第2章: 膨らむ興味と小さな背信(続き 3/3)
蜜葉は呼吸が浅くなっているのに気づいた。
胸が高鳴り、手のひらに汗がにじんでいる。
――ダメ、これはダメだ。
そう思いつつも、蜜葉の手がゆっくりと動き出した。
優弥の手の方へ、少しずつ近づいていく。
指先が震えている。
「ほら……」
優弥がさらに囁く。
蜜葉の指先が、ついに優弥の手の甲に触れた。
その瞬間、蜜葉ははっと息をのんだ。
優弥の肌は、思ったより温かく、しっかりとしていた。
浩介の柔らかくて繊細な肌触りとは、全く違う。
「どう?」
優弥が微笑んだ。
蜜葉は慌てて手を引っ込めようとした。
でも、優弥の手が素早く動き、蜜葉の手を捕まえた。
「あ……」
蜜葉の小さな叫び声が、リビングに響いた。
優弥の手が、蜜葉の手を包み込んだ。
力強く、しかし優しい握り方だった。
「お姉ちゃんの手、すごく小さいね。可愛い」
優弥がそう言いながら、親指で蜜葉の手の甲をゆっくりと撫でた。
その感触に、蜜葉の背筋がぞくっとした。
「や、やめて……離して……」
蜜葉は抗議したが、声には力がなかった。
体の奥から熱が湧き上がり、股のあたりがじんわりと温かくなっていくのを感じた。
「お姉ちゃん、本当はやめてほしくないんでしょ?」
優弥の目が、蜜葉の反応を鋭く観察している。
「違う……違うって……」
蜜葉は首を振ったが、その動きも弱々しかった。
優弥の手から伝わる熱が、彼女の体を徐々に熱くしていく。
「ほら、お姉ちゃんの手、汗ばんでるよ。緊張してる?」
優弥は蜜葉の手を少し強く握りしめた。
その圧力に、蜜葉は思わず息を詰まらせた。
「浩介には絶対に、こんな風に握られたりしないでしょ? 僕の方が、ずっと男らしくて、力強いでしょ?」
優弥の言葉が、蜜葉の耳元に甘く響く。
蜜葉は目を閉じた。
でも、目を閉じれば閉じるほど、優弥の存在がより大きく感じられた。
彼の手の温もり。
彼の声の低さ。
彼の放つ、ほのかな香り。
全てが浩介とは違う、新しくて危険なものだった。
「お姉ちゃん、目を開けてよ」
優弥の声が、さらに近くに感じた。
蜜葉が恐る恐る目を開けると、優弥の顔が驚くほど近くにあった。
二人の距離は、ほんの数十センチ。
息がかかるほど近かった。
「ど、どうして……」
「お姉ちゃんのことを、もっとよく見たいから」
優弥の視線が、蜜葉の顔から首筋へ、そしてタンクトップから覗く鎖骨へとゆっくりと下りていった。
その視線に、蜜葉はまるで服を剥がされているような気分になった。
「優弥くん……もう、やめて……」
蜜葉の声は、今やかすれていた。
「まだ何もしてないよ。ただ、手を握ってるだけじゃん」
優弥はいたずらっぽく笑った。
でも、その目には明らかな欲望が宿っていた。
「お姉ちゃん、すごく可愛いな。浩介のやつ、こんなに可愛い姉さんを独り占めにしてたなんて」
優弥のもう一方の手が、ゆっくりと動き出した。
蜜葉はその手がどこに向かうのか、固唾を飲んで見つめた。
手はソファの背もたれへと向かい、優弥がさらに体を乗り出せるように支えた。
蜜葉はほっとしたような、でもどこか期待していたような、複雑な感情に襲われた。
「今日はここまでにしとくよ」
突然、優弥がそう言った。
蜜葉は茫然として彼を見つめた。
優弥はゆっくりと蜜葉の手を離し、ソファから立ち上がった。
「でも、また来るからね。浩介がいない時に」
優弥は上から蜜葉を見下ろしながら、微笑んだ。
「次までに、ちゃんと考えておいてよ。僕と浩介、どっちがお姉ちゃんを満足させられるか」
蜜葉は何も言えなかった。
ただ、優弥の背中が見えなくなるまで、固まったように座り続けていた。
ドアが閉まる音がして、家の中が再び静かになった。
蜜葉はゆっくりと自分の手を見つめた。
優弥に握られていた右手は、まだ温かく、彼の握りの跡がかすかに残っているように感じた。
胸の高鳴りは収まらず、股のあたりの熱も冷めない。
――何であんなことになってしまったんだろう。
蜜葉はソファに倒れ込み、天井を見つめた。
優弥の言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。
「浩介のじゃあ、物足りなくない?」
「もっといい経験をしていいんだから」
「僕の方が、ずっと男らしくて、力強いでしょ?」
一つ一つの言葉が、蜜葉の心に深く突き刺さっていた。
そして何より恐ろしいのは、それらの言葉に、蜜葉の体が反応してしまっていることだった。
蜜葉はそっと自分の股間を触れた。
ショートパンツの下から、かすかに湿り気を感じた。
その事実に、蜜葉は目を大きく見開いた。
――私、浩介以外の男に、こんな風に興奮してる。
その思いが、蜜葉に大きな罪悪感をもたらした。
でも同時に、抑えきれない好奇心も湧き上がってきた。
優弥が次に来るとき、彼は何をするつもりなのだろう。
そして自分は、どうするのだろう。
蜜葉は腕で目を覆い、深く息を吐いた。
リビングにはまだ、優弥のほのかな香りが漂っていた。
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