第2章: 膨らむ興味と小さな背信
第2章: 膨らむ興味と小さな背信
優弥が家に来てから三日が経っていた。
リビングのカーテンは閉められ、午後の柔らかい光が布を通してほの暗い空間を作り出していた。
浩介は蜜葉の上に覆いかぶさり、ゆっくりと腰を動かしていた。
蜜葉の呼吸は少し荒く、長い黒髪がソファの上で広がっている。
浩介の顔は真剣そのもので、蜜葉の表情を一心に見つめながら、できるだけ優しく、彼女が喜ぶリズムを探っていた。
――姉ちゃんが気持ちよさそうな顔をしてくれるのが、何より嬉しい。
そう思って、浩介はさらに丁寧に動いた。
蜜葉の手が浩介の背中に触れた。
その指先が、汗で少し湿ったTシャツの生地を軽く掴む。
「……ん」
蜜葉の唇から、かすかな吐息が漏れた。
その瞬間、浩介はいつも以上に慎重になった。
蜜葉がもう少しで感じそうな気配がしたからだ。
でも、蜜葉の目は少し虚空を見つめているようだった。
まつ毛がかすかに震え、視線の焦点がどこか遠くにある。
「姉ちゃん……?」
浩介が小声で呼びかけると、蜜葉はぱっと目を見開いた。
「あ、ごめん……ちょっと、考え事しちゃって」
蜜葉は苦笑いを浮かべ、浩介の頬をそっと撫でた。
その手の温もりに、浩介はほっとした。
でも、蜜葉の目には何か引っかかるものが残っていた。
浩介は動きを止めずに、ゆっくりと腰を前後に動かし続けた。
ソファのクッションが彼らの体重で沈むたびに、かすかなきしむ音が響く。
蜜葉の体は確かに熱を持っていて、浩介を受け入れている。
でも、何かが違う。
前回のときよりも、蜜葉の反応がどこか薄いような気がした。
「……浩介」
蜜葉が突然口を開いた。
声は普段よりも少し低く、ためらいが混じっている。
「うん?」
「あのさ……」
蜜葉は一度息を深く吸い込んだ。
浩介の動きが自然と緩やかになる。
「優弥くんの話……あれ、ほんとなんだと思う?」
浩介の体が一瞬硬直した。
腰の動きが完全に止まり、蜜葉の体の上で微動だにしなくなった。
「な、なんで今そんな話を……」
「だって……気になっちゃうんだもん」
蜜葉は目を逸らした。
天井を見つめながら、言葉を続ける。
「中学生なのに、大人の女性と……それも複数人とか。それに、あの自信満々な様子……」
蜜葉の声が次第に小さくなっていった。
浩介の胸の中に、冷たいものが広がっていくのを感じた。
「そ、そんなの嘘に決まってるよ。自慢したいだけだよ」
浩介は必死に言った。
声が少し震えていることに、自分で気づいた。
「そうかな……」
蜜葉はまだ天井を見つめたまま、呟くように言った。
「だって、あの堂々とした感じ……本当に経験してる人っぽいじゃん。浩介とは、なんか……雰囲気が違う」
その言葉が、浩介の胸を鋭く刺した。
蜜葉の体の中にまだ埋まっているのに、急に全てが冷めてしまいそうな感覚に襲われた。
「……姉ちゃん、僕のことが嫌になったの?」
浩介の声が、思わず上ずってしまった。
蜜葉は慌てて浩介の顔を見つめた。
「違うよ! そんなことないって!」
蜜葉は両手で浩介の頬を包み、真剣な目で見つめた。
「浩介とこうしてるのが嫌いなんじゃない。ただ……優弥くんの話が気になって、ちょっと想像しちゃっただけ」
「想像……?」
「うん。あの大きいって話が、ほんとかどうか……あんなのが本当にあるなら、どんな感じなんだろうって」
蜜葉の目が、ほんの少し好奇心に輝いているように見えた。
浩介は言葉を失った。
今まで蜜葉がそんな目で他の男のことを考えたことなど、一度もなかった。
「……僕のでは、足りないの?」
浩介は押し殺すように聞いた。
蜜葉の表情が一瞬曇った。
「そういう問題じゃないってば。浩介、怒ってる?」
「怒ってない……けど、悲しい」
浩介は素直に答えた。
蜜葉の中からゆっくりと抜き出し、ソファに座り込んだ。
股間はまだ少し興奮した状態だが、気持ちはすっかり萎えてしまっていた。
蜜葉も起き上がり、浩介の横に座った。
彼女の肩が浩介の肩に触れる。
「ごめんね。変なこと言っちゃって」
蜜葉は浩介の手を握った。
その手の温もりは、いつもと同じだった。
でも浩介の中には、消えない不安が巣食っていた。
「……優弥のこと、好きにならないでよね」
浩介は下を向いたまま言った。
蜜葉は少し間を置いてから、弱々しく笑った。
「バカ。そんなわけないじゃん。浩介が一番だよ」
その言葉は、浩介を少しだけ安心させた。
でも、蜜葉がすぐに続けた言葉が、その安心を揺るがした。
「ただ……一度でいいから、見てみたい気もするな。あの自慢してたもの」
蜜葉の声は、まるで秘密を打ち明ける子供のように、少し嬉しそうだった。
浩介は何も言えなかった。
ただ、握られていた蜜葉の手が、急に冷たく感じ始めた。
*
それから一週間後。
木曜日の放課後、浩介は図書委員会の当番だった。
「今日、委員会で遅くなるから、先に帰っていいよ」
朝、玄関で靴を履きながら浩介が言うと、蜜葉は頷いた。
「うん、わかった。お疲れ様」
蜜葉は微笑んだが、その目はどこか遠くを見ているようだった。
浩介はその表情が気にかかりながらも、学校へ向かった。
一日中、授業に集中できなかった。
優弥のことが頭から離れない。
優弥は今日、浩介に何度も話しかけてきた。
「最近、お姉さんとどう?」
そう聞かれたとき、浩介はぎくりとした。
「……普通だよ。なんで?」
「いや、なんとなく」
優弥は悪戯っぽく笑った。
その笑顔には、何かを知っているような自信がにじみ出ていた。
「浩介がいないときって、お姉さん一人で家にいることある?」
「た、たまにはあるけど……」
「そっか。じゃあ、今度遊びに行ってもいいかな? 浩介がいないときってわけじゃないけど」
優弥の言葉が、浩介の胸に重く響いた。
「なんで姉ちゃんに会いたいの?」
浩介は警戒して聞き返した。
優弥は肩をすくめた。
「別に、なんとなく。お姉さん、面白そうだし。それに……」
優弥は浩介に近づき、声を潜めて言った。
「浩介とお姉さん、仲良すぎだよね。普通の姉弟じゃない感じがする」
浩介の背筋が凍りついた。
「な、何言ってるの。普通だよ」
「まあ、いいや。じゃあな」
優弥は軽く手を振り、自分の席に戻っていった。
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