大家と住人の淫らな契約~家賃の代わりに私の膣を差し出して~
あらすじ
【時点】春、午前中。退職後、実家隣のアパートの大家として細々と暮らす古河次郎(68)の日常。ある日、3ヶ月も家賃を滞納している201号室の南原祐也(35)に督促に行く。部屋からはダラけた音楽と、彼の女友達・有田里奈(28)の「また滞納なの?」と呆れた声が漏れる。次郎は淡々と督促を伝え、南原は「今月こそ払いますよ、大家さん」とその場しのぎの約束。その夜、南原は生活費欲しさに里奈を抱きながら、「大家のじいさん、独身で金持ってるだろ?あんたがなんとかしたらいいじゃん」と囁く。里奈は「バカ言わないで」と拒むが、南原の巧みな愛撫と「家賃払えなかったら追い出されるよ?二人でホームレスになるの?」という言葉に、心が揺らぐ。翌日、次郎が共用廊下を掃除していると、ミニスカートにノーブラTシャツ、スケスケのショーツ姿の里奈が「お手伝いします」と現れる。しゃがんで雑巾がけをする彼女の谷間、四つん這いになった時の尻の割れ目に食い込むショーツの布…次郎のジャージの股間が、思わず重くうごめく。大家としての立場を忘れ、年齢差を感じさせない里奈の若い肢体に、次郎は久しぶりの欲情を覚える。
第1章 滞納の匂いと、仄かな欲情

第1章: 滞納の匂いと、仄かな欲情
春の陽射しが、築三十年を超える木造アパートの廊下に白く落ちていた。俺は古河次郎。六十八になる。勤めを辞めてからというもの、親の残したこの古びた二階建ての集合住宅の面倒を、ただ黙々と見てきた。壁の塗装はところどころ剥がれ、手すりのペンキは陽に灼けて粉を吹いている。それでも、この建物は俺にとっては性分のようなもので、毎朝こうして共用部分をひと回り眺めるのが日課になっていた。今朝はとりわけ空気がやわらかく、どこからか沈丁花の甘い香りが流れてくる。俺は紺色のジャージの膝を少し伸ばし、スリッパの底で廊下の木目を踏みしめながら、細く息を吸った。
とはいえ、浮世は花の香りばかりではない。三ヶ月になる家賃の滞納が、ちょうど真上の記憶のように俺の胸を重くしていた。二階の二百一号室。あそこに住む若い男の顔を思い浮かべながら、俺は階段へ足を向けた。錆の浮いた鉄の踏み板が、一段ごとに鈍く鳴る。昇りきった先の廊下には、住人のものらしいビニール傘が一本、壁に寄りかかって眠っていた。二百一号室の前まで来ると、ドア越しにくぐもった音楽が漏れている。低音が壁の中で唸っているような曲だった。ため息をひとつ呑み込み、軽く扉を叩く。
「南原くん。大家の古河だけど」
声をかけて少し待つものの、返事はない。音楽の音量のほうが勝っている。俺はもう一度、今度は手のひらの付け根でしっかりと扉を打った。ようやく中から床を踏む気配が近づいてきて、鍵の外れる固い音がした。開いた隙間から、甘ったるいような、あるいは饐えたような空気が流れ出る。そこに立っていたのは、寝癖の跳ねた中長の黒い髪、伸びかけの無精髭、身体の線を隠すように弛んだスウェットを着た男、南原祐也。三十五のはずだ。彼は俺の顔を見ると、面倒くさそうに後ろ頭を掻いた。
「あー、大家さん。どうも」
「朝から悪いね。家賃の件だけど、三ヶ月分になる。今日あたり、なんとかしてもらえないか」
俺は焦らせないように、けれど曖昧にはしない調子で告げた。南原は視線を斜めに落とし、それからわざとらしく首を振った。部屋の奥からは、女の声がぽつりと聞こえる。
「ねえ、また滞納なの? 祐也、あんた何してるわけ」
掠れ気味の、けれど若い女の声だった。不思議と耳の奥に残る、少しだけ鼻にかかった声音。その声の主は姿を見せないまま、ぱたぱたと部屋の中を動く気配だけを廊下へ滲ませた。南原はちらりと背後を振り返り、すぐに俺へ向き直る。
「すんません、今月こそ絶対払いますよ、大家さん。もうちょっと待ってもらえますか」
その言葉に、毎度同じだなと思いながらも、俺はただ「そうしてもらえると助かる」と返した。声を荒らげるには、この春の日差しはあまりに穏やかだったし、相手も相手でこちらが折れるのを待っている風情があった。ドアが閉まると、また音楽の音が水底から響くように漏れ始める。俺は一つ呼吸を整え、来た道をゆっくりと引き返した。背後で小さく、女の笑うような声が聞こえた気がしたが、振り返りはしなかった。
その夜、あの部屋の中で何が話されたのか、俺は無論知る由もない。ただ、翌日になっても家賃の振り込みはなかった。午前中、俺は一階の倉庫から箒と雑巾を取り出し、共用廊下の掃除を始めた。古い木の床は、水を含ませた雑巾で拭うと、しっとりと色を深くする。排水溝の周りに溜まった砂埃を掃き寄せ、ちりとりに集める。黙々と体を動かしていると、不意に階段の上から声が降ってきた。
「大家さん、おはよーございます。なんか手伝おっか?」
見上げると、二階の廊下の角から若い女が覗き込んでいた。肩にかかるかからないかの長さの、明るめの茶色い髪が、春の光を透かしてふわふわと浮いている。顔は小さく、肌は白い。頬に散った薄いそばかすが、幼い印象を添えていた。白いTシャツの胸元はふっくらと盛り上がり、生地が重力に任せて柔らかく膨らんでいる。下は短いミニスカートで、素足がまっすぐに伸びていた。有田里奈、二十八歳。確か、あの南原と一緒に住んでいる女だ。
「やあ、有田さん。いいの? 大したことじゃないけど」
「いいっていいって。天気もいいし、ちょっと体動かしたい気分だったんだよね」
そう言って、彼女は階段を軽やかに降りてくる。スリッパの音が、ぺたぺたと小気味よい。俺は箒を一旦壁に立てかけ、予備の雑巾を絞って手渡した。彼女が近づくと、汗ばむ前の若い肌から放たれるような、微かな甘い匂いがした。洗濯石鹸と、その奥に潜む生の温かさが混じった匂いだ。
里奈はまず手すりから拭き始めた。しゃがみこむたびに、白いTシャツの襟元が大きく開き、重力に引かれた乳房の、たわわな膨らみが手前へ覗く。俺は目を据えるべき場所を探し、廊下の隅の埃へと視線を逃した。彼女の指先は細く、雑巾を握るたびに骨の節が浮いて白い。ミニスカートの裾からは太腿が見え、その皮膚は薄絹のように光を滑らせていた。否応なく視界の片隅へ、その若い肌の艶が沁みてくる。
「大家さんって、いつもこんなことやってるんですか?」
里奈が振り返りもせず尋ねる。首の筋がすっと伸び、汗ばむ前の肌に産毛が透けていた。
「日課みたいなものだよ。体が訛らないようにね」
「ふうん。元気でいいじゃん。うちの祐也なんて、昼まで寝てばっかだよ」
彼女の口調には、男への飽きのようなものが混じっていて、それが妙に生々しかった。俺は曖昧に頷き、持っていた箒の先を排水溝の泥へ押し当てる。里奈は立ち上がり、今度は床の拭き掃除を始めた。四つん這いになって、濡れた雑巾を前後に動かす。そのたびに、ミニスカートの裾が腰の上へずり上がる。丸く突き出した尻の割れ目が、布越しに深く食い込むのが見えた。下着が透けるほど薄いのか、あるいは最初からそういう種類のものなのか、あたりの湿った空気を吸って白い布が肌に張りついている。彼女は恥ずかしそうに片手で裾を押さえるが、指の位置が定まらず、かえって腿のつけ根の柔らかさが露わになる。太腿の白さが、廊下に落ちた春の光を吸い込んで、ぼんやりと明るく滲んだ。
俺の下腹の奥で、長らく忘れていた熱が、ゆっくりと頭をもたげるのを感じた。それは痛みに近い鈍さで、腰のあたりから背筋を上っていく。俺はしばし鍬でも振るような息を吐き出し、動きを止めた。すると里奈が、ふっとこちらの下半身を流し見た。彼女の切れ長の茶色い瞳が、ほんの一瞬、俺のジャージの前を確かめるように動いたように思えた。俺はすぐに腰を捻り、箒を持つ手に力を込めた。
「大家さん、顔赤くない? 暑い?」
彼女が小首を傾げて笑う。その笑みには、どこかあどけなさと同時に、こちらを覗き楽しむような光があった。俺は首を振った。
「いや、春の陽気のせいだろう。もう少しで終わりそうだよ」
「そう? でもさ、無理しないでね。大家さんいなくなったら、あたしら困っちゃうから」
彼女は悪戯っぽく言うと、再び床へ雑巾を押し当て、両膝を開いて前へ進んだ。背中から腰、そして尻への曲線が、しなやかで、布越しの肌の奥にまで肉の温度が透けて見えるようだった。俺は瞼の裏で、あの太腿の張りや、股関節のしなやかさを反芻してしまい、慌てて首を振った。数十年ものあいだ蓋をしてきた欲望が、錆びついた戸を内側から押している。指先に汗が浮かんでいた。
掃除を終えると、里奈は濡れた手をスカートの上から軽く拭き、俺に笑いかけた。
「じゃあね、大家さん。なにかあったら呼んでよ」
彼女が階段を上がっていく後ろ姿を、俺は少しの間だけ見送った。ミニスカートの裾が揺れるたび、白い腿の内側に薄い陰影が流れる。二階へ消えるまで、俺の目は金縛りにあったように動かなかった。手に残った箒の柄が、汗でしっとりと滑る。春の風が吹いて沈丁花の香りがまた鼻を掠めたが、今度はそれを甘いとも感じられなかった。ひどく重い熱が、腹の底に沈んでいる。
その夜、俺は自分の居室に戻り、冷たい麦茶を流し込んだ。喉を落ちる音ばかりがやけに耳につく。あの若い女の、しゃがんだ時の乳房の谷間、四つん這いの尻に食い込む薄布。どれもが網膜の裏に焼きついて消えない。俺は布団に横たわりながら、ジャージの下でまだ醒めやらぬ自身の存在を、苦い思いで意識していた。昔、付き合っていた女に笑われた記憶まで、湿った土の匂いとともによみがえってくる。俺のものは、ただ大きすぎる。それが女に怖がられ、最悪なら引かれて、関係を続けられなかった。あれから何年になるか。こんなふうにただ熱を燻らせるのは、もう本当に久しぶりのことで、骨の節々まで疼くような心地だった。
その頃二百一号室では、南原が里奈を抱いているかもしれない。そう思うと、胸の奥がざらついた。人の女だ。手を出そうなどと、微塵も考えてはいない。だが、悔しいかな、身体の方は正直で、あのひび割れたアパートの廊下に残った彼女の足音を、俺の下腹がまだ数えているのだった。
第2章 触れた巨形と、決意の唾液

第2章: 触れた巨形と、決意の唾液
夕刻の陽が、築三十年の木造アパートの廊下を飴色に染めていた。昼間の温みが壁板の節穴からゆっくりと逃げていく時刻で、空気は生ぬるく、どこか怠惰な匂いを孕んでいる。俺は一階の倉庫の前で、明日の朝にでも出そうと思っていた古い発泡スチロールの箱を束ねていた。屈み込んだ背中に、沈みかけた日の光が薄く張りつく。指先に絡む紐の感触だけを頼りに、黙々と結び目を作る。そんな俺の耳に、二階から降りてくるスリッパの音が届いた。ぱたぱたと、床板を確かめるように近づいてくる。音の軽さで、それが誰の足音かはもう分かっていた。
「大家さん、こんばんは。また片付け?」
顔を上げると、有田里奈が階段の半ばで立ち止まり、こちらを覗き込んでいた。明るめの茶色い髪は昨日と同じように肩先で揺れ、肌の白さが黄昏の薄闇に吸い込まれず、逆にその輪郭を何か卵の殻の艶のように浮かび上がらせていた。着ているものは、薄い灰色の大きなTシャツと、裾の短い黒のスカート。足は素足のままサンダルを突っかけている。胸元の布がわずかに持ち上がるのは、下に何も着けていないのか、それとも柔らかい素材の下着だけなのか、俺の位置からは見定められなかった。
「ああ、有田さん。昨日は手伝ってもらって助かったよ。今日は埃が出るからいいんだ」
俺はそう返し、腰を伸ばした。彼女の視線が、俺の手元ではなく、もっと低い場所へ一瞬流れたような気がした。だが確かめるのもおかしな話で、俺は黙って発泡スチロールの箱を壁際へ寄せる。里奈は階段を降りきると、こちらへ歩いてくるでもなく、手すりに片手を添えたまま、ぽつりと言った。
「ねえ、大家さん。昨日、なんか調子悪そうだったじゃん。暑かった?」
その声の調子は、昨日よりもいくぶん柔らかく、どこかおそるおそる隣の席の生徒に話しかけるような、妙な距離の測り方だった。俺は首を振ろうとしたが、その前に彼女の目が、今度ははっきりと俺の股間のあたりへ向けられるのが分かった。灰色のジャージ越しに、夕方の湿った空気を吸って重くなった布が、身体の形を隠しきれずにいる。咄嗟に手で前を隠そうとしたが、そんな仕草はむしろ不自然で、俺の指は中途半端に太腿の横で漂った。
「大家さん……」
里奈の唇の動きは、そう言葉を形にしたものの、それきりだった。かわりに、彼女の喉がこくりと上下する。夕陽が彼女の頬に落ちて、輪郭を橙色に濃く、目元を深い陰にして見せる。静かだった。どこかの部屋の換気扇が回る低い音と、植え込みで鳥がはばたく音だけが、薄い膜のように二人の間の時間を支えていた。
「それ、ちょっと大きすぎない?」
その響きはあまりに唐突で、けれど奇妙にすんなりと耳へ溶けた。ギャルのような崩れた語尾が、湿った空気を伝って俺の胸の奥へ染みる。訂正しようと口を開いたが、声が出ない。言葉が熱い唾液に絡まって、喉の奥で澱む。彼女は一歩、こちらへ近づいた。サンダルの鼻緒が、白い足の親指と人差し指の間に食い込み、爪の淡い桃色が光を反射する。Tシャツの裾から伸びる太腿は、薄闇の中でしっとりと濡れているように見えた。
「触ってみても、いい?」
彼女はそう尋ねると、俺の返事を待たずに右手を伸ばしてきた。細い指が、迷いながら俺のジャージの前へ触れる。最初は人差し指の腹だけだった。布越しに、彼女の指先の温度が伝わってくる。三秒、五秒と指を置いたまま、里奈は目を見開いていた。切れ長の茶色い瞳が、夕陽を受けて琥珀に濁り、瞳孔がゆっくりと大きくなる。俺自身は、あの春の廊下で薪をくべられて以来、燻り続けていた火種が、彼女の指先ひとつで勢いを取り戻し、熱く硬く、気道を塞ぐほどに膨れていくのを止められずにいた。
「硬い……。それにすごく、熱い」
彼女の声が掠れる。指が開いて、今度は手のひら全体で俺の形を包み込む。ジャージの上からでも分かるほどの張り詰めた質量。とりわけ先端に近いあたりが、他のどこよりも強く脈を打っている。里奈はそうっと親指を動かし、布越しに膨らんだ先の形を確かめる。まるで大きく熟れた毬のような、張りのある曲線。彼女ははっと息を呑み、その拍子に、ようやく口元から尖った声が転がり出た。
「ちょーまじ……なにこれ。古河さん、こんな凄いの隠してたの」
その響きにはありありと揺れがあった。殴られたあとのように眩暈を起こしたときのような、明るい動揺と、消えない好奇心が混ざった声。俺はようやく首を横に振ることだけはできた。
「やめてくれ、有田さん。これは、触られると困る」
「困るって、どういうこと?あたし、変なことしてる?」
彼女の手は離れない。むしろ僅かに指を窄めて、ゆっくりと握り直す。布越しに、俺の肉の輪郭がよりはっきりと彼女の手のひらへ沈んでいくのが分かった。潰れそうなほどの硬さではあるが、布のざらつく感触と、内側から突き上げるような熱とが、俺の感覚を麻痺させていく。里奈の指は、根元から先端へ、形をたぐるようにして一度だけ滑った。その仕草の、なんと生々しいことか。彼女は息を吐く。唇のあいだから、熱い溜息が小さく漏れて、それが俺の顔のすぐ前にまで届いた。
「大家さん、顔、すごいことになってるよ。赤いのか、青いのか分かんない」
里奈が小首を傾げて笑う。その笑みに、昨日朝の掃除のときのような、こちらをからかう明るさはもう少ない。眼差しの底に、何か別のものが澱んでいた。湿った好奇心というより、もっと深い、この数時間で発酵した種類の欲情だ。俺は彼女の手首をつかもうとした。しかし、俺の大きな手が彼女の細い腕へ触れる直前に、里奈の指先が、ちょうど俺のもっとも敏感な先端の膨らみを、そっと押し潰すようにして触れた。下腹の毛が束で軋み、痛みにも似た切なさが、腰骨の裏まで突き抜ける。
「触られると困るけど、でもこれ、すっごく気持ちいいんでしょ。先っぽ、汗でちょっと濡れてきてるもん」
ジャージの内側で、確かに先走りが染みていた。それは昨夜、あのスケスケのショーツに食い込んだ彼女の肉厚な割れ目を思ってから、断続的に滲み続けていたものだった。布に吸われるたび、ここ数十年のあいだ蓋をしてきたものが、鈍痛を伴ってそこへ集まっていく。彼女はそんな俺の様子をまっすぐに見上げていた。
「あのさ、大家さん。笑われるの、怖いんでしょ」
不意に、里奈の声の質が変わった。からかう響きが薄まり、何かを見抜いた後のような穏やかな色が乗る。俺は言葉を失い、ただ彼女の目を見た。夕陽はほぼ落ちて、あたりは青い薄暮に変わりつつあった。彼女の顔が、夜の手前の淡い光のなかで、妙に幼く、かつひどく物憂げに見える。
「あの大きすぎるって、女に引かれたこととか、あったのかなって。だって古河さん、独り者みたいだし。最近までずっと、こういうの隠すようにしてきたんだろ?」
里奈の指は、まだ俺の形を包んだままだ。そこから熱が滲み、互いの体温が布の目を埋めてぬめるように混ざり合う。俺は口を開いて、吸い込んだ空気をそのまま吐き出した。何かを否定するには、身体が彼女の指先に縛められすぎていた。
「俺は、人より少し出来が違うだけで、それで女に怖がられるのが嫌なだけだ」
ようやく出た声はひどく掠れていた。喉の奥に、古い土の味が甦る。四十数年、いやもっと前から、この肉の形が俺の孤独の真ん中にあって、決して人に見せず、触れさせず、ただ夜ごと布団の下で苛立たせ続けてきた。里奈は少しだけ眉根を寄せ、それから頬を緩めて、捕まえていた手の位置をそっとずらした。
「怖がってないよ。あたしが言うのもなんだけど、むしろ……ちょっと、触りすぎたかも」
そう言って彼女はようやく手を離した。離れた指先が、名残のようにジャージの裾のあたりを撫でて落ちる。互いの呼吸が、薄闇の中でひとつになりそうな近さだった。里奈は両手で自分の二の腕を抱くようにして、かすかに首を傾げた。
「あのさ、今夜、お部屋に行ってもいい?話があるの」
その声は、昼の砕けた調子ではなく、どこか余所行きに近い、一次停止した明るさだった。俺は返事するかわりに、軽く顎を引いた。彼女は一度だけ「じゃあ」と呟くと、くるりと背を向けて階段を上がっていく。サンダルの乾いた音が、二階の廊下へ吸い込まれていった。
それから数時間、俺は自室の窓辺に座りつづけた。夕闇が本物の闇に変わり、窓枠の外で虫の羽音が低く震える。古い青畳の部屋は、昼の熱をほのかに溜めて、体温を洗い流すように生ぬるい。箪笥の上の丸い振り子時計が、のろのろと時を刻む音だけが耳につく。身体はまだ、彼女の指で形取られた場所が燃えるように熱かった。ジャージを脱いで風呂場で軽く洗い流したが、先端に触られた感覚は皮膚の下の肉ごと奥深くへ這入り込み、何度も何度も蘇っては硬く脈打つ。
その夜、南原にせかされるようにして、里奈が俺の部屋の引き戸を叩いた。音は二度、控えめに三度。俺が「どうぞ」と声をかけると、木枠の音をさせて、薄い白のワンピース姿の里奈が入ってきた。昼間のTシャツとは違い、肩を出すくりの深い上衣に、膝のあたりでふわりと広がる綿の布。髪は乾いていて、石鹸の清潔な香りが、彼女の背後から押し込まれてくる。素足に白いサンダル。それが土間のたたきで小さく鳴った。
「こんな時間に、ごめんね」
「いや、構わない。座るか」
「ううん、立ってる」
里奈はそう言って、肩を窄めるように笑った。天井の裸電球が、彼女の茶色い髪に淡い金の膜をかぶせる。俺の部屋は六畳ほどの居室で、隣に小さな流し台と、奥へ布団の敷いてある寝室が続いている。彼女の若い身体が、狭い木造の空気のなかで、あまりに鮮やかに匂い立っていた。汗と、柔軟剤と、その奥に少しだけ尖った若い女の生の匂い。あの二百一号室に立ち込めていた、饐えた生活のにおいを浴びていた彼女が、今ここでは別の清潔な生きもののように見える。
「話があるっていうのは」
「うん。ええとね……」
彼女はそこで言い淀み、指先を胸元の布に押し当てた。肌の上を汗がつたう気配はまだないが、目元がうっすらと熱を持ち、光の加減で赤く見える。呼吸が少し速い。胸のあたりが上下するのに合わせて、白い布が波打つ。
「あのさ、さっき、私、大家さんに触ったでしょ。あれ、ほんとは謝らなきゃって思ったの」
「謝ることじゃない。こちらこそ、みっともないところを見せた」
「みっともなくないよ。むしろ、私の方がおかしくなりそうだった」
彼女はそう言うと、ようやく畳の縁を跨いで、俺のすぐ目の前にしゃがみこんだ。両膝を揃えて、白いワンピースの裾を払いながら座る。上目づかいに見上げる眼差しは、あの夕方と同じ、飴を溶かしたような茶色の光を宿していた。俺は正座をしたまま、彼女の顔をただ見つめる。頬の薄いそばかすが、近くで見ると星の散るように並び、鼻筋の右側に二粒、こめかみの下に一粒あった。
「大家さん。私、ずっと考えてたの。昼間、あの、触った形が頭から離れない。あんなの初めてで、どうしたらいいのか分かんない。来る途中も、足が震えてたの」
彼女の膝が、ほんの少し開く。ワンピースの裾から覗く太腿の、白くしっとりした奥に、夜の空気がするりと滑り込む。彼女はその太腿の上で、両手を花を折るように重ねた。
「私……試させてください」
唇のかたちが、そう言葉を作るまでに、何度もその台詞を飲み込んだのだろうことが分かった。声は小さく、それでいてはっきりと、部屋の静けさに一本の細い線を引く。俺は唾を飲んだ。喉仏が上下するのが自分でも分かる。彼女の眼差しはもう逸らされていなかった。
「試すって……そんなことを言っていいのか。君には南原くんがいるだろう」
「あの人には……今日ここへ来るって話してある。というか、あからさまに背中を押された感じ」
里奈は自嘲するように口の端を持ち上げ、それから小さく首を振った。
「けど、もうあの人のこととか、そういうのじゃなくて。私が、古河さんのをきちんと見たいの。触って、確かめたい。迷惑なら帰るけど」
彼女の頬が、みるみるうちに紅潮していく。耳の縁まで淡く染まって、首筋の白さとの境が眩しいほどだった。俺の指先が、わずかに畳の上で動く。何か言わなければ。大家として、齢六十八の男として、彼女を帰すのが正しい。だが、口を開く前に、俺の左手が畳を離れていた。里奈の目の前で、その節の浮いた長い指が空を掴み、震えている。彼女は一瞬、その手を見てから、覚悟を決めたように腰を浮かせ、俺の履く紺のステテコの前へ両手を伸ばした。
「開けるね」
里奈の指が、腰元のゴムへかかる。引き下ろされる布の感触が、下腹の皮膚を逆撫でる。外気に触れた中心部は、すでに身の内の熱で膨れ上がり、下着の前立てを押しのけて肌を覗かせようとしていた。それでも実際に現れたものは、彼女の想像をはるかに超えていたのだろう。両手を止めたまま、里奈の呼吸が、ひゅ、と細く鳴った。
「長い……。太さも、これ、腕の真ん中くらいあるんじゃないの」
彼女の指先が、恐る恐るその幹へ触れる。直接の皮膚と皮膚。里奈の人差し指の腹が、まだ乾ききっていない滑らかな包皮の上をすべる。続いて親指が、力を込めずに亀頭の膨らみへ触れた。先端は、彼女の手のひらでは到底隠れぬほど張り、熱を持った球体のような稜線を描いている。光の下で、そこから滲み出した先走りが、ぬらりと彼女の指先を濡らした。
「あ……出てきてる。これ、ちょっとしょっぱいのかな」
里奈はそう呟くと、濡らした指を自分の鼻先へ近づけて、息を吸い込む。その仕草の、なんと残忍で、なんと無垢なことか。俺の腰が、勝手に揺れる。里奈は唾を飲み込んで、おずおずと顔を寄せた。唇が、亀頭のてっぺんに触れるか触れないかの距離で開き、熱い息が吹きかけられる。
「私、こんなの、どうすればいいか分かんないけど……舐めてみていい?」
彼女の目が俺を探る。返事の代わりに、俺の指が里奈の後頭部の髪へ、恐ろしく優しく触れた。艶のある茶色い髪が、太い指の骨に絡まって、ひどく温かい。里奈は目を伏せ、唇をそっと、ぬめった先端へ押し当てた。柔らかい。弾力のある下唇の肉が、敏感すぎる亀頭の窪みをゆっくりと割って這う。彼女の舌が、その間に突然ぬるりと押し出され、先走りの滲む穴のあたりを掬い上げた。俺の膝が、畳の上で跳ねる。無意識に、喉の奥から低い唸りが漏れた。
「ん……ぁむ」
彼女が唇を押し広げ、亀頭を口腔に迎える。口蓋は熱く湿っていて、粘膜の襞が、ぴったりと包皮を吸いつく。まだ歯など一本も当たらず、ただ奥へと呑み込もうとする彼女の舌の動きだけがあった。れろ、という微かな音が、唇と唾液のあいだから洩れる。ちゅ、ちゅる。彼女は角度を変え、舌の腹で膨れた亀頭の底の縁をなぞった。ぬるりとした先走りが、里奈の唇をひどく艶やかに光らせている。
「大家さん……ねえ、これ、誰にも舐めさせたことないの?」
顔を上げた里奈は、顎の下まで唾液で濡らし、切れ長の目をうっとりと潤ませていた。
「ない。舐めてもらうのは初めてだ」
「じゃあ、私が初めてなんだ。嬉しい」
彼女はそう言うと、再び唇を寄せ、今度は根元から先端へ向けて、舌を這わせながら何度も舐め上げた。大して上手くない。ぎこちなく、時折空気を吸い込み、唾液がぼたぼたと俺の腿へ落ちる。それでも、その不器用さのひとつひとつが、ぞくりと背筋を這い上がってくる。さすがに硬さの限界を超えたのか、里奈の口から、ごぷ、という水音とともに、まだ裏筋を残したまま亀頭が抜け出る。ひどく卑猥な光沢に包まれた俺自身が、裸電球の下で脈打っていた。里奈は口元を手の甲で拭い、荒い息のまま俺を見上げる。
「私……まだ自分のほうが、おかしくなりそう。大家さんの、これ、ほんとに美味しい匂いがする」
彼女の瞳は、もういちど俺の下腹の奥へ向けられていた。この瞬間、彼女のなかで何かが確実に傾いた気がした。俺の肉の重さと、味と、匂いとが、この若い女の倦んだ日常を覆しはじめている。里奈は震える指でワンピースの胸ぐりを押さえ、膝を一段開いて、上目遣いのまま言った。
「明日の夜……続き、してもいい?」
俺は今度こそ何も返さなかった。ただ、彼女の唇の端に光る別の液体を、親指の腹で拭った。彼女が逃げもせず、目を閉じる。長い睫毛が、蝋の花びらのように頬の赤みへ落ちて震えていた。心の奥で、何かが音を立てて崩れはじめていた。それは彼女の欲ではなく、俺自身の、この長く重い孤独の堰だった。
第3章 膣の歓喜と、男の交替

第3章: 膣の歓喜と、男の交替
夜半を過ぎた頃、古河は何度目かの寝返りを打ち、汗の滲んだ胸元に夜気を這わせた。襖を閉め切った六畳の空気は、昼の名残を攫い損ねたように澱み、天井に吊るした裸電球を消しても、畳の目に染み込んだ昼間の匂いまでが鼻先へ漂ってくる。隣室の気配は絶えて久しく、外を渡る風が庇を鳴かせるたび、閉じた障子がほんの僅か、白い息をつくようだった。古河は仰向けのまま天井を見つめ、自分でも薄々分かっていたことだが、眠りはとうに諦めの外側へこぼれ落ちている。手のひらには老いてなお熱い血が通い、胸の奥には、あの若い女の唾液の感触が、つい先ほど触れたばかりの生々しさで貼りついていた。
引き戸の木目が、暗闇の中で細く光る。里奈が帰りぎわに指をかけた桟のあたりを、古河は寝返りのたび、無意識に盗み見るような心地でいた。口内に残る塩辛さは、洗面所で水を飲んでも消えず、唇の裏側へこびりついた彼女の粘液だけが、現実の手触りを保ちつづけている。舌先で上顎をなぞれば、皮膚の薄い部分にまであの生温かなぬめりが蘇り、腿のつけ根の肉が疼く。歳甲斐もなく、体の芯だけが若い雄のように昂って、眠りへ沈むことを拒んでいるのだった。
古河はそっと片手を伸ばし、敷布の上に投げ出された己の掌を薄明かりに透かした。節くれ立った指、土仕事で固くなった三つの胼胝、爪の縁に入った細かい罅。あの掌で、昨日、里奈の肉へ触れた。いや、正確には、彼女の方から掌を導かれ、指の腹を、あの湿った内部へ招き入れられた。何十年ぶりに、女のひだの奥の熱へ、皮膚でふれた。遠い過去、笑われ、拒まれて以来、この手は人に触れる術を忘れてきたはずだった。なのに、いま、指先には女の蜜の濃度がありありと残り、そのぬめりが骨の中まで沁みて、寝返りを打つたびに俺という男の暗い叛乱を煽る。
古河は起き上がった。太腿を隠すものが急に鬱陶しく、ステテコのゴムへ指をかけるが、そこへ触れた途端、自分の性器が昨夜の続きを欲しがっているのが分かって、背筋を震わせた。布の上からでも分かる。いや、分かってしまう。濁った老いの情欲が、腹の底からせり上がり、尿道の奥をきゅっと絞った。痛いほどの充血。しかも、それは彼女を思うたびに質量を増して、夜の空気を焼くように熱い。
「情けない」
古河は誰へともなく呟き、静かに立ち上がった。冷たい茶でも飲むつもりで台所へ向かうが、引き戸の前で足が止まる。夜の闇を裂くように、どこかで子猫が啼いた。風呂場の壊れた蛇口が、ぽつ、ぽつ、と間欠的に滴を落とす。その一滴一滴が、迂闊に動けば壊れてしまいそうな胸の芯を叩く。古河は戸へ手をかけたまま、長いこと、外の気配へ耳を澄ませていた。
やがて、障子の桟を通して、二階の廊下を踏む人間の気配がした。ほとんど物音らしい物音ではない。だが、木材の繊維が体重を覚えたような、かすかな軋みの変化を、古河の耳は敏感に拾った。里奈だろうか、それとも南原か。胸のうちに冷たいものでも落ちたように、一瞬、息が詰まる。古河は音を立てぬよう、掌で敷居へ体重を逃がしながら、耳を澄ませた。足音は一度止まり、数秒の間を置いて、再びぺたぺたと素足に吸いつくような、柔らかい跫へ変わる。スリッパではない。むき出しの足の裏が、磨り減った木材を這う音。それが階段を下りてくるにつれ、心臓が喉の裏まで持ち上がった。
古河は半身を障子の陰へ隠し、息を詰めた。こんな深夜に、彼女が裸足で降りてくる。それ以上を考えまいとしても、脳裏には昼間、里奈が帰りぎわに残した横顔が掠めていた。なぜ来る。来てどうする。いや、来るはずがない。あの若さで、こんな老いぼれた饐えた男の部屋へ。だが、足音は迷いなく近づき、彼の戸の前で止まった。
壁越しに、彼女の寝息に似た気配が滲む。古河は動けなかった。戸を引く勇気も、逃げる情けなさも併せ呑んだまま、木目ひとつひとつにまで女の存在を感じる不条理へ立ち尽くす。すると、数秒の沈黙のあと、爪の先で障子が三度、かすかに掻かれた。こつ、こつ、こつ。白昼の戸惑いなど嘘のように、それは契約者の確信に満ちた合図のように古河の鼓膜を揺らした。
古河がゆっくり戸を引くと、暗がりの中、里奈が突っ立っていた。部屋着らしき薄い桃色の襟元から、湯上りの肌が夜気を孕んだ。髪は湿り、幾筋かが首や頬へ貼りついて、艶めいた線を描く。彼女の身体に残った石鹸の匂いと、その奥から微かに立ちのぼる女の皮脂の匂いが、静かな風に流れ、古河の鼻腔をくすぐった。胸元には薄い生地が汗で張りつき、尖った乳房の頂が見える。短く折り返した裾の下から伸びるふくらはぎの白さが、廊下の暗い瓶底のような濃紺の中で、一度に目を灼いた。
「……古河さん」
里奈の唇が、ほとんど息だけでそう言った。その声は恐ろしく艶があり、泣いているようにも笑っているようにも掠れていた。古河は返事の代わりに顎を引く。それだけの仕草に、この男の逡巡も反省も矜持も、とっくに滑り落ちてしまった泥濘の熱が滲んでいる。里奈は一瞬だけ、何かを探るように夫のいない二階の方を見やってから、吸い込まれるように部屋へ踏み込んだ。その白い足袋もない素足に、夜気が冷たい油を引く。彼女が一歩踏み入れた瞬間、狭い家全体の匂いが変わった。饐えた畳、古い木、生乾きの布団、そういった老いの空気を、若い女の湯けむりが押し包み、部屋全体を淫らな体臭で充たす。
古河が戸を閉じると、二人きりの闇が一気に粘度を増した。里奈は口を開かず、ただ古河の胸のあたりへ視線を漂わせ、時々、上目遣いで彼の顔を窺う。その瞳は切れ長で、薄暗い中でも笑うように潤み、裸電球の光を受けていないのに、ぬれた光を宿していた。
「……来るべきじゃ、なかったか」
古河の掠れた声が、自分の喉から出たものとは思えぬ固さだった。途切れた不器用な声音は、畳の上で砕けた。里奈は唇の端を持ち上げて、小さく首を振る。どちらでもない、というより、いま此処へ来たことの理由を自分の舌で説明できる女ではない。彼女の中でも、理屈は疾うに沸騰して蒸発していた。
「理由が、ないんです」と、里奈は小さく呟いた。「ただ、古河さんの部屋の前まで来てました」
古河は言葉を返せない。女の前に立っているだけで、ステテコの奥の雄が、早くも腹の前を押し上げているのが、彼女の瞳に映る。いや、明かりが薄くたって、もう隠しきれない塊を、彼女の眼は逸らそうとしない。里奈が部屋の中央へ進み、古河のつま先のすぐ前まで近づく。すん、と彼女が鼻を鳴らす音がして、首筋の産毛が粟立った。
「大家さん、お酒でも飲んだ? なんだか、布団の匂いと汗が混じって……おじさんの匂い、すごくする」
それは嫌悪でも嘲笑でもなく、むしろ嗅ぎ当てることを喜ぶ響きを帯びていて、古河は返答を迷った末に、何でもないふうを装って畳へ目を落とした。だが、どんな顔をしても、彼女の言葉が己の体臭を淫らに食い荒らしていくのを、肌で味わっている。里奈はさらに半歩、彼の懐へ入ると、控えめに指先を古河の胸元へ伸ばした。作務衣の粗い布越しに、彼の肋骨の浮き方と、その下で早鐘を打つ心臓の在りかが、彼女の白い指へ伝わってしまう。
「すごい、心臓。上の部屋から聞こえてきそうなくらい」
囁きが、息と一緒に古河の喉元へかかった。甘い。彼女の呼吸は甘くて、湿っていて、唾の匂いさえ蕩けている。古河の口元から、返す言葉がこぼれるより先に、里奈の指がするすると胸元を下り始めた。逆立つ胸毛を寝かせるように、指の腹で円を描く。逞しい大胸筋の残りを探り、鎖骨の下の窪みで暫し迷う。やがて、ただようように帯紐の結び目へたどり着き、少女のような、それでいて男を知り尽くした指が、古河の帯へ入った。衣擦れの音が、暗闇の中で扇情的に鳴る。
古河の本能が、女の手を制しようと腕を挙げかけた。しかし、掌は宙で止まり、里奈の髪から立ち昇る石鹸の匂いをひと掬いしただけの形で落ちる。拒絶の言葉こそ出ないが、首は横へ振られて、それが音もなく畳へ吸われた。里奈は一度、古河の顔を見上げ、泣きそうな、けれど意志の固い眼をして、作務衣の合わせを割った。はだけた胸元へ、廊下から漏れる僅かな光が差す。浅黒く、ところどころ白髪の交じる古河の胸板が、夜の光を弾いて、若い女の白い指と対照的だった。
「……見たかったの。昨日から、ずっとこれがどうなってるのか。下も、すごいことしてて、部屋に帰ってから、祐也に背中を向けても、頭ん中、ずっと古河さんのでいっぱいで」
里奈は、もう隠すことを知らぬ声で告白する。口元に浮かぶ迷いが、むしろ媚態に変わって、薄く割った唇のあいだから舌の湿りが覗いた。彼女は片手で古河のステテコの上へ、遠慮なく触れた。もう、たおやかに握る、というより、布越しに全体の形を確かめる。硬く、弓なりに張り、布の隙間から逃げようとする性器の先端が、里奈の指の股を圧迫した。古河は喉を鳴らした。わずかに腰が固まり、足の指が畳を掴む。こんな老いた男の、ふたくちもない場所を、若い女が物欲しそうに揉みしだく。それだけで、視神経の奥に火花が散り、下半身に溜まった血がいっとき奔流になった。
「あのね、私……昨日、古河さんが指で触れてくれたとこ、まだ覚えてるの。帰ってから何度も、そこを自分で弄った。だけど、古河さんの指の大きさのほうが、ずっと、はっきり残ってて」
里奈が膝を折り、古河の足元へ座る。薄桃色の寝巻きの下が、素足の腿を晒し、太腿の内側へ汗の筋が光っている。彼女は古河のステテコのゴムを摘まみ、下へゆっくりと引き下ろした。露わになるのは、腹の下で猛り、先端を薄い褌から突き出した、青黒く太い男の肉。里奈の呼吸が一瞬、止まる。薄暗い部屋の中で、その肉の翳が彼女の頬へ映るほど、古河の欲望は膨れ上がっていた。
「お母さんのお腹ん中にいた時に、こんな形を知ったのかもって思う。えっと、それくらい……いや、ちがうか。すごい……古河さんの、こんなに、すごい」
感極まったように呟きながら、里奈は両手で包むようにして、暴れる脈を確かめた。人差し指と中指で亀頭の縁をなぞり、ぬるみを親指で広げながら、舌先で唇を舐める。張り詰めた皮膚の上を、女の唾液に濡れた吐息が這い、それが夜気の中で白く淫らに曇る。古河は、男としての弱さも浅ましさも、まとめて見られている気がして、喉の奥が熱く詰まりそうになった。
「……触ると、私、もう、どこもかしこも喉乾いちゃう。舐めていい? 昨日みたいに、また。今度はゆっくり」
古河が返事を待つまでもなく、里奈の薄い唇が肉の先端へ触れた。ぬる、ちゅるる、と、夜の静寂へ浸み込むような湿り音があがる。彼女の舌が、鋭く尖った肉の窪みに張りつき、ぬめった液を啜る。古河は腰の骨が折れたように、壁へ手をつく。ただ、その音だけで、あの昨日の幸福が、今日という日を飛び越えて戻ってきた。いや、いま舌で女に食い荒らされながら、自分の衰えを忘れかけている。この口淫の甘さ。舌先が、硬い肉の裏筋を往復し、根元へ下りては、袋の張りを掌で揉み、ふたたび亀頭へ這い上がってくる。ちゅぱ、じゅる、れろろ、と下品な水音が際限なく溢れ、古河の腿を唾液が垂れて、畳へ染みをつくる。
「ん……ふ……ちゅ、れろ……大家さん、味がする。すっぱくて、少し苦くて……」
里奈は肉から唇を浮かせると、舌と口元とに引く液の橋を、自分の人差し指で掬って舐めた。陶然と満ち足りた、しかし次の快楽をねだる表情が、涙に濡れた花のようだった。古河の性器は、唾液まみれで輪郭を強く光らせ、先端から透明な液を溢れさせている。むせ返るような男の匂いが、部屋中にゆっくりと染み広がった。
「下も、触って。古河さんの指で、私のなか、開いてほしい。ちゃんと見られるように、ぐちゃぐちゃにして」
里奈はその場で、薄物の寝巻きの裾を捲り上げた。下着を穿いていない股ぐらから、女の熟しかけた花が現れる。薄暗がりの中、肉の割れ目は黒ずんだ桜の色をして、汗と愛液に濡れて、ひくひくと呼吸していた。古河は無言のまま、片膝を畳につき、長い指を里奈の窄まりへ進ませる。ぬめりが、指先だけでなく、彼女の毛の生えぎわまで深く広がっていて、肉同士が触れるたびに、ぴちゃり、ぬちりと粘液が鳴る。古河の中指が、彼女の窄まりを縦に割るようにゆっくり入り、熱い内部の肉を押し広げた。ぞろぞろと襞の群れを擦り、第二関節まで呑み込まれると、彼の手首を、ねちょり、と膣口が食いしめた。里奈の腰が浮き、首がのけぞる。
「あ……指、すごく硬い。古河さん、指の骨が、なかを穿ってる」
荒い息と共に、彼女の尻肉が畳の上で擦れる音がする。古河はさらに人差し指を割り込ませた。指が二本、女の熱い沼の中で回るたび、肉襞がざわめき、濁った水音があがる。古河が指を下から掬うように曲げると、里奈は自分の窄まりを突き出す格好になり、腰をびくんと跳ねさせた。ねばつく液体が、古河の指の股を伝って手首まで滴り落ちる。膣の奥は不思議なくらいに柔らかく、男の指が動くたび、熱い口内のような蠕動で締めつけてきた。
「……ああ、あ、あッ……ふかい、指、やばい、奥、いじくらないで……でも、そこ……そこして」
自分の陰部を古河の手へ押しつけ、腰を揺らす里奈の姿は、年齢相応のあどけなさと、雌としての業とが皮膜一枚で重なり合っていた。古河は指の腹で、ざらついた前壁の窪みを圧した。内側から、とろとろと溶けるような弾力を感じる。里奈の脚が大きく開き、内ももが痙攣した。膣口から溢れる音が、ぬちゃぬちゃと夜に粘り、風呂上がりの清潔な肌から、女の生きた匂いが鮮やかに立ち昇る。
「古河さん、指、指だけで、あたし、もう……おかしくなりそう。首の奥が熱いの。ん……んんっ、耳の裏まで、痺れて」
彼女の手が、古河の未だ硬く濡れた肉へ伸び、握った。だらしなく唾液を塗りこみ、濡れた亀頭を根元へこする。古河は声を飲み込んだが、肺の底から溢れる吐息は、まるで笑い声のように熱かった。女の膣の中を掻き回しながら、肉棒を若い掌で扱かれる。その二重のぬめりが、古河の古びた背骨へ駆け上がり、腹と腰とのあいだを熱い針で刺しつづける。知らないうちに、古河の指は三本目を送り込み、ねちょ、ずちゅ、と里奈の内部を広げた。女の腰が耐えきれず跳ね、太腿の白い肉が波打つ。
「あっ、あっ、なに、三本……は、入ってる……太い、古河さんの指、みんな、硬くて、がっちりしてる……っ、あ、あ、ふひゃ~ん」
夜の廊下に響かないよう、彼女は懸命に口を噛むが、隙間から漏れる喘ぎが、かえって部屋の壁へ淫らに反響した。古河の手の甲が、ねばついた粘液によって光り、力の入れ加減も分からぬまま、指の節を折り曲げて奥をぐっと押した。と、里奈の胎のずっと奥で、小さな痙攣が弾けたのが、指先へありありと伝わる。彼女は一瞬、呼吸を忘れ、白目を剥く。首を仰け反らせる。同時に、古河の右手を掴む力が強まり、硬く反りかえった肉茎のぬめりを、掴まれた手の中へ絡みつかせた。
「……いい、もう、挿れて。指より、あなたが欲しいの。古河さんので、おなか、いっぱいに開いて」
里奈は彼の手首を導いて、自分の膣口から三本の指を出すと、畳の上、無造作に腰を落とした。仰向けになり、片脚を折り畳み、もう片脚を横へ開く。女の器官は唾液と愛液とで、割れ目から内側の純な色を覗かせるまで開き、暗闇の中でも濡れた光沢を失わない。古河はにじり寄り、白い肌へ自分の膝を当てた。熱い。女体のぬくみは、夜気に冷えた部屋をいとも簡単に春夏の土間へ変える。古河は片手で自分の肉を支え、ぬめった先端を、里奈の暗い窪みへあてがう。ぬちっと、とふたつの淫肉が音を立て、結合を予感して互いを探り合う。
「ゆっくり……だけど、奥まで」
里奈の声が、泣いているのに笑っている。古河は静かに腰を送った。亀頭が隘路を割ると、膣口の肉輪が、男の形を拒むように締まり、そこから噴き出す蜜がふたりの股を温める。ぬちちちち……と、空気と粘液が混ざった音。古河は一気に進めたい衝動を飲み込み、腰を止める。入り口だけが窄まり、奥がずるずると彼を招く。女の中は、ねっちりとした襞が口を利くように蠢き、男の先端を新しい器官で愛撫した。古河の背筋へ、生まれて初めて味わう幸福の戦慄が走る。
「……中、熱い。焼けてるな。お前、ほんとに熱い女だ」
古河が懇ろに褒めると、里奈は恥ずかしそうに口元を片手で隠し、下腹をくん、と押しつけてきた。その所作が、また古河の肉茎を奥へ吸い寄せる。腰をいっぱいに進めると、ふたりの陰毛がぬめりと絡み、結合部に隙間がなくなった。男の下腹と女のそれとが、汗の膜で密着し、体温と体温が煮える。古河は、女の膣の底で、器官が充血して膨らんでいるのを感じた。亀頭の窪みへ、粘っこい子宮口が吸いついて、時々、鋭く啄む。そのたび、里奈の身体全体が、水を打たれた魚のようにしなった。
「う、あっ、あ、あ……だ、駄目っ……あ、あ、今、子宮、く、口、こすれて、お、奥が、い、イッちゃう……ああ、見ないでっ」
彼女が、古河に跨るかたちのまま、自分の両腕を胸の前へ巻きつけた。汗に濡れた肢体が、薄暗がりで焔のように浮かぶ。古河は腰を引いては、深く突き込む。結合部から里奈の若い愛液が溢れ、ずちゅ、ぐちゅ、ぬちゃ、と淫猥な音が何度も夜を擦った。彼女の中で、無数の肉襞が男の幹を舐り、産道の深奥が、雁首を抜くまいと追いかけてくる。抽挿のたびに、古河自身、腰を搦め取られるような快楽に、老いた身体を白く蹂躙された。
「……締めつけが、すごい。これが、女の、そういうときか。う、う、あ……」
古河は声を呑み切れず、喉を晒して低く唸った。全身の毛穴から汗が吹き、眦にはぽたりと海の雫が滲む。腰と腰が際限なくぶつかり、互いの臓腑の下で、肉がどろりと煮溶けていく。畳の目の固さが、肘や膝へ食い込み、それさえも生殖の獣的な速度を後押しした。
里奈の膣内が、不意に宙で握りつぶした果実のように、一箇所で大きく強張り、そこを中心に何層もの収縮が津波となって古河を呑みこんだ。女の尻肉と太腿が、波打ち際の白砂のごとく、ぶるぶると慄える。彼女は声にならない呼気を何度も吐いて、白い喉を反り返らせた。古河の腹の下では、男の根が、女の極点へ搾り上げられ、ひとたび、ふたたび、刻まれるようにしごかれた。射精がすぐそこまで寄せていた。彼は腰をひときわ深く突き入れたまま、精を放った。どく、どく、どく、と、己の中心から迸る液塊が、彼女の子宮の入口を汚し、若い子宮の襞を埋めていく。あまりの圧に、腹の底から眩暈が弾けて、全身の汗が一遍に吹き出た。足先から太腿、そして内臓を焼く火柱のような射精が、長いあいだ、古河の腰を鞭打ちつづけた。
結合したまま、古河は前のめりになり、里奈の豊かな胸のあいだへ顔を埋めた。汗と、女の腋の下から漂う饐えた花の匂いが、粘膜を刺す。里奈の裂けた薔薇のような膣は、男の精を搾り尽くそうと、ぜんまい仕掛けのように収縮を繰り返す。彼女の胎の中には、老いた男の年季を注ぎ込まれ、ぶわりと熱い種が満ち潮のように広がっていた。里奈は、畳の上へ投げ出した指を小さく動かし、無言のまま、天井をまばたきもせず見つめている。そこに浮かぶ、古い雨染みが、潮の残照のようにも、臓腑の形のようにも見えた。
「……あなたは、来なければ良かったか」
古河が、まだ繋がったままで問う。声は掠れ、老いの泥濘に濡れた枯れ枝のようだった。里奈は答えず、膣の内側だけで、ずるり、と彼の衰えかけた肉を締め、名残を惜しんだ。瞳から一筋、涙が伝って、耳の穴へ流れこむ。彼女は少しだけ首を振った。来たかったから来た、と、その仕草が語っている。古河は彼女の前髪を剥き、汗で透けた額の産毛に唇を寄せた。唾液まみれだったはずの唇も、いまは互いの汁の熱で、何ものかへ祈っているようだった。
窓の外では、風が強くなり、庇の下で洗い髪のような雨が音を立てはじめた。ぽつぽつと降り出した夕立が、やがて土を濡らし、生あたたかな草の匂いを部屋のなかへ運んでくる。二人の汗ばんだ肌に、雨の精がするりと触れる気配があった。古河は里奈の胎から体を離し、ぬるぬるとこぼれ出るものを畳の端で受け止めた。部屋の中に、精液と女の淫水、それと僅かな血液とが混ざり、枕元の空気まで濁っている。里奈は身を起こし、だらしなく乱れた薄桃色の寝巻きの衿をなおす。太腿の内側には、滴る白濁が冷えはじめていた。
「……祐也が、起きるかもしれない」
里奈が、一番言いたくないことを、薄い唇でやっと音にした。古河は無言で、巻き上げた簾の向こうを眺めた。階上から男の寝息が、雨の音へ混ざって流れてくるようだった。彼女の足が床を踏む。まだふらつく腰を支えるでもなく、古河は彼女の肩へ作務衣を引っかけてやった。浴室の湯気に湿った女の肌から、雨に濡れた男の部屋の匂いへと、静かに帰る支度がはじまっている。
そのとき、やにわに二階の廊下で畳を踏む音がした。遠く、鈍い。だが、それは眠りから醒めた人間の、怒りにも似た一歩の重さで、雨の密度を裂いて降りてくる。古河の背筋に氷の水を流しこんだのは、直後、里奈の名を呼ぶ、およそ寝起きとは思えぬ醒めた声だった。
「おい……里奈あ、こんなとこで、何してんだよ」
声は、開け放たれた勝手口の、その向こうに立っていた。暗い夜を背負い、南原がそこにいる。里奈の素足が、はっと狭い廊下で止まり、古河の戸の敷居にこすれて、ぴたりと凍った。
第4章 しもべの証明と、満たされた虚無

第4章: しもべの証明と、満たされた虚無
戸の向こうで南原の拳が木枠を叩くたび、背後の畳の上で里奈の足先がぴくりと跳ねた。俺は立ち上がったが、それでも振り返らず、引き戸の桟に手のひらを置いた。開けるつもりはなかった。いや、正確には開けようと思えば開けられるし、大家としてここで話をするのが筋なのだろう。だが、自分の中に渦いているものが何なのかを確かめるには、あの男と今この場で顔を突き合わせる必要があるように思えた。廊下の蛍光灯が戸の隙間から細い光の刃を差し込み、畳に寝転んだ里奈の白い足首を、骨の浮くあたりだけ青白く照らしている。彼女の呼吸が落ち着いてきたのが、光の中で上下する腹の動きで分かった。
「里奈ぁ、聞こえてんだろ。お前、昨日から帰ってこねえし、大家の爺さんとこだろ。話ぐらいさせろよ」
南原の声は酒焼けしたような掠れを含んでいた。俺は唇を引き結び、静かに戸を細く引いた。鎖は掛けていない。開いた幅は十センチほどだったが、そこから流れ込む空気は昼間の暖かさが残っていて、生温かく肌へ纏わりついた。向こうには、薄汚れた白のTシャツの上に黒いパーカーを羽織った南原が立っていた。伸びかけた髭が頬から顎へ叢をなし、目だけが異様に明るい。あの男は俺の顔を見るなり、口の端を歪ませて笑った。
「あんた、やるじゃないっすか。俺の女とっかえて、しかもこんな時間に二人きりで。家賃の代わりってやつですか」
「そういう話をしに来たのか。なら、立て替えの相談は明日の朝にでも改めてする。今は迷惑だ」
「はあ? ふざけんなよ。中に里奈がいるんだろ。出てこいよ、お前」
南原が戸の隙間へ指を突っ込もうとする。俺は片手で戸を抑えた。暦の上ではとっくに春だというのに、指先だけが熱いのは、腹の底で燻っている炎が手先にまで来ているせいだろう。背中側で衣擦れの音がして、里奈が畳から身を起こす気配がした。彼女が、ゆっくりと俺の背後へ寄ってくる足音は、素足の裏が畳を踏むたびにべたついた音を立てた。汗と精と涙の匂いを溶かした夜の空気を、彼女の動くたびに揺らしながら、ようやく俺の斜め後ろで立ち止まる。
「あんた、これ以上ここで騒いだら、近所迷惑だよ。家賃の督促に来たなら、払わないあんたが悪いんでしょ」
里奈はそう言うなり、俺の肩越しに顔を出した。その声は俺が初めて聞く種類の冷たさで、普段の砕けた語尾は鳴りを潜めていた。着衣は乱れたままの寝間着で、胸元の合わせは汗で肌へ吸いつき、首から锁骨へかけての白い皮膚に精液か唾液か分からないものが薄く光を引き、乱暴に拭ったあとが赤い三本の線になっている。南原は一瞬、彼女の姿を覗き込み、何かを探るように目を細めた。それから、吐き捨てるように笑った。
「お前、その顔でよく言えるよな。俺と何年同じ部屋でやってきたと思ってんだ。家賃がどうとか言うなら、てめえも同罪だろうが」
「もう決めたの。あたし、ここに移る。あんたの隣じゃなくて、古河さんのとこに。201号室の鍵はあんたが自分で返しなよ。荷物まとめる間ぐらいなら大家さんも待ってくれるでしょ」
「おい、ちょっと待てよ。勝手に決めてんじゃねえぞ」
「勝手もなにもないよ。あんた、あたしに大家さんを誘惑してこいって言ったよね。知らないフリしてるつもり? なら結果がこれ。言われたとおりにしただけじゃん」
里奈の口元が、嘲るでもなく、むしろ哀しみを押しつぶしたあとの平坦な笑みに変わったのを俺の背中で感じる。彼女の前髪が額へ張りつき、銭湯上がりのような湯気の名残を出す。その髪の匂いが、こんな時にも甘く、ねっとりと、まるで熟れた花が腐りかける寸前の香りを帯びていた。
南原は唇を動かし、けれど言葉にはしない何かを噛み潰してから、急に声を荒げた。
「ふざけんなよ、売女が。何が言われたとおりだ。あの時は冗談で、お前だって笑ってただろ。それを本気でやりやがって、ぞろいに惚れたか。あの歳の、しかも人に言えねえもんぶら下げた爺さんに」
「そうだよ。それが何。あんたのより、何倍も男を感じるもん」
里奈は俺の左腕に手を添えた。五本の指が、俺の作務衣の袖を白く掴む。その仕草は南原への当てつけというより、自分が立っている場所を確かめるためのものに思えた。彼女の腹の奥に、さっきまで俺が出したものが、今も重く溜まっている。たぶんそうだ。その重みが彼女の背筋を真っ直ぐにさせていて、足の震えを止めている。俺は、自分が三人の並びの真ん中に立っていることを、足の裏から頭のてっぺんまで、埃っぽい廊下の空気として感じていた。
「出てってよ、あんたも。というか、あたしがあんたの部屋から出てくから。鍵はその辺に置いとくでしょ」
「里奈、待て。話せばわかるだろ。悪かった。俺もきちんと仕事探すから」
南原の声音が急に柔らかくなる。戸の隙間から、彼の手が里奈の肩へ伸びるのが、灰色の空気を掻く動きで見えた。だが里奈は、その指先から逃げるように半歩こちらへ体を寄せ、俺の胸元に頭を擦りつけた。汗ばんだ髪が俺の作務衣の前へ触れる。乳の重みが、密着していないのに、腕の外側へ感じられるほど近い。俺は引き戸を、今度は大きく開け放った。
「南原くん。彼女がそう言っている。夜中に騒がれるとこちらも困る。一旦、部屋へ戻りなさい」
「大家さん……あんた、正気っすか。こんなことになって、普通じゃないですよ。歳いくつだと思ってるんすか。向こうの親御さんに言いますよ、いいんですか」
「よしなさい。親御さんの話を持ち出すなら、なおさら君には言い分があるはずがない。三ヶ月の家賃を、己の女にどうにかさせようなんて男の台詞じゃない」
俺の声は思ったより落ち着いていた。南原の目だけが、まぶしそうに、あるいは毒を吐きたそうに、じりじりと潤んでいた。彼は一歩下がり、乱暴に壁を蹴った。壁板の埃が薄く散る。それから、何か短く呪いの言葉を吐き、二階へ続く階段を大袈裟に踏み鳴らして去っていった。階段の踊り場で、胸を裂くような舌打ちがひとつ落ち、静けさが戻る。遠くで飼い犬が一度だけ吠えた。
俺は戸を閉めた。里奈がすぐに、俺の腰へ両腕を回してきた。正面から抱きついてきた彼女の体は、想像以上に小さく、熱く、細かく震えていた。耳の裏から首筋へ、生暖かい息が吹き込まれ、規則的に繰り返す脈が、薄い寝間着の胸の尖りごと押しつけられて、気が遠くなるほどの質量を持っていた。
「古河さん、もう大丈夫だから。どこにも行かない。あたし、ここに置いてくれるよね」
顔を上げた里奈は、泣いてはいなかった。泣くかわりに、唇の端に小さな痣のような色を残し、噛み締めすぎた下唇の真ん中が、白く乾いた唾液の跡で光っていた。頬のそばかすが、涙の代替をするみたいに目立って見える。俺は黙って、彼女の背中へ右手を回した。洗いざらしの木綿を押し上げる背骨の節を、一本ずつ指の腹で確かめるようになぞる。薄い布の下の肌は汗でしっとりと湿り、世界の果てから運ばれてきた湯のように生ぬるかった。
「鍵は明日、俺が受け取る。夜が明けたら、君の大事なものだけでも取りに行こう」
「うん。でも、ほとんどあたしの物なんてないかな。服とか化粧水ぐらい。あの部屋にあったものなんて、どうせ全部、重い布団みたいだよ」
里奈はそう言って、俺の指先を自分の額へ持っていった。俺の手が汗ばんだ前髪を退け、生え際に点々と浮いている細かな水玉を拭う。彼女は目を閉じて、一瞬、子猫が頭を擦りつけるような所作で、俺の手のひらへ頬を預けた。
その後しばらく、手を繋いだまま互いの呼吸を確かめ合い、ガスが点火するような沈黙を畳の上に落ちていた。やがて里奈が、小さく口を開いた。
「今日のとこ、あたし床で寝てもいい? 古河さんの隣がいい」
「床でも布団の中でも、好きにするといい。俺はもう少し起きている」
「じゃ、あたしも起きてる。古河さんの寝かたがわかるまで、起きてる」
彼女はそう言うと、乱れていた寝間着の帯を結び直し、台所へ立った。白い足の裏が、夜の寒さでうっすらと赤くなっている。流しの蛇口を捻り、水を張った茶碗を二つ戻してくるまで、俺は正座したまま柱の木目を数えていた。柱にも廊下にもまだあの男の怒声がこびりついている気がして、窓をすこし開けると、沈丁花ではなく、雨が近い土の匂いが部屋を渡った。
数日は慌ただしく過ぎた。南原は日を置かずに荷物らしい荷物を運び出し、去り際に壁と引き戸へ何かをぶつけた痕を残した。呪いらしい言葉は夜の廊下で反響し、近隣の部屋の明かりが二度ほど点いた。それでも、週が明ける頃には201号室は静まり、開け放った窓からはカビと埃を風が掃き出す音が聞こえるような、空っぽの気配を放っていた。里奈が置いてきたという鍵と敷金の二ヶ月分を、俺は封筒に入れたまま事務机の抽斗へしまった。
里奈の生活は、そつのないほど静かに、そして恐ろしいほど密接に、俺の日常へ入り込んでいった。朝は決まって五時に起きる。女というのは化粧水を付けるとき頬を三回叩くものらしい。台所では卵焼きの焦げる匂いと、炊き立ての飯から立つ湯気が、古い木造の部屋に潤いを与えた。俺が共用部の掃除を終えて居室へ戻ると、湯呑に茶が淹れてあり、畳の上には揃えられた箸と沢庵。箸置きの場所に、摘んだばかりの沈丁花が一輪乗っている日もあった。
そして夜になると、彼女の体を抱くのが当たり前になっていた。里奈から誘ってくることもあれば、俺が畳の上に座るなり、彼女が膝の上へ跨ってくることもある。二百一号室にいた頃は、彼女は男の横で眠るだけの薄い存在だったのだろうか。そうは思えなかった。今の里奈は、指先から踵の落とす影まで、性欲の輪郭を持ち、いつでも開き、濡れている。それが不思議でならなかった。
ある日の午后、風呂場の掃除を手伝うと言う里奈を、脱衣所の板間に立たせたまま、俺は背後から縋りついた。換気窓から洩れた光が、湿った床に白く溜まり、その光の膜の中を俺たちの肌が音を立てて滑る。彼女の素肌は湯のぬめりを帯び、蒸れた空気に混ざった汗の匂いが、蛇口の鈍い金属の匂いと重なり合う。里奈はタイルへ両手をつき、白く丸みを増した尻を突き出す格好で、俺を受け入れた。濡れそぼつ入口は、もはや親しんだ肉の形へ開いてゆく。膣壁は俺の亀頭が最奥のくぼみを叩くたび、蕾が綻ぶように花弁を拡げ、ミミズ千匹が這い回るような細かい蠕動で締めつけてくる。
「あ、あぁっ……古河さん、すごく……入ってる。お風呂の床、あたしの汁で、ぴちゃぴちゃなってるぅ」
里奈が振り返り、涎に光る唇の間から熱っぽい声を洩らす。腰を突くたび、結合部からとろりと白く濁った愛液が泡立ち、タイルへ点々と落ちた。あの日、春の陽の中で四つん這いの彼女に欲情した記憶が、湿度の高いこの湯気の中で、より生々しく跨ってくる。彼女の肩甲骨のあいだを汗の粒が流れ、窓の光を受けながら腰のくびれへ消えていく。肉壺の奥は、毎晩こうして貫かれるうちに、俺の形をした襞の型ができているようだった。彼女の中は二人の形が合わさった空洞になり、動くたびに幸福な悲鳴を上げる。
「も……死ぬ。古河さんといると、毎日死ねる。死ぬの気持ちいい……お腹の奥、また、くるぅ」
里奈は首をのけぞらせ、黒目が裏返りそうなほど見開いた。膣の収縮が波打つように速まり、ぬちゅ、ぐちゅ、と音を一つに混ぜ合わせる。絶頂の瞬間、彼女の菊座までが蠢き、汗の粒をぷるぷると弾きながら、俺の根元を奥へと招いた。俺は腰を沈めたまま、彼女の子宮の口へ何度か先端を擦りつけ、どちゅっ、と沈むような音を響かせて精を放つ。注がれる熱が通るたび、里奈の背筋が弓なりに固まり、爪先が濡れた床を掻いた。すべてが終わると、俺は彼女の汗ばんだ背中に覆い被さり、互いの肩で荒い息を聴き合った。遠くの方で、別の住人が流す水の音が、薄い壁を抜けて長く聞えていた。
その暮らしが、一月ほど続いた頃か。里奈はよく、俺の膝へ頭を乗せて薄眼を開け、物足りなげに俺の顔を見ることがあった。口には出さないものを、彼女の右手はいつも俺の下腹の上へ置いている。指先が、布の上から俺の陰茎の重みを確かめるように動く。そうすると、俺はまた硬くなる。何度果てても、腹の底の飢えは消えないのが自分でも分かっていた。彼女も同じ飢えを抱えている。二人の間には、性器を通じた依存の温かな沼が、部屋いっぱいに広がっていた。
「古河さん。あたし、最近考えることがあるんだけど」
夜の十時を回った暗がりで、里奈が俺の腿へ頬を押しつけたまま言った。彼女の髪は櫛を通したばかりで、寝息のように整い、甘ったるい椿油の香りが鼻を掠める。俺は柱に背を持たせ、彼女の耳の奥へ視線を落とした。
「なにを」
「古河さんのこの。こんなに大きくて、立派で、あたしみたいなのを毎晩狂わせてくれるやつ。あたし一人で抱え込んでていいのかなって」
「里奈、お前、何が言いたい」
「201号室、空き家のままでしょ。掃除して、壁紙も鍵も直して、次の子入ってきたら、あたしが古河さんのために躾けてあげようかって。若くて、素直で、ここを寂しがるような子。古河さんの匂い嗅いだだけで、あたしみたいになっちゃう女の子」
里奈が俺の腿の間へ顔を埋める。吐息が布を通して、やすりのように硬い仕立てを湿らせた。俺の陰茎が、会話の途中から芯を持ち始め、彼女の頬を内側から圧している。彼女が鼻先で幹を辿り、唇の端で先端の膨らみを軽く食む。ちゅ、と吸いつく音が暗がりに落ちた。
「あんたが大家で、あたしが一番の奴隷。下の子たちが古河さんの周りへ集まるの。みんな、いい子。ご主人さまに可愛がられて、赤くなって泣いて、それでも自分からここを開くの。あたしが全部、舌で教えてあげる」
「お前、本気でそんなことを考えているのか」
「本気に決まってるでしょ。あたし、古河さんの物になって、はじめて息がしやすくなったんだから。他の女にも教えてあげたくなるよ」
「だが、俺はお前一人で……お前だけでも、腹の底まで満たされたことがないんだ」
「だからよ。みんなで分ければいい。古河さんのこれは、一人で受けるには大きすぎる。あたしは一番でいい。古河さんが最初に可愛がるのは、いつだってあたしがいい」
彼女は顔を上げ、切れ長の瞳を麻酔の効いたようなとろみで光らせた。俺の亀頭を下から舐め上げ、唾液と先走りの混ざった液体を喉奥で鳴らして飲む。そのまま衣服の前を寛げ、固く膨れ上がった俺自身を頬に摺り寄せた。金玉の裏へ回った舌が、ねっとりと濡れた軌跡を残す。れろ、れろ、と蛙が鳴くみたいな音が、静かな夜の部屋を舐めて回った。
「古河さん、あたし、今日すごくいいこと思いついた。もっと奥、あたしの一番恥ずかしいとこ、古河さんに入れてほしい。お尻。そこを古河さんの形にされたら、あたし、前と後ろと両方、古河さんのものになる。体の中に古河さんの通った穴が二つ。すごいでしょ」
里奈は横たわると、自ら膝を胸へ引き寄せ、白い太腿を開いた。夜目にも、恥丘の薄い茂みの下の割れ目は、まだ昼の名残の愛液を吐き出して艶めき、窄んだ肛門は呼吸に合わせて躊躇うように窄んでいる。彼女の細い指が、その縁を撫でた。産まれたての雛の嘴を思わす、いじらしい皺の集まり。汚れのない林檎の芯の窪みを、少し汚すように唾液が滑り込んでいく。
「お前は、どこまで征けば気が済む」
「古河さんが中で動くまで。そして、あたしがおかしくなって、涙が出ても、すぐにここへまた欲しくなるまで」
俺は彼女の両足首を掴んで開かせた。遥か頭の上から、あの男が去った夜の静けさが、天井の木目になってこちらを見下ろしているようだった。それでも、もう、何かを止める力は、この躯のどこからも湧いてこなかった。俺は里奈の窄まりへ、指の先で二人分の唾液を塗り込み、暗い円環に熱を沁み込ませた。彼女のそこは小さく跳ね、声にならない嗚咽を唇の内側で噛み殺す。俺の指が入り口の皺をゆっくりと掻き分け、第一関節まで埋めていくと、灼けた砂を握るような締めつけが指を取り巻いた。
「……古河さん、来て。ここをずぶずぶにして。ふたりの恥ずかしい音、部屋いっぱいに響かせて」
「大きな声を出すんじゃない。壁が薄い」
「だから、耳を噛んで抑えて。古河さんの口で……ん、ちゅ……」
彼女が両腕を伸ばし、俺の首を引き寄せた。舌と舌が触れ、唾が隣の口へ移るちゅるちゅるという水音が、二人の呼気に混ざる。俺は亀頭を里奈のもう一つの窄まりへ当てがい、そこが拒むほどの狭さで蠢くのを十分に味わってから、唾を継ぎ足し継ぎ足し、ゆっくりと押し込んでいった。ぬぷ、ぬぷ、と湿った胎内をめくるような抵抗が、先端を絞り上げる。里奈の口から、笛を潰したみたいな細い悲鳴が漏れ、開いた唇が俺の舌を強く吸った。眼前の暗がりに、白い肌と乱れた髪、そして蜜を溢れさせる二つの孔だけが、欺くように浮かび上がっていた。
「あ、あぁ……ふぁ……しぬ、しぬぅ……おしり、割けちゃう……」
「力を抜け。背中で息をしろ。俺の形を、ゆっくり覚えろ」
「はい、ごしゅじん、さま……」
里奈が潤んだ瞳で、確かにそう口にした。俺は、彼女の熱い内壁が亀頭の傘を食い締め、腸の奥へ導くように蠕動を始めるまで、息を押し殺して待った。やがて、男根を包む肉の筒がほどけ、鈍い粘液音と共にずぶりと半ばまで沈む。二人の腰が、畳の上で息を合わせて揺れた。後孔と女陰の二つの穴が、彼女の股のあわいで、異なる角度から同時に収縮しているのが、竿の先で手に取るように分かる。
「あ、あぁっ、なにこれ、あたし、両方ぎゅってなってる……古河さんの形が、お尻の中まで届いてる……」
「動く。苦しければ言いなさい」
「動いて、奥、もっとひらいて……あたし、古河さんのお尻になる。古河さんの一番深いところ、あたしの尻で覚える」
ずる、ずりゅ、と引いては、ずぶずぶと突き入れる。そのたびに、彼女の窄まりは締まっては緩み、微かな空気を含んだ音を泡立たせた。前の孔からは、押し出されるように透き通った液が溢れ、畳を黒く染めていく。里奈は首を振り、眼球の上まで白く光るほど瞳を濡らし、だが声だけは必死に喉の奥で転がした。彼女が爪を畳に立て、腰を浮かせた姿勢のまま、二度、三度と軽い絶頂の波を越えていく。俺の腰は止まらなかった。肉の輪が締まるほど、抽送の音が水牛が泥を蹴るように粘っこく重なる。
「ひ……、い……、古河さん、中で、出して。全部。あたしの尻の一番底、古河さんの白いので濡らして……」
「ああ、出す。お前の二つ目の穴へ、俺のを、刻んでやる」
俺は彼女の腰を掴み、最奥を突くたびに、ずぶ、ずぶ、と下半身が沈む。後孔の粘膜が火傷しそうに熱く、異物を搾り出そうとする蠕動を逆撫でるほど深みが増す。どく、どく、と腹の奥から岩塊のような精が駆け上がってくる。弾けた熱液が彼女の腸壁へ注がれる間、里奈の全身は弓形に反り、突き抜けた光を眼の中で受け止めて、小さく震えた。彼女の前の花唇からぶちゅりと泡立った汁が吹き出し、俺の太腿へ飛沫を散らす。静寂は、二人の下腹がへばりつく湿りで満たされた。
熱い夜の欠片が、少しずつ醒めていく。里奈はまだ横たわったまま、自分の股間の奥から、白い粘液と精とがゆっくり伝い出るのを腿をすり合わせて確かめていた。俺は息を整え、自分の指に付いた湯気の立つような汁を、布切れで拭わずに眺めていた。今の俺の頭の芯には、長いあいだ自分を呪ってきた肉の形が、今夜初めて、美しい獣の牙のように思えた。そういう錯覚が、女の底を知れば知るほど、静かに膨らんでいく。
「ねえ、古河さん。あたし、生まれ変わったみたい」
「俺もだ。ようやく、この身体の始末をつけてもらえた気がする」
「まだまだ。あたし、これから毎日、古河さんの形に身体を直してもらうから」
里奈は俺の手首を取り、自分の下腹の、精を溜めたふくらみへ押し当てた。温かい。まるで、もう一つの心臓がこの女の腹の中で脈打っているようだ。俺の精を飲み込んだ穴が、呼吸を覚えたみたいにひくひくと蠢いている。
「古河さん。明日も、明後日も、十年先も。201も203も埋めてあげる」
「お前がそこまで言うなら、俺も観念するしかないな」
「観念なんて嫌。古河さんはしもべを従える主人でしょ。あたし、しもべの証が欲しい。首輪でも何でもない、体中に古河さんの痕が、いつも見えるようなやつ」
彼女は、舌の先で俺の指を一本ずつ舐め、それから俺の股間へ再び顔を伏せた。腔から抜いたあとの肉茎は、唾液と精と自らの熱でぬらぬらと光り、次の欲をたぎらせて膨らみつつある。里奈の唇が、裏筋の怒張した血管の一本へ、ちゅ、と吸いついた。俺は畳へ手をつき、仰け反る代わりに、彼女の頭の形を両手で包み、銀混じりの髪の色さえ分からぬ夜の底で、長く、静かに、息を詰めた。アパートの廊下は水を打ったように静まり返り、遠くで点く人もいない。ただ、二人分の粘液と呼吸とが、空気の輪郭を塗り替えていくばかりだった。
登場人物
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古河 次郎 こが じろう男性 ・ 68
外見: 短い白髪(銀髪交じり)、細めだが落ち着いた印象の灰色がかった瞳、身長172cmほどでやや瘦せ型だが、長年の単身生活で鍛えられたような無駄のない筋肉が残る。服装: いつも綿のジャージ(グレーか紺)にスリッパ。大家としての威厁より、穏やかで物静かな印象。大きな手と、長い指が特徴。過去に愛した女性と身体の不適合で別れたトラウマから、自身の性器を恥じ、隠して生きてきた。
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有田 里奈 ありた りな女性 ・ 28
外見: 肩にかかる程度のくせ毛気味の茶髪(明るめのブラウン)、少し切れ長の茶色の瞳、身長158cmでやや小柄だが胸はふくよか(Eカップ)、腰のくびれが強調されるくびれた体型。肌は色白で、頬にそばかすが少しある。服装: 家ではよくノーブラで大きめのTシャツと短いスカート、または部屋着のショートパンツ。外ではカジュアルな服。口調は時折ギャルっぽくなるが、根は素直でどこか諦めがち。長くダラダラとした同棲生活に倦怠感を覚えている。
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南原 祐也 なんばら ゆうや男性 ・ 35
外見: 寝癖がちな中長のダークブラウンの髪、ややどんよりした茶色の瞳、身長175cmでだらしなく少しぽっちゃりした体格。ひげ剃りは不定期。服装: いつも同じようなボロくなったスウェットやTシャツ。定職に就かず、ネットやパチンコで細々と生きている。口調はだらしなく、自分勝手。里奈には甘え、時にはすねる子供のような態度を見せる。生活費(家賃)の工面にいつも追われている。





