が、美沙の内腿の奥を走る。それでも、彼女は、逃げようとして逃げ切れない自分の体を、呆けたように見下ろしていた。
「入ってくる。あなたの舌が、私の後ろで、まるで、もう一本の指みたいに、意思を持って、動いてる。私……頭が、すごく変。幸せなのに、体が、ばらばらになりそうなの」
弘樹は、顔を上げた。唇の端が、美沙の蜜で、うっすらと光っている。彼は、そのまま美沙の上に覆い被さり、硬く重くなった男自身を、彼女の窄まりへ当てた。先端が、開ききった窪みを、ぬるぬると滑る。美沙は、腰をわずかに浮かせ、弘樹の形を、自分の柔らかな暗がりで受け止めた。
「挿れても、いい?」
弘樹が、なぜか、確かめるように言った。美沙は、首を横に振る仕草をしたが、それは拒絶ではなかった。涙の膜を張った瞳で、弘樹を振り返って、頷いた。
「あなたなら、どこでも、いいの。今日は、一番奥で、あなたを下から支えたい」
弘樹は、妻の窄まりを手で押し広げ、怒張の先を、ぬちゅ、と浅く飲み込ませた。途端に、二人は同時に嘆息した。男の慟哭のような、女の泣き声のような、そんな呼気が、静かな夜に混じっていく。少しずつ、指を沈めるよりも、もっと生々しく、もっと決定的な肉の摩擦が、二人を硬直させた。美沙の後ろの穴は、弘樹の形を、深く、深く、呑み込んでいく。弘樹の睾丸が、美沙の割れ目に触れるほどまで、埋まってから、二人は、長く抱き合った。
「動くよ」
弘樹が短く告げ、腰を引いた。ずりゅ、と内壁が、弘樹を逃がすまいと、ひだを総動員して追ってくる。ああ、これが、今日の美沙なのだ、と弘樹は思った。昨日の夜まで、遠い場所で泣いていた妻の身体が、いま、夫の性を、内臓の一番深いところで、口づけのように咥えている。弘樹の怒りは、もう、そこには影もなく、ただ、どうしようもなくあたたかい加虐と、庇護欲と、背徳の入り混じったものだけが、彼の背筋を震わせていた。
「あっ、あなた……奥、こすれて……お腹の、すごく近くで、音がしてる。私の、お尻から、こんな声を出させてる。それなのに、胸が、きゅうってするの」
美沙が、掠れた甘い声で叫ぶ。彼女の肛門と弘樹の性器の間で、くちゅ、ぐちゅ、という粘り気を帯びた音が、絶え間なく鳴り続けている。布団が擦れる音と、二人の激しい息の音が、部屋の静寂を砕いた。美沙は、自分の陰核へ自分の指を伸ばし、乱暴に潰しながら、もう片方の手で、弘樹の腰を自分の胎内へ、もっと、もっとと引き寄せる。彼女の背中に浮いた汗が、暗がりの中でも、陶器のように白く光って見えた。
「弘樹さん、私、もう、自分でも、何が気持ちいいのか分かんないくらい、奥も、前も、あなたでいっぱい。頭のてっぺんから、爪先まで、ぜんぶ、あなたのを、覚えようとしてる。だから、好きにしていいよ。私、あなたに、一番深いとこまで壊されたいの」
その言葉が、引き鉄だった。弘樹の腰が、止まらず、速まり、大きくなる。ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。美沙の尻肉が、彼の下腹に激しく打ちつけられ、ふるん、ふるん、と揺れては、刺し込むたびに、内腿へ伝わる。美沙の口から、意味を失った声が、短く途切れ途切れに迸る。泣いているのか、喘いでいるのか、笑っているのか、すべての境界が、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。
「く……美沙、出す。動くな。いや、動いて。俺を、お前の後ろで、搾り取るみたいに……!」
弘樹の声は、苦しげに震えていた。美沙は、布団を蹴るようにして、自分の腰を小刻みに動かし、肛門を、ひく、ひく、と締め上げる。弘樹は、美沙の窄まりの奥へ、一際深く、熱い欲望を吐き出した。びゅっ、どく、という、沈んだ射精の奔流が、彼女の腸を、まるで生き物のように打った。美沙の体が、痙攣し、彼女の花弁からも、透明な液が吹き出すように溢れた。
「んうぅっ……あつい、あなたのが、私のお腹の、ずっと奥で、弾けてる。私も、ああ、変なところが、すごく……」
美沙は、とうとう、肩を落として、布団の上に突っ伏した。弘樹も、彼女の汗まみれの背中に覆い被さるようにして、深い息を繰り返した。接合部から、ゆっくりと、二人の体液が、白く濁って、太腿を濡らしていく。外では、まだ雨が降っていた。二人は、しばらく動けなかった。弘樹が体を退かすと、美沙の窄まりは、くぱ、と慎みなく口を開け、弘樹が注いだものを、とろりと垂らしていた。美沙は、それを指で拭い、鼻の先へ運んで、小さく笑った。
「変態でしょう、私たち。復讐の次の夜に、夫婦で、こんな場所で繋がってるなんて。でも、おかしくなったんじゃないの。全部、私が選んだの。あなたと二人でいられるなら、どこを触られても、どこを挿れられても、それでいいの」
弘樹は、美沙の前髪を丁寧に払い、汗で張り付いた額にくちびるを押し当てた。
「おかしくて結構。お前と、こうして朝まで、指を、身体を、何度でも確かめ合えるなら、あの男から奪い返した意味がある」
二人は、言葉を重ねることもなく、布団の中で手を握り合った。湿った肌と、冷え始めた空気と、白濁の匂い。それら全部が、今は、ひどく穏やかに、二人の家の匂いとして存在していた。
朝になると、雨は上がっていた。薄い陽が、カーテンの繊維を通して、畳へ、淡い金色の縞を作っていた。美沙は、いつもより三十分早く起きて、ガスコンロの火を点けた。味噌汁の沸く匂いが、居間から台所へと流れる。彼女は、目玉焼きの黄身が潰れないよう、菜箸で丁寧に、白身の縁へ醤油を数滴だけ落とした。
「あなた、朝ごはん。あの、新しいランチョンマット、昨日届いたから、使ったの」
弘樹は、寝間着のままで居間へ出た。食卓の上で、淡い水色のランチョンマットが、朝の光を浴びて、新品の糊の匂いを、ささやかに放っている。美沙の声は、昨日までより、一段、明るい。その明るさが、弘樹の胸の奥、暗く沈んでいた場所へ、するりと水のように流れ込んで、澱を溶かしていくようだった。
「香川が、今日、どう出るか。賭けてもいい。社員証を胸に提げたまま、廊下で俺とぶつかるたび、頭を下げるさ」
弘樹がそう言うと、美沙は、フライパンから目玉焼きを皿へ滑らせながら、小さく肩を揺らして笑った。
「また意地悪。でも、私も、一度でいいから、その情けない顔を、この目で見てみたいわ。会社の入り口で待ち伏せしてるかも」
二人は、向かい合って箸を取った。美沙の爪先に、まだ昨夜の痕が、かすかに赤く残っている。弘樹は、その足を、己の足でゆっくりと挟み、撫でた。美沙は、目玉焼きを口へ運ぶ手を止め、下を向いて笑った。
「食べづらいでしょう。あなた、誰かさんみたいに、朝から足で悪戯しないで」
「誰かさん、ではないな。結婚指輪を嵌めた、ちゃんとした亭主だ」
「そうでした。失礼しました」
二人は、静かに、しかし、かつてないほど柔らかな空気をまとって、朝食を噛み締めた。食卓の隅で、スマートフォンが一度だけ震え、画面が光った。見ると、会社の同僚である高橋結菜からのメッセージだった。
「おはようございます。今日、香川さん、なんだかすごく静かです。いつもなら女の子にちょっかい出してるのに、朝から一人でぼーっとしてて。熱でもあるのかな」
弘樹は、その画面を、美沙にも見せた。二人は、無言のまま、顔を見合わせた。そして、美沙が、堪えきれずに口元を押さえた。弘樹の腹の底から、声にならない笑いが込み上げる。屈辱の重さが、ようやく、復讐の重さに変わって、今度は、笑い飛ばせる軽さへと姿を変え始めている。弘樹は、返信を親指で打った。
「そうか。無理しなきゃいいな」
美沙が、その文面を覗き込んで、声を潜めて言った。
「あなた、意地が悪い。でも、私、もっと、あなたの意地悪を、見たかった。私たち、これで、やっと、あの男と、違う時間を進めるのね」
弘樹は、美沙の手を食卓の上で握った。彼女の手のひらには、昨夜、弘樹の背中を掻いた引っ掻き傷が、かすかに残されている。それが、二人だけの、新しい紋章のように思えた。
「今日の夜、また、ゆっくり、シャワーを浴びよう。今度は、お前の後ろに、指を入れて、中で曲げてもいいか、聞いてからにする」
美沙は、弘樹の指を、自分の指に、きゅう、と絡ませた。窓の外では、乾いたアスファルトに、晴れ間の光が、うすく明るく広がっていた。二人は、歪な形のまま、そっと微笑み合った。まだ、香川の影が、どれだけ二人の生活に残るかは分からない。けれど、昨日と、今朝と、その間の、血と涙と体液に塗れた時間が、確かに夫婦の裾野を、どこにも行き場のない愛で満たしていた。
夕方、弘樹が帰宅すると、美沙はリビングのソファで、スマートフォンを両手にしていた。画面には、隠しフォルダへ移した香川の写真が、何枚も並んでいた。剃り落とされた下腹。マジックで書かれた「変態」の文字。涙と尿で濡れた、男の顔。弘樹は、美沙の隣へ座り、彼女の肩を抱いた。
「眺めてたのか」
美沙は、頷いた。
「うん。あの日のこと、私、怖くて、思い出せなかった。でも、今は、この人が泣いてる顔を見ると、心が少しずつ、静かになってくの。これが、私の心を、まだ縛ってるあの人の、本当の姿なんだなって」
弘樹は、自分のスマートフォンを取り出した。加害者の顔だけが写っている一枚を選び、画面の上に指を置いた。美沙が、その指に、自分の指を重ねた。
「消しても、いいよね。隠しフォルダには、別の、もっと、二人で笑える写真を、入れたいから」
美沙の声は、穏やかだった。弘樹は、美沙の、その静かな強さを、まぶたの裏に焼き付けた。二人の重なった指が、画面上から、香川の顔を、ゴミ箱のアイコンへ、ゆっくりと滑らせていった。ぽん、という、小さな削除の電子音が、静かな部屋に、一度だけ鳴った。画面の向こうで、男の輪郭が、粉のように、消えていった。
「子供、欲しいな」
美沙が、ぽつりと、うつむいたまま言った。弘樹は、彼女の肩を、もう一度、強く抱き寄せた。窓の外は、まだ明るい。夕焼けが、カーテン越しに、二人の影を、壁の上へ長く伸ばしていた。二人は、その影の上で、手を重ねたまま、しばらく、何も言わなかった。
第7章 あとがき 妻・美沙が胸の奥に封じた快楽の記憶――香川と後輩二人に口と膣と肛門を同時に貫かれ、自ら放尿して悦んだ、夫には言えない淫らな夜

夜の帳が、リビングの窓ガラスを藍色に塗り替えていく時刻だった。夕餉の後片付けを終えた美沙は、シンクの前に立ったまま、泡の消えたぬるい水流に指先をさらしていた。カーテンの向こうでは、昼間の晴れ間が嘘のように雲が低く垂れ、遠い街路灯の明かりが、雨を含んだ空気の中で滲んでいる。弘樹はソファに座り、つけっぱなしのテレビから流れる天気予報の声を、どこか上の空で聞いていた。
「美沙、まだ片付いてるのか。こっちへ来いよ」
弘樹の声が、壁に反響して、彼女の肩のあたりへ届く。美沙は蛇口をひねり、水道の栓がきゅ、と音を立てると、布巾で手を拭きながら振り返った。濡れた指先が、ひんやりとした空気に触れて赤みを帯びている。彼女は、花柄の部屋着の裾を正しながら、少し首をかしげた。
「今いくわ。あなた、テレビの音、小さくして。今日の予報、また雨ですって」
「そうか。梅雨が近いんだな」
美沙は、弘樹の隣へ腰を下ろした。ソファのばねが、ぎしり、と二人分の重みを呑み込む。彼女の太腿が、弘樹の腿にほんの少し触れて、部屋着の薄い生地越しに、生きもののようなぬくもりを交換した。
「ねえ、あなた」
美沙が、テレビのリモコンに手を伸ばす。画面が消える。代わりに、部屋の中が、雨の匂いと、食器を洗った後の水気と、互いの呼吸だけに満たされた。
「明日、お休みだけど、どこか行きたい? それとも、家でゆっくりする?」
弘樹は、美沙の肩を抱き寄せた。鼻先が、彼女の髪の付け根へ沈む。シャンプーの残り香。洗い物の後に触れた台所用洗剤の、かすかな青い匂い。そして、その二つの下から、女の身体が一日の終わりに放つ、淡くて甘い人いきれのような匂いがした。
「どっちでもいい。お前が選べ」
美沙は、夫の腕の中で、少しだけ身じろぎした。胸の奥、日々の穏やかさで覆い隠している深い場所に、ちくり、と小さな棘が刺さる感触がした。嬉しいのとは違う。苦しいのとも、喉の奥の痛みとも、少し違う。夫の指先が、自分の肩を、ただそこにあるものとして包んでいる。そのあたたかさの下で、彼女は、秘められた記憶が、音もなく呼吸を始めるのを感じていた。
「私……今日、会社の帰りに、花屋さんへ寄ったの。ヒペリカムと、小さい薔薇。台所の、あの空き瓶に活けようと思って」
美沙は、弘樹から体を起こし、買い物袋から、薄い紙にくるまれた花束を取り出した。赤い実のようなヒペリカムと、淡いクリーム色の薔薇が、ひんやりとした紙の中で眠っている。彼女は、花を一輪ずつ、食器棚の前に置いた透明の瓶へ挿していく。挿すたびに、茎の切り口から、青臭い草の匂いが、ふわりと夜の空気へ滲んだ。
「綺麗だな。お前が選ぶ花は、どうしてこう、落ち着く色ばかりなんだろうな」
弘樹は、妻の後ろ姿へ向かって、小さく笑った。美沙の首筋に、黒髪が落ちて、花を生ける指先だけが、リビングの灯りを受けて、陶器のように白く浮かんでいる。その指の動きを見つめながら、美沙は、心の澱のことを思った。
この指は、知っているのだ、と。
美沙は、瓶の中へ、最後の一輪を深く挿した。水の表面が揺れて、茎の影が、瓶の底で踊る。彼女はもう一度、夫の隣へ戻った。今度は、もっと深く寄り添って。
「あなた、私、昔から、好きな色が変わらないの。小さい頃から、こういう、花びらの縁が透けるような色ばかり。母に、大人しすぎるって言われたわ」
弘樹が、美沙の手を取った。冷えた彼女の指を、自分の掌で包む。指の腹で、一本一本、形を確かめるようになぞる。
「大人しいんじゃない。お前には、お前の濃さがある。俺は、それを知ってる」
美沙の胸が、とくり、と鳴った。弘樹は、何でもない顔をして、妻の指をさわっている。けれど、その言葉の熱は、彼女の秘密の場所を、そっと撫でていく。夫の言う「濃さ」と、彼女が隠している「濃さ」は、果たして同じものだろうか。
美沙のまぶたの裏に、あの夜の映像が、突然、罅われたダムから水が噴き出すように、溢れ出してきた。
三か月前。
香川に呼び出されたホテル。番号も覚えていない、五階の角部屋だった。扉を開けると、部屋の中央に、二人の若い男が立っていた。香川の後輩だと紹介された。一人は、細いけれど背が高く、眼鏡をかけていた。もう一人は、丸顔で、汗をかきやすそうな、脂ぎった額をしていた。その二人が、美沙の身体を、上から下へ、服を剥ぐように見つめてきたのを、彼女は鮮明に覚えている。
香川が、美沙の腕を掴んで、白いシーツの敷かれたベッドへ放り投げた。ワンピースの背中のファスナーが、男の爪で乱暴に引き下ろされ、肩ひもが腕の関節を縛る。冷房の風が、露わになった肩へ吹きつけた。男二人の匂いが、酒と煙草と若い汗の匂いが、むっ、と美沙の鼻孔を塞いだ。
美沙は、台所の蛇口から滴る水のことを思おうとした。食器を洗う時の、スポンジの感触。夫のYシャツを干す時の、朝の光。しかし、瞼の裏で、それらの記憶は、幾重にも重なる手に塗り潰されていく。
そして、美沙は、夫には、あの夜の真実を、何ひとつ告白していないのだった。
夫に語ったのは、乱暴されたという事実。香川に強要され、抗えなかった、という形だけの輪郭だった。けれど、その輪郭の中で、自分の肉体がどれほど淫らに反応したか、幾度も幾度も、肛門の奥まで熱く灼かれて、女の器官が男たちを啜ったか。美沙は、夫の前で、哀れな犠牲者の顔を作った。涙を見せ、震える声で香川の蛮行を断じた。そうすることで、自分の身のうちに芽生えた倒錯した快楽を、深く深く、胸の奥の泥へと沈めたのだった。
贖罪の気持ちは、日々の生活の中で、料理を手早く済ませることや、夫の背中を丁寧に洗うことに姿を変えた。けれど、どんなに尽くしても、あの夜の熱は消えない。むしろ、弘樹の澄んだ優しさに触れるたびに、あの男たちの、ねとりとした舌と指の感触が、表皮の下から甦ってくるのだった。忘れられない、と、唇の内側で何度も繰り返す。忘れられない、のではなく、忘れることを、身体が拒んでいるのだった。
「口なら、ここ」
香川が、美沙の髪を掴んだ。美沙の頭が、力任せに男の股間へ引き寄せられる。香川が、すでに硬く反り返った性器を、美沙の唇のすぐ前に突きつけた。カビ臭い、乾いた箱の匂いが、亀頭の先から熱と共に立ち昇った。彼女は、無理やり唇を割られ、「しろよ」と顎をこじ開けられた。口の中へ、それが、ずぶり、と滲みてくる。苦い。息が詰まる。舌の上を、男の表皮が、血管の浮いた温度で埋めていく。
同時に、背後で、あの細い眼鏡の男が、美沙の太腿を割った。下着を外された。露わになった彼女の女陰に、男の舌が、ぬめりと這い入る。おぞけだった。なのに、身体は、確かに、くち、と音を立てた。
男の舌が、美沙の濡れた襞を、下から上へ、れろ、と舐め上げる。ちゅ、ちゅ、と、陰核の包皮を吸われるたびに、腰の奥が、びく、と小さく跳ねた。羞恥のあまり、太腿を閉じようとした彼女の内腿を、眼鏡の男の指が、ぐ、と押し広げる。唾液と愛液が混ざり合い、男の口元から、ぬちゃぬちゃと水音が立つ。美沙の女陰は、男の口淫のたびに、くちゅ、くちゅ、と、貪るような音を返した。陰唇を舌で押し広げられ、ぬめる襞の奥を、舌先でぐりぐりと掻き回される。曝け出された肉が、空気にふるりと震えた。
うしろが、なにかを欲しがっている。彼女の肛門へ、油を注いだ指が、ぬるりぬるりと侵入してきた。初めは、人差し指で、幾度も円を描く。それから、中指。二本が同時に、関節の深さまで沈んで、内側の壁を、下から押し上げるように動いた。指の腹が、直腸の内壁を掻くたび、前の肉が、ふたたび、くぷ、と蜜を口にした。眼鏡の男の舌が、それを、ちゅる、と啜る。
「美沙のここ、もう、てめえのものじゃねえな。二本咥えて、くちくち鳴らしやがる」
香川の声が、美沙の髪を揺らした。同時に、彼女の口の中へ、香川の腰が、ぐ、と奥まで打ち込まれる。喉の入り口が、みぞおちからせり上がる吐き気を訴えた。それなのに、美沙の舌は、ぬるぬると男の裏筋を辿っていた。目は見開いたまま、目の前の男の腹の下生えが、自分の唇をくすぐるのを感じていた。
気がつくと、丸顔の男が、美沙の前に裸で座っていた。彼の性器も、馬鹿みたいに反り返っている。美沙の空いている左手に、その生温かい棒が握らされた。指の隙間から、亀頭がにゅ、と顔を出し、先端から透明な汁を垂らした。美沙は、何を思ったのか、その汁を親指の腹で、ぐり、と男の尿道口へ擦り込んでいた。海綿質を握る指に、男の鼓動が、どく、どく、と伝わってくる。生臭い、若い男の匂いが、掌の熱と共に立ち昇る。その匂いを嗅いだ瞬間、美沙の子宮が、きゅう、と疼いた。
「美人の奥様、結構乗ってきてんな」
香川が、嘲笑うように言った。三人の男の笑い声が、美沙の裸身を、耳の奥から震わせた。彼女は、その笑い声の中で、自分の下腹部が、ずくずくと熱を持っていくのを、確かに感じていた。こわい。汚い。助けてほしい。なぜ、身体が、そんな記憶ばかり拾ってしまうの。
やがて、美沙は、長い身体を反転させられた。四つん這い。両腕を男に押さえつけられ、腰だけを持ち上げた、雌の姿勢だった。目の前には、鏡台の鏡。薄暗い間接照明の下で、自分の顔が、濡れた黒髪の向こうに、淫らに上気している。その後ろで、香川が、美沙の膣口へ、怒張したものを、先端をくち、と押し込んだ。ずぶり、ずぶりと、男の肉茎が、ぬめる女陰を沈み込み、最奥の肉壁を、ごり、と突き上げる。彼女の膣内から、押し出された愛液が、男の陰毛を濡らし、ぬちゅ、ぬちゅ、という音が、彼女自身の耳にまで届いていた。
「ん……っぁ」
美沙の口から、短い啼き声が漏れた。同時に、眼鏡の男が、美沙の口へ、その細長い性器を突き入れてきた。塩辛い。胃が、きりきりと縮む。四つん這いの膝が、シーツの上でずれ、汗が、尻の臀肉を伝っている。もう一人の男の指が、まだ誰にも犯されていない、いや、さっき指を入れられた肛門へ、ぬと、と押し込まれた。直腸の襞を、指の腹で、くにゅ、と押し広げられる感覚に、美沙の背筋が、ぞわぞわ、と粟立った。
「これから、三本入るぞ。奥様は、いくつ穴があるか知ってるか? 数えてみろよ」
香川の声が、腰を打ちつけながら降ってくる。美沙の口からは、男のを咥えたまま、くぐもった声しか出なかった。うしろの穴へ、今度は、性器ではなく、冷たい玩具のようなもの。細長くて、先の尖った、振動する器具。それが、ぬちゅ、ぬちゅ、と飲み込まれていく。直腸の壁を、低い振動音が這い回り、その震えが膣の奥へも響いてくる。前と後ろと、二つの肉の管が、ひとつの震えの中で、どろりと溶け合っていくようだった。
唇も、下も、後ろも。三つの穴が、同時に、男たちの熱と硬さで埋まっていく。美沙の身体は、その中心で、めちゃくちゃに振動していた。声にならない、ふひゃ、という息。鏡の中の女が、目を潤ませ、だらしなく口を開けて、男の先端をしゃぶっている。その顔が、卑猥で、あまりにも艶めかしく見えた。
美沙は、ぐちゅぐちゅと、後ろから貫かれながら、自分の手を、誰よりも早く、自分の陰核へ這わせていた。触れた瞬間、目の前が白く弾けた。男の性器が、膣の奥の、あの、引っ掻かれると泣きたくなる場所を、幾度もえぐる。肛門の器具が、直腸の壁を、こりこりと押し広げる。唇を焼く熱。三つの穴から、逆流する快楽が、彼女の背骨を、ずたずたに駆け上がってくる。
「や、あ、あ、ん、んん……っ」
美沙は、自分の耳で、自分の声が、男の先端に吸い付きながら、女の額から絞り出すような調子に震えるのを聞いた。逃げ場のない肉檻の中で、彼女の身体は、男たちに蹂躙されながら、しらじらしいほど素直に、くる、くる、と何度も達し始めていた。
とうとう、香川が、美沙の膣の中で果てた。背筋へ、熱い粘液が叩きつけられる。子宮の奥で、男の精液が、どく、どく、と脈打つ。美沙の膣の内壁が、その熱を、吸い取るように、ひく、ひく、と収縮した。同時に、口の男が、美沙の喉の奥へ、ごぼ、と精を吐いた。苦い塊が、喉を落ちていく。せき込みそうになったが、男は腰を引き、白濁の残りを、美沙の舌の上へ、おし、と塗りつけた。口内に広がる、生臭い、海の澱のような味。その匂いと味が、鼻の奥から脳へ突き抜けて、美沙の太腿の内側を、ぬるり、と濡らした。
後ろの男は、なお、器具を動かしている。やがて、それを抜かれた。美沙の肛門が、くぱ、と名残の口を開いたその隙間に、今度は、生の男の熱が、ずぶり、と沈み込んできた。消化器官の入口を、他人の生殖器が、楔のように打ち込まれ、直腸の襞を、ずりゅ、ずりゅ、と擦り上げる。自分の意思とは無関係に、奥のほうの肉が、男の熱に吸い付き、甘く痙攣していた。その感覚に、美沙の内ももが、淫らに震えた。
「……だ、め……あ、あ、ああっ」
美沙の口から、精液の塊が、唾液と一緒に顎を伝った。彼女の髪を握っていた香川の手が、空いた方の手で、美沙の顔を無理やり鏡へ向けた。鏡の中の美沙は、もう、笑っていた。笑っていたのだ。ぐちゃぐちゃに汚れた顔で、三つの穴を男たちに献上し、自ら腰をくねらせて、笑っていた。
それから、美沙は、三人の男の前で、器を渡された。ガラスの浅い皿。香川に「ここへ出せ」と命じられる。尿意は、もう限界だった。美沙は、ちょうど男たちの輪の真ん中で、犬のように腰を落とし、皿へ向かって、しゅう、と放った。黄色く濁った液体が、ガラスの上で泡立つ。男たちの下卑た笑い声。香川が、その皿を持ち上げ、美沙の唇へあてがった。
「飲め。全部、お前が、今、自分の身体から出したもんだ」
美沙の唇が、ふるふると震えた。彼女は、瞳を閉じ、皿に鼻先をつけた。自分の尿の匂い。そして、生温かい液体を、ゆっくりと喉へ流し込む。男たちの股座が、それを見るだけで、また膨れ上がっていく音さえした。
美沙の顔から、涙が零れていた。けれど、それは、悲しみや、恥辱のためだけではない。なぜ、こんなに、と思うほど、彼女の身体は、深い悦びの淵で、どろりと溶けていた。許されない夜。助ける人もいない夜。その暗がりで、美沙は、確かに、自ら快楽の底へ、体ごと落ちていったのだ。
リビングのソファで、美沙は、はっと我に返った。鼻腔には、生けた花の青い匂い。肌には、夫のあたたかい掌。雨の気配。静かな自宅。あのホテルの、湿った空気は、もうどこにもない。
それなのに、美沙の太腿の内側は、しっとりと熱を持っていた。布地が、べったりと張り付く感覚。心の奥の、澱の場所から、あの夜の体液と、三人の男の匂いと、自分の放尿の温度が、むわりと立ち昇ってくる。膣の奥が、疼くように、きゅう、と収縮する。肛門の奥の肉が、あの器具の形を、まだおぼえているように、ひく、と蠢いた。唇の内側に、男たちの精液の塩辛さが、ありありと蘇る。洗い物をしていた指先が、ふいに、あの海綿質の熱を握り返しそうになるのを、美沙は、きつく手を結んで堪えた。喉の奥の、うう、という吐息が、危うく、夫の名前を呼びかける声に変わりそうだった。
「美沙? どうした、汗をかいてるぞ」
弘樹が、妻の額の髪を掻き上げた。美沙は、夫の手首を、そっと握り返し、涙を見せないように微笑んだ。
「ううん。花の香りが、鼻の奥で、むんとしただけ」
美沙は、弘樹の肩へ、もう一度、頭を預けた。窓の外で、風が、まだ雨になる前の湿りを含んで、カーテンの裾を、幽かに持ち上げる。彼女の胸の奥には、しん、とした暗い湖があった。何度、夫の腕の中で笑っても、何度、二人で明るい未来を口にしても、湖の水は、あの夜の熱をたたえたまま、静かに、その表面をきらめかせていた。この記憶だけは、口にはしない。夫の匂いの下に、あの夜の匂いが、今日も、ひっそりと息づいている。彼女は、瞳を閉じて、夫の鼓動を胸元に聞きながら、花の茎の匂いを深く吸い込んだ。幸福と、罪と、蜜のような快楽の残滓は、彼女の肉体の奥底で、今日も、どろりと、その花弁を閉じたまま咲いている。
登場人物
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斎藤弘樹 さいとう ひろき男性 ・ 28
外見: 短く整えられた暗い茶髪、黒目がちな目、華奢とも痩せぎすともつかない平均的な体格、背は高すぎず低すぎず、指先が細く神経質な印象。服装: よれた襟の白いワイシャツに紺のスラックスという会社員姿、営業時の薄いノートパソコン用鞄を持ち歩く。感情の浮き沈みが激しく、執着の強い性格。怒ると冷静さを失い声が震える。
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斎藤美沙 さいとう みさ女性 ・ 26
外見: 肩より長い黒髪を毛先だけ緩く巻いた柔らかな髪型、濡れたように光る茶色い瞳、白い肌、腰のくびれと柔らかく豊かな胸、太ももはむっちりとしていて指が沈み込む。服装: 花柄のゆったりしたワンピースとカーディガン、休日はロングスカート、下着は白や生成りのシンプルなもの。繊細で優しく、夫を深く愛する一方、快楽に抗えず倒錯を受け入れてしまう芯の揺らぎを持つ。
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香川淳弥 かがわ じゅんや男性 ・ 33
外見: 搔き上げた短い黒髪、ギラついた一重の目、浅黒い肌、厚い胸板と太い腕を持った乱暴な体躯、鼻梁が太く口元が常に歪んでいる。服装: 黒いポロシャツにチノパン、金のネックレス、革靴、オフィスでもラフな私服寄りの格好。女癖が悪く、支配欲と保身が強く、追い詰められると豹変する卑怯な性格。
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高橋結菜 たかはし ゆいな女性 ・ 25
外見: 明るい茶髪のセミロング、丸い黒目、小柄で華奢、肌は健康的な明るさで鎖骨が浮いている。服装: オフィス用の白いブラウスとグレーのタイトスカート、短めのパンプス。主人公の同僚で、加害者と親しく振る舞うが実は軽蔑している。快活で世話焼きだが、男の顔色を窺う処世術を持つ。





