第3章: 処女の標本、貫通の儀式

第3章: 処女の標本、貫通の儀式
水着ステージから一週間が過ぎた。
智美の体は、あの夜の熱と羞恥をまだ忘れられずにいた。シャワーを浴びながら自分の腿の内側を触ると、あのスポットライトの下でじっとりと汗ばんだ感覚が蘇り、思わず指が止まる。――どうして、こんなふうになってしまったんだろう。
ヴェールの奥の個室で、霧島涼は智美を待っていた。
彼は書類に目を通しながら、智美が入ってくるのを待ち、ようやく顔を上げた。灰色の瞳が、智美の顔をゆっくりと舐めるように見つめる。
「座れ」
智美は硬い革張りの椅子に腰を下ろした。膝の上で握った拳が、冷たく汗ばんでいる。
「先週のステージ、客の反応は上々だった」
涼は淡々と告げる。
「お前には、もっと高い価値がある。処女であるという事実が、な」
智美の息が喉で詰まった。涼の口から飛び出した言葉が、耳の奥で鈍く響く。
「……処女、ですか」
「ああ。ここでは、それが最高級の商品だ。未開封であることを証明し、それを競りにかける。『初夜権オークション』と呼んでいる」
智美の頭が真っ白になった。オークション。競り。自分の体が、値段をつけられて売られる。
「そんな……無理です。できません」
「断るのは自由だ」
涼は少しも動じない。むしろ、智美の拒否反応を予測していたかのように、次の言葉を重ねる。
「だが、この話を断ったら、お前はここで働き続けられない。次のステージへの出演もなしだ。当然、今までの特別出演料も支払われない」
智美の顔から血の気が引いていく。母に送った学費の振込のことを思い出した。あの金額が、もう手元にはない。
「オークションに出品され、落札された場合の報酬は……これだ」
涼は机の引き戸を開け、分厚い封筒を取り出した。それをテーブルの上に置くと、中身がずっしりとした重みで机を叩く音がした。
「中身を見てみろ」
震える指で封筒を開けると、束ねられた一万円札が、ぎっしりと詰まっていた。智美は生まれて初めて、これほどの現金を手にした。
「これは……前金ですか」
「そうだ。落札金額の半分を、事前に支払う。残りは終了後に全額渡す。総額は……少なくとも五百万円にはなるだろう」
五百万。
その数字が、智美の理性を粉々に打ち砕いた。母子家庭で育ち、母が必死に働いても年に三百万ほどしか稼げない現実を知っている。たった一晩で、それが手に入る。
「……やります」
声はかすれていた。智美自身、自分の口から出た言葉に耳を疑った。
涼の口元が、かすかに緩んだ。それは笑顔ではなかったが、何かを得たような、満足げな表情だった。
「よし。では三日後に実行する。詳細は藤堂から聞け」
ドアを出ようとした時、涼がもう一言加えた。
「覚えておけ。お前はもう、ただの給仕でも、踊り子でもない。『商品』だ。最高級の商品として、客の前に捧げられる」
その言葉が、智美の背骨を氷のように冷やしていった。
更衣室で、紫織が待っていた。彼女は智美の蒼い顔を見ると、そっと肩に手を置いた。
「オークションの話、聞いたわね」
「……はい」
「怖い?」
智美はうなずけなかった。恐怖よりも先に、脳裏を駆け巡る五百万円という数字が、全ての感情を押しつぶしていた。
紫織はため息をつき、智美の髪をそっと撫でる。
「私も、そうだったのよ。処女のままここに来て、同じように売られた」
智美の目が大きく見開かれた。
「紫織さんも……?」
「そう。だから、智美ちゃんの気持ち、よくわかる。恥ずかしくて、惨めで、でも……そのお金の重みに、結局従っちゃうの」
紫織の声には、どこか諦めに似た温もりがあった。
「あの夜、私は泣きながら抱かれた。痛かった。でもね……」
彼女は智美の耳元に口を寄せ、囁くように続けた。
「その後に手にした現金の束を見た時、全てがどうでもよくなったの。恥ずかしさも、痛みも、全部お金で洗い流せるって、心底思えた」
智美の喉が乾いた。紫織の言葉が、自分の中のどこか汚れた部分にじんわりと染み込んでいく。
「検査はどうなるんですか」
「舞台の上でやるの。お医者さんみたいな人が来て、みんなの前で処女かどうかチェックする。器具で……あそこを広げて、中まで見られる」
紫織の説明に、智美の股間が疼くような感覚を覚えた。それは恐怖ではない。得体の知れない、熱い羞恥だった。
「客はみんな、息を呑んで見守るの。純潔の証を確認する瞬間を、待ち焦がれて」
智美は自分の腿の間に手を当てた。あの未だ誰にも触れられていない場所が、もうすぐ大勢の男たちの視線に晒される。その想像だけで、膣の奥がじんわりと熱を帯びるのがわかった。
――私、おかしい。
そんな自分に、智美は目を背けた。
オークションの夜がやってきた。
舞台袖で、智美は真っ白なワンピースを着せられていた。それはまるで花嫁衣装のようで、しかし布地は透けるほど薄く、胸の頂点と腿の付け根の影がくっきりと浮かび上がる。
紫織が智美の前にしゃがみ込み、彼女の顔を両手で包んだ。
「大丈夫。すぐ終わるから。終わったら……すごく楽になれるから」
その言葉が、最後の一押しとなった。
アナウンスが響く。
「皆様、本日晚の特別出品でございます――純潔の証、目黒さとみ、十八歳」
客席からどよめきが起こった。智美は舞台袖から、スポットライトに照らされた白い診察台のようなベッドを見つめた。そこに横たわるのが、自分なのだ。
「さあ、さとみさん、お願いします」
舞台監督らしい男に背中を押され、智美はゆっくりと舞台へ歩き出した。真っ白なワンピースが、照明に照らされてさらに透けて見える。客席からは、息遣いさえ聞こえるような静寂が広がっていた。
ベッドに横たわる。冷たいビニールの感触が、背中に直接伝わってくる。
「では、検査を始めます」
白衣を着た初老の男が近づいてきた。彼は優しい笑みを浮かべているが、その手に持った金属製の器具が、冷たく光っていた。
「足を開いてください」
智美は震える脚をゆっくりと広げた。ワンピースの裾が腿の付け根まで捲り上がり、白い下着が露わになる。客席からかすかな溜息が漏れた。
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