第2章: 膨らむ興味と小さな背信(続き 2/3)
浩介はその背中を見つめながら、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
*
午後四時過ぎ。
蜜葉はリビングのソファに寝転がり、テレビをぼんやり見ていた。
浩介はまだ帰ってこない。
家の中は静かで、時計の針が進む音だけが響いている。
――浩介、今日は遅いな。
そう思っていたとき、インターホンが鳴った。
蜜葉ははっと起き上がり、モニターを見た。
そこに映っていたのは、笑顔の優弥だった。
蜜葉の心臓が、突然高鳴り始めた。
ドアを開けるべきか、迷った。
浩介がいない今、一人で優弥を家に上げるのはまずい気がした。
でも、好奇心が彼女を後押しした。
――一度でいいから、あの話の真偽を確かめてみたい。
蜜葉はドアに向かい、ゆっくりと鍵を開けた。
「こんにちは、お姉さん」
優弥はいつものように朗らかな声で挨拶した。
彼は紺色のデニムに白いTシャツ、上には薄手のジャケットを羽織っていた。
同じ中学生とは思えない、どこか大人びた雰囲気をまとっている。
「こ、こんにちは……優弥くん。浩介はまだ帰ってきてないんだけど」
「あ、そうなんだ。でも、お姉さんに会いたくて来ちゃったよ」
優弥は悪びれる様子もなく、そう言った。
蜜葉は少したじろいだ。
「私に……?」
「うん。浩介とは違う話がしたいなって思って」
優弥の目が、蜜葉をじっと見つめている。
その視線に、蜜葉はなぜか胸がざわつくのを感じた。
「わ、私と話したいこと?」
「中に入れてもらってもいい?」
優弥はすでにドアの前に立っており、蜜葉が拒む隙を与えなかった。
蜜葉は思わずうなずき、道を空けた。
優弥が家の中に入ってくる。
彼の体が通り過ぎるとき、ほのかな紅茶のような香りが漂った。
浩介とは違う、どこか洗練された匂いだった。
二人はリビングに向かった。
蜜葉はソファの端に座り、優弥は彼女の斜め前に座った。
距離が近い。
普段浩介と並んで座るよりも、さらに近い位置に優弥がいる。
「お姉さん、今日は一人なんだね」
優弥が言った。
声は低く、柔らかい。
「うん……浩介は委員会で遅いって」
「そうか。じゃあ、ゆっくり話せるね」
優弥の口元が、ゆるやかに曲がった。
蜜葉はなぜか喉が渇き、軽く咳払いをした。
「優弥くんが……私と話したいことって、なに?」
「んー、なんでもいいよ。お姉ちゃんのことが知りたいなって」
優弥はソファにもたれかかり、蜜葉を観察するような目で見つめた。
「私のこと?」
「うん。例えば……彼氏いたことある?」
蜜葉の頬が少し熱くなる。
「い、いないよ。そんなの……」
「へえ。でも、経験はあるんでしょ?」
優弥の言葉が、蜜葉の胸を直撃した。
蜜葉は目を大きく見開き、優弥を見つめた。
「な、なんで……」
「だって、雰囲気でわかるよ。経験のある女の子って、なんか違うんだよね」
優弥はいたずらっぽく笑った。
その笑顔には、確信があるように見えた。
蜜葉は俯き、自分の手を見つめた。
心臓の鼓動が早く、耳元で鳴っているのがわかる。
「……浩介が言ったの?」
蜜葉は小声で聞いた。
「言ってないよ。僕とお姉ちゃんの秘密にしておこう」
優弥がそう言うと、蜜葉はほっとしたような、でもどこか後ろめたさを感じた。
「で、その相手は浩介?」
優弥の次の言葉に、蜜葉は息をのんだ。
顔が一気に熱くなり、耳までほてっていくのを感じた。
「そ、そんなこと……」
「当たりだね」
優弥は満足そうに頷いた。
「兄弟でって、なかなかスリリングでいいよね。でもさ……」
優弥は少し体を前に乗り出した。
二人の距離が、さらに縮まった。
蜜葉は思わず背もたれに体を預け、逃げるように後ずさりした。
「浩介のじゃあ、物足りなくない?」
優弥の声は、囁くように低くなっていた。
蜜葉は唇を噛みしめた。
浩介とのセックスの最中に思っていたことが、まさに今、優弥の口から語られた。
「浩介はまだ子供だし、ちっちゃいでしょ? お姉ちゃんみたいな美人を満足させるには、ちょっと足りないんじゃないかな」
「やめて……そんなこと言わないで」
蜜葉の声は震えていた。
でも、それは怒りからではなく、何か別の感情からだった。
「ごめんごめん。でも、本当のことだと思うよ」
優弥は蜜葉の反応を楽しむように、ゆっくりと言葉を続けた。
「お姉ちゃん、もっとすごいのを味わってみたくない? 浩介とは全然違う、大人の男みたいなので」
蜜葉は首を振ろうとした。
でも、体が言うことを聞かなかった。
頭の中では「いやだ」と叫んでいるのに、体の芯から熱いものが湧き上がってきているのを感じた。
「ほら、お姉ちゃんも興味あるんだよね。前回、僕の話を聞いてたときの目、ぜんぜん興味なさそうじゃなかったもん」
優弥がさらに近づいた。
彼の膝が、蜜葉の膝に触れそうな距離まで来ている。
「僕、お姉ちゃんに会う前から、すごく気になってたんだ。こんなに可愛い姉さんがいるなんて、浩介めっちゃラッキーだなって」
優弥の手が、ゆっくりとソファの上を進んできた。
蜜葉はそれを見つめ、息を詰まらせた。
「でもね、浩介だけが独占するのはもったいないよ。お姉ちゃんだって、もっといい経験をしていいんだから」
優弥の指先が、蜜葉の手の隣のソファに触れた。
直接触れられてはいないのに、蜜葉はその熱を感じるようだった。
「優弥くん……私、浩介のことが……」
「好きなんでしょ? わかってるよ。でもさ」
優弥は蜜葉の目を真っ直ぐに見つめた。
「好きって気持ちと、体が求めるものは別だよ。お姉ちゃん、僕と浩介、どっちがいい体してると思う?」
蜜葉の視線が、思わず優弥の体に走った。
ジャケットの下からわかる、がっしりとした肩幅。
Tシャツの袖から覗く、しっかりとした腕。
浩介の細身でどこか幼さの残る体とは、明らかに違う。
「お姉ちゃん、触ってみる?」
優弥が突然そう言った。
蜜葉は目を丸くした。
「だ、ダメ……そんなこと……」
「別に、手だけだよ。ほら」
優弥はゆっくりと右手を差し出した。
手のひらを上に向け、蜜葉の前に置いた。
「浩介の手より、ずっと大きいでしょ? 力もあるよ」
蜜葉はその手を見つめた。
確かに浩介の手より大きく、指も長く、どこか男らしい骨格をしていた。
「触ってみなよ。怖くないから」
優弥の声は、誘惑的で甘い。
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