第3章: 見せつけられた現実
第3章: 見せつけられた現実
優弥が家に来てから、三日が経っていた。
蜜葉は自分の部屋で、教科書を開きながらも全く内容が頭に入らず、ただ窓の外をぼんやりと眺めていた。
――あのとき、ああやって手を握られて……。
思い出すだけで、胸の奥がざわつく。
手のひらには、まだ優弥の握った感触が残っているような錯覚に陥る。
タンクトップの下では、乳首が少し硬くなっていることに、自分で気づいて慌てて腕を組んだ。
リビングで優弥と二人きりになったあの日以来、浩介とのセックスがどこか物足りなく感じられていた。
浩介はいつも通り優しく、蜜葉が気持ちよくなることを第一に考えて動いてくれる。
けれど、優弥に握られた時の、あの圧倒的な力強さと、危険な香りを思い出すと、浩介の優しさが何だか子供っぽく思えてしまうのだ。
――私、いけない子になっちゃってる。
蜜葉は自分の頬を軽く叩いた。
そんな考えはダメだ。浩介が一番だ。弟だけど、大切な人だ。
そう自分に言い聞かせても、体の奥底でくすぶる火種は消えなかった。
そして今日。
浩介はまた委員会で遅くなる日だった。
「姉ちゃん、先に帰るね。また七時くらいになるかも」
朝、そう言って出て行く浩介の背中が、何だか小さく見えてしまい、蜜葉は胸が締め付けられるような気持ちになった。
午後四時半。
家の中には、時計の音と、自分の呼吸の音しかない。
蜜葉はベッドに横たわり、天井を見つめていた。
――優弥くん、今日は来ないのかな。
ふと、そんな考えが浮かび、自分で自分のことが嫌になった。
来ないほうがいい。絶対に来ないほうがいい。
そう思う反面、ドアの向こうからインターホンが鳴る気配に、耳を澄ませている自分がいた。
そして、午後五時ちょうど。
ピンポーン。
澄んだ電子音が、静寂を破った。
蜜葉の体が、ベッドの上で飛び上がるように起きた。
心臓が、いきなり激しい鼓動を打ち始める。
喉がカラカラに渇いている。
ゆっくりと、足が震えながら床に降りる。
リビングを通り、玄関ホールへ。
モニターに映るのは、やはり彼だった。
優弥は、今日は黒いTシャツにダメージジーンズという格好で、カジュアルながらもどこか鋭い印象を受ける。
口元には、いつものように自信に満ちた微笑みが浮かんでいる。
蜜葉は、深呼吸を二度した。
――開けちゃダメ。絶対に開けちゃダメ。
そう念じながら、手がドアの鍵に伸びた。
カチャリ。
鍵が開く音が、自分の中で大きく響いた。
「やあ、お姉さん。また来ちゃった」
優弥はごく自然に、家の中へと一歩踏み込んだ。
彼の体が通り過ぎるとき、前回と同じ、ほのかな香水の香りが漂った。
今日はそれに加えて、少し汗ばんだような、男の子らしい匂いも混じっていた。
「こ、こんにちは……」
蜜葉の声は、かすれてしまった。
「浩介、また遅いんだって? 委員会忙しいねえ」
優弥は何食わぬ顔でリビングへ向かい、ソファに深く腰を下ろした。
まるで自分の家のようにくつろいでいる。
蜜葉は少し距離を置いて、反対側のソファに座った。
「うん……そうみたい」
「そっか。じゃあ、今日もゆっくりできるね」
優弥の目が、蜜葉の全身をゆっくりと舐めるように見た。
その視線に、蜜葉はタンクトップの下の肌が鳥肌立つのを感じた。
「ねえ、お姉さん。この間の続き、しようよ」
優弥が、低く、それでいてはっきりと言った。
「続き……?」
「うん。浩介とは違う、大人の遊びの話」
優弥はソファから立ち上がり、蜜葉の座っているソファへと歩み寄った。
蜜葉は思わず背もたれに体を押し付け、逃げ場を失った小動物のように縮こまった。
「だめ……優弥くん、やっぱり、そんなの……」
「嘘だよ。お姉さん、本当は知りたいんでしょ? 僕がどんななのか」
優弥は蜜葉のすぐ横に座り、その体を壁と自分の間に閉じ込めるようにした。
彼の膝が、蜜葉の膝に触れた。
その触感に、蜜葉ははっと息をのんだ。
「ほら、緊張してる。体、硬いよ」
優弥の手が、蜜葉の肩にそっと触れた。
タンクトップの薄い生地越しに、彼の手のひらの熱が伝わってくる。
「や……優弥くん、そこ、触らないで……」
「どうして? お姉さん、浩介には触られてるくせに」
優弥の声には、少し嘲るようなニュアンスが込められていた。
「それは……浩介は、違うから……」
「どう違うの? 弟だから? でも、やってることは同じじゃん。むしろ、弟とやる方がよっぽど変だよ」
その言葉が、蜜葉の胸を直撃した。
ずっと心の奥で感じていた罪悪感を、まさに突きつけられたようだった。
「……っ」
涙が、目尻ににじみ出そうになった。
「ごめん、言い過ぎたかも」
優弥はそう言いながら、蜜葉の頬に触れた手を、そっと涙を拭うように動かした。
「でもさ、お姉さん。弟でも恋人でも、男は男だよ。そして、男には力の差があるんだ」
優弥のもう一方の手が、蜜葉の腰に回った。
「浩介の細い腕と、僕の腕、どっちがお姉さんをぎゅっと抱きしめられると思う?」
彼の腕が、蜜葉の腰をしっかりと掴んだ。
確かに、浩介の腕より太く、力強い。
蜜葉はその力に、逆らえなくなっている自分に気づいた。
体が、言うことを聞かない。
「お姉さん、部屋に行こうよ。ソファじゃ、やりにくいだろ?」
優弥は蜜葉の耳元に唇を寄せ、熱い息を吹きかけた。
「ベッドの方が、ゆっくり教えてあげられるから」
「だめ……そんなことしたら、浩介が……」
「浩介がどうしたの? 怒る? でも、お姉さんも楽しみたいんでしょ?」
優弥は蜜葉の体を軽く持ち上げるようにして、ソファから立ち上がらせた。
蜜葉の足は震えていて、まっすぐ立つのもやっとだった。
「こ、こら……優弥くん……」
「ほら、階段、上がるよ」
優弥は蜜葉の背中を押すようにして、階段へと誘導した。
蜜葉の部屋の前まで来たとき、彼女は最後の抵抗を試みた。
「お願い……やめて。私、浩介と約束したんだから……」
「どんな約束? 弟だけのものって約束?」
優弥はドアノブに手をかけ、軽く回した。
ドアは鍵がかかっていなかった。
「そんなの、子供の約束だよ。お姉さん、もう子供じゃないだろ?」
部屋の中へと、二人は入った。
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