ワタル君に会いたい一心で親に嘘をついた柚那が、白い照明の下で裸を撮影されアフターピルを飲みながら肛門性交まで受け入れた四ヶ月と、その後の逆誘惑
あらすじ
中学一年の柚那は、推しのYouTuberワタル君のオフ会で名乗ったXのアカウントをきっかけに、DMのやり取りから彼のマンションへ通うようになる。配信用照明の白い光の中で撮影され、身体を開かれるたびに、柚那の幼い心と熟れていく身体はちぐはぐに昂っていく。推しに捧げた身体はやがて呼ばれなくなり、傷を抱えた柚那の隣に、教室で自分を見つめていた同級生の気配が近づく。
第1章 ワタアメと名乗った瞬間

ワタル君に会える日は、朝から世界が違って見える。
朝から胸の奥がずっと泡立っていた。吹奏楽部の朝練習でクラリネットのマウスピースをくわえても、息の音ばかりが震えて、指先は楽器の冷たい銀の上を滑るばかりだった。昨夜から何度も畳み直した、友達から借りたフレンチガーリースタイルの白い上着と、裾の短いプリーツスカートが鞄の中で呼吸している。学校中の廊下を歩くたび、その薄い布の存在が背中に触れて、誰かに見られているような、それでいて誰にも気づかれたくないようなくすぐったさで喉が詰まった。
一時間目が終わるたびに教室の時計を見上げ、昼休みには屋上へ続く扉の前でぼんやりと空を仰いだ。十一月の空は青いのに風だけが鋭くて、短いスカートを履いた自分の脚を想像すると、まだ何も起きていないのに太ももの裏がひやりと冷えた。放課後になるまで、教科書の文字は全部ゆらゆらと揺れて見えた。
ようやく五時間目のチャイムが鳴り、柚那は誰よりも早く昇降口へ向かった。いつもの学生靴の固い音が、むき出しの廊下を跳ねて戻ってくる。部活の友達に声をかけられたが、「用事があるから」と言って、そのまま走るように駅への道を曲がった。空気は冷たく、耳の先が痛い。風に吹かれるたび、短く結んだツインテールの先が首の後ろをちろちろと撫でた。
駅のトイレの個室に駆け込むと、白い蛍光灯が無造作に落ちていた。錠を回す指が濡れていて、かちりと音を立てる。学生服を脱ぐと、冷えた空気が一気に肌を舐めた。借り物の白い上着はレースの襟がついていて、腕を通すと脇のあたりがほんの少しだけ窮屈だった。プリーツスカートを腰に当て、ファスナーを横に引くと、自分の指先の震えが金具に伝わって、かすかな音が立つ。短い、と思った。鏡の前に立つと、そこには見慣れない私がいた。パッツンに切られた前髪、焦げ茶の目、出るところはまだ出ていない胸、その胸よりずっとあとまで伸びた二本の脚。ツインテールの結び目が左右で少し高さが違う気がして、何度も結び直した。鏡の中の少女は、私なのに、まるで誰か別の、薄い布を一枚まとっただけの生き物に見えた。太もものあたりに青白い光が落ちて、素肌の表面がすべすべと光った。私はスカートの裾を指でつまんで、数センチ持ち上げた。鏡の中の足が、白くて長い。心臓の音がトイレ中に響いているみたいだった。
会場に着くまで、もう何も考えられなかった。電車の窓ガラスに映る自分を何度も盗み見て、そのたびに脚をすり合わせた。車内の暖房が熱くて、太ももの裏にうっすら汗の膜が張る。乗り換えを間違えそうになって、ホームを小走りに駆けた。駅から会場までは、続く流れに乗って、人の背中ばかり見ながら歩いた。
会場は思っていたより大きくて、天井からは刺すように白い照明が落ちていた。配信で見るワタル君の背景に映っているあの光──たぶん、あれに似ている。前の人の背中越しに歓声が聞こえ、空気は甘い香水と、配られたパンフレットの紙の匂いで少しむせた。列は長く、壁沿いに折れ曲がっていて、先頭はぜんぜん見えない。私はスマホを握ったままだった。画面には、自分で三日かけて作ったアカウント「ワタアメ」のホームが表示されたまま、ホームにはワタル君の投稿をリポストした青い光が並んでいた。親指で画面を何度ももたもたと撫でた。頬が熱くて、一度うつむくと前髪が視界を覆った。
列が進むたび、胸の奥がぎゅうっと音もなく縮んだ。前の人が握手をしてもらうために身を乗り出すのが見えて、そのたびに小さな歓声が漏れる。私の番が近づくと、喉がせり上がってきて、心臓が鎖骨のすぐ下で暴れた。ようやく、黒いパーテーションの向こうに、白いパーカーの肩が見えた。ワタル君だ。配信の画面で毎日見ていた輪郭が、実際に動いている。息が浅くなる。一歩、一歩、床を踏む感覚が遠い。
ワタル君はにこにこしながら握手の手を差し出していた。私はほとんど哺乳瓶を握る赤ん坊みたいに両手で、いや、片手を出して、その手を握った。手は思ったより骨ばっていて、指が長く、甲がつるりとしていた。
「ワタアメです!」
声が裏返った。自分で思っていたより三倍くらい細くて、音が上ずって、消えかけた。ワタル君は一瞬目を細めた。それから、つないだ手を離さないまま、顔をほんの少し斜めにした。
「ああ、いつもポスト見てるよ」
声が耳のすぐ横で溶けるみたいに聞こえて、私は「あ、ありがとうございます」と、まるで息だけの音で返した。ワタル君の黒い目がすっと動いて、私の顔から、首を通り、白い上着の胸元をすべり降りた。それから、プリーツスカートの裾を少しだけ舐めるように見下ろして、白い太ももの上をゆっくり滑っていった。視線が動くのがわかった。太ももの表面を、人差し指の先でなぞられているような、痛くてくすぐったい、針を刺されたような感覚が脚の内側に走った。膝のあたりまで降りた視線が、私の汗ばんだ素肌の上に、かすかな火傷の跡みたいに残る。手のひらがじわりと濡れて、ワタル君の手に汗が滲むのが、私にも伝わってしまった。
「また配信、見に来てね」
ワタル君が指を少しだけ動かして、私の手の甲をかるくなでた。私は何度もうなずいて、ありがとうございます、と繰り返した。隣のスタッフに促されて列を出るまで、脚が自分のものじゃないみたいに震えていた。心臓の音が膝の裏で跳ねて、うまく歩けない。
帰りの電車に乗っても、熱は引かなかった。窓の外はもう暗くなり始めていて、車内の灯りでガラスが鏡になっていた。映った私の顔は真っ赤で、目がいつもより紅潮している。私は震える指でスマホを出して、ワタル君へのお礼のポストを打った。何度も打ち直して、たった五行の言葉に何分もかけた。「今日は本当にありがとうございました。握手が一生の宝物です」──いや、それだと重すぎる。ありきたりすぎる。何度か消して、送信ボタンを押したのは、電車が次の駅につくアナウンスが流れたときだった。
送ってしまった。画面をじっと見る。文字が藍色の背景に浮かんでいる。何かが届くのを待つ間、指は太ももの上で小さく跳ねていた。車窓の外では街の灯りが流れ、電車の揺れがお尻から背骨に伝わる。何も考えられない。ワタル君の手の硬さだけが掌に残っていた。
そのとき、ぷる、と小さな音がした。見慣れた青いヘッダーのダイレクトメッセージ。送り主は、わたる。通知音がまだ耳の奥で鳴っている気がした。足の裏から震えが上がって、うまく呼吸ができない。私は無我夢中でDMを開いた。
「今日は来てくれてありがとう。ワタアメさんに会えて嬉しかったよ」
文字が、少し濡れて見えた。電車の蛍光灯がまぶしくて、スマホの画面に目の焦点が合わない。何回読んだかわからない。ありがとう、来てくれて、会えて、嬉しかった。その言葉を、お腹の底で何度も転がす。電車は知らない駅に滑り込んでいき、扉が開いた。降りる人の体が私の肩にぶつかっても、気づかなかった。ハッとしたときには、最寄り駅をひとつ乗り過ごしていた。
家について、七時前だと言って、お風呂に入った。浴槽の中で、鼻までお湯に浸かって、息を細く長く吐く。あの白い照明がまだ目の裏にあった。ワタル君の指が、私の手の甲をなでた感触を、湯の中で何度も反芻した。お湯の中で手を広げたり閉じたりした。痺れはまだ消えていなくて、指先まで甘く痛い。
部屋に戻って、ベッドに寝転ぶ。部屋の灯りを消して、スマホだけがまるい光を落とす。ワタル君のDMをもう一度開いた。今日は来てくれてありがとう、何度も。何度も、何度も。小さな青いリンクの文字が、部屋の闇に浮かんでいる。指で何度かなぞって、また画面を閉じる。心臓がまだ走っている。太ももの内側には、あの白い照明と、ワタル君の視線の線が、細い糸みたいに残っていた。
私は布団にうつぶせになって、腕の中にスマホを抱えた。通知音はもう鳴っていないのに、耳の奥で、ぷる、と震えるような気がした。足の指を丸めて、目を閉じる。何度も読み返しているのに、読むたびに、初めて見る言葉みたいに胸が高鳴った。
第2章 土曜日、嘘をついてマンションへ

第2章: 土曜日、嘘をついてマンションへ
朝の光は薄い膜のようで、カーテンの向こうから私の足元を白く濡らしていた。日曜の朝にしては静かすぎる家の中で、私は目を覚ました瞬間から、喉の奥がからからに乾いているのを感じた。枕元のスマホを手に取ると、画面にはワタル君からのDMが表示されたままになっていて、その文字を目で追うたびに、昨日の握手の感触が指の腹に甦った。私は起き上がり、床に散らばった部屋着の上に学生服を広げた。今日は学校が休みの日だ。親には、部活の友達と課題をやる、とだけ伝えてある。制服のスカートを腰に当ててみる。鏡に映る自分の顔は、まだ眠りから醒めきっていない幼い輪郭をしていた。私は服を着替え始めた。
駅のトイレには、休日の午前中だというのに、どこか冷たい空気が沈んでいた。個室に鞄を置いて、パジャマの代わりに持ってきた薄いブラウスと、前回より少し短めのスカートを取り出す。布が擦れる音だけが、私の耳にやけにはっきりと聞こえた。肌に張り付く新しい服の匂いを吸い込む。鏡の前で、前髪を指で整えながら、胸のあたりがぎゅっと窄むのを感じた。罪悪感の種が、胃のあたりで小さく光っている。けれど、それ以上に、ワタル君の言葉を思い出す私の身体は、震えるほどあたたかかった。
住宅街の落ち着いた通りに、私の靴音はやけに大きく鳴った。紅葉のひとかけが風に舞い上がり、私の足元をかすめて落ちた。踏むと、軽い乾いた音がした。コートを着ていない脚に、季節外れにひんやりした風がまとわりつく。指定された住所は、静かな通りに面した白っぽいマンションだった。私はエントランスの前で一度立ち止まり、冷え切った指でインターホンを押した。指先はかじかんで、ボタンを押す位置を何度か確かめた。
ドアが開いたとき、私はまず、白いシャツの胸元と、淡いパーカーの袖先が目に入った。ワタル君は私を見下ろす形になって、一瞬何かを探るように目を細めた。
「早かったね。大丈夫だった?」
声が私の肩に触れた。私はうまく返事ができず、ただ頷いた。
「上がって。暑いからさ、適当に温度上げてある」
私は靴を脱ぐとき、自分の指先がまだ冷えているのがわかった。ワタル君の家の中は、私が思っていたよりずっと静かだった。薄いカーテンの向こうから、昼の光が斜めに差している。部屋には、たくさんの機材が黒い影を作っていた。テーブルの上にカメラが数台、壁際にはマイクや三脚が並び、足元には太いコードが蛇のように這っている。そして何より、配信用の照明が点いていた。真っ白な光が、四角い機器の発光面から放たれ、部屋の真ん中に浮かんでいる。私はその光の輪郭を見つめ、瞬きを繰り返した。
「ココア、飲める? 甘いものの方が落ち着くかな」
ワタル君はキッチンから声をかけてきた。湯気が立ちのぼるカップを差し出されて、私は両手で受け取る。飲んだ喉のあたりが、まだ温かいのに、なんだか始終ひりひりしていた。テーブルの端に、照明の白い光がテーブルクロスを透かして薄い膜を作っている。私の二の腕は、半袖のブラウスから先だけ、輪郭をはっきりさせて、まるで触れられる前から撫でられているみたいだった。
「あれが配信で使ってる照明。起きたばっかりで、まだキャリブレーションしてなくてさ。昨日の配信の設定のまま」
ワタル君はそう言いながら、私の隣に腰を下ろした。距離にして、三十センチもない。彼の着ているパーカーの布地が、私の肩に触れるか触れないか。自分の心臓の音が、耳の奥で重く打っていた。私はカップをテーブルに置いた。湯気が、私の前髪のあたりではじける。
その後、私はワタル君の説明を聞きながら、うん、とか、すごい、とか短い言葉を繰り返した。機材の名前は覚えきれなかったけれど、あの配信で見ていた声が、ここから、この四角い照明の前から生まれている。それが、私の胸を、洗われたみたいに明るくした。私は何度も瞬きをして、その場にいることに目を慣れさせようとした。白い光の輪郭に、部屋のものの影がはっきりと縁取られていた。
ワタル君が立ち上がる気配がして、私は、自分の背中の後ろに彼が立ったのを知った。首のあたりの産毛が、総毛立つ。彼の手が伸びて、前髪を分けようとする。指先が耳のうしろを掠めた瞬間、私は情けないくらい驚いて振り返った。すると、ワタル君の顔が、思ったよりずっと近くにあった。
唇が重なる。つめたく乾いた口唇が、まず私の下唇の端に触れて、それから息が混ざった。私が目を閉じると、生あたたかい舌が、唇のすぐ内側をなぞった。上顎を、ぬるん、と柔らかく舐め上げる。私は手を、彼のパーカーの袖あたりに、恐る恐る置いた。口の中の温度と、口の外の冷たさが、唇の境目で混ざって、どちらつかずの感覚に、ふわりと腰が浮くようだった。
唇が離れたあと、私は目を開けた。真っ白い配信照明が、私たちの影を消して、部屋の何もかもをのっぺりと照らしていた。ワタル君が、何も言わずに、私の肩を抱いた。自分の身体が、操られるようにソファへ沈んでいく。心臓の音は聞こえすぎるほどだった。耳の奥で、あのDMの通知音が、まだ鳴っている気がした。
「ここ、座ろ」
ワタル君の声は、まるでさっきのキスの余韻を引きずらない、軽やかな調子で、私の耳に落ちた。それなのに、私の脚の内側は、さっきからずっと、小さな火が灯ったみたいに熱い。私はただ、肩を抱かれたまま、自分の心を探していた。うそをついたことも、着替えたことも、ここがワタル君の部屋だということも、全部がゆっくりと、白い光の中へ溶けていくようだった。
第3章 白い照明の下で身体を開かれた日

第3章: 白い照明の下で身体を開かれた日
ソファの座面が、太ももの裏にくっついて離れない。キスのあと、肩を抱かれたまま座った姿勢は、どこにも逃げ場がなくて、私は自分の両手を膝の上でぎゅうっと重ねていた。心臓の音が耳のすぐ裏で鳴っていて、それはあのDMの通知音とよく似ているのに、ずっと止まらなかった。部屋の上の方から照明が落ちてきて、前髪の先やまつげの影を濃く床へ貼りつける。ワタル君の指先が、私の肩から二の腕へ、まるで羽根が滑り降りるみたいに触れた。触れた場所だけが白く光って、輪郭をふちどられるような気がした。
「緊張してる?」
耳のすぐそばで言われて、首を横に振ろうとしたのに、首が動かなかった。ただ太ももを閉じて、スカートのプリーツを指で挟みながらうつむくしかできなかった。照明の白い光が頭のてっぺんから注いでいて、ワタル君の腕時計の文字盤が、その光を受けて細く反射していた。
「寒くはない? それとも、暑い?」
ワタル君の声は、カーディガンの一番上のボタンに触れながら、そう尋ねてきた。指は骨ばっていて、節の硬さが布を通して鎖骨の上をかすめる。私は「へいき、です」と声に出したけれど、自分の声が自分じゃないみたいに掠れていた。吐いた息の熱さだけが、マフラーを解いたあとの首元にまとわりつく。
カーディガンを脱がされる。袖から手を抜くとき、ワタル君の手が私の手首を包むように支えてくれた。肌と肌のあいだに汗が薄く張って、剥がれるときに、ぺたり、と粘るような音が耳に届いた。照明の下に出た肩は、自分のものとは思えないほど明るくて、白磁器みたいにつるりと光っているように見えた。ワタル君が、露わになった肩を指の腹でそっとなぞる。冷たい指の先が鎖骨から肩先へ移動するたび、首の後ろがぞわりとして、閉じた太ももの内側が勝手にひくついた。
ブラウスのボタンが、下から順番に外されていく。ボタンが布から抜ける音は、たぶん鳴っていなかった。ワタル君の指は、私が息をするたびに上下するお腹の前で、とてもゆっくり動いた。衣擦れの音だけが、さやさやとリズムを刻んで、白い照明の下で粉のように舞う。ボタンが外れるたび、肌の面積が少しずつ光へさらされていくのが、恥ずかしいのに、目を閉じると余計に感じる。ワタル君の指の腹が、ばねのように弾む私の肋骨の下へ触れたとき、息が「ふぅ、ぅ」と震えて漏れてしまった。
スカートの下に、手が入ってくる。下着の花柄のモチーフを、指の先がひとつ、ふたつと確かめるように押す。親指が、脚のつけ根のくぼみに沿って下りてきて、太ももを内側から引きはがすように撫で上げる。閉じた脚のあいだが汗ばんで、白い太ももに照明の光がぬらぬらと反射するのが、うつむいた視界の端に見えた。ワタル君は、私の耳の近くで「すごく温かいね」と小さく言った。その声がかかった耳の穴が、じゅん、と痺れて、膝が内側へ擦り合わさる。下着の布が、股の部分だけひときわ熱を持っているのを、私自身がいちばん強く知っていた。
撮影用のカメラが回っていることは、なんとなく知っていた。テーブルの端に置かれたレコーダーの赤い点が、暗い部屋のなかで星みたいに光っていて、ワタル君がときどき、その方向へ目線をやる。配信で見せる横顔と同じ角度で、カメラの存在を確かめる仕草。それが、私の心臓を、嬉しいのに締めつける。白い照明は、きっと配信のときと同じ灯りで、今まさに、このソファの上を一つの画面に焼いている。世界の誰かが見ているわけではないのに、永遠に残る動画になっている気がした。
「少し、横になろうか。こっちの方が広いから」
ワタル君はそう言って、床に敷かれた厚手の布の上へ、私の手を引いた。立ち上がるとき、膝が笑うように揺れて、一歩踏み出す足の裏が思うように動かない。ソファから床へ移る間に、スカートの裾がふわりと浮き、太ももが白い光をまとって丸見えになる。ワタル君は、私の後ろから腰のあたりを支えるようにして歩かせた。背中にワタル君の胸が近くて、薄いシャツ越しの体温が、しっとりと私の背骨へ染みてくる。
仰向けになって、天井を見た。照明が、とても近い。目の奥を白く灼くような強い光が、私の全身を隅々まで照らしている。ワタル君の手が、下着のゴムの端へかかった。持ち上げるようにして下ろされていく。花柄の布が太ももから膝へ落ちて、片足ずつ抜かれるあいだ、私は天井の一点を見つめていた。白い光が、薄い粘膜にまで届いて、露わになったそこが空気に触れて、ひく、ひく、と小刻みに震えた。ワタル君は、私の両脚の膝裏へ手を入れて、折り曲げるようにして開いた。太ももの内側は汗で光り、赤くなった膝の裏が布にこすれる。
「触るね。痛くないようにするから」
ワタル君の指が、狭い入口を下から上へ、濡らすみたいに撫でていく。指の腹が、まだ誰にも触れられたことのない柔らかい襞のあいまを、ゆっくり往復した。ぬるりとした感触が、自分の体から滲んでいる。ワタル君は、丁寧に、でも迷いなく、人さし指の先で窄まりを押し広げるようにしながら、上にある突起を親指でくっと押した。私の背中が勝手に浮いて、首がのけぞった。頭の上の照明が、白く割れるように、まぶたの裏で爆ぜる。
「痛い?」
ワタル君の声が、水の中から聞こえるみたいに遠い。私は、首を振ることもできず、ただ「んん」と短く鳴いた。ワタル君は、私の反応をカメラの方へわざと見せるように、指をもう少し深く沈めた。関節の節が入口をこする感覚が、お腹の底まで届いて、内臓が持ち上げられるような苦しさと、でも、それ以上に、自分がワタル君の手のなかで動いていることの嬉しさで、わけがわからなくなった。
ワタル君のベルトが外れる音がした。金属の金具が、かち、と鳴って、布が肌から離れていく。私は天井を向いたまま、目の端にだけワタル君の影を映す。彼は、私の足のあいだに膝をついた。先端を、私の入口へあてがう。熱いものが、ぬめりをまとって、ひくひくしている切れ目を軽く叩くように触れた。私は、その形の大きさを、触れられただけで知って、息が浅くなった。
「ゆっくり、息を吐いてて。大丈夫だから」
ワタル君が腰を少しずつ進める。入口が、無理やりにではなくて、でも、体の内側から開かされていく。胸の下の空気が全部止まって、指が床の布を掻いた。背骨を下から押し上げられるような強い異物感が、お腹のなかいっぱいに広がって、頭の先まで突き抜けそうだった。痛い、と思うより先に、ワタル君の形が体の奥で脈打っているのを、はっきりと感じた。血管が走るような、どく、どく、という熱い波。
「っ……あ、うう……」
私の口から出た声は、悲鳴でも呼びかけでもなく、まるで熱いお湯をこぼしたときの呻吟だった。ワタル君は、一旦動きを止めて、私の前髪を額から払う。それから、汗で張りついた髪を耳にかける指が、とても優しくて、涙みたいなものが目の端からこぼれた。彼はそれに気づいていたけれど、何も言わず、もう少しだけ深く入ってきた。体を二つに割られるような感覚が、また強くなって、膝が内側へ倒れそうになるのを、ワタル君の手が、私の膝裏を支えて開かせたままでいる。
照明が、近すぎる。白い光が強すぎて、閉じたまぶたの裏まで明るい。動き始めたワタル君の腰が、私の内側を擦るたび、光が点滅しているみたいに見えた。配信のとき、画面越しに見ていた光が、今は私の体の上に降って、私の知らない私を隅々まで焼きつけている。体は痛みと熱とでばらばらになりそうなのに、心のどこかで、ワタル君の一部が私のなかにいる、という事実だけが、とても明るく光っていた。
ワタル君が、低く息を吐いた。動きが少しだけ速くなって、結合した場所から、水のような音が聞こえる。私の体から滲んだものが、ワタル君の動きに混ざって、ぬち、ぬち、と耳の奥へ響いた。恥ずかしい音なのに、体はその音に反応して、お腹の奥がきゅう、と収縮する。天井の照明が、涙でにじんで、二重にも三重にも見えた。白い光のなか、私は声を殺すこともできず、呼吸のたびに「ん、ふ、うう」と細い声を漏らし続けた。
ワタル君が、私の腰を持ち上げるように抱えて、角度を変えた。太ももの裏が汗で滑り、彼の手のひらに食い込む。さっきまでとは違う場所を、ずり、と擦られて、視界の端が白く明滅した。おなかの奥、恥骨のすぐ後ろあたりが、ひときわ尖った熱を持って、内側から打たれるたび、腰が浮いた。ワタル君が、私の左の太ももを抱え直しながら、耳元へ顔を近づけてくる。
「柚那の顔、すごく可愛い。ずっと見てたいよ」
その言葉と同時に、奥を、こつん、と突かれて、喉の奥がひくりと鳴る。体の内側が、ワタル君の熱い形へ吸いつくみたいに縮こまって、私の意思とは関係なく、入口がひくひくと彼を絞めた。ワタル君が「ああ」と短く声を上げて、私の中でさらに硬くなった気がした。苦しいはずなのに、その反応が嬉しくて、太ももに力を入れてしまう。ワタル君は私の脚の震えに気づいて、笑った気配があった。
「柚那、下からも、気持ちいい?」
尋ねられても、どこが気持ちいいのか、気持ちいいのかどうかも分からなくて、首を横に振ることしかできなかった。目尻が熱い。涙が耳のなかへ流れ込んで、不快なのに、その感触すら遠かった。ワタル君は、私のお腹の上に手のひらを置いて、ゆっくり押した。すると、内側に突き入れられているものが、より強く感じられて、押さえられた下腹の下で、ワタル君の先端がくちゅ、と音を立てた。声が出た。自分でも驚くほど、柔らかくて、泣き声みたいな声が。
「あ、や、んんっ、ふぅう……」
喉が震える。唾液が口のなかに溜まって、飲み込むのが精一杯だった。照明の光が、白い熱の幕みたいに私を覆って、どこを見ても同じ明るさしかない。ワタル君の表情を確かめようにも、白い光が強すぎて、輪郭が溶けて見えた。ただ、彼の骨ばった手が、私の肌の上で、とてもはっきりと動いていた。その手つきだけが、現実のものみたいに強い。
ワタル君が、私の中から抜けるように、いったん腰を引いた。体のなかで、ぐぽ、と空気が鳴った。恥ずかしい音に、太ももを閉じようとしたけれど、彼の体が間にあるから、びくびくするしかなかった。私の入り口は、閉じきれずに、彼の形の余韻で開いたままだった。ワタル君は、布で私の太ももの内側を軽く拭いてから、手を取って、自分のものに触れさせた。
「ここまで柚那のだよ。触ってごらん」
私の指は、彼の熱く濡れた先端に触れた。どくどくしていた。ぬめりが、私の指の股を汚した。ほんの少しだけ皮を引き上げるように握ると、ワタル君は目を細めて、私の後ろを抱え直した。彼のものが、汗と私のもので光っているのを、配信用の照明が白く縁取る。あんなに動画で見ていたワタル君が、私の目の前で、私の触った部分を熱くさせている。心臓が、耳のすぐ下で打ちすぎて、息がうまくできなかった。
「挿れ直すね。柚那、感じたまま声、出していいよ」
ワタル君は、私の中へ、さっきよりもずぶり、と滑り込んできた。体の奥底まで、先ほどより簡単に入ってくる。さっき開かれたばかりの粘膜が、彼の形を覚えてしまっているみたいで、こわいくらい素直に飲み込んでいった。お腹の奥が重くて、足の先がびん、と伸びる。背中が反って、頭のてっぺんから尾骨までが、一本の熱い線になった。天井の照明が、私の体ごと白く透けさせているみたいだった。
ワタル君が、本格的に腰を動かし始める。布越しに床の硬さが伝わり、背中と尻が、動きに合わせて擦れる。脚のつけ根から、ぬぽ、ぬぽ、という音が絶え間なく響いて、自分の体からこんな音が出ることを、体のなかにいる私だけが知っている。恥ずかしさで頭がくらくらするのに、内側はワタル君をきつく締めつけて、離したくないと暴れていた。呼吸がうまくできない。口を開けて、浅い空気を吸い込むたび、喉の奥からひゅう、と鳴る。
ワタル君の手が、私の太ももを外側から強く掴んだ。指の形が、肉に食い込んで、白い肌に赤いあとが残る。痛いくらいなのに、その痛みが、奥の熱をさらに尖らせた。内側の奥を、ずん、と突かれるたび、目の裏に白い火花が散る。頭のなかまで、配信用の照明の光でいっぱいになった。自分がどこからどこまでなのか、輪郭が溶けていくみたいだった。
「柚那の中、すごい。柔らかいよ」
彼の声が、私のうわごとみたいな呼吸の合間に届く。その言葉に、お腹の奥がまた、きゅう、と彼を抱きしめた。頭のどこかでは、撮られている、という意識が消えない。カメラの赤い光が、白い照明の海のなかに浮かぶ、たった一つの色の粒だった。その点へ向かって、私は自分の体を広げている。配信で見たワタル君の画面の眩しさが、現実の光になって、私の上へ降っている。テレビのなかの人と、こんなふうに繋がってしまった。
ワタル君の動きが、急に深くなった。私の腰を両手で持ち上げて、角度を変える。体がくの字に折れ曲がって、おなかの上に差し込む光が、へその窪みに小さな影を作った。そこへ、彼の先端が別の方角から、とん、と入ってくる。内臓を上へ押し込まれるみたいな重みに、目の前が白く光った。吐き気みたいな苦しさが一瞬きたのに、それより先に、背骨の下から爆発するみたいな、初めての感覚が、太ももの内側いっぱいに広がった。
「ふあ、ぁ、あっ、あ、んぅうっ」
涙が、こめかみを横切って髪のなかへ消える。視界が、白い光で埋め尽くされて、まぶたを閉じても、白い。何が起きているのか分からないまま、体が、びく、びく、と跳ねて、ワタル君の腰を挟むように脚が強張った。私のなかの奥が、波打つみたいに収縮して、彼の形を追いかける。人生で初めての感覚が、痛みなのか快感なのかも分からないまま、体の芯を貫いていった。
ワタル君が、低いうめき声をあげて、私のなかでさらに硬くなる。彼が、私の額にくちびるを押し当てた。汗のしょっぱい味が、上唇に触れて、耳の奥でDMの通知音が、また遠くに鳴った気がした。さっきまで静かだった部屋のなかに、私の荒い息と、ワタル君の回想だけが、白い照明の下に転がっている。
彼が、ゆっくりと私から離れた。体のなかに、ずるり、と引いていく熱があって、腹のなかに空気が入り込む。太ももが、自分のものじゃないみたいに震えていた。下に敷いてあった布が汗で湿っていて、背中にまとわりつくのが気持ち悪いのに、起き上がる力が残っていない。ワタル君は、どこからか濡れたタオルを持ってきて、私の脚のあいだに敷いてくれた。冷たいタオルが熱い粘膜へ触れて、体が勝手に跳ねる。天井を見上げたまま、視界の端でワタル君の影が動くのを感じていた。性器の痛みと、内側から灼け続ける熱が消えなくて、心臓だけが早鐘を打ちつづけている。照明の白い光が、まだ私の全身を焼いていて、その白さを私は、しばらく閉じた目の裏に感じていた。
第4章 アフターピルの白い錠剤

第4章: アフターピルの白い錠剤
土曜日の夕方、ワタルのマンションへ向かう道すがら、私は何度もスマホの画面を覗き込んだ。最後に届いたDMには「今日、部屋で待ってるね。柚那ちゃんが来るの楽しみにしてる」とあって、その文字を見るたびに胸の奥がきゅうっと窄むような心地と、足の裏がふわふわと浮くような感覚が入れ替わりにやって来た。十一月も終わりに近づき、空気は冷たく凪いでいて、吐く息が白くほどけていくのを視界の隅で追いながら、私はワタルの部屋に通されるたびに少しずつ大人の私になっていく気がした。初めて身体を重ねたあの日から十日。週末になれば、あの白い配信用照明の下で肌と肌を寄せることが、私のからだの内側に小さく刺さった棘のように習慣として根を張り始めていた。
インターホンを押す前、私は建物のエントランスのガラスに映る自分の姿を盗み見た。黒い学生服を脱いで、駅のトイレで着替えた白いニットとプリーツの短いスカート。今日の私は、あの日より少しだけ背筋を伸ばしてドアの前に立っていた。指先が冷えて、爪の先がうっすらと紫色に染まっている。ボタンを押すと、あの軽い呼び出し音がして、しばらくして内側からドアが開いた。
「お、早かったね。大丈夫だった? 寒くなかった?」
ワタルの声はいつも通りにやわらかいけれど、その目の奥に灯る光は、配信で見せるそれよりずっと近くて、私の身体のどこかを値踏みするような熱を帯びていた。淡いパーカーの袖を肘まで押し上げ、白いシャツの胸元が少し開いている。私は声の代わりに小さく頷いて、促されるまま玄関の段差を上がった。ドアが閉まる音がして、外の冷たい空気がぷつりと途切れたとき、ようやく私は自分がワタルの部屋に来られたのだという安堵を覚える。部屋の中には、いつもの配信用照明が点いていて、白い光が床や機材の表面を冷たく磨き上げていた。
廊下を進んでリビングに入ると、ガラステーブルの端に小さな白い粒が一粒、シートから取り出された状態で置かれているのが目に入った。丸くて、真っ白で、無機質なその錠剤は、部屋の照明を浴びて表面にちいさな光の粒を滑らせていた。私は一瞬、靴下を履いたままの足を止めて、その白さに見入った。あの日、行為のあとでワタルから「こういうの、飲んでおいた方が安心だから」と渡されたのと同じ薬。今日はそれが最初から、来客を待つようにぽつんと置かれている。
「今日は中に出したいから、先に飲んでもらえる?」
ワタルは台所の方から振り返ってそう言った。まるで配信の冒頭で今日のメニューを告げるような、軽い、しかし有無を言わせない口調だった。私はその声を聞きながら、喉の奥で何かがぎゅっと小さくなるのを感じる。中に、出す。その言葉が、私のお腹のずっと深い場所をすうっと冷たくも熱くさせる。断る理由はなかった。ワタルの望むことなら、私の身体の内側まで差し出したいと、十日間のうちに何度も思ってきたから。
「うん」
私は小さく返事をして、テーブルの前にしゃがんだ。指先で白い錠剤をつまみ上げると、掌の上でほんの少し転がしてから、唇のあいだに押し込んだ。水はなかった。口の中に置いた薬は、味もほとんどなくて、けれど飲み込もうとすると喉に張りつくような乾いた感触があった。舌で上顎に押し付けて、唾を集めて、一息で飲み込む。けれども上手くいかなくて、錠剤は喉の中ほどで一度つかえ、それからゆっくりと食道を下りていく。飲み込んだあとに、舌の根のあたりへ、細くて苦い味が残った。いつまでも消えない、白い粉を固めただけの味。私は目を閉じて、その苦さを確かめるように何度か唾を飲み込んだ。
「飲めた? ちょっと苦かったでしょ。ジュースあるよ」
ワタルの声がして、冷蔵庫の開く音が聞こえる。私は首を横に振って、大丈夫、と答えた。実際には苦さはずっと残っていたけれど、それ以上に、今から始まることへの緊張が口の中を乾かしていた。立ち上がった私の身体は冷えていて、けれどもスカートの下の太ももの内側だけが、じわりと汗ばんでいた。ワタルが近づいてきて、私の前髪を払うように指先で耳の上をなぞる。その指の骨ばった感触が、こめかみから目の縁へぞわりと広がる。
「今日も撮るよ。柚那ちゃん、すごく可愛いから、残しておきたいなって。いいよね?」
私は唾を飲み込んだ。またか、と思うよりも、この一週間ずっと待ち焦がれていた場所へ今ようやく立てたという思いが先に立った。撮られることの恥ずかしさはまだ身体のどこかにあるけれど、ワタルに求められるたび、私の輪郭がはっきりしていく気がしていた。私の身体の中の、誰にも見せなかった場所まで、光の下で明るく確かめられる。それが私とワタルをつなぐ、特別なことのように思えた。
「うん、……いいよ」
私が返事をすると、ワタルはカメラのスイッチを入れる。モニターの赤い点が灯り、白い照明が一段と強くなる。視界が滲むほど明るい光の下で、私はまず靴下を脱いで、それからスカートのホックに指をかけた。衣擦れの音は、あの日の記憶を瞬く間になぞるようで、耳の奥が熱い。ワタルは私の前に立ち、脱がせるのではなく、私自身の手で服を外させた。彼の視線が、ボタンの上から太ももの内側へ、ゆっくりと滑り落ちていく。私はその視線の重みを皮膚の上に感じながら、白い下着まで剥ぎ取っていった。
「はあ、……今日も白だ」
ワタルが低く呟く。私は裸の腕を胸の前で重ね、うつむいた。配信用照明の白い光が、剥き出しになった肩から太ももを照らし、私の影を床に薄く引き伸ばしていた。冷たい空気が脇腹を撫で、太ももの間は熱を持っている。そのアンバランスに、からだが小さく震えた。ワタルは私の腕をつかんで、床に敷いた布の上へ導く。仰向けに転がされた背中が、ひんやりとした布の感触を受け止めた。
「寒いね。すぐ温まるから」
ワタルはそう言って、私の太ももの間に身体を割り込ませる。彼の指が私の両脚をゆっくりと押し開き、露わになった中心へ、白い光が容赦なく降り注ぐ。まだ口に苦さが残っていて、その苦味が、これから自分が受け入れるものへの予感のように舌の上で溶けていた。ワタルの掌が太ももの内側を撫で上げ、それから小ぶりな陰部へ触れる。指先が、花弁の膨らみをそっと押し開いたとき、私は背中を小さく反らせた。
「ん……っ」
と、息が喉の奥で潰れた。冷たいワセリンと生ぬるいローションを混ぜた液体が、ゆっくりと私の股間に垂らされる。ぬるりとした感触が割れ目をつたい、窄まった穴の入口を覆う。ワタルの長い中指が、ぬかるみをかき混ぜるように入口を撫で回した。ぐちゅ、くちゅ、という湿った音が、照明の白い光の下で妙に大きく響いて、耳まで犯されているような気分になる。ぐちゅぐちゅと粘液が泡立つ音。指の腹が穴の縁を一周するたび、腰の奥から甘い痺れがせり上がって、太ももの内側がひくついた。
「指だけで、こんなに溢れてるよ。柚那ちゃん、待ってた?」
ワタルの声は笑みを帯びている。私は答えられず、ただ首を左右に振ることで、そんなことは、と示そうとした。けれど身体は正直で、差し込まれた指を熱い内側できゅうと締め付けた。ぬるぬるとした液をまとった指が、はたの内側をこすり、入口をくつろげ、私の浅い呼吸を引き出していく。ぐちゅ、ぬちゅ、と水音がたびたび跳ねる。お腹の奥で、薬が溶けているはずの場所がどくどくと脈打っていた。
ワタルは十分に私を潤してから、自らの下衣を寛げた。おそろしく熱い先端が、私のぬかるんだ入口へ押し当てられる。白い光が、私の曲げた膝の内側を照らして、その影をくっきりと浮かび上がらせていた。手で場所を定めるような間のあと、ワタルが腰を沈めた。
「ん、……ああっ」
ずぶり、という圧が、腹の底まで押し拡がる。しっかりと潤された膣は、先端から根本までをゆっくりと飲み込んでいく。内側の肉が、侵入する形に沿って溶けるように広げられ、その痛みと熱が背骨を駆け上がった。まだ十日しか経っていない。それでも私の身体は、一度目の時のつっぱりよりも深く、波のようにうねりを返してワタルを受け止めている。挿入のたびにくちゅくちゅと粘液が泡立ち、下生えの粗い感触が私の陰核を掠めるたび、息が漏れた。
「すごい、……柚那の中、きつくて気持ちいいよ」
ワタルの声がうわずる。彼が腰を動かすたび、私の中の狭い道を、熱い杭が往復する。ぬかるみがさらに深くなって、脚の付け根が濡れた音を響かせた。ぐにょぐにょ、と内臓の近くで聞こえる水音が、自分の体内からしていると思うと、頭のどこかがくらくらした。私の吐息は浅く、はく、はく、と照明の光の中で白くも見える。乳首は白い光に照らされて固く凝り、胸の平らな起伏をわずかに持ち上げていた。
いつの間にか、ワタルは私の両脚を抱え込むように持ち上げ、腰を深々と打ち付け始めている。彼の下腹が私の恥骨に当たって、ちゅぷ、ぬちゅ、と水音が交じり合った。陰核への衝撃が強くなり、私は視界が明滅するのに耐えるようにシーツを握る。白いつむじのような光が、私の全身を洗っている。挙句、ワタルがぐっと奥まで埋め込んだ瞬間、どく、と熱い脈が内壁を叩いた。
「……出すから、いい? 柚那の中に、出していい?」
ワタルが荒い息で尋ねる。私はもう言葉にもならず、こくりと頷いた。その許しを合図に、ワタルは最奥へ腰を押し付けたまま、精液の熱を放った。ドクドクッ、と腹の内側を満たしていく感覚が、自分の心拍と混ざる。何度も打ち返すように熱が溢れ、膣の奥が熱い液でいっぱいになるのがわかった。しばらくしてワタルがずるり、と性器を引き抜くと、開いた入口から生ぬるい液がとろり、と私の太ももの裏を伝い落ちた。太腿の内側にまで届く精液の熱に、私の脚は小刻みに震え、もどかしい余韻の中で下腹部がヒクヒクと蠢いた。
終わったあと、喉の奥の苦さがぶり返していた。仰向けのまま、天井を照らす照明の白い輪を見つめていると、ワタルはティッシュで自分の股間を拭きながら、私の濡れた脚のあいだにも軽く押し当ててくれた。私は自分の太ももを閉じることもできず、開いたまま、流れ出るものを感じている。けれども頭の片隅では、早く次の言葉を見つけなければと思っていた。私からそれを尋ねなければ、また一週間が空く。それだけは、耐えがたかった。
「……次も、呼んでもらえますか」
声は掠れていた。汗で額に張りつく前髪の下から、ワタルの横顔を見上げる。ワタルはティッシュで長い指を拭きながら、少しだけ首を傾けて笑った。
「来たくなったら何時でもいいよ」
その返事はやさしく、けれど曖昧で、私の問いには正面から触れない。私は胸の奥を冷たい手で撫でられたような心地で、黙って視線を横へ流した。テーブルの端には、薬のシートから切り離されたパックが置かれたままで、空のくぼみが一つ、白い照明の光を溜めている。
帰り道は、空気が一段と冷えていた。いまだに下腹部は重く、歩くたびに、ワタルが残したものがまだ少しずつ零れているようで、歩幅が狭くなる。暗い歩道に自分の影が薄く沈んで見えた。飲み込んだ錠剤の細い苦みが舌の根に戻ってくるたび、私は唾を呑む。この苦さを消したいのに、でも、消してしまったら、今日のワタルまで遠くなる気がして、その感覚を口の中で転がしていた。
第5章 # エスカレートするロリータ玩具

土曜日の昼下がり、薄い雲の膜が太陽を透かして、歩道に落ちる影をどこか頼りなく滲ませていた。柚那は自宅の最寄り駅で電車を待つあいだ、何度もスマホの画面を点けては消し、すでに暗記してしまったワタルからのDMを指先でそっとなぞっていた。昨夜遅くに届いたその文面は、ずいぶん短いものだった。
「明日、昼から家に来られる? どうしても柚那ちゃんで試したいことがあるんだ」
その「試したいこと」という五文字が、柚那の胸の内側をくすぐるような、それでいて針の先で刺すような、名付けようのない熱を運んできた。金曜の夜、ワタルはゲーム配信をしていた。柚那は布団の中でイヤホンを片耳にだけ差して、その様子をずっと眺めていた。カメラ越しの彼はいつにも増して声が弾んでいて、コメントを読むたびに笑い、機嫌のよいとき特有の、あの少し早口で言葉が跳ねる調子だった。配信が終わる頃にはもう日付が変わりかけていて、柚那は通知が鳴るかもしれないと期待しながら、けれども眠気に負けて、いつの間にか浅い夢の中に沈んでいた。朝起きると、枕元のスマホに例のDMが残っていた。
電車の中、窓の外を流れる景色の色味が、十二月に入ったばかりの空気の硬さを帯びているように感じた。まだ雪は降っていない。けれども街路樹の裸の枝先が白んだ空に細い線を張り巡らせ、車窓の向こうで時折、風が吹くたびに枯れ葉が舞い上がっていた。柚那は学生服ではなく、白いニットにプリーツスカートという格好の上に、ベージュのトレンチコートを羽織っていた。先週も、そのまた前の週も、土曜になると必ずこの路線に揺られてワタルの元へ向かった。身体の中にまだ彼の熱が残っているような気がするのに、胸のどこかでは毎回、初めて会いに行くときと似た緊張が渦を巻いている。それが苦しくて、そして甘かった。
ワタルのマンションに着いたのは、それでも約束の時間より二十分ほど早い時刻だった。風は冷たく、エントランスの植え込みは規則正しく刈り込まれたまま無表情に沈黙している。オートロックの前でインターホンを押すと、しばらく間があって、スピーカー越しにワタルの声が流れた。いつもの声なのに、ほんの少し掠れていて、寝起きの気配がある。
「あ、柚那ちゃん。早いね。今開けるから、上がってきて」
柚那は軽く頷いて、ロビーの中で手の甲を擦り合わせた。エレベーターに乗り、揺れる箱の中の鏡に映る自分を盗み見る。前髪はきちんと整えられ、ツインテールの結び目は左右対称。薄く色づいた頬の内側に、自分でも気づかないうちに息を詰めているのがわかった。最上階の廊下はしんと静まり返り、ブーツの音だけがくぐもって響いた。
部屋の前に立つと、ドアが内側から開けられる。ワタルは洗いざらしのグレーのスウェットと、白いTシャツ一枚という部屋着姿だった。首元が少しだけ伸びていて、鎖骨のくぼみが白い光の下で浅く影を作っている。黒い前髪が眉にかかり、その下から覗く瞳はどこか鋭く笑っていた。彼は柚那の顔を見るなり、口の端をゆるく持ち上げた。
「入って。今ちょうど、配信の機材片付けてなかったんだけど、まあ、それはそれでいいかなって」
「お邪魔します」
柚那は小さい声でそう言って、玄関の段差を踏んだ。扉が閉まる音が、いつもより鋭く耳に届く。外の寒さが首筋にまだまとわりついていた。靴を脱いで、スニーカーを揃えようと屈んだとき、背中越しにワタルの足音が素早く近づいてきた。振り返る間もなく、彼の手が柚那の肩のあたりで止まる。
「ごめんね、脱がなくていい。玄関、ちょっとだけでいいから、そこに立ってて」
何を言われたのか、一瞬うまく飲み込めなかった。柚那は身体を半ば屈めた格好のまま固まり、ワタルの顔を見上げた。彼は片手にスマホを持っていて、もう片方の手が廊下の隅にあったピンク色の洗面器を持ち上げている。洗面器は、使い古した柔らかな樹脂の色をしていて、ワタルの部屋にはずいぶん場違いな日用品に見えた。彼はそれを玄関のタイルの上に、ことり、と音を立てて置いた。
「急に、さ。柚那のおしっこが見たくなっちゃった。ここでパンツ脱いでしてもらえるかな」
ワタルの声はあくまで明るかった。昨晩の配信の、あの弾んだ調子のまま、彼は自分の顔の高さにスマホを構えている。画面の上に浮かぶ明るい四角い光が、彼の目蓋の縁を薄青く照らしていた。柚那は口を開きかけて、けれども声にならないまま、洗面器とワタルの顔を交互に見下ろした。冷たいタイルの感触が、ブーツの裏を通して足の裏にまで伝わってくるようで、それが現実の冷たさとこれから起こることの生温かさの落差を、いやに生々しく際立たせていた。
「ちょっと、待って」
柚那の声は掠れが混じっていた。心臓が耳の下のあたりで速く打っている。頭の中で何かぐるぐる回っているのに、それを言葉にできない。ワタルはそんな柚那を急かすでもなく、スマホをほんの少し傾けて、レンズを太もものあたりに向けていた。
「恋人が、一番恥ずかしいところを見たいって思うの、変かな。柚那ちゃんが誰にも見せたことない部分、僕が初めて見るって、すごくいいなって」
「……恋人だから、ですか」
柚那がそう呟くと、ワタルは大きく頷いて、白い歯を覗かせた。
「そう。そういうこと。柚那ちゃんは僕の恋人だし、恋人のためになら、できるよね。ね、柚那ちゃんだけが持ってる、特別なことだよ」
頭の内側に、甘い湯気のようなものが広がっていくのを感じた。する、まである。おしっこをするのを、見せる。ワタルがそうして一番恥ずかしい部分を欲しがってくれるのは、たしかに特別なつながりで、柚那はそれに応えなければいけない気がした。恋人、その言葉が胸の奥の芯を真っ直ぐに貫いて、脚の力を抜けさせていく。羞恥は鋭い棘のように身体の内側へ押し寄せたけれど、その痛みの先に、ワタルが喜ぶ顔があるような気がした。けれど同時に、心のどこかで、また別の自分が小さく首を振っている。こんなこと、本当に恋人同士がするの、という声が、頭の隅でかすかに痺れていた。どれほど彼の言葉が優しく響いても、脚の間に洗面器を置いたこの光景は、柚那の知っている「恋人」という形からあまりに遠い。遠いはずなのに、ワタルの黒い瞳がまっすぐに映すたび、その遠さも甘やかな蜂蜜に浸されたように、するりと喉の奥へ流れ落ちてしまいそうになる。恥ずかしさで指先が凍えそうなのに、彼に拒まれることが何より恐ろしくて、その恐ろしさが膝を折らせようとしていた。
「わかった」
柚那はほとんど息で返事をした。ワタルがスマホの位置を微調整するのが視界の隅に映る。玄関の洗面器の前に立った柚那は、コートの前を寛げ、スカートのホックに指をかけた。布が腰からすとん、と床へ落ちる。続いて下着に手をかける。白い花柄の、お気に入りの一枚。太ももの間で細長く湿り、肌にぴったり張りついていた。それを膝まで下ろし、片足ずつ抜いた。露わになった肌が、十二月の冷えた空気に直接触れて、粟立つ。その粟立ちのひとつひとつまで、ワタルのレンズはきっと見逃さない。そう思うと、腰の奥がかあっと熱くなり、それでいて背筋はひどく冷たいままだった。
ワタルのスマホが、近づいて下半身を映す。黒い円いレンズが、配信用照明とは別の、肉感的な光を帯びてこちらを覗いている。ワタルが二歩、三歩と距離を詰めた。
「じゃあさ、柚那。よかったら、『柚那は、今から、おしっこします』って言ってから始めてみて。一応、動画になるから、声もちゃんと入れてくれると助かるな」
「え……」
思わず上げた声は、ワタルのスマホのマイクに拾われたようだった。彼は何も言わず、笑みを深める。柚那はスカートの内側を握りしめ、下着の脱がされた脚を寒さと羞恥で震わせながら、洗面器を跨った。洗面器の底から、冷たいタイルの冷えが伝わってくる。その冷たさが、濡れはじめた自分の中心と触れ合って、まるで氷と熱が同時に肌へ押し当てられているかのようだった。
「柚那は、今から、おしっこします」
自分の口から漏れたその声は、他人の声のように遠く、そして妙に間延びしていた。言い終わると同時に、腹の底で堰のようなものがゆっくりと下がっていく。ワタルがスマホを脚の間へ寄せる。柚那は目を瞑りたかった。けれども、何かに操られるように目を開けたまま、自分の下腹へ力を込めた。
最初は小さな雫が、音もなく陰部を濡らして落ちた。それから、ちろちろと細い筋が割れ目を伝い、洗面器の底を叩く音がぴちゃ、ぴちゃ、と途切れながら響き始める。やがて柚那は力を抜き、貯めていたものを一気に放った。あたたかい水流が自分の一番柔らかい場所をくすぐりながら流れ出て、洗面器の中でしょろしょろと泡立つ。飛沫が内腿の内側に跳ねて、生ぬるく弾けた。それは甘ったるいような、それでいてどこか塩辛いような、自分の内側から溢れ出た生の温かみとして、太腿のつけ根をじんわりと濡らしていく。
「あー、すごい。いいよ、柚那。そのまま全部出して」
ワタルの声が、どこか非常に遠いところから聞こえた。スマホの画面が濡れた陰部を舐めるように動き、ちかちかと白い光が揺れる。尿のぬくもりが、冷えた玄関の空気に触れて、白い湯気のようになって立ちのぼっている気がした。柚那はスカートをたくし上げたまま、脚をわなわなと震わせて、ようやく一滴まで出し終えた。
洗面器の中には、薄く黄色がかった液体が静かに揺れている。自分の放ったものの匂いが、少しだけ鼻を刺した。尿の匂い、汗の匂い、そして、さっきから下着を濡らしていたものの匂いが、玄関の冷たい空気の中で混ざり合っていた。ピンク色の洗面器の内側を伝う水滴の光が、白い照明を受けて、いやに綺麗で、いやに汚らわしく見えた。柚那はその光を、ただ呆然と見つめていた。
ワタルはスマホを下ろすと、柚那の頭をぽんぽんと軽く撫でた。骨ばった長い指が、ツインテールの結び目の上を滑る。
「よくできました。すごく可愛かったよ」
その言葉が、張り詰めた心の表皮を溶かしていく。恥ずかしさで燃えていた頬の熱が、今度は誇らしさにも似た痺れに変わっていくのがわかった。これが、恋人どうしのする特別なこと。ワタルと柚那のあいだにだけ通っている、誰も知らない道。そう思うと、足の震えが少し軽くなった。
その後、ワタルはハイテンションのまま柚那の手首を引いて、部屋の奥へ連れていった。洗面器は玄関に置かれたままだった。柚那は下着を履かされないまま、スカートの裾が素足の太腿を撫でるのを感じながら、配信用照明の白い光の中を歩いた。あの光が今日は一段と明るく、身体中の線を余すところなく照らし出しているようで、素肌のあちこちがちりちりと灼ける気がした。床に裸足で踏み出すたび、ひんやりとしたフローリングの感触が、濡れた足裏をそっと吸い付くように伝わってきて、それが歩くたびにゆっくりと自分の輪郭を浮かび上がらせていくのだった。
リビングの床には、いつものようには布が敷かれていなかった。ワタルは柚那をそのまま四つん這いにさせると、背後に回り込んでスカートを腰ごとまくり上げた。露わになるお尻に、冷えた空気がまとわりつき、柚那は背中を小さく震わせた。
「こういう体勢の柚那ちゃん、一回撮ってみたかったんだ」
カメラのシャッター音が静かに二度、三度と鳴る。ワタルはしばらく柚那のお尻を様々な角度から撮りながら、片手の平で臀を撫で回した。指先が、後ろの窪みを探るように、ぬるりと移動していく。白い照明の下で、彼の骨ばった指の影が柚那の肌の上を這い、その影の動きを見ているだけで、触れられていないはずの場所までくすぐったく疼いた。
「ここ、前からちょっと気になってたんだけど。ねえ、舐めてもいいかな。柚那ちゃんの、ここ」
そう問われた瞬間、お尻の窄まりがきゅうっ、と縮んだ。それがワタルの目にどう映ったのか、後ろから笑い声が聞こえる。
「力抜いてて。すぐ気持ちよくなるから」
彼の両手が柚那の臀を左右に割り開く。堅く閉じた蕾のような其処が、冷えた空気の前に無理やり晒された。それから、生温かく濡れた舌が、その窄まりへゆっくりと押し当てられた。
「あっ、……んぅ、や、……」
柚那は声を噛み殺し、床に爪を立てた。ざらついた舌の表面が、皺の一本一本を舐め解すように這い回り、窄まりの中心を何度も執拗に押しのばす。ぬちゅ、ちゅる、という湿った音が、自分の耳から真っ直ぐに入ってきて、腰の奥がじん、と甘く痺れた。ワタルの舌は、お尻の穴に先端を潜らせるように動き、ぬめる唾液が窄まりから尾骶骨のあたりへ伝って落ちる。その唾液が肌を辿っていくもどかしい感触が、背骨を小さな虫が這い降りるように、ちりちりと甘く皮膚の上を移動していった。
「ふうっ、……あ、あっ」
堪え切れずに声が漏れた。ワタルは顔を離さないまま、陰核のあたりにも指を伸ばす。前へ流れ出していた愛液を指先ですくい、尖りをころころと転がすように愛でる。身体の前と後ろから同じリズムで攻められ、柚那は腰を浮かせて、みっともない格好のまま息を乱した。後ろの穴を舐められているという事実が、頭の芯を痺れさせる。恥ずかしくて、恥ずかしくて、その恥ずかしさが皮膚の内側を熱く溶かしていく。こんな場所を、排泄のためだけに使うはずの場所を、ワタルは夢中になって舌で這い回っている。その音が、湿った生き物の声のように、耳のすぐ側で鳴っていた。頭の中では、逃げ出したい気持ちと、もっと彼の舌を深く受け入れたい気持ちが、熱い渦を巻いてせめぎ合っている。羞恥に潰されそうなのに、ワタルに夢中になってもらえているという事実が、心をちかちかと眩しく責め立てる。恥ずかしさと悦びが、まるで二本の熱い糸になって、下腹の奥でぎりぎりと互いを縛り合っていた。縛り合ったその糸が揺れるたびに、奥からまたぬるりと熱いものが滲み出て、ワタルの指の動きをいっそう滑らかにしていく。その滑らかささえも、自分の淫らさの証のように思えて、目の奥がじんと熱くなった。
「すごい、こんなにして。柚那、舐められるの好きになった?」
ワタルの声が、唾液に濡れた音と混じって後ろから届く。柚那は首を振ることすら忘れて、ただ床に額をこすりつけるようにして喘いだ。好きとか嫌いとか、そういうものではなく、ワタルにされていることが、身体の中で快感という形になって積み重なっていく。それが恐ろしいような、もっと欲しいような、ぐらぐらした気持ちで、息をするたびにお腹の下が熱く蠢いた。こんな淫らな場所を舐められて感じてしまう自分が、たとえようもなく浅ましいと思った。それでも、いや、そうだからこそ、ワタルにだけ見つけてもらった秘密の穴として、この窄まりが特別に思えてしまっている。床に落ちた自分の唾液をぼんやり眺めながら、恋人だから、そう、ワタルとは恋人だから、何をされても、何を見られても、きっと赦されるのだと、心の奥で何度も繰り返していた。
しばらくしてワタルは上体を起こすと、今度は柚那を仰向けにひっくり返した。スカートは腰の上で丸まったままだった。彼は柚那の両脚を大きく押し開かせ、露わになった性器をスマホのレンズで覗き込む。白い配信用照明の光が、じっとりと汗ばんだ陰部をてらてらと照らし出していた。閉じられた脚の奥、薄い茂みの下、緊張と羞恥でひくひくと震える肉襞の中心まで、あの光は余さず暴いていくようだった。柚那はされ尽くした自分のそこが、いまどんな色をして、どんなふうに開かれているのかを想像して、首の後ろがまた無性に熱くなった。そうして太陽が昇るようにゆっくりと、内腿のあいだから恥骨のふくらみへ、淡い陰影が順々に移っていく。その光の角度が変わるたびに、自分の恥部がいっそう深く、露骨に、ひらききっていくように思われた。
「中出しした後のここ、すごくいいね。まだ先週の、残ってる感じがして」
実際には、いつもワタルに言われるまま薬を飲み、中に出してもらうたびに、柚那の身体は彼の匂いをどこか深い場所に閉じ込めているような心地があった。ワタルは指先で大陰唇を開き、内側の桃色に濡れた襞までを画面に焼きつける。接写レンズの冷たい感触が、恥丘の近くに軽く触れた。指が膣の中を探り、ぐちゅ、と粘っこい音を立てて出し入れされる。彼のカメラがその動きを追い、一番恥ずかしいところが、彼の手によってどんどん開かれていく。開かれるたびに、内側の熱が空気に触れて、ぬうっ、と波のように息が溢れた。
「ねえ、柚那。今から中、入れるから、カメラ目線くれる? 淫乱なところ、いっぱい撮らせて」
ワタルは柚那の腰を持ち上げ、自分の性器をあてがってきた。あてがうといっても、まだ入口はとろとろに解れていて、彼の熱い先端を吸い込むようにして呑み込んでいく。それは、乾いた冬の空気の中に突然、初夏の果実が落ちて割れるような、水分に満ちた音を伴っていた。柚那は言われたとおりカメラを見ようとして、けれども白いレンズと照明の光があまりに強くて、目を細めることしかできなかった。
「あっ、……や、ぁあ、……! んん、……!」
奥へ侵入してくる彼の熱が、内壁を押し広げながら進んでくる。雁首のくびれた場所が入口の一番敏感な襞を擦り、腰をひゅっと跳ねさせた。ワタルはスマホを半開きの唇に向けたり、結合部に近づけたりしながら、腰をゆっくりと動かした。ぬぷ、ぬぷ、とぬかるんだ水音が、部屋の隅々にまで響いているようで、耳を塞ぎたくなるほどだった。こんなに恥ずかしい姿を撮られているのに、奥の襞はワタルの熱をきつく巻きついて離さない。カメラに晒されているという事実が、逆に身体の隅々の感度を引き上げて、腰が浮くほどの快感に変えていく。逃げたいのに、もっと映されたい。隠したいのに、もっと見つめてほしい。相反する思いが、内ももを伝う汗と一緒に、ぬるりと肌の上へ流れ落ちていった。
「あー、柚那のここ、きつくてあっつい。毎週通ってくれてるから、だいぶ僕の形になってきたよね」
柚那は彼の言葉に反応したくて、内壁で彼を強く締め上げた。するとワタルが喉の奥で笑い、抽送が少し荒くなる。結合部に唾液と愛液と汗が混ざり合い、白く泡立っているのが、自分の太ももの間から視界に入った。彼の下腹が恥丘に当たるたび、膨らんだ尖りが磨られ、目の前が白んだ光でいっぱいになった。その白い光のなかを、快感がまるで無数の銀の糸のように駆け抜けていく。一本一本が子宮の入り口で弾けて、小さな火花を散らし、そのたびに視界の端が、ぱちぱちと明滅した。
「このまま中に出していい? 柚那、欲しいよね。今日も薬、飲んできてるんでしょ?」
柚那は首を縦に振って、奥へ、奥へと押し寄せる快感の波の先端を追いかけた。朝、自宅を出る前に飲んだ白い錠剤の、あの細い苦みが舌の裏に疼く。ワタルのためなら、そう思うたびに頭の中がとろとろに溶けていく。これが恋人の、仕組みなのだと、もう一度自分に言い聞かせた。ごくりと喉が鳴る。アフターピルを飲むたびに感じる、あのかすかな吐き気にも似た重さが、いまはどうしてか甘い予感に変わる。彼の熱を受け止める準備を、こうして毎週欠かさず整えている自分が、たまらなく健気で、淫らで、けれども確かな愛情に繋がっている気がした。恋人だから、彼の赤ちゃんを孕まないよう、身体を整えておく。それもきっと、ワタルと柚那の特別な契約で、真面目な十三歳の恋人として、果たすべき役目なのだ。
ワタルは最奥でしばらく動きを止めたあと、激しく揺さぶるように腰を打ちつけた。パンッ、パンッ、という肌がぶつかる音が、配信用照明の無機質な明るさの中を飛び交い、意識の隅々まで埋め尽くす。やがて彼が低く呻くと、身体の芯を、あの灼けるような熱が満たしていくのがわかった。どく、どく、どく、と何度も打ち上げられる彼の欲望を、柚那は瞳孔の奥で白い光に照らされたまま、ただ身体全体で受け止めていた。その熱が子宮の奥の奥まで染み渡っていく感覚は、甘い痛みに似ていて、息を吐くたびに胸の底から絞り上げられるような切なさを連れてきた。白い天井の光が、まるで降り止まない雪のように、視界いっぱいに静かに降り積もっていく。その光の雪に埋もれながら、柚那はそっと爪先を丸めた。
ワタルは柚那の身体からゆっくりと抜くと、汗ばんだ前髪を指でかき上げて、彼女の方を向いた。彼の息はまだ熱を帯びていたが、その目はすでに次の興味へ動いている。柚那は脱力したまま床に横たわり、天井の配信用照明をぼんやりと見上げていた。身体の芯に満ちた彼の熱が、ゆっくりと自分の中で沈んでいく。その重みが、どこか優しく、胸の奥を満たしていた。けれど、満たされているのに、どこかがささくれ立っている。その正体を確かめるより先に、甘やかな疲れが瞼の裏へ押し寄せてきて、柚那はただ呼吸を整えることだけに意識を集中させた。天井の配信用照明が、この部屋の真実をすべて映し出す大きな鏡のように思えて、そっと目を逸らした。
ワタルはスマホを手に取ると、立ち上がり、壁際のデスクへ歩いていった。画面を何度かタップする。柚那はぼんやりと、その背中を見ていた。彼が何をしているのか、最初はよくわからなかった。ワタルはスマホを耳に当てるでもなく、ただ画面を親指で滑らせている。時折、低く笑う声が漏れた。
「柚那、ちょっとこれ見て」
ワタルがそう言って、柚那の目の前にスマホを差し出した。画面には、さっき撮ったばかりの動画が映っていた。玄関で洗面器を跨いだ柚那が、小さな声で「柚那は、今から、おしっこします」と呟いている。声まで録れている。柚那は咄嗟に目を逸らした。自分の姿が、自分の声が、こんなふうに画面の中で動いている。その事実だけで、頬に一気に血が上るのを感じた。
「もう、こんなの見せないで……」
「いいじゃん。俺、あとでじっくり見るし。でもさ、こういうの、一人で楽しむのもなんだかなって思ってさ」
柚那はその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。一人で楽しむ。つまり、今まではワタルが一人で見ていたのだ。柚那はそっとワタルの顔を見た。彼の目は、まだスマホの画面を追っていて、口元が薄く笑っている。その笑みが、柚那には少しだけ冷たく見えた。まるで、自分の身体の輪郭からほんの少しはみ出した場所で、彼が一人、違う地図を広げているような、そんな隔たりを感じた。
「だからさ、こういう動画、俺の仲いい連中のグループ、あ、配信仲間のLINEなんだけど、そこに流してもいいかなって」
ワタルは何でもないことのように言う。けれども、その声は柚那の胸の奥で、金属音のように反響した。柚那の頭の中が、一瞬真っ白になった。友だち、配信仲間、グループ。その言葉がばらばらになって、頭の内側でぐるぐると回り続ける。白く明るい部屋の空気が、その瞬間だけ、分厚いガラス板になって耳を塞いだような気がした。ワタルの口元はまだ小さく動いているのに、その声だけが妙に遠く、水面の向こうから響くようにぼやけて聞こえた。
「え、……何、言ってるの」
柚那の声は、自分の耳にも届かないほど小さく乾いていた。ワタルはちらりと柚那の裸の脚を見て、にやりと目を細める。
「そのままの意味だよ。柚那ちゃんの散歩してる姿とか、ただの配信の切り抜きなんかより、よっぽど面白いと思わない?」
「……だって、こんなの」
柚那は言葉を継げなかった。友だちに見られる。知らない大人の男の人たちに、おしっこをしている自分の姿を、あのような光景を、恥ずかしい声ごと見られてしまう。胸の奥に、鈍い恐怖が広がっていく。それは、ワタルに撮られるのとは比較にならないほど、底冷えのする感覚だった。自分だけの恥ずかしい秘密が、自分たちだけの大事な動画が、無数の知らない目によって舐め回される光景が、瞼の裏にくっきりと浮かんだ。ワタルは柚那の肩を軽く引き寄せ、汗で額に張り付いた前髪を指先で掬い上げる。
「柚那ちゃん、可愛いから大丈夫。俺の自慢の恋人なんだよ。仲間にも見せてやりたいって思うくらい」
「……私、ワタル君だけに見てほしいのに」
その声は、ほとんど泣き出しそうな声音だった。ワタルはしばらく柚那の顔をじっと見つめ、それから息を一つ吐き出すと、手を離して、スマホを揺らしながら立ち上がった。彼は視線を画面に戻し、まだ動画を送る素振りは見せない。けれども、親指が送信ボタンの近くで止まっているのが、柚那にははっきりと見えた。心臓が早鐘を打つ。ぞくり、と背中に冷たい汗が滲む。ワタルが今にも送信ボタンを押してしまう。その予感に、指先が氷のように冷えていく。床に落ちた自分の影までが、照明の白い光のなかで、すがりつくように小さく縮こまっている気がした。
「恥ずかしいよ、……お願い」
柚那は床に座ったまま、ワタルの手首を小さく握っていた。力なんてほとんど入っていない、縋るだけの指。ワタルはその手をちらりと見て、それから、まるで幼い子供をあやすような調子で、うんうん、と頷いた。
「柚那ちゃんがイヤって言うなら、今日はやめておいたげる。その代わり、次からはもっと見せてくれる?」
ワタルはそう言って、にこりと微笑む。柚那の心の中で、ほっとした思いと、底のない不安とが同時に渦を巻いた。今日はやめておく。つまり、いつか見せる日がくるかもしれない。その事実が、胸の内側をざらついた風のように吹き抜けていく。それでも柚那は、小さく頷いて見せることしかできなかった。ワタルに嫌われるより、ずっとましだ。そう思うほかなかった。
その後、ワタルはようやく立ち上がり、ティッシュの箱を柚那の足の間に置いた。柚那は震える手で自分を拭き、スカートを整えた。部屋の中にはまだ二人の熱い空気が沈んでいたが、先ほどまでの甘い高揚感はどこか薄れ、かわりに生ぬるい何かが床の上に残っている気がした。ワタルは柚那の頭を軽く撫で、鼻歌混じりにキッチンの方へ歩いていく。やかんを火にかける金属音が、静かに部屋へ響いた。
柚那は壁にもたれて、目を閉じた。心は静かに、ゆっくりと、熱を持ったまま揺れていた。恋人だから、ワタルのためなら、という思いは、まだ胸の中心に灯っている。けれど、その灯りが照らす場所の形が、今日、ほんの少しだけ変わってしまった。友だちに見せたい、その言葉が、細い棘のように心のやわらかな部分へ刺さったまま、帰り道でもずっと疼いていた。
帰り道、空はもう少し暗さが増していた。太陽が西へ傾き、街並みに細く長い影が這っている。柚那はスカートの下が心もとなくて、でもそれがどこか誇らしくもあって、ゆっくりと駅までの道を歩いた。今日もワタルに「恋人だから」と言われた。その言葉が、胸の中で何度も甘く反響している。身体に残る彼の生温かい余韻が、心をほんわかとふわつかせていた。恥ずかしいことをした。でも、それは全部、恋人として特別に選ばれた証だ。そう思うと、冷たい風も、まだ少し触れられたくすぐったさも、全部が自分だけの宝物のように思えた。ただ、ワタルが言った「友だち」という言葉だけが、宝物の箱の隅に、ちいさな砂粒のようにひっそりと紛れ込んでいる。振り払おうとするたびに、ちくり、ちくり、と胸の奥で小さな痛みを繰り返す。けれど柚那は、それすらも恋する心の一部なのだと、歩きながら一人で何度も自分に言い聞かせた。
その夜、柚那は自宅の自分の部屋で、ベッドに腰を下ろしたままスマホを眺めていた。部屋の灯りは豆電球だけで、窓の外から差し込む街灯の光が、カーテンの花柄を壁にぼんやりと映し出している。いつものようにワタルのSNSを開こうとして、ふと、通知のタブに知らないアイコンが並んでいるのに気づいた。濃い紫色の星のアイコンだった。そこには、英語のアルファベットがいくつか並ぶ、見覚えのないアカウント名が浮かんでいた。
「ワタルからもらった動画、最高だったよ。今度は直接会わない?」
文面は、たったそれだけだった。柚那の親指が、画面の上で凍りつく。心臓が、とくん、と一度大きく跳ねて、そのまま耳の奥へ血を上らせた。ワタルからもらった動画。そんなはずはない。今日、ワタルは「やめておいたげる」と言った。その言葉が、頭のなかで何度も繰り返し鳴り、目の前の文字とぶつかって砕けていく。画面を見つめる柚那の指先が、かたかた、と細かく震えだした。
恐る恐るメッセージの送り主のプロフィールを開くと、そこには黒い背景に白い文字で「成人男性・都内在住・映像制作」とだけ書かれていた。フォロワーもフォローもほとんどなく、鍵のついたような、ついていないような、ひどく不気味な空白が広がっている。柚那は急いでスマホを伏せて、部屋の中で立ち上がった。口の中が乾いて、指先の震えが止まらない。ワタルはあのあと、本当は動画を送ってしまったのだろうか。それとも、知らない誰かが、どこからか盗み出したのだろうか。どちらにしても、いま、自分の一番恥ずかしい姿が、知らない大人の男の手に渡っている。ベッドの上で、淡い色のぬいぐるみたちが、いつもと変わらぬ顔で柚那を見つめていた。その無邪気なまなざしの下で、柚那は声もなく、唇を噛みしめた。
「ワタル君、どうして……」
呟いた声は、豆電球の灯りのなかで、小さくほどけて消えていった。カーテンの向こうでは、十二月の風が窓枠を細く鳴らしている。柚那はスマホをもう一度手に取ると、震える指でメッセージを消し、ブロックのボタンを押した。けれども、画面が戻ったあとも、心のどこかにあの紫色の星が張り付いたように残っていて、目を閉じても、じんわりと熱を持って浮かび上がってくるのだった。ワタルにだけ見てほしい、その祈りはもう、どこかであっけなく手垢にまみれていた。それでも、明日になればまた、好きだという気持ちだけが先に立ってしまうに違いない。柚那はベッドに倒れ込み、冷えた布団を頭まで被ると、声を噛み殺して、細く長い息を吐いた。スマホの画面が、耳のそばで、小さな白い光を放ったまま、いつまでも眠りの中へ沈んでいこうとしなかった。
第6章 木曜の呼び出し、広げられた奥

木曜日の午後、学校の時計が二時を回る少し前、私は保健室の白いベッドの上で、じっとカーテンの揺れを見つめていた。十二月も第二週に入り、窓の外の空気は乾いて、日差しだけがやけに明るく窓枠を縁取っている。昼休みが終わったばかりの校舎は、遠くで掃除当番の声がして、あとは静かだった。私は朝から何度もお腹のあたりを擦っていた。痛いわけではない。ただ、昨夜からずっと、下腹の奥がむずむずと熱を持っていて、椅子に座っているあいだも、太ももの内側に汗が滲むのを感じていた。五時間目の授業が始まる前に、私は担任の先生へ「体調が悪いので早退します」と小さな声で言った。本当は、朝からずっと元気だった。心臓は早鐘を打ち、指先は冷たいのに、頬の内側だけが火照っている。保健室の先生が検温してくれた体温計は、三十六度八分。平熱より少し高いだけの数字を見て、先生は「念のため、家で休みなさい」と私の背中を軽く押した。私は小さくお辞儀をして、昇降口へ向かった。下駄箱で靴を履き替えるとき、指先が自分の靴紐にうまく届かなくて、何度かやり直した。
校門を出ると、昼下がりの住宅街はひっそりとしていて、どこかの家から洗濯物のはためく音だけが聞こえていた。私は学生服の上にコートを羽織り、マフラーを口元まで巻いて、駅への道を早足で歩いた。部活が休みだと親に言ってある。本当は今日、吹奏楽部の練習があった。クラリネットのリードを新しくして、先生に音色を聞いてもらう予定だったのに、今朝起きた瞬間から、私の頭のなかにはワタル君のことしかなかった。月の半分も経たないうちに、私は平日の明るい時間に彼のマンションへ向かっている。これが三度目の、学校を抜け出しての訪問になる。駅のトイレで着替える時間を考えながら、電車の中で何度も時計を確認した。待ち合わせは二時半。今からなら、ちょうどいい。電車は空いていて、座席に座ると、スカートのプリーツが腿の裏に冷たく張りついた。外の光が窓から斜めに差して、私の膝の上を白く滑っていく。私は目を閉じて、ワタル君の部屋の匂いを思い出そうとした。白いシャツの柔軟剤の香り、配信で使っている機材のコードの、少し焦げたような熱の匂い、そして、あの照明の光。今日はどんな光の中で、どんな言葉で、私の身体を開かれるのだろう。そう思うと、指先が震えるほど恥ずかしいのに、唇の内側が勝手に緩んで、私はマフラーに顔の下半分を埋めた。
マンションに着くと、エントランスのガラスが夕方でもないのに、自らの奥まった重さを宿して私を映した。十二月の空気は鼻の頭を冷たく撫で、わずかに震える息が白くほどける。私はコートの襟元を直し、マンションのオートロックの前へ立った。インターホンのボタンを押す。呼び出し音が二度鳴って、しばらくの沈黙のあと、スピーカー越しにワタル君の声が流れた。
「あ、柚那ちゃん。ちょっと待って、今開けるよ」
その声は、昼間の配信の時よりもずっと掠れていて、眠りから起きたばかりのような、少し鼻にかかった響きがあった。私は「はい」と短く答えた。解錠の音がして、エントランスの重い扉が静かに吸い込まれていく。中へ入ると、空調の生ぬるい風が顔の表面をくすぐった。エレベーターの箱は無音で上へ昇り、停止するたびに内臓がふわ、と浮く感覚がした。廊下はしんとしていて、差し込む午後の光が、磨かれた床に長い窓の形を落としている。ワタル君の部屋の前で立ち止まり、呼び鈴を押そうとして、指が一瞬迷った。ブラウスの襟元を整え、前髪を指先で払う。深呼吸を二度。心臓が痛いくらい鳴っている。
ドアが開くと、ワタル君は今日も洗いざらしの白いTシャツに、薄いグレーのカーディガンを肩から引っかけていた。黒い前髪が眉の上にかかって、目は細められている。口元には、いつもの笑みの前触れのような、ほんの少し持ち上がっただけの弧があった。彼は私の頬と首を順番に見てから、うなずいた。
「いらっしゃい。早退、大丈夫だった?」
「うん。……保健室、三十六度八分だったから」
私がそう言うと、ワタル君は「へえ、微妙な熱だ」と笑って、ドアを広く開けた。私は靴を脱ぎ、コートを腕に抱えたまま廊下の端に立った。部屋の中は、思っていたよりもずっと薄暗い。配信用の大きな照明は点けられていない。カーテンも閉じたままで、昼の光が薄い木目調のカーテンを透かして、部屋全体を蜂蜜色に染めていた。私の記憶にあるワタル君の部屋は、いつもあの白い光で満たされていたのに、今日は違う。隅に立てかけられた配信機材の黒いコードが、生き物の静脈みたいに床を這っている。光が足りないぶん、コードの黒さがいっそう冷たく、硬く見えた。機材のランプだけが、いくつかちりちりと小さく点滅している。私はカーテン越しの光で陰になった部屋の空気を吸い込んだ。ほこりっぽくはなく、昨日のゲーム配信で使ったのか、機械の熱の匂いがほんの少しだけ残っていた。
「寒い? 暖房、一応つけてるんだけど、起きたばっかりでさ。今日は陽が入るから、照明つけるよりちょうどいいかと思って」
ワタル君が手のひらで空気を掴むような仕草をした。私は首を横に振った。実際、手足の先は冷えていたけれど、お腹の奥はむしろ火がついたみたいに熱くて、上着を脱いだらその熱が部屋にまで漏れてしまいそうな気がしていた。私はコートを畳んで、隅の一人がけの椅子へ置いた。カーディガンも脱ぎ、白いブラウスの上から自分の細い腕をさすった。ワタル君がキッチンの方からペットボトルの水を持ってきて、テーブルの端へ置く。「飲む?」
「後で、飲む」
私が小さく答えると、ワタル君はソファの背に手を置いて、私の顔を覗き込むようにした。薄暗い光の中で、彼の黒い瞳が濡れたように光って見える。私はその瞳に視界を吸い寄せられ、うつむいた。心臓の音が、耳の奥どころか、喉の粘膜にまで響いているみたいだった。
「あのさ、今日、柚那ちゃんに試してもらいたいことがあって呼んだんだけど」
ワタル君の声が、いつもより少しだけ低い。私は顔を上げずに、ブラウスの裾を指先で挟んだ。試してもらいたいこと。その言葉は一昨日の夜、DMで受け取っていた。文面は短かった。「木曜、来られるなら、後ろの穴も開発しない?」と。私はその一文を何度も読み返して、布団の中で何度も寝返りを打った。後ろの穴。ワタル君の舌で舐められた、あの窄まった場所。先週、彼の指先が縁をなぞっただけで、腰の奥がぐらぐらになった。その先を、される。怖いのに、ワタル君が私の身体で「試したい」と望んでくれることが、何より胸を熱くした。学校を休んでいい。部活を休んでいい。彼の望むことなら、全部していい。そう思えてしまう自分が、薄暗い部屋の中で、少しだけ違う色に光って見えた。
「うん。……わかってる」
私が答えると、ワタル君は私の肩に手を置いて、ソファの前へ立たせた。彼はそのまま、私のブラウスのボタンへ指をかける。今日の彼は、いつものようにカメラを用意しない。配信用照明も点けない。そのことが、薄い布を一枚ずつ剥がされる私の肌を、逆に暴いていく。プツン、とボタンが外れる音は、部屋の隅に眠る機材の沈黙に吸い込まれて、すぐ消える。光が足りないぶん、音と熱だけが、私の輪郭をはっきりと浮かび上がらせた。
ブラウスを脱がされて、スカートを下ろされる。下着だけになって、私は肩を窄めた。窓からの薄い光が、私の胸からへその窪み、そして太ももの内側までを、ゆるやかに濡らしている。平日の昼間。学校のみんなが教室で五時間目の授業を受けている時間に、私は推しの部屋で下着姿になっている。そのことの後ろめたさが、太ももの裏から這い上がって、乳首の先をちり、と硬くした。ワタル君は、私の下着のゴムへ指をかけたまま言った。
「今日は、明るくない方が、柚那ちゃんの穴の感覚だけに集中できるかなって思って。カメラも置いとくよ。ずっと触るから」
彼の指が、花柄の下着の上から、私の割れ目のふくらみを、ゆっくりと、しかし強い圧で、下から上へなぞる。私はびくり、と腰を震わせ、声を唇の内側で噛んだ。それから下着も脱がされ、ブラジャーのホックも外された。部屋の薄明かりの中で、私の白い肌は沈んだ光を吸って、青みを帯びて見える。十三歳の身体にはどこまでもあどけなさが残っていて、胸はまだ蕾みたいなふくらみ、腰のくびれはやわらかい。けれど、脚のつけ根だけは、蜜を滲ませてぬるぬると光っていた。ワタル君の視線が、その場所へ長く止まっている。私は両手で胸と下腹を隠そうとして、その手をワタル君に外された。
「隠さなくていいよ。今日、全部お世話するのは、その奥のほうなんだから」
ワタル君が、ソファの前から低いベッドマットの方へ私の手を引いた。部屋の奥に置かれたそれは、白いシーツが敷き詰められていて、うすぐらい光の下では波打つ陶器のように見えた。私は言われるまま、四つん這いになった。閉じたカーテンの隙間から、午後の光が細く差し込み、私の背中から落ちた影がシーツの上で斜めに歪んでいた。膝を開いて腰を突き出すと、空気が全裸の窄まりや秘裂へ直接ふれて、全身の産毛が逆立った。
ワタル君が背後に膝をつく。床がぎし、と軽く鳴った。彼の骨ばった指が、私の尻たぶへ触れる。外の空気で少し冷えた手のひらが、やわらかい肉を掴むように揉み、その後、ゆっくりと左右に押し開いた。露わになった後ろの蕾は、薄暗い中でも濃い色をしている。私は自分の身体の、自分でも見たことのない場所を彼に晒している。その事実だけで、後頭部のあたりがじんわりと痺れ、頬に血液が集まるのがわかった。
「ここ。前、舐めた時よりも、ちょっと力んでるな。可愛い」
ワタル君が、ぬるりと唾液を指先に絡めて、窄まりへ塗りつける。冷たい唾液が、閉じた穴の表面を一まわりしながら滑っていく。私は声を出しそうになって、唇の内側を噛んだ。彼の指先が、まずは円を描くように周囲の皺をなぞる。最初の一本が、つぷ、と先端だけ挿し込まれる。昨日も、その前も、自分の指で何度か触れた場所なのに、他人の指というだけで、異物感がこれほどまでに強い。私は爪をシーツへ食い込ませ、息を細くした。ワタル君は、私の背中を片手で撫でながら、ゆっくりと第一関節を出し入れする。ローションのボトルを開けたらしく、空気に混ざる甘ったるいゼリーの香りが、私の鼻先をかすめた。
「柚那ちゃん、力、抜ける? 息、吐いてごらん」
ワタル君の声は低く、けれども舐めるような甘さがあって、私は言われるまま息を吐いた。細く長い呼気と一緒に、背中の力がふ、と抜けていく。ぬるぬるとした滑りをまとった指が、第二関節まで入ってくる。ここが、後ろの穴。排泄のためだけにあるはずの場所を、ワタル君が指で埋めている。怖いのに、その圧迫が、すぐ下の奥をいやらしく掻きまわすような、鈍い快感に変わっていく。身体のなかで、前と後ろが同時に熱を持って、私は小さく腰を揺らした。ワタル君は、私の反応を見透かしたように、もう片方の手を下腹の下へ滑り込ませた。膣の入り口を指がくぐると、とろりと溢れていた蜜が、彼の指をいとも簡単に濡らした。
「こっち、すごく濡れてる。後ろ触られて、前が濡れるって、ほんとうなんだね」
ワタル君が、感心したような声で言う。私は恥ずかしくて、首を振ることすらできなかった。でも、身体は彼の言葉に応えるみたいに、膣の入口をひくひくと窄め、同時に後ろも彼の指を締めつける。ワタル君が低く笑う。指が、後ろの内側をゆっくりと拡げながら、節をひとつ、またひとつと、さらに深くへ進めていく。私の肛門の入り口は、焼けつくような熱で縁取られ、中はぬめった岩を這うような、こそばゆい苦しさがあった。お腹の内側へ、前とは違う角度の力が入り、子宮の裏側あたりを、遠くからぐ、と押されている気がする。息がしにくい。息を吸うたび、お腹と胸が小刻みに震えて、四つん這いの膝が溶けそうになった。
「あ、……ん、……ぁ、……ぅ」
口から、声とも吐息ともつかない塊がこぼれる。ワタル君は、私の感度の変化を読み取るようにして、指の角度を曲げた。内側の柔い壁をちいさく引っ掻く。すると、私の全身に、ぴり、とした電流が駆け抜けて、前からはまた、あつい雫が垂れた。太ももの内側を、生ぬるい一滴がゆっくりと下っている。腰が、自分の意思とは別の意志を持ったみたいに動く。もっと、奥へ。もっと、中を。喉の奥で勝手に鳴る甘い悲鳴を、私はシーツに額をこすりつけて押し殺した。
「奥、きもちいい? 腸の、このへん」
ワタル君の指が、ぬちゅ、と音を立てて、中の一回り広い場所を確かめるように往復する。前の膣からは、とろりと蜜が溢れ、彼の手首まで濡らした。ワタル君は片手で膣の襞をこすりながら、後ろの指を三本へ増やそうとしている。その膨らみは、十三歳の窄まりにはあまりにも大きすぎて、私はたまらず腰を逃そうとした。ワタル君の、骨の浮き出た左手が、私の腰骨をぎゅう、と掴む。手は、力強い。けれども、彼の口から出る言葉だけは、さっきからずっと、羽根みたいに軽くて、ぬかるんだ音と調和していた。
「逃げない。柚那ちゃんなら、すぐ入るよ。奥の穴、すっごく素直だし、もっと奥まで入れてほしいって、きゅうきゅうしてるみたい」
彼の言うとおり、私の後ろの穴は、彼の指を外すまいと、ぬめると熱い肉で、きゅう、きゅう、と繰り返し締めつけている。自分では何もわかっていないはずなのに、私の肛門だけはワタル君を覚えて、貪っている。ワタル君は、三本目の指を、根元までゆっくりと沈めた。挿し込まれるたびに、内側で空気が押されて、ぐぷ、と汚れた音が耳へ届く。その音が、私の頭の芯を痺れさせた。指が抜かれるとき、肛門の入口が外側へめくれて追いすがり、また挿れられると、溶けた樹脂のように彼の指をのみ込む。ローションと腸液と唾液が、尻の割れ目をぬらぬらと泡立たせていた。
「前、空っぽでさみしいだろ。ちょっと、自分で触ってみたら」
ワタル君に言われて、私は右手を、尻の下の割れ目へと伸ばした。自分の指先が、ぬかるんだ陰唇のひだを開く。とく、とく、と充血した小さな芽が、指先から逃げるように震えている。ちゅ、と押すと、光が散って、口から、ふぁ、あ、という声が漏れた。私は自分の指で、ワタル君の動きに合わせるように、前を慰め始めた。後ろの穴に入れられた指の律動と、前の芽を自分の手で擦る感覚が、下腹の奥でぐるぐると混ざり、吐き出せない何かが、腰の後ろで渦を巻いていく。
「上手。そのまま、もっと、柚那がきもちいいって思うところ、全部触って。見せて」
ワタル君の声が、うなじのすぐ後ろから降ってくる。私は言われるまま、もう片方の指を前の入口へも滑らせた。自分で自分を、前も後ろも、全部。薄暗い部屋の中、四つん這いで、私は二つの穴を同時に慰めている。風呂でも布団の中でも、一人でするときはいつも目を瞑っていたのに、今日は自分の指の動きが見える。昼の光が、私のうすい背中に縞模様を落とし、汗で光る腰の窪みを浮かび上がらせる。私の右手が、白い内もものあいだで、ぬちゅぬちゅと音を立てる。ああ、いやらしい。私のお尻の穴は、今、ワタル君の骨ばった指を三本も食わえて、唇のように開いたり窄んだりしている。前の蜜は、太ももだけでなく、シーツにも垂れて、グレーの暗い染みを広げた。
「すごい音。柚那ちゃんの身体、こんなの初めてでしょ。後ろも、前も、一緒に触ると、中で何かが繋がった気持ちになるだろ」
ワタル君の言葉は、私の中の正体のわからない感覚に、名前を与えていく。彼の指が、直腸の中の、前の膣に近い場所を指の腹で押すと、私の指を咥えている膣が、はっきりと食いちぎるみたいにきゅう、と収縮した。膜一枚を隔てた場所。後ろを押されると、前のお腹の内側が燃えるように熱い。私は声を発することしかできなくなって、こくこくと頷いた。何度も、何度も。身体が、私の頭の追いつかない場所で、彼の望むままに改造されていく。
「そろそろ、僕のも、挿れて。さすがに、ゆびじゃあ、奥まで届いてる気はするんだけど。柚那の丸いお尻と、ここ。これ以上きつくなったら、指、折れそう」
ワタル君が、くす、と笑う。彼の指が、後ろからゆっくりと、しかし確かに抜かれていく。ずるり、と最期まで抜かれる瞬間、身体のなかで、空気とぬめりがくぐもった音を立てた。私は前を触っていた指を止め、シーツへ両手をついた。腰が、この先を期待している。膝が震える。尻たぶのあいだで、こぼれたぬめりが、露わな肛門をぬらぬらと光らせていた。ワタル君が、チャックを下ろしている音がした。彼の体温が後ろから近づく。下腹の奥が、ずきりと疼いた。
「最初はゆっくりね。柚那ちゃんが、自分で腰を下ろす? それとも、後ろから挿れたほうがいい? どっちがいいか、言ってみて」
ワタル君は、私の尻のふちに、熱い先端を触れさせた。灼熱の塊が、ヒクヒクしている窄まりを、軽く叩くように触れる。ぬめりが糸を引く。私は声を出そうとして、唇のあいだで何度か失敗した。
「うしろ、から、……奥まで、してほしい」
私が、涙の混じった声で、そう答えるしかなかった。そう答えるしかないほど、頭の芯まで蕩けきっていて、どれが自分の言葉か、ワタル君に与えられたものなのか、色が混ざって見え続ける。ワタル君は、私の腰をぐっと掴んで、位置を合わせる。彼の熱いものが、肛門の入口をゆっくりと押し開いていく。三本の指で開かれたはずの場所が、しかし、これは比べ物にならないほど太く、熱く、私の内側を、時間をかけて拓いていく。
「ふ、ぁ、……、ぁあ、ぅ、……あっ、ぁ」
頭の中が白く明滅する。薄暗い部屋なのに、まぶたの裏は光でいっぱいだった。あの白い照明とは違う、もっと土の熱に近い光。身体のなかを、肛門から上ってくる圧が、内臓の位置を変えていく。息を止めていると、余計に苦しい。ワタル君の熱い先端が、内側のいちばん狭い環を通過した瞬間、膣から、つう、と蜜が糸を引いて落ちた。私は喘ぎ、首を下へ垂れた。唇の端からは、自分の唾液が垂れている。身体じゅうの関節が、軋むほどに緊張しているのに、奥の奥が、とろり、と蕩けて、ワタル君を迎え入れようと蠢いていた。
「は、……全部、入った。柚那の尻、最っ高だよ。僕の、根元まで、咥え込んで。……動くから、爪、立ててていいよ」
ワタル君の声が、息をたっぷり含んで、私の背骨を震わせる。彼の腰が、少しずつ動き始めた。初めは、私の中の形を確かめるように、ゆっくりと。奥へ、浅く、そしてまた奥へ。そのたびに、ぬぷ、ぬぷ、という重い音と、私の泣き声が、薄暗い部屋の空気を満たしていく。気道の奥が、湿って、空気がするどく鳴る。後ろを突かれるたび、膣の前は、拭いても拭いても蜜が溢れた。シーツに染みる。太ももの内側を、私の液が幾筋も冷たい線にしてゆく。違う。冷たいのは表面だけで、芯は火みたいに熱い。ワタル君が、私の腰を、強い手で掴む。手の力だけが、唯一、ワタル君の存在を、私の輪郭のはっきりしない肉に、ぐっと刻んでいるように感じた。
彼の腰が、早くなる。パン、パン、と肌がぶつかる音が、閉めたカーテンにこもって、部屋の空気を震わす。壁に落ちた二つの影が、ひとつに重なり、また離れ、薄い光のなかで、私は他人の体みたいに見る。四つん這いの私。背中をのけぞらせ、垂れた髪の先がシーツに触れている。後ろから揺すぶられて、胸のちいさなふくらみが、重力に引かれて前後に揺れる。乳首は、空気に擦れて痛いくらい尖っていた。ワタル君が、片手を私の前へ回して、ちいさな芽を押し潰す。その瞬間、視界が、ぶわ、と白い火花に包まれた。
「あ、あ、……もう、……んぐ、ぅう、……!
腰が浮き、腸の奥がワタル君の形に染まっていく。彼は、私の名前を一度も呼ばなかった。あの白い照明の下では、何度も何度も「柚那」と囁いてくれたのに、薄暗い部屋の中で、カメラの回っていないこの行為では、彼は私を呼ばない。「ここ」「後ろ」「尻」「中」。ワタル君の言葉は、私の体の部品を、ひとつずつ照らすだけで、私自身の名前だけが、いつまでも訪れなかった。ああ、私は、ここでは「柚那」ではない。ワタル君に開発される「後ろの穴」として、ただ、ぬかるんだ肉の音を立てている。その疎外感が、どうして泣きたいほど熱い甘さに変わり、私は自分の頬を涙でどんどん濡らしていった。
「あ、ぁ、あ、……いい、……もっと、奥、もっと、突いて……」
口から零れ出る言葉は、もはや私のものではない。腸の奥を、彼がこじ開けるたびに、前の膣がきゅうきゅうと蠢き、私自身も指を伸ばして、前の芽を擦った。奥を突かれると、前が疼く。前を触ると、後ろがさらに熱を持つ。薄暗い部屋の中、私の二つの穴は、境界を失って、一つのいやらしい器官のようになっていた。ぬちぬち、ぐちょぐちょ、最後の繊維まで音が立てる。ワタル君の抽送が、だんだん速さと深さを増し、私の腰を、低いマットごと押しやる勢いになる。床から、きゅ、きゅ、というゴムの擦れる音がした。夕方の空気が、まだ明るいくせに、窓の縁から入る光は、とろりと紫を混ぜはじめている。
「出すよ。……一番、奥で、出させて」
ワタル君が、ようやく、声に熱を込めて私の耳へと囁いた。私は、うん、うん、と頷くことしかできない。彼が、私の仙骨のあたりをぐっと押さえ、腰の角度を変えた。肛門の入り口が、彼の根元できつく締まる。最奥へ、彼のものが、思い切り打ち込まれた。私は、声にならない絶叫をあげた。腸の底で、彼の脈打つ塊が、どく、どく、と爆発する。直腸へ、生ぬるいものが満ちる。精液の熱が、ひどくはっきりした粒子のように、私の奥へ、ひとつずつ塗り込まれていく。私の膣の奥も、何もされていないのに、きゅん、きゅん、と強く収縮して、腹のなかまで、彼に射精されたような錯覚にひたりきった。太ももの内側が痙攣して、ついには、だらしなく蜜を床へこぼす。シーツのうえに、私の匂いが、濃く散った。濃い芳香。メスの匂い。それが、自分の身体から立ちのぼっている。頭の芯が冷えるほどに、私は彼に満たされきっていた。
彼が、まだ射精の余韻のなかで、ゆっくりと私の腸から抜ける。栓が外れたみたいに、白濁したものが、開きっぱなしの肛門から、ぷく、と泡立って溢れ出した。尻たぶのあいだを伝い、前の割れ目を越えて、床へ落ちる。足のあいだから、股をひたす精液と愛液の温度が、まるで生きた生き物みたいにぬるかった。私はすべての力が抜けて、シーツのうえにうつ伏せになった。呼吸が、涙でぐずぐずになった鼻を通って、震える音を立てた。後ろの孔は、まだひくひくと開閉し、くぱ、くぱ、と音を立てるほどに彼の形を覚えている。自分のお尻の穴から、ワタル君の精子が、とろとろと溢れ続けている。
ワタル君は、ティッシュで、まず自分を拭いてから、私のお尻のふちを、まるで大事な機材を清掃するみたいに、ゆっくりと拭った。それから、私の太ももと、前の割れ目も。ティッシュの乾いた繊維が、敏感な肉へ触れるたび、私は喉の奥で声を噛んだ。ワタル君は、何かを言うでもなく、私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。こんなことをされたあとの仕草にしては、ずいぶん淡白で、その温度差が、私の胸を、ぎゅう、と冷えた指でつまんだ。でも、ワタル君に体を拭かれているあいだだけ、私はまだ彼の目の中にいる。そう思いたくて、腫れぼったいまぶたを伏せて、薄明かりの中に私の裸の背中がどこまで沈んでいるのかもわからず、じっとしていた。
ワタル君が、床に落ちた私の下着を拾い上げて、私の頭の上から軟くかける。私は、起き上がって、その下着を身につけた。ブラジャーをつけ、花柄のショーツを太ももまで上げる。ショーツが、まだ後ろから溢れる精液を拭い損ねたぬめりを閉じ込めて、皮膚に張りついた。気持ち悪いはずなのに、自分の下腹部に、まだ彼の射精を仕舞っているみたいで、脚を閉じると内ももがあたたかい。私は立ち上がり、ブラウスとスカートを身に着けた。制服じゃなくてよかった、と思った。身体にまとわりつく男の濃い匂いを、学校の制服に移すのは、あまりにも危うい。
部屋の隅で、ワタル君がスマホを手に取った。カーテンの隙間から差し込む午後の終わりの光が、彼の黒い前髪を薄く透かす。彼は、しばらく画面を見ていた。私はスカートのプリーツを軽く整え、コートを手に取った。玄関へ向かおうとしたとき、テーブルの上に置かれたワタル君のスマホが、暗闇の中で、短く震えた。ぶる、と音を立てる。あのDMの通知音とは、ほんの少し違う、マナーモードの低いつぶやき。一度、二度、三度。四度目が鳴ったところで、私は床にしゃがんで、スニーカーの紐を結ぶ手を止めた。紐は、まだ左の一本が解けかかっているだけだった。
ワタル君は、靴箱の横に立っていた。私の頭越しに、その黒い画面を、一瞥して笑ったように見えた。それから、私が見ていることに、たぶん気づいていた。彼は、けれど、スマホを裏返しにして、伏せた。画面の光が、彼の手のひらからこぼれるのを、押さえ込むみたいに。
「またね。柚那ちゃん、今日も可愛かったから、次はもっと長く一緒にいよう」
ワタル君は、伏せたスマホから私へ、目線だけを移してそう言った。私は、スニーカーの紐を結び直すふりをして、指先の震えを隠した。胸の奥で、四つの震動が、水に落ちた小石みたいに波紋を広げる。だれ。今の、だれ。今日は、カメラも、照明も、なかった。ワタル君は、一度も私の名前を呼ばなかった。それでも私は、その広げられた奥に、彼の熱を受け止めた。次は「長く」。その言葉を、私は鞄の底に、深く沈めるみたいにして飲み込んだ。
「うん。また……連絡、待ってる」
そう言って、私は玄関のドアを開けた。外の空気が、火照った身体に、氷の刃みたいに差し込んでくる。私は、溢れそうな涙をまぶたの奥に押し戻しながら、ワタル君の部屋を出た。ドアが閉まると、私のあとを追うように、もう一度だけ、鈍い通知の震動が、木の扉越しに聞こえた気がした。
第7章 呼ばれなくなる身体

ドアが閉まる音を背中で聞いてから、私はしばらく廊下の明かりの下に立ち尽くしていた。身体の芯に、まだワタルが残っている。熱い塊が腹の奥の方で小さく脈を打っていて、一歩踏み出すたびに、後ろの窄まりが露骨にひくついた。下着が濡れている。それは汗か、あるいは別のものか、私自身にも判然としないまま、太ももの間だけが妙に生温かくて、外の冷たい空気がその熱を際立たせていた。夕暮れ前の薄明かりの中で、配信機材のあるあの部屋の窓が背後の頭上に続いている。私は、ワタルのスマホが床で震えていたことを思い出していた。ぶぶ、ぶぶ、という、機械の振動音。誰からの連絡だったのか。私は、画面を伏せた彼の横顔を見た。あの一瞬の、薄暗い部屋の中での素早い手つき。彼は私と目を合わせなかった。帰り道、頭の内側にその振動音が何度も繰り返し響いて、吐く息が白く濁った。
翌週、ワタルからDMは届かなかった。最初の三日は、まだ忙しいのだろうと思った。配信もあったし、十月から立て続けに呼ばれていたから、たまには何もない週があってもおかしくない。そう自分に言い聞かせながら、けれども私は夜になるとスマホの画面をひっくり返して、通知の明かりが点くのを待った。金曜の深夜、ワタルの配信終わりの時間が過ぎていた。Xのタイムラインには「お疲れさまでした」というファンの投稿が並び、私もそれに紛れて一言だけ送った。
「お疲れさま。今週は忙しい?」
画面に文字を浮かべたまま、送信ボタンに指をかけた。一文が、あまりに短すぎる気がした。忙しいかどうかを尋ねるだけの、小学生みたいな文面。私は打ち込んだ文章を三度消して、結局、同じ言葉をもう一度だけ打った。送信。ぶる、と指先に小さな振動が走るのを感じた。青い吹き出しが画面の右側に張り付いて、その隣に小さな時計の印が現れた。それから、既読がついたのは土曜の昼だった。夕方でもなく、夜でもなく、中途半端な明るさの残る昼下がり。自分の部屋のベッドに寝転んで、何度目かの通知確認をしたときだった。既読の印が、青い光の粒のように浮かんでいた。小さな、本当に小さな二つの四角。それだけが、私の送った言葉の隣に貼りついている。返事はない。五分待って、十分待って、三十分待った。既読になったということは、ワタルが確かに私の言葉を読んだということだ。読んで、そのまま何も返さないで、またどこかへ行ったということだ。スマホを握った手のひらが汗ばんでいて、画面の滑りが悪くなっていた。私は何度もその既読の印を確認した。消えることはないのに、画面を下へ引っ張って更新を繰り返した。青い光の粒のような既読の印が、私のアカウントの画面に浮かんでいる。私はベッドに仰向けになったまま、その文字を見つめていた。忙しいのかもしれない。疲れているのかもしれない。心底では、そうではない別の理由を探している自分がいた。
十二月の半ばを過ぎて、空気は爪を刺すように冷たくなった。学校では吹奏楽部の練習が続いていて、マウスピースをくわえる口元が乾燥で割れやすくなっていた。友達と他愛ない話をしながら、私は自分の身体の異変を意識しない瞬間がなかった。ワタルに触れられる回数が減ると、身体の方が先に変わっていく。夜、布団の中で身じろぎするたび、乳首が寝間着の布に擦れて、ちがう、と思うような鋭い感覚が側胸を走る。指先でちょっと触れただけで、そこは硬く凝っていて、押し当てるように転がすと、腹の奥まで届く甘い痛みがあった。あの配信用照明の白い光の下で、ワタルの舌と吸引器具に晒された乳首が、彼がいなくなってもなお、記憶の形を覚えているみたいだった。
もっとひどいのは、夜の静けさの中で自分の陰核が疼くことだった。布団の下で脚をすり合わせると、クリトリスが内側から押し出されるように膨らみ、陰唇の隙間から覗いて、下着の繊維に触れるだけでも、へその下あたりに痺れが走った。引き吸いされる記憶が、身体の中に残っている。ワタルが、あの器具を、勃ち上がった小さな粒に押し当てるときの表情。じゅぶ、じゅぶ、と空気の抜ける音。私は自分の指でそれをなぞりながら、あの白い光の下で撮られていた自分の格好を思い出した。好きだとか、淋しいとか、そういう言葉になる前の、もっと途方もない飢えが、腿の間を湿らせる。
土曜の夜、私は焦れて、ワタルに二通目のDMを送った。
「今週も会えない? 私、いつでも大丈夫だよ」
この文面を打つとき、指先が妙に冷たかった。送信を取り消すのは簡単だった。でも、返事が来るかもしれないという望みの方が、みっともなさより勝った。送ったあと、私はスマホを枕の横に置いて、布団の中で膝を抱えた。何分経っても、音は鳴らない。私は画面を点けたり消したりしながら、夜が更けるのを待った。 午前零時を過ぎても、画面は黒いまま沈黙していた。朝になって通知が鳴るたび、腹の底が持ち上がり、そして下へ落ちた。ニュースアプリの速報、学校の友達からの他愛ないメッセージ、ゲームの更新通知。けれど、ワタルの名前だけが、いつまで経っても浮かんでこない。そのうち、私は通知音がするたびに、息を止めて画面を開くようになった。開くたびに、内側のどこかが薄く削られていくのが分かった。けれど、やめられなかった。やめる方が、よほど怖かった。隅の何もないところへ、指先で何度も触れ、私は通知一覧を更新した。何も来ない。何も来ないのに、確かにあの青い既読の印だけが、私の文章の隣に貼りついたままだった。返事は来なかった。
日付が変わる頃、私は自分の指を下腹の奥へ沈めていた。ワタルにされたときの角度を再現するように、人差し指と中指を後ろから回して、唾液で濡らした窄まりへ押し込んだ。初めは抵抗があった。けれど、一度くちゅ、と音を立てて中へ収まると、私の内側は指を食いしめるように締めつけて、勝手に奥へ引き込んでいった。私はワタルにされたように腰を浮かせ、シーツに頬を押し付ける。ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が静かな部屋に広がる。前の割れ目から垂れた汁が、手のひらまで生暖かく伝った。私は息を殺し、泣くように浅く喘ぎながら、ワタルを思い、あの細く尖った舌先が後ろの縁を舐める音を思い、最奥を突かれたときのような衝動を、自分の指で拙く代用した。何度やっても、ちょうど彼が突いた深さには届かない。もどかしさだけが積もっていく。私は声を押し殺して、もっと、もっと、と心の中でだけ繰り返し、夜の闇に白い光の残骸を求めた。
あの日、ワタルは私の胎内へ精を注いでから、すぐにアフターピルを渡した。小さな銀色のシートが、白い照明の下で鏡のように光っていた。彼は水の入ったペットボトルを差し出しながら、「柚那ちゃんの身体は、まだ子どもだから」と、私の額の汗を指先で拭った。 私が少しだけ顔を上げて口を開けると、ワタルは水を飲ませた。ぬるい水が喉を滑り落ちていき、薬が空腹の胃の底へ落ちる重みがした。その後、私の窄まりはしばらく閉じようとしなかった。彼が出した大量の精液が、ゆっくりと逆流してきて、太腿の内側を白く濡らした。ワタルは濡れたタオルを持ってきて、「ごめん、出てきちゃったね」と笑いながら、私の後ろを拭く。そのたびに、指先が柔らかく窄まりの縁をなぞり、私は声を殺した。ぬちゃ、ぬちゃ、と、彼の指の中で蠢く自分の入口の音が、部屋の静けさと配信機材の微かなハム音に混ざって聞こえた。
ワタルはそれから、私の髪を梳いた。あの日だけは、撮影が終わってからも彼の手はしつこく私の身体に触れていた。腰を抱き寄せ、後ろを向かせたまま、細い肩の骨の凹凸を唇で確かめたり、尾骨の窪みに舌を押し付けたりした。私が声を漏らすと、彼はますます舌の動きを深くして、とろりと唾液を窄まりの上へ落とした。私の四つん這いの格好のまま、ワタルはもう一度自身を私の奥へ沈めた。二度目は、最初よりもっと長く、ずりゅ、ずりゅ、と、腹の底を掻き混ぜるような進入だった。私はシーツを噛んだ。たぶん、涙が出ていた。良いのか悪いのか分からないまま、身体だけが彼を歓迎してしまっている。ワタルが私の中へ吐き出した熱いものが、また、私の内側を満たす。その瞬間、膣と子宮が同時に震えて、私は声にならない叫びのまま顔を歪めた。彼は私の腰を掴んでいた。骨ばった長い指が、私の肉にめり込んでいた。あの骨の形も、指の熱さも、全部が私の中から抜け切っていなくて、だから夜になると私はこうして思い出した場所を探る。指を二本入れても、三本入れても、彼の肉茎が入っていたときの、あの食い込むような圧迫は再現できない。私の膣は、まだ、ワタルの形を覚えているのに。
それから、私の指は後ろの窪みへ移動した。クリトリスを揉みしだく指が愛液に塗れて、ぬらぬらと光っている。私は自分のその汁を窄まりへ塗り込めるようにして、中へ押し入った。ワタルの唾液を代わりに塗り込めて。あの日、彼が私の後ろを舐めるとき、舌先は外から内へ、浅いところから奥へ向かって、まるで窄まりを割り開くみたいに動いた。ゆっくり、とろりと、肛門の皺を一本一本確かめてから、先端を差し込んで、中でよじらせる。ねちっこい音。私の指が、その動きをなぞる。鼻にかかった自分の息が、枕の上で湿る。あの配信照明の白い光は、こんな自慰のときだけ、なぜ、こうも甘く、淫らな残像を残していくのか。ワタルが撮った動画の中で、私は光に灼かれていた。私の割れ目と窄まりは、あの光の下で、これ以上ないほどはっきりと晒されていた。ワタルは私の後ろの穴をヘアジェルで濡らし、撮りながら、長い指をゆっくりと押し込んだ。撮られているという事実が、私の感受性を一段深い場所まで追い詰めた。彼は「いい子だね」と言った。折れ曲がった、あの細く心許ない声で。思わず私の膣口はひくつき、糸を引くほど汁が溢れた。それをワタルは、小型のライトで照らした。照らしながら、彼は「すごく綺麗だよ、柚那ちゃんのここ」と言った。それが、あの沈黙の部屋で一番深くまで響いた。
次の週も、ワタルからの連絡はなかった。通知音は、アプリの更新か、友達からの学校の連絡だけだった。Xのタイムラインには、ワタルが他のファンと撮った写真が上がっていた。オフ会ではない、街中で会ったらしい。何気ないスナップ写真。ワタルは相変わらずの笑顔で、隣の女の子は私より背が高くて、きれいなネイルをしていた。二人の間に、特別なものがあるようには、私には思えなかった。でも、私はその写真の彼の笑い皺を親指で拡大して、何度も見た。この前まで私が呼ばれたあの部屋の、薄暗い照明とは違う、明るい日中の光の中で、ワタルは私の知らない顔をしていた。
身体は、ずっと熱を持ったままだった。学校の休み時間、椅子に座っていると、布地一枚越しにクリトリスが下着へ触れて、机に頬杖をついたまま脚を組み替えた。太ももをすり合わせると、陰唇のふちからとろり、と熱いものが滲み出してくる気配がした。昼休みにトイレの個室へ入り、下着を下ろして指で触ってみると、愛液はもう糸を引いた。膣口はくちくちと濡れて、入り口を押し広げるたびに、指の腹が見る間にどろついていった。私の身体は、ワタルがいなくても、彼を思い出すだけでこんなに簡単に解れる。それが恥ずかしくて、怖かった。ワタルに会えたら、きっとすぐに、いつものように抱いてくれる。そうすれば、この疼きも、この淋しさも、全部消えるのに。
年末が近づいたある夜、唐突に通知が震えた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
わずか十五文字のDMだった。私の送っていたどの文面より短い。けれど、待ち望んでいた言葉だと、胸の奥が跳ねた。何の話だろう。もしかしたら、忙しかった理由を説明してくれて、また明日にでも呼んでくれるのかもしれない。いや、もっと大事な話かもしれない。私は返信を打とうとして、何度も指を止めた。結局送ったのは、たったこれだけだった。
「いつがいい?」
「じゃあ、明日の夕方、いつものとこに来られる? 部屋で待ってる」
私は了解の意を、絵文字のついたスタンプにして、送らずに消した。代わりに「うん、行く」の四文字を送る。それきり、ワタルからの返信はなかった。
翌日、朝から雪がちらついていた。白い粒は地面に落ちると消えて、道路をわずかに濡らすだけだった。私は夕方、学生服のまま家を出た。部活は休みだと伝えた。母は何も疑わず、コートを着て行くよう玄関で声をかけてきた。駅に着くと、いつものトイレの個室で学生服を脱いだ。鏡のある洗面台の前で、白いニットとフレンチガーリースタイルのプリーツスカートに着替える。短いスカートの裾が、あらわな太ももを去年よりずっと多く晒しているように感じる。いや、スカートの丈は変わっていない。私の脚の、身体の形が、変わったんだ。身体に沿って伸びた太ももの線、腰のくびれ、胸の小さな膨らみ。私の顔は、まだ幼いままなのに。
駅のトイレの鏡の中の私は、少し瘦せて、目の下に疲れの色があった。でも、唇は赤く、肌は白い。目がきつく光っている。何かに飢えた、薄暗い熱が、瞳の底で揺れていた。
マンションへ向かう道々、雪は雨に変わっていた。黒いアスファルトが濡れて、街の明かりを乱反射していた。寒さで耳の先が痛い。足音だけが、宣言もなく響く。私はコートの前を合わせ、スカートの裾の短さを太ももに感じながら、ワタルの部屋を目指した。いつものエントランスが見えてきて、胸が早鐘を打つ。マンションの外から見上げると、ワタルの部屋の窓に、あの白い配信照明の光が点いていた。そこだけ、冷たい夜の中で、ぽっかりと白い穴が開いたように明るい。あの光の中へ、また私の身体が溶けていく。そう思って、私は最後の横断歩道を渡った。掌がしっとりと汗ばんで、指先は氷のように冷えていた。風が首筋を撫でる。私は一度だけ、後ろを振り返った。雨と雪の混じった夜の道には、誰もおらず、自分の足跡だけが濡れて消えかけていた。
第8章 # 恋人は友達に戻して、それから陽太君

# 第8章: 恋人は友達に戻して、それから陽太君
エントランスの自動ドアを抜けた瞬間、私の耳は無意識にあの部屋の物音を探し始めていた。けれど建物の中は水を張ったように静まり返っていて、壁の奥で換気扇が低く唸る音だけが、鼓膜の裏側を這うように続いている。外では雨と雪が溶け合いながら落ちていて、私の靴先はタイルの上に濡れた足跡をぽつぽつと残していった。エレベーターが昇っていく機械の音が、やけに硬く耳へ届く。指先の冷たさはもう感覚の外側へ追いやられていて、代わりに掌の内側がじっとりと汗ばんでいるのを、スカートの布を握りしめるたびに確かめた。あの窓に点っていた白い配信照明の光が、まだ網膜の裏に張り付いていて、瞬きをするたびに青白い残像がゆらゆらと揺れる。ワタルは今、あの光の下で何をしているのだろう。そう考えただけで、心臓が骨の内側から拳で叩かれているみたいに脈打ち始めた。
部屋の前に立つと、ドアの向こうから何かを引きずるような、くぐもった物音が洩れてきた。私は二度、浅い呼吸を整え、湿った指先でインターホンを押した。掌の汗がボタンの表面に薄く膜を作っていた。
間があって、ドアが静かに内側へ引かれる。
「来たか。ちょっと立て込んでて。上がって待っててくれる?」
ワタルの声はわずかに弾んでいて、その軽やかさが逆に胸の奥を冷たく刺した。部屋の中から白い光がどっと廊下へ溢れ出し、私の顔を無遠慮に照らし上げる。彼は白いシャツ一枚のくだけた格好で、首には黒いネックストラップを掛けたまま、前髪をかき上げた痕跡が額に残っていた。汗の匂いと、甘ったるい芳香剤の匂いが混ざり合って、鼻の粘膜にねっとりと絡みつく。私は黙ってうつむき、靴を脱いだ。濡れたかかとが玄関の床から離れるとき、じゅっ、と微かな音が夜の静けさに弾けた。
上がって、と背中だけで促された気がして、私は細い廊下を進んだ。リビングの壁際には見慣れた機材が整然と並び、床には光を反射させる白いボードが立てかけてある。照明は二灯、斜め上から部屋全体を容赦なく照らしていて、真冬の夜だというのに、肌が薄く灼かれるような明るさだった。
「配信、さっきまでやってたとこ。片付け、中途半端なままで悪いな。ソファ、使っていいから」
ワタルは振り返りもせずに言った。私は言われるまま、茶色い布張りのソファに浅く腰を下ろす。クッションが深く沈んで、ひんやりした生地の感触が太ももの裏にじんわりと染みてきた。生乾きの埃っぽい匂いが鼻の奥を掠める。彼は私の前に立とうとはせず、少し離れた配信机の脇へ寄りかかり、腕を軽く組んでこちらを見ている。その姿は白い光の向こうで薄い影になっていて、表情を読み取ることができなかった。
「柚那ちゃん、なんか温かいもん飲む? コーヒーでよければ淹れるけど」
私は首を横に振った。声を出してしまったら、ここへ来るまで胸の底に溜め込んできた感情が、堰を切ったみたいに溢れ出てしまいそうだった。彼は、そうか、と短く呟き、親指でこめかみを掻く。その何気ない仕草が、彼の言葉を待つしかない私の喉を、なおいっそう細く締め上げた。
ワタルは一拍置いて、天井の照明をぼんやりと仰いだ。白い光が彼の薄い目許に落ちて、輪郭の一部を少年のように見せる。やがて、彼が息を吸い込む気配が伝わってきた。私は両脚をきちんと揃え、握りしめた両手をスカートの上で重ねていた。心臓が早い。指先から力が抜けていくのを、自分の意志ではもう止められなかった。
「あのさ、単刀直入に話すよ」
ワタルの声は、部屋を満たす白い光に吸い取られて、ひどく乾いて聞こえた。
「柚那ちゃん、他に好きな人ができたんだ。だから、付き合うのは、今日で終わりにしたい」
その言葉が空気を打ち震わせ、私のこめかみへ届くまでの数秒間、世界がぐらりと傾いだ。頭の奥で何かが弾けて、耳の後ろが一瞬、真っ白に明滅する。胸の下に溜まっていた息が、全部、生温い水になって下へ下へと落ちていくような感覚。身体のどこも動かせなかった。動かさなければ、まだこれは夢の続きだと思えたから。
「急に言って、本当にごめん。柚那ちゃんに落ち度があったとか、そういうんじゃないんだよ」
ワタルはそこからソファへ近づいてきて、私の斜め前にあるローテーブルの角へ手を置き、身を屈めた。配信用照明の光が、私たちの影を床に長く二つ並ばせているのが、視界の隅に映る。二つの影は、どこまでも触れ合わなかった。
「ワタアメさんのことは、今でもすごく大事なファンだと思ってる。配信、これからも見に来てくれたら嬉しいし。……この意味、わかるよな」
わかる、と、彼は確かにそう言った。私は必死で言葉を探した。けれど口を開こうとするたび、喉の奥で温かくて重たい塊が持ち上がってきて、呼吸だけが浅く乱れた。テーブルの向こう側に、昨日まで使っていたらしい紙コップが二つ、並んで置かれているのが目に入る。片方の縁には口紅の跡がくっきりと残っていて、中には飲みかけのコーヒーが底の方に溜まっていた。
「私、……何か、気に障ることをしましたか」
自分の声は、驚くほど小さく、平板だった。彼は少し首を傾げて、困ったように片方の眉を上げてみせる。
「違う違う。柚那ちゃんのせいにするつもりは全然ないんだって。ただ、時間が経つとさ、好きって感情のかたちが変わってくるっていうか。大人になると、そういうこと、普通にあるんだよ」
「大人になると」
私はその言葉を、舌の上で転がすように繰り返した。大人になると、と、ワタルは私に言った。二十歳を過ぎた人が、十三歳の私に向かって。あの部屋の白い光の下で、私の脚をあんなに何度も開かせた、その同じ口で。
「私は、まだ……子どもだから、いけなかったんですか」
言ってしまってから、喉の奥がひりつくのがわかった。ワタルは一瞬だけ目を逸らし、口元に薄い笑みを浮かべる。あの、配信でファンに向ける笑顔に似ていた。でも、どこにも温度がなかった。
「そういうふうに持っていくのは、話がややこしくなるからやめようよ。誰が悪いとか、そういう話をしたいんじゃないんだ。ちゃんと話し合って、お互い納得して終わりにしたいだけだから」
「誰が悪いとか、そんなつもりじゃ……ありません」
「うん。なら、いいんだ。柚那ちゃんがわかってくれるなら、僕はそれで十分」
ワタルは私の隣へ座った。ソファのスプリングが、ぎし、と一度深く沈む。彼の太ももが軽く私の臑へ触れて、すぐに離れた。その一瞬の体温だけが、夢みたいに遠い。
「柚那ちゃんもさ、もう少ししたら、もっと歳の近い、いい相手が見つかるって。今はまだ、そういうタイミングじゃなかったんだよ。僕も、初めてのことばかりで、正直、舞い上がってた部分はあったと思う。でも、これからは、大人として、ちゃんと責任のある関係を選んでいきたいんだ」
「責任のある、関係」
私は自分の声が、空洞の奥で反響するこだまのように聞こえた。私のあの週末は、責任のない関係だったんだ。ワタル君の恋人、推しの恋人、お花畑。土曜日のたびに親へ嘘をついて、薄い身体をあの光の下へ晒し続けた、あの全部は、彼にとって積み重ねるものではなかったんだ。
ワタルが、私の手のひらへ視線を落とした。私は下着もつけない身体で、何度ここへ通ったっけ。彼の息が聞こえる距離で、何度「女の子」を演じたっけ。指先が震えそうで、私は握り拳を太ももの横に押し付けて、背すじを伸ばした。涙は、出なかった。出なかったことが、一番苦しかった。代わりに掌の内側が、ぐっしょりと湿って、ひどく冷たくなっていく。背中を、氷の板みたいなものがゆっくり滑り降りていく。冷たくて、静かで、止まらない。
「大事にしたいって、あのとき言ってくれたこと、私、ずっと忘れません」
「うん。ありがとう。……あのさ、本当に感謝してるんだ。柚那ちゃんが来てくれたこと、配信を盛り上げてくれたこと、全部」
ワタルが身を乗り出してくる。私は彼の顔を見られなかった。白い照明の光が、床に落ちた私の影を、夜の闇から切り離すように灰色に縁取っていた。
「これからも、友達としてでいいから、そばにいてほしいんだ。ファンとしても、ワタル君の配信、見に来てくれると嬉しい。こっちの都合ばかりで、わがまま言ってるのは重々わかってるんだけどさ」
私はゆっくりと立ち上がった。ワタルの手が、一瞬、私の手首のあたりへ伸びかけて、けれど触れずに引っ込む。その動きを見て、はじめて声を出そうと思えた。
「私、……この気持ちを、どこへ持っていけばいいのか、わからなくなりました」
「うん。無理に整理しなくていいよ。時間が経てば、ちゃんと落ち着くから。柚那ちゃんは可愛いんだし、そのうち、もっといい出会いがあるって」
そのひと言が、なぜだか一番、身体の奥の浅い場所に刺さった。いい、出会い。私はこの人に、自分の内側の一番柔らかいところまで、全部、見せて、触らせて、教えたのに。可愛い、と、ずっとそう言われてきたのは全部、そのための言葉だったのに。
私は鞄を抱え、玄関へ向かった。ワタルも立ち上がって、その背中を目で追っているのが気配でわかる。
「送っていこうか? 外、けっこう降ってるし、足元も悪いだろ」
「だいじょうぶです。それでは、今まで、本当にありがとうございました」
声が裏返らなくてよかった。私は靴を履いて、振り返らずにドアを開けた。配信用の白い光が、私の背中を玄関の外まで追いかけてきて、でもそれは部屋の内側に属する光で、私だけが外の夜へ放り出されていく。ドアが閉まる音を最後まで聞かず、私は廊下を早足で歩いた。涙は出なかった。出ないまま、エレベーターに乗り、建物の外へ出る。雨はもう、ほとんど雪に変わり始めていた。
夜の道を歩きながら、私はふと、街灯のそばに置かれたいらない鏡を見つけた。駅前の雑貨店か何かが廃棄した、縁の塗装が剥げた細長い姿見だった。そこに映る私は、濡れて張り付いた前髪の下で、まっすぐに前を見ていた。少女の顔のままだった。けれど、目だけが、夜の闇を吸い込んで光っているように見えた。深く、暗い、あの部屋の光の芯をそのまま飲み込んだみたいに。
一月。年が明けて、教室には少しだけ趣の違う空気が流れていた。冬休みのあいだに、何人かは髪を切ってきて、何人かは大人びた文房具を使い始めている。私の生活は静かだった。朝、登校して、クラリネットの練習をして、教科書を開けて、帰る。土曜日が来ても、あの頃のように身体中の血が騒ぐことはなかった。代わりに身体の芯は、時折思い出したみたいに疼いた。太ももの内側が、濡れる気配を帯びた。私はそれを、誰にも見えないよう、夜、布団の下でやりすごした。
橋本陽太が声をかけてきたのは、教室で皆が給食の後片付けをしている時間だった。白い空気の冷たさが窓の桟に残っていて、私は配られたプリントを整理しながら、窓辺の自分の席に座っていた。彼は、私の机の斜め前で何か言いたげに立ち止まって、三回ほど口を開きかけた。
「東野さん、今、ちょっといいかな」
声は、思ったより低くて、けれど語尾が擦れていた。冬休み明けの彼は、少し背が伸びたみたいだった。袖の短くなった黒い学生服から、ほっそりとした手首が出ている。私はプリントを置いて、彼を見上げた。
「橋本君、前から私のこと、よく見てるよね」
静かにそう返すと、橋本君の首が、耳のつけ根から頬へかけて、見る間に朱くなっていった。彼は視線を泳がせ、指先で学生服のボタンのひとつをさわった。
「ちが……そういうつもりじゃ、ないんだけど。ただ、東野さん、最近、前と少し雰囲気が変わったように見えて。それが、その、うまく言えないんだけど」
そこで言葉が、彼の舌先でつまずいた。彼は喉を一度だけ鳴らして、自分の足元に視線を落とし、それからまた、恐る恐る私の顔へ戻してくる。
「ごめん、変って言いたいんじゃなくて。なんていうか、前から、その、きれいだとは思ってた。それは本当。でも、そういうのとは別に、最近の東野さんは、なんか、こう、目が離せない感じになってて」
言うほどに上ずっていく声。彼は何度も言葉を貼り替えるように、途切れては継ぎ、継いでは途切れさせた。指先がボタンを離れ、今度は学生服の襟のあたりをぎこちなく引っ張る。そのたびに、彼の緊張が、私の腕の産毛を撫でていくのを感じた。
「俺、ほんとに変なことしか言えてなくて、すみません。……でも、声をかけるきっかけ、ずっと探してたんです。今日も、給食のあいだ中、どうやって話しかけようかって、そればかり考えてました」
小さな声の粒が、教室のざわめきの底を這うように私へ届いた。私は彼が全部言い終えるのを待たずに、スカートの裾を太ももの上で直した。指先で布をほんの少し、下へ引く。その仕草を、彼の目が追った。私は彼の目の動きを、もう知っていた。男の子が、女の子の身体のどこへ、どういう順番で目をやるか。ワタルの部屋で、私の身体はそれを見せるための模型みたいに何度も置かれ、照らされた。
「放課後、校舎裏へ来てくれますか。二人で話したいことがあるんです」
自分の声が、教室のざわめきに溶けて消えないよう、声を潜めて言った。橋本君は一瞬、呼吸を止めたみたいになった。それから、こくん、と一度だけ、深くうなずいた。
放課後、部活動の音が校庭の方から聞こえる中、私は校舎裏の壁際で待っていた。日が傾きはじめ、コンクリートの壁と地面のあいだに、自分の影がうっすら青く伸びていた。吐く息が白い。遠くで吹奏楽部の音が、くぐもった金管と打楽器のリズムを風に混ぜて運んでくる。足音が、こつん、と校舎の陰から近づいてきた。私は壁にもたれたまま、体を起こした。
「本当に来てくれたんですね。走ってきたんですか?」
柚那の声は、自分でもわかるくらい低く、甘く、けれど冷たい場所から出た。橋本君は、私の三歩手前で立ち止まり、息を切らせていた。慌てて走ってきたらしく、学生服の襟が曲がっていて、前髪が風で乱れていた。彼の茶色い目が、薄暗がりの中で私の顔を捉え、それから慌てて逸らされる。
「あの、話って、何を……」
「あれは口実です。ごめんなさい」
私は一歩、踏み出した。足もとで砂利が小さく砕ける音がする。
「橋本君は、私のこと、見てるって言いました。それ、中学生のうちだけの話ですか? ずっと、ただ見てるだけで終わるつもりですか?」
彼の喉が上下するのが、学生服の襟の合わせから見えた。私はさらに半歩近づいた。彼の靴の先が、下がろうとして、止まる。逃げない。でも、それ以上進めない。彼の呼吸が、冷たい空気の粒を吐くたびに、白く弾けた。
「もし見てるだけで満足なら、それでもいいです。でも……本当にそれだけでいいの? 私に、触れてみたいとは思わなかったの?」
「え」
彼の薄い胸が、弾かれたように仰け反る。眼鏡でも直すみたいに指が宙を掻いた。唇が開きかけて、閉じて、浅い息だけが何度も冷たい空気に溶けていった。
「ちょっと待って。東野さん、何を言ってるのか、うまく整理できなくて。触るって、そんなの、俺、一度も考えたことなんて……嘘です。考えたこと、ないわけじゃない。でも、そういう対象として東野さんを見たことは……これも嘘になる。見てた。多分、そういう目で見てた。……だけど、急にこんなこと言われたら、心の準備ってもんが」
「準備なんて、いらないの。橋本君は、私に触れたいんでしょ?」
「あるよ。準備は、あるんだって。俺は、東野さんのこと、適当な気持ちで扱いたくない。今だって、指先が勝手に固まって、全然うまく動かせないし。……こういうの、流されていいことじゃないと思うから」
彼が、自分の手のひらを見つめて、硬直した指を確かめる。私は首を傾げて、その震える指の先を、視線だけで追った。
「私のここ、触って。橋本君が、ずっと見てたもの」
それ以上待たずに、私は彼の手首を取った。驚いたように、冷えて固い。その手を、自分のスカートの裾へ導く。彼の指先が震えていた。私はその震えごと、ひやりとした太ももへ押し当てた。橋本君の指が、反射的に、でもはっきりと、私の肌を確かめた。
「だめだよ、こんなこと。先生が来るかもしれないし、それに、女の子が、こんな簡単に脚なんか触らせちゃ、いけないって、東野さんもわかってるはずだ。……わかってるのに、手、離せない。俺、どうかしてる」
彼の声は泣きそうなほど掠れ、それでいて耳の奥へねばりつくほど熱を持っていた。ワタルのそれより、若く、細く、骨張っていない感触が、太ももの内側へ進もうとして怯んでいた。彼の指先が、私の肌の上で迷子みたいに止まる。それでも離れない。離れられないでいるのが、触れている場所から脈のように伝わってきた。
「冷たい。……手が、すごく冷たいのに、東野さんの肌は、その、すごく熱い。びっくりしてる」
彼が掠れた声で、そんなことを言った。その声の奥に、この細い手の主が、私の体温を怖がっているのがわかった。欲しくて、怖くて、逃げられない。この手を、私は知っている。ワタルの部屋で、私の身体がそうだった。
「もっと奥は、もっと熱いよ。……触れたら、わかるから」
私は彼の指を、スカートの奥へ、ゆっくり沈み込ませていかない。代わりに、太ももの一番やわらかい内側を、自分の指と彼の指で挟んで、あの場所の熱を思い出させた。閉じた脚の内側が、湿った空気を逃がす。橋本君の指先が、それに気づいて、小さく跳ねた。瞳が揺れる。私は彼の首の、浮き出た筋を見ながら、唇の端だけで笑った。
「放課後、ここ、誰も来ません。……橋本君、もっと、触れてみますか? 私がいいって言ってるのに、まだ迷うの?」
私は壁へ背を預けた。冷たいコンクリートが、肩甲骨のあたりに真っ白く冷えを浸透させてくる。けれど、腹の奥の、あの疼きだけは、夕闇の中でひときわ熱く、深い色をして息づいていた。ワタルに捧げた身体の、あの解れる感覚が、今度は私の手から男の子の指先へ、ゆっくりと渡っていくのがわかる。彼の喉は何度も律動を繰り返し、指は震えながらも、私の脚から離れられないでいた。
「東野さん、俺、ほんとは、もっとちゃんと話したいって、それだけだったのに。なのに今、触ってる。ごめん。やめなきゃって、わかってるのに、指だけが言うことを聞かない。こんなの、ほんとの俺じゃないみたいで」
私は彼の腕を、自分の方へ引き寄せた。彼の言い訳ごと、震える指ごと、その混乱ごと引き寄せて、自分の中の黒い静けさで包み込んでいく。もう逃がさない。今度は、私が、覚えていることを覚えさせる番。
「あの、東野さん、待って。僕、……心の準備とか、その、ちゃんとした手順みたいなの、踏みたいっていうか」
「しない。……そういうんじゃないから。橋本君は、ただ私が欲しいの。それでいいの」
私は首を横に振った。黒いツインテールの先が、冷たい風に流されて、壁にぱさりと触れた。この身体が知っている熱を、私はもう隠さない。白い配信用照明の光は、もうどこにもない。あるのは、陽太君というページの白さと、私の内側でじっと牙を研いでいる、あの光の芯だけだった。
「したいでしょ。……私と。違うって言ってみて。目を見て、言えるなら」
吐息のような、でもはっきりとした声で。彼の手首を、自分の腰へ当てる。橋本君は、瞼を何度か伏せて、泣き出しそうな顔で笑った。
「……言えない。言えるわけない。東野さんに、気づかれてたんだ。俺、ずっと、こういうふうになりたかったのかもしれない。……ううん。なれるわけないって、ずっと自分に言い聞かせてただけだ」
覆い切れないものが、彼の全身を貫いたのは、その瞬間だった。
夕闇が校舎裏を青く染めていく中で、私は橋本君の震える指を、自分の内側の熱へゆっくりと沈めていった。ワタルの白い光の下で覚えた快楽は、消えるどころか、私の腹の奥でずっと渦を巻いていた。土曜日のたびに開かされたこの身体は、もう、何も入れない夜を怖がるようになっていた。だから今、私はこの場所で、自分から男の子を引き寄せている。陽太君の、私を見つめていた視線——あの光の眩しさとはまるで違う、近くて、汗ばんで、不器用な熱を、私の脚の奥へ招き入れる。推しは、推しで、遠くから見ているだけのほうがよかった。手を伸ばして触れてしまったから、私はこの火照りを誰かで埋めないと、夜を越えられなくなっていた。
登場人物
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東野柚那 ひがしの ゆずな女性 ・ 13
外見: 短めの黒髪をツインテールに結び、前髪はパッツン、大きな焦げ茶色の目、幼い顔立ちの割に脚はすらりと長く、胸はまだ平らに近い。服装: 通学時は黒の学生服、休日はフレンチガーリースタイルを意識した白いブラウスに短めのプリーツスカート、花柄の下着。普段はおとなしいが推しのことになると足が震えるほど感情が高ぶる。一度決めた奉仕は必死に続ける一途さと、親に嘘をつく後ろめたさより恋心を優先する危うさを持つ。
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ワタル わたる男性 ・ 21
外見: 眉にかかる焦げ茶の前髪、奥の読みにくい黒い目、中背で細身だが手は骨ばり指が長い。服装: ゆったりした淡いパーカーに黒い細身のデニム、室内では白いシャツ一枚のことも多い。ファンには優しいが、オフ会で見定めた少女を言葉巧みに自宅へ導く冷徹さと、性的にはS気を隠さない支配欲を併せ持つ。
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橋本陽太 はしもと ようた男性 ・ 13
外見: 短くくせのある黒髪、垂れ気味の一重で薄い茶色の目、柚那より頭一つ高いひょろりとした体格。服装: 黒の学生服、やや短くなった制服の袖から細い手首が見える。教室では隅にいるが、柚那だけは視線で追い続ける不器用な一途さを持つ。





